「捨てる」は自己理解の訓練である――ミニマリストしぶさんに聞く「手ぶらで生きる」ための考え方

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概要

物が捨てられず、机も頭の中も散らかったまま25年を過ごしてきた新R25編集部の十石泰誠が、ミニマリストのしぶさんに相談した。十石が知りたかったのは片付けのテクニックではなく、なぜ手放せないのか、どうすれば手放せるのかという点である。しぶさんの答えは一貫している。物を持つこと自体にコストがかかっていること。そして物を減らす過程は、自分が何を大事にしているかを知る作業だということだ。

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編集部トーク:机が汚い、捨てられない、タブが多い

本題に入る前の編集部トークで、十石は自分の悩みを打ち明けた。職場で隣に座る同僚からも机が汚いと指摘され、ついに言われてしまったという。小学生のころから通知表には毎回「片付けられない」と書かれ、お道具箱の中ではくしゃくしゃになったプリントが丸まっていたタイプだった。

十石によれば、問題は部屋や机だけではない。仕事でも頭の中が散らかっていて、PCのブラウザにはタブが大量に開いている。複数のタスクを同時に抱えていないと落ち着かず、常に何かを持った状態でいたい。本人は「不安なんです」と言うが、何が不安なのかは自分でも分からない。それが悩みだと語った。

同席した編集部員からは、自分も整理整頓は苦手で、年末などの節目に一気に断捨離する、という声が出た。一方、いらないと思ったら即座に捨てるという編集部員もいて、「長年そこにある物は大体いらない」と話した。「毎年、なんでこんなにいらない物があるんだと同じ感想を持つ」という発言も出た。一同は、捨てられない原因は「もったいない」という感情ではないかと話し合い、日常を「手ぶら」で送るためのヒントを求めて、しぶさんを迎えることになった。

「クズな自分を変えたい」から始まった物減らし

しぶさんは、YouTubeや書籍を通じて物を減らす魅力を発信している。最近はYouTubeで視聴者の家を訪ねて物を減らす片付け企画を続けており、捨てられない人たちの相談に乗っている。今回話題になった著書『手ぶらで生きる。』は、8年前に出した本を文庫サイズにし、内容も一部書き換えた新版だ。しぶさん自身が物を減らしてどう変わったかが書かれている。

物を減らし始めたきっかけについて、しぶさんは「クズな自分を変えたい」という思いだったと語る。ミニマリストになったのは2014年、19歳のとき。浪人したにもかかわらず第一志望の大学に受からず、大学には行かずにフリーター生活を送っていた。周囲が医学部や有名大学に進んで就職の話をしている中で、自分は実家にいた。そこから一人暮らしをするには、どうすれば身軽に生活できるかを考え、物を減らせばいいと思いついたという。

子どものころから物が少なかったわけではない。むしろ「汚部屋の住民」だったとしぶさんは振り返る。実家はネズミが湧くレベルのゴミ屋敷で、学生時代の本人も机の上はずっとぐちゃぐちゃだった。

所有にはコストがかかる

十石の悩みを聞いたしぶさんは、「こんなに悩んでいるなら手放せばいいのに」と率直に述べた。もちろん簡単ではないと認めたうえで、こうして悩み続けること自体もコストだと指摘した。

しぶさんが物を減らしたいと考えるようになったのは、物を持つことにも「所有のコスト」がかかると気づいてからだという。もともとの家庭は裕福といわれる程度で、広い家に住み、欲しいものは何でも買ってもらえた。そのため、物はあればあるほど豊かだと思っていた。ところがその後、自己破産を経て生活が一変する。物を管理しきれなくなり、整理整頓も行き届かず、お金がないのにストレスでまた不要な物を買ってしまう生活が続いた。

その中でしぶさんは、物は多ければ豊かになるわけではないと気づいた。持て余すと管理ができなくなり、探し物が増える。さらに、物を置く床面積の分だけ家賃がかかっているので、広い家が必要になりお金も出ていく。逆に、減らせば減らすほど管理の手間がなくなり、生きやすくなる。これが最初のきっかけだったと語る。

十石は、それでも25年続けてきた生活を変える決断の仕方が分からないと返した。これに対してしぶさんが挙げたのが、見方の転換である。手放せない人は、物を減らすことを「怖いこと」「失うこと」とネガティブに捉えがちだ。しぶさんは、手放すことは新しいものを得ることだと気づいてから、どんどん減らせるようになったという。

具体例として語られたのが一人暮らしの費用だ。物が少なければ小さな部屋で暮らせる。最初は家賃1万9000円の家に住み、計算してみると一人暮らしは諸々含めて月6万円あれば成り立つと分かった。当時は福岡のワンルームで暮らしていた。月6万円なら、フリーターとして週3〜4日アルバイトをすれば足りる。無理に働かなくていいと分かったところから、減らすことが楽しくなっていったという。

持つものを決める3つの基準:時間・お金・楽しみ

しぶさんの部屋にあるのは、ベッド、テーブル、お掃除ロボット、プロジェクター、ドラム式洗濯乾燥機、納豆やキムチなど箱入りの食品だけを入れる手のひらサイズの小さな冷蔵庫、電子レンジ、小さな片手鍋型のフライパンだという。十石はYouTubeで見た部屋を「信じられないくらい物がない」と表現した。

何を置くかの基準について、しぶさんは「時間」「お金」「楽しみ」の3つを生んでくれる物だと答えた。

1つ目の時間の例がドラム式洗濯乾燥機である。物の数だけを減らすなら、なくてもコインランドリーで済む。しかし暑い夏や寒い冬にコインランドリーまで歩き、洗濯して乾燥機に移し替える手間は、しぶさんにとって大きなストレスだった。物は増えるが手間が減るので、これは持つ。持つことで管理コスト以上に時間やお金が増えるなら持つ、という判断だ。

2つ目のお金の例はiPhoneやパソコンだ。しぶさんはこれらを年に1回程度、新型が出ると買い替えている。ミニマリストには1つの物を長く大事にするという価値観もあるが、iPhoneは1年間きれいに使えば6〜7割の価格で売れるので、その売却額で買い直す。YouTubeなど仕事でスマホを触る時間が長く、お金を生み出す道具なので最新のものを使う、というのがしぶさんの説明だ。

3つ目の楽しみの例がプロジェクターである。物を減らす観点ならスマホとパソコンで事足りる。しかしアニメが好きで、大画面で見たいという点は譲れない。そこで天井埋め込み型のプロジェクターを使い、配線がごちゃごちゃしないよう工夫しているという。

散らかった机は、優先順位が決まっていない思考の表れ

手放せない人の特徴を尋ねられたしぶさんは、整理整頓ができない人は思考もぐちゃぐちゃな傾向があると答えた。たとえばLINEでやりとりしていても、文章がとても長く、何を伝えたいのか分からない、といったことがあるという。

仕事への影響についても、しぶさんは次のように説明する。デスクの上が散らかっていると、物に情報が詰まっているので、作業中に散らかった物に気を取られる。失った集中力を取り戻すためにまた切り替えが必要になり、そこでエネルギーのロスが生まれ、生産性が落ちていく。

そして思考がぐちゃぐちゃだということは、何を大事にしたいかという優先順位が決まっていないことだとしぶさんは言う。番組では十石のデスクの写真を見ながら話が進んだ。机の左上に本が積まれ、書類も散らかっている。しぶさんなら、いま解決したいことに関わる本や学びたい本を1〜2冊に絞り、残りは家に持ち帰る。そうすれば机の上は片付き、読みたい本もすぐ取り出せる。

しぶさんがあえてこの点を指摘したのは、いろいろなジャンルの本が積まれている様子から、何を学びたいのかの優先順位が曖昧だと感じたからだという。しかもそこはオフィスの机であり、1日に何時間も本を読むわけではないはずだ。それなら置くのは目の前ですぐ読みたい2冊だけでいい。空間の使い方も自分の中で決まっていないからこうなっている、というのがしぶさんの見立てだった。

管理方法を考えるより、上から順にやる

十石は、優先順位をつけるのが苦手だと認めた。1日のタスクをどの順で進めるかを決められず、結果として複数のタスクを同時並行で進めてしまう。

これに対してしぶさんは、多くの人はどう管理するか、どう優先順位をつけるかを考えがちだが、その時間があるならさっさとやった方がいいと答えた。世の中には進捗管理ツールやメモアプリ、ToDoアプリがいろいろあるが、しぶさんが使っているのはiPhone標準のメモアプリだけだ。やることを上から順に書き、上から順にこなす。それ以上のことはしていないという。そのほうが無駄なタスクが溜まらず、余裕も生まれるとしぶさんは語る。

物を減らすことは「取捨選択の訓練」

ミニマリストの生活を始めてから仕事がうまく回るようになったかと問われ、しぶさんは「めちゃくちゃあります」と答えた。しぶさんは、物を減らすことを取捨選択の訓練だと位置づけている。

片付け企画でも、しぶさんは単に「いる・いらない」で分けさせるのではなく、なぜそれを捨てることになったのかを考えてもらうという。服を1着手放すときでも、セールにつられた、トレンドに流された、店員に勧められて自分の意思とは関係なく買った、というように、捨てる物には必ず失敗の理由がある。それを分析していくと、自分にとって何が大事か、どういうときに失敗するかという傾向が見えてくる。繰り返すうちに自分の価値観が自然と浮き彫りになる。だから物を減らすことは「究極の自己理解」だとしぶさんは言う。

「いつか使う」の「いつか」は来ない

十石は、いろいろな物を持っていないと安心できず、「もしかしたらどこかで役に立つかも」「いつか必要になるかも」という思いのせいで捨てられないことが多いと相談した。

しぶさんはまず、片付けの鉄則として「いつか使うのいつかは来ない」を挙げた。そしてこれは物に限らないと続ける。友人と「いつかどこかに行こうね」と言ったまま流れた約束はまず実現しない。一方、その場で空いている日を確認して具体的な日付を決めたものは進む。いつかやろうというものは、基本的にやらないのだという。

しぶさんから、いつか使おうと思っていた物やいつか行こうと思っていた場所は実現しているかと問われ、十石は「9割実現していないですね」と答えた。これが腑に落ちると物も捨てられるようになる、というのがしぶさんの考えだ。意識してほしいのは、今の自分に必要な物を残す作業だという。先ほどのデスクの本も、まさに「いつか読もう」で積まれた物だと指摘した。

しぶさん自身の例として挙げたのがメモである。YouTubeの企画を考えるため、散歩中や友人との会話で思いついたアイデアをメモに書き溜めていた。ところがある日見返すと、ほとんど実行していなかった。逆に実際にやった企画は、メモしていなくても「これは絶対再生される」「面白そう」と頭の片隅にずっと残っていたものだった。人はやりたいと思ったことはすぐやる。「いつかやろう」はそもそも優先度が低い。だから物についても、「いつか使うかも」と思う物ほど捨てていかないと一向に減らない、としぶさんは言う。

片付けられない人は「欲望が散らかっている」

しぶさんは、片付けられない人のもう1つの特徴として「欲望が散らかっている」ことを挙げた。自分がここまで減らせるのは、逆に「絶対に欲しい物」を明確にしているからだという。

フリーター時代、しぶさんはまずコインランドリーを使っていた。それはそれで良かったが、やはり手間を減らしたくなり、ドラム式を買うと決めた。当時の価格は14万円ほどで高額だった。その14万円を貯めるために小さな家に住み、無駄な物は買わないようにした。絶対に手に入れたい物があるから、無駄な物を買わずに済み、手放すこともできたという。

減らすほど自分のスタイルが見えてくる

やりたいことが分からない、欲しい物がないという人もいる。しぶさんは、そういう人ほどまず減らすことを勧める。

例として挙げたのが服である。しぶさんの服はオールシーズンで8着しかなく、しかも全部黒だ。TPOに合わせやすく、黒にしておけばどこにでも行ける。シンプルに黒がかっこいい。クローゼットは真っ白なので黒が映える。こうした理由は、減らしていく中で分かったものだという。最初から自分のスタイルが固まっていたわけではなく、減らした後に残った物からスタイルが固まっていった。だから、モヤモヤしている人や、やるべきことや好きな物が分からない人ほど減らしたほうがいい、としぶさんは言う。

しぶさんはドラえもんのキャラクターも例に挙げた。のび太は黄色っぽいシャツに青いズボン、ジャイアンはオレンジと、いつも決まった服を着ている。「しぶ=全身黒」というのも、削ぎ落としたことで際立った個性だとしぶさんは言う。減らすほどやりたいことや好きな物が見つかるのは、減らしたからこそだという。十石はこれを受け、趣味が見つからない人ほど物を減らすことで趣味やアイデンティティの確立につながるのだと整理した。

ミニマリストになることは目的ではない

ミニマリストとして生きる意義を問われ、しぶさんは、視聴者に学んでほしいのは「自分にとって大事な物をより大事にするために、それ以外を削ぎ落とす」という考え方だと答えた。ミニマリストになること自体が目的ではない。自分がやりたいことのために物を減らす、その考え方を学ぶことが大事だという。

そのうえでしぶさんは、「ここだけはミニマリストにできる」という箇所をピンポイントで見つけていくことを勧めた。本が好きな人でも服なら減らせそうだと考える。もっと小さく始めるなら財布の中身だけ、普段持ち歩くカバンの中身だけをミニマリストにする。そうしていけば、自分が何を大事にしたいかがよく分かるようになるという。

十石はここまでの話を受けて、自分に足りなかったのは何が必要で何が不要かという取捨選択であり、やりたいことが曖昧だからいろいろな物に手を出してしまうのだと振り返った。それが日常生活では部屋の散らかりとなり、仕事では頭の中が整理されないまま、さまざまな仕事にさまざまなやり方で手を出す状態になっていたと述べた。

迷ったら捨てる:「絶対イエス」と言えない物はノー

「手ぶらで生きる」ために何が必要かと改めて聞かれ、しぶさんは「迷った物は捨てる」を心がけてほしいと答えた。片付け企画でも必ず伝えているのが「いるかどうかで迷ったら減らしてください」というメッセージで、これは物にも事にも当てはまるという。

依頼者が服を手に「これは迷うんです」と言うと、しぶさんは「スマホを捨てるかどうかは迷わないですよね」と聞くという。スマホを捨てたら仕事でもプライベートでも困るからだ。人は明らかに必要な物には迷わない。恋愛の例も挙げた。好きな相手にデートに誘われたら絶対に断らないが、微妙だと思う相手からの誘いには急に「ごめん、予定があって」となる。だから少しでも迷う物や違和感のある物には、極力ノーを突きつける習慣をつけてほしいという。

どの程度迷ったら捨ててよいのかと十石が確認すると、しぶさんは「絶対イエスと言えない物はノー」と答えた。「あったら便利」という仮定を持ち込むべきではないかという問いにも同意し、「あったら便利」で残していくと家はどんどんゴミ屋敷になると述べた。100円ショップなどで売られている便利グッズや時短グッズも、なくても困らないはずで、それは絶対イエスと言えないからだという。払ったお金にこだわってモヤモヤし続け、家がゴミ屋敷になるくらいなら、迷ったら手放すほうが手ぶらに近づくとしぶさんは話した。

旅行先のホテルのような身軽さ

しぶさんは、ミニマリストの生活を「常に旅行のときの感覚が続いている状態」だと思ってほしいと語る。不思議なことに、物の量を減らすと体も精神も身軽になるという。旅行先のホテルに着いた瞬間は、清掃が行き届いていて気持ちがいい。そこに荷物を置いて、手ぶらで観光地を散歩していると、心がわくわくして体も軽い。物を減らしていくと、物理的にも精神的にもそういう軽さが得られたので、物を減らすのは楽しいと伝えたいという。

十石は、今は購買欲をそそる物が増え、いろいろな物を買って結果的に何も手放せなくなっている、これは現代病のようなものではないかと述べた。しぶさんは、仕事でも生活でも生きづらさを感じている人ほど、一度物を手放してほしいと応じた。しぶさん自身、フリーター時代は何者でもなく、周囲が大学に進み就職していく中で実家にいて、どうしたらいいか分からずモヤモヤしていた。それでも物を減らしていくと、まず一人暮らしができるようになり、浮いた時間が仕事につながり、やりたいことも見つかってきたという。

働きたくなかった人が、仕事を一番楽しいと言うまで

しぶさんは、ミニマリストになりたいと思った理由の1つが「働きたくない」だったと明かした。一人暮らしに月14万円かかる人でも、フリーターとしてフルタイムで働けば暮らしていける。それでもしぶさんが月6万円で暮らし、週3日のアルバイトにとどめていたのは、一人暮らしはしたいが働きたくないという、一見矛盾したわがままな考えからだったという。

そのしぶさんが今、一番楽しいことを聞かれると「仕事」と答える。ミニマリストとして物を減らす魅力を人に伝えるのがとても楽しく、人生の優先順位でも仕事が上位に来ている。昔なら考えられなかったことだという。今は仕事に時間を使いたいからこそ、探し物や失くし物、無駄な家事はしたくないと考えるようになった。手ぶらで生きると、やりたいことが見つかり、没頭できるのだと思った、としぶさんは語った。

十石は、仕事が楽しいと感じられるようになったこと自体がミニマリストの生活をきっかけに気づけたことなのだと受け止めた。そして、本当はしぶさんに家に来てほしいが、来たらきっと発狂するだろうと笑ったうえで、今週末の休みにまず部屋の片付けから始めると話した。それを続けることで、プライベートだけでなく仕事にも応用できるのではないかと感じたと述べ、対談を締めくくった。