プーチンはなぜ択捉島に上陸したのか:廣瀬陽子氏が読む日露関係と「狭間国家」の生存戦略
PIVOT 公式チャンネル2026年8月13日、プーチン大統領がロシア大統領として初めて択捉島に上陸した。旧ソ連地域の国際政治とハイブリッド戦争を専門とする慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子氏は、このニュースを「非常に大きな出来事」と受け止めた。本稿では、PIVOTの番組で廣瀬氏が語った内容を整理する。論点は、上陸に込められた狙い、ロシアから見た日本の姿、中露の共闘、そして著書『狭間国家の地政学』から引き出せる日本の対露戦略である。
大国ではなく「狭間」の国から見る地政学
廣瀬氏は長年、ロシアの周辺国を研究してきた。『狭間国家の地政学』を書いた意図について、同氏はこう説明する。こうした国々は単に大国に挟まれた小国ではない。バランス外交をしたり、時には依存したりしながら、それぞれが取れる戦略で生き抜いてきた。その生き方を見れば、ロシアとどう対峙するか、さらに一般に狭間の国が国際社会でどう生きていけるかが見えてくる。その教訓は日本にも生かせるのではないか、という問題意識である。地政学は大国の視点で語られがちだが、挟まれた側の視点から日本の戦略を考えようとした本だという。
廣瀬氏はアゼルバイジャンに留学した経験があり、同国を舞台の一つとするドラマの第2シーズンで監修も務めている。番組の冒頭では、狭間国家の成功例としてアゼルバイジャンが紹介された。
アゼルバイジャン:プーチンに謝罪させた国
廣瀬氏によれば、アゼルバイジャンは石油で知られる国で、19世紀には世界の石油の半分を産出していた。エネルギーによって経済的に自立できることに加え、近年は地政学的な位置づけも強まっている。2022年以降、同国と新たに契約を結ぶ国が増え、立ち位置はさらに強化された。
ロシアとの関係にも変化がある。ロシアは2022年以降、国際的な孤立を深めている。一方で、中国から中央アジア、カスピ海、トルコを経てヨーロッパへ至る「ミドルコリドー(中央回廊)」が世界的に注目されているが、これはロシアを完全に迂回するルートだ。国際ルートから外されることへの焦りから、ロシアはロシア、アゼルバイジャン、イラン、インドを縦に結ぶ「南北国際回廊」を推進している。これを成功させるうえで、アゼルバイジャンは非常に重要な国になる。
象徴的な出来事として廣瀬氏が挙げたのは、2024年12月にロシアがアゼルバイジャンの民間機を誤射した事件である。ロシアは当初、バードストライクだなどと言って責任を認めなかった。アゼルバイジャンは調査、謝罪、補償を毅然と求め続け、昨年前半には両国の間で厳しい応酬が続いた。そして昨年10月、プーチン大統領が謝罪した。廣瀬氏は、旧ソ連の小国にロシアが謝ることは「ありえないこと」だったと言う。この件は「プーチンを謝らせた国」として大きく報じられた。廣瀬氏の見立てでは、資源による自立性と地政学的な重要性が重なって、アゼルバイジャンの自由度は大きく広がった。多くの回線を持ち、自分の軸を持ち、他国に負けない戦略的優位性も備えている。この意味で、同国は狭間国家としてかなり強いポジションを得ているという。
「最後のカード」を自ら切ったプーチン
択捉島上陸について廣瀬氏がまず重く見たのは、プーチン大統領本人が行ったという点である。これまでプーチン氏は、北方領土訪問のような「汚れ役」を首相や、一時大統領も務めたメドベージェフ氏に押し付けてきた。自分はクリーンな位置にとどまり、日露関係がかなり悪化しても最後に交渉役として残れる「切り札」であり続けた、と廣瀬氏はみる。
兆候はあった。廣瀬氏によれば、プーチン氏は2020年1月ごろに、北方領土へ必ず行きたいと言い出していた。そのため、いずれ行くだろうと予測はしていたが、「もうこの時期に来たか」と感じたという。高市首相は国として訪問しないよう求めていた。今回の上陸は、そうした日本の期待をすべて裏切ったものであり、日本と交渉する日はもう来ないと明示したとも言える、と廣瀬氏は述べる。
前後の出来事も確認しておく。8月4日に太平洋艦隊の大規模演習が行われた。8月12日にはプーチン氏がサハリン州で軍事演習を視察し、クリール諸島はロシア領として確定しているといった発言をした。そして13日に択捉島に上陸した。同じ日には、中国とロシアの駐日大使が共同声明を出している。廣瀬氏は、中国に事前に通告していたことは「もう間違いない」とみている。
中国への依存と、対日戦勝記念日の変更
廣瀬氏によると、中露関係は2015年ごろから顕著に強まった。最大の転機は2014年のクリミアで、ロシアがヨーロッパから孤立していくにつれて、中国との関係が深まった。孤立を決定的にしたのが2022年のウクライナ侵略で、それ以後、ロシアは中国に依存しなければ生きていけない状況になったという。
ヨーロッパから制裁を受けたロシアは、エネルギーを安く大量に売ることで戦費をまかなってきた。その買い手は中国、インド、トルコで、特に中国とインドの割合が大きい。さらに、制裁で兵器の部品や戦略物資を買えなくなったロシアに、デュアルユース品を供給しているのも中国だ。廣瀬氏によれば、デュアルユース品の対中依存は9割ほどに達しており、中国が売らなくなれば兵器も作れなくなる。プライドの高いロシアは本来なら中国と対等でいたいはずだが、実際にはジュニアパートナー化が進み、中国が上に立ってロシアがすり寄る構図が固定化してしまった、と廣瀬氏は指摘する。
そこに昨年からの日中関係の悪化が加わった。高市政権になって日中関係はかなりこじれ、それ以降、ロシアが中国と対日で共闘する場面が目立つようになった。廣瀬氏は、北方領土問題は日本とロシアだけでなく中国も含めて見なければならなくなったという司会者の問いに「まさにその通り」と答えた。
背景には歴史認識の重なりがある。ロシアの主張では、北方領土は第2次世界大戦の結果として得たものであり、ヤルタ会談で米英も認めたのだからロシアの領土だ、ということになる。日本としては、条約違反で攻め込まれたのであって、この主張は認められない。一方、中国も第2次世界大戦は日本の敗北で終わったという歴史認識を持っており、この点で中露の認識は一致する。象徴的なのが記念日の変更である。ロシアは2020年に対日戦勝記念日を9月2日から9月3日に移した。9月3日は中国の抗日戦争勝利記念日で、中国に合わせて共に日本への勝利を祝う形にしたのだと廣瀬氏は説明する。
上陸の3つの狙い
廣瀬氏は、今回の上陸には「中国への配慮」「日本へのメッセージ」「国内戦略」という3本柱があるとみる。
第1は日本へのメッセージである。主権を誇示するだけでなく、日本のレッドラインがどこにあるかを探る狙いがある。廣瀬氏は、ロシアは相手を探るのが得意な国で、何をすればどんな反応が返ってくるかを見ながら相手の動きを読んでいく、と述べる。
第2は国内、とりわけ極東向けのアピールである。9月20日に下院選挙があり、9月3日の対日戦勝記念日も控えていた。廣瀬氏は、不正選挙もあるだろうが、結果があまりに現実と乖離するのはよくないため、得票はしっかり確保しておきたいはずだという。8月12日のサハリン州訪問は13年ぶりで、長く足を運んでいなかった土地に大統領が来れば住民は喜ぶ。そのうえで、初めて択捉島にも行った。ただし廣瀬氏によれば、モスクワなど本土の人々は北方領土のことをほとんど知らない。あくまで地域限定のアピールになる。それでも、この地域の住民が対日戦に貢献したことを語り、戦勝記念日の時期に愛国心をかき立てることはできる。地域向けと時期的な狙いの二重の効果があったとの見方だ。
第3は中国との戦略的連帯の誇示である。日中関係が悪化する中で、中露による対日圧力の構図を明確にした。同じ日に中国と足並みをそろえたことから、廣瀬氏は相当前から中国に伝え、互いに作戦を練っていたと推測する。
ロシアの目に映った「関係修復を望む日本」
廣瀬氏は、この問題は日本側とロシア側の両方の視点で見る必要があると強調する。ロシアから見ると、最近の日本は制裁こそ続けているものの、関係を復活させたいのではないかと読み取れる節があったという。
日本側の動きを具体的に見ると、まず今年2月に、モスクワとサンクトペテルブルクにビザ申請センターが開設された。廣瀬氏によれば、ロシア人は旅行好きだがヨーロッパに行けなくなっている。日本はアジアにありながら西側の国で、円安で「お買い物天国」のようになっており、旅行先として大人気だという。ビザ取得には毎日行列ができており、日本はビザを無料で発給している。日本人がロシアのビザを取る際にはかなりの手数料がかかるのとは対照的だ。廣瀬氏は、政府としては国家としてのロシアと国民としてのロシア人を分け、永遠の隣国である以上、親日的なロシア人とは仲良くしておくのがよいという考えなのだろうと解釈する。ロシア人の大学教授などを学術交流で日本に招くことも、戦争中を通じて続いているという。
春ごろには、日本企業の資産保護をめぐって、経産省と外務省の関係者が日本企業とともにロシアを訪れ、実務協議を行った。最初に報道が出た際には一度否定されたが、結局訪問が実現した。ロシアからは歓迎していないというメッセージが出たものの、実際に行った人に聞くと、それなりに温かい雰囲気もあったという。ただし廣瀬氏は、これは既存の経済関係を維持するためのもので、新規プロジェクトを始めるわけではなく、その一線は守られていると付け加える。
7月には、茂木外相がマニラでラブロフ外相と5年ぶりほどに接触した。偶然の機会で、在任期間が世界一長い外相であるラブロフ氏と2期目の茂木氏は面識があり、久しぶりに言葉を交わした程度だという。ただ、その前にロシアを何度か訪れている鈴木代議士が、外相同士の接触をセットできるといった趣旨の発言をしていた。そのため、公的な意味を感じ取る人もいた。廣瀬氏は、実態としてはそれほど大きなものではないが、一つのアプローチではあったと評価する。
廣瀬氏が「結構大きい」とみるのが、大学生15人をサンクトペテルブルクに派遣した件である。7年ぶりの再開だった。かつては公募で行われていたが、今回は大学教員にピンポイントで学生の紹介を求める形で、ひっそり行われたという。サンクトペテルブルクは今年に入ってウクライナのドローン攻撃も受けており、危険な場所に今あえて学生を送るメリットがあるのか、と廣瀬氏は疑問を呈する。さらに日程は8月12日から20日で、その最中の13日にプーチン氏が択捉島に上陸した。学生を人質のように預けている状況では、日本は強い立場を取りにくい。廣瀬氏は、日本の足元を見られた可能性もあると述べる。
なお廣瀬氏は、日本政府が制裁を緩めたいわけではないとも明言している。日本はG7の主要国であり、最高レベルの制裁はウクライナ戦争が続く限り変えられないし、変えてはならないという立場だ。
「何をしなかったか」もメッセージになる
番組では、日本が「何をしなかったか」も整理された。廣瀬氏は、これらがロシアを喜ばせていると考える。
一つ目に、高市首相はウクライナ支援を口にしながら、ウクライナを訪問していない。ウクライナ側は早期の訪問を繰り返し求めている。二つ目に、ゼレンスキー大統領とまだ対面していない。6月のG7の際に会談しようと思えばできたが、個別会談は行われなかった。廣瀬氏によれば、G7首脳でゼレンスキー氏に会っていないのは高市首相だけだという。理由は明示されていないが、ロシアに配慮していると見られかねない。三つ目に、ウクライナに殺傷兵器を供与していない。
これらを総合すると、ロシアには「日本はかなりロシアに配慮しており、そろそろ関係を戻したいのではないか」というポジティブなメッセージとして受け取られた可能性がある、と廣瀬氏は言う。司会者が、判断の遅れや優先順位の低さで後回しになったことまで「あえてしなかった」と解釈されうるのではと指摘すると、廣瀬氏は「全くその通り」と応じた。あらゆることがメッセージになりうるため、相手にどう受け取られるかを常に考えて動かなければ外交は難しい、というのが廣瀬氏の見方である。
択捉島でプーチンは何をしたのか
では、プーチン氏は択捉島で何をしたのか。廣瀬氏は3つの行動を読み解いた。
まず、水産加工場でイクラを試食し、「美味しい」とまで言った。この工場は、ギドロストロイという会社が持つ大規模な施設である。廣瀬氏によれば、この周辺は世界有数の漁場で、試食は漁業の繁栄と、その資源をロシアが支配していることを示すメッセージになる。ギドロストロイは、日本に返還された場合に日本領となるはずの島にも水産工場を持っており、そこへのメッセージも含まれるという。同社はサハリンから北方領土にかけて水産業や観光業などを広く手がける巨大企業で、廣瀬氏はそれを「ギドロストロイ帝国」と表現した。政府と密接な関係にあることのアピールにもなっているとみる。
次に、ウクライナで戦死した兵士の名を冠した学校を訪れた。この地域からもウクライナへ兵士が送られ、戦死者も出ている。戦死者はロシア連邦英雄となり、その名が中学校に付けられている。そこを訪問することで、「特別軍事作戦」への貢献に感謝し、あなたたちを忘れていないというメッセージを送った、と廣瀬氏は説明する。
さらに、住民は「勝者の遺伝子コード」を持っているという発言をした。9月3日の戦勝記念日と重ねて、かつては対日戦で戦い、今はウクライナで戦っている住民を称える意味がある。司会者が、元は日本人の島なのに勝手に歴史を書き換えられている感じがすると述べると、廣瀬氏も同意した。
同じ日に出された中露駐日大使の共同声明は、「軍国主義の魂を呼び覚ます行為」に断固反対するという内容だった。中国から見ると、日本は再軍備化しているように映っている。声明に北方領土への言及はないが、同じ日に出したことが非常に意味深だと廣瀬氏は言う。第2次世界大戦をめぐる歴史的記憶について、中露は完全に共同戦線を張っているということだ。
国境画定という道も閉ざされたのか
廣瀬氏が最も注目すべきだとするのは、プーチン氏本人が行ったという点である。最後のカードとして残してきた訪問を自ら切ったことは、日本との領土交渉を見切ったことの表明ではないか、と廣瀬氏はみる。
ロシアはこれまでも、日本との間に領土問題は存在しないと主張してきた。2020年には憲法を改正し、領土の割譲を行わないと明記した。これで領土返還はかなり難しくなった。それでも廣瀬氏は、「ウルトラC」が一つあったと言う。割譲はできなくても、国境画定の交渉はできたはずだという考えだ。日露の国境はまだ確定していない。ロシアの主張する国境は北方領土全体を含むが、日本の主張はウルップ島と択捉島の間である。これを確定させる交渉であれば、割譲ではなく国境画定として島の返還を実現する可能性はあった。交渉のカードがまったくなかったわけではない。だが、その最後の交渉カードだったプーチン氏自身が上陸したことで、交渉の余地はないと言ってきたようにも見える。
ロシアはさまざまな球を投げて相手の反応を見ている、と廣瀬氏は言う。今回、日本は遺憾の意を示す強いメッセージは出したが、その後の動きはない。約1カ月が経っても、ちらつかせていた制裁も実行していない。廣瀬氏は、ロシアはこれを「結局言葉だけだ」と受け止め、ここまでしても日本は新たな措置に出ない国なのだと学習したと思う、と述べた。今後の領土交渉については「相当厳しい」という見方だ。
9月1日、プーチン氏は日露関係の悪化について、責任は100%日本にあると発言した。ロシアからすれば領土問題は解決済みだが、それでも平和条約協議には応じる用意があり、人道的な問題にも前向きに対応してきた。それなのに日本が自ら関係を悪化させている、という主張である。これは選挙向けのパフォーマンスではないかという問いに、廣瀬氏はその可能性も認めつつ、別の側面も指摘した。ウクライナとの協議では占領地の扱いが重要な争点で、ロシアは一寸の土地も返さない姿勢をとっている。西で領土に厳しい態度をとりながら東で返還をにおわせれば、態度に揺らぎが生じる。そのため、領土では一貫して譲らないという姿勢を国際的にアピールした可能性もあるという。
狭間国家の4つの生き方
では日本はどうすべきか。廣瀬氏は著書で、ロシアとの関係を軸に狭間国家の生き方を4つに分類している。
- 離反型:バルト三国のように、ソ連解体後すぐにヨーロッパへ向かい、2004年にNATOとEUに加盟して、ロシアと完全に決別した国。
- バランス型:ロシアとの関係は切らずに多くの回線を持ち、バランス外交をする国。カザフスタンやアゼルバイジャンが当てはまる。
- 依存型:ベラルーシのように、ほぼロシアにしか頼れない国。ベラルーシは100%依存しているわけではなく、今年も欧米との関係をちらつかせてプーチン氏を苛立たせる場面があった。それでも経済と軍事をロシアに握られている。
- 中立型:資源などによって経済的に自立し、中立を明確にうたい、ロシア主導の組織にも入らない国。
ただし廣瀬氏は、狭間国家はきれいに型に分けられるものではないと断る。どこから見るかで見え方が変わるからだ。日本が狭間国家かどうかについても議論は分かれる。米露の間で身動きがとれないから狭間だという人もいれば、G7の一員の経済大国だという人もいる。軍事面では日米同盟に頼っており、軍事大国ではない。経済面では、日中関係が悪くても中国が最大の貿易相手で、中国を含むユーラシアやアメリカとの関係を総合的に見なければならない。韓国は、日本を含む大国に挟まれてバランス外交をとる狭間の国だという意識を持っているとも聞くという。廣瀬氏自身は日本を狭間国家だとは考えていないが、狭間国家の学びは日本にも使えると話す。
複線化と「選ばれる国」
エネルギーと物流について、廣瀬氏は依存度が高いからこそ日本は困っていると指摘する。これまで日本は中東への依存度が非常に高かった。しかし廣瀬氏によれば、今年2月からイラン戦争が起き、中東に頼ることが難しくなった。アメリカへの依存を増やす一方で、ロシアとのエネルギー関係も切れない。依存先を一つにしておくのは危険だというのが、ここでの教訓だという。回線を多く持っていれば、何か起きた時に重心を移すことで、あまりダメージを受けずに次の手を打てる。キーワードは「複線化」である。
同時に廣瀬氏は、日本が「選ばれる国」でなければならないと強調する。他の国も回線を多く持っている。中東に頼れなくなって別の供給元に切り替えたいと申し出ても、「他国からの引き合いが多く、日本に回す分はない」と言われるかもしれない。そうならないためには、日本は大事な国だから優先的に回そうと思ってもらう必要がある。選ぶ自由度だけでなく選ばれる強みが大事で、そのためには戦略的優位性が要る。廣瀬氏は台湾の半導体を例に挙げ、強みがあれば他国が一目置くと述べた。司会者は、民間企業も含めて各分野で力をつけることが選択肢を増やすことにつながるとまとめた。
維持すべきもの、急ぐべきでないもの
最後に廣瀬氏は、ロシアとの向き合い方を3つのベクトルで示した。
一つ目は、維持すべき実務的な外交関係である。ロシアで活動を続けている日本企業がある。北方領土問題は人道的に喫緊の課題でもある。元島民は墓参や、存命のうちにもう一度島を訪れることを望んでいるが、年々亡くなっている。せめて墓参など人道面だけでも早く再開したい、と廣瀬氏は言う。ビザなし交流もコロナ以降行われておらず、早期の復活が課題だ。漁業、とりわけ日本が毎年お金を払って漁獲枠を得ている昆布漁などの実務関係も重要である。サハリンやヤマルのエネルギー権益も、ロシアに対して主張する立場を保つために維持すべきだという。
二つ目は、急ぐべきでないものである。首脳会談、大規模な経済協力、特に新規案件、そして政治的な関係正常化がこれにあたる。ウクライナ戦争が続き、日本はそれに全面的に反対している。戦争が明確な形で、日本が支援するウクライナにとって、つまり日本が納得できる形で終わらない限り、これらを急ぐべきではないと廣瀬氏は述べる。実務関係の維持に首脳は必要ない、首脳外交はだめだというのは大きなメッセージになる、という立場だ。
三つ目で廣瀬氏が「最も重要」とするのは、対話をロシアに日本の譲歩だと誤認させないことである。実務関係の維持にはある程度の接触が伴うが、それが日本がすり寄ってきたという誤ったメッセージにならないよう、「ここまでは話すが、これ以上は進まない」という厳格な立場を明確に示し続ける必要があるという。
プーチン後に交渉は動くのか:エリツィン時代の「空っぽの島」
プーチン氏がいなくなれば北方領土交渉は再び動くのか。この問いに廣瀬氏は「可能性としてはある」と答えた。大統領によってロシアの姿勢はある程度変わってきた。返還に最も近づいたのはエリツィン時代だと廣瀬氏は考えるが、それは大統領の人柄以上に、ロシア経済が史上最悪の状態にあったためだという。北方領土を返して日本から援助を得るという選択肢を、相当現実的に検討した可能性があると廣瀬氏はみる。
根拠として廣瀬氏が語ったのは、2018年に北方領土の島を訪れた際、少なくとも3人ほどから聞いた話である。1994年の北海道東方沖地震は震源地がほぼ北方領土で、甚大な被害が出た。経済的に最もぼろぼろだったロシアには復興する力がなく、エリツィン氏は、返還の際に大きな問題になる島民を本土へ移して島を空にし、そのうえで日本に返して援助を得ればよいと考えたという。実際に一度島民を全員移住させ、ボルゴグラードやカリーニングラードなど、ロシアが人口を増やしたい地域に家を用意した。しかし保守派が返還に反対し、住民もどんどん島に戻ってしまい、計画は頓挫した。廣瀬氏が会った人々は当時もらった家を今も持っており、元島民同士が結婚した家庭では2軒持っている例もあるという。「今も母と娘がボルゴグラードの家に行っている」と話した人もいた。廣瀬氏は、こうした実例から、実際に返還へ向けた動きが起こりかけていたのだと述べる。
そのため、ロシア経済が極度に悪化し、プーチン氏ではないより融和的な大統領が現れれば、可能性はゼロではないと廣瀬氏は考える。憲法上割譲はできないが、国境画定の枠組みを使えば交渉の余地はありうるという。
中露の共闘と、日米同盟という「弱点」
ただし廣瀬氏は、今が日本にとって最も厄介な局面だという司会者の見方にも同意した。中露は対日で完全に共闘しており、領土交渉となれば中国が妨害してくるだろうという。日本はプーチン氏だけでなく中国も相手にしなければならなくなった。
プーチン氏から見た日本の弱点について、廣瀬氏は対米依存を挙げる。ロシアには、日本はアメリカに強く依存し、その顔色をうかがう国という像があり、読み取りにくい国と考えている可能性がある。廣瀬氏によれば、ロシアは2016年ごろから、北方領土交渉には日米同盟の解消が必要だとか、北方領土に米軍基地を絶対に作らないという事前の保証がなければ交渉できないといった主張を続けている。ロシアにとって最も突きやすい弱点は日米同盟だ、というのが廣瀬氏の見立てである。
北方領土はもはやロシアとの二国間問題にとどまらず、中国が加わり、背後には日米同盟がある。番組は、そうしたいくつものピースがどう組み合わさるかで状況が大きく変わる、という認識を共有して締めくくられた。
初の択捉上陸と。率直に伺います。このニュースを見た瞬間に、これは大きな出来事だなというふうに廣瀬先生は感じましたか?
非常に大きな出来事だと思いました。
G7の首脳でゼレンスキー大統領に会っていない首脳というのは、もう唯一高市総理だけなんです。
実務的な外交関係というのは維持するべきなんですね。ロシアで活動を続けている日本企業なんかもありますし、人道的な面だけでも復活させたいで、ビジネス交流もコロナ以降ずっと行われていないぐらいな、戦争が行われていて、日本はそれにもう全面的に反対をしている立場です。日本がロシアにすり寄ってきたみたいな間違ったメッセージにならないように、厳格な立場で、ここまでは話しますよ、でもこれ以上は進みませんよと、ずっと明確に示し続ける必要があるというふうに思います。こんにちは。
MCの西川典孝です。大統領として北方領土上陸、プーチンの真の狙いとして今日は聞いていきたいと思います。ゲストをご紹介します。慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子先生です。よろしくお願いします。
よろしくお願いいたします。
廣瀬先生、この『狭間国家の地政学』という本も出されました。読んでいてすごくいろんな小国がどんな思惑を持っているのか、地政学ってこういう読み方もあるんだなという感想を抱いたんですけど、先生はこれをどういう意図でまず作られたんですか?
そうですね、私はロシアの周りの国をずっと長年研究してまして、かなりニッチな研究になるとは思うんですけれども、そういう国も単なる小国ではなくて、やっぱりそれぞれに自分たちの生き抜く術を模索しつつ、バランス外交をしたり、時に色々依存したりというような形で、各国が取れる戦略を取りつつ頑張ってきている。そういう生き方を見ることによって、どういうふうにロシアと対峙していくのか、そして一般的に狭間の国というのがどうやって国際社会の中でよりよく生きていけるのか、そしてその教訓は日本にも活かせるのではないかということで、本をまとめました。
大体大国の観点からこういうのって語られがちですけれど、そこに挟まれた国家がどう見て、どういうふうに生きていくのか、そこから日本の戦略というのが見えるんじゃないかということを書かれた本になっています。あと私、帯のところで気になったんですけど、VIVANT第2シーズンの監修もとありますが、本当ですね。
はい。
どういうことをされてるんですか?これは。
そうですね。私、実は今回の舞台の1つになっているこのアゼルバイジャンで留学をしておりましたので、アゼルバイジャンについては比較的歴史も文化も知っているというところもありますし、結構いろんな国際関係が今回色々と展開されていくので、そういう国際関係であるとか、そういうところも見ております。
映画の舞台にもなってますよね。
まさしくそうで、99年の007の舞台にもなってまして、石油で非常に有名な国なんですね。19世紀にはもう世界の石油の半分をアゼルバイジャンで産出していたというぐらい有名で、エネルギーである意味経済的には一本立ちできると。で、地政学的なポジションも特に近年強くなってまして、特に2022年……に入ってきまして、それによってかなりアゼルバイジャンと新たに契約を結んだ国も多くてですね。ますます立ち位置って強化されているんですよね。
なるほど。やっぱり資源、エネルギーを持ってる国は強いですね。やっぱりね。
大きいです。で、さらにロシアとの関係で見ますと、地域的にアゼルバイジャンの影響力が強くなっているということに加えて、ロシアは逆に2022年以降、国際的な孤立がどんどん強まっていっていて、もうちょっと大きい地理的な地図で見ると、今、中国から中央アジア、コーカサス、トルコ、ヨーロッパと通るこのミドルコリドー、中央回廊というのが重要なルートとして世界的に注目を集める一方で、それが完全にロシアを迂回するルートになってるんですね。
なので、やっぱり国際ルートから外されているという焦燥感から、南北国際回廊というのをロシアは推進してまして、つまりロシア、アゼルバイジャン、イラン、インドというふうに縦に通っていくルートなんですね。それを成功させるためには、アゼルバイジャンが非常に重要な国になるんですね。
しかし、2024年12月にアゼルバイジャンの民間機をロシアが誤射してしまうという事件が起こりまして、その時にもアゼルバイジャンは非常に強い立場を維持して、
そう、最初認めなかったってやつですね。
認めなかったんですけれども、調査、謝罪、補償をしろというふうに、もう本当に凛とした態度で迫って、最初ロシアはバードストライクだなんだと言って、のらりくらり逃げてたんですけども、去年の前半はお互いの応酬みたいな形で非常に厳しい応酬がなされていたんですが、去年の10月にプーチン大統領が謝るという。旧ソ連諸国の小国に謝るというのはありえないことなんですね。
すごく大きく取り上げられまして、プーチンを謝らせた国みたいな形で。
なかなかですね、元々資源がある、それが自立性を担保していたということもあるんですけれども、地政学的な部分、そういうものも折り重なって、アゼルバイジャンの自由度をかなり強めている。そういう意味では、この狭間の国家の本でも書きましたように、多くの回線を持って、そして自分の軸を持ち、そして他の国には負けない何か戦略的優位性みたいなものも持っているという意味では、アゼルバイジャンは狭間の国としてかなり強いポジションを得られている国かと思います。
ああ、なるほど。僕もこの本を読んでいて、いろんな考え方、そしていろんな歴史、それぞれの双方から見た見方ってこんなに違うのかというところも勉強になりましたので、この本をベースに今回プーチンの択捉島訪問というところを詳しく聞いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
よろしくお願いいたします。
はい。じゃあまず率直に伺いたいと思います。この1ヶ月で起きたことをこちらに書いているんですけれども、8月13日、ロシア大統領として初の択捉上陸というところを取り上げたいと思います。率直に伺います。このニュースを見た瞬間に、これは大きな出来事だなというふうに廣瀬先生は感じましたか?
いや、もう非常に大きな出来事だと思いました。特に、プーチン大統領というのはこれまで汚れ役を首相、特に元一時大統領であったメドベージェフに押し付けて、汚い仕事は彼にやらせる。で、自分はクリーンな位置を維持して、最後の切り札になり得る存在として自分を維持していたと思うんですね。なので、仮に日本とロシアの関係がかなり悪くなっても、最後、交渉役として自分が残るというところを守ってきたと思うんですけども、ちょっと怪しい兆候はあって、2020年1月ぐらいに、必ず北方領土に行きたいということを言い出したんですね。なので、行ってしまうんだろうなということは危惧はしてたんですけれども、あ、もうこの時期に来たかということで、自分という最後のカードを切ってしまったということで、もう日本と交渉する日はないということを明示したとも言えると思うんですね。
なるほど。高市首相も行くなという話は、国としてずっと発言されていた中でしたもんね。
はい。ですので、日本の期待を全て裏切って、今回択捉島に行ったということだと思います。
なるほど。前後のこの1ヶ月で起きたことも少しおさらいしたいんですけれども、8月4日の太平洋艦隊の大規模演習であったり、12日の「クリル諸島はロシア領で確定」などという発言があった後に択捉島に上陸しました。で、何よりもこれは注目かなと思ったのが、択捉上陸と同じ日に中国とロシアの駐日大使たちが共同声明を出したと。これは中国には事前に通告していたと考えられますよね。
それはもう間違いないと思いますね。特に近年、中国との共闘というのは非常に目立つようになっていまして、中国とロシアの関係というのは、特に2015年ぐらいから非常に顕著に強まっているんですけれども、やはり一番の転機になったのは2014年のクリミアだと思うんですね。それでロシアがだんだんヨーロッパから孤立していく中で、どんどん中国との関係が深まっていったという。
ロシアの孤立が深まったのはやはり2022年のウクライナ侵略でして、それ以後はもう本当にロシアは中国に依存しないと生きていけない状況になっていますね。
ヨーロッパからエネルギー関係の制裁を受けてしまったので、それからはとにかく安く大量に売るということで、なんとか戦費を賄っていたようなところがありまして、それを買ってくれているのが中国、インド、トルコという感じなんですね。特に中国、インドの割合が非常に強くて、いかに中国に買ってもらうか。さらに中国については、ロシアは特に制裁もあって、兵器を作っていくような部品とか、色々な戦略的なものも買えなくなってるんですけども、そういうデュアルユース品みたいなものをかなり与えてくれているのも中国ということで、今やデュアルユース品の対中依存は9割ぐらいになってるんですね。
へえ。なるほど。
なので、中国が売ってくれなくなったらもはや兵器も作れないというところにもなってきているので、とにかく中国との関係が大事ということでですね。本来ロシアも相当プライドの高い国ですので、中国との関係はフラットにしておきたいところなんですけども、今完全にジュニアパートナー化が進んでしまって、中国がもう本当に上にいて、とにかくすり寄っていくというところがもう完全に固定化してしまったような状況でですね。で、特に去年からの日中関係を考えてみますと、高市政権になってから日中関係はかなり冷え込んでおります。それからはロシアの、中国との対日関係での共闘が非常に目立つようになって、
そうなると日本とロシアの関係だけじゃなくて、北方領土は日本とロシア、中国で見ていかなきゃいけない部分になってきたということですか?
まさにその通りでありまして、特にこの北方領土というのは、ロシアのナラティブ、主張からしますと、第二次世界大戦の結果ということなんですね。ロシアはそもそも本来ですと日本に攻め込むべきところではない。これは完全に条約違反でやってるところで、日本としては負けたみたいに絶対認められないところなんですけれども、ロシアとしては第二次大戦に参戦して勝った。だからこそ戦利品として領土はちゃんと得ているのだと。で、そのことはヤルタ会談でアメリカ、イギリスが認めてくれているんだから、ロシアのものだ、ちょっと前ですとソ連のものだということなわけですよね。
でもそこは日本としては絶対に認められないところで、でもロシアは、まず日本の歴史認識はおかしい、日本は負けを認めて、これを戦勝の証としてロシアが維持していることを認めるべきだという立場なんですけれども、同時に中国は、やはり第二次世界大戦というものが日本の敗北によって終わったということを歴史認識として持っているわけで、そこはロシアと中国が共通の歴史認識を持っているということになるわけなんですよね。
だからそこはちょっと興味深くて、実は対日戦勝記念日というのを、ロシアは9月2日から9月3日に変えてるんですね。
あ、ずらしてるんですね。
ずらしてるんですね。その9月3日というのが中国の抗日戦勝記念日だからなんです。
あ、そこにずらしたんですか?
ずらして中国と合わせてるんですね。それで共に9月3日、日本に勝ったことを祝いましょうということで、その辺からもう中国と歩調を合わせている。
中国からしてみたら大きな味方が来たわけですし、ロシアからしてみたら、一緒に戦っていかないとこの先勝ち残って国際政治の中でやっていけないよというところなんですね。
そうなんですね。
なので、この出来事というのは明らかにロシアの中国配慮ということも考えなければいけないですし、同時に日本へのメッセージでもあり、国内戦略でもありというところで、3本柱ぐらいが立つかなというふうに思います。
なるほど。ですので、この1ヶ月の中に9月3日のロシアの対日戦勝記念日というのがありますが、これが日がずれていたということになります。2日だったということなんですね。で、あとロシアはこの後選挙を控えていると。そこのところもあるんじゃないかなということは想定したんですけど、そこもまた後で聞かせてください。
はい。
では行きます。なぜ今、北方領土を訪問したのか。日本への挑発だけではこのタイミングを説明できないのでは、というところを書きましたが、狙いは3つあります。読み上げていただけますか?
はい。まず1つ目ですね、日本へのメッセージ。これは日本に対して主権の誇示に加えて、日本のレッドラインがどこにあるかを探る。ロシアって探るのがすごく得意な国というか、探って、どういうことをしたらどういう反応が出るかということを見ながら、日本がどういう動きをするのかということを探っていくということがあるかと思います。
2つ目は、
2つ目は、国内、極東向けのアピールということで、これは今まさにおっしゃったように、9月の選挙と戦勝記念日を前に愛国的なストーリーを強化していくという目的ですよね。やはり9月の選挙はすごく重要で、9月20日に下院選挙が行われるわけなんですけども、その際にこの辺の得票もしっかり確保しておきたい。実際には色々と不正選挙などもあるとは思うんですが、やはりあまりに現実と乖離してしまったらよくないということで、実は先ほどの8月12日に、実際に日本に対するメッセージがあったということだったんですけれども、その時はサハリン州で軍事演習を見てるんですね。
日本に対するメッセージも出しているというところなんですけども、そもそもこのサハリン州への訪問がプーチン大統領は13年ぶりという、非常に長いことご無沙汰していたところに行って、そうするとやはり来てもらうとみんな嬉しいわけですよね。あ、プーチン大統領が来てくれた、私たちのこと忘れてないんだ。そして初めて択捉にも行った。そうすると北方領土の人も、あ、大統領も来てくれたということで喜ぶ。
ああ、どこの国もそうですけど、選挙で小さい島を訪問するのと大体一緒の構図ですよね、これはね。
そうですね。大体一緒の構図ですね。
で、得票率80%とか90%ぐらいまで取っていくっていう説ですよね。なるほど。
ただ、これは本当に極東的なアピールだと思うんですよ。というのは、実はモスクワとか本土の人はほとんど北方領土なんか知らないんですよね。
確かに、極東なんて多分分かってないですよね。
分かってないです。なので本当に地域限定のアピールというところにはなると思うんですけれども、地域限定のアピールもしつつ、さっきも申し上げたように9月3日が戦勝記念日であって、プーチン大統領は、この辺の人たちが愛国的であって、対日戦でも貢献してくれたみたいなことも言ってるわけですよね。そうすると、戦争の季節にいろんなイメージを掻き立てて、愛国心をより強く持ってもらえればいいかというような、多分二重の時期的な狙いはあったというふうに思います。強いロシア、強いプーチンみたいなものをうまく絵として描けるということなんですね。
3つ目は
はい。3つ目がですね、先ほどから出てるんですけど、中国との戦略的連帯の誇示ということで、まさに日中関係が悪化する中で、中露で対日圧力の構図を明確にする。なので、まさに行った同日に中国とのアピールがあったということは、やはり相当前から中国には通達して、お互いに色々な作戦を練っていたと思うんですよね。
なるほど。僕が1つ、先生に事前にお話をお伺いする中で、日本へのメッセージということはロシアから日本への視点ということにはなるんですけれど、これは日本側から見た時とロシア側から見た時と、両方の視点で見る必要があるというふうにおっしゃってましたよね。
はい。そうなんですよね。かなり両方で見え方が違って、ロシアからすると、最近の日本というのは、実は制裁などはしているけども、ロシアと関係を復活させたいんじゃないかというふうに読み取っていた節があると思うんですよ。なるほど。ちょっとその辺り、日本側の動きというところからまず見ていきたいと思います。
こちらに並ぶ中で、日本側の動き、総じてこれはどういうことが感じられるような流れになるんですか?
制裁は続けている、でも人的交流、あと経済交流はやっていきましょうよというところだと思うんですね。
具体的に見ますと、まず今年2月にモスクワ、サンクトペテルブルクにビザの申請センターを開設するということがあります。
毎日毎日行列ができてしまう。
というのは、やはり今ロシア人は結構旅行好きで、いろんなところに行きたがる人たちなんですけれども、ヨーロッパに行かれないんですよね。なので中東とかにすごく行ってるらしいんですけど。
あ、そうなんですか。
で、日本もアジアでありながら西側であって、しかも今円が弱いので、日本はちょっとお買い物天国みたいになっちゃっているということもあって、日本旅行が大人気らしいんですね。で、ずっとビザの取得の行列ができているということで、日本にロシア人をもっと来てもらえば、そこは人的交流になるんではないかということで、今年2月に新たにモスクワ、サンクトペテルブルクにビザセンターができていまして、しかも日本はビザを無料で配布してるんですね。
無料なんですか?
無料なんです。逆に日本人がロシアのビザを取るのは結構な手数料を取られるんですよね。
へえ。日本からすると、ロシアという国に対してはこのウクライナ侵略で色々と思うところはあるけど、ロシア人に対してはまたそれは別だよ、みたいな感覚になるんですかね。
別だよという感覚を政府としては作りたいんじゃないですかね。
ああ、なるほど。
外務省としては、なので、そこはまた別ですよと。やはりロシアとは永遠に隣国なので、今後のことを考えれば少なくとも親日的なロシア人と仲良くしておくことはいいんじゃないですかということだと思うんですね。なので日本に来る人は歓迎する。で、実はここには書いてないですけども、結構ロシア人研究者、例えば大学教授とか、そういう人をアカデミックな交流として日本に招聘するみたいなことも、ずっとこの戦争中も行われているんですね。
なるほど。
なので人的交流は促進するということが1つ行われていて、今年の春頃に、日本企業の資産保護のために政府関係者がロシア側と実務協議するということで、この時に経産省と外務省のそれなりの方が日本の企業の方と一緒にロシアを訪問するということをやっていて、この時は最初こういう報道が出た時にそんなことはないと一旦否定が出たんですけれども、結局訪問するということになったんですよね。で、その訪問した暁にはどういうことが起きたかというと、ロシアからは歓迎していないみたいなメッセージが出たんですけれども、実際に行った方の話を伺うと、それなりに温かいムードはあったみたいなことも聞いておりまして、この背景にあるのは、一応経済という面ではもう協力関係をもっと深めていいんじゃないかと思っているということですね。ただ、ここでポイントなのは、日本企業の資産保護ということで、これまでの関係をしっかり維持していく。ただ新しいプロジェクトを始めましょうとか、そういうことではないんですね。そこの一線はちょっと守っているかなというところで、ただこれまでの経済的な関係を維持していきましょうということ。
そうなると人的交流と、日露のいわゆる企業のこれまでの経済活動みたいなところが、ちょっとずつロシア側からすると、あれ、なんか関係を良くしたいんじゃないかみたいに見えているということですね。
で、さらに7月以降は、7月に茂木外相がラブロフ外相と5年ぶりぐらいにマニラで接触ということで、これは偶然の機会なわけなんですけれども、ラブロフってもう世界一在任が長い外務大臣ですので、当然2期目の茂木外相とは面識があるわけですよね。なので、久しぶりみたいな感じでちょっと話したということなんですけれども、とはいえ、やっぱり接触ということは大きくて、特にその前に何度か行かれている鈴木議員が、外務大臣との接触もセットできるみたいなことをおっしゃっていた、そういう後での接触ということで、もうちょっと公的な意味があるんじゃないかなということを勘ぐる人もいる。でも実態としてはそんなに大きなものではないわけですけども、でも外務大臣同士の接触があったということは、1つのアプローチではありますよね。
さらに8月、9月は、これは非常に大きな動きだったと思うんですけれども、大学生15人をサンクトペテルブルクに派遣する。これは7年ぶりの再開ということであったんですけども、これは結構大きい動きかなと思うんですよね。というのは、必ずしも今必要とされていますかというと、別に今やらなくてもいいと思う。
大学生ですもんね。日本の要人とかそういう人じゃなくて、学生ですもんね。
しかも、かつてはちゃんと公募の形で行われていたみたいなんですけれども、今回その報道などを見ますと、大学教員にピンポイントで、学生さんを紹介してくださいみたいな感じでアプローチがあったということで、一般公開されたものではなくて、結構ひっそり行われたというふうに言ってもいいと思うんですね。特に今年に入ってからは、サンクトペテルブルクも相当ウクライナからドローン攻撃も受けているような状況で、そんな危険なところに学生を送り込むことのメリットはあるのかということを考えてしまいますし、日程を見ますと8月12日から20日ということで、まさにその合間の13日にプーチン大統領が択捉に行っている。
なんか日本の弱みを見透かした可能性というのもあると思うんですよね。
タイミングがまさにっていうかね。
まさに事実上、ちょっと学生さんを人質みたいな形で預けている感じで、そういう時に択捉に行かれてしまうと、当然日本としても強い立場を取りにくいと思うんですよね。
これは日本からしてみたら、ちょっとやられたみたいな感じに思ってしまいますよね。
ところはあると思いますね。
日本政府としては、ロシアに対する制裁を緩めたいわけではないですよね。
ないと思いますね。やはり日本はG7の主要国でありまして、G7としての制裁というのは揺るがないものであって、この最高レベルの制裁というのはウクライナ戦争が続く限りは変えられないと思いますし、変えてはいけないと思うんですね。
なるほど。今のこの8月12日から20日の話題まで見て、点で見ていくと、それぞれ人的だったり経済だったり別々に見てきましたけれど、何をしなかったのか、こちらにちょっとまとめてみました。いかがですか?これは。
実際、結構いろんなことをしていなくて、それがロシアには喜びになっていると思うんですね。まず、首相になってから一貫してウクライナ支援はおっしゃっているものの、訪問していないんですよね。結構ウクライナ側は、高市首相に早期にウクライナを訪問していただきたいということを常々言ってきているわけですけれども、まだ訪問していない。そしてこれも結構大きいと思うんですけれども、まだゼレンスキー大統領と対面していないんですね。しかも対面するきっかけはあったというか、6月のG7の時にも、本来であればやろうと思えば面会できたんですけども、それをあえてせず、個別会談は行われなかったんですね。で、実はG7の首脳でゼレンスキー大統領に会っていない首脳というのは、もう唯一高市総理だけなんです。
うーん。これはなんで会わないんですか?やっぱりロシアに対する……
うーん。だからね、もちろんそこの理由は明示されていない。
そう。日本の考え……それはね、明示されてはいないんですけども、ロシアに配慮しているのではないかと見られてもおかしくないですよね。
なるほど。なるほど。そして3つ目が
3つ目がですね、まだウクライナに殺傷兵器を供与していないということですね。……ととれるわけです。で、ウクライナはずっと兵器を送ってくださいということを言っているんですけれども、未だに送っていない。ということも、多分ロシアからしたらメッセージになっている可能性があるんですよね。
なるほど。この3つを含めると、ロシア側からするとこれはどういうふうに受け止められると?
日本は相当ロシアに配慮しているんじゃないかというメッセージになると思うんですね。
なるほど。それが、日本はそろそろ関係を戻したいのではないかと思われる可能性はあると。
あるということですね。日本がやったこと、やらないことを総合的に、おそらくポジティブなメッセージとして捉えられている可能性があるということですね。
これは面白いですね。何をしなかったかって、多分判断が遅かったとか、優先順位的に国の中でそんなに高くなくて後々になったものが、あ、あれはあえてしなかったんだなとか思われる可能性も出てくるじゃないですか。
全くその通りですね。
ああ、これは外交って難しいですね。
難しいですね。本当にあらゆることがメッセージになってしまうので、常に相手にどう捉えられるかということを考えて動かないと、かなり外交は難しいと思います。
なるほど。じゃあ実際にロシアのプーチン大統領が択捉島で何をしたのかというところを、ロシア側から見ていきたいと思いますが、これはどんなことをされたんですか?
はい。まず、この水産加工場でいくらを試食すると。
これはどういう意味があるんですか?これは。
これね、ギドロストロイという会社が非常に大きな水産加工場を持っていて、そこでプーチン大統領が試食をしたということは、やはりその辺の意味があってですね、漁業が栄えていると。あと、あの辺ってすごく世界有数の有名な漁場なんですね。その辺の魚も全部取っていて、ロシアが支配しているんだという、いろんなメッセージになっていると思います。
で、それを択捉島で食べたというところに意味があるんですね。
しかも美味しいみたいなことまで言ってですね。
なるほど。
で、その水産加工場は、実は択捉にあるのが一番大きいんですけれども、もし奪還できた場合に日本領になるその島にも、ギドロストロイの水産加工場が今できてまして、
ということは、そこに対してのメッセージもあるということですね。
あると思いますね。
うーん。うわ、1個の行動だけでこんなに考察できるんですね。
ギドロストロイという会社がそもそも非常に大きいネットワーク会社で、水産もあるんですけれども、もうサハリンから北方領土にかけて全部、観光業とかも牛耳っているんですね。なので、もうほとんどギドロストロイ帝国みたいな感じになっていて、そこがやはり政府と非常に親密な関係を持っているというアピールにもなっているかと思います。
なるほど。そして2つ目は、
ウクライナ戦死者の名を冠した学校に行っているということで、この辺からも相当ウクライナ戦線に送られた兵士が出ているわけですね。当然戦死者も出ているわけですけれども、そういう方はロシア連邦の英雄になるわけですけれども、あえてその中学校にその方の名前を冠している。そこに行くということで、もう我々は一体ですよと。ウクライナでの戦い、特別軍事作戦で非常に貢献してくれて、ありがとう。常に私たちはあなたたちを忘れていませんよというメッセージにもなるということですね。これも結構大きなアクションになるかと思います。
なるほど。そして3つ目が
はい。この「勝者の遺伝子コードを持っている」という発言ですよね。
はい。
で、これはやはりさっきの9月3日の戦勝記念日に当てたというところと重なってくるわけなんですけれども、やはり対日戦ではこの辺の住民も戦ってくれましたよねということで、この人たちは勝者の遺伝子コードを持っているんだと。で、これは今も変わらずであって、今もこの住民たちがウクライナとの特別軍事作戦でも戦ってくれている、かつては対日戦で戦ってくれた、まさにあなたたちの勝者の遺伝子コードを尊敬していますみたいなアピールですよね。
うわ、本当にこれがロシア人だったら嬉しいと思うんでしょうけど、いや、元々日本人でしょって我々も思うわけじゃないですか。勝手に歴史を書き換えられているような感じがしちゃいますよね、日本からすると。
本当にそうなんですよね。
ああ、なるほど。で、しかもこの同じ日に中国も動いたということで、先ほどちょっと触れていますけど、改めてお願いします。
はい。まさに中国も動いて、同じ日に中国とロシアの駐日大使が共同声明を出しているんですね。「軍国主義の魂を呼び覚ます行為に断固反対」ということで、日本が色々と最近、中国から見ると、また再軍備化しているというふうに映っているわけですよね。
ええ。
ただ、この声明について、特に北方領土の言及などはないわけですけれども、しかし同じ日に行うというところが非常に意味深であって、さっきも申し上げたように、2020年にロシアは対日戦勝記念日の日を変えているんですね。そうやって中国に寄り添って、そして日本の、彼らが言うところの再軍備に共に反対するというところが、非常に意味が大きいのかなというふうに思いますね。
日本からしてみたら、ロシア相手だけだったのが、いきなり中露を相手にしなきゃいけないみたいな。
そうなんです。中露が入ってきて、第二次世界大戦に絡む歴史的記憶については、完全に中露は共同戦線を張っていますよということなんですよね。
そして先生がおっしゃっている、最も注目しなければいけないこと。これはどういうことですか?
はい。誰が行ったかということで、プーチン大統領が行ったということが大きいわけですよね。これまで汚れ役がメドベージェフで、プーチンは行かなかったというところがありましたけど、そのプーチンが今まで最後のカードとして残していたであろう訪問を自分で切った。これはどういうことが言えるんですか?
自分で切ってしまったということは、もはや日本との領土交渉を見限ったことの表明ではないかと思うんですね。
見限った。もうこれ以上交渉はしないと思われるような形ですか?
で、これまでもロシアは、日本との間に領土問題はないとか言ってましたよね。言ってましたし、2020年にロシアは憲法を変えて、領土割譲は行わないということも明記してしまっています。その辺からかなり領土奪還というのは難しくはなっているんですけれども、ただ1つウルトラCもあってですね、領土割譲はできないわけですけれども、国境確定という交渉はできたはずなんですね。
おお、なるほど。
だから日露の国境確定はできていませんよね。
ええ、ええ。
それを確定する交渉をしましょうという文脈ではできたはずで、今ロシアが主張する国境というのは、完全に北方領土全部を含んだところの日露の国境ということになるわけですけども、日本が主張しているのは得撫島と択捉島の間ということで、これを確定させましょうよということで交渉すれば、領土割譲ではなく国境確定しましたよということで、島を返還していただくというのは可能は可能だったと思うんですよ。なので交渉のカードが全くなかったわけではないんですけども、その最後の交渉カードであったプーチンそのもの、それをプーチン氏が切ってしまった。なので、もう日本とは交渉の余地はないですよと言ってきたようにも見えるわけですよね。
これは逆に、プーチンがこういうことをしたと。で、日本はどんな反応をするのかというのを見られている部分がありますよね。
見られていると思います。当然見られていて、ロシアはつねに、いろんな球を投げてどういう反応を示すかということをいろんな国に対してやっているんですね。で、日本に対してもやったと。日本は今回、非常に遺憾であると強いメッセージは出したものの、それ以降の動きはないんですよね。もう1ヶ月ぐらい経ってしまっていますけれども、制裁の可能性とかもちらつかせてはいましたけれども、やっていないわけですよね。これも多分ロシアにとってはメッセージであって、結局言葉だけですよね。
確かに。
何も実行はしなかったと思っていると思います。なので、やっぱり相当なことをしても新たな制裁とかにも出ないのであれば、日本ってそういう国なんだなということを学習したと思いますね。
ああ、高市さんが総理になられる前の発言とかを聞くと、やっぱり一貫して強いメッセージは出していたとは思うんですけど、総理になられて、きっと我々には見えないいろんなものが見えているであろうから、取れない選択というのはあるとは思うんですけれど、それでも今おっしゃっていた話を聞くと、この先の領土交渉はなかなか厳しいんじゃないかということをちょっと感じてしまいますよね。
相当厳しいと思いますね。
そしてプーチンはこういう発言もしていました。責任は100%日本と。
はい。9月1日になるわけですけれども、つまり訪問してから半月以上経った状況で、日本とロシアの関係が悪化していると。でも関係悪化の責任は100%日本にあるということを言っているんですね。
100%。
ロシアからしてみれば、すでに領土問題なんかはないんだ、解決済みである。それでもなおロシアは平和条約の協議には応じる用意はあった。そして人的な問題にも前向きに対応してきた。しかし日本が関係悪化をどんどん自ら進めていくので、もう無理ですよということを言ってきたと思うんですね。
これって選挙に向けたプーチンの、1個のパフォーマンスみたいに捉えることはできないんですか?
その可能性もあると思います。やはり強いリーダーとして日本に対して非常に強気な態度を示していますよというアピールにもなると思うんですけども、また一方で、もう領土問題なんかで議論する気はないですよというアプローチにもなっているかと思うんですね。
で、やはり今ウクライナ戦争をやっていまして、領土の問題って相当シビアなわけですよね。例えば今ウクライナの方でも、その地については1ミリも返還する気はないわけですよね。
で、おそらくその占領地を今後どうしていくかってことが今後のウクライナとの協議でもかなり重要なポイントになってくるわけですが、向こうでは領土で非常に厳しい態度を取っていて、でも東ではなんかこう返すような態度を示すみたいだと、ロシアの態度にブレが出てしまう。はい。はい。で、領土問題では一貫して譲らないみたいな強い態度を国際的にアピールしたという可能性もあるわけですよ。
なるほど。じゃあそうなってくるとこの先日本はどうすればいいのかと。本の中にもいろんなこの狭間国家の生き方というのは書かれていますけれども、そこからちょっとヒントを得ながらどう考えていけばいいのかというのを考えたいと思います。本の中には4つの型があるというところがありましたので、まずそこからご説明お願いしてもいいですか?
そうですね。狭間の国家として、4つの型がある。これロシアとの関係で主に形式を考えてるわけなんですけれども、まずそのバルト三国などに現れている離反型ですね。ロシアとは完全に決別で、ソ連解体後すぐに、ヨーロッパの方に向かって2004年にはNATOとEUに加盟して、完全にヨーロッパとの道をこう歩んでいるということが、1つ目のタイプ。
そしてタイプ2としてバランス型、ロシアとの関係も切らないんだけれども、他のところとより多くの回線を持ってですね、こうバランス外交していくっていうことで、カザフスタンとか、あと、アゼルバイジャンなんかが当たるのではないかなという感じですね。
で、あとこう、ロシアにしかほぼ頼れないっていうのがベラルーシ。うん。ベラルーシですね、完全に100%ロシアに依存してるわけではなくて、歴史的にも、そして今年に入ってからもですね、ちょこちょこ欧米との関係もちらつかせて、ちょっとプーチンがそれに苛立つみたいなことはあるんですが、しかし現実的に、特に経済を中心とした経済・軍事なところが、ロシアとの関係で握られてしまっているみたいなところが、ベラルーシですね。
そして最後に中立型ということで、これやはり資源などがないと難しいわけですけども、それと経済的に一本立ちができて、で、さらにもう完全にいろんなところで自分たちは中立だということを謳ってしまっている。それで、ロシアの主導するような組織にも入らず、中立を保っているというようなで、このような大体4つの生き方に分類できるのではないかなというところなんですけれども、
またですね、この狭間の国家っていうのは、完全にある一定の形にこう分類できるものでもないという風に思ってまして、そもそも狭間の国家っていうのはどこから見るかによって見え方って変わると思うんですね。
で、例えば日本が狭間国家かどうかっていうことはかなりいろんな議論があると思うんですね。例えばアメリカとロシアの間に挟まれて、なかなか身動きできずにいるから狭間だっていう方もいらっしゃれば、日本は、ちょっと最近経済が、それでもまだまだ経済大国であって、G7のメンバーであるじゃないかっていうことをおっしゃる方もいると思います。
で、これもどこから見るかであって、例えば軍事というところで見ればやはり日本は完全にこう日米同盟に頼っているというところで、軍事的には軍事大国ではないですよね。はい。で、経済ってところを見ても例えば、今日中関係悪いって話今日もしましたけれども、それでもやはり中国との貿易関係1番大きいですし、はい、中国含むユーラシアとの関係、アメリカとの関係、総合的に見ないと経済も見られないっていうとこで、何を見るかによってかなりその狭間であるかどうかの見え方っていうのも変わってくると思うんですね。
で、逆に例えば韓国などから見ると韓国は日本含む大国に挟まれたバランス外交を取らなければいけない狭間の国であるっていう意識をこう持ってらっしゃるっていうことも聞きますので、やはりその見え方っていうのは一元的ではないわけなんですね。なるほど。で、日本を狭間であるという気持ちはないんですけれども、狭間国家の色々な学びをですね、日本も使えるんじゃないかっていうことは言えると思ってます。
うん。なるほど。これそうなってくると分野ごとに位置や、そもそも狭間なのかっていう話もありますけれど、安全保障と経済の話を今しました。エネルギーとか物流に関してはこれはどう見ますか?
これもまさにですね、依存度が高いからこそ今日本は非常に困っているというところがありまして、特に今まではこう中東依存度が非常に高かったわけですよね。でも今年2月からイラン戦争が起きて、かなり中東依存が難しい状態になってきた。で、どんどんこのアメリカへの依存も増やしてく。そして、ロシアとのこのエネルギー関係も切れないみたいなところがあったりするわけですけれども、これはやはりですね、我々にとっては学習材料となったというか、やはりこの依存関係を1つにしておくと危険ということなんですね。
うん。なので回線をより大きく持っておくと、事件が起きた時に、いろんな回線をこう変えていく、重きを変えていくことによって、割とダメージを受けずに次の手、次の手が打てる。これ非常に重要だと思うんですね。なので回線をいかにたくさん持っておくかということが大事だと思いますが。
キーワードとして言うとこれはどういうことになるんですか?大事なのは?大事なのは複線化。複線化。複線化ということで、いろんな回線をより複線的に持っておくということが大事なんですけども、同時にですね、日本も選ばれる国でなければいけない。選ぶだけじゃなくて、なるほど。はい。
で、相手に大事な国って思ってもらう必要があって、例えばこの回線色々持ってたとしても、他の国も多分回線いっぱい持ってると思うんですよね。じゃ、例えばこのイラン戦争が起きて中東に依存できなくなりました。じゃあ別の国の回線に替えたいと思いますって言った時に、いや、他の国からもういっぱいアプローチ来てて、もう日本に与えられる回線ないですよって言われちゃうかもしれないんですね。でもそういう時にや日本は大事な国だから優先的にあげないとと思ってもらう必要がある。
うん。なるほど。つまり、選ぶ自由度も大事なんですけど、選ばれる強みっていうのも大事で、それを維持するためにはですね、やっぱ戦略的優位性みたいなのも持ってないといけない。うん。だから例えば私はこういうものを差し上げられますよという強みであるとか。はい。はい。例えば、最近ですと台湾なんかこう半導体ですよね。そうするとなんか強みがあるので他の国がやっぱ一目置いてくれる。なるほど。で、そういうものをより強く、よりたくさん持っていることが重要ということになるかと思います。
結局そのいろんな業界の中で、企業を含めて民間もやっぱ強くなっていって、世界の中でこうパワーを持てるようになっていけば、いずれ選択肢が増えてくるっていうことです。うん。
じゃあ実際にこれを日本はどう向き合うのかというところを最後ロシアとの向き合い方とまとめていただきたいと思う。ロシアとの向き合い方なんですけれども、ベクトルがあると思うんですね。で、まず日本は絶対にロシアとの関係っていうのは維持しなければいけない部分があります。それはですね、やはり実務的な外交関係っていうのは維持するべきなんですね。
というのは、例えば、ロシアで活動を続けている日本企業なんかもありますし、うん。そして北方領土問題っていうのはやはり喫緊の問題であって、特に元島民の方がやはりその墓参であるとか、ご存命のうちにもう1回行っておきたいみたいな方いらっしゃるわけですけども、元島民の方っていうのはどんどんどんどん、残念ながらお亡くなりになってる状況なんですね。活動のほぼ2がっているというようなところになってきますので、より早くせめて墓参ですとか、人道的な面だけでも復活させたい。これやはりですね、より早い交渉の復活ということが重要になってくるかと思うんですね。
で、ビザなし交流も、コロナ以降ずっと行われていないっていう状態なので、それをいかに早く復活するか。そして漁業ですよね。漁業と昆布、これはずっと日本が毎年毎年お金を払って、これだけ毎年取っていいですよっていうことで交渉してるわけですけれども、それやっぱり重要ですので、その辺の実務関係、さらにエネルギー権益ですよね。サハリンとヤマルにある権益。これはやはりロシアに対する色々な主張をする立場を維持するためにも維持していくべきだという風に思います。
一方でこの急がないというところもありますね。急がないことですね、やはりその首脳交流は急ぐべきではないと思いますね。で、あと、大規模な経済協力もするべきではないと思います。特に新規の案件なんかは始めるべきではないと思いますし、あとこの政治的な関係正常化ってことも無理にするべきではないと思うんですね。つまり今というのはウクライナ戦争が行われていて、日本はそれにもう全面的に反対をしている立場です。
つまりウクライナ戦争が明確な形で終わって、我々が支援しているウクライナにとっていい形で終わらない限りは、つまり日本が納得するようでない限りですね、首脳外交、経済協力、政治的正常化、これ急ぐべきではないと思います。うん。外交を実務接触は維持する、首脳外交はダメだよっていう。はい。ここは非常に大きなメッセージになってしまうと思うんですね。なので、実務関係に首相は必要ないかなというところは強く思います。うん。
なるほど。そして最も重要というのが何ですか?はい。対話をですね、ロシアに日本の譲歩であるという風に誤認させないことですね。うん。関係っていうのは、ある意味ある程度の対話は含んでいくわけですけども、これは実務関係の維持のためにやっていることですが、それが日本がロシアにすり寄ってきたみたいな間違ったメッセージにならないように、やはりこう厳格な立場で、ここまでは話しますよ、でもこれ以上は進みませんよという立場は、ずっとこう明確に示し続ける必要があるという風に思います。
将来どうなってくか全然わからないんですけど、これプーチンが例えばいなくなったら北方領土交渉ってまた動くのかなとか、そういうのはどう思われますか?可能性としてはあると思うんですね。で、やはりロシアもこれまで、大統領によって若干姿勢が変わってきたような時がありまして、特に北方領土の返還が1番近づいたのっていうのはやはりエリツィン時代だと思うんですけれども、あの時はその大統領のキャラクターということ以前に、ロシア経済が史上最悪になってしまったっていうことがあって、で、日本にこの北方領土を返還して、日本から援助をもらうっていう選択肢を、相当現実的に考えた可能性があってですね。
はい。私実は2018年に北方領土のあの島に行ってるんですけれども、その時に島の少なくとも3人ぐらいの方に聞いた話なんですけれども、実は1994年に北海道東方沖地震っていうのがありまして、その震源地がもうほぼ北方領土で、非常に甚大な被害があったんです。はい。で、しかしロシアはその頃経済的に1番ボロボロの時期で、何もできない?復興できないって思ったんですね、エリツィンが。
で、なので、島民を、ちょうど地震で混乱になってしまっている時期ということもあって、島民を全部本土に連れてきて空っぽにしてしまって、やはり日本返還ってことになれば島民の問題って非常に困難なわけなんですけども、空っぽにしたところで日本に返して、それでついでに援助をもらったらいいんじゃないかってことをエリツィンは考えてですね。で、実際に1度完全に北方領土を空っぽにしたんですよ。1回。1回空っぽにして、ボルゴグラードとかカリーニングラードとか、ロシアが人口を増やしたいところに家を作って、全員そこに移住させてるんですね。
はいはいはいはい。でなんですけれども、やはりロシアの保守派が日本への返還に反対をしていた。うん。それに住民がどんどんどんどん北方領土に帰ってしまって、それがダメになってしまったっていうことなんですけども、実際に当時ですねエリツィン大統領から家をもらったっていう人に複数会ってまして、彼らはその家を未だに持っていて、例えば元島民だった人同士結婚したら、例えば一家族でも2つそういう家があったりして、別荘として、例えばちょうど話した方がですね、今も私のお母さんと娘がそのボルゴグラードの家に行ってるわよみたいなことを話してくださった方もいて、なので本当にそういうアクションが起こりかけてたってことなんですよね。
なので今後もですね、ロシアの経済状況がものすごく悪くなって、プーチン大統領ではないもうちょっと融和的な大統領だったりすれば、可能性はゼロではないのではないかと。うん。で、もちろんさっきも言ったように憲法で割譲できないわけですけれども、ちょっとその国境確定みたいなとこでこう組めればですね、交渉の可能性もあるんじゃないかと思うんですよね。
これでも今、先ほど中国とロシアが手を組み始めたっていうところあるじゃないですか。日本にとって結構1番これ怖い状況になってますよね。まさにその通りです。今からが1番時代的に大変なんじゃないかっていう感じがしますけど。うん。本当にその通りであって、今中露が完全にこの対日で共闘してしまってるんですよね。ですのでロシアとのこの領土交渉となれば当然中国が妨害してくると思います。ですのでそういう意味では非常に厄介な局面が生まれてきておりまして、プーチンだけでなく、中国も相手にしていかなければいけないということにはなってると思いますね。
うん。なるほど。あと今これプーチンから見た時に日本の、なんですかね、こう弱点というか、突かれやすい場所ってどんなところになってるんですか?やはり今の日本っていうのがやはりまずこのアメリカに非常に依存していて、で、このアメリカの顔色を見ている国っていうイメージがあると思うんですね。はい。なので逆に言うと非常に読み取りにくい国っていう風に考えている可能性があって、そういうところで実はこれ、最近に始まったことではなくて2016年ぐらいから言ってるわけですけども、北方領土の交渉をするには日米同盟を解消しなければいけないであるとか、米軍が北方領土に絶対基地を作らないという事前の安心がなければ我々交渉できないみたいなことを言ってるわけで、うん、日米同盟っていうのがロシアからすると1番突きやすい弱点になってくるのではないかと思います。
いや、もう今完全にその北方領土ってロシアだけとの問題だと思ったら中国も出てきて、そもそも後ろに日米同盟があるからってなってくると、なんか本当にいろんなパズルがどうはまっていくのかで全く物事変わってきそうですね。これは。全くその通りですね。
今日は廣瀬先生にこの『狭間国家の地政学』という本を題材にしながら、プーチン大統領の択捉島訪問について聞いてまいりました。また進展があった時に廣瀬先生にお話をお伺いしたいと思うんですけど、よろしいですか?面白いんです。よろしくお願いいたします。はい、分かりました。ここまで廣瀬先生にお話を伺いました。ありがとうございました。ありがとうございました。
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