茅野しのぶが語る「偉い人を動かす」仕事術と、秋元康から受け取った言葉

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概要

AKB48などの衣装を手がけてきた衣装デザイナーの茅野しのぶさんは、若い頃から秋元康さんの隣で仕事をし、年上の男性が多い現場で意見を通してきた。インタビュアーのおうみゆかさんは、自分も今「いつまでも小娘が」と見られる感覚が抜けないと打ち明け、どうすれば年上の相手と対等になり、話を聞いてもらえるのかを尋ねた。茅野さんは、自分の体験から具体的なコミュニケーションの方法を語り、秋元さんとのやり取りや、秋元さんから受け取った言葉を紹介した。

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力を入れるほど相手は頑なになる

茅野さん自身も、かつてはあれこれと必死に主張していた。ところがあるとき、力を入れれば入れるほど相手が頑なになることに気づいたという。相手は自分より年上で、それぞれのキャリアを積んできた人たちであり、プライドが強い。そのプライドは絶対に傷つけてはいけない、と茅野さんは考えるようになった。

そこでまず、否定から入るのをやめた。お世辞というわけではないが、「ここ良かったですよね」と相手の仕事を評価して場をほぐしてから本題に入る。「こうだと私は思うし、こうなんです」と言い切ると、たいてい否定されてしまう。そのため、「こういうことがあって、私はこう思ったんですけど、どう思いますか」と、逆に相手に意見を言ってもらう形に変えた。

この方法の狙いは、相手が何を考えているかを知ることにある。茅野さんによれば、誰にでも「ここまでは歩み寄ってもよい」「ここは譲れない」という線がある。その線を探るためにも、相手自身に語ってもらうほうがよい。相手の答えを受けて「なるほど、そういう考えもあるんですね。じゃあ例えば」と続け、自分が考えていた案のほうへ話を誘導していく。茅野さんは、性格が悪く聞こえるかもしれないと断ったうえで、相手より一枚も二枚も上手でなければならないと語った。こうしたやり取りを続けると、相手は「そこまで言うなら任せてみるか」という気持ちになることが多いという。

説得の材料には事実も使う。ファンが実際にこう言っていた、いま世間でこういうものが流行っている、といった情報を交えて議論する。プライドは傷つけていないので、相手も歩み寄ってよいという気持ちになってくれる、と茅野さんは説明した。

情熱が入ったものはうまくいく

茅野さんは「極論」と前置きしたうえで、誰かの情熱が入ったものは結局うまくいくと考えている。惰性や折衷で作られ、誰の情熱も入っていないものは頓挫したり、話題にならなかったりする。だからこそ自分が情熱を持って考えた内容を、アイドル本人にも理由を添えて伝える。「こういう理由でこういう演出にしたから、みんなにもこういう気持ちでいてほしい」と伝えるとメンバーが納得し、演者の情熱が観客にも届き、それが返ってくることもあるという。

「こじはる理論」――最後に必ず感謝を言う

茅野さんが「こじはる理論」と呼んでいるものがある。小嶋陽菜さんは、何かしてくれた人に最後は必ず「助かった、ありがとう」と言うのだという。茅野さんはこれにならい、その場では本心から感謝していなくても、最後には「今日は話を聞いてくださってありがとうございました。頑張るので、何かあったときはよろしくお願いします」と伝えるようにしている。

おうみさんがこれを「実際は上手に立たなければいけないけれど、態度は下に」とまとめると、茅野さんは、「こいつは敵じゃない」と思ってもらうことが大事だと応じた。茅野さんの見立てでは、上の世代の人たちは戦う選手のように仕事をしてきており、自分の実績に誇りがあるので、若い人から言われたくないという気持ちが強い。だから尊敬していることはきちんと示し、そのうえで「一歩先の面白いことをしませんか」という持ちかけ方をするのがよいという。

話題を一瞬ずらすのも有効だという。「このあいだのあれ、めっちゃ良かったですよ」と言い、「お前、適当なこと言ってないか」と返されたら「言ってないですよ、私嘘ついたことないですから」と軽口で返す。茅野さんは、年上には少し軽く、年下には丁寧に話すほうが効くと考えている。おうみさんについても、明るいキャラクターなので軽口のほうが可愛がられるタイプだろうと話した。20歳ほど上の人たちと長年仕事をしてきた経験から、可愛げや感謝の気持ちも大事だという。

目的は3割達成できればいい

茅野さんは、本来の目的の3割が達成できればよいと考えている。全部を変えようとしても無理だが、言ったことの3割ほどを相手が理解してくれれば、少しは変えられるし、その話は相手の中に残る。すると後日、相手の方から「このあいだ言っていたことだけど、こうすればいいわけ?」と持ちかけてくることがある。そのときは「それ、めっちゃいいと思います」と応じる。反応にも緩急をつけ、少しためてから「最高」と言うなど、足し算と引き算が重要だと語った。

秋元康さんには「借金取り」のように連絡する

こうした姿勢は秋元さんに対しても同じだという。茅野さんはデザインの催促のために、借金取りかと思うほど秋元さんに連絡する。一度送って返事がなければ、ピンとくるものがなかったのだろうと考え、書き足したものを続けて送る。それでも反応が薄ければ「こういう流れでこうしたんですけど、解釈が違いますか」と聞く。そうすると、さすがに返事が来るという。

例として挙げたのが「根も葉もRumor」の衣装だ。すごく格好いいダンスナンバーだったため、茅野さんは格好いい衣装案をどんどん送った。秋元さんからは、しのぶが格好いいものをやりたいのは分かるし、いまK-POPなどでそういう流れがあり、ファッションとしても流行っているのだろう、という返事が来た。そのうえで、AKBはそうじゃない、頑張っている姿や泥臭いところがAKBの良さであり、そういう衣装はAKBでなくても着られる、と言われた。茅野さんが「ではどういうのがいいでしょう」と食い下がると、高校の子たちと一緒に踊るのだから、三重高校との一体感が感じられる制服スタイルがいいのではないか、という提案が返ってきた。

おうみさんが「付き合っているのかというくらいのラリー」と驚くと、茅野さんは、周りの人からは「グイグイ行くね」と言われるが、秋元さん本人はグイグイ来るのが嫌だとは一度も言っていないと話す。だから、そこは鈍感にどんどん行ったほうがよいと考えている。

否定せず、問いかけで提案を引き出す

ただ、この件には茅野さんにとって引っかかる点もあった。これまでずっと制服衣装を作ってきたので、また制服かと思ったのだ。本来なら「今まで作ったことがあるし、似てしまいますよね」と言いたいところだが、それでは秋元さんが出してくれたアイデアを否定することになる。秋元さんにはクリエイターとしての意図があり、泥臭さや同じ学校の制服らしさが欲しいという理由も聞いている。

そこで茅野さんは、「何かギミックをつけたほうがいいですかね」「ポイントがあったほうがいいですかね」と、いくつかの例を挙げながら問いかけた。すると秋元さんは、AKBは団体芸だが一人ひとりの個性があったほうがいい、例えば誰か一人がマスクをしているとか、と提案した。アイドルが顔を隠していいのかと茅野さんはとても驚いたが、秋元さんはマスクをしている理由まで書いて送ってきた。結果は秋元さんの言った通りになった。マスクをしていた大西桃香さんが話題になり、なぜこの子はマスクをしているのかと多くの人が検索した。調べるととても可愛い子が出てくる、という流れが生まれたという。

茅野さんは、上の人ほど勢いと気軽さで接するのがよいが、敬意は言葉遣いも含めてきちんと持っていると強調した。ただし、秋元さんはいい人なので、これは「いい人パターン」であり、癖のあるタイプにはまったく違う対応が必要だろうとも付け加えた。

なぜ秋元さんは若い茅野さんの話を聞いたのか

秋元さんがなぜ若い茅野さんに目をかけたのかと問われると、茅野さんは目をかけていたわけではないと思う、と答えた。情熱があり、グイグイ来る面白いやつだと思ってくれたのではないか、というのが本人の推測だ。昔秋元さんから言われた話として、秋元さんの周りの人たちは秋元さんと一緒に年を取ってきていて、若い人はそれほどいなかった。だから新鮮だったのかもしれない、運が良かったのだと思う、と茅野さんは語った。

もう一つの理由として、茅野さんは秋元さんがいい意味で変わった人だと話す。何者でもない人の話をよく聞くのだという。

総選挙と「ポニーテールとシュシュ」の誕生

その例が「AKB48選抜総選挙」の誕生だ。劇場に秋元さんが来たとき、ファンが「お前が選んだ選抜はねえんだよ」「俺が選んだほうがいい」とクレームをつけた。その一言から、それなら群衆に選んでもらおうと生まれたのが総選挙だったという。ちょうど世間で「解散選挙」という言葉が使われていた時期でもあり、茅野さんは、秋元さんは時代の流れを感じながら人の声に耳を傾ける人だと評した。

「ポニーテールとシュシュ」にまつわる話もある。秋元さんから突然電話がかかってきて、女の子がポニーテールをするときに根元につけるアクセサリーは何と言うのかと聞かれた。「シュシュですか」と答えると、「そうだそうだ、ありがとう」と言って電話が切れ、その後出来上がってきたのが「ポニーテールとシュシュ」だった。誰に聞いてもよさそうなことをわざわざ聞いてくるのだという。

「3倍の汗をかけ」と叱られたシュシュのグッズ

秋元さんはいい意味で厳しく教えてくれる人でもあった。シュシュをグッズとして販売することになったとき、担当者が押しの強い人で、茅野さんは言われるままに「分かりました」と応じた。デザインもその担当者が懇意にしているデザイナーが手がけた。秋元さんのチェックの段階で茅野さんは呼び出され、少し怒った様子で、しのぶが監修すると言うから任せたつもりだったが違うのか、と聞かれた。

茅野さんは迷った。実際には監修していなかったが、その場には担当者の上司もいて、言い方が難しい。結局、「すみません、お任せしてしまいました」と答えた。すると秋元さんに、物販のシュシュ一つをとっても、これはお前の作品になるんだ、それでいいのか、と言われた。茅野さんはやり直し、自分でデザインし、生地も選んだという。

そのとき秋元さんからは、クリエイターなら信念とこだわりを持て、とも言われた。人に物を買わせるのは本当に大変で、片手間で作ったものを誰が欲しいと思うのか。ファンはそんなに甘くない。人に涙を流させたいなら、クリエイターはその3倍の汗をかかなければならない。それができないならいいクリエイターにはなれない。茅野さんによれば、秋元さんは冷静にそう叱ったという。

秋元さんは「私の人生のプロデューサー」

おうみさんは、秋元さんと茅野さんの人柄に重なる部分があると感じたと話す。誰に対しても分け隔てなく話を聞く姿勢や、ファンからもらった言葉を自分で解釈し、それを大きく世に出す力がそうだという。茅野さんは「育てられてますからね」と応じた。

茅野さんから見ると、秋元康という名前が一人歩きしすぎていて、周りは気を使って本音で話せなくなっている。間に入った人が秋元さんの言葉として伝え直すことで、話がややこしくなることもあるのではないか、と茅野さんは考えている。茅野さん自身は本人と恋バナをすることもあり、秋元さんは「よく分からない恋愛」の話も聞いてくれるという。厳しいことも多く言われたが、女性アイドルグループのプロデューサーであると同時に、自分にとってもプロデューサーだった。一番悩んでいたときに唯一の味方でいてくれた人だと感じており、自分もそうなりたいと語った。

「助けて」と言えること、7人の侍を作ること

茅野さんは、クリエイターは感受性が豊かで、自分の考えやアイデアがそのまま作品に出て評価される仕事なので、悩む人が多いと話す。そのうえで、「助けて」と言うことが重要かもしれないと付け加えた。真面目で頑張り屋の人ほど、自分で全部答えを出さなければと思いがちだが、どんなに優秀な人でも一人の力には限界がある。

若い頃、茅野さんは秋元さんから「7人の侍を作れ」と言われた。自分がやりたい事業やことに力を貸してくれる7人を作れ、という意味だ。「1人もいないんですけど」と返すと、それを何十年かけて作るんだと言われた。いまは7人以上できたので、いろいろなことができると思う、と茅野さんは話す。

部下にはよく「私はエスパーじゃない」と伝えているという。察する力が鋭いとは限らないので、いま辛く感じていること、挑戦したいこと、変えたいことを言ってほしい。言ってもらえれば何かしら答えを出せるが、言われないまま溜め込まれ、「もう無理です」という状態になってからでは何もしてあげられない。だから、言える環境のある会社作りを目指しているという。

成功するかではなく、頑張れる道を選ぶ

インタビューの途中でおうみさんは涙を見せ、茅野さんはそれを少し嬉しい、みんな同じことで悩むのだと受け止めた。うまくいくかどうかは、その時点では占い師でもない限り誰にも分からない。成功するかどうかで考えると必ず迷いが出るので、楽しめる道、頑張れる道を選ぶしかない、と茅野さんは話す。そこに、自分はこういうことで褒められやすい、評価されやすいといった、信じるに値する情報が加われば、その道を選ぶ根拠になるという。

茅野さん自身も、衣装で本を出せるとは思っていなかった。1月5日から大阪で衣装展を開いたところ、会場がいっぱいになるほどファンが来てくれて、そんなに来てくれるとは思っていなかったと振り返る。過去を振り返って言えるのは、いい加減な仕事、「これでいいか」と済ませた仕事は一度もしていないという自信があることだ。

当時は先のことは分からなかった。「お前の方が偉くなれ」と言われても、相手だって偉くなっていくのだから無理だと思っていた。それでも、耳を傾けてもらえる存在にはなろうとそのとき決めた、と茅野さんは語った。

結び――悩んだ先の「プラス思考」

収録の最後には茅野さんの親友が登場した。茅野さんが、彼女もいろいろ悩んできて今があると紹介すると、親友は「悩んだってしょうがないね」と一言。茅野さんは、こうして見えても自分にもマイナス思考になるときがあると明かし、とてもプラス思考な人を近くに置くのはいいと思う、と話して対談を終えた。