「コミュ力は後天的に伸ばせる」元銀行員・樋熊晃規さんが語る守りのスキルと相手に合わせる努力

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概要

YouTubeチャンネル「ぼくひぐま。〜おとなの学びや〜」を運営する元三井住友銀行の樋熊晃規さん(38歳)が、新R25の対談企画で、営業職から人事へ移る若手ビジネスパーソンのあかねさんのキャリア相談に応じた。話題は、社内調整のような「守りのスキル」の位置づけ、スペシャリストとゼネラリストの選択、AI時代に残る対人スキル、Z世代との付き合い方まで広がった。樋熊さんの主張は一貫している。地味な土台を固めた人に大きなチャンスが回ってくる。コミュニケーションは才能ではなく、相手に合わせようとする努力で伸ばせる。

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社内調整は「あって当たり前」の守りのスキル

あかねさんは営業を3年経験しており、担当した顧客は大企業から従業員数の少ない会社まで幅広い。樋熊さんは、交渉力や対人スキル、顧客規模の幅は一つの武器になると評価した。一方、あかねさんが事前に送った文章で挙げていた「社内調整スキル」については、「守りのスキル」であり、あって当たり前のものだと位置づけた。

この考え方の原点は、銀行に入って最初の部署にいた、樋熊さんいわく「めちゃくちゃ怖い」関西出身の部長の言葉だという。樋熊さんと「ハムスターみたいな」同期の2人が呼ばれ、「お前ら営業したいと思ってるやろ。まだできてないやろ。ええんや、今は守りを学ぶ時期なんや」と言われた。銀行でいう守りとは、稟議や、稟議の承認を得るまでの立ち回り、決裁者が判断しやすいエビデンスの準備などを指す。守りを徹底して初めて攻めができるようになる、というのが部長の教えだった。

樋熊さんによれば、守りの部分は職務経歴書には書かないものだ。それでも、守りのスキルがない人は攻めのスキルもあまり開花しない印象があるという。同じ会社で同じ仕事を5年続けた2人を比べると、守りがうまい人のほうが5年後に良い経験をしているはずだと樋熊さんは言う。企業から見てリスクが小さいので、チャンスを多く与えられるからだ。守りを続けていると人間関係や業務フローへの理解が深まり、先に押さえるべきところを頭の中で組み立てられるようになる。仕事が円滑に回るようになって初めて、新しい能力開発、つまり職務経歴書に書ける攻めの要素が増えていく、というのが樋熊さんの見立てだ。

聞き手は、ベンチャーは守りを飛ばしがちで、新卒で大手に入るメリットは守りを鍛えられる点にあるのではないかと受けた。樋熊さんも、最初が銀行でよかったのはリスクへのアンテナが高くなったことだと話す。YouTubeで話していても、ここだけは踏み外してはいけないという「地雷原」には絶対に入らないという。聞き手が「Twitterではギリギリを攻めている」と茶化す場面もあった。

面倒な調整が増えるのは仕事が大きくなった証拠

樋熊さんは、守りを「面倒だから組織は嫌いだ」と切り捨てる人がいることにも触れた。これは好き嫌いの話ではなく、当たり前にやっておくべきものだという。その土台があるから、クリエイティブな仕事がやりやすくなり、自分から手も挙げやすくなる。守りや人間関係の立ち回りが「ガバガバ」な人が目を輝かせて新しい提案をしても、その場で一蹴されるだけだと樋熊さんは笑いを交えて語った。

新しいことをやろうとすると、根回しや調整業務はむしろ増える。守りと攻めはどちらか一方ではなく、守りを磨き続けるから新しいことができる、という関係だ。仕事が大きくなるほど調整相手は偉くなり、必要な判子の数も増える。樋熊さんはこれを、面倒ではあっても、職務経歴書に書ける材料が増えることに近いと捉えている。

例として挙げたのは銀行の決裁の仕組みだ。最初は支店内で完結する部長決裁があり、案件が重くなるにつれて役員決裁、さらに常務や専務へと決裁者が上がっていく。樋熊さんが表彰を受けた案件は役員のかなり上のほうまで上がった。当時は「死ぬほど面倒」で、上司も過敏になっていたという。それでも振り返れば、大きな仕事をしていたから巻き込む人や社内調整の範囲が広がっただけであり、それをやらなければ良い仕事はできなかった。樋熊さんはあかねさんに対し、上司や先輩がマネジメント側に回るほど社内調整が増えるのは、組織へのインパクトの範囲が広がっているからで、そこはまだ見えていない部分かもしれないと伝えた。

ゼネラリストの中でスペシャリストになる

聞き手は、生成AIの時代にスペシャリストとゼネラリストのどちらを目指すかという議論を持ち出した。あかねさんの答えは「正直悩んでいる」だった。今の会社が好きで辞めたくない一方、人に携わる仕事にやりがいを感じており、人事の道に進みたい気持ちもある。まずは1年やってみて判断するつもりだという。

樋熊さんは、日本の大企業はゼネラリストを育てがちだと言われるが、その中にもスペシャリストのような人はたくさんいると指摘する。ジョブローテーションの中で「こいつの適性はこれだ」と判断されれば、組織は必ずそこに残す。樋熊さん自身、営業で結果を出していたので、急に目をキラキラさせて「マーケティングをやりたい」と言っても「お前はマーケじゃないぞ」と言われただろうと話す。

あかねさんの場合も、新しい人事の領域で結果を出せば、次はグループ会社を横断的に見る、採用窓口も担当する、といった形で人事の中でのローテーションが起きるかもしれない。それが巡り巡ってスペシャリスト化につながる、と樋熊さんは見る。ジョブローテーションは否定的に捉えられがちだが、いろいろ経験して一つでも自分にはまる仕事が見つかれば幸せだという考えだ。

対照的な例として挙げたのが、職種を決めて採用される場合だ。システムエンジニア採用のように最初から職種が固定されていると、合わないと感じたときの選択肢は転職しかない。樋熊さんのもとにも、文系でSEになったが営業をしたくなかった、やってみたら向いていなかった、社内にローテーションも公募もないので転職しかない、という相談がよく来るという。

さらに樋熊さんは、会社で活躍しておけばたいていのわがままは通ると話す。結果を残し、会社にとって必要な人材になれば、次の異動で「嫌です」と言える。人事の中でこれをやりたい、組織についてこれをやりたいという希望も聞いてもらえるようになる。ゼネラリストとしてスタートしても、社内のスペシャリストになっていく。キャリアはそうやって築かれるのではないか、というのが樋熊さんの考えだ。

ライフステージに合わせて働き方を微調整する

仕事以外の希望を聞かれたあかねさんは、「いいママになりたい」と答えた。だからこそ転職で失敗するのが怖いという。新卒時に「全国どこでも行けます」と言って地方に配属され、結局無理だったという人も多い。会話では、広島で1年半、鳥取で1年という地方勤務の経験談も出て、鳥取に初めてスターバックスができたときに行列ができた話や、休日は麻雀か温泉くらいしかないという話で笑いが起きた。

あかねさんは、ベンチャーに行ったとしても、結婚や出産があったときにそれでよいのかという不安があり、ベンチャーを検討できていないとも話した。樋熊さんは、大手には安心感と安定感があると認めたうえで、子どもを考えるなら人生の優先順位は変わり、自分のやりたい仕事よりも子育てに使える制度の有無が重要になると述べた。ライフイベントやライフステージによって価値観は変わっていく。それに合わせて微調整するのが転職活動の一つのあり方ではないか、というのが樋熊さんの考えだ。

聞き手が「ライフプランに応じて手持ちのカードを増やし、どれを引くか選ぶということか」とまとめると、樋熊さんは同意した。そのうえで、常に選ぶ側にいなければならないので、仕事は頑張っておいたほうがいいと付け加えた。

AI時代に残るのは「人間関係がまともな人」

AIについて樋熊さんは、正直どう進化するかはよく分からないと前置きした。そのうえで、業務が効率化されればまた新しい業務が出てくるはずで、最終的には人間関係がまともな人が生き残るだろうと語った。人間関係も仕事だ、という考えである。

聞き手は、以前「年収チャンネル」の株本さんにインタビューした際にも同じ話が出たと紹介した。株本さんは、会社員とフリーランスの違いについて、会社員は首を切られるまでの猶予が長いだけで、いらない人はどちらでもいらないと話していたという。また、対人コミュニケーションがうまい人のほうが営業でうまくいくことが多く、AI時代には人と接する仕事がより求められる一方、室内でパソコンに向かう仕事は代替されていく、という趣旨の話もあったという。

では営業が有利なのか、陽キャが強いのか。この問いに樋熊さんは、喋りがうまいことと営業が得意なことは違うと答えた。スキルには先天的なものと後天的に伸ばせるものがあり、喋りや営業は後天的に開発できるスキルだというのが樋熊さんの立場だ。

20歳まで話せなかった樋熊さんの「強制イベント」

樋熊さんは、自分の喋りも後天的に伸びたものだと明かす。20歳までは女性経験がなく、「コミュ力は終わっていた」という。20歳を過ぎた頃にスポーツ施設でアルバイトを始めると、ギャルっぽい年上女性のインストラクターから「全員に話しかけろ」と命じられた。おじいさんやおばあさん、若い男女を問わず、毎日必ず全員に声をかける。本人はとても嫌だったが、インストラクターがずっと見ているのでやるしかなかった。

この「強制イベント」を続けるうちに、話すことへの抵抗感が薄れていった。次の段階では、相手が興味を持っていることを調べてから話しかけるようになった。樋熊さんはこれを、能力開発を段階的に進めた例として語っている。

語彙力の幅が話のうまさをつくる

自分の話し方をさらに分解すると、語彙力の幅が広いのだと樋熊さんは言う。読書が好きで、金融小説も漫画も読み、2ちゃんねるのまとめのような「くだらないもの」も大好きだという。本人の表現では「偏差値55から偏差値2まで大体いける」。

その幅があるので、年配の人や社長クラスとも話せるし、以前就活関係のアカウントを運営していたときには学生に刺さる話し方やネタも使えた。目の前の20代の相手に合わせるときも、語彙も話し方も全部変わるという。本を読む、いろいろな人と話す機会を増やす、自分の好み以外の領域を開拓する。そうすることで語彙や話題の範囲が広がり、例え話がうまくなると樋熊さんは語る。聞き手が「動画でも例え話が多い」と指摘すると、樋熊さんは、自分の動画には20代後半から30代が「それ分かる」と感じる小ネタが多く、それはその年代の知識や語彙の幅から来ていると自己分析した。

営業や社内コミュニケーションについて、樋熊さんは段階を分けて説明した。最初はメンタルの勝負だ。次に、営業にはある程度決まった「喋るパッケージ」があり、それはロープレなどで学習すれば身につく。その先で求められるのが自分らしさで、語彙の選択肢が広がるほど話がうまくなるという。

聞き手が、同世代や同じ肩書きの人とは話せても、異質な相手が来るとどうしていいか分からない人が多いのに、上にも下にも対応できるのはすごいと感心すると、樋熊さんは20代のときにできていたかは疑問だと答えた。38歳の「おじ」になって初めて、昭和のおじトークをしながら令和の女子高生の話もできるようになったという。例に出したのは「タピオカ」で、話題としてはもう古いと自分で笑っていた。YouTubeでは話すターゲットが決まっているので、その人たちに刺さりそうなエピソードやネタを選ぶ。営業でも社内コミュニケーションでも同じだという。

相手が楽しめるかどうかを根っこに置く

樋熊さんがコミュニケーションの根っこで大事にしているのは、相手がどうやったら楽しむかだ。ここでの「楽しむ」には、相手に分かりやすく伝わっているかどうかも含まれる。合コンで相手の知らない単語を連呼する人がたまにいるが、樋熊さんはそうした振る舞いを「本当にゴミ」と強い言葉で切り捨てた。専門学校卒の保育士が相手なら、銀行の話をするにもカタカナ語を使わず、面白く話す工夫をする。

会話では、銀行員時代の合コンで看護師を相手に部門の話をしてしまう例も笑い話として出た。「国際統括」や「リスク統括部」と言われても知っているわけがない、という話だ。樋熊さんは、相手に合わせたコミュニケーションには語彙力に加えて知識、つまり興味の範囲の広さが関わると整理した。

あかねさんが、社会人のコミュニケーション能力と学生のコミュニケーション能力の違いはそこにあるのかと問うと、樋熊さんは、一番大きいのは相手を楽しませよう、相手に合わせようという考え方が頭の片隅にあるかどうかだと答えた。会社のカラオケで自分の世代の曲しか歌わない人と、上司に合わせてサザンオールスターズを1曲用意しておく人の違いだ。Official髭男dismばかり歌っているのはだめ、という冗談も交えた。こうした合わせる努力の達人として、樋熊さんは「不適切かもしれないが」と断ったうえで、ガールズバーやキャバクラの女性スタッフの名前を挙げた。すごい人は相手を選ばずに会話を合わせられるという。

「おじカラオケ」はブームの2年後にやってくる

「絶対に滑らない」と前置きして樋熊さんが披露したのが、ガールズバーのカラオケの話だ。年を取ると人から相手にされなくなるので、自分に話しかけてくれる人を求めてガールズバーやキャバクラに行ってしまう、と樋熊さんは自虐的に語る。そこでおじさんが歌う曲はだいたい決まっていて、長く働いているスタッフはどんな曲でも歌える。そこに高い能力を感じるという。

一方で、おじさんたちも若い人に合わせようと「涙ぐましい努力」をしている。樋熊さんが「おじカラオケ」と呼ぶその選曲は、だいたいブームの2年後にやってくる。コロナ禍の前後には星野源の「恋」の空前のブームがあり、おじさんたちはこぞって「恋」を練習した。目の細い男性は全員「星野源」という箱に入れられ、樋熊さん自身も女性から「塩顔が好き」と言われがちだったという。その後はOfficial髭男dismの「Pretender」がブームになり、最近のおじさんの「最新曲」は「怪獣の花唄」だそうだ。聞き手は「確かに一個古い」と笑った。

ただし樋熊さんは、これは「いいおじさん」だと評価する。自分の歌いたい曲ではなく、みんなが盛り上がる曲を歌おうとしているからだ。樋熊さんはこの話を、相手のことを考えながらコミュニケーションできるかどうかが大切だという結論につなげた。社外だけでなく社内も含めて、人に興味を持ち、相手の立場や、どう振る舞えば相手が喜ぶかを想像しながら動ける人がAI時代に生き残るだろう、というのが樋熊さんの見立てである。

「人は簡単には変わらない」から優先順位をつける

人事に携わるあかねさんは、「なぜ私が合わせないといけないのか」「ほどほどに頑張ればいい」「なぜ私がその業務をしなければならないのか」という若手が増えていると感じており、自身も「最近の若い子」の一人だと断ったうえで、Z世代の傾向を尋ねた。

樋熊さんは「おじさんなのであまり分からない」と前置きしつつ、自己肯定感や自己評価の高い人がとても多いと感じていると答えた。原因についてはSNSの影響ではないかと推測する。どこかで聞いた話として、今は自分が気持ちいい情報だけを選んで見られる環境にあり、自分に肯定的な情報が入りやすい。売り手市場であることと、そうした情報の選び方が重なって、自己評価の高い人が増えているのではないか、という見方だ。

そのうえで樋熊さんは、そういう人は無視していいと言い切った。どうせ活躍しないからだという。ここで樋熊さんが持ち出したのが、上司の言葉で一番好きだという「人は簡単には変わらない」だ。社会人4年目くらいになると見えてくると思うが、怒られた後などに「明日から変わります」という顔をする人がいる。そういう人は次の日から3週間だけ生まれ変わり、そこから9割ほどは尻すぼみで元に戻っていく。樋熊さんは、継続することが一番難しいと語る。

だから組織に関わる立場では、大切にする人の優先順位を決めなければならない。言われたことや叱られたことを受け止めて改善し、それを継続できる人は伸びていくので、そういう人を大切にする。「私はこのやり方で」という一匹狼のような人を無理に変えようとする必要はなく、与える仕事の優先順位が変わるだけだという。成長していく人たちに自社でどう活躍してもらい、どう満足感を高めるかが、人事の大きな仕事のポイントになると樋熊さんは述べた。

あかねさんが「一人でも救える子は救わなければ、変えてあげなければと思っていた」と打ち明けると、樋熊さんは冗談めかして、そういう人を採用した側を詰めればいい、「取ったやつがバカでしょ問題」だと返した。あかねさんの役割は組織で活躍する人の満足感を上げることであり、問題のある人については「採用チームはどうなっているんだ」とぼやくくらいでちょうどいい、そのほうがやるべきことに集中できる、というのが樋熊さんの助言だ。

樋熊さんは自分自身にも変えられない部分はあると認めた。銀行時代は営業のような前向きの仕事が中心で、事務まわりは最初のうち後回しにしていた。そちらに意識を強く向けるようになってから守りが得意になったが、それは意識を改められたことと、自分が苦手な部分を自覚していたからできたことだという。できないままで直す気もない人もいて、そういう人は会社にとってリスクになってしまうと述べた。

あかねさんの結論と次の宿題

話を聞いたあかねさんは、せっかくもらったチャンスなので、まず人事で2〜3年頑張ってみると述べた。自分は守りが苦手だが、それも頑張るべきところだと思うので、守りを磨きつつ、攻めとして「人」のプロフェッショナルを目指したいという。樋熊さんは、チャンスをくれる会社はいい会社だと応じた。

最後に聞き手は、自分も雑談力や飲み会力に悩んでいると打ち明けた。身内だと話せるが、堅い場になると途端に話せなくなるという。次回はコミュニケーション術をテーマに樋熊さんにインタビューしたいと話し、樋熊さんは「(場を)転がすのは得意」と応じて、対談は終わった。