「オフになれない」過緊張の正体と対処法 精神科医・産業医の奥田弘美さんに聞く

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概要

仕事が終わって家に帰っても頭が仕事から離れず、うまく眠れない。新R25のインタビューで、著書『それ、すべて過緊張です。』を持つ精神科医・産業医の奥田弘美さんが、この「過緊張」という状態について話した。過緊張とは何か、なぜ起きるのか、どう休めばよいのか。奥田さんは、過緊張は誰にでも起こるもので、それ自体は病気ではないと言う。そのうえで、長く続くことが問題であり、睡眠と食事を土台にして自分の状態を日頃から確かめることが大切だと説明した。

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産業医は「働き続けてよいか」を判断する医師

最初に聞き手が尋ねたのは、「産業医」という仕事の中身だった。奥田さんによれば、産業医学を専門とする医師もいるが、現在は一定の研修を受ければどの医師でも産業医になれる。簡単に言うと、企業に出向いて従業員の心と体の健康をケアする「働く人のための内科」のような役割である。

普通の医師と違うのは、治療をしない点だ。ざっくりとした診断はつけるものの、医療機関ではないので、診断してすぐ治療するわけではない。産業医が判断するのは、その人がこのまま働いてよいか、残業や仕事量を減らして心身を休めながら働き続けられるか、それとも休む必要があるか、である。治療が必要な人は適切な医療機関に紹介し、受診を促す。健康診断の結果もすべて確認し、数値の悪い人は同じように医療機関につなぐ。奥田さんは現在、仕事の大半が産業医業務で、日々さまざまな会社を訪ねてビジネスパーソンの健康ケアにあたっているという。

過緊張とは「交感神経が過剰に緊張し続けている状態」

奥田さんによると、過緊張は正式には「交感神経系が過度に緊張している状態」を指し、病名ではない。

説明の前提は自律神経の仕組みだ。自律神経は、交感神経と副交感神経が車の両輪のようにバランスを取りながら、心拍、呼吸、血圧、気持ちの調整など、自分の意思では動かせない部分を調整している。交感神経は活動の神経で、「オンタイム」を担う。体も精神状態もほどよく緊張させ、脳を覚醒させて、仕事や活動に向いた状態をつくる。仕事中は筋肉がほどよく緊張し、血圧もやや上がるので、体がてきぱきと動く。副交感神経はその逆でリラックスを担い、夕方から夜にかけて優位になって眠りへ導く。

過緊張の人は、交感神経が異常に興奮したまま緊張が続く。本来なら夕方には副交感神経が優位になるはずなのに、交感神経が優位なままになり、オンとオフがうまく切り替わらない。

原因はストレス。問題は「続くこと」

切り替えがうまくいかなくなる原因を、奥田さんは一言で「ストレス」だと言う。日中に気になることやショックな出来事があった場合もあれば、ビジネスパーソンに多いのは、締め切りが迫っている、翌日にとても緊張する仕事が控えているといった状況である。家に帰っても仕事のことが頭から離れず、本来ならリラックスしたい時間にそわそわして、仕事のことばかり考えたり、場面が思い浮かんだりしてしまう。

聞き手も、インタビューの前日は翌日うまくいくか心配で、寝る前にいろいろ考えてしまい寝つきが悪くなると話した。大事な会議や商談の前日に眠れない人は多いのではないか、という問いに対して、奥田さんは、それは仕事のストレス度が高まっているからで、誰にでも起こることだと答えた。小さな子どもが明日の遠足が楽しみで眠れないのも一種の過緊張だという。

ただし、その状態が長く続くと、睡眠の質が落ちて短くなり、体の緊張が抜けないためにあちこちに不調が出てくる。疲れが取れず眠れない状態が続けば、メンタルにも影響が出ることが非常に多い。奥田さんは目安として「2週間前後」を挙げた。メンタルの病気では、眠れない状態や気分の落ち込みが2週間前後、あるいはそれ以上続いて日常生活に影響しているかどうかを判断の目安にすることが多い。そのくらいの期間過緊張が続くと、医療の手助けが必要になる人が一定数いるという。

チェックリストで分かった聞き手の「軽度の過緊張」

著書の26ページには、「本格的な過緊張」と「軽度の過緊張」の2種類のチェックリストが載っている。聞き手が実際に試したところ、本格的な過緊張の項目はあまり当てはまらなかったが、軽度の過緊張はほぼすべてにチェックがついた。とにかく忙しく時間に追われている気がしてそわそわする、以前より夢をよく見るようになり熟睡できない感じがする、家に帰っても仕事のことが浮かんでリラックスできない、といった項目である。

奥田さんはこの状態を体の面から説明した。緊張している状態は、体にとってエネルギーを使っている状態だ。一方、胃腸の動きは副交感神経が優位なときに活発になり、食欲が出て消化吸収も良くなる。リラックスできないと胃腸がしっかり働かない。そのため使うエネルギーのほうが多くなり、疲れが取れず、体がだるくなる。睡眠への影響も大きい。夢を見ること自体は悪くないが、頻繁に見て起きても覚えている、ふと目が覚めることが増えた、という場合は、睡眠が浅く質が落ちているサインだという。

奥田さんは、軽度の過緊張でも長く続いているなら要注意で、2週間前後続くようなら医療機関に行ってほしいと述べた。判断の分かれ目として挙げたのが週末の過ごし方である。平日はそうでも、土日にしっかり眠れてリラックスでき、疲れが取れているなら、まだよい。土日も眠れず、まったく疲れが取れずに疲労がたまっていくようなら要注意だという。

過緊張になりやすい5つのタイプ

過緊張になりやすい人の特徴として、奥田さんは著書で5つのタイプを挙げている。これは医学的な診断基準に基づくものではなく、精神科医・産業医としての経験から奥田さんが独自に考えた分類だと断ったうえで、次のように説明した。

  1. 完璧主義タイプ:何でも自分の目指す100%までやらないと気が済まず、人に任せられない。自分で全部やらないと不安になる。
  2. 真面目・頑固タイプ:手を抜いてよいところや、周りが軽くこなしているところでも力を抜けない。決められたルール通りにやらなければと自分を縛る。
  3. NOと言えない自己犠牲タイプ:本当は嫌で休みたいのに、頼まれると引き受けてしまい、大切なリラックスの時間を犠牲にする。人のために無理をしてしまう。
  4. せっかち・負けず嫌いタイプ:バリバリ働くビジネスパーソンに多い、いわゆる意識の高いタイプ。どんどんステップアップしたいので、本来は疲れを取るべき時間を勉強やセミナーに当て、脳と体を休める時間を削ってしまう。
  5. 心配性・気疲れタイプ:先々のことを心配し、楽観的より悲観的に考えて頭が心配でいっぱいになり、リラックスできない。

聞き手は自分には「NOと言えない自己犠牲タイプ」と「心配性・気疲れタイプ」が当てはまると感じ、日本人にはこうしたタイプが多いのではないかと尋ねた。奥田さんは、民族性としてよく挙げられることだと応じた。和を大切にするということは自己犠牲をしているということでもあり、小さい頃から「わがままを言ってはいけない」と育てられた人が多いので、欧米人に比べて自己主張が少ないと言われる、という見方である。本を出してから、当てはまるのが1つだけという人は本当に少なく、たいてい2つか3つを掛け持ちしているという。どれにも当てはまらないと言ったのは、本当にのんびりしたおおらかな女性1人だけだったそうだ。

スマホとSNSが「オフの時間」を侵食している

いつも仕事のことを考えているのは熱心で良いことにも見えるが、行き過ぎは良くないのか。この問いに奥田さんは、オンとオフの切り替えが非常に大事だと答えた。特に現代は、スマートフォンやインターネットの発達で、本来オフであるべき時間にオンの時間が入り込んでいると指摘する。

奥田さんは昭和の時代を引き合いに出した。当時はスマホもインターネットもメールもなく、帰宅後に外部から連絡が来る手段は電話と、途中から加わったファクスの2つだけだった。よほどの緊急事態でなければ仕事先から連絡が来ることはなく、あまり親しくない人と家で話すこともなかった。情報もテレビくらいからしか入らず、帰宅した時点で仕事から切り離されていたので、自然にオフに入りやすかったという。

今はSNSが多数あり、帰宅後に名前も知らない人と交流したり、ゲームをしたり、アバターで交流したりしている。奥田さんによれば、人間が最もリラックスできるのは、いつも一緒に暮らす家族といるとき(仲が悪い場合は別)か、1人でぼーっとしているときである。親しい人となら平気な人が多いが、知らない度合いが高い相手ほど人は緊張する。夜にSNSでコメントのやりとりをすると、緊張しながら書き込み、届いたコメントにまた緊張したり気分を害したりして、眠れなくなる人もいるという。

仕事でもメールやチャットが夜に届く人は多い。コロナ禍以降はリモートワークも広がり、外資系企業では海外とつないで夜中に会議をすることもある。奥田さんは、人間の体は本来、日中は交感神経を優位にして活発に動いてほどよく疲れ、日の入りとともにリラックスモードに入るようにできていると説明する。副交感神経が優位になって食事をゆったり食べ、しっかり消化し、血糖値が上がって眠くなり、お風呂にゆっくり入って良い睡眠に入る。このリズムが人間にとって一番良いのに、現代社会ではそれが崩れている。そのため誰でも過緊張になりやすく、マスコミのようにイレギュラーな出来事が多い仕事や、翌日に緊張する予定が頻繁にある人は特になりやすいのではないか、と奥田さんは述べた。

3つのR:まずは「レスト」、睡眠と食事が土台

過緊張から抜け出す方法として、著書では「3つのR」、つまりレスト(休息)、リラクゼーション、レクリエーションを紹介している。奥田さんによると、3つのRはストレス解消法として書籍などでもよく紹介されるものだ。レストは休息、リラクゼーションはゆったりとリラックスできる心地よいことをすること、レクリエーションはコンサートやスポーツ観戦、テーマパーク、一泊旅行などの気晴らしの行動を指す。

チェックリストに当てはまる人は、まずしっかり休む必要があるという。緊張が続いてエネルギーを使いすぎ、リラックスが足りずに体が疲れ切っているからだ。奥田さんが特に強調したのは睡眠である。人によって最適な睡眠時間は違うが、睡眠学では平均的に7時間ほどが良いとされていると説明した。人口の5%ほどにはショートスリーパーやロングスリーパーがいて、ショートスリーパーは4〜5時間で平気、ロングスリーパーは10時間ほど寝ないとすっきりしない人もいる。そうした人は7時間にこだわる必要はなく、要は自分に合った睡眠時間をしっかり取ることだという。寝る時間帯も、日中ではなく夜に寝始めて午前中に起きるのが望ましい。

奥田さんは、睡眠をしっかり取らなければ、次のリラクゼーションをいくらやってもリラックスできないと述べた。脳は寝ているときにしか休めず、人間の司令塔である脳を休ませる必要があるからだ。

もう一つの柱が食事である。食事と過緊張は関係ないように思えるかもしれないが、奥田さんによれば、セロトニンやドーパミンといった感情に関わる脳内物質は、すべて食事を原料に作られている。タンパク質、炭水化物、ビタミン・ミネラルを含む野菜類という「3色」で表されるようなバランスの良い食事を、過不足なく、ゆったり取ってほしいという。睡眠と食事の2つがすべての土台になる、というのが奥田さんの立場だ。

疲れているときはレクリエーションより「疲れないリラクゼーション」から

リラクゼーションやレクリエーションは休日に観光地へ出かけるような気晴らしのイメージだが、奥田さんは注意点を挙げた。過緊張の症状が出ているときは、レクリエーションでかえって疲れてしまうことがある。すでに疲れ気味でイエローサインが出ている状態なので、しっかり寝た翌日にいきなり一日中遠出すると、若い人なら出かけている間は楽しくても、帰宅後にどっと疲れが出る。

そこで、しっかり寝て食べてエネルギーが少し戻ってきたと感じたら、心身が疲れないリラクゼーションから始めてほしいという。好きな音楽を聴く、ソファにもたれて頭を使わない軽い本をぱらぱら読む、人混みより自然の多い場所をゆっくり散歩する、ヨガが好きならゆっくりやる。自分が慣れ親しんでいること、ふと「これをやりたい」と思い浮かんだことを、何にも縛られずにやるのがよいという。

慣れているかどうかは大事な基準だ。たとえば近くに行きつけのマッサージ店があるならおすすめだが、遠くの新しいサロンに行くのは、どちらかというとレクリエーションに近くなる。初めての人に会えばやはり緊張するからだ。疲れ具合に応じて決めればよく、レストだけで十分な人もいる。ソファでひたすらぼーっとしたいなら、それでもよい。3つのRといっても、1つだけでも構わないと奥田さんは言う。まずはレストが基本で、睡眠と食事を整え、ソファでごろごろしたり、日向ぼっこをしたり、ペットを抱いてくつろいだりするのでもよい。かなり元気になって気分転換したくなったら、体が疲れず翌日の仕事に響かない範囲で、アクティブに過ごしてもまったく問題ないという。

若いビジネスパーソンほど無理がきく落とし穴

奥田さんは、若いビジネスパーソンと話していると、体力があって無理がきくため、睡眠や食事をおろそかにしがちな人が多いと話す。1人暮らしだと、栄養バランスの悪い食事をしていることも多い。だからまず食事と睡眠を意識してほしいという。若ければ1日2日の無理は大丈夫だとしても、無理をしたら3日目はしっかり寝るなど、自分の体力に合わせて調整する。最低でも休日にはしっかり睡眠を取ってほしいと奥田さんは言う。週休1日の人もいるが、週1日の休みは法律で定められているので、その前日はしっかり寝る、食事を整えるなど、休日を疲れを取る日として使ってほしい。1週間のうち1〜2日きちんとリセットする日を設ければ、回復しやすいという。

奥田さんはこれを「健康リテラシー」の問題としても語った。若い頃から健康習慣を身につけておけば、年齢を重ねても体力が大きく落ちることはない。一方で健康リテラシーが低い人は、若い頃は持ちこたえても、40歳近くになって大きな病気をしたりメンタルを病んだりすることがあるという。

もう一つ大切なのが、過緊張を自覚することだ。自分を叩いて頑張り続けるのではなく、自分と対話し、「重い案件を任されて少し無理をしたから、今週末は予定を入れずに休もう」というふうに、疲労を調整できるようになるとよいと奥田さんは述べた。

過緊張は年齢を問わない。責任の重さや職場の人間関係も原因に

若い人のほうが過緊張を感じやすいのか、という問いに、奥田さんは年齢を問わないと答えた。30代・40代のいわゆる中間管理職は、プレッシャーがかかるうえに部下の面倒も見なければならず、非常に多い。その層を過ぎた人も、重責を担って頭を悩ませる対応を常に迫られていれば、なりやすい。現代人で過緊張になりにくいのは、本当に引退したシニア世代くらいではないか、と奥田さんは話した。

責任の重さや仕事量の多さに加えて、奥田さんは人間関係の悪い職場も挙げた。残業はそれほどなくても、精神的なストレスを常に受けてリラックスできず、びくびくしながら毎日を過ごしている人は、家に帰っても安心できない。パワハラやセクハラなどのハラスメントを受けている人も同じで、家でもそのことを考え続けてしまう。結局は一言で言えばストレスだという。

原因そのものに手を打つことと、ストレスチェック制度

奥田さんは、ストレスの原因が続いている限り、家でいくらリラックスしようとしても、職場に行けばまた過緊張になることの繰り返しになると指摘した。そのため、ある程度エネルギーが回復したら、原因を解消するための行動も必要だという。過度な責任や仕事量を慢性的に抱えている人なら、上司に相談して担当を減らしてもらう。フリーランスなら仕事を少し減らす期間を設ける。締め切りが迫っていて一時的に忙しいというのではなく、だらだらと続いている場合は、仕事のやり方や環境を見直したほうがよいかもしれないと述べた。

聞き手が、会社で定期的にプレッシャーの度合いを問うアンケートに答えていると話すと、奥田さんはストレスチェック制度について説明した。現在はストレスチェックが義務で、年に1回受ける必要がある。従業員50人以上の会社には、奥田さんのような産業医が月に1〜2回訪問しており、高ストレスと判定された人は希望すれば産業医と面談できる。50人未満の会社ではまだ努力義務だが、数年のうちに義務化される予定なので、奥田さんの見立てでは、数年後には働く人全員がストレスチェックを受けることになるという。

産業医に相談しなくても、ストレスチェックを自分のバロメーターとして活用すればよい。高ストレスで症状が続いているなら、メンタルクリニックなど適切な医療機関に相談して構わないし、いきなり医療機関に行くほどではないと感じるなら、カウンセリングを利用してもよいと奥田さんは述べた。

自分の状態を数字で確かめる「心の充電チェック」

最後に奥田さんが紹介したのは、以前から提案している「心の充電チェック」である。心が最高に元気なときを100%、疲れ果てて家から一歩も出られずベッドから起き上がれない状態を0%として、今の自分が何%かを常に確かめる方法だ。

奥田さんによると、疲れ気味の人は60%や50%と答えることが多い。100%のうち6割以下しか使えないのなら、どこかで疲れていたりストレスがかかっていたりするということなので、どうすれば上げられるかを考える。充電を上げるには、エネルギーを奪っているストレスの「蛇口」を締めるか、エネルギーを入れるしかない。まず睡眠と食事でエネルギーを十分に補いながら、ストレスの原因を突き止め、完全には締められなくても少しでも締める努力をする。そして充電の残量を自分で確かめて減らさないようにし、大きく減ってしまったときは休んだり、自分に優しくする時間を増やしたりする。こうしたメリハリをつけて心と体と対話し、自分で調整できるようになれば、ストレスに強いビジネスパーソンになれる、というのが奥田さんの結論だった。

聞き手は、自分も軽度とはいえ当てはまる部分が多かったとして、週に1回は自分の過緊張の状態と向き合う時間を取りたいと話し、インタビューを締めくくった。