「世界標準の英語はたどたどしい英語だ」:入山章栄さんが語るAI時代に英語を話す意味

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概要

新R25の渡辺りん太郎さんは、今年の初めに英語学習の習慣化を目標に掲げたが、最近はまったく続けられなくなったという。続かない原因は「なぜ英語を学ぶのか」「どこを目指せばいいのか」に自分で納得できていないことだと考えている。この2つの問いを、早稲田大学ビジネススクール教授で経営学者の入山章栄さんに尋ねたのが今回のインタビューである。入山さんの答えははっきりしている。AIで翻訳が進むほど、人と直接話すための英語の価値は上がる。そして目指すべき英語はネイティブのように流暢な英語ではなく、非ネイティブが話すたどたどしい英語だという。

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なお本動画は、スピーキング特化型の英語学習アプリ「スピフル」を提供する株式会社プログリットの提供で制作されており、後半では入山さんが実際にアプリを試している。

経歴:アメリカで10年、マニラとの二拠点生活

入山さんは三菱総合研究所を29歳で退社し、ピッツバーグ大学経営大学院で博士号(PhD)を取得した。その後は米国のビジネススクールで助教授を務め、実際に教壇に立っていた。帰国後も、妻が仕事でフィリピンに赴任していた時期があり、子どもも妻についていったため、入山さんは月の半分ほどをマニラで過ごす生活を2〜3年続けた。1年半ほど前に家族が帰国し、現在は家族4人で日本を拠点にしている。代表的な著書に『世界標準の経営理論』がある。

AIで誰でも取れる情報には価値がない

渡辺さんはまず、翻訳アプリやAIが発達するなかで、英語をどう学べばいいのかを尋ねた。入山さんは、翻訳機能の向上そのものは「めちゃくちゃいいこと」だと評価する。ポケトークのような端末があり、ZoomやGoogle Meetにも翻訳機能が入っていくはずなので、翻訳を介せば世界中の人とある程度コミュニケーションが取れるようになる、という見立てである。

ただし入山さんが強調するのはその先だ。AIがあれば、モンゴル語でもドイツ語でもロシア語でもフランス語でも、あらゆる言語の情報が日本語で手に入る。しかし誰でもアクセスできる情報は、誰でも取れるという理由で価値がなくなる。本当に価値がある情報は、現場に行き、狭いインナーコミュニティに入り、一緒にご飯を食べ、場合によっては酒を飲んで、ようやく出てくる話だという。入山さんは例として「実はあの会社を買収したいと思っている」といった類の話を挙げ、そうした情報はAIにもネットにも絶対に出てこないと述べる。渡辺さんも「一番貴重な情報はAIに食わせない」と応じた。

入山さんは、これからのAI・デジタル時代にビジネスの勝負を分けるのは、人と人が対面で「ここだけの話」をするインフォーマルコミュニケーションだと考えている。これは日本国内でも同じで、経営者や起業家と付き合うなかで、そうしたコミュニティがたくさんあるのを見てきたという。入山さん自身も学者ながらいくつかに入れてもらっており、そこではご飯を食べながら「この会社を買っちゃおうぜ」といった、外には絶対に出てこない話がされている。

国内市場が縮小する日本は世界を見ざるをえない。その際、ネット上の情報をAIで集めて知ったような顔で解説しても、誰でもアクセスできる以上は価値がない、と入山さんは言う。問題は、現地に行くか、海外から来た人と日本で仲良くなってから交わす話のほうであり、その場面ではZoomもポケトークも使えない。だからこそ下手な英語でもいいので信頼関係を作って話すことが重要で、この傾向は今後さらに極端になっていくと入山さんは見ている。インナーサークルに飛び込んで溶け込めば、たどたどしい英語でも向こうの人たちは受け入れてくれるという。

入山さん自身も「壁の花」だった

とはいえ、ネイティブ同士の輪に入っていくのは怖い。留学経験が2回ある渡辺さんもそう感じてきたと話し、その怖さをどう取り払えばいいかを尋ねた。

入山さんの答えは、自分も似たタイプだというものだった。渡辺さんは入山さんを、どんどん飛び込んでいく「陽キャ」だと思っていたそうだが、本人は「めちゃめちゃ苦手」だと否定する。20数年前にアメリカの博士課程に入ったとき、最初に入学パーティーがあった。世界中から来た頭の良さそうな学生たちが流暢に話すなか、入山さんは強い苦手意識から話せず、壁際で一人ワインを飲み、2時間のパーティーのうち1時間でいたたまれなくなって会場を出たという。

話せるようになったきっかけ:少人数ゼミと80回のリハーサル

では、どこで話せるようになったのか。入山さんは2つの環境を挙げる。1つ目は博士課程の授業である。修士課程と違い、博士課程は学生が4人ほどで、そこに教授が加わる。発言は必ず求められ、話せなければ無能だと思われて退学になる。そのため必死で話すしかなかった。

2つ目は授業を教える経験だ。ピッツバーグ大学の博士プログラムは5〜6年の課程で、2年目に厳しい試験を通過すると、3年目からは学部生に授業を教えなければならない。アメリカに来て大して話せないうちに、アメリカ人の学生を相手に教えることになる。入山さんはこれが非常にきつかったと振り返るが、そのぶん必死になった。1時間半ほどの授業のために、80回ほどリハーサルをしたという。その後の3年間も、授業前は毎回ひたすら練習した。

入山さんは、これは英語に限らず基本は練習だと強調し、自身のゼミ生にもよく話しているスティーブ・ジョブズの例を挙げた。Appleの新製品発表会でのジョブズのプレゼンは格好よかったが、ジョブズは何十回もリハーサルをしていた。だから本番であれだけ格好よく見える。ジョブズですらそうしているのに、一般人の自分たちがやらなくてどうするのか、という話である。

一番のポイントは「ビビらない」

話したいことがあるのに言葉が出てこない。この感覚がコミュニケーションを怖くさせるのではないかという渡辺さんの問いに対し、入山さんは、ボキャブラリーを増やす日々のトレーニングはもちろん大事だとしたうえで、一番のポイントは極めてシンプルで「ビビらない」ことだと答えた。

その根拠が、今回のテーマである「世界標準の英語」である。アメリカに10年いて国際学会にも出席し、現在も留学生と一緒に授業をしている入山さんは、世界で一番普及している英語は、ネイティブが映画で話すような流暢な英語ではないと断言する。世界で最も普及しているのは、英語が母語ではない、英語が下手な人がたどたどしく話す英語だというのである。アメリカ人は80億人のうち3億人ほどで、イギリスを加えても英語ネイティブは世界の一部にすぎず、ほとんどの人はネイティブではない。

入山さんの見方では、日本人は真面目なので、流暢でなければ話してはいけないという強迫観念がある。これは完璧主義から来るもので、根本的に間違っているという。そして、国際的な分野で活躍しているトップ人材は英語が下手だと述べる。

例に挙がったのが、ノーベル賞を受賞しカリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授を務める中村修二さんだ。入山さんがどこかで見た動画では、英語は「むちゃくちゃとは言わないけど、これでも通じちゃうんだ」というものだったという。また、経営学の世界トップクラスの学会に行くと、共通言語は英語だが、トップの研究者がスペイン出身だったりする。スペイン語なまりが強く、何を言っているのかと思うこともあるが、意味はなんとなく取れる。「そんなもん」だと入山さんは言う。

日本人英語の発音が下手だと指摘する風潮について、入山さんは、英語コンプレックスのある人がマウントを取りたくて言っているだけなので放っておけばいいと切り捨てる。日本で活躍するパックンやデーブ・スペクターも日本語は非常にうまいが、日本人と同じように話せているわけではない。そう考えれば、日本人がネイティブ並みを目指すのも無理がある。世界標準の英語はみんな下手で、中学・高校レベルの文法で十分であり、単語をつなぎ合わせて必死に意思疎通を図っていればそれでいい。問題は、日本人が「できるようになってから行こう」と考えて飛び込まないことで、そのままでは寿命が来てしまう、と入山さんは冗談交じりに語った。

日本の英語学習の問題は「話す量」が少ないこと

勉強しているのに話せない人が多い理由について、入山さんは「言うまでもない」としたうえで、話すことをやっていないからだと答える。読む・書く・聞く・話すの4技能のうち、日本の英語教育では話す機会だけが圧倒的に少ない。入山さんは「発話量が全て」だと言う。

さらに入山さんは、話すと聞く力も上がると説明する。少しずつでも話して言葉を自分のものにすると、「こういうときはこう言うのか」というボキャブラリーが増える。自分の発音はたどたどしくても、その表現が聞こえてきたときに意味がわかるようになる。英語で聞けるコンテンツはいくらでもあるが、量をいくら聞いても話せるようにならないのは、話していないからだという。

英検やTOEICのスコアについても、入山さんは悪いとは言わないとしつつ、自身の経験を語った。留学時に受けたTOEFLは、自慢ではないがほぼ満点だった。そうでなければアメリカの博士課程には入れなかったからだ。しかし、まったく話せなかった。その結果が先のパーティーでの経験である。試験は受験と同じで、必死に対策すれば点は取れるが、話す能力とは別物だと入山さんは言う。

授業を始めた当初も「ボロクソ」だったという。学生の評価は、内容は面白く頑張っているが、何を言っているのかわからない、というものだった。一人の時間の練習法を聞かれると、当時は何もなかったので、とにかく一人で話していたと答えた。キャンパスを散歩しながら、架空の相手に「ジェニファー、どう思う?」などと英語で話しかける。渡辺さんが「イマジナリーフレンド」と表現すると、入山さんはそれを認めた。必死だったので成長の実感はなかったが、続けるうちに一応通じるようになっていったという。今では帰国後も、英語で識者と対談してほしいという依頼が来るようになった。入山さんは、場数を踏むことに尽きるとまとめた。

スピフルの実演①:口頭英作文

ここからはプログリットの佐川さんが加わり、スピフルを紹介した。佐川さんはスピフルを「英語を話せるようになるための筋トレ」と表現する。AI英会話ではなくあくまでトレーニングであり、ビビらずに自信を持って英語を発話できるようにすることが目的だという。機能は「口頭英作文」と「独り言英会話」の2つで、英語の瞬発力と表現の幅を鍛える。

口頭英作文は、画面に出た日本語を瞬間的に英訳して発話するトレーニングで、日本語を英語にする過程で考える時間を極限まで減らし、自動化することを狙っている。「CEOが予算を承認しました」という問題に、入山さんは冠詞を落として「CEO approve budget」と答えたが、正解と判定された。入山さんは、細かい点を無視してくれるのがいいと評価し、「通じりゃいい」「細かい単語どうでもいい」と述べた。日本人には関係代名詞や過去完了といった「文法ドグマ」があるが、そこにとらわれる必要はないというのが入山さんの考えである。

続いて空港の入国手続きの場面では、「休暇で来ました」に対して入山さんは「I come for vacation」と答えた。解説ボタンを押すと、回答例の「I am here on vacation」との違いとして、入山さんの表現は今後の予定を暗に示すニュアンスがあり、回答例は今の状態を伝えている、という説明が表示された。入山さんは「20年ぐらい英語を使ってもこんなもん」と笑い、渡辺さんもこの違いは知らず勉強になったと話した。佐川さんによると、間違えた箇所だけを3〜5分の隙間時間で繰り返す復習機能もある。

入山さんはシーン別の練習を特に評価した。入国のように英語が苦手だと緊張する場面でも、出国直前に10分練習するだけで全然違うという。ここで入山さんは友人の話を持ち出した。新婚旅行で部屋にトラブルがあり、新妻の前で格好をつけてフロントに文句を言いたかったが話せず、ルームサービスを頼んだらカップラーメンが来た、というものである。

スピフルの実演②:1分間の独り言英会話

独り言英会話は、約1分間、スマートフォンに向かってテーマに沿って英語で話すトレーニングで、口頭英作文より実践的なものだと佐川さんは説明する。話す前には、日本語の箇条書きや英単語を並べて考えを整理するための「構成メモ」も使える。

入山さんはビジネスのテーマで、これからの人間のビジネスパーソンにとって最も重要なスキルは不確実性のなかで意思決定することであり、答えのあることはAIが答えられるので、人間がすべきは答えのないところで決断することだ、という趣旨の内容を英語で話した。

添削は数分で返ってくる。観点は、文法の修正、より相手に届きやすい表現の提案、そして全体の構成の3つである。構成については、日本語の語順で話して冗長になっている場合に、結論を先に述べて理由を展開したほうが伝わりやすい、といった指摘が入るという。

結果として、入山さんの発話速度は1分間に107語で、CEFRのB1レベル相当と表示された。入山さんは自分の発話の書き起こしを見て、文法は間違っているのにそこはOKにしてくれていると指摘した。改善箇所は3つで、それも文法というより、こう言ったほうが意味が通じやすいという実践的な指摘だったと評価した。

テーマは500以上あり、都会と田舎のどちらに住みたいかといったスモールトーク向けのものも含まれる。入山さんは、人間はその場その場で意外と同じことを話すことが多いので、話のオプションを「武器」としていくつか持っておけば、引き出しとして使えると話した。続ければ数十個は簡単に作れるという。

なぜ2つの機能に絞ったのか、どう続けるか

佐川さんによれば、プログリットはもともと英語コーチング事業から始まった会社で、累計2万5000人以上にコーチングを提供してきた。そのなかでスピーキングの伸びに最も寄与したのがこの2つのトレーニングだったため、切り出してアプリにしたという。理想の学習時間は1日30分で、口頭英作文20分、独り言英会話10分の割合が目安とされる。30分のなかでは、広く浅く触れるよりも3〜4レッスンを決めて繰り返したほうが定着しやすいという。入山さんも、上達の基本は反復練習であり、スポーツでも何でも同じだと応じた。

30分続けるのは大変だという渡辺さんに対し、入山さんはまずモチベーションが大事だとし、なぜ英語を学ぶのかについて必死になれる理由があることが一番だと述べた。そのうえで実践的には習慣化であり、習慣は既存の習慣に重ねるのが一番いいという。たとえば犬の散歩は毎日30分ほど必要だが、放っておくと不毛な時間になる。交通事故などに気をつけながら安全な場所でスピフルをやる。ウォーキングマシンの上でYouTubeを見る代わりに練習する。渡辺さんは、渋谷の職場へ向かう際に一駅手前の表参道で降りて歩いているので、その時間が使えるかもしれないと話した。

アプリ相手の練習について、入山さんは恥ずかしさがないことに加え、人間の講師は当たり外れが大きいという点を挙げた。基本的に褒めてくれて、改善点も「改善しましょう」という形で示されるので怖くない。それが自分の性格に合っており、自分はおそらく平均的なタイプだと思う、と述べた。良かった点としては、反応の速さ、回答と指摘の正確さとわかりやすさ、見やすいインターフェース、そして「英語は伝わればいい」という前提で作られていることを挙げた。佐川さんも、間違えるのが怖くて英語学習のハードルが上がりがちななかで、「これでもいい」と示すことは継続の面でも大事だと考えていると話した。

入山さんは、国際的な舞台で本格的に戦う場合はもう一段多くの練習が必要だとしつつ、シチュエーション別の練習を改めて評価した。場面を絞れば話す言葉の選択肢はそれほど多くなく、事前にわかっていれば練習できる。それを場面ごとに重ねていくと血肉になり、やがて突然の場面にも対応できるようになるという。

結び:AIがあるからこそ、雑談できる英語を

最後に、英語で世界に挑戦するのをためらっている若者へのメッセージを求められた入山さんは、AI翻訳があるから英語を話せなくてもいいという考えに対し、自分は逆だと思うと述べた。これからは日常的な会話をする能力、いわゆるソフトスキルが非常に重要になり、下手でもいいから他愛もない話ができる英語力が重要だという。

世界の人口が100億人に向かうなかで、日本は1億人の市場であり、世界の99%の人は海外にいる。海外に出ていく必要もあるし、海外から日本に来る人も大量に増えているので、コミュニケーションの場面は必ず出てくる、と入山さんは言う。世界標準の英語は非ネイティブの下手な英語で、相手もたいてい下手なのだから、恐れずに話せばいい。そのためには、シチュエーションごとに自分の引き出しを持っておくと楽になる。ハードルを低くして毎日少しずつ練習し、場面ごとの話すオプションを増やしていけばいいのではないか。入山さんはそう語って、インタビューを締めくくった。