衣装デザイナー茅野しのぶが語る「信頼される働き方」:嘘をつかず、先送りにせず、誰も軽んじない

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概要

AKB48の創設時から専属衣装デザイナーを務め、これまでに4万着以上の衣装を手がけてきた茅野しのぶさん。=LOVEやきつねダンスのコスチューム、学校制服のプロデュースも担当し、アイドルからも社内のスタッフからも慕われている。本動画では、アナウンサーとして活動してきた聞き手が「なぜこれほど信頼されるのか」を尋ねた。茅野さんが挙げたのは、デザインの技術ではなく、人との向き合い方に関する3つの原則だった。後半では、2025年のNHK紅白歌合戦でOGメンバーが着用した衣装の制作の裏側も語られている。

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裏方が表に出る理由:衣装の地位を上げたい

茅野さんは、裏方である自分が表に出ることについて、出なくてよいなら出なくてもよいという立場だという。それでもメディアに出るのは、衣装という仕事の地位を上げたいと考えているからだ。22歳の誕生日を迎える前からこの仕事に関わってきた茅野さんによると、ステージ衣装、舞台衣装、CM衣装などの中で、衣装は最初に予算を削られるものだという。だからこそ、衣装が戦略になり、アイドルグループの人気の要因にもなるように考えてきた。

自分が表に出ることで、衣装を目指す若い人や一緒に働いている人たちが、裏方としてもクリエイターとしても評価される時代になってほしい、と茅野さんは話す。海外にはベストドレッサー賞のような仕組みが多いが、日本ではまだ少ない。最近はメイクの担当者が賞を受けた例もあり、そうした流れが広がってほしいという。

著書『アイドル衣装のひみつ~カワイイの方程式~』についても、最初は「私自身にファンがいるわけではないので売れないのではないか」と考え、何度か依頼を断っていたと明かした。売れない本には意味がないと思っていたからだ。それでも学研の若い女性編集者が「初めて作る本は茅野さんの本にしたい」と諦めずに依頼を続けたため、衣装好き以外の人にも楽しめる読み物にしようと引き受けた。本は4回目の増刷になり、担当者に恩を返せたかな、と振り返っている。

第1条:その場限りの嘘をつかない

茅野さんが挙げた3か条は、「その場限りの嘘をつかない」「問題を先送りにしない」「存在を軽視しない」である。女性アイドル、特に若い女の子と仕事をすることが多い立場から意識してきたことだという。

1つ目について、茅野さんは褒めるときに具体的に褒めるようにしている。「今日のステージ良かったよ」ではなく、「今日のステージの3曲目の表情がすごく良かった」と伝える。そうすると本人も「そこは自分でも感情を入れて表現したところなんです」と応じ、「そういう表情がいいよね」と会話が続く。反対に、ちゃんと見ていないのにドラマに出てくるプロデューサーのように「なんとかちゃん、良かったよ」と言うのは軽薄だと茅野さんは言う。本人が調子の良くない日だったのに「良かったよ」と言われれば、「今日は調子が悪かったのに」と感じるかもしれない。どこに傷つくポイントがあるかは分からない。

芸能人は常に人目にさらされ、SNSでもいろいろなことを言われながらステージに立っている。だから、いい加減な言葉で深く傷つくこともある、と茅野さんは考えている。そのため正直に接するようにしており、疲れているように見えれば「大丈夫?ちょっと休む?」と声をかける。ただし本人がそれを望んでいない雰囲気なら、こちらからは言わない。おべっかを言わない一方で、相手のパーソナルスペースには土足で入らない。信頼して話してくれている相手に、きちんと向き合うためだという。

この姿勢は、メンバーより先に社内の人間に対してできていなければならない、と茅野さんは付け加えた。

社内の空気づくりと「いじれる上司」

茅野さんの会社には「ギャル魂」のある社員が多い。茅野さんは、仕事は大事だが人生の中に仕事があると考えている。人生が楽しく、疲れていない状態でなければ良いパフォーマンスはできないからだ。朝は目を合わせて挨拶し、「この前のあれ、SNSで評判良かったよ」「ファンの人がこんなDMをくれたよ」といった話をする。今年の1月1日にバッグを丸ごと電車に置き忘れた(その後見つかった)ような、自分の失敗も話題にするという。

社員には、もともとAKBが好きで入社した人や、茅野さんに強い憧れを持つ人もいる。そうすると気を使って話しかけられなくなる。そこで長年勤めている社員が、わざと「この人はいじれるよ」という振る舞いをしてくれるのだという。週1回の朝礼の後、ランダムに社員を昼食に誘っていたところ、「今日は納期で忙しくて、しのぶさんとご飯に行っている場合じゃない」と全員に断られ、1人で立ち食いそばを食べたこともあったと笑った。

聞き手は、茅野さんの自己開示の力がこの空気を作っているのではないかと述べた。これに対して茅野さんは、自分よりも長く一緒に働いてくれている部下の存在がありがたいと答えた。例えば茅野さんが入社3年目くらいの社員の仕事を「これいい出来だよね」と古参の社員に褒めると、「それは本人に直接言わないとダメですよ」と指摘してくれる。そうした助言は、愛情と、会社を一緒に良くしていこうという気持ちから来ていると茅野さんは受け止めている。

信じて任せることの難しさと副産物

茅野さんは、信じて任せることは大変だと認める。自分でやったほうが早いし、自分のことは自分が一番理解しているので、つい仕事を抱え込んでしまう。しかしそれでは相手に経験を積ませられず、結局は相手を信じていないことになる。

任せてみると新しい発見があるという。若い社員が作ったものが今回のコンセプトには合わず、「こういうふうにステージで見せたいから、こういう制作にしたい」と説明して作り直してもらうこともある。それでも、そのとき作られたものは記憶に残る。別の機会に「この前のあれを、もう少しこうしたらもっと可愛くなると思うんだけど、どう思う?」と話を広げられる。任せることで副産物が生まれる、と茅野さんは言う。

若い社員とのやりとりも刺激になる。取材の直前には、20代前半の社員がJUDY AND MARYを知らず、「そばかす」や『るろうに剣心』の話で盛り上がっていた。新しい言葉を教えてもらい、調べるうちにデザインソースになりそうなものが見つかることもある。任せた結果が当初の目的と違っても、固定観念に縛られずにすむので、良い副産物につながることがあるという。

茅野さんが強調したのは、どれほど優秀でも1人の力には限界があるという点だ。大きなプロジェクトや夢を実現するにはチームが必要で、ある程度は任せなければ自分が小さくまとまって終わってしまう。43歳の今、そう考えているという。

年齢による違いにも触れた。20代は需要のあることに流され、期待されたことにひたすら打ち返していけばよい。そうするうちに実力がつき、何を頼まれるか、何で評価されるかが見えてくる。30歳を過ぎたら自分の戦い方が分かってくるので、弱点も知ったほうがよい。よく怒られる点やダメ出しされる点を把握し、そこを補ってくれる部下を育てることが必要だ、というのが茅野さんの考えである。聞き手は、信頼されるためにはまず相手を信頼しなければならず、任せることで生まれるコミュニケーションが信頼関係を深めるのだと受け止めた。

第2条:問題を先送りにしない

2つ目の原則は、問題が起きたらその場で一旦の対応を示すことだ。衣装制作で言えば、衣装を進めていたのに曲が変わった場合、その状況をすぐチームに共有する必要がある。上司は、問題をある程度整理してから開示しようとしがちだと茅野さんは指摘する。整理した側は「これでできるでしょ」と思っていても、受け取る側にとっては突然降ってくる話になる。

そこで茅野さんは、「今こういう問題が起きていて、私としては3択くらいあるんだけどどう思う?」と意見を聞く。すると「それだと現場が疲弊します」「予算がかかりすぎます」といった声が返ってきて、一緒に判断できる。

アイドルから相談を受けたときも同じだ。スタッフに言われたことで悩んでいて、事実と違う気がする、と相談された場合、茅野さんは不確かなことは伝えずに「一旦確認取るね」と言い、その場で確認して答えを返す。相手に連絡がつかなければ「今連絡したけどつかないから、かかってきたらすぐ連絡するね」と伝える。「辛いよね、でもそういうつもりじゃないんじゃないかな」と言って終わらせるのも優しさではあるが、ただ聞いてほしいだけの子もいる一方で、誤解が生じている場合もあるという。

誤解は、男女の間でも、年齢差による解釈の違いでも、言葉足らずでも起きる。例えば年配の男性スタッフが悪気なく言ったひと言に、若い女の子が「なぜそんなことを言うのか」と悩み、偉い人だから聞き返せずにいる。茅野さんが確認すると「そういうつもりはなかったみたいだよ」と分かり、「一度話してみれば」と勧める。「気まずいです」と言われれば「本当にただのおじさんだよ、みんな偉いと思いすぎ」と伝え、必要なら自分が間に入る。若い女の子から見ると大人はみんな偉く見え、「私なんかが」という気持ちもあるからだ。後回しにすると、その子がそのとき抱えていた悩みは解決されないままになる。

茅野さんは、男性はしっかりした答えを返したがり、女性はその場で一旦の答えを欲しがる傾向があるという自身の見方を示し、これを「男女の脳の違い」だと思っていると述べた。社員も女性が多いため、なるべく一度は答えを返すようにしている。聞き手が、上からの先送りをしないことに加えて、下から問題を言える雰囲気づくりも重要なのかと尋ねると、茅野さんは、問題を抱えたままでいるのは時限爆弾を持ち続けるようなものなので、早く出せる状況を作らなければならないと答えた。

SNS時代の自己肯定感

若い人は答えの出ない問題を悪い方向に考えがちだ、と茅野さんは言う。実際の問題はそれほど深刻でなくても悪く考えてしまう。その原因は自己肯定感の低さにあると茅野さんは見ている。

茅野さんの世代は、比べる相手が教室や学校の中にしかいなかった。アイドルは自分のグループ、他のグループ、さらに芸能人と比べる対象が多い。今は一般の人もSNSを通じて多くの人と比べるようになった。しかも人は成功したことや上手くいったことを発信しがちで、失敗は人に言いにくいため、目にする情報は良い報告が中心になる。そのため比べる行為そのものが基本的に傷つく行為になる、と茅野さんは言う。気にしていなくても比べてしまう状況にあるので、若い人ほど自己肯定感が低く、「自分なんかが」「言っても理解されない」と思い込んでしまうことが多いというのが茅野さんの見立てだ。だからこそ、勇気を出して言ってくれたことにすぐ応えることが重要だという。

第3条:存在を軽視しない、役職は「役割」

3つ目の原則はここにつながる。アイドルの中には12歳や13歳のメンバーもいるが、そうした子も自分の将来を考えてアイドルになっている。一般の子どもでも、塾に通って受験をしたりスポーツに打ち込んだりして、自分なりに考えて生きている。それなのに年齢だけを見て子ども扱いしたり、部下に「君は若いから知らないと思うけど」と思い込みで話したりしがちだと茅野さんは指摘する。

アイドルは1年目でも10年目でも、同じステージに立っている点では同じだと茅野さんは考えている。1人の衣装を直すなら全員にできるようにし、立ち位置が前の子だけ直して後ろの子は直さない、ということはしない。

役職についても、茅野さんは「もはや役割だ」と言う。同じ会社でずっと縦社会の中でやっていくのでなければ、役職に変なプライドを持つ人は同期からも部下からも扱いにくい。30代のころ上の人を見てそう感じ、それがチームにとって良く作用しているとは思えなかったという。人間に上も下もない、というのが茅野さんの考えだ。立ち飲み屋で知らないおじさんと飲むのも好きで、昔の話や、自分がやったことのないゴルフの話を延々と聞くのが面白いという。フラットに話せるからこそ、クリエイターとしてのネタが転がっていると感じている。

電車のエピソード:同じ出来事でも視点で見え方が変わる

フラットでいることの価値を示す例として、茅野さんは電車での出来事を紹介した。最初から怒っているおじいさんが杖をつき、文句を言いながら乗ってきた。杖が車内の手すりにカンカンと当たり続け、座っていた若い男性は苛立って貧乏ゆすりを始め、そのリズムも重なった。茅野さんはこれをリズムのように感じ、ここが急にクラブになってDJやエミネムのような人が出てきたらどうしよう、ミュージックビデオならかっこよく撮れるかもしれない、と想像していたという。

この話を、ITのシステム構築をしている友人にすると、友人は「満員電車の仕組みはもう何十年も前のままだから、無駄な争いがなくなるように変えるべきだ」という話を始めた。さらに芸能マネージャーの友人に話すと、「自分ならタレントを連れていたら一度降りる。入り時間に余裕があれば次の電車に乗る」と答えた。

同じ出来事でも、視点によって感じ取る要素がまったく違う。その人にとってはその人自身の物語であり、それを聞いた自分はまた違うことを感じる。人を上下で分けてしまうと、こうした話が入ってこなくなる。茅野さんはそれを損失だと考えたほうがいいと話す。

犬の散歩仲間で遺伝子工学を研究している男性からは、人は高校生のころのファッションや音楽の好みをずっと持ち続け、特に男性は高校時代のコンプレックスも引きずるという話を聞いたという。高校でモテなかった人は、年を取ってお金を持ってもモテることにこだわる、といった話だ。フラットに接していなければ、こうした話は教えてもらえない。周りにいる人間が似てくると、自分の考えを正解だと思いすぎてしまう。時代は変わっていくので、「その考えは古いですよ」と言ってくれる存在がいないと同じところにとどまり続けることになり、クリエイターにとってはマイナスでしかない、と茅野さんは言う。

心を保つ「とんでも理論」

聞き手は、自分も周囲と比較してしまい、人を上下で考えるようになって性格が悪くなっていく気がする、と打ち明けた。「気にしなければいい」と言われても難しい、と。

茅野さんが若い子に勧めている方法は、嫌な人がいたら、まず「この人も赤ちゃんだった」と思うことだ。ムカつくと思っても、この人も赤ちゃんのころはママのおっぱいを飲み、おむつを替えてもらっていた。いつからこうなったんだろう、と自分でパロディにしてしまう。失敗して落ち込んだときは、落ち込むだけ落ち込めばいいが、浮上するタイミングが見つけにくい。そういうときは「江戸時代だったら切腹させられているな」「打ち首だな」と考える。令和の今は命までは取られない、と思うと、自分の状況を俯瞰できるという。

茅野さんはこれを「とんでも理論」と呼ぶ。感情の渦の中にいる限り、怒りや悲しみがずっと続く。とんでもないことを一度考えると人は少し落ち着く。そこで自分が楽しくいられることをして問題を一旦置いておき、浮上できるタイミングで改めて向き合う。すると「あの人はただ傷つけてくるだけだから関わらないようにしよう」と判断できたり、「言っていることにも一理あった、自分が変わるべきだ」と考えられたりする。聞き手はこれを、感情をパロディに変換する創造性だと受け止めた。

「運がいい」と思い込む

茅野さんはもう1つ、自分は運がいい人間だと思い込むことが重要だと話した。聞き手が、よく言われる話だがいまひとつ腑に落ちないと返すと、茅野さんはSHOWROOMの前田さんから聞いた話を紹介した。会食の店に入る前の5分ほどの待ち時間にも、前田さんは面白い話をしてくれたという。

その話によると、アメリカのセントラルパークで、新聞を渡して問題を出し、正解者に100ドルを渡すという実験が行われた。事前に「自分は運がいいと思うか」と尋ねたところ、運がいいと答えた人の正解率が高く、運が悪いと答えた人の正解率はかなり低かった、というものだ。茅野さんはこの話から、実際に運がいいかどうかはどうでもよく、思い込みが大事なのだと述べた。

嫌な局面に立ったときは、自分を主人公に置き換え、「漫画ならここが一番盛り上がる場面だ、次の展開が楽しみだ」と考える。自分の選択はここで合っている、と思い込む。人はなかなか思い込めないので、思い込む練習が必要だという。運がいいと思い込むことで本来の実力以上のものを発揮できる可能性がある、と茅野さんは考えている。若く無鉄砲だったからこそ、相手の考えが分からないまま踏み込めたこともたくさんあった、と自身の経験にも重ねた。

「みんな私のことが大好き」と思って場に臨む

聞き手が、迷惑かなと考えて問題を言い出せないと話すと、茅野さんは「いい人なんですよ」と応じ、もっと鈍感になったほうがいいと助言した。結局どちらにしても、後で「もっと早く言ってくれればよかった」が加わるだけだからだ。そういう人は相手の気持ちを考えている人でもある、と茅野さんは言う。

茅野さん自身、ファッションの仕事をしているのに立食パーティーが世界で一番苦手だという。食べればいいのか挨拶すればいいのか分からず、飲み物を勧められて手がふさがり、自分の仕事も説明しなければならない。そういう場では「みんな私のことが大好き」「私と話すのは楽しい」と思うことにしている。

これはもともとアイドルに言っていたことだった。茅野さんから見ればすっぴんでも可愛い子たちが、それぞれにコンプレックスや悩みを抱えている。「私なんかが話しかけても」と思って挨拶ができない子や、カメラマンに「今日の写真でどれが一番良かったですか」と聞けない子もいる。茅野さんは、業界のおじさんやおばさんは若い子に挨拶されれば嬉しいもので、「誰だこいつ」と思うのは性格の悪い人だけだから、みんな私のことが好きだという気持ちで挨拶すればいい、と伝えてきた。

この話は聞き手にも当てはまると茅野さんは言う。先輩が談笑している輪に入って挨拶するのをためらううちにタイミングを失い、挨拶しなかった人になってしまう。そういうときこそ「お話し中すみません、今日お世話になる何々です」と言えば、「いい子だよね」と評価される。

茅野さんは、おじさんたちの自己肯定感の高さにも学ぶべきだという。電車で向かいに座った2人のおじさんが、「昔の浜辺美波なら付き合う」「星野源に行けたらガッキーに行けると思う」と話していた。茅野さんは心の中で「今も付き合えないよ」とツッコミを入れつつ、その自信に感心したという。流行し尽くしたタピオカを「最近流行ってるやつ買ってきたよ」と自慢げに持ってくるおじさんの自己肯定感も、見習ったほうがいいと笑う。茅野さんは、その場に呼ばれているということは必要があって呼ばれているのだと考えるようにした。アイドルにも「今その衣装を着てステージに上がっている時点で、選ばれてここにいるのだから自信を持って」と伝えている。この考えを一言にまとめると「運がいいと思い込む」になる、と茅野さんは話した。

苦手を知ることが戦い方を知ること

聞き手は、信頼を得るにはスキルを高めることが大事だと言われると思っていたが、実際には周囲とのコミュニケーションが信頼につながるのだと感じたと述べた。これに対して茅野さんは、コミュニケーションを取ったほうがスキルも伸びると返した。自分の世界観だけで向いていると思っていても、意外とそうではないことがあるからだ。

若いうちほど、自分が何で評価される人間なのかを理解し、それに合う職業に就いたほうがいい、と茅野さんは言う。少しいい加減でも飲み会を盛り上げ、友達が非常に多い人なら広報や営業、細かいことが大好きで探求できる人なら研究員や薬剤師が向いている、と例を挙げた。向いている領域である程度評価されておけば、その後が楽になる。そのうえで、向いていない部分に努力を向けるのがよいという。

例として挙げたのが、茅野さんの会社の新入社員だ。とても明るいギャルで、入社5日目ほどで茅野さんに「TikTok撮りましょう」と声をかけてきた。周囲は「コミュ力おばけだ」と驚いたという。それはその社員の長所だが、それだけでは「軽くて元気でいい子」という印象で終わってしまう。打ち合わせや企画で相手をよく調べ、先方の需要を理解した提案ができれば、明るいだけでなく相手をしっかり見ている人として評価が上がる。そこに努力を向けるべきだと茅野さんは考えている。自分を知るには、他者からどう思われているかを知るコミュニケーションが必要になる。

茅野さんは自分の弱点として、時間にルーズなことを挙げた。大幅な遅刻ではなく5分程度の遅刻だという。10分前に現場に着いたのに、これから会う相手が好きなもののポップアップを見つけて寄り道し、10分で会計が済むと思っていたら5分過ぎてしまう。そのポップアップの品を持って現れるので「そんな時間があるなら来い」と怒られる。だからこそ、マネジメントをしてくれる優秀なスタッフが必要だという。

ここで聞き手が、自分はずっと出演する側だったので、パソコンやメールのやりとりが苦手で、伝えたつもりが伝わっていないことが最近あると相談した。補ってくれる人がいない中で、苦手なことをできるようにしたほうがいいのか、と。茅野さんの答えは、苦手だと知ることが重要だというものだった。苦手だと分かっていれば「ちゃんとしなきゃ」という意識が働く。茅野さんも、それでも遅れることはあるが、意識が強く働くと逆に15分前や30分前に着くこともあるという。無頓着なままではただの無礼な人になるが、苦手を自覚していれば気をつけられる。

茅野さんは、多くの人が自分に向いていない習い事などで闇雲にスキルアップしようとするが、それが本人の強みにならないこともあると指摘する。自分の苦手を知ることは戦い方を知ることで、攻めばかりで防御を知らなければ、攻められたときに弱い。聞き手のキャラクターなら、「メール不精でお待たせすることもあるんですが」と最初に断っておけば許されるタイプだろう、とも助言した。ただし、SNSのプロフィールに「LINE返信遅いです」と書いている人については、それで友達をなくしてきたのだろうと笑っていた。

日常の会話がデザインの源になる

茅野さんは、人と人を引き合わせるのが好きで、実際に交際に至った例もあるという。そのコツとして、好みのタイプを聞くのではなく「絶対に付き合えない3か条」を聞くことを勧めた。「かっこよくて面白くて優しい人」と言われても、自分の考える「かっこいい」「面白い」「優しい」と一致するとは限らず、漠然としすぎて恋愛に発展しにくい。一方、絶対に無理な条件を聞けば、外見の話ばかりなら外見を重視する人だと分かり、「俺様系は嫌」なら一緒に歩んでいくタイプが合うと分かる。そこから紹介すると結構うまくいくという。

こうした人への関心は、仕事の創造性にもつながっていると茅野さんは言う。学校制服の仕事で生徒たちに学校選びの基準を聞くと、以前は制服の可愛さや家からの近さ、何より進学率や就職率だった。それに次ぐ基準として、コロナ禍の後に聞いた学校では「青春感」を挙げる生徒が多かった。深掘りすると、中学の3年間ずっとマスク生活で写真もなく、TikTokやInstagramで見るお揃いのTシャツの運動会などはドラマの中の話に思えた、だから高校ではそういうことをしたい、という声だった。

ちょうどその頃、AKB48のジャケット写真の打ち合わせで、制作会社から「今の等身大の彼女たちを見せたい」という話が出ていた。AKBには制服のイメージもあったため、茅野さんは生徒たちの話を思い出し、「こんな学校があったらいいのに」をジャケット写真で表現してはどうかと提案した。階段の踊り場で上のグループに話しかけられて振り返る場面、中庭でお弁当を食べる場面、図書室に集まる場面など、「こんな学校生活を送りたかった」という光景を、昔のカメラで撮ったような質感で撮る案で、これが採用された。

ファッションからエッセンスをもらうと誰かのモノマネになってしまう、と茅野さんは言う。流行の情報は入るようにしているが、デザインソースになるのはむしろ人々の話から生まれることが多いという。聞き手は、取材前は立場のある人なので怖かったらどうしようと緊張していたが、すっかりファンになったと語り、インタビューを締めくくった。

紅白歌合戦OG衣装の制作秘話

動画の後半では、大丸東京店で開かれていたAKB48のポップアップ会場で、2025年のNHK紅白歌合戦でOGメンバーが着用した衣装を前に、茅野さんが制作の裏側を説明した。AKB48の20周年に向けて大丸と企画した衣装展の関連イベントで、紅白の衣装が東京で展示されたのはこれが初めてだという。聞き手は、この紅白を見ていたちょうどそのときに茅野さんへの出演依頼書を書いていたと明かした。

茅野さんによると、紅白は内定のような事前の知らせがなく、出演が決まってから一斉に制作を始めるため、本当に時間がない。今回はデザインと制作を合わせて3週間もなかった。茅野さんはまず生地から作った。糸で織っていく方法で土台の生地を作り、現役メンバーの衣装はチェックのトーンを明るくして若く元気な印象にした。一方、結婚や次のキャリアに進んだ人が多いOGについては、AKBの赤チェックをモード寄りに解釈して作ったという。チュールにチェック柄をプリントした素材も使っている。フィッティングは12月25日か26日ごろで、その時点ではまだ装飾がついていない状態だった。ビジューを一つ一つ装飾したパーツをさらに取り付けていき、板野友美さんからは「もっと派手にチェーンをジャラジャラにしましょう」といった要望もあった。ネックレス1つをとっても、メンバーごとに個性が違うという。

前田敦子さんの衣装は、現役時代から心がけてきた「王道でシック」なスタイルだ。黒のジャケットで形はシンプルだが、ドラマチックに流れるラインを入れ、下から見るとアシンメトリーになっている。正統派でありながら少しエッジが効いている。茅野さんは前田さんを、非常におしゃれでファッションへの感度が高い人だと評し、立っているだけでドラマチックなラインが出るように演出したという。前田さんは最後に登場する構成だったため、テレビの前の視聴者がはっとするように、赤チェックの多い周囲の中で1人だけ黒にし、全体を引き締めた。「王者・前田敦子」のような印象を狙い、そこにすべてを懸けたと言っても過言ではない、と茅野さんは語った。

大島優子さんについて、茅野さんは「ファニーで可愛い、お茶目だけれどアクティブな人」と表現する。そのため1人だけショートパンツにした。ただ、他のメンバーの衣装はボリュームがあるので、ショートパンツだけでは浮いてしまう。そこで袖のフリルで大島さんのファニーさを表現した。大きなパフォーマンスをするが実際は小柄なので、ボリュームを加えている。また大島さんは「ヘビーロテーション」のセンターで、後ろ姿が見える振り付けがあるため、背中側のラインが綺麗に見えるよう形を変え、ボタンなどの装飾を後ろに多く配置した。よく動くことを考え、重めの素材ではなく軽やかなチュールを中心にしている。

高橋みなみさんの衣装は、総監督だったことからチェックを多めに使い、リーダーらしさを出した。一方で高橋さんはガーリッシュで可愛いものやレースが好きなので、細部にレースやチュールを入れている。AKBを象徴するプリーツやセーラーのモチーフも取り入れ、後ろを長くした形にするなど、「AKBらしさ」を最も多く盛り込んだ。スカートだけでもチュール、厚手のチェック、プリーツ、ドットチュールなど複数の素材が組み合わされている。

茅野さんは、AKBは個性の強い人たちが集まったカオスのような集団であり、それが団体としての強さを生むと考えている。そのため素材を組み合わせるだけでなく、同じチェックでも裁断の向きを変えて表情を変えている。身頃はチェックが縦にまっすぐ入る縦地方向で裁ち、袖はバイアス方向(斜め)に裁つ、という具合だ。一般的な学生服は真面目に見えることが必要で、バイアスで裁つとひらっとしやすいので困るため、縦地方向で作られる。アイドル衣装では踊ったときにひらっとするほうが良いので、バイアスを使う。こうした細かな組み合わせをAKBの衣装では多用しているという。

メンバーの要望の出し方も三者三様だった。前田さんは現役時代から変わらず「任せます」と言うタイプで、卒業ドレスも任せてくれたという。大島さんは「私はショートパンツがいいと思うんだけど、どう思う?」と一点だけ押さえてあとは任せるタイプ。高橋さんは好きなものが決まっていて、同じものを食べ続けるタイプだといい、「私が好きなのはもう知ってると思うけど」と細かく要望を出す。高橋さんが重視するのは首の見え方や襟元の開き具合、袖の長さだという。本人は身長が低いことや腕が長くないことを気にしているが、茅野さんから見ると小柄だからこそ可愛い。その魅力を生かす形として、高橋さんの袖だけ少し短めにしてある。4万着以上を手がけてきた茅野さんの衣装は、こうした一人ひとりとの会話と観察の上に作られていた。