AIは会社の組織をどう変えるか:安野貴博が語る「Company Brain」

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概要

AIを使えば、会社の組織はこれまでと違う形にできるのではないか。安野貴博は、最近注目しているこの考え方を紹介し、自分なりの評価を加えている。安野は、階層が消えるという主張には留保をつける。一方で、必要な技術はすでにかなり揃っていて、人間の意思決定をむしろ生かす仕組みになりうると見ている。

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まだ呼び名の定まらない概念

安野によれば、この概念にはまだ定まった名前がない。いろいろな場所で、同じ考え方が別々の名前で語られ始めている段階だという。例として安野は三つを挙げた。「Company Brain(カンパニーブレイン)」、「AIオペレーティングシステム(AI OS for Company)」、そしてTwitterの創業者ジャック・ドーシーのエッセイ「From Hierarchy to Intelligence(階層から知性へ)」である。動画内では、仮に「AIによる会社OS」と呼んでいる。

三つに共通する問いは、今のAIの力を借りればもっと良い組織形態がつくれるのではないか、そしてAIはそれを大きく後押しできるのではないか、というものだと安野はまとめる。

なぜ組織はピラミッド型なのか

安野はまず、ドーシーのエッセイに沿って議論を説明する。人間の組織は昔からピラミッド型だった。古代ギリシャの軍隊もそうだし、社長・部長・課長と続く今の会社も基本的には同じ形をしている。

ドーシーによれば、その理由は情報処理にある。1人の上に1000人の部下がいれば、1000人がそれぞれいろいろなことを言ってくる。それに一人で反応して「あなたはこれを」「あなたはこれを」と指示を出し続けるのは難しい。そこで「この10人を見てください」と中間管理職を置き、その上にさらに別の管理職を重ねていく。

こうすると、組織全体の「こっちへ行くぞ」という意思は少しずつ下へ流れる。現場で起きたことは少しずつ上へ上がる。情報が行き来しながら、組織は全体として進むべき方向に進める。ピラミッドはこの情報処理のための構造だった、というのがドーシーの説明である。

「階層から知性へ」という提案

そのうえでドーシーは、情報処理が目的なら、いろいろなことができるようになった今のAIがその役割を担えるのではないかと考える。安野は、これが自分の意見ではなくドーシーの意見だと断ってから内容を紹介している。

ドーシーの描く組織では、中央に「知性(インテリジェンス)」がある。この知性はAIで、世界がどうなっているかを表す世界モデルを持つ。その周辺、ドーシーの言葉では「エッジ」に多くの人がいる。エッジの人たちは現場でさまざまな情報を得て、中央の知性をもとに判断を下す。意思決定のやり方も、外から入ってくる情報によって変わっていく。

このためドーシーは、階層は不要になり、代わりに「カンパニーブレイン」、つまり会社の脳が必要になると主張している。

安野の評価:8割正しいが、階層は消えない

安野は、この主張を「80%くらい正しい」と評価する。

安野が同意するのは、AIがさまざまな情報をうまく処理できるという点だ。これは完全に正しいと考えている。一方で、階層そのものは消えないと見ている。変わるのは、1人が見ることのできる範囲のほうで、それが大きく広がる可能性がある。その結果、階層構造は残っても、これまでより意味の緩やかなものになる。これが安野の見立てである。

今の技術でピースはかなり揃っている

安野は、これが遠い未来の話ではないと強調する。今あるツールを組み合わせれば、ある程度は実現できるという。「できる」と言い切るとまだ語弊があると本人も認めている。そのうえで、技術のピースはかなり揃っていて、足りないのは会社として仕組みを磨き込む工程のほうではないか、というのが上の三つの議論が投げかけている問題だと安野は説明する。

安野はその構成要素を順に挙げている。

1つ目はデータである。とくにリモートワークの会社では、ほとんどすべての業務がデータ上で起きている。ドーシーが率いるBlockもフルリモートの会社で、チャットのログ、議事録、データベースなどにほぼすべてが記録として残る。まず、このデータをAIが読める状態にすることはできる。

2つ目はSkills(スキルズ)だ。データの見方をAIに渡せるようになってきている。たとえば「このデータベースにはこういうことが書いてある」「この人はこういうことを決める権限を持っている」といった、人間が普段下している判断の前提である。Claudeを使っている人は見たことがあるかもしれないが、Markdownに「こういうことだ」と書き下せばSkillsになると安野は説明する。

3つ目はデータとの接続である。安野によれば、Opus 4.7やChatGPT 5.5といった最近のモデルは賢いが、チャットログや議事録、データベースをうまく参照する手段がない。そのため人間がいちいち文脈を教える必要があり、それが能力を制約している。MCPのように、AIとデータをつなぐ仕組みをきちんと整えれば、今のモデルは相当賢くなると安野は言う。

4つ目はトリガーだ。安野は以前、Claude Codeのルーティン機能を紹介する動画を出している。決まったタイミングになったら特定の作業をAIが自動で始める、という仕組みも用意できるようになってきた。

これらを組み合わせれば、AIはかなり多くの業務をこなせるのではないか。安野はこれが三つの議論に共通する問題提起だと捉えている。そして自分でも「結構できる」と感じたという。

Claude Codeでの実験

安野は、実際に作ってみないと分からないと考え、ゴールデンウィーク中にClaude Codeを使っていろいろと実験した。今のモデルは本当に賢く、こうした情報を与えるとかなりの分析をしてくれたという。

一例として、データを揃えたうえで「僕が発見できていなさそうな組織の課題は何だと思う?」と尋ねた。すると、組織の中で安野自身がまだ気づいていなさそうな課題が次々とリストで出てきて、とても面白かったと語っている。

この経験を踏まえて、安野はこの概念が今年の後半あたりから盛り上がってくると予想する。スタートアップを始めたいがテーマが見つからない人にとって、AIが組織を支援する領域は良い題材になるのではないか、と勧めている。

AIに支配される会社にはならない

ここまでの話を聞くと、AIがすべてを管理する会社ができるのではないかと誤解する人もいるだろう、と安野は予想する。これに対して安野は、変わるのはあくまで組織の形だと述べる。人間から意思決定を奪う方向には向かわないだろう、という考えだ。

むしろカンパニーブレインがきちんと実装されれば、人間の意思決定がこれまで以上に効くようになり、その効果を最大化できると安野は考える。普通のピラミッドでは、情報がどこかで詰まったり、本来の内容と違う形で伝わったりする。誰かが下した決定も、組織に広がるにつれてどんどん歪んでいく。情報のやり取りがうまくいけば、こうした歪みは起きにくくなる。

安野は、人と人が話したり交渉したりすること自体を自動化するわけではないとも補足する。そうした場で得た情報をカンパニーブレインに共有する。それを通じて、人間が集中すべきところに人間を集中させる。安野はこれをそのための仕組みだと捉えており、今後に期待している。

政治への応用:「Party OS」の可能性

最後に安野は、カンパニーOSがあるならパーティーOS、つまり政党のためのOSもありうるのではないかと話す。

安野によれば、カンパニーOSを抽象化して見ると「めっちゃデジタル民主主義」である。大勢の人が実は大量の情報を持っているのに、それをうまく生かせていない。これは会社でも政治でも同じように起きている問題だ。だから会社OSの考え方は政治にも役立つのではないかと考え、注目しているという。

安野は、話が抽象的だったと断ったうえで、スタートアップを始めたい人や、自社の経営にAIをどう生かすか悩んでいる人にとって、この概念は調べてみる価値があると述べて話を締めくくった。