上海のフィジカルAI展示会を歩く:犬型・人型ロボット、静脈まで再現した腕、消防用ロボット

YouTubeで開く ↗
概要

エンジニアで起業家の安野貴博氏が、上海で開かれたフィジカルAIの展示会を同行者と見て回った。展示会は8月12日から3日間ほどの日程で、安野氏によれば今回が第4回にあたる。2年前に始まり、半年おきくらいに開催されていて、回を追うごとに盛り上がっているという。フィジカルAIの現場が今どうなっているのかを確かめることが今回の視察の目的だった。

6分で読めます

会場の構成:3ホールのうち1つがロボティクス

会場には完成したロボットだけでなく、部品や、さらにその部品を作るメーカーまで出展していた。自動車部品メーカーも多く参加していた。安野氏は最後の振り返りで、ホールは3つあり、そのうち2つは自動車関連の企業が中心だったと説明している。犬型ロボットや人型ロボットといったロボティクスの展示が多かったのは残りの1つで、フィジカルAI・ロボティクスの企業は全体の3分の1程度だったというのが安野氏の見立てである。

歩いてみると、AIロボティクスのプレイヤーは実はそれほど多くないのではないか、という感想も出た。同行者からは、日本企業にも頑張ってほしいという声があがった。

どのメーカーも「二足歩行の人型」と「四足歩行の犬型」を出す

Unitree(ユニツリー)のブースは力の入った展示で、二足歩行のヒューマノイドと四足歩行の犬型ロボットが並び、ロボットがロボットダンスを披露していた。ロボットの上に別のロボットが乗っている展示もあり、一行は人の形をしている方が実用的な場面もあるかもしれないと話していた。ほかのブースにも犬型ロボットがあり、安野氏は、どのメーカーも人型の二足と犬型の四足をセットで出していると指摘している。

出展企業への質問:操作方法、強み、用途

一行はある犬型ロボットのメーカーに話を聞いた。今後の改善点を尋ねると、担当者は、現在はスマートフォンで操作しているが、スマートフォンでは操作しにくい面もあるので、今後はゲーム用のコントローラーで操作できるよう他社と協業する可能性があると答えた。

他のヒューマノイドメーカーとの違いについて、担当者はまず、自社ブランドが国内外で大きな市場を持っている点を挙げた。次に、他社製品と比べて信頼性と安定性が高いこと、ハードウェアもソフトウェアも自社開発していることを強調した。ハードウェアには1年の保証があり、ソフトウェアはクラウド経由で更新していくという。

この四足ロボットの主な用途は「情緒的な伴走」、つまり家庭でのコンパニオンだと担当者は説明した。簡単な音声指示で動作し、吠えたり、うなずいたり、手を振ったり、ダンスや歌をこなす。散歩に連れ出したり、荷物を取りに行かせたりといった使い方にも触れていた。

4:06

お茶を入れるロボットと「見せれば覚える」学習

別のブースでは、ロボットアームがお茶を入れ、物をつまみ上げる実演をしていた。この動きを覚えさせるための準備について尋ねると、担当者は、やらせたい作業をカメラの視野の中で見せればよく、あとはカメラとの距離関係が重要で、対象の全体が映っていることと、映像が鮮明であることを確認すればよいと答えた。

実際のビジネスでの使われ方については、今回の展示は能力の限界を示すためのものだという説明だった。具体的な現場は導入先ごとに設定していくもので、現時点では仕分けや物を取るといった作業ができるという。ロボット本体も自社で作っているのかという問いには、基本的な運動能力は他社と大差なく、自社はロボット本体を土台として、その背後にあるデータとアプリケーションに力を入れていると答えている。

5:39

不気味の谷に近づく顔、それを越えた腕

一行が「奥が面白そう」と向かった先には、リアルな顔を持つ人型ロボットがあった。安野氏らは、不気味の谷を越えられるかどうかに近づいていると感じたという。表情をモデルに転送する仕組みの説明があり、ロボットはこちらの方向を向き、対話もできた。別の個体については、さきほどより不気味の谷を越えていると評価している。

特に一行が驚いたのは、リアルな腕と手の展示だった。手の質感や、皮膚の下の血管、静脈の盛り上がりの再現度が高く、顔よりも手のほうが一気にリアルになった印象だという。一行はその場で、この技術はロボットを人間らしくするためだけでなく、人間用の義肢にもそのまま応用できると話し、福祉のような分野でも活かせると述べた。安野氏は振り返りでもこの腕を印象に残った展示に挙げ、こうした分野で競争が激しくなり技術が磨かれていけば、いろいろな未来が見えてくると語っている。

工場用アームとデータセンター向けロボット

製造現場向けの展示には、下の部分まで動かせるアームがあった。その近くには、どう見てもサーバーラックという設備を扱うロボットもあり、「データセンターソリューションズプロバイダー」と書かれていた。一行は、異常が出たハードディスクを抜き差しするような作業の自動化を狙ったものではないかと推測している。

サッカーロボットと操縦体験

サッカーをするロボットの展示では、ロボットが動き回り、ライダーがくるくる回っていた。愛嬌のある仕草をするロボットに一行は笑い、ボールが転がる環境で動けることを評価していた。一行は実際にロボットを操作させてもらい、ゲームのような感覚だったと話している。

消防に入り始めた犬型ロボット

ケーブルやパイプ類のメーカーも出展するなか、無人機で知られる企業として名前が挙がった会社のブースでは、消防用のごつい犬型ロボットが展示されていた。背中にホースなどを積む仕様で、出展者によれば、すでに消防隊に実際に入り始めているという。

安野氏は振り返りで、人間が行くと危険な、火が燃え盛っている場所にも入って放水できる点を取り上げた。そのうえで、ロボットは人間に不向きな場所や環境で活かされるのではないかと述べ、火災現場や災害現場への派遣、そして重いサーバーを扱い熱もこもるデータセンターのラック内での作業を例に挙げて、こうした用途がこれから広がっていくのではないかと見通している。

トイレ掃除ロボットと「ロボット対応のトイレ」

トイレ掃除用と思われるロボットの展示もあった。安野氏はここで、ロボットに合わせる側、つまりロボットが掃除しやすいトイレという発想もありうると話し、その意味では和式トイレは掃除しやすいかもしれないと冗談交じりに付け加えた。

数少ない日本企業、上原ネームプレート

会場では日本企業にも出会った。自動車のエンブレムや内装・外装の部品を手がける上原ネームプレートで、日本の自動車メーカーだけでなく、フォードなどさまざまな会社のエンブレムを作っているという。担当者は安野氏のYouTubeをよく見ていると声をかけてきた。一行は、日本企業がゼロではなくてよかったと話し、エンブレムのメーカーがあることを初めて知ったと述べている。

振り返り:見た目の競争と、来てみて分かること

会場ではロボットが通路を普通に歩き回っており、一行は、ロボットが当たり前にその辺にいる光景を好意的に受け止めていた。

安野氏は最後に、犬型ロボットの見た目の違いにも触れた。警備用のものはドーベルマンのようにいかつい外見になっているなど、用途ごとに色がついており、見た目の勝負はこれから競争が激しくなるなかで洗練されていくのではないかと述べている。そして、実際に来てみると意外と分かることが多いというのが、今回の視察についての安野氏の感想だった。