5億年ボタンを押したら何が起きるのか:孤独、時間感覚、そして消える記憶

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概要

5億年を秒に直すと、およそ1京5800兆秒になる。寿命がせいぜい100年ほどの人間には縁のない長さだが、「5億年ボタン」という思考実験ではその時間を一人で過ごすことになる。この動画は、ボタンを押した人がどんな体験をするのか、その5億年で意味のあることはできるのかを、感覚遮断や時間知覚に関する知見を手がかりに考えていく。

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5億年ボタンの設定

5億年ボタンは、ある漫画作品に登場するアイテムである。表向きの仕組みは単純で、押すとすぐに100万円が出てくる。ただし、ボタンを押してから大金を受け取るまでの間に、この思考実験の中身がすべて詰まっている。

ボタンを押すと、体は現実とは別の空間に飛ばされる。その空間は果てしなく続いており、壁も、地面の変化も、出口もない。そこにいるのは自分一人だけだ。さらに体は無敵になり、食事も水も睡眠も必要としない。命の危険はなく、自ら命を絶つこともできない。この状態で5億年を過ごすことになる。

5億年が過ぎると記憶を消され、ボタンを押した直後の現実世界に戻される。周囲から見れば、ボタンを押したら100万円が出てきただけに見える。押した本人にとっても、押したらすぐ100万円が出てきたという事実は変わらない。違うのは、その5億年を本人がまったく覚えていないという一点だけである。

5億年という長さ

動画は、この時間の長さを比較で示す。地球が誕生してからおよそ46億年なので、5億年は地球の歴史のおよそ9分の1にあたる。現生人類であるホモ・サピエンスの誕生はおよそ30万年前とされているため、人類の歴史全体を1000回繰り返してもまだ足りない。哺乳類が地球に現れてからの時間よりもはるかに長い時間を、何もない空間でたった一人で過ごすことになる、とナレーションは述べる。

最初の試練:感覚遮断

動画によれば、5億年を過ごすうえでの最初の試練は、思っているより早く訪れるかもしれない。人間は光も音もほとんどない空間に置かれると、短い時間で幻覚のような知覚、不安、現実感の変化を経験することがある。これは感覚遮断と呼ばれる状態である。

また、視界全体を均一な刺激で満たした場合にも、脳が足りない情報を補おうとして、存在しない光や模様を知覚することがある。これはガンツフェルト効果として知られている。動画はここから、人間の脳は何もない空間を「何もない」とそのまま処理できないのかもしれない、と推測する。飛ばされた空間に光も音もまったくなければ、精神は5億年よりはるか手前で限界を迎えるかもしれない。

もっとも、原作ではこの空間の音については言及がないものの、光は存在するような描写がある。そのため、すぐに精神に異常をきたすことはないかもしれない、と動画は補足する。

独房に近い孤独

それでも、状況は刑務所の独房にずっと閉じ込められているようなものだと動画は例える。独房に入れられた服役者は、他の人間とのやり取りが多少あったとしても、幻覚や幻聴に悩まされる人が多いという。5億年ボタンの場合は人とのやり取りがなく、日々の変化もまったくない。精神はただ存在しているだけで極めて大きな負荷を受けるだろう、というのが動画の見立てである。

「体感は短いのでは」という考察:ジャネーの法則

5億年ボタンについては多くの人が考察しており、動画はその一つを紹介する。人間は年をとるほど1年が早く過ぎるように感じる。それは、それまでの人生の長さに対して1年が占める比率が小さくなっていくからだ。これを考慮すると、5億年は途方もなく長く思えても、実際の体感としては人生10回分にすら届かないのではないか、という説である。

年をとるほど1年が短く感じられるという考え方は、ジャネーの法則と呼ばれる。5歳の人にとって1年は人生の20%だが、50歳の人にとってはわずか2%にすぎない。過去を振り返ったとき、1年が人生に占める割合がまったく違う。5億歳ともなれば、1年など人生のなかで誤差にすらならないと感じる可能性もある、と動画は述べる。

退屈とドーパミン:最悪の組み合わせ

一方で動画は、楽しいときは時間が早く進み、退屈なときはゆっくり進むという、多くの人に覚えのある感覚を取り上げる。一説には、快などの感情に関係するドーパミンを放出する神経細胞、つまりドーパミン作動性ニューロンが時間感覚に影響しているという。自分以外に何も存在しない空間では、このニューロンが活発になるはずもなく、1秒1秒が非常にゆっくり進むだろうと動画は推測する。

この二つを合わせると、5億年ボタンを押した人には最悪の組み合わせが生じる可能性がある、と動画は指摘する。1京5800兆秒の1秒1秒は永遠のように引き延ばされる。しかし振り返ってみると、100万年や1000万年といった時間は何もなかったかのように圧縮される。苦しみは常に現在形でありながら、自分がどれだけ耐えたのかは二度と把握できない。5億年を生きても、自分がどれだけ長く耐えたのかを理解することすらできない、というのがこの節の結論である。

5億年で何ができるか:計算や創作では機械に勝てない

動画は次に視点を変え、この5億年は他の誰にも真似できない大きなチャンスだとも考えられると述べる。この空間では衣食住や疲労の心配もない。では、この時間を有効に使うとしたら何ができるのか。

真っ先に思いつくのは暗記や計算だが、これは現代のコンピューターなら5億年ボタンを使わなくても簡単にこなせてしまう。仮に1秒に1回計算できるとして、5億年休みなく続けても計算回数は1京5800兆回である。それに対し、現代のコンピューターは1秒に10億回以上の計算ができるのが標準的だという。つまり、5億年分の計算量は現在のコンピューターなら数か月で達成できてしまう。桁違いの性能を持つスーパーコンピューターなら、なおさら人間の5億年は比較にならない。創作活動についても、近年のAI技術の発展によって、5億年という時間の長さが持つ優位性は薄れつつある、と動画は述べる。

瞑想という活路

そこで動画が活路として挙げるのが、瞑想による自己認識である。世界で最も長く瞑想し、自分を徹底的に見つめ直した人でも、合計の瞑想時間はせいぜい6万2000時間とされている。それに対し、5億年はおよそ4兆4000億時間であり、そのすべてを瞑想にあてることができる。

自分の脳が生み出しうるあらゆる感情について考えを巡らせることができる。どんなときに怒りを感じるのか、どんな条件で喜びを感じるのか。思考の癖や感情のすべてを、何万年、何百万年もかけて内側から観察し、把握していく。そしてその営み自体が、止まったかのように錯覚するほどゆっくり進んでいた時間を、再び流れ出す方向へ変えてくれるだろう、と動画は語る。

さらに、人類がまだ経験したことのない新しい意識状態に到達する可能性も残されている、と動画は続ける。意識とは何かについて、教科書や論文によってではなく、人類の歴史よりはるかに長い時間をかけた直接の探求を通じて、人類史上最も詳しい人間になるだろう、というのが動画の描く可能性である。

すべては記憶とともに消える

しかし、その高度な意識とも別れることになる。5億年が終わると、ボタンを押した瞬間に戻され、それまでの記憶は一つ残らず消える。長い時間をかけて到達した心の平穏も、磨き上げた自己認識も、一瞬で跡形もなくなり、手元に残るのは100万円という世俗的なお金だけだ。

動画は、100万円を手にしたとき何を思うのか、5億年の中で何を見いだしたのか、と問いかける。そしてその答えは永遠に失われてしまった、という言葉で締めくくられる。