在庫を水増しすると利益が増える理由 銀行員が読み解くエア・ウォーターの不正会計

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概要

産業ガス大手のエア・ウォーターが不正会計を起こした。銀行員の話者は、視聴者から元社長・会長の豊田氏の著書を送りつけられたことをきっかけに、その本と調査報告書を読んだうえで解説する。動画の前半では会社の成り立ちと不正の全体像、調査報告書をめぐる騒動を整理する。後半では架空在庫がなぜ利益の水増しにつながるのかを、カニラーメンの屋台という例で説明する。話者は、在庫と利益の関係は簿記を学び始めた人や新人の銀行員がつまずきやすいところだと考えており、後半の説明に重心を置いている。

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M&Aで膨らんだ売上1兆円の会社

話者によれば、エア・ウォーターは売上規模約1兆円の産業ガス大手で、大きなガス会社が3社ほど合併してできた会社である。前身企業の一つは1933年の設立で、合併やM&Aを繰り返して大きくなってきた。グループ会社は約260社にのぼる。

豊田氏の著書によると、同社は「企業は成長し続けなければならない」という考えのもと、「全天候型経営」や「ネズミの集団経営」を掲げてきた。いろいろな事業を持っていれば、一つの事業が不振になっても他の事業でカバーできる、という考え方である。その結果、産業ガスの会社でありながら、売上に占める産業ガスの割合は20%程度にとどまる。もう一つの柱が医療領域で、こちらも約20%を占める。

医療が伸びた理由について、話者はガスの輸送コストを挙げる。産業ガスは大きなプラントで作って各地へ運ぶ仕組みだが、ガスは中身がスカスカなので運ぶのにお金がかかる。そこで病院などの医療施設の中に小さなプラントを作り、現地でガスを作って使ってもらう形をとった。これなら建設や維持管理も含めてさまざまなビジネスが組める。こうして病院が得意先になり、関連企業も買収していった、というのが話者の説明である。

同社は2023年に初めて売上1兆円を超え、1兆49億円を計上した。話者は現在の売上を1兆667億円としている。そのうえで、ニデックのように「1兆円」という節目を狙いにいく企業はあると述べる。

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6年間で売上約3000億円の水増し

今回の問題は、話者の言葉では「いつも通り」の不正会計である。調査で判明した範囲では、2020年から2025年までの決算期間に、売上で約2970億円、本業の利益である営業利益で約763億円が水増しされていた。初の1兆円を達成した2023年の売上も、実際は9540億円だったという。話者は皮肉を込めて、「1兆円」は各部門が連携して血のにじむような努力をした結果として作り上げられた、と表現している。

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発覚の経緯:マレーシアから日本ヘリウムへ

話者によると、発端は2024年秋ごろである。マレーシアのグループ会社で担当者が在庫を確認したところ、架空の在庫がかなりあるのではないかという報告が上がった。そこで会社全体を調べたところ、最も大きかったのが2025年3月ごろに判明した日本ヘリウムのケースだった。同社の在庫の半分以上が架空で、実際にはスカスカなのに信じられない金額が在庫として計上されていたという。規模が大きすぎたため、2025年10月に調査委員会が発足した。

話者は在庫を会計上の「資産」として説明する。たとえばアパレル会社が作った服は、いずれ販売されて売上や利益になるので資産として扱われる。今回はこの在庫を実際よりも大幅に多く計上していた。在庫を多く計上すると利益が増える理由は、後半で詳しく説明される。

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「不正のデパート」と呼ばれた6つの手口

話者は、同社が行っていた不正を6つに分けて紹介する。

1つ目は、後半で掘り下げる架空在庫である。

2つ目は架空売上の計上である。グループに入れていない関連会社などを使って、売上を架空に作っていた。

3つ目は貸倒引当金の計上回避である。大企業は取引先が多く、販売代金を来月受け取る予定でも、その前に取引先が倒産すれば回収できない。そこで、倒産の懸念がある取引先や例年の回収不能の実績をもとに、見込み額をあらかじめ利益から差し引いておく。これが貸倒引当金である。本来は過大に積めば節税にも使えてしまうため、厳格なルールがある。ところがエア・ウォーターは株主に対して利益を大きく見せたかったので、引当てるべき先に引当金を計上しなかった、と話者は説明する。

4つ目は減損の回避である。話者はタピオカブームを例に挙げる。ブームに乗ってタピオカ製造機や紅茶サーバーを導入しても、ブームは3か月から半年ほどで終わり、機械は使われなくなる。本来なら、使い道のなくなった資産は価値を引き下げて利益から落とさなければならない。しかし同社は、使われずゴミになっている設備まで「まだ現役で、これから大きな売上を生む」という扱いにして、減損を避けていたという。

5つ目は費用の資産計上である。本来は費用として利益から差し引くべきものを、「いずれ資産になる」として強引に資産に計上していた。

6つ目は連結範囲の調整である。約260社のグループ会社すべてが連結決算に含まれるわけではない。株の保有比率やエア・ウォーターの影響力の大きさによって、連結に含めるかどうかが決まる。話者によれば、同社は業績のよい会社を連結に入れ、業績が悪くなった会社は外し、回復したらまた入れるという微調整をしていた。

これらに加えて、調査委員会に嘘をつく、証拠を隠す、データを改ざんする、役員や社員同士で口裏を合わせる、といった行為もあったと話者は述べる。

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画像PDFの調査報告書が炎上した

話者によれば、エア・ウォーターがSNSで話題になったのは、不正の内容そのものよりも、その後の対応に問題があったからである。調査委員会の調査報告書は2月13日ごろにIRとして公開された。通常、調査報告書は文章ベースのPDFで作られ、「日本ヘリウム」や「架空在庫」といったキーワードで検索できる。ところが今回の報告書は、1ページ目だけが通常のPDFで、2ページ目以降は約300ページすべてが画像のPDFだった。しかも画像はガラケーの写メ並みに粗く、検索できないうえに読むことも困難だった。

これに対して「上場企業の役割を果たしていないのではないか」という批判が集まり、大きく炎上した。すると3月中旬ごろ、同社は「見えづらいという声をいただいた」として、目立たない形で報告書を差し替えた、と話者は紹介している。

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監査費用は例年の10倍、内部報告は870件

話者は、さらに話題になった点として監査費用を挙げる。最近出た決算短信で、同社が計上した監査法人への費用が約50億円だったという。話者によると、同社の監査費用は例年約5億円で、今回はその10倍にあたる。

規模の感覚をつかむために、話者はChatGPTに尋ねたという。その回答によれば、日本で監査費用が最も多いのは銀行で、メガバンクで年間40億〜50億円程度、トヨタで25億円程度だった。エア・ウォーターはトヨタの倍の費用をかけたことになる。監査法人側も1700人余りを動員したと話者は述べ、「事務所総出」だったと表現している。

費用が膨らんだ理由として、話者は調査範囲の広さを挙げる。発端が海外のマレーシアだったことに加え、同社はリニエンシー制度を導入した。社内で同様の不正があれば報告してほしい、報告すれば処分を軽くする、という仕組みである。その結果、870件の報告が寄せられた。グループ会社は約260社あり、870件を片っ端から調べなければならない。調査が不十分なら上場廃止の可能性もある。話者は、一度表に出た以上は徹底的に調べる必要があり、そのために莫大な費用がかかる構図だと説明している。

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カニラーメンで考える:売上原価の計算式

後半で話者は、ニデックなども行っていた架空在庫に企業がこだわる理由を説明する。そのための例として、話者がお祭りで「カニラーメン」を売るという想定を使う。ソフトシェルクラブを使うので原価が高く、1杯2000円で売り、原価は1杯1000円(原価率50%)とする。

1年目は1000杯分を仕入れる。仕入額は100万円である。800杯売れれば売上は160万円になる。素朴に考えると、売上160万円から仕入100万円を引いた60万円が儲けになる。

しかし会計では、売上原価を「期首在庫+当期仕入−期末在庫」で計算する。1年目は期首在庫がなく、仕入は100万円である。売れ残った200杯分の20万円は冷凍しておけば翌年使えるので、期末在庫になる。したがって売上原価は80万円で、利益は160万円−80万円=80万円になる。

話者はこの考え方を次のように説明する。企業は毎年続いていくので、その年の売上に関係した分だけを原価にしなければならない。仕入れた分をすべて使ったことにすると、利益が小さく見えて税金が少なくなってしまう。余った在庫は損失ではなく、まだ使える資産として扱う。

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2年目:在庫を持ち越すほど利益が膨らむ

2年目は目標を倍の2000杯にし、200万円分を仕入れる。1500杯売れれば売上は300万円で、素朴な計算だと儲けは100万円である。

会計上は、前年から持ち越した在庫20万円と今年の仕入200万円を合わせて220万円になる。1500杯分の150万円が売れたので、期末在庫は70万円である。売上原価は150万円となり、利益は300万円−150万円=150万円になる。

ここから話者は不正の仕組みにつなげる。在庫は翌年に持ち越されるため、その年の原価には含まれない。期末在庫を大きくすればするほど、最後に差し引く分が増えるので、売上原価は小さくなる。株主は「売上−売上原価」で表される利益を見て会社の良し悪しを判断する。そのため、期末在庫を盛れば盛るほど売上原価が小さくなり、利益が大きく見える。エア・ウォーターやニデックが期末在庫を大きく増やしていたのはこのためだ、と話者は説明する。日本ヘリウムについては、形のないものまで在庫として計上し、実在する在庫の倍以上を架空計上していたと表現している。前半の「半分以上が架空」という説明とあわせて、在庫の大部分が実体のないものだったという趣旨である。

話者は銀行員としての経験も紹介している。中小企業にも、毎年在庫が増え続ける会社がある。在庫が増えるほど利益が大きく見えるため、銀行に提出する決算書では業績がよく見え、融資が通りやすくなる。そのため期末在庫を調整して多めに計上するケースがあり、銀行員は在庫の増え方を毎年きちんと確認しているという。

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3年目:帳簿上は黒字、手元の現金はマイナス

最後の年は、前年に食中毒を出したという想定である。今年も2000杯分、200万円を仕入れたが、食中毒の件がSNSで掘り返されて話題になり、700杯しか売れなかった。売上は140万円で、素朴な計算では140万円−200万円=マイナス60万円になる。

会計上は、前年の在庫70万円と今年の仕入200万円を合わせて270万円になる。実際に売れたのは700杯分の70万円なので、売上原価は70万円である。残りの200万円は翌年に持ち越される。その結果、会計上は70万円の利益となり、この利益には税金もかかる。一方、財布からは現金が60万円出ていっている。

話者はこれを「黒字倒産」の説明につなげる。在庫が積み上がって会計上は利益が出ていても、その在庫が売れなければ現金にはならない。仕入のたびに現金は出ていき、利益には課税される。その結果、取引先への支払いや納税ができなくなり、黒字のまま倒産することがありうる。在庫は本来売るための前提で持つものである。しかし不正会計では、在庫を積み増して見せかけの利益を作ることができてしまう。その利益にも課税され、仕入で現金だけが先に出ていくため、利益は出ているのに手元の現金がない、という事態も起こりうると話者は指摘する。

話者は、在庫を翌年に持ち越すほど売上原価が圧縮されて見せかけの利益が大きくなる、という点が「在庫を増やせば利益が増える」という話の中身だとまとめている。

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送られてきた本の著者・豊田氏について

最後に話者は、送られてきた本の著者である豊田氏に触れる。豊田氏は今回の不祥事に伴って会社を離れている。ただし話者は、同氏の経歴を高く評価する。豊田氏は前身の会社に1957年ごろ、売上10億円の時代に入社した。本を出した2019年ごろには売上7000億円になっており、退任するまでには1兆円企業に成長していた。M&Aの第1号案件では、買収先に乗り込んで立て直し、黒字化させたという。

そのうえで話者は、1兆円というプレッシャーのなかで従業員が追い詰められ、社内のあちこちから不正の報告が上がるような会社になってしまった、と振り返る。会社としての成長は評価しつつも、今後のエア・ウォーターがどうなるかは見守るしかない、という形で話を終えている。