寝つきの悪さは「入浴のタイミング」で変わるかもしれない:睡眠指導の専門家に聞く、深く眠るための考え方

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概要

ベッドに入っても1時間以上眠れず、慢性的な睡眠不足に悩む聞き手の渡辺りんたろうが、SleepLIVEの代表で公認心理師・睡眠改善インストラクターの小林麻利子に相談した。小林は14年以上にわたり個人向けの睡眠改善支援を続け、近年は睡眠研究にも取り組んでいる。カウンセリングの内容を研究し、研究の成果をカウンセリングに生かしていると自己紹介した。

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小林の立場ははっきりしている。呼吸法や睡眠グッズなど睡眠を良くする方法は数多く紹介されているが、それぞれの効果には強弱がある。多くの人はその強弱を知らない。小林が最も重視するのは入浴による深部体温のコントロールだという。

相談内容:ベッドに入ってから1時間半眠れない

渡辺の悩みは具体的だ。前日は23時に寝るつもりだったが、ベッドに入ってから1時間半ほど眠れず、寝ついたのは0時半ごろだった。6時に起きる予定が8時まで起きられず、睡眠時間が足りないまま一日が始まる。これをほぼ毎日繰り返している。

以前、0時に寝て6時半に起きる生活を試したこともある。しかし寝つくまでに1時間かかるため、実際の睡眠は5時間半になった。6時間半眠ろうとすると就寝が1時になり、起床が7時半や8時にずれ込む。7時間眠っても回復した感じがせず、土日に9時間眠っても起きたときに疲れが残っているという。小林は冒頭で、この話だけでも指摘したい点がたくさんあると応じた。

睡眠は「スマホの充電」

睡眠はなぜ重要なのか。小林はスマートフォンの充電にたとえて説明した。日中にきちんと動かすには充電が必要で、充電しなければすぐに電池が切れる。人間の体も同じで、睡眠で充電しないと翌日を夜まで持ちこたえられない。

ここでいう「持ちこたえる」とは、最高のパフォーマンスを保つことを指す。小林は集中力に加えて、運動する人にとっての成長ホルモンの分泌も挙げた。筋肉をつけたい、仕事をもっと頑張りたい、美しくなりたいといった理想を追うために必要な充電が睡眠だという。

小林によれば、あまり眠らなくても一応は生きていける。しかしその場合、筋肉がつきにくい、太りやすくなる、肌が荒れる、決まった時間内に仕事が終わらず残業が必要になる、といった状態に陥る。渡辺が「決まった時間内に成果が出せず、その結果睡眠時間が短くなるループに入っている人も多いのでは」と指摘すると、小林も同意した。残業で寝るのが遅くなり、睡眠の質も時間も損なわれ、翌日の仕事の質も下がる。その悪循環が続くのだという。

休日の寝坊が生む「社会的時差ボケ」

小林がZ世代に多いと指摘したのが「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」である。土日に遅寝遅起きで長く眠ると、日本にいながらハワイへ旅行したような状態になる。月曜日に出社するにはリズムを前へ戻さなければならず、これがつらい。小林は、ハワイに着いた初日のしんどい時差ボケが毎週月曜日に起きている状態だと説明した。

小林はオーストリアの研究を紹介した。休日の寝坊の影響がいつまで続くかを調べたもので、体内時計が元に戻るまで3日かかり、影響は水曜日まで続くことが分かったという。月曜も火曜も水曜もつらく、木曜にようやく元のリズムに戻る。ところが別の疲労研究によると、週の半ばの水曜後半から疲労が蓄積していく。その結果、一週間ずっとつらい状態が続く。

渡辺は、土日はゆっくり寝て起き、月曜から早寝早起きに切り替えていると話した。小林はそれを「一番やばい」パターンだと指摘した。20代なのに30代や40代に見える人もいて、その背景に睡眠がある、というのが小林の見方である。

ただし小林は、これを本人の怠慢とは捉えていない。眠りの質を高める正しい方法を知らないだけだという。今40代の小林が育ったのは、睡眠不足や残業を良しとする時代だった。その世代が親になっても睡眠を良くする方法を知らないため、子どもに伝えられない。こうして眠りの悪い世代が続いているのが今の日本だと小林は語り、だからこそ本気で取り組んでいると話した。

睡眠は「量」か「質」か

渡辺は、量が大事という説と、短くても質が高ければよいという説のどちらを信じればよいかと尋ねた。小林は、質が高ければ睡眠時間は短くてよいという説には現時点で全くエビデンスがないとして、信じないよう求めた。

小林は睡眠を四角形で考えることを提案した。縦が眠りの深さ、横が睡眠時間である。眠りが深ければ睡眠時間は短くて済むことは分かっている。しかし眠りの深さには限度があり、最低でも6時間半から8時間の睡眠時間は必要だという。20代であれば、休日ではなく平日に6時間半から7時間は眠ったほうがよいと小林は勧めた。

小林は仕事の進め方にも触れた。脳が働いていない状態で遅くまでだらだら仕事を続けるのは非効率で、もったいない。プロのビジネスパーソンとして最高の仕事をしたいなら、区切りをつけて休息に切り替え、眠り、翌朝から最高の脳の状態で仕事をしてほしいと語った。

データで見る日本人の睡眠と、年齢による質の低下

小林はいくつかの統計を紹介した。日本人の睡眠時間は世界平均より約1時間短い。6時間未満の人は35〜50%、慢性的な睡眠不足の状態にある人は40%にのぼる。働く人の約80%が睡眠不足を自覚し、約89%が睡眠の質に不満を持っているという。

Z世代については、ある調査で寝つくまでに20分以上かかる人が20代で25%おり、他の世代より圧倒的に多かったと述べた。小林によれば、寝つきの悪さは本来年齢とは関係がない。10代でも80代でも寝つきの悪い人はいる。しかし50代や60代より日光を浴びて活動しているはずの20代で寝つきに課題があるのは、相当問題だと指摘した。

小林は渡辺に、眠りの質は年齢とともにどうなると思うかと尋ねた。渡辺は「上がるのでは」と答えたが、小林の答えは逆で、眠りの質は年齢とともに低下していくことが分かっているという。寝つきは年齢とともに悪化するわけではない。しかし質は落ちていく。今改善しなければ、寝つきが悪いうえに途中で何度も目が覚める状態になりかねない。小林はこう説明したうえで、深い眠りを得る方法の話に移った。

鍵は深部体温の「急降下」

小林は、深い眠りを得る鍵として深部体温を挙げた。深部体温とは脳や内臓の温度であり、脇の下で測る体温や手足の温かさとは全く関係がないという。

小林はクイズ形式で三つのポイントを示した。第一に、深く眠るには深部体温が下がっていく必要がある。第二に、下がり方は緩やかな場合よりも急降下のほうがよい。小林はジェットコースターの急降下にたとえた。第三に、寝るタイミングは体温が下がり切った底ではなく、下がり始める途中がよい。

さらに、一日のなかで体温の高低差を大きくすることも大事だという。眠れない人は日中に体温があまり上がらず、夜もあまり下がらない。日中は高く、夜は低くすることが必要だと小林は説明した。体温の高低差があり、体温が急降下するタイミングで眠りにつけば、何も考えなくても深く眠れる、というのが小林の説明である。

入浴は「40℃・15分」、寝るまでの間隔が大事

普通に生活していても体温は下がるが、家にあるものを使ってあえて体温を上げ、その反動で下げる方法がある。渡辺が「入浴」と答えると、小林は正解だとした。

小林は睡眠研究所のCROも務め、なかでも入浴の研究に最も力を入れているという。呼吸もアロマもストレッチも枕も大事だが、睡眠の質を圧倒的に高められるのは入浴だと強調した。温熱刺激が深部体温をあえて上昇させ、その後の急降下を作る条件に合うからだという。サウナについては、自宅にあって就寝2時間前ぐらいに出られるならよいとした。ただ外出先では都合のよい時間に入れないことも多いため、家の風呂で十分だという。

小林が示した目安は、40℃の湯に15分である。これで深部体温が約0.5〜1℃、場合によっては1℃以上上がり、その後の下がり方の角度が大きく変わるという。小林の研究所では、シャワーの場合と40℃の湯に20分浸かった場合を比べた。シャワーでは深部体温の下がり方が緩やかだったのに対し、湯船では急降下した。この傾向は眠りに入った後も続き、傾きの差は約4倍だったと小林は報告した。

渡辺は毎日湯船に浸かっている。ただ、41℃ほどの湯に20分入り、しっかり汗をかいていた。さらに風呂から上がって寝るまでが20分程度しかない日も多く、前日もそうだったという。小林は、湯温がやや高く、深部体温が上がりすぎていると指摘した。入浴で上がった体温はいったん平熱に戻り、そこから下がっていく。大事なのはこの下がるタイミングで眠ることである。上がった状態のまま寝ようとすると、寝つきが悪くなったり途中で目が覚めたりするという。

小林の基本的な目安は、入浴後1時間ほどで寝ることだ。浴室が涼しい家なら1時間で十分な場合もある。代謝が良さそうな渡辺には、1時間から1時間半空けることを勧めた。その間は寝ようとせず、ベッドの上でぼんやりストレッチなどをして過ごし、体温が下がるタイミングで自然に眠ればよいという。

小林は、渡辺が「寝つきに1時間かかる」と感じていたのは、入浴で上がった体温が下がってくるまでに単にそれだけ時間がかかっていただけかもしれないと述べた。病的な状態ではない可能性がある。入浴を1時間前倒しするだけでかなり改善するケースも多いという。平日の睡眠の質が悪いため土日にしわ寄せが来ているだけかもしれず、そこも改善しうると小林は見ている。

「考えるな、感じろ」:前頭前野を休ませる

小林は、さらに深い眠りを得る方法として、自律神経にかかわる話を続けた。考え事や仕事、寝る直前までのスマホで、交感神経が強く優位になっている人が多いという。

眠れないときに何をしているかと聞かれ、渡辺は答えた。何も考えないようにしても仕事のことを考えてしまうので、好きなサッカーでプレーしている様子を妄想するという。小林は、妄想するのもある程度は考えている状態だと指摘した。考えるときには額のあたりにある前頭前野が働いている。ここが働いていると、入浴で深部体温を上げ下げしても脳が熱いままになり、眠りに入れず質も下がるという。

そこで小林が勧めるのは「考えるな、感じろ」である。明日何をするか、サッカーでどう動くかといった思考をいったんオフにし、体の状態を感じる。たとえば呼吸で、口から温かい空気が抜け、鼻から冷たい空気が入ってくるという温度の変化を感じる。こうして受容することが前頭前野を働かせない方法だという。

呼吸で心拍を落とす:現時点では「4秒吸って6秒吐く」

交感神経が高い人は心臓が強く速く打っている。小林によれば、道具を使わずに心拍を遅くできる方法は呼吸だけである。自分の手の中に心臓があるとイメージしながら呼吸を繰り返すと、呼吸の速さと心臓の動きが共鳴することが分かっているという。

何秒かけて吐けばよいかは、小林自身がまさに研究中だという。これまでに、4秒吸って4秒止めて7秒で吐く方法や、小林の著書で提唱した3秒吸って2秒止めて5秒で吐く方法もあった。しかし現時点の研究では、4秒吸って6秒かけて吐く呼吸で、リラックスを示すアルファ波が増え、活動を示すベータ波が減る良い脳波の状態が得られているという。小林はこれを2026年4月時点の結果とし、今後の検証で変わる可能性があると留保した。

心の持ち方:「別に寝なくてもいいや」

最後の要素は心である。渡辺は「早く寝なきゃ」と強く思ってしまうと話した。小林は、睡眠は無意識のうちに起こる現象だと説明する。早く寝なければと意識的に動かそうとした時点で、絶対に眠れないという。

小林が勧めるのは「逆説的意図」と呼ばれる考え方だ。自分がこうしたいと思っていることの逆を、あえて思う。早く寝なければと思うなら「別に寝なくてもいいや」と思い、明日のプレゼンを絶対成功させなければと思うなら「失敗してもいいか」と思う。番組では、小林の言葉を渡辺が復唱する場面もあった。

小林によれば、寝る前は理性的な脳機能を担う前頭前野の働きが低下し、扁桃体など感情的な脳機能が目立つ状態になる。そのため普段より否定的な考えになりやすい。渡辺も、普段はポジティブなのに寝る前になると急にネガティブな思考が強くなると話した。小林は、それが人間の古い脳、本能に近い状態だと説明した。そこで「どうしよう」と考えると交感神経が刺激され、心拍も速くなる。

小林は、心から納得できなくてもよいという。「小林が言っていたし」くらいの気持ちで、目をつぶって呼吸だけしておけばよい。呼吸や脱力、受容といった行動を取れば、体は勝手に変わり、勝手に眠れるようになるという。渡辺も、眠れないときほどいろいろ考えていて、眠れるときは気絶するように寝ていると振り返った。

寝る前の自分は「バカ」だから、整理は睡眠に任せる

小林はさらに、脳は睡眠中のほうが整理整頓されると付け加えた。多くの人は寝る前に頭の中を整理しようとするが、寝る前の脳は働きが落ちているのだから、そのときに頭を整理しようとしなくていい。いったん睡眠に任せてしまえば、深く眠れたときには朝すっきりしている。どうでもいいことや言われた嫌なことも睡眠が整理し、忘れさせてくれるという。小林自身、夫婦喧嘩をしても翌日にはけろっと忘れていると話した。渡辺が「寝る前の自分より、寝ている自分のほうが頭がいい」とまとめると、小林は「寝る前の自分はバカなんだから、何も考えなくていい」と応じた。

ただし小林は、その土台になるのはやはり入浴による深部体温のコントロールだと念を押した。一つだけやるなら入浴を勧めるという。入浴だけでも、眠たくてたまらない状態になると小林は述べた。

平日の質を上げれば、休日に寝溜めしなくなる

入浴、受容、呼吸、心の持ち方を平日にきちんと実践すれば、体内リズムが整ってくる。週5日の睡眠の質を高めれば、土日にあえて長く寝ようとは思わなくなる。小林はこの状態を作ることが大事だと述べた。

では寝溜めはできるのか。小林の答えは「できない」だった。できる方法があればノーベル賞級だろうという。睡眠研究は進んでいるが、睡眠を短時間で済ませる方法も見つかっていない。睡眠を味方につけずに生きることもできる。しかしその場合、パフォーマンスが落ち、人より早く老化し、医療費がかかり、早く死ぬかもしれないと小林は語った。今は若いと思っていても、30代、40代、50代もすべて自分である。将来笑顔で生きるためにも、20代は大事な時期だと締めくくった。

この後、動画はベッドを使った実践パートに移る。寝始めの姿勢が大事であること、枕なしで寝ているという渡辺への指摘、カップルで同じベッドを使うことへの言及などが断片的に映っているが、詳しい内容は後半の動画に続く構成になっている。