「守備を免除されたスター」の時代は終わるのか 戸田和幸が語るW杯2026の新しいスター像

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概要

W杯2026直前、岸谷蘭丸さんは元日本代表の戸田和幸さんに「スター選手は何がすごいのか」「最近スターが少なくなったと言われるのはなぜか」を尋ねた。戸田さんは、メッシやマラドーナ級の選手が少ないこと自体は認める。そのうえで、スターの条件そのものが変わってきていると答えた。攻撃に専念して守備を免除される天才ではなく、チームの仕事をすべてこなし、その上で特別なものを見せる選手が新しいスターになる、というのが戸田さんの見立てである。

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メッシ級の選手がいないのは今に始まった話ではない

「最近スターが少なくなった」という声について、戸田さんはまず、今のメッシと同じくらいのインパクトを残している選手はいないだろうと認める。ただし、歴史を振り返ってもそういう選手はほとんどいないとも言う。マラドーナがいて、その前にもクライフのような存在がいた。世界のフットボールは、そうした並外れた人物によって進化し、人を魅了してきたというのが戸田さんの理解である。メッシとロナウドの次はエムバペなのかもしれないとしつつ、戸田さんが強調したのは、クラブレベルでフットボールそのものが変わってきているという点だった。

役割が変わった理由:GKの攻撃参加と「マイナス1」

戸田さんは自身の現役時代を約20年前と振り返り、当時との違いの例としてゴールキーパーを挙げた。今のGKは当たり前に攻撃に参加し、近くにも遠くにもパスを出せる。そうなると、相手からボールを奪おうとするとき、仮にストライカーが守備をしなくてよいことになっていれば、GKが攻撃に加わった時点で数的にマイナス1になり、ボールは取れない。こうして一人ひとりがやらなければいけないことが変わってきた、と戸田さんは説明する。

一昔前までは、守備はしなくていい、たくさん走らなくていい、その代わりボールを渡したら仕事をしてくれ、と明確に免除される選手がいた。それで時代を作った選手もいるし、メッシは今でもそれができるのだろうと戸田さんは言う。一方でクラブレベルでは、たとえばパリ・サンジェルマンのようなチームでは全員が当たり前に走り、自陣で守備をし、そのままボールを運んで攻撃する。

デンベレのバロンドールが示すもの

戸田さんが新しいスター像の象徴として挙げたのが、昨シーズンのバロンドールを受賞したパリ・サンジェルマンのデンベレだ。デンベレはもともと驚くほどの才能があると言われながら、ポケモンGOに夢中になるような面も話題になり、走らない選手というイメージがあった(ここで出演者たちは笑っている)。そのデンベレが、誰よりも献身的にプレッシャーをかけ、戻り、動き、ボールを持てばパスをして走る。それを続けてヨーロッパの頂点に立ち、バロンドールも取った。戸田さんは、こういう選手がこれからのスーパースターの一つの新しい形ではないかと考えた。

戸田さんは、これは才能があるからこそ意味のある話だと付け加える。才能のない選手は、戸田さん自身もそうだったように、足がつるまで走るのが当たり前だった。しかし、あれだけ才能のある選手が誰よりも献身的に足を使うというのは、これまでなかなかなかったことだという。

同じことはセンターバックにも当てはまると戸田さんは話す。攻撃に参加しながらハイラインで背後のスペースもケアしなければならず、仕事量は大きく増えている。それをこなせる選手が時代とともに新しく生まれてきており、10年前の試合とは明確に違う、と戸田さんは言う。

時間と空間が狭くなるなかで求められる能力

変化の背景として、戸田さんは選手の身体能力の向上を挙げる。みんなが体を鍛え、速く走れ、高く跳べ、長く動けるようになると、ピッチ上の空間は狭くなり、プレーのための時間は短くなる。一昔前に比べて、1回のプレーで得られる時間と場所が小さくなっているため、違う能力が必要になる。わずかな時間と空間ですごいことができる選手がこれからもっと出てくるだろうし、すでにいるとも戸田さんは述べた。

デンベレの前年にロドリがバロンドールを受賞したことにも触れ、このポジションの選手が取るのは非常にまれだと指摘する。フットボールにおいて「へそ」のポジションがいかに大事かを、ロドリがスペイン代表とマンチェスター・シティで証明したからだろうと戸田さんは見ており、それも自分にとっては十分スーパースターらしいと言う。

戸田さんは今後の方向性をバスケットボールにたとえた。免除されるものがどんどん少なくなり、全員がオールラウンドにこなすのが当たり前になる。すべての水準が高いうえで、さらにどこにスペシャルなものがあるのかが求められていく。漫画に出てくるような「10番の天才」「スターは汗をかかない」という像は、今の時代にはもう当てはまらない、というのが戸田さんの立場である。

ヤマルよりオリーセ、そして「守備をしない2人」の問題

番組が用意した注目選手の資料を見ながら、戸田さんはヤマルを「めちゃめちゃすごい」と認めつつ、自分ならオリーセを挙げると言った。当たり前にやるべきことをやった上でアタックもスーパーになるので、チームの穴にならない。相手から見て「ここを突けば守備が弱い」という場所がなくなる、というのが理由だ。

エムバペについても戸田さんはすごい選手だと評価する。ただ、レアル・マドリードが不安定なときは、エムバペとヴィニシウスが2人とも出ているときが一番難しくなっているのではないかと見る。岸谷さんが「守備をしない2人ですか」と確認すると、戸田さんはそうだと答えた。

そこから戸田さんは、ストライカーに求められることも変わってきている可能性があると話す。点を取るのは特別な能力なので、それを備えた選手はいた方がいい。だからハーランドのような選手はスーパーだとなる。一方、先に話題にした選手は、点を取る能力だけで比べればやや劣るかもしれないが、トータルで見るとチームのためにさまざまなことをしており、それも新しい時代のストライカーの一つの形かもしれないという。サッカーは全員で行うスポーツなので、誰かが何かをしない場合は他の選手がカバーしなければならない。そのカバーが効くチームであれば問題ない、と戸田さんは留保も付けている。

各国の見どころ:メッシとロナウドのいる代表

優勝候補のフランスについて、戸田さんはエムバペがいるときにデンベレがどう使われるかなど、パリでの役割とは変わる部分があり、どこまで行くかは分からないと述べた。

前回王者アルゼンチンについては、メッシがさらに4歳年を重ね、できることは少なくなっているだろうと戸田さんは見る。ただ、アルゼンチンはメッシのためにチームが尽くす度合いが並外れており、試合を見ると全員がものすごく戦っている。岸谷さんが「宗教ですよね」と言うと、戸田さんも同意し、メッシだけが違うところにいると表現した。メッシが明確に失ってきているものもあるなかで、このバランスでどこまで行けるかがポイントだという。

ポルトガルのロナウドも同様で、ゴール前の駆け引きとフィニッシュは今でもすごいが、全体の運動量や連続性は落ちていると戸田さんは話す。そうした要素をトータルで見て、どのチームが強いのかがW杯の見どころになるという。

2006年ブラジルの教訓と日本のチャンス

監督がスターをどう使うかという話題では、戸田さんは2006年のブラジルを例に挙げた。カカやロナウジーニョなどバロンドール受賞者が何人もいながらバランスが取れず、うまくいかなかった。スターがいれば見る側はワクワクするし華やかだが、チームとしてきちんとプレーするにはバランスが問われる、もしくは全員でそれができるかが問われる、と戸田さんは言う。

その文脈で戸田さんは日本代表に触れ、能力の高くなった選手たちが全員でそれをできるので、日本にとってのチャンスは大きくなっていると述べた。

注目選手:ヴィティーニャ、ヌーノ・メンデス、ヴィルツ

資料にある他の選手についても話が広がった。ブラジルの選手については、特にカウンター局面での突破を評価し、チーム構成次第で来るかもしれないと戸田さんは話す。ブルーノ・フェルナンデスについては、岸谷さんが「守備もして走って汗をかいて、なおかつファンタジスタでもある現代型のスター」と表現し、戸田さんも素晴らしい選手だと応じた。リヴァプールで挑戦を続けるヴィルツがどこまで行くかも、戸田さんは個人的に楽しみにしているという。

戸田さんがさらに挙げたのがポルトガルのヴィティーニャとヌーノ・メンデスだ。ヌーノ・メンデスについて戸田さんは、サイドバックであれほど当たり前に1対1が強く、うまく、速く、インサイドも取れて点も取れる選手はいないと評価する。岸谷さんは「うますぎて萎える」「こいつがいたら勝つじゃん」と笑い、戸田さんもポルトガルにはタレントが多いと述べた。

スペインについては、戸田さんは本当にバランスがよく、隙がない、穴がないチームだと評価する。

W杯という舞台がスターを作る

戸田さんは、W杯が4年に1度しかないからこそ、そこでのパフォーマンスのインパクトは大きいと話す。クラブでの活躍に加えて、そこでもう一つすごいことを見せられるかどうか。1986年のマラドーナの5人抜きが40年経っても語られるように、伝説が残る大会だという。岸谷さんが「メッシもW杯を取って神になった」と言うと、戸田さんも同意した。新しい選手が出てくるかもしれないし、今すごい選手がもう一段上に行く可能性もある。ただし、当たり前のことを当たり前にやるという水準自体が上がっており、その上にスーパーなものがあるかが問われる時代になっている気がする、と戸田さんはまとめた。

岸谷さんはこれを受けて、今回の大会はメッシやロナウドといった「旧時代の最後の走らないスター」と、走れるようになった新しいスターたちがぶつかる大会だと整理した。戸田さんは改めてデンベレの名前を挙げ、ああいう選手が出てきて本当に良かったと話す。これだけの天才がここまでやってくれれば、世の中の監督は「デンベレが走っているんだからお前もやれ」と言えるようになる。それだけのインパクトがあると戸田さんは考えている。

「エムバペキッズ」の岸谷さんとフランスの編成

岸谷さんは自身を、2018年W杯からサッカーを見始めた「エムバペキッズ」だと話す。戸田さんはその大会でフランスがアルゼンチンを破った試合を現地で見ていたという。当時のフランスはジルーとグリーズマンが中央で、点を取る以外の仕事をほぼすべて引き受け、全員が「エムバペ行け」という形で戦っていた。戸田さんはそういうチーム編成もありだと言う。

ただ、今のフランスにはデンベレもオリーセもいて、そうはならないだろうと戸田さんは見る。そのとき最前線に誰が最適なのか。意外にテュラムが良いかもしれないとしつつ、エムバペは必ず出る。それが本当に高いレベルで融合するかが注目点で、結果として「やはりフランスは強い」となるかもしれないし、「すごい選手を並べればうまくいくわけではない」となるかもしれない。そういう見方をしても面白いと戸田さんは勧めた。

優勝予想:戸田さんはイングランドに含み、岸谷さんはスペイン

優勝予想を問われた戸田さんは、少し前まではイングランドもあるかと見ていたと答えた。ただ監督のトゥヘルがいろいろ試そうとする可能性もあると懸念を示す。代表チームはクラブのように作り込めないのが難しさで、W杯は本当に異常な舞台なので、理屈よりも情熱やモチベーション、出し切る気持ちが土台になりそうだという。それがはまればイングランドにもチャンスはあり、もちろんフランスもある。アルゼンチンはメッシのパフォーマンスが非常に重要になりそうで、ブラジルについてはどうかと思っていると述べた。スペインにもポテンシャルはあるが、センターバックがどうかという懸念がある。ユーロを制した経験値と成功体験はあるものの、W杯はまた違うとも話した。

岸谷さんは個人的な予想としてスペインを挙げ、「ペドリが全部やり、ヤマルが本物になる」という見立てを語った。一方で、アルゼンチンにも頑張ってほしいと付け加えている。

戸田さんの「現代型」ベストイレブン

最後に戸田さんは自作のベストイレブンを披露した。センターバックはアーセナルで本当にすごいという2人を選んだ。GKもアーセナルとセットにすることを考えたが、ラヤはスペイン代表ではサブなので、ピックフォードにしたという。ピックフォードについては岸谷さんも好きだと言い、2人とも、いつも余裕があり雰囲気に飲まれず楽しんでいる感じがする、メンタルが強そうだと話した。

サイドバックにはヌーノ・メンデスを入れた。戸田さんはすでにサイドバックの枠を超えた存在と言い、まずそのポジションとしてしっかり守備をしたうえで、そこからいろいろなことができて点を取るところまで行ってしまう、規格外の選手だと評価した。

中盤の中央はゲーム理解、戦術理解、ゲームコントロールを重視し、ロドリとヴィティーニャを選んだ。ヴィティーニャはサイズはないが、ドリブルもして点も取れる、これからの新しい中盤の中央の形だと戸田さんは言う。これからW杯を見る人にはポルトガルのヴィティーニャを見てほしいと勧め、ヴィティーニャが目立つチームになればポルトガルは上に行くが、中心がロナウドになったら行かないかもしれないと話した。ロナウドは最後に決める場面で仕事ができればよく、中心はヴィティーニャにしなければならないという見方だ。

ウイングにはルイス・ディアスとデンベレを選んだ。アタックの能力はもちろん、今のフットボールに即した戸田さんの定義として、戦えて走れて、前からプレスもかけて戻り、その上でチャンスを作り点も取る、という「全部当たり前にやる」選手を基準にしたという。味方に与えられるものの多さで考えたと戸田さんは説明し、「僕のスーパースターはデンベレなんで」と語った。岸谷さんが「戸田さんのスーパースターがデンベレなのはいい」と反応すると、戸田さんは「自分が監督だったら言うことを聞いてくれないと思う」と笑いを誘った。

センターフォワードはケインも考えたが、ハーランドは外せないと判断した。注目度の面でも、スピードで仕掛けてアクションを起こすときが一番すごく、クロスに合わせるのも上手になってきているので、W杯で爆発する可能性があると戸田さんは見ている。岸谷さんが、ノルウェーが守ってハーランドに蹴れば点が取れてしまうような試合もありうると言うと、戸田さんもその可能性を認め、それなりにボールも持てるチームだと付け加えた。

戸田さんはセカンドチームも用意しており、ノイアー、マルキーニョス、リース・ジェームズ、ペドリ、バルベルデ、ヤマル、アルバレスらの名前が挙がった。アルバレスが入っていることを岸谷さんは喜んでいた。

番組は、W杯を楽しもうという言葉で締めくくられた。新旧のスターがぶつかる大会で、すごい選手を並べたチームが勝つのか、それとも全員が当たり前のことをこなした上で特別なものを持つチームが勝つのか。戸田さんが示した問いの答えは、大会の結果に委ねられている。