素潜りと手銛で105.5kgのイソマグロを仕留めるまで:スピアフィッシャー小坂薫平が語る海の危険と本能
VAIENCE バイエンス人は銛1本で、どれほど大きな魚と渡り合えるのか。VAIENCEの今回の回では、素潜りと手銛で大型魚を狙うプロスピアフィッシャー、小坂薫平が登場する。泳ぐこともままならなかった大学1年から、誰も成し遂げていなかった100kg超のイソマグロを手銛で仕留めるまでの経緯を語る。魚に気づかれずに近づく技術、息止めの生理、サメに襲われかけた体験、海で見た光景についても話している。動画タイトルは「海で最も危険なことは何か」だが、小坂自身が最も死を身近に感じると語るのは、サメではなく波と潮流だった。
泳げなかった大学1年生が魚突きを始めるまで
小坂が魚突きを始めたのは、東京海洋大学に入学した春である。幼い頃から海中の世界に憧れていたものの、当時はまともに泳げなかったという。入学初日に友人とサークル案内を回ったが、興味を引かれるものが見つからない。帰ろうとしたところで、日焼けした先輩に「バディどう?」と声をかけられた。「バディ」の意味も分からなかったが、自分たちの活動や海がいかに最高かを目を輝かせて語る先輩に引き込まれ、その場で入部を決めた。
入部した週末に初めて海へ出たが、波打ち際で溺れかけた。先輩たちに水深4〜5m程度の場所へ連れて行かれたものの、足のつかない場所で泳ぐこと自体が怖く、心臓が激しく打った。取り乱すのは格好悪いので「静かにパニックになってました」と本人は笑う。当時は水深5mを往復するのが精一杯で、海中にいられる時間も30秒に届かなかった。
85cmのヒラメで「本気で生きていた」と感じた
転機は大学1年の秋に訪れた。泳いでいると、巨大な絨毯のようなものが下をひらひらと通り過ぎた。85cmほどの大きなヒラメだった。夢中で真ん中を狙って突くと、ヒラメは激しく暴れた。
ここで小坂は、海の中での人間の力がいかに弱いかを説明する。たとえば3kgほどのカンパチを水深15mで突いた場合でも、カンパチが走れば人間はそのまま引きずり込まれるという。80cmを超えるヒラメの力は相当なもので、自作の銛は大きく曲がった。銛はその後抜けたが、傷を負ったヒラメは近くで動きを止め、バディを組んでいた友人が回収した。これが初めて仕留めた大物になった。
実際にヒラメと格闘していた時間は10秒にも満たなかったと小坂は振り返る。それでも、その瞬間だけは本気になっていた。後から「あの瞬間、本気で生きてたな」と感じたことが、大物との勝負に惹かれていくきっかけになったという。
1枚の写真からイソマグロを追い始める
大学2年のある日、授業中に手銛の材料を調べていた小坂は、1枚の写真に目を奪われた。大きくぎらついた目、魚とは思えないような顔つき。「頭吹っ飛ばされた」と表現するほどの衝撃を受け、生涯で一度はこの魚を自分の手で獲りたいと思った。写っていたのがイソマグロである。
ナレーションによれば、イソマグロはインド洋から太平洋の暖かい海に広く生息する大型魚で、外洋に面した岩場や珊瑚礁の周辺を泳ぎ、魚やイカを捕食する。多くは1〜1.5mだが、大きなものは全長2m、体重100kgを超える。走り出せば人間の力では止められず、人が沈められないほどの浮力を持つブイも簡単に海中へ引きずり込むため、「磯のダンプカー」とも呼ばれる。100kgを超えるイソマグロを素潜りと手銛で仕留めた人は、それまでいなかった。
写真を見た当時、小坂はイソマグロがどこにいて、どう獲るのかをまったく知らなかった。大学4年頃には海中で何度か遭遇できるようになったが、捕獲は夢のまた夢だった。仕留めるには銛先から1.5m程度まで近づく必要があり、下の方に姿が見えるだけでは手が出せないからだ。
40kgの記録を申請しなかった理由
大学4年のとき、ある島からの帰りのフェリーで、小坂は今も「師匠」と呼ぶ人物と知り合った。大学を卒業した2018年、師匠に無理を言ってイソマグロのいる海への遠征に同行し、40kgのイソマグロを仕留めた。写真と出会ってから3年が経っていた。
憧れの魚を獲り、小坂は泣くほど感動した。しかし少し経って冷静になると、その場所は自分で見つけたわけではなく、師匠に連れてきてもらったにすぎない、と考えるようになった。これでは自分でイソマグロを突いたとは言えない。ナレーションによれば、40kgは申請すれば当時の魚突きの世界記録として認められる可能性があったが、小坂は申請しなかった。
そこで次の目標を定めた。自分で見つけた、誰もイソマグロがいることを知らず、誰もそこで獲っていない場所で、1人で獲る。そうして初めて「イソマグロを獲った」と言えるのではないか、と考えたのである。その後、小坂は自らイソマグロの生息地を探しながら各地の海に潜り続けた。
「Mission100」:5年と区切った挑戦
2020年、小坂は仲間たちと新たな挑戦を始める。100kgを超えるイソマグロを素潜りと手銛で仕留めること、そしてその過程をドキュメンタリー映画として記録することだ。毎年2ヶ月、仲間が仕事を休んで遠征し、撮影しながら潜った。
イソマグロ自体は何本も獲れた。85kgの個体もあったが、100kgには届かない。映像には、大きな好機を逃して自分を責める小坂の声も残っている。毎年2ヶ月、自費で、しかもその間仕事をせずに続けるのは、気力の面でも苦しくなっていった。そもそも手銛で100kg超を獲った前例がなく、可能かどうかも分からない。そこで仲間と話し合い、期間を5年と決めた。最後の5年目が2025年の遠征だった。
最終日の最後の2時間
2025年5月、最後の遠征の最終日。翌日からは海が荒れる予報で、残された時間は朝の2時間だけだった。2時間あれば6回ほど潜れる。これが最後の6回だと小坂は考えていた。
前日までは海中にサメが多すぎて、イソマグロを突ける状況ではなかった。大きなイソマグロは群れの一番下にいるため、そこへ行くには3mほどのサメの横に並び、その下へ潜り込まなければならない。ところがその日に限って、サメが1匹もいなかった。
2、3回目の潜水で群れを見ると、明らかに1匹だけ縮尺のおかしい個体がいた。見た瞬間に「絶対あれだ」と確信した小坂は、魚が自分の前へ流れてくるよう余計な動きを控え、息を殺して待った。
ただ、そこで迷いが生じる。イソマグロのことを「24時間365日」考え続けてきた小坂には、いつか仕留めたい理想の個体像があった。年を重ねた雌で、体中傷だらけの、恐竜のような顔をした「超かっこいい」魚だ。目の前に来た個体はその正反対で、つるりとした「美肌の雌」のような顔をしていた。銛を一度放てば、成功しても失敗してもその日の挑戦は終わる。5年間の最後の1匹が本当にこの魚でいいのか、と迷った。
迷っているうちに、小坂は速い潮流に流されて魚から離れていった。そのとき後ろから見たシルエットが、別の意味で小坂がずっと獲りたかった形をしていた。本人が「爆弾」と呼ぶ体型である。「あいつしかいない」と思い直し、海中で追いかけた。
距離は1cmずつしか縮まらない。小坂が強く蹴るほど、何かが追ってくることを察した群れの緊張が高まっていくのが分かったという。あと一蹴りすれば逃げられる、という地点で狙える場所は1箇所しかなかった。背中である。これまで何度も打っては失敗してきた場所だったが、今の自分なら行けるかもしれないと考えて銛を放った。
普通なら刺さったイソマグロは海底へ走る。ところがこのときは、浮上してもロープに張力がかからない。抜けてしまったかと思って下を見ると、イソマグロは銛が刺さったまま群れの中を泳いでいた。とんでもない魚を打ってしまった、と小坂は感じたという。激しい攻防の末に少しずつロープを手繰り寄せ、ついに海面へ引き上げた。全長およそ2m、体重105.5kg。ナレーションによれば、5年間の潜水はおよそ2800回に及び、正真正銘最後の6回の中で成功したことになる。
魚を目の前にしたとき、小坂はさまざまな感情が込み上げたと語る。生まれてから日々選択を重ねてきた中で、どれか1つでも違っていれば今この瞬間にはたどり着かなかった。そう思うと、これまでのすべての出来事と人に感謝する気持ちが湧き、泣いたという。
魚に気づかれずに銛を放つ技術
巨大魚を銛で仕留めるには、1mほどの距離まで近づく必要がある。しかし魚は、人間が目で捉えるより先に水中のわずかな変化から相手の存在を察知している、と小坂は言う。魚の視力は陸上の人間の基準では弱いとされる。一方で、人が街中で音の方向や距離、何が起きたかを見なくてもある程度把握できるように、魚も側線で水圧や水流の変化を敏感に感じ取っている。匂いや目も使いながら、人間が陸上を見ているのと同程度の解像度で海の中を見ているのではないか、というのが小坂の実感である。だから銛という長いものを持って近づくと、すぐに気づかれる。
そこで小坂は、銛を前に突き出さず、なるべく体に引き寄せて近づく。そのとき魚は基本的に小坂を見ていて、目が合っている。打つ場所を決めてゴムを引くと、銛とゴムが擦れてわずかに「キュッ」と音が鳴る。銛を出すと、それまで小坂と目が合っていたイソマグロの目が銛先の方へぐりぐりと滑っていく。側線で銛先に気づいた瞬間だ。その信号が脳に届き、尾を動かすまでの神経伝達より先に銛を放てれば、狙った場所に当たる。小坂はそう説明する。
息苦しさの正体とコントラクション
その一瞬にたどり着くには、呼吸のできない海中で長く待ち続けなければならない。小坂の記録は素潜りで水深68m、陸上での息止めは6分45秒である。
小坂によれば、息止めに慣れていない人がすぐ苦しくなる原因は二酸化炭素だ。息を止めると酸素が使われて二酸化炭素が出る。それが血液に溶けて酸性に傾くと、体はそれを感知して呼吸を再開させようとする。しかし失神するかどうかを決めるのは体内の酸素量のほうである。最初は酸素はそれほど減っていないのに、二酸化炭素が増えて苦しさだけが強まっていく。低酸素の世界はその先にあるので、最初の苦しさにはある程度慣れていく必要がある、と小坂は話す。
さらに苦しさが強まると、本人の意思と関係なく胸や腹に呼吸しようとする動きが現れる。これがコントラクションだ。横隔膜の痙攣と言われることが多いが、小坂は厳密には肋間筋が開こうとする動きだと考えている。肋間筋が開いても息を止めているので肺は膨らめず、代わりに横隔膜が押し上がる。それがコントラクションと呼ばれる現象ではないか、という見立てだ。陸上ならまだしも、水圧で肺が縮んでいるときにコントラクションが来ると肺の中が陰圧になり、肺胞が傷つくこともある。不快な動作でもあるので、普通はコントラクションが来たあたりでやめるのがいい、と小坂は言う。それでも耐え続けると、血中の酸素がいよいよ下がっていく。ナレーションは、二酸化炭素による苦しさとは違い、低酸素は意識の喪失、つまりブラックアウトに直結すると補足している。
哺乳類潜水反射と「海に溶けていく感覚」
小坂は、アシカやマッコウクジラを例に挙げる。アシカは長時間海中を泳いで魚を探し、陸に戻ってくる。マッコウクジラは水深3000mほどまで潜り、1〜2時間潜水できるとされる。彼らにエラがあるわけではなく、人間と同じ哺乳類として肺で呼吸し、息を止めて潜っている。なぜそれができるのか。小坂の説明では、哺乳類は海から来た生き物で、そのときの本能がまだ残っているからだ。それが哺乳類潜水反射(Mammalian Dive Reflex、小坂らはMDRと呼ぶ)で、誰の体にも備わっているという。
ナレーションによれば、この反射が起こるとまず心拍数が下がり、酸素消費が抑えられる。手足など末端の血管が収縮し、限られた血液と酸素が脳や心臓に優先して回される。さらに深く潜ると、末端の血液が胸部へ移動するブラッドシフトが起こり、水圧で縮む肺を内側から支えることで、より深く潜れるようになる。
小坂が面白いと語るのは、この反射が緊張や恐怖でリラックスできていないと出てこない点だ。体を緩めていくと初めてうまく働く。末端から自分の輪郭がぼんやりしていき、海に溶けていくような感覚があり、頭が少しぼうっとしてくるという。海に慣れれば40mくらいまでは普通に潜れるようになる、と小坂は笑いながら付け加えた。
最も危険なのは波と潮流、そしてパニック
最も死を身近に感じる瞬間について、小坂はまず、サメや低酸素によるブラックアウトは想像しやすい分かりやすい脅威だと前置きする。そのうえで挙げたのは波と潮流だった。時速2km程度の流れは、歩く速さで考えればゆっくりに感じる。しかしウェットスーツを着てフィンを履いて海に浮いた状態で、その流れに逆らって泳ぎ続けるのはかなり難しい。
海の中で状況が悪くなったとき、陸のように助けを呼んだり、誰かに尋ねたりはできない。自分1人で対処して生きて帰らなければならないという確実な実感や孤独感を、そういうときにこそ感じるという。このままでは帰れないかもしれないというときにパニックになれば死ぬ。大学の4年間、先輩たちから、慌てるのが一番危なく、パニックが最も良くないと教わった。小坂が実践しているのは、自分の状態を観察して把握することだ。息が上がっている、頭に血が上っている、呼吸が速くなっていると気づけば、意図的に深呼吸して落ち着かせる。
サメは「友達」ではない
小坂は、海外のインフルエンサーなどが言う「サメは友達」という見方を否定する。サメは肉食の動物で、個体や種類によって性格がまったく違う。たとえば2m未満の若いサメのほうが攻撃的で、3〜4mのサメのほうが慎重で落ち着いている、というのが小坂の見立てだ。それでも相手の機嫌次第でこちらがやられかねないので、不用意に近づいたり、余計なちょっかいを出したりはしたくないという。
ただ、自分から近づかなくてもサメの方から寄ってくることがある。長年追い求めていた2m超の大物を仕留めたときのことだ。いつもはその海域で突いた魚をサメに奪われるが、この日は魚がすんなり上がってきて、サメも少なくて幸運だと思っていた。ところが気づくと大量のサメが集まっていた。小坂は、サメはプールに血を一滴垂らしても匂いが分かるほど感覚が鋭いらしいと話す。目の前で大きな魚が暴れると、感覚が鋭すぎて行動を制御できなくなる「狂乱索餌」状態に陥り、近くの動くものすべてに噛みつこうとする。そうなりかけていたサメが、下から突っ込み、水面を泳ぐ小坂の後ろから口を開けて追ってきた。船に戻るまでに足か腕が1本なくなってもおかしくないと感じたという。
なんとか船に戻り、船長に銛を渡して船に上がった。あとは魚を引き寄せて上げるだけというところで、下から真っ黒な塊が突き上げ、水柱が上がった。昔の人はこういうものを見て海坊主だと思ったのかもしれない、と小坂は振り返る。
それでも、ずっと目標にしていた魚をサメに奪われたのが許せず、小坂はもう一度潜って同じ種類の魚を突いた。今度は自分が魚側のロープを持っていたのが悪かったと考え、魚を走らせて自分だけ船へ戻ろうとした。ところが、残骸が漂うエリアに入った途端にサメが近づき始め、20mほど下には、さっきまでいなかった4m級のオオメジロザメがいた。先ほどの魚がバラバラにされた場所で、20分ほどの間に海域中のサメが血の匂いに集まっていたのだと小坂は理解した。またも同じ目に遭いながら船に戻ったが、走らせた魚も結局食われてしまった。
腹を立てた小坂は三度目に飛び込んだ。まだ何もしていないのに、下にはサメの竜巻ができていた。一斉には襲ってこないが、1匹ずつゆらゆらと下から近づいては消えていく。様子を見に来ていると感じたとき我に返り、これ以上やれば本当に死ぬと思って引き上げた。
トラウマとの向き合い方
その場ではアドレナリンが出ていたため何度も潜れたが、その後の数年間はトラウマになったという。魚を突いてサメに襲われたような沖の場所に潜ると、自然に呼吸が速くなり、背中から嫌な汗が出る。少しでもサメの気配があると、潜りにまったく集中できなくなった。
しかし小坂は、サメがいたから怖がる、いないのに出そうだから怖がり続ける、というのは違うと考えた。少しずつサメの動きを観察し直し、その個体が自分に対して何を考えているのかを理解しようとしたという。今も「大丈夫ではない」が、イソマグロを突く場所はサメが非常に多いので、なんとかしていくしかない。人が立ち入らない場所へと大物を探していけばいくほど、こうしたことはつきものであり、自分の魚突きの一部だと小坂は受け止めている。
海で出会った光景:怒るイソマグロ、バショウカジキ、ジンベエザメとGT
小坂は海中で出会った印象的な場面もいくつか語った。潮に流されている小坂は、潮を登ってくるイソマグロの群れの進路を邪魔してしまうことがある。すると群れの中の大きな個体が、口を開けて「ボフッ」という音を立て、どけと言ってくるのだという。
あるときイソマグロを探して浮いていると、下にバショウカジキが現れた。小坂は「竜だ」と思ったという。背びれが大きく、先端がばさばさしていて、動きもとても大きい。その個体は2m85cmほどあった。水族館などで展示されるバショウカジキは青と銀のきれいな魚に見えるが、海中で見ると10円玉のような色で、そこに紫の稲妻のような模様が走っていた。仲間が突いたバショウカジキが走った後、海面から跳ねて小坂たちの方へ高速で突っ込んできた。前には撮影に向かっていたカメラマンの室(むろ)がいて、小坂は「室、死んだ」と思ったが、カジキは室の前で再び跳ねた。神を怒らせてしまったような、怒っているのが分かる光景だったという。
もう1つはロウニンアジ(GT)の場面だ。ナレーションによれば、GTはアジ科最大の魚で、全長1.8m、体重80kgまで成長することもある。小坂がGTに出会うのは普段、海底が見える磯場が多い。ところがそのときは、深く何もない場所で、真っ黒な雄のGTが1匹、潮を登ってきた。その後ろに巨大な影があり、よく見ると野生のジンベエザメだった。さらに驚いたのは、そのジンベエザメに10匹ほどのGTがぴったり張り付き、体をこすりつけていたことだ。大きなGTは「浪人」の名の通り1〜2匹でいることが多い。1m程度の小さなGTの群れならたまに見るが、1m数十cmはありそうな大型のGTが群れているのも、それがジンベエザメについているのも初めて見たという。何をしていたのかは小坂にも分からない。
なぜ手銛なのか
釣り竿も水中銃もある中で、なぜ手銛で巨大魚に挑むのか。小坂は、技術の発達によって魚と人間の力の差がどんどん人間優位になっている気がすると話す。そのうえで、これはあくまで自分に対する考えであり、違うやり方をしている人をどうこう言うつもりはないと断っている。
自分の勝手な理由で魚の命を狩りに行くのなら、自分も狩られるリスクが多い方がいい。それが手銛を使う理由だという。魚を打った後、ゴムの輪から手が抜けなければ、そのまま引きずり込まれて浮かんでこられない。命を奪う以上、自分も同じ海で危険を引き受ける、という姿勢である。
「分からないから潜っているのかもしれない」
なぜそこまでして潜り続けるのかと問われると、小坂は「中毒みたいな感じ」だと答える。潜るのが好き、潜りたいという段階はとっくに通り越していて、自分を保つために潜っているようなものだという。
小坂の魚突きのテーマは、大きな魚を獲る魚突きの限界に挑むことだ。大きな魚は数が少なく力も強いので、道具も自分の戦い方も試される。手銛でやっている人は他にいないため、未知の部分が多い。自分のスタイルの魚突きの限界に、これからも挑戦していきたいと話す。
最後に「小坂薫平にとって魚突きとは何か」と聞かれると、小坂は「分かんないですね」と答えた。格好いいことを言えればいいが、分からないから潜っているのかもしれない、まだ分からない、と。答えが見つかったら潜るのをやめてしまいそうな気もする、とも付け加えている。
今回のバイエンスは海中狩猟。人は1本の銛だけでどれほど巨大な魚と対峙することができるのでしょうか。
もう超かっこいいんですよ。もう顔が恐竜みたいな顔してるんですよね。
サメが群れる海域で魚を追い、自分よりもはるかに巨大な生物と命のやり取りをする。
気づいたらめちゃくちゃサメが…あれ爆弾じゃんってなって
人間が深い海へ潜ると目覚める、体内に眠る本能とは。
海に溶けてくみたいな感覚があって
小坂薫平が手銛1本で仕留めた前人未到、100kg超えの磯マグロとは。
でけえ、でけえ
あ、あれだって思ったんです。…みたいな音なるんですけど。神を怒らせてしまったみたいな、もう怒ってるのが分かるんですね。ここで打つしかないって時に
今回はプロスピアフィッシャー小坂薫平をゲストに、皆様を誰も知らない海の世界へお連れしましょう。
小坂薫平が魚突きを始めたのは東京海洋大学に入学した春でした。幼い頃から海中の世界に憧れていた一方、当時はまともに泳ぐことすらできませんでした。入学初日、友人たちと学内のサークル案内を回っていた小坂薫平。しかし興味を惹かれるサークルはなかなか見つかりません。仕方なくそのまま帰ろうとした瞬間、突然声をかけられます。
めちゃくちゃイケメンの、ちょっと日に焼けた先輩に「ちょっとバディどう?」って言われて、で、バディって何ってなるじゃないですか。で、でもその先輩がもうとにかくすごい目がキラキラしてて、もういかにその自分たちがやってることが最高で、いかにその海が最高かっていうのをものすごいキラキラした目で話すんすね。それでもうやられて、で、魚突きを始めました。
そして入部したその週末、小坂薫平は初めての魚突きへ向かいます。
しかしその最初に波打ち際ぐらいで溺れそうになって、で、なんかでも誰も俺がやばいことになってるの気づかずで。そこまでそんな深くなくて、水深4mとか5mぐらいのとこまで先輩たちに連れてってもらうんですけど、もうその足のつかないところで泳ぐっていうのがもう怖すぎて、もうなんかもう心臓爆発するかみたいになっちゃって。取り乱してもかっこ悪いんで、あの、静かにパニックになってました。
当時は水深5mを往復するのが精一杯。海中にいられる時間も30秒に届かなかったと言います。そんな小坂薫平が魚突きにのめり込む転機は大学1年の秋に訪れます。
こう泳いでたら、なんか巨大な絨毯みたいなのがこうヒラヒラ下通って、何あれと思ったらくそでかいヒラメだったんすよ。85cmとかだったかな。そん時はもう夢中ですよね。ヒラメ大きいの見て、とりあえず真ん中狙って打ったら、ま、すごい暴れて。で、海の中でその魚の力に対して人間って本当に非力なんすね。例えばその3kgぐらいのカンパチを、ま、水深15mとかで突いたら、そのカンパチがバーって走ったらもうグワガーンって引きずり込まれるんですよ。それぐらい人間の力って魚と比べるとすごい弱くて、海の中だと。だから80cmぐらいのヒラメの力なんかもうものすごいんですよね。もうすんごい暴れて、自分で作った銛だったんですけど、もう銛こんなんなって、海の中でうおおみたいな。
その後銛は抜けてしまいましたが、傷を負ったヒラメは近くで動きを止めます。最後はバディを組んでいた友人が回収し、初めて巨大魚を仕留めることに成功しました。
で、そのヒラメと自分が戦ってたのって、多分、ま、時間にしたら10秒ぐらいかな。多分バーって暴れてたんですけど、10秒もないっすね。多分その瞬間だけは結構本気になってたんですよ。だからそれを振り返った時に、あ、なんかあの瞬間本気で生きてたなと思って。
この経験をきっかけに巨大魚との勝負に惹かれていきます。そして大学2年のある日、授業中に手銛の材料を調べていた時、1枚の写真に目を奪われました。
もうその写真見て頭吹っ飛ばされたんすよ。ま、見た目ですよね。なんか目がこんなでかくて、でもギラギラしてて、でも歯とかもうこんな、すんごい顔してて、もう魚じゃないみたいな見た目。やっべえって思って、自分も生涯でこの魚を自分の手で取ってみたいなって思ったんですよ。で、そこに映ってたのが磯マグロだったんですよ。
磯マグロ。それはインド洋や太平洋域の温かい海に広く生息するサバ科の大型魚です。主に外洋に面した岩礁やサンゴ礁の周辺を泳ぎ、魚やイカなどを捕食します。多くの個体は1mから1.5mほどですが、大きいものでは全長2m、体重100kgを超える個体も存在します。一度走り始めれば人間の力では止めることができません。人間には沈められないほどの浮力を持つ浮きをいとも簡単に海中へ引きずり込み、岩の間を猛烈な勢いで駆け抜けます。その圧倒的な力からついた異名は「磯のダンプカー」。そして100kgを超える磯マグロを素潜り、そして手銛1本で仕留めた者はかつて存在しませんでした。ただ1人、この男を除いては。しかしこの前人未到の記録にたどり着くまでには長い年月が必要でした。彼が初めて磯マグロを仕留めたのは大学を卒業した2018年。あの写真と出会ってから3年の月日が経過していました。
写真と出会ってから、ま、大学中に、磯マグロがいそうなところでも、どこでどうやってっていうのはもう全然知らなかった。で、ま、大学在学中に磯マグロは取れなかったんですけど、その大学4年ぐらいになると、まあ、ちょっとずつ海の中では遭遇はできたみたいな、何回か。けどもう取るなんてもう全然夢のまた夢みたいな感じ。大体その仕留める時は銛から、銛先から、まあ1.5mとかぐらいまで近寄らないといけないんで。下の方にいるのが見えただけじゃもう全然取れない。そして4年ですね、大学の4年時にある島行った時に、帰りのフェリーで、ま、自分が今でも師匠と呼んでる大大大レジェンドがいるんですけど、ま、そういう人と知り合って。
2018年、磯マグロが生息する海への遠征に師匠に無理を言って同行します。そして見事40kgの磯マグロを取ることに成功します。
で、そん時はもうめちゃくちゃ感動して泣いたんすよ、僕。もうやっとその憧れの磯マグロを取ることができた、やったぜって思ったんですけど、なんかちょっとしたら冷静になってきて。ま、そもそもその自分で見つけた場所じゃないし、その師匠に連れてきてもらったわけだし、これは自分で磯マグロを突いたとは言えないなって思ったんですよ。
40kgという大きさは申請すれば当時の魚突きの世界記録として認定される可能性がありました。しかし彼はこの記録を申請しませんでした。
あ、そうかと。次は自分で見つけた場所で、誰もまだそこに磯マグロがいるってことを知らない場所で、誰もそこで磯マグロを取ってない場所で1人で取ろう。で、そうなったら初めて自分は磯マグロ取ったって言えるんじゃないかなって思って。ま、それが1つ目標になったって感じですね。
その後小坂薫平は自ら磯マグロの生息地を探しながら各地の海へ潜り続けました。そして2020年、仲間たちと新たな挑戦を開始します。それは誰も成し遂げたことのない、100kgを超える磯マグロを素潜りと手銛1本で仕留めること。加えてその過程を1本のドキュメンタリー映画として記録する計画でした。そして数々の磯マグロの捕獲に成功。
でけ、でけ。ああ。しかし目標としていた100kgを超える個体にはなかなか届きませんでした。
85kgね。いや、でかいけどな、十分。
まあ、毎年2ヶ月遠征して、ま、2ヶ月間みんな仕事を休んで、ま、撮影して海潜ってっていうのやってて。最初は自分たちで100kgの磯マグロ突くまでを映画として残そうっていうことで、ま、盛り上がってやってたんですけど、やっぱり毎年2ヶ月も自腹で、しかもその間仕事もしないでってやってると、やっぱり気力的にも結構難しくなってくるんですよね。
ええ、人生で最大のチャンスダメにしたわ、今。ああ。いや、下手だな。
当然その100kg超えをその手銛で取った人って今までいないから、そもそもできるのかもわかんないし。で、じゃあとりあえずこれずっとやんの無理だなと。で、5年はやろうという話をしたんですね。そして最後のその5年目の遠征が2025年の遠征だったんです。もうその後はもう海が荒れる予報で潜れない。で、最終日のもう最後の朝の2時間。
2025年5月、最後の遠征。翌日から海が荒れる予報の中、残された時間は文字通り2時間でした。
ま、朝海潜ったら最初の方いなくて。ただ前日まではその海の中にサメが多すぎて、もうとてもじゃないけど磯マグロを突くような状況じゃなかったんですよね。で、その大きい磯マグロって群れの1番下にいるんで、その1番下に行こうと思ったら、もうでっかい3mとかのサメの横に並んで、そのサメの下に入っていかないといけないんで。もうそこ本当にいっつも潜ってて、もうとにかくサメが多いんですけど、その日だけは1匹もいなくてね。大体2時間あったら、ま、6回ぐらいは潜れるんですよね。もう最後の6回だなと思って、2、3回目だったかな、潜ってパッて見たら、明らかに1匹だけ縮尺がおかしいやつがいて、ボンみたいな。で、それ見た瞬間に、あ、絶対あれだと思ったんですよ。で、そのマグロがもう綺麗に自分の前に流れてきてくれるように、余計なことしないでじっと息を殺して待ってて、で、1番近い前のとこに来たんですね。
磯マグロのことを24時間365日考え続けてきた小坂には、いつか仕留めたい理想の個体像があったと言います。
人間で言うと熟女みたいな、年老いたメスなんですけど、もう超かっこいいんですよ。もう顔が、体すごい傷だらけで恐竜みたいな顔してるんですよね。
しかし前に入った時に目にした磯マグロは、その理想とは正反対の姿をしていました。
その時その1番近くに来たその魚は、それと真逆の顔してたんですよ。ずっとした、なんか美肌のメスみたいな。
この潜水は5年間の挑戦に残された最後の数回。そして一度銛を放てば、成功しても失敗してもその日の挑戦は終了します。5年間の最後に狙う1匹として、本当にこの個体で良いのか?小坂は一瞬迷いました。
最後の1回になるわけじゃないですか、打ったら。それはこのマグロでいいのかなって思ったんです。それでちょっと迷ってるうちに、僕はすごい早い海流に流されてて、磯マグロは登ってるんで、どんどんどんどん離れてくんですね。で、離れてく時にちょっと後ろから見たシルエットが、また別の意味で僕がずっと取りたかったけど取れなかった磯マグロの形をしてたんですよ。爆弾って呼んでるんですけど。で、あれ爆弾じゃんってなって、やっぱあいつしかいないなと思って、追いかけ直して、海の中で。で、本当なんかもう全力で追いかけて、もうちょっとなんか1cmずつ距離が縮まってくみたいなイメージ。本当じりじりだけども、やっぱり自分が漕げば漕ぐほど、群れの磯マグロの中でやっぱ緊張してくんすね。なんかが追いかけてくるっていうのが分かるんで。1cm詰めるごとに緊張度が高まってくのが分かって、で、あと本当に一漕ぎしたら逃げる、だからもうここで打つしかないってとこの時に、狙える場所が1箇所しかなかったんですね、磯マグロで。で、それは今までずっと僕が打っては失敗してきたあの場所で、背中なんですけど、もしかしたらその今までの自分だったらダメだったけど、今の自分だったら行けるかもしれないと思って行ったんすね。ところが、ま、普通はそのバーって海底に走ってくんすけど、そん時は上がってきても、そのロープが全然テンションかかんなくて、うわ、抜けちゃったかなみたいな。うわあと思ってたら、ふわって下見たら、その磯マグロ、その群れの中でそのまま泳いでたんすよ、銛刺されたのに。で、あ、これはとんでもない磯マグロ打ってしまったなと思って、そんなやばい生き物打っちゃったと思って、これは絶対にやばいと思って。
そして爆弾磯マグロとの激しい攻防の末、小坂は少しずつロープを手繰り寄せ、ついにその魚体を海面へ引き上げます。全長およそ2m、体重105.5kg。5年間でおよそ2800回に及んだ潜水。前人未到の挑戦は、正真正銘最後の6回の中でついに成功しました。
で、上げてきた時に、目の前にそのマグロが見えた時に、なんかいろんな感情が込み上げてきて、なんだろうな。自分が生まれてから、ま、日々いろんな行動をして取捨選択をしてくわけじゃないですか。なんかそのどれか1つでも違った選択をしてたら、今この瞬間にたどり着かなかったんだなって思って、今まであった全ての出来事、全ての人とかに感謝みたいな気持ちが湧いてきて、感極まって泣きましたね。
巨大魚を銛で仕留めるためには、わずか1mほどの距離まで近づかなければなりません。しかし魚たちは人間が目で捉えるよりも早く、水中のわずかな変化からその存在を察知しています。
魚ってその一応その視力、人間が陸上で言うとこの視力はすごい弱いって言われてるんですけど、なんか海の中で魚たちの動きを見てると、ま、僕らって例えば街歩いてて、なんか音がしたら、どっちの方向からその音がしたとか、どれぐらいそれが離れてんのかとか、何が起きたのかとか、ある程度その見なくても分かるじゃないですか。多分魚たちも、その魚のサイドに側線っていう器官があって、その水圧の変化とかその水流とか、水の流れを非常に敏感に感じる器官があるんですけど、そういうのとか、やっぱ匂いとか、なんか目とか、いろんなものを使いながら、多分僕らが陸上を見てんのと同じような解像度で、魚たちも海の中を見てるんだろうなって思うことがあって。結局やっぱその銛っていう長いものを持って魚に近づいてくと、あの、やっぱもうすぐ気づかれるんです。
では小坂薫平は、これほど鋭敏な感覚を持つ魚たちをいかにして仕留めているのでしょうか?基本的にどの時もそうなんですけど、銛をずっと前に出したりすると、やっぱりバレちゃうんすね、魚に。だからその魚が行ったら、銛をちょっとなるべく自分の体に近づけてるんだけど、で、その時は基本的に魚は僕を見てるんですよ。目が合ってるんですよ、僕と。
で、その打ち所を決めたら、ぐってもう1回銛のゴムを引いて、ゴムを引いた時にわずかながらキュって音が鳴るんですね、その銛とゴムがすれて。で、キュって音が鳴って出した時に、それまで僕と目が合ってたマグロの目が、グリグリグリって銛先に滑ってくんですよ、目が。だからその時にマグロはもう銛先に気づくんすよね、側線で。で、気づいて、で、その信号がマグロの脳に行ってるわけじゃないですか。で、そっからその尻尾を動かすまでの、だからマグロのその神経伝達より前に僕が銛を放てれば、考えてたところに多分当たるんですよね。
魚に勘付かれないように射程へ入り、逃げる前に銛を放つ。しかしその一瞬へたどり着くためには、呼吸のできない海の中で長時間待ち続けなければなりません。現在小坂は素潜りでは水深68mまで到達し、陸上での息止めの自己記録は6分45秒に及びます。人間はなぜ呼吸のできない海中で、これほど長く活動することができるのでしょうか?
普通に息止めしたことない人が、息整えてふって息止めたら、多分結構すぐ苦しくなるんですよね。で、その息苦しさの正体って二酸化炭素なんですよ。息止めてると酸素が使われて、で、代わりに二酸化炭素が出るじゃないですか。で、それが血液に溶けてちょっと酸性になってくじゃないですか。で、それを感知して体が、苦しいから呼吸を再開しろっていうのを出すんですね。で、でもその失神するかどうかっていうのは、体内のその酸素量が少なくなるとそうなるんですよ。で、最初は酸素量はそんなに減ってないんだけど、二酸化炭素がどんどんどんどん増えて、苦しくどんどんどんどんなってくる。で、その先に酸欠の世界があるから、その最初のやっぱ苦しさっていうのは、ある程度苦しさの中で慣れていかなきゃいけない。
そして血中の二酸化炭素濃度が上昇し、息苦しさがさらに強まると、体は本人の意思とは関係なく呼吸を再開しようと動き始めます。この胸や腹部に現れる不随意な呼吸運動がコントラクションです。
ま、よくその横隔膜の痙攣っていう風に言う人がいるんですけど、多分僕は思うに、厳密には多分この肋間筋と言って、この肺の肋骨の間の筋肉が開こうとしてる動きなんですよね。で、肋間筋が開くとその肺が膨らんで息を取り込むわけじゃないですか。ま、胸式呼吸ですけど。で、でも息止めてるから、肋間筋が開くと肺のボリュームは大きくなれないから、肋間筋が開くと代わりに横隔膜が押し上がるっていうのが、多分そのコントラクションって呼ばれる現象で。で、それがその息苦しさを感じ始めた辺りで来たりするんですよね。人によっては、息止めてしゃっくりが来るみたいな感覚ですね。陸上だったらまだいいんですけど、海の中で、あの、水圧で肺が小さくなってる時にコントラクションが来ると、肺の中が陰圧になって肺胞がちょっと傷ついたりとかもするし、ま、結構それはやっぱなんか不随意動作なんで、結構不快ですよね。ま、普通はコントラクションぐらいでやめんのがいいと思うんですけど、まあでもそのコントラクションに耐えていると、血中のその酸素がいよいよ下がってきてっていう感じですね。
それでも息を止め続けると、やがて血液中の酸素量が本格的に減少していきます。二酸化炭素による息苦しさとは異なり、低酸素は意識の喪失に直結します。限界を超えれば意識を失うブラックアウトを起こす危険があります。しかし人間の体は、ただ酸素が失われていくのを待っているわけではありません。呼吸を止めて水中へ潜ると、体内では限られた酸素を少しでも長く維持するための神秘的な反応が始まります。
例えばアシカって、滑らかに海の中を長い時間泳いで魚を探して陸に帰ってくるじゃないですか。で、あるいはマッコウクジラって、あの、水深3000mぐらいまでで、1時間とか2時間潜水できるって言われてて。じゃ、彼らにエラがあるのかっていうと、そうじゃなくて、俺らと同じ哺乳類なんですよね。で、肺で呼吸して息を止めて、ま、彼らもだから素潜りしてるわけですよ。で、なんでそんなことができんのかって言うと、我々はその海から来た生き物なわけですよ。その海から来た時の、あの本能がまだ残ってるんですよ。で、それが哺乳類潜水反射、あのマンマリアンダイブリフレックスって、MDRって僕ら呼んだりするんですけど、なんかそれが誰の体にも実は備わってる。で、それが水の中に素潜りした時に出るんですね。
哺乳類潜水反射が起こると、初めに心拍数が低下し、体が消費する酸素量が抑えられます。同時に手足など末端の血管が収縮。限られた血液と酸素が、脳や心臓など生命維持に重要な器官へ優先的に残されます。そしてさらに深く潜ると、末端の血液が胸部へ移動するブラッドシフトと呼ばれる反応が起こります。胸部に集まった血液が、水圧によって圧縮される肺を内側から支えることで、人間はより深い海へ潜ることができるようになるのです。
で、その面白いのが、その潜水反射ってみんなまだ持ってるんだけど、海の中に潜った時に体が緊張してたり、怖いなっていう気持ちばっかりになってリラックスできないと出てこないんですよ。だからどんどんどんどんそのリラックスをしていって体を緩めてくと、そん時に初めて潜水反射っていうのがうまく回るんすね。なんかその末端から、なんかぼんやり自分の輪郭がぼやけてくみたいな、その海に溶けてくみたいな感覚があって、なんか頭がちょっとぼーっとしてくるっていうか。なんで、皆さんも海に慣れたら、40mぐらいまでは多分普通に潜れるようになりますよ。
海の奥深くまで潜り、数多くの巨大魚と対峙してきた小坂薫平。しかしその歩みは常に死と隣り合わせでもありました。では今まで最も死を身近に感じた瞬間とは、どのようなものだったのでしょうか?
ま、サメとか酸欠でブラックアウトとかは結構想像しやすい、分かりやすい脅威なんですけど、やっぱ波とか潮流ですよね。もう本当泳いでて、時速2kmとかの潮の流れ、ま、歩いてたらすごいゆっくりじゃないですか。でもそれでもやっぱウエットスーツ着て足ヒレ履いて海に浮いてると、その中をずっとその時速2kmに逆らって泳ぎ続けるっていうのは、やっぱ結構難しいぐらい。海の中で良くない状況になった時って、もう文字通り結構血の気が引くんですね。それはその、やっぱり陸だったら助け呼べたり、あの、誰かに「どうしたんですか」って聞けたりできますけど、海の中だとそんなことやっぱできない。その自分1人で生きて帰るために、自分で対処しないといけない、どうにかしないといけないんだなっていう、その、なんか隔絶感っていうか、孤独感みたいなの、やっぱそういう時にこそやっぱ感じますよね。なんかあれ、このままだとちょっと帰んのやばいかもなとか。パニックなったら死んじゃうっすよね。だから、ま、大学のやっぱその4年間で先輩たちに、慌てたらとにかくやばいと、パニックなるのが1番良くないっていうのはもうすごい教わったし。ま、僕がやってるのは、結構やっぱその自分がどういう状態なのかをちゃんと観察して把握する。息が上がっちゃってるとか、頭に血が登っちゃってるとか、呼吸早くなってたら、ちょっと意図的に深呼吸して落ち着かせてとか。
海の中で生きて帰るためには、どれほど危険な状況でも冷静さを失わないこと。小坂薫平はその重要性を身をもって知る出来事を経験しています。それがサメです。
海外のなんかインフルエンサーみたいな人とかが、なんかサメは友達みたいな。友達でも何でもなくて、やっぱ動物なんですよね、その肉食の。で、やっぱサメこそ結構その個々の個体とか種類でも全然性格違うんすよ。例えばちっちゃめの、ま、2mないぐらいの若めのサメの方が結構オラついてて、逆になんか3mとか4mのサメの方が慎重で落ち着いてる感じ。サメはなんか本当によくわかんないすね。なんかそのやっぱりあっちの機嫌次第でこっちがやられかねないみたいなところもあって、やっぱ迂闊に近づきたくないし、余計なちょっかい出したくないし。
しかし、たとえ自ら近づかなくても、サメの方から寄ってくることがあります。それは長年追い求めていた2m超えの巨大なサワラを仕留めた時のこと。
なんかいつもそこで、その突いたらサメに取られたりとかするんですけど、ま、思いの他そんなにすんなり上がってきて、あ、今日はサメも少ないしラッキーだなとかって思ってたら、気づいたらめちゃくちゃサメがいて。で、サメってめちゃくちゃ感覚が鋭いらしくて、そのプールとかになんか一滴とか血たらすと、もう匂い分かるらしいんですよ。だからそんなサメが、目の前でそんな巨大な魚が暴れたりとかすると、狂乱索餌状態って言って、自分の感覚が鋭すぎて自分の行動を制御できなくなるんですよ。もう手近にある動いてるもの全てに噛みつくみたいな、地獄みたいな状態になるんですけど、なんかそれになりかけてたっていうか、多分そういう感じになっちゃってて。で、なんとかもう持って船に帰るんですけど、もう下からもう突っ込んでくるし、もう後ろから、僕水面泳いでるわけなんですけど、その水面をもう口開けてガーってサメが自分の後ろから追いかけてきて、もう本当にその船に戻るまでに、ああ、なんか足か腕1本ぐらいなくなってもおかしくないなみたいな。そんなのは、ま、自分でどうにかするしかなくて。で、なんとか船帰ってきて、船長に銛渡して、で、船にバシャって上がって、足ヒレ脱いで、船長から銛もらって、ま、あとこれ引き寄せてきて船に上げるだけだって、ガボって上がった瞬間に、下からなんか真っ黒い塊がグーって突き上げてきて、バシャって水柱立って、サワラなくなりました。
ああ、なんか昔の人ってこういうの見て海坊主とか思ったのかなとか思ったり。
ところが。でもそん時なんか僕許せなくて、そのずっと目標にしてた魚をサメに取られて、俺の魚取んなよっつって、で、もう1回行ったんすよ。で、もう1回サワラ突いて、今度はそのサワラ側を俺が持ってたからダメなんだと思って、バーって走らせて自分だけ船帰ってたら、ゴミがいっぱい落ちてるとこに、エリアに突入して。そこに突入したら真下に、自分の20mぐらい下に、なんか4m級のオオメジロザメがいたんですね。で、そのオオメジロザメって、もう見たら一発で分かるようなシルエットをしてる、やばいメジロザメなんですけど、オオメジロザメさっきまでいなかったんですよ。で、そこのそのゲロエリアに突入した時に、なんかめっちゃサメが自分に近づいてき出して、で、うわ、これさっきのサワラがバラバラになった場所だと思って。だからそのサワラがバラバラになって、そのサワラのクズが散らばって、で、そこでサメがいっぱい食って、で、それがもう多分20分とか経って、海域中のサメがその血の匂いとかで集まってた場所だったんですね。で、それでまた同じ目にあって、でもなんとかなんとか船戻って、で、それでその走らせたサワラも結局食われちゃって、もうふざけんなよと思って、で、もう1回行ったんすよ。もう今度はもうドボンって船から飛び込んだら、そのまだ何もしてないのに、飛び込んだら下にサメのトルネードがいて、1匹ずつ、そのアタックはしてこないですけど、1匹ずつふわーって下からゆらゆらゆらゆら僕の方に来て消えてく、ちょっとずつ様子見にくるんすよね。で、その時に我に返って、あ、これ以上やったら本当に死ぬと思って帰ったんですけど。
しかし海から生きて戻った後も、その恐怖が消えることはありませんでした。
で、結局なんかそん時はもうアドレナリン出てたんで、その何回も潜っててやったんですけど、あの、その後3、2年半ぐらいですね、そのトラウマになっちゃって。そういうそのサワラ突いて襲われたような場所、沖の場所とか潜る時は、もうなんか自然と呼吸早くなって、なんか背中から変な汗出て、もうちょっとでもサメの気配があれば、もうなんか…みたいになっちゃって、もう全然なんか潜りに集中できないみたいな。でもなんかやっぱりそのサメを、ただサメがいたから怖がるとか、サメがいないのに出そうだからずっと怖がってるっていうのも違うなと思って、ちょっとずつやっぱりそのサメの動きを、なんか改めて観察し直して、なんかそいつが自分に対してどういうことを考えてるのかなっていうのを理解しようとしたって感じですかね。今はまあ、ま、大丈夫じゃないですけど、磯マグロ突いてる場所はめちゃくちゃサメが多い場所なんで、なんとかしていくしかないっすよね。ま、でもそれもそのやっぱあの、自分がやってるみたいな魚突きにおいては、やっぱそれもその一部っていうか。人が立ち入らないような場所へ場所へって、やっぱ大きい魚を探して行けば行くほど、やっぱりそういうことはつき物っていうか、一部ですよね。やっぱしょうがない。
僕は潮に乗って流されてて、磯マグロは潮を登ってくるんですけど、その群れの進路を僕が邪魔しちゃったりすると、なんか群れん中ででかめのやつがどけよって言ってくるんですよね。口を開けてガボって、なんかボフみたいな音なるんですけど、ま、無視してするんですけど。バショウカジキとか、ま、ある時その磯マグロ探してプカプカ海浮いてたら、ふわーってバショウカジキが来たんですね、自分の下に。竜だって思ったんですよ。竜の神様ってこんな姿してんのかなみたいな。なんかっていうのも、バショウカジキって背びれがすごいでかくて、で、先が結構バサバサなんですね。この背びれが普通の魚みたいに整ってるわけじゃなくて、バサバサしてて、で、もう動きすごい大きくて。そのバショウカジキ2m85cmぐらいあったんですけど、剥製とかで展示されてるバショウカジキって、なんか青とシルバーが綺麗な魚みたいな風に見えるんですけど、実際に海の中で見たバショウカジキって10円玉みたいな色してて、その色になんか紫の稲妻がこうやって走ってんですよ。で、うわあ、すごいみたいな。ま、その突いたバショウカジキがバーって走ってた後に、バーンって海面から跳ねてターンして、こっちに突っ込んできたんですよ、すごい速さで。で、僕の前に、それを映像撮りに行ってたカメラマンの室ロ君がいて、うわ、室ロ死んだと思ったんですけど、したらその室ロの前でまたターンして。神を怒らせてしまったみたいな、もう怒ってるのが分かるんですよね、バショウカジキが。
他にも、いやすごい光景だったなってやっぱ思うのは、ロウニンアジっていう魚がいるんですね。
ロウニンアジ、通称GT。アジ科最大の魚で、全長1.8m、体重80kgまで成長することもある、世界中の釣り人を魅了する大型魚です。
GTって基本的にその磯場、ちょっと海底が見えてるようなところで出会うことが多くて。で、そん時はその結構深い何もないところを泳いでたら、あの、真っ黒いオスのGTが1枚だけヒラヒラって潮登ってきたんですよね。僕は潮に流されてて、で、うわ、こんなところにもGTいるんだと思ったら、その真っ黒いGTの後ろに巨大な影があって、うわ、なんだあれって思ったら、あの、野生のジンベエザメだったんですよ。うわ、ジンベエなんか見ちゃったって思っていたら、もっと驚いたのが、そのジンベエザメにそのロウニンアジがペタペタ貼り付いてるんですよね。全部で10匹ぐらいいたのかな。もうちょっといたかもしんないですけど、ぴったり張り付いてジンベエザメに体こすってるんすよ、ロウニンアジが。で、その大きいロウニンアジって、その名前の通り浪人なんで、1匹でいたり2匹でいたりするんですよ。だから、ま、ちっちゃいね、1mぐらいのロウニンアジが群れてることは、ま、たまに見なくはないですけど、そんな大きい、ま、それ多分1m何十あるような結構でかいGTが群れてるっていうのも初めて見たし、さらにそれがジンベエザメについてて、何してんだろうなみたいな。
広大な海には、まだまだ人間の知らない光景が眠っているようです。長く海と向き合ってきた小坂薫平でさえ、その全てを理解することはできません。だからこそ海は、何度潜っても尽きることのない世界なのです。ではなぜ彼は銛を手に魚を追い続けるのでしょうか?
釣り竿もあれば水中銃もある。より安全に、より確実に魚を仕留める方法が存在する中で、小坂薫平は1本の手銛で巨大魚に挑み続けています。
どんどん技術が発達して、どんどんどんどんその魚と人間の力の差っていうのが、人間が優位になってってるような気がするんですよね。ま、僕は、ま、自分に対してですよ。それをやってないとか、その違うやり方をしてる人に対してどうこう言うつもりはないんですけど、ま、自分としてはやっぱりその魚を、その自分の勝手な理由で命を刈り取りに行くんだったら、自分も刈り取られるリスクが多い方がっていうのがあって。ま、それが僕は手銛を使う理由だし、で、同時にその魚を打った後に、そのゴムの輪っかから手が抜けなければ、僕はもう引きずり込まれて上がれない。
命を奪う以上、自らも同じ海の中で危険を受け入れる。魚と可能な限りフェアに向き合う。それが手銛という方法にこだわる理由です。ではなぜそこまでして海に潜り続けるのでしょうか?
ここまで来ると中毒みたいな感じだと思うんすよ。その潜らないとやっていけないみたいな。潜るのが好きとか、潜りたいとか、魚突き行きたいとかいうのはもうとっくに通り越してて、自分を保つために海に潜ってるみたいな感じですかね。やっぱりその自分のその魚突きのテーマが、やっぱその大きい魚を取る、魚突きの限界に挑戦するっていうのが、ま、自分のテーマなんで。ま、やっぱ大きい魚って数も少ないし、力も強いし、力強いってことは、やっぱ道具とか自分の戦い方っていうのも、やっぱかなり試されるような相手なんですね。手銛で誰もやってないから結構未知な部分が多くて、だからそれが、ま、僕が言ってるその魚突きの限界。自分がやってるスタイルの魚突きの限界っていうのに挑戦していきたいと思ってます。
小坂薫平にとって魚突きとは何か?
僕にとって魚突きとは…わかんないすね。いや、わかんないですね。なんかかっこいいこと言えたらいいですけど、分かんないから潜ってんのかもしんないですね。まだ分からないです。見つかっちゃったら潜んのやめちゃいそうな気もしますね。
答えが見つからないからこそ、彼はこれからも海へ潜り続けます。自らの限界へ挑み、誰も見たことのない世界に出会うために、1本の手銛を携えて。
今回のバイエンスはここまで。ドキュメンタリー映画『Mission100』よろしくお願いします。
小坂薫平が100kg超えの磯マグロを取った瞬間を記録したドキュメンタリー映画『Mission100』の詳細は概要欄から。それではまたお会いしましょう。
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