素潜りと手銛で105.5kgのイソマグロを仕留めるまで:スピアフィッシャー小坂薫平が語る海の危険と本能

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概要

人は銛1本で、どれほど大きな魚と渡り合えるのか。VAIENCEの今回の回では、素潜りと手銛で大型魚を狙うプロスピアフィッシャー、小坂薫平が登場する。泳ぐこともままならなかった大学1年から、誰も成し遂げていなかった100kg超のイソマグロを手銛で仕留めるまでの経緯を語る。魚に気づかれずに近づく技術、息止めの生理、サメに襲われかけた体験、海で見た光景についても話している。動画タイトルは「海で最も危険なことは何か」だが、小坂自身が最も死を身近に感じると語るのは、サメではなく波と潮流だった。

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泳げなかった大学1年生が魚突きを始めるまで

小坂が魚突きを始めたのは、東京海洋大学に入学した春である。幼い頃から海中の世界に憧れていたものの、当時はまともに泳げなかったという。入学初日に友人とサークル案内を回ったが、興味を引かれるものが見つからない。帰ろうとしたところで、日焼けした先輩に「バディどう?」と声をかけられた。「バディ」の意味も分からなかったが、自分たちの活動や海がいかに最高かを目を輝かせて語る先輩に引き込まれ、その場で入部を決めた。

入部した週末に初めて海へ出たが、波打ち際で溺れかけた。先輩たちに水深4〜5m程度の場所へ連れて行かれたものの、足のつかない場所で泳ぐこと自体が怖く、心臓が激しく打った。取り乱すのは格好悪いので「静かにパニックになってました」と本人は笑う。当時は水深5mを往復するのが精一杯で、海中にいられる時間も30秒に届かなかった。

85cmのヒラメで「本気で生きていた」と感じた

転機は大学1年の秋に訪れた。泳いでいると、巨大な絨毯のようなものが下をひらひらと通り過ぎた。85cmほどの大きなヒラメだった。夢中で真ん中を狙って突くと、ヒラメは激しく暴れた。

ここで小坂は、海の中での人間の力がいかに弱いかを説明する。たとえば3kgほどのカンパチを水深15mで突いた場合でも、カンパチが走れば人間はそのまま引きずり込まれるという。80cmを超えるヒラメの力は相当なもので、自作の銛は大きく曲がった。銛はその後抜けたが、傷を負ったヒラメは近くで動きを止め、バディを組んでいた友人が回収した。これが初めて仕留めた大物になった。

実際にヒラメと格闘していた時間は10秒にも満たなかったと小坂は振り返る。それでも、その瞬間だけは本気になっていた。後から「あの瞬間、本気で生きてたな」と感じたことが、大物との勝負に惹かれていくきっかけになったという。

1枚の写真からイソマグロを追い始める

大学2年のある日、授業中に手銛の材料を調べていた小坂は、1枚の写真に目を奪われた。大きくぎらついた目、魚とは思えないような顔つき。「頭吹っ飛ばされた」と表現するほどの衝撃を受け、生涯で一度はこの魚を自分の手で獲りたいと思った。写っていたのがイソマグロである。

ナレーションによれば、イソマグロはインド洋から太平洋の暖かい海に広く生息する大型魚で、外洋に面した岩場や珊瑚礁の周辺を泳ぎ、魚やイカを捕食する。多くは1〜1.5mだが、大きなものは全長2m、体重100kgを超える。走り出せば人間の力では止められず、人が沈められないほどの浮力を持つブイも簡単に海中へ引きずり込むため、「磯のダンプカー」とも呼ばれる。100kgを超えるイソマグロを素潜りと手銛で仕留めた人は、それまでいなかった。

写真を見た当時、小坂はイソマグロがどこにいて、どう獲るのかをまったく知らなかった。大学4年頃には海中で何度か遭遇できるようになったが、捕獲は夢のまた夢だった。仕留めるには銛先から1.5m程度まで近づく必要があり、下の方に姿が見えるだけでは手が出せないからだ。

40kgの記録を申請しなかった理由

大学4年のとき、ある島からの帰りのフェリーで、小坂は今も「師匠」と呼ぶ人物と知り合った。大学を卒業した2018年、師匠に無理を言ってイソマグロのいる海への遠征に同行し、40kgのイソマグロを仕留めた。写真と出会ってから3年が経っていた。

憧れの魚を獲り、小坂は泣くほど感動した。しかし少し経って冷静になると、その場所は自分で見つけたわけではなく、師匠に連れてきてもらったにすぎない、と考えるようになった。これでは自分でイソマグロを突いたとは言えない。ナレーションによれば、40kgは申請すれば当時の魚突きの世界記録として認められる可能性があったが、小坂は申請しなかった。

そこで次の目標を定めた。自分で見つけた、誰もイソマグロがいることを知らず、誰もそこで獲っていない場所で、1人で獲る。そうして初めて「イソマグロを獲った」と言えるのではないか、と考えたのである。その後、小坂は自らイソマグロの生息地を探しながら各地の海に潜り続けた。

「Mission100」:5年と区切った挑戦

2020年、小坂は仲間たちと新たな挑戦を始める。100kgを超えるイソマグロを素潜りと手銛で仕留めること、そしてその過程をドキュメンタリー映画として記録することだ。毎年2ヶ月、仲間が仕事を休んで遠征し、撮影しながら潜った。

イソマグロ自体は何本も獲れた。85kgの個体もあったが、100kgには届かない。映像には、大きな好機を逃して自分を責める小坂の声も残っている。毎年2ヶ月、自費で、しかもその間仕事をせずに続けるのは、気力の面でも苦しくなっていった。そもそも手銛で100kg超を獲った前例がなく、可能かどうかも分からない。そこで仲間と話し合い、期間を5年と決めた。最後の5年目が2025年の遠征だった。

最終日の最後の2時間

2025年5月、最後の遠征の最終日。翌日からは海が荒れる予報で、残された時間は朝の2時間だけだった。2時間あれば6回ほど潜れる。これが最後の6回だと小坂は考えていた。

前日までは海中にサメが多すぎて、イソマグロを突ける状況ではなかった。大きなイソマグロは群れの一番下にいるため、そこへ行くには3mほどのサメの横に並び、その下へ潜り込まなければならない。ところがその日に限って、サメが1匹もいなかった。

2、3回目の潜水で群れを見ると、明らかに1匹だけ縮尺のおかしい個体がいた。見た瞬間に「絶対あれだ」と確信した小坂は、魚が自分の前へ流れてくるよう余計な動きを控え、息を殺して待った。

ただ、そこで迷いが生じる。イソマグロのことを「24時間365日」考え続けてきた小坂には、いつか仕留めたい理想の個体像があった。年を重ねた雌で、体中傷だらけの、恐竜のような顔をした「超かっこいい」魚だ。目の前に来た個体はその正反対で、つるりとした「美肌の雌」のような顔をしていた。銛を一度放てば、成功しても失敗してもその日の挑戦は終わる。5年間の最後の1匹が本当にこの魚でいいのか、と迷った。

迷っているうちに、小坂は速い潮流に流されて魚から離れていった。そのとき後ろから見たシルエットが、別の意味で小坂がずっと獲りたかった形をしていた。本人が「爆弾」と呼ぶ体型である。「あいつしかいない」と思い直し、海中で追いかけた。

距離は1cmずつしか縮まらない。小坂が強く蹴るほど、何かが追ってくることを察した群れの緊張が高まっていくのが分かったという。あと一蹴りすれば逃げられる、という地点で狙える場所は1箇所しかなかった。背中である。これまで何度も打っては失敗してきた場所だったが、今の自分なら行けるかもしれないと考えて銛を放った。

普通なら刺さったイソマグロは海底へ走る。ところがこのときは、浮上してもロープに張力がかからない。抜けてしまったかと思って下を見ると、イソマグロは銛が刺さったまま群れの中を泳いでいた。とんでもない魚を打ってしまった、と小坂は感じたという。激しい攻防の末に少しずつロープを手繰り寄せ、ついに海面へ引き上げた。全長およそ2m、体重105.5kg。ナレーションによれば、5年間の潜水はおよそ2800回に及び、正真正銘最後の6回の中で成功したことになる。

魚を目の前にしたとき、小坂はさまざまな感情が込み上げたと語る。生まれてから日々選択を重ねてきた中で、どれか1つでも違っていれば今この瞬間にはたどり着かなかった。そう思うと、これまでのすべての出来事と人に感謝する気持ちが湧き、泣いたという。

魚に気づかれずに銛を放つ技術

巨大魚を銛で仕留めるには、1mほどの距離まで近づく必要がある。しかし魚は、人間が目で捉えるより先に水中のわずかな変化から相手の存在を察知している、と小坂は言う。魚の視力は陸上の人間の基準では弱いとされる。一方で、人が街中で音の方向や距離、何が起きたかを見なくてもある程度把握できるように、魚も側線で水圧や水流の変化を敏感に感じ取っている。匂いや目も使いながら、人間が陸上を見ているのと同程度の解像度で海の中を見ているのではないか、というのが小坂の実感である。だから銛という長いものを持って近づくと、すぐに気づかれる。

そこで小坂は、銛を前に突き出さず、なるべく体に引き寄せて近づく。そのとき魚は基本的に小坂を見ていて、目が合っている。打つ場所を決めてゴムを引くと、銛とゴムが擦れてわずかに「キュッ」と音が鳴る。銛を出すと、それまで小坂と目が合っていたイソマグロの目が銛先の方へぐりぐりと滑っていく。側線で銛先に気づいた瞬間だ。その信号が脳に届き、尾を動かすまでの神経伝達より先に銛を放てれば、狙った場所に当たる。小坂はそう説明する。

息苦しさの正体とコントラクション

その一瞬にたどり着くには、呼吸のできない海中で長く待ち続けなければならない。小坂の記録は素潜りで水深68m、陸上での息止めは6分45秒である。

小坂によれば、息止めに慣れていない人がすぐ苦しくなる原因は二酸化炭素だ。息を止めると酸素が使われて二酸化炭素が出る。それが血液に溶けて酸性に傾くと、体はそれを感知して呼吸を再開させようとする。しかし失神するかどうかを決めるのは体内の酸素量のほうである。最初は酸素はそれほど減っていないのに、二酸化炭素が増えて苦しさだけが強まっていく。低酸素の世界はその先にあるので、最初の苦しさにはある程度慣れていく必要がある、と小坂は話す。

さらに苦しさが強まると、本人の意思と関係なく胸や腹に呼吸しようとする動きが現れる。これがコントラクションだ。横隔膜の痙攣と言われることが多いが、小坂は厳密には肋間筋が開こうとする動きだと考えている。肋間筋が開いても息を止めているので肺は膨らめず、代わりに横隔膜が押し上がる。それがコントラクションと呼ばれる現象ではないか、という見立てだ。陸上ならまだしも、水圧で肺が縮んでいるときにコントラクションが来ると肺の中が陰圧になり、肺胞が傷つくこともある。不快な動作でもあるので、普通はコントラクションが来たあたりでやめるのがいい、と小坂は言う。それでも耐え続けると、血中の酸素がいよいよ下がっていく。ナレーションは、二酸化炭素による苦しさとは違い、低酸素は意識の喪失、つまりブラックアウトに直結すると補足している。

哺乳類潜水反射と「海に溶けていく感覚」

小坂は、アシカやマッコウクジラを例に挙げる。アシカは長時間海中を泳いで魚を探し、陸に戻ってくる。マッコウクジラは水深3000mほどまで潜り、1〜2時間潜水できるとされる。彼らにエラがあるわけではなく、人間と同じ哺乳類として肺で呼吸し、息を止めて潜っている。なぜそれができるのか。小坂の説明では、哺乳類は海から来た生き物で、そのときの本能がまだ残っているからだ。それが哺乳類潜水反射(Mammalian Dive Reflex、小坂らはMDRと呼ぶ)で、誰の体にも備わっているという。

ナレーションによれば、この反射が起こるとまず心拍数が下がり、酸素消費が抑えられる。手足など末端の血管が収縮し、限られた血液と酸素が脳や心臓に優先して回される。さらに深く潜ると、末端の血液が胸部へ移動するブラッドシフトが起こり、水圧で縮む肺を内側から支えることで、より深く潜れるようになる。

小坂が面白いと語るのは、この反射が緊張や恐怖でリラックスできていないと出てこない点だ。体を緩めていくと初めてうまく働く。末端から自分の輪郭がぼんやりしていき、海に溶けていくような感覚があり、頭が少しぼうっとしてくるという。海に慣れれば40mくらいまでは普通に潜れるようになる、と小坂は笑いながら付け加えた。

最も危険なのは波と潮流、そしてパニック

最も死を身近に感じる瞬間について、小坂はまず、サメや低酸素によるブラックアウトは想像しやすい分かりやすい脅威だと前置きする。そのうえで挙げたのは波と潮流だった。時速2km程度の流れは、歩く速さで考えればゆっくりに感じる。しかしウェットスーツを着てフィンを履いて海に浮いた状態で、その流れに逆らって泳ぎ続けるのはかなり難しい。

海の中で状況が悪くなったとき、陸のように助けを呼んだり、誰かに尋ねたりはできない。自分1人で対処して生きて帰らなければならないという確実な実感や孤独感を、そういうときにこそ感じるという。このままでは帰れないかもしれないというときにパニックになれば死ぬ。大学の4年間、先輩たちから、慌てるのが一番危なく、パニックが最も良くないと教わった。小坂が実践しているのは、自分の状態を観察して把握することだ。息が上がっている、頭に血が上っている、呼吸が速くなっていると気づけば、意図的に深呼吸して落ち着かせる。

サメは「友達」ではない

小坂は、海外のインフルエンサーなどが言う「サメは友達」という見方を否定する。サメは肉食の動物で、個体や種類によって性格がまったく違う。たとえば2m未満の若いサメのほうが攻撃的で、3〜4mのサメのほうが慎重で落ち着いている、というのが小坂の見立てだ。それでも相手の機嫌次第でこちらがやられかねないので、不用意に近づいたり、余計なちょっかいを出したりはしたくないという。

ただ、自分から近づかなくてもサメの方から寄ってくることがある。長年追い求めていた2m超の大物を仕留めたときのことだ。いつもはその海域で突いた魚をサメに奪われるが、この日は魚がすんなり上がってきて、サメも少なくて幸運だと思っていた。ところが気づくと大量のサメが集まっていた。小坂は、サメはプールに血を一滴垂らしても匂いが分かるほど感覚が鋭いらしいと話す。目の前で大きな魚が暴れると、感覚が鋭すぎて行動を制御できなくなる「狂乱索餌」状態に陥り、近くの動くものすべてに噛みつこうとする。そうなりかけていたサメが、下から突っ込み、水面を泳ぐ小坂の後ろから口を開けて追ってきた。船に戻るまでに足か腕が1本なくなってもおかしくないと感じたという。

なんとか船に戻り、船長に銛を渡して船に上がった。あとは魚を引き寄せて上げるだけというところで、下から真っ黒な塊が突き上げ、水柱が上がった。昔の人はこういうものを見て海坊主だと思ったのかもしれない、と小坂は振り返る。

それでも、ずっと目標にしていた魚をサメに奪われたのが許せず、小坂はもう一度潜って同じ種類の魚を突いた。今度は自分が魚側のロープを持っていたのが悪かったと考え、魚を走らせて自分だけ船へ戻ろうとした。ところが、残骸が漂うエリアに入った途端にサメが近づき始め、20mほど下には、さっきまでいなかった4m級のオオメジロザメがいた。先ほどの魚がバラバラにされた場所で、20分ほどの間に海域中のサメが血の匂いに集まっていたのだと小坂は理解した。またも同じ目に遭いながら船に戻ったが、走らせた魚も結局食われてしまった。

腹を立てた小坂は三度目に飛び込んだ。まだ何もしていないのに、下にはサメの竜巻ができていた。一斉には襲ってこないが、1匹ずつゆらゆらと下から近づいては消えていく。様子を見に来ていると感じたとき我に返り、これ以上やれば本当に死ぬと思って引き上げた。

トラウマとの向き合い方

その場ではアドレナリンが出ていたため何度も潜れたが、その後の数年間はトラウマになったという。魚を突いてサメに襲われたような沖の場所に潜ると、自然に呼吸が速くなり、背中から嫌な汗が出る。少しでもサメの気配があると、潜りにまったく集中できなくなった。

しかし小坂は、サメがいたから怖がる、いないのに出そうだから怖がり続ける、というのは違うと考えた。少しずつサメの動きを観察し直し、その個体が自分に対して何を考えているのかを理解しようとしたという。今も「大丈夫ではない」が、イソマグロを突く場所はサメが非常に多いので、なんとかしていくしかない。人が立ち入らない場所へと大物を探していけばいくほど、こうしたことはつきものであり、自分の魚突きの一部だと小坂は受け止めている。

海で出会った光景:怒るイソマグロ、バショウカジキ、ジンベエザメとGT

小坂は海中で出会った印象的な場面もいくつか語った。潮に流されている小坂は、潮を登ってくるイソマグロの群れの進路を邪魔してしまうことがある。すると群れの中の大きな個体が、口を開けて「ボフッ」という音を立て、どけと言ってくるのだという。

あるときイソマグロを探して浮いていると、下にバショウカジキが現れた。小坂は「竜だ」と思ったという。背びれが大きく、先端がばさばさしていて、動きもとても大きい。その個体は2m85cmほどあった。水族館などで展示されるバショウカジキは青と銀のきれいな魚に見えるが、海中で見ると10円玉のような色で、そこに紫の稲妻のような模様が走っていた。仲間が突いたバショウカジキが走った後、海面から跳ねて小坂たちの方へ高速で突っ込んできた。前には撮影に向かっていたカメラマンの室(むろ)がいて、小坂は「室、死んだ」と思ったが、カジキは室の前で再び跳ねた。神を怒らせてしまったような、怒っているのが分かる光景だったという。

もう1つはロウニンアジ(GT)の場面だ。ナレーションによれば、GTはアジ科最大の魚で、全長1.8m、体重80kgまで成長することもある。小坂がGTに出会うのは普段、海底が見える磯場が多い。ところがそのときは、深く何もない場所で、真っ黒な雄のGTが1匹、潮を登ってきた。その後ろに巨大な影があり、よく見ると野生のジンベエザメだった。さらに驚いたのは、そのジンベエザメに10匹ほどのGTがぴったり張り付き、体をこすりつけていたことだ。大きなGTは「浪人」の名の通り1〜2匹でいることが多い。1m程度の小さなGTの群れならたまに見るが、1m数十cmはありそうな大型のGTが群れているのも、それがジンベエザメについているのも初めて見たという。何をしていたのかは小坂にも分からない。

なぜ手銛なのか

釣り竿も水中銃もある中で、なぜ手銛で巨大魚に挑むのか。小坂は、技術の発達によって魚と人間の力の差がどんどん人間優位になっている気がすると話す。そのうえで、これはあくまで自分に対する考えであり、違うやり方をしている人をどうこう言うつもりはないと断っている。

自分の勝手な理由で魚の命を狩りに行くのなら、自分も狩られるリスクが多い方がいい。それが手銛を使う理由だという。魚を打った後、ゴムの輪から手が抜けなければ、そのまま引きずり込まれて浮かんでこられない。命を奪う以上、自分も同じ海で危険を引き受ける、という姿勢である。

「分からないから潜っているのかもしれない」

なぜそこまでして潜り続けるのかと問われると、小坂は「中毒みたいな感じ」だと答える。潜るのが好き、潜りたいという段階はとっくに通り越していて、自分を保つために潜っているようなものだという。

小坂の魚突きのテーマは、大きな魚を獲る魚突きの限界に挑むことだ。大きな魚は数が少なく力も強いので、道具も自分の戦い方も試される。手銛でやっている人は他にいないため、未知の部分が多い。自分のスタイルの魚突きの限界に、これからも挑戦していきたいと話す。

最後に「小坂薫平にとって魚突きとは何か」と聞かれると、小坂は「分かんないですね」と答えた。格好いいことを言えればいいが、分からないから潜っているのかもしれない、まだ分からない、と。答えが見つかったら潜るのをやめてしまいそうな気もする、とも付け加えている。