ベトナムは日本のIT人材不足を補えるか:FPTジャパン経営陣が語るAI活用、教育エコシステム、「サムライスピリット」

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概要

日本では2030年に約80万人のITエンジニアが不足すると予測され、老朽化したシステムが経営の足かせになる「2025年の崖」も指摘されてきた。TBS CROSS DIG with Bloombergの対話番組「CROSS DIG VISION」(FPTジャパンホールディングス提供)では、MCの笹川友里が、FPTジャパンホールディングス取締役会長の谷原徹氏と、同社代表取締役社長のド・ヴァン・カック氏に話を聞いた。議論の中心は、オフショア開発の委託先と見られてきたベトナムを、日本企業はどう位置づけ直すべきかという問いである。両氏は、コスト削減の手段ではなく「戦略的ビジネスパートナー」として向き合うべきだという立場を一貫して示した。

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43年IT業界にいた谷原氏の問題意識

谷原氏は元エンジニアで、IT業界に43年在籍し、役員経験も20年ほどになるという。FPTジャパンに入社した理由について、日本企業がグローバルに出ていく際の橋渡しをしたかったと述べた。

笹川が日本のIT投資の水準を尋ねると、谷原氏は、IT投資額全体では日本は世界でも上位にあると思う一方、最先端技術やAIへの投資額は低いのではないかとの見方を示した。今もっとも重要なのは最先端分野にどれだけ投資するかだ、というのが谷原氏の考えである。

従来、日本企業はインドや中国を中心にオフショアの形で海外の開発力を活用してきた。ただし課題も増えてきたため、FPTでは「AIファースト」を合言葉に、AI駆動開発やAIプラットフォームの整備と若手人材の育成を進めていると谷原氏は説明した。高度な技術を持つ外国人材は不可欠だが、日本の文化やきめ細かな業務を理解するには相当な時間がかかる。谷原氏は、その時間を短縮するのがAIだとする。さらにベトナムが注目される理由として、日本との国交樹立から53年目を迎え、中立的な立場で各国と戦略的な協力関係を築いて評価されていること、IT人材が50万人以上いて日本語を話せる人材が多いことを挙げた。

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なぜベトナムはIT国家を目指したのか

谷原氏によれば、ベトナムは戦争の影響もあって、かつてはアジアの貧困国と言われていた。しかし近年は経済成長率が約8%に達し、人口も1億人を超えた。その背景として、国が国家予算を投じてIT産業の発展を後押ししていることを挙げる。谷原氏は、ベトナムのAIは日本より3年ほど進んでいるのではないかとの見方を述べた。笹川が「AIにとっての3年はとても大きい」と応じると、谷原氏も同意した。

ベトナムで育ったカック氏は、国がITを国家戦略とした理由を次のように説明した。25年前のベトナムは非常に貧しく、機械産業などの製造業も発展していなかった。世界と戦うための最大の武器は若い人口だった。現在のベトナムの平均年齢は33歳ほどで、若い人たちはよく勉強し、変化にも柔軟であるため、ITと相性がよいとカック氏は考えている。

谷原氏はこの状況を、30年前、40年前の日本を想起させるものだと表現した。若い人たちが国を支えており、ハングリー精神とチャレンジ精神が旺盛な若者が非常に多いという。毎年5万人ほどのIT人材が大学を卒業しており、中国やインドと比べれば人数はまだ少ないが、対応力は増していると谷原氏は評価する。

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オフショア拠点から戦略的パートナーへ

日本はどう対応すべきかという問いに対し、谷原氏は、これまでベトナムをオフショア拠点として使う目的はコスト削減や要員の供給力確保だったと振り返った。だが今後は、高度なテクノロジーを持つベトナムの人材と、単なるパートナーではなく戦略的ビジネスパートナーとして向き合い、何をどう変革し、何を作るかを一緒に考えることが重要だと述べた。

FPTはDX、半導体、AIなどを重点施策に掲げている。谷原氏は、これらはベトナムの国家戦略とほぼ重なっていると説明した。強みはITとOT(制御・運用技術)の融合を包括的に支援できる点にあり、そこに、きめ細かな業務やものづくりの経験を持つ日本企業との協業と共創が加われば、日本経済を取り戻すきっかけになると谷原氏は「信じている」と語った。

国内ですでにそうした動きは始まっているのかと問われると、谷原氏はFPTが大手企業約600社と取引していると答えた。日本企業がグローバルに拠点を設ける際の橋渡しに加え、最近は変化も出てきているという。従来の延長線上では成長が難しくなった日本企業が、いったん「ゼロクリア」して、3年後、5年後、10年後のTCO(総保有コスト)を下げるためのコスト最適化を、最先端技術を使って提案してほしいと依頼してくるケースが増えている。技術者が中心となって発信し、実績も出てきたと谷原氏は述べた。

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変われない企業はどうなるか

笹川は、レガシーを抱え、自分たちのやり方を変えたがらない日本企業も多いのではないかと問いかけた。谷原氏は、AIはハルシネーションも起こすため、人間を中心に置いてAIをパートナーとして使いこなす「ピープルセントリック」な企業がビジネス変革を起こし、成長企業になると考えている。

谷原氏は時価総額ランキングも引き合いに出した。30年前は世界のトップ10に日本企業が7社入っていたが、今は日本トップのトヨタでも46位ほどだという。谷原氏はこれを、30年間遅れてきたことの代償だと位置づけ、その差を埋める橋渡しをしながら価値を追求したいと語った。

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FPTジャパンの事業規模と成長

2つ目のテーマは、成長を支える「15万人の頭脳」である。カック氏によれば、FPTコーポレーションは1988年にベトナムで設立された、ベトナムおよびASEANで最大級のICT企業で、多くの国で事業を展開している。グループ全体では世界に約8万人のメンバーがいる。日本とベトナムの文化・経済・知識の交流の架け橋となるため、2005年にFPTジャパンを設立した。現在、日本全国で5000名以上のエンジニアが在籍し、そのうちベトナム人スタッフはおよそ半分だという。

谷原氏は、FPTジャパンのサービスについて、コンサルティングからソフトウェア開発、ERP、AI、クラウド、半導体、業務基盤の構築、マネージドサービスまでをエンドツーエンドで提供していると説明した。全業界に対応しているが、特に製造業、自動車、金融が大きく伸びているという。

売上について、谷原氏は今年の目標は1000億円以上で、現時点で達成が見えていると述べた。過去15年間の売上高成長率は27%で、20期連続の増収を続けている。さらに、FPTグループの海外売上のうち日本が40%を超えており、日本は最重要拠点になっているという。

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成長の要因:言葉の壁を越える仕組みと人材育成

急成長の要因について、カック氏は、FPTジャパンは当初から日本のSI企業と一緒に事業を始め、顧客とともに言葉の壁を越える仕組みを作ってきたと説明した。そのうえで、最新技術と日本語の能力を持つ優秀な人材を確保するために、育成体制にも取り組んでいると述べた。

その育成体制の特徴が、FPTの教育事業である。カック氏によれば、FPTは2006年にFPT大学を設立し、現在は小学校から大学までの教育機関を持っている。在籍者数についてカック氏は「10万人の学生」と述べた箇所と「15万人の生徒と学生」と述べた箇所があるが、いずれにしても、グループ内で大規模な教育システムを運営していることを説明した。笹川は、教育課程でITリテラシーを高めた人材がそのまま大手企業のFPTに入社するエコシステムだと受け止めた。カック氏は、毎年1万人ほどがFPTグループ各社に入社すると述べた。

谷原氏が「面白い」と紹介したのはインターンシップの仕組みである。FPT大学の学生は3年生になるとインターンシップでFPTに来て、8か月ほどカリキュラムに沿って学ぶ。当然アルバイト料も支払われる。そのため、日本のような新入社員研修はあまりなく、即戦力として入ってくるという。カック氏によれば、インターン後、最後の1年にはFPTでOJTを受けることも可能だという。笹川は、2006年の設立から約20年が経ち、この仕組みが今後も何十年と続くと考えると「ベトナムが強すぎて怖い」気持ちにもなると冗談めかして語った。

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FPT大学の取材VTR

番組ではFPT大学を取材したVTRも紹介された。龍(ドラゴン)をかたどった建物が映り、留学生も多く在籍している様子が紹介された。

日本語学科で学ぶ学生は、FPT大学を選んだ理由として、IT分野の教育レベルが高いこと、ITを学びながら日本語も勉強できるため自分の将来の方向に合っていること、さまざまな活動を通して学び成長できる環境に魅力を感じたことを挙げた。将来は日本語を使って働くプログラマーになりたいと話した。別の学生は、日本語IT学科の学生たちについて、エネルギッシュで前向きな人が多く、勉強や仕事に熱心な人が国の成長を支える力になっていると語った。

実際に大学を訪れた谷原氏は、学生たちが自分の将来の夢やあるべき姿を自ら描き、そのためにどうすればよいかをキャリアパスを含めて考えている点が印象的だったという。こうした若い人たちが国を支えていくのだと感じ、日本の若者にもそうあってほしいと述べた。また、日本語が上手なことに驚いたといい、日本語学科を選んだ学生だからという面はあるにせよ、ベトナムの学生は英語も上手で、その点は日本にはない特徴だと語った。

ベトナム人の親日的な国民性について問われると、カック氏はベトナム人は日本や日本人が大好きで、日本に行きたいという人が多いと答えた。谷原氏は、日本の精密できめ細かな事業を学びたい、日本という国をもっと知りたいという声が多いのではないかと補足した。カック氏は、若い人たちは漫画やアニメなど日本の文化が好きで、特に日本の「侍スピリット」も広く浸透していると述べ、これが最後のテーマにつながった。

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「サムライスピリット」はベトナムにある

3つ目のテーマは「日本企業を救うサムライスピリット」である。谷原氏は、30年前の日本で言われていた「サムライスピリット」という言葉が、今はベトナムに存在していると語った。ベトナムの若手はハングリー精神が旺盛で、勤勉にチャレンジする風土と粘り強さがある。かつての日本の若者もそうだったが、それが今はベトナムに移っているという見方である。谷原氏は、顧客から「今年は元気な新入社員が入ってくれた」と聞いて調べてみたらFPTの技術者だった、という話をよく聞くとも述べた。カック氏自身にも侍スピリットがあるかと笹川が尋ねると、谷原氏は「むちゃくちゃありますよ」と笑いながら答え、ハングリー精神が半端ではなく負けず嫌いなところがあると評した。

今後の日本企業との向き合い方について、カック氏は、FPTの若いエンジニアにはチャレンジ精神があり、それが顧客側のモチベーション向上にもつながっていると聞いていると述べた。顧客からは、FPTのベトナム人エンジニアと仕事をすると30年前の日本の姿を思い出すと言われたという。カック氏は、FPTジャパンの社員一人ひとりが顧客の相棒として一緒に成長していきたいと語った。谷原氏は、自分がパッションを持っていなければ相手には伝わらず、そこを変えなければ日本も変わらないと付け加えた。

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AIはエンジニアのライバルではない

AIの台頭でシステムエンジニアは不要になるという議論について、谷原氏は、AIはエンジニアのライバルではなく最も優秀なパートナーだと考えていると述べた。電卓が普及しても人の仕事がなくならなかった例を挙げ、むしろAIを使いこなせるエンジニアとそうでないエンジニアの差が大きくなると見る。これからはAIに仕事を奪われるかどうかではなく、AIを使って何倍の価値を生み出すかが問われる時代であり、FPTはピープルセントリックを軸にAIと共生しながら価値を追求する体制を整え、教育にも注力したいと語った。

AIとエンジニアは共存できるかと問われると、谷原氏は「できると思う」と答えた。そのうえで、エンジニアである以上、要素技術はしっかり確立したものを学んでほしいと強調した。その上に立つのがパートナーとしてのAIである。先端技術は次々と変化し進化するが、それを受け止める土台が揺らいでいては意味がない。新しいChatGPTのモデルが出てきて圧倒的な速さで処理できるようになっても、人間からの要求がなければ使いこなすのは難しい。人間がやるべきことと技術ができることを切り分けて考えることが、AIをうまくパートナーとして活用することにつながると谷原氏は述べた。

カック氏は、今の時代のエンジニアはAIを勉強しなければならず、AIを使えない会社はだんだん減っていくと思うと語った。

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求められる人材の変化と、日本企業の風土

笹川は、トップレイヤー以外のエンジニアの仕事はAIでおおむねできるのではないかという話を多くの企業から聞くとして、エンジニアに求められるものが高度化しているのかを尋ねた。谷原氏は、採用人数の多寡ではなく、求める人物像が変わっていると答えた。単純な開発作業だけを行う人ではなく、AIを活用しながら顧客の課題を解決できる人材が求められている。人間はビジネス変革の担い手へと進化しなければならず、FPTも積極的に採用を続けるが、その中身はより高度になっていくという。谷原氏は、明確な答えはないとしたうえで、答えを見つけるために教育があると考えており、教育を基盤にしっかり取り組みたいと述べた。

技術力に加えて人柄や対人力も求められるのかという問いに対し、谷原氏は話を企業風土に広げた。DXという言葉が叫ばれて3〜4年になるが、日本企業の風土を変えなければチャレンジは生まれない。企業の中核にある減点主義のイメージを変え、企業風土を変える活動につなげることが日本の再生にとって一番大事だと谷原氏は考えている。笹川はこれを、試行錯誤やチャレンジを良しとする風土と言い換え、変えるには時間がかかりそうだが今変わらなければならない、と応じた。

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両氏からのメッセージ

最後に、日本企業がAIトランスフォーメーションの時代を生き抜くためのメッセージを求められた谷原氏は、不確実性の高い社会、急速な変化、複雑な課題に直面しているのはベトナムも日本も同じだと述べた。そのうえで、特に日本企業にとってはものづくり復活に向けた大きなチャンスがあると考えているという。AIの進化によってマイグレーションが短縮され、「2025年の崖」と呼ばれた問題に関わるレガシーシステムのモダナイゼーションが進むと見ており、侍魂を共有するビジネスパートナーとして日本企業とともに歩みたいと語った。

カック氏は、ベトナムの若い人たちと日本企業がともにグローバルに展開していきたいと述べた。ベトナムの人材をただ活用してもらうだけでなく、日本企業にとっての本物のパートナーになりたいというのが、カック氏の締めくくりの言葉である。笹川は、互いの強みと知恵を出し合い、タッグを組んで世界に出ていくということだとまとめた。