家事をなくす家は「天井型ロボット」でつくる――MWの成田修造と浅谷学嗣が語るAIハウス構想

YouTubeで開く ↗
概要

AIハウスメーカーのMW(ムー)は、家事をなくすことを目標に、住宅とロボットを一緒に開発している。開発中のロボットは床を歩く人型ではなく、天井のレールを移動して上から作業する。TBS CROSS DIGの番組「1on1 Tech」で、ビジネスエディターの中川雅博がMWの実験用トレーラーハウスと横浜の新築物件を訪ね、共同創業者でCEOの成田修造、AI/ロボティクス責任者の浅谷学嗣に話を聞いた。中川が掲げたテーマは「家事ロボットの正解は人型じゃない」である。2人は、なぜスタートアップが住宅を手がけるのか、なぜロボットを天井に付けるのか、いつまでに何をできるようにするのかを具体的に語った。

23分で読めます
2:33

実演1:買ってきた食品を、2台のロボットで冷蔵庫へ

実演の場は、ロボット実験のために作ったトレーラーハウスである。最初のデモは、買い物から帰ってきた場面を想定し、醤油、ニンジン、飲料水などが入ったかごをロボットが片付けるというものだった。

まずかごを運ぶのは、MWが「カーゴロボット」と呼ぶ運搬用ロボットだ。天井のレールを伝って荷物を運ぶ。浅谷は、人の動線とロボットの動線を分けられるので、ぶつからずに安全に運べる点を利点に挙げる。人と並んで動くことも、すれ違うこともできる。床を歩くヒューマノイドとの違いはここにあると浅谷は説明した。上から伸びてくる先端部とカーゴロボットは磁力でつながっていて、着脱できる。先端にはカメラが付いており、位置を微調整しながら動かす。

かごが届くと、物をつかんで扱う「ワークロボット」に役割が移る。ワークロボットは大きく分けて「背骨」と「胸」の2つのパーツから成る。常温で保存できる醤油はかごの外に出し、野菜や飲料水は冷蔵庫に入れる。冷蔵庫は一般に市販されている製品で、扉の開け閉めもロボットが行う。浅谷によれば、ロボット専用の家電を作らなければならないとなると大変なので、普段使っている家電をそのまま使わせ、「ロボットを入れるだけでいろんなものが自動化される世界」を目指しているという。作業が終わると、ロボットは格納姿勢に戻って天井側へ収まる。

なお、この日の動作はすべて遠隔操作によるものだった。完全にAIで自動化することが目標だと浅谷は明言している。

7:56

実演2:絡み合った洗濯物を取り出して畳む

2つ目のデモは洗濯である。ワークロボットが市販の洗濯機の扉を開け、中の衣類を取り出して畳む。浅谷は2017年から洗濯物を畳むロボットの研究開発を続けてきた。その立場から見ても、ロボットにできることは大きく進んだという。進歩の主因はロボット本体よりも、世界的に「行動できるAIの基盤モデル」が登場したことにあると浅谷はみている。2017年ごろの技術と比べて、はるかに高度になったという評価だ。

この試作機は関節が多く、背骨にも多数の関節がある。そのため胸の部分を空中で上下させるような動きができる。実演でも、ロボットはTシャツを2枚まとめて取り出した。浅谷によれば、乾燥後の洗濯物は丸まって絡み合っていることが多く、MWはあえてその状態からごっそり取り出し、1枚ずつ畳む動作を教えている。手順としては、まず広げることを教え、そこから折りたたみに入る。浅谷は、他社のデモはきれいに広げられた状態から畳むものが多いと話す。ぐしゃぐしゃの衣類をきれいに広げる動作が難しいので省略されがちだが、MWはそこもきちんと教えようとしているという。

カメラは3か所にある。両手の先端に1つずつ付いていて、指先の様子を画像で見られる。胸の部分にも穴があり、そこから全体を見渡す。さらにレール上には下を見下ろすカメラがあり、作業領域全体を把握しやすくしている。

畳み終えたTシャツには線のような目印が入っていた。試作段階なので、どこを持てばよいかの目安として付けているのだという。ただし、データ収集施設では目印のない衣類でも畳めるようにデータを集めていると浅谷は補足した。服の形は多様だが、その違いにどう対応するのかという中川の問いに、浅谷は「割と今やってるのは力技」と答えた。ズボン類もシャツ類も、ハンガーに掛ける必要がある衣類も含め、あらゆる衣類を集めて畳ませ、データを取っている。

遠隔操作のデータからAIへ

中川が触れたように、MWには人間がロボットアームを操作して家事を行うブースを並べたデータ収集施設がある。浅谷によると、来月から再来月にかけて50人ほどの体制で、人間がロボットを操作して衣類を畳み続ける作業を行い、そのデータをAIの学習に使う予定だ。

今の遠隔操作はゆっくりだが、AI化すれば速度はかなり上がるだろうと浅谷はみている。理由は2つある。1つは、遠隔操作には画像の遅延があり、操作する人も慎重になるが、AIなら画像を撮ってその場で判断して動けること。もう1つは、何万時間分ものデータを学習すれば、人間の操作者が苦労するロボットの扱いにもAIがかなり慣れるはずだということ。いずれも浅谷の見通しとして語られた。

トレーラーハウスを作ると決めたときは周囲も驚いていたと浅谷は振り返るが、かなり前から構想していたという。今年は豊洲でもデモを行った。道路を牽引して運ぶのはかなり大変だったそうだ。ここまでして実空間を用意する理由として、浅谷は体験を挙げる。ロボットと一緒に暮らす体験を想像しやすくなるうえ、人がロボットと共生したときにどう感じるかを体験してもらうことが今は最も重要だという。批判も多く出るだろうが、特にネガティブな意見を多く拾い、より良いものを作るための糧にしたいと語った。

19:36

センサーとプライバシー:処理は家の中で完結させる

MWの家には各所にセンサーが仕込まれている。浅谷が紹介したのは、通常のカメラではなく熱源を見る赤外線センサーだ。人がどこにいるか、これから寝ようとしているかといった状態をとらえる。人が入ってきたら照明をつけ、寝そうな様子なら少しずつ暗くするといった体験を作れるという。

中川は、そうしたデータの扱いが心配になると指摘した。浅谷の説明では、センサーの処理は基本的にセンサーの中で完結させ、クラウドには上げない。センサー側で取り出した人の状態の情報だけを、家に置いたサーバーに送る。そのサーバーもクラウドとやり取りするものではなく、家の制御をすべて家の中で完結させる。現時点のサーバーはGPUなしでも制御できる程度のものだが、ロボットが入ればGPU付きのサーバーも置き、ロボットを動かすAIモデルも家の中で動かす想定だ。理由として浅谷は、クラウド通信ではロボットの制御に時間がかかりすぎることに加え、ロボットのカメラには「映ってほしくないもの」がたくさん映るため、すべてエッジ側で処理する必要があることを挙げた。

22:12

非常停止スイッチと「時間で分ける」安全設計

浅谷は実演中、手に非常停止スイッチを持っていた。ワークロボットはまだ試作機なので、万が一の暴走や壊れそうな動きに備えているという。ロボット開発者ならおそらく誰もが持っているものだと浅谷は話す。

ロボットが入る家に非常停止スイッチをどう設置するかは、UXの観点からかなり考える必要があると浅谷は言う。現在のMWのコンセプトでは、センサーで人の位置が分かるので、人がいる環境ではロボットが基本的に動かないというセーフティを設けている。そうすればスイッチは要らず、人に危害を加えることはまずないと浅谷は考えているが、開発中なので今はスイッチを持っているという。

中川が「ロボットと常に一緒にいるドラえもんのような世界ではなく、空間が分かれた世界なのかもしれない」と水を向けると、浅谷は少し違う見方を示した。日本の狭い家では、ロボット専用のスペースを別に作るのはもったいない。空間は共有し、生活する時間帯をずらす。いわば同居していても一緒にいることに気づかない状態が一番大事だという。

24:58

なぜAI時代に「家」なのか

場所を横浜の新築物件に移し、成田への取材が始まった。成田はクラウドワークスの立ち上げから約11年経営に関わったが、ものづくりやハードウェアに関わる事業をずっとやりたかったという。AppleやTeslaのような会社を日本から生み出せないかという思いがあった。

住宅を選んだ理由はいくつかある。第一に、人は人生の半分ほど、あるいはそれ以上を家で過ごし、住宅は重要なインフラであること。第二に、成田自身がこの4〜5年で家を買うなどした経験から、家があまり進化していないと感じたこと。新築であってもテクノロジーを搭載した家はほとんどなく、画一的だと成田は言う。「素人の発想」でやれば面白いものを生み出せるのではないかという仮説もあった。第三に、産業規模が大きいこと。成田は国内の戸建て市場だけで10兆円以上あると述べた。

もう1つの理由はグローバル競争である。成田の見方では、インターネットの時代には米国や中国の資本量が日本の10倍から100倍あり、日本からグローバルなサービスが生まれにくかった。同じことはAIでも起こるだろうと成田は考えている。そこで、バランスシートをうまく使い、日本の需要も活かしながら技術的な革新を生み出し、言語に依存せず世界に出られる事業として住宅に目を付けたという。

27:58

「静的な家」から「生きた家」へ

MWは「リビングホーム(生きた家)」をコンセプトに掲げ、家そのものを知能化しようとしている。成田によれば、今の家は人の動きに合わせて変化しない「静的」なものだ。AI、センサー、ロボットをうまく使えば、人に合わせて家が変化し、勝手に整う。知性と身体性を持たせて、家を静的なものから動的な「生命体」に変えたいという。

成田が挙げる例は日常的なものだ。寒い冬に子どもを公園に連れて行き、車で帰ってきたときに風呂が沸いていてほしいのに、今はその手段がない。子どもを玄関に置いて自分で風呂を沸かすことになる。旅行に出かけようとスーツケースを1階に下ろしたところで2階の電気がついているのに気づき、歩いて消しに行く。成田はこの取材の日も、出かける際に洗面所の電気を消しに行ったという。自宅は新築だが、MWから見れば「過去の家」だと成田は話す。

自動運転やロボタクシーで車の運転は減りつつあるのに、なぜいまだに洗濯物を畳み、食器を片付けているのか。なぜ帰宅したとき玄関の靴が整っていないのか。こうした不便はフィジカルAIで解決できると成田は考える。それができればQOLが上がり、一度住んだら他の家には住めなくなる体験が将来的に作れるはずだという。

既存のスマートホームと何が違うのか

技術面については浅谷が説明した。MWの家には「ムー・インテリジェンス」と呼ぶAIが入っていて、照明、レールカーテン、空調などを制御する。たとえば住人が普段どの温度で暮らしているかを学習し、その人がいるときは自動でその温度にする。住むほど家が学び、住みやすい環境を自動で作っていく点が、タブレットで機器を操作するだけの家との違いだという。

中川は自身の経験として、対応家電を買ってGoogleやAlexaにつないでも、つながるものとつながらないものがあり、Wi-Fiが切れることもあると話した。浅谷も、機器ごとにアプリを入れ、どれを使うか人が選ぶコストがかかると指摘する。MWの家は1つのアプリですべてを制御する。AIに指示を出すには機器が統合されていなければならず、AIとの相乗効果のためにも統合が必要だったと浅谷は説明した。言語での指示を受けて、どの機器をどう動かすかを判断する言語モデルもつながっている。入力はテキストと音声の両方に対応する。学習対象は、住人が実際にどう家電を操作し、どんな環境で暮らしているかである。

独自技術はあるのかという問いに対し、浅谷は、個々の技術は既存のものを使いこなしている部分が多く、新しいのはそれらを組み合わせたUXと技術の向かう先だと答えた。

34:53

2億〜4億円の高級住宅から始める理由と「素人のビジョン」

MWの住宅は土地込みでおおむね2億〜4億円である。なぜこの価格帯から始めるのかと問われ、成田は先進的な体験だからだと答えた。最初から多くの人に届けるより、市場を絞ってしっかり作った方がよい。未来の住宅に関心を持ち、新しいものに挑戦する人たちから入ることが、マーケティング上もよいという判断だ。

比較対象として成田が意識するのはタワーマンションである。都内のマンションは平均でも1億円を超え、2億円を超える物件も次々に出ている。MWはそこに対する選択肢を示したいという。アプリはコンシェルジュの機能も兼ねていて、MWの事務局とすぐにチャットで連絡できる。物の引き取りやハウスクリーニングの依頼にも対応する。タワーマンションのような利便性を戸建てで実現し、オンラインとオフラインの体験をテクノロジーとハードウェアの両面でつなげたいと成田は言う。そこから少しずつ価格を下げて市場を広げる戦略だ。

進行中のプロジェクトは都内を中心に15以上ある。都市型の「アーバン」、リゾート向けの「オーシャン」と「マウンテン」の3シリーズがある。まず最初の2年はこれで走ると決め、土地の仕入れなどを進めてきた。

土地の仕入れや建築は素人にはできないのではないかと中川が尋ねると、成田は、ビジョンは素人だが、それを構成する要素は専門的だと答えた。こんな家があったらいいという無垢なビジョンからスタートし、不動産、建築、施工、ロボティクスに詳しい専門家が社内にいて、そのビジョンを現実のものにしている。成田自身は「現実」をいったん無視して出発しているという。

39:59

ソフトウェアだけでは家事は消せない

ロボットまで自社で作る理由について、成田は「究極的に素晴らしい家」とは何かを考えた結果だと話す。たどり着いた答えは「家事をなくしてあげる家」だった。人は料理を含めて1日に2時間40分を家事に使っているとされ、起きている時間を16時間とすればかなりの割合になる。これをゼロにできれば大きな価値がある。

ところが、ムー・インテリジェンスのソフトウェアを開発する途中で、成田はこれだけでは無理だと気づいた。照明を変えたりカーテンを開けたりはできても、家事はなくせない。必要なのはロボットだと考えて浅谷と話し始め、ヒューマノイドを中心にロボットとAIの技術がちょうどよい時期に来ていることも分かった。アイデアを練った末に生まれたのが、家とロボットを連結させ、天井を動く双腕型のロボットを動かすという構想だった。

42:20

人型でなくガントリー型を選んだ理由

天井を動くガントリー型を選んだ最大の理由は安全性だと浅谷は言う。浅谷には小さな子どもがいて、ヒューマノイドが家を歩き回ったときに万が一のことがあったらと考えてしまうという。最も安全なのは、ロボットが動く環境そのものを固定し、絶対に転倒しないようにすることだ。天井付近がデッドスペースになっていることも分かっていた。

浅谷によれば、ロボットはこれまで基本的に工場などのBtoB向けの事業で、安全が確保された状態で稼働してきた。ロボットは不運が重なれば大けがをさせかねない。それをいきなり一般家庭向けに持ち込んだとき、大きな事故が1件でも起きれば会社が大きく傾くのではないかという心配があった。だからこそ、安全を確実に担保できる機構としてレール式を選んだという。

もう1つの理由は空間効率である。床を歩くロボットが人と同じ生活動線を使うと、すれ違えないことがある。人型のロボットが部屋に立っているだけでも圧迫感がある。天井付近を使えば、空間を効率的に使いつつ圧迫感も減らせると浅谷は説明した。

技術的にはどちらが簡単なのか。浅谷は両方に長所と短所があると答えた。ガントリー型の短所は届く範囲が限られることだ。床面まで手を伸ばすにはロボットを長くしなければならず、ぶれやすくなる。一方、長所は大きい。家に固定されているので、ロボットが自分のいる場所を正確に把握できる。ヒューマノイドは認識技術を回し続けて自己位置を推定しなければならないが、ガントリー型では位置が一意に定まり、数値情報を得るだけで済む。そのため制御がしやすい。

さらに、床を歩くロボットは机の上やベッドの上の作業で手が届かないことがあるが、上から降りてくるロボットは机やベッドの真上に胸の中心を置けるので、どこでも作業できる。浅谷は、家事は床よりも机より上の高さで行うことが多いと考えており、その範囲の作業ではガントリー型の方が圧倒的に効率的だとみている。

ただし、レールを張り巡らせる必要がある。新築の方がやりやすく、リノベーションではレールを後付けしなければならない。長期的には取り組みたいが、まず新築から始めるのはそのためだという。

48:19

2028年製品化と「家事5タスク」

開発の段階について、浅谷はこう説明した。現在はロボットを制御するAIモデルを開発しており、先月行ったデモンストレーションを、来年には完全にAIで自動化した形で見せる予定だ。この1年で、ランドリーやキッチン周りのタスクを人が関与しなくても自律的にこなせるようにする。さらにもう1年で製品化し、2028年にはAIを搭載したロボットを世に出すスケジュールである。販売時は基本的にAIで動かすが、AIが予期せぬ状態になったり復旧できなかったりした場合に備えて、リモートで制御できる環境も用意する。一部は人の手を借りる可能性もあるという。

MWは2029年までに家事5タスクで成功率90%を目標に掲げている。優先順位は、どの家にもあって時間を取られるものから順に決めた。

  • ランドリー:洗濯機から出し、畳み、収納するまでの一連の作業。
  • ゴミの回収:家の各所にあるゴミ箱から回収して1か所にまとめる。集積所に出すのは人間が行う。
  • 食器の片付け:食洗機で洗うところまでは人が流し、その後の食器を取り出して棚に戻す工程をロボットが担う。
  • ベッドメイキング:浅谷は挑戦的なタスクだと認めつつ、UXを大きく上げるとみている。ホテルが好きな理由は毎回ベッドが整っていることで、帰宅時にベッドが整っていればそれだけで幸せになると話した。
  • 玄関と洗面所を整える:成田が補足した。荷物や脱ぎっぱなしの靴が片付き、洗面所の歯磨き粉やワックス、替えていないタオル、飛び散った水が整った状態にする。

成田は、帰宅したときに「誰かがやってくれた」と感じる状態を、視覚に入りやすい場所を中心にまず作りたいと語った。

53:01

AIが要る作業、要らない作業、そして料理

5タスクはAIで解く必要がある。一方で、AIを使わずに既存技術の組み合わせで自動化できる機能も加えていくと浅谷は言う。トイレットペーパーや食器用洗剤、洗濯用洗剤などは、パントリーの決まった位置に置いておく。なくなればMWのスタッフが補充品をロボットに預け、ロボットが所定の場所に置く。こうしたルールベースの自動化も組み合わせる計画である。

2030年以降は料理にも挑む。成田は、コーヒーを入れ、トースターでパンを焼き、目玉焼きを皿に盛る程度なら今の技術でも不可能ではないとみている。問題は安全性で、エラーが起きればフライパンを投げる可能性もあり、火も使う。そのため人とロボットの活動空間を分ける必要がある。MWの家なら、ロボットが動いている間はドアを閉めて人が入れないようにすることもできるという。成田は、2030年以降に料理まで「完全制覇」したいと述べた。

中川が個人的には風呂掃除をしてほしいと言うと、成田は多くの人から同じ要望があると応じた。ただし防水などのハードウェア技術が重要で、どう進めるかはこれから検討するという。家事は大きく分けて20種類ほどあり、今はそのうち5〜6種類から始める。住んでいるうちにできることが増えていく想定だ。

AIの進化とデータファクトリー

ロボットにAIが必要なのは、状況に応じて行動を変えなければならないタスクだと浅谷は説明する。トイレットペーパーの補充のような定型作業なら既存技術でできる。しかし衣類は毎回形が違い、それに合わせた動作を生成しなければならない。浅谷が研究を始めた2017年ごろには、あらゆる状況に対応できるAIモデルはなかった。今のモデルは新しい環境にも順応できる能力を獲得しており、それまでできなかった作業ができるようになったことが最大の恩恵だという。浅谷はVLAモデルや、物体に働きかけたとき世界がどう変化するかを理解する「ワールドアクションモデル」を例に挙げた。

学習データを集めるのが「AIデータファクトリー」である。人間がロボットアームのような装置を操作し、「この状況ならこう畳めばきれいに畳める」というパターンを数多く試す。それをロボットが覚え、新しい状況にも順応できるようにする。初めて見る物体にもある程度対応できるようになってきたが、初めて触るものはまだ難しいことがあるため、データを増やしているという。

59:36

数十億円の投資と、コストが「読める」ことの重要性

成田はタスクを絞る理由を投資計画から説明した。どのデータをどれだけ集めればどれだけ成功率が上がるかを確かめるには、タスクを限定した方が効率がよい。仮に1タスクの成功率を90%にするのに2億円かかると分かれば、20タスクなら40億円と見積もれる。事業計画の見通しが立てば、その額を調達して投資すれば完成度の高いロボットが作れる、という考え方だ。

計算資源について浅谷は、GENIACに採択され、国の支援を受けてクラウドの計算リソースを使っているほか、自社でもGPUを搭載したマシンを購入して計算クラスターを構築していると話した。AIモデル開発のための計算資源とデータ収集を合わせた初期投資は、数十億円規模になるという。

ただ、1タスク2億円という数字はまだ分からないと成田は認める。重要なのは額そのものより、それが読めることだという。成田によれば、米国や中国の企業が先行し、論文になっていない曖昧な成果も多いものの、どのモデルを使い、どのタスクに何時間かけ、どの成功率になったかを公開している。そこから逆算して、自社のタスクならこの程度の計算資源と費用でできるだろうという仮説を立てている。前後20%程度のぶれなら問題ないが、まだリスクはあるという。

一方で、Physical Intelligenceのπ0.5、NVIDIAのGR00T、日本のAIロボット協会(AIRoA)が作ろうとしている基盤モデルなど、使える土台が増えていると成田は話す。そこに独自データを加えてどれだけ性能が上がるかという点では「助走がついている」状況だという。基盤モデル側の性能が上がり、さまざまな研究事例を踏まえてデータ収集の方法も改善できれば、効率的に進められるだろう。それが現時点での成田の算段である。

1:04:31

2035年に年間1万戸、エアコンや食洗機のような存在に

成田は2035年に年間1万戸への導入を目指している。累計ではなく、その年単年で1万戸という意味だ。成田によれば日本の年間の新設戸建ては約40万戸、都内では約15万戸とされ、全国の2.5%、都内なら5%程度にあたる。その時点では2億〜4億円の家だけではないと成田は述べた。

そのために、長期的には住宅会社やデベロッパーと組み、MWのロボットとAIを組み込んだ住宅を共同で作ることも考えている。それでも自社で家を建てるのは、家づくりのノウハウが「やってみたら分かる」ほど高度だからだ。AIやロボットだけ分かっていても組み込みはできず、ブランドと体験を作るうえでも両方を走らせる必要があるという。

マンションへの展開にはハードルがあり、レールの施工自体が新しいテーマになると成田は認める。そのうえで引き合いに出すのが食洗機である。成田によれば食洗機は累計1000万台ほど売れ、新築にはたいてい入っている。メーカーが工務店やデベロッパーと組み、施工しやすい規格を作ってノウハウを蓄積してきたからこそ普及した。給湯器やエアコンも同じだ。AIロボットでも同じことは起こせると成田は考えており、長期的にはエアコンや食洗機くらいの存在になりたいという。デベロッパーと施工の基準を作るためにも、自社で建てた実績が大事だとした。

当面は分譲の戸建てで進める。1棟だけ考慮すればよく、今回の物件は約150㎡と約130㎡でレールなども隠しやすく、実験しやすいからだ。2026年現在はトレーラーハウスでの実験段階だが、2027年には横浜に130〜140㎡ほどの家を建ててロボットを入れ、成田と浅谷が実際に住む予定である。住んでみて体験が本当に良くなるのかを確かめ、家への組み込み方のノウハウをためて、2028年の製品に近づけていく。

1:09:33

住宅からホテル・小売・介護へ、そして耐久性の問題

住宅に限らない展開も視野にある。成田は、人の動きがランダムでライフスタイルも多様、タスクも細かい住宅が最も複雑な空間であり、ここを変革できれば他の空間も変革できると話す。想定しているのはホテル、小売、そして高齢者住宅を含む介護の領域で、すでにスコープに入っている。中川が介護職員の雑務をロボットが担えばケアに時間を割けると応じると、成田もそれに同意した。

成田は戦略面でも、汎用のヒューマノイドを作って大量生産し工場に入れる路線は、誰もが想像できるレッドオーシャンで、最終的にはコスト勝負になるとみている。誰もやっていない領域に産業を絞り、AIロボットの技術に投資しつつ、ユースケースとして住宅に集中して販売するのが良いという判断だ。

一方で中川は、家は40〜50年住む場所であり、AIのような新しい技術がそれほど長く使われた実績はまだないと指摘した。浅谷の答えは、2027年の家で1年間ロボットと暮らし、耐久テストをすることだった。販売後は定期的な管理料を受け取り、ロボットの交換や故障修理を含むメンテナンスを行う。製品を売る前に10年間検証していては周囲の技術に大きく遅れてしまう。そこで1年の検証で問題がなければ販売し、出てくる故障を定期的に修理しながら耐久性を確認していく考えだと浅谷は語った。成田は、レールより下のハードウェアは交換可能にすると補足した。5年や10年使って傷めば、iPhoneのように「ムーボット1」から2、3、4と世代を上げて入れ替えていく想定だという。

1:14:13

「アイアンマンの家」と「ドラえもん」

最後に5年後、10年後について問われ、成田はこの会社をまず30年やると決めていると答えた。それは自分の世代の区切りであり、会社としては100年、200年続くものと考えている。短期での売却や金銭目的ではなく、新しいライフスタイルをどう作るかだけを考えて経営しているという。フィジカルAIは車や自動運転の登場に並ぶ技術革新だとみており、顧客目線で挑戦を続ければ面白い家が作れるはずだと語った。社内ではよく「アイアンマンみたいな家」と言っていたという。AIのジャービスが搭載され、ロボットがスーツの装着を手伝う家だ。最終的にはそのレベルの家が作れるはずだと成田は考えている。そこで生まれた技術を介護、ホテル、小売へと広げられれば、日本にとって重要な価値を持つ会社になれるという。

浅谷は、昔から「ドラえもんを作りたい」という夢があったと明かした。人とロボットが暮らす環境をこれから作っていくことは、一種のドラえもんなのではないかと考えている。ドラえもんは人型で、歩くというより少し浮いている。浅谷のロボットは天井から降りてくる。形は違っても、ドラえもんのようなものを実現できるはずだと考えており、それが達成できるまでここで頑張りたいと語った。

人型ではなく天井型を選んだ2人の前には、まだ多くの課題が残っている。完全なAI自動化は来年のデモの目標であり、1タスクあたりのコストもまだ読み切れていない。実際に住んで確かめる家は2027年に建つ予定だ。