生成AI時代に仕事が増えるクリエイターの条件:西野亮廣と土屋尚史が語る「アンカー」「審美眼」「属人性」

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概要

生成AIの普及で、クリエイターの仕事は奪われるのか、それとも増えるのか。新R25チャンネルのこの対談では、キングコング西野亮廣と、デザイン会社グッドパッチ代表の土屋尚史がこの問いを議論した。西野は「AIが逆立ちしても作れないもの」を事業に組み込むことを、土屋は価値を見極めて物事を前に進める人間側の力を、それぞれ重視する。その上で二人が行き着いたのは、明るさや属人性といった、これまでクリエイターの評価軸とされてこなかった要素だった。

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「ガチで奪われている」という実感

土屋によれば、グッドパッチは2011年に創業した。当時はまだ「UI」という言葉が定着していなかったが、同社はその領域に特化して企業のアプリケーション開発を支援した。2020年に上場し、その後は企業のDX支援や新規事業づくりへとデザインの領域を広げている。

この回は西野のチャンネルとのコラボの後編にあたる。前編では、画像生成やウェブサイトの自動生成とコーディングなど、生成AIで何ができるかを土屋が説明したという。それを見た感想を聞かれた西野は、「人が仕事を失うな」と思ったと答えた。司会も、少し前までは「使えるけれど仕事を奪うほどではない」という感覚だったのが、今は本当に奪われていると応じ、では人間はどこで頑張るべきかという本題に入った。

筆を置いた西野と「アンカー」という発想

西野は、生成AIが出てきた瞬間に絵の筆を置いたと話す。自分がこれまで描いてきた絵について、「これで絵の価値は何もなくなった」と感じ、絵が描けることは「ググれる」のと同じ程度のことになると考えたという。当初はクリエイティブこそ人間の最後の砦で、AIはまず文章から置き換えると思っていた。しかしよく考えると、クリエイティブはこれまでの要素を編集する作業にすぎず、むしろAIが最も得意とする領域だったと西野は振り返る。時期はMidjourneyが出てきた頃で、3〜4年前だという。

そこで西野が考えたのは、AIが逆立ちしても作れないものは何か、という問いだった。それを全てのプロジェクトに絡めておかなければ食いっぱぐれる、というのが西野の判断である。チーム内ではそうしたものを「アンカー」(錨)と呼んでいた。西野が挙げたのは、リアルな土地、時間(樹齢のようなもの)、思い出、制作過程、そしてコネ、本人の言い方では「癒着」だ。これらを今のうちに押さえておこうと決めたのは、おそらく2021年頃だったという。

土屋はこの考えを以前から見ていた。社内向けの「社長ブログ」で、これからはブランドがより重要になるという記事を書き、そこに西野の動画を貼り付けたという。80億人が誰でも作れるという前提で考えなければならない、という問題意識である。

チームラボの庭とブロードウェイの劇場

アンカーの例として土屋が挙げたのは、チームラボが佐賀で展開している、神々が住まう森をテーマにした展示だった。歴史的な庭園を押さえ、そこで自分たちの表現を行う。庭そのものは世界に一つしかないため、代わりがきかない。土屋は、チームラボの猪子寿之は「質量があるものはダサい」と言いながら、実際には土地に深く根ざしていると指摘し、それは正しいと評価した。司会も、デジタルを絡めながらリアルな場所でやっている点に注目した。

西野自身がミュージカルに力を入れている理由も、同じ考え方で説明された。ブロードウェイで「オン・ブロードウェイ」と呼ばれる大きな劇場は数が限られており、そこに『ライオン・キング』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『スパイダーマン』などの作品が入る。ニューヨークの面積は決まっているので、劇場が新しくできることはない。その枠を押さえるには作品の強さはもちろん必要だが、劇場オーナーが「やっていい」と言わなければ劇場は借りられない。だからオーナーと「ズブズブ」になっておくことがとても大事で、西野はそこに時間をかけるようにしたという。

土屋の答え①:審美眼と「価値認知力」

土屋がグッドパッチ社内で、生き残るデザイナーの条件として最初に挙げたのは「審美眼」だった。AIは無数の選択肢を出す。作ることそのものが民主化され、コンテンツもデザインも大量に出てくる。その中から、ユーザーや社会が共感し、心が動かされるものを選び取るのは人間だ、というのが土屋の考えである。

土屋はこれを、人にとって価値があるものを認識する力、つまり価値を認知する力と呼ぶ。Why・How・Whatで言えば、Howは生成AIで完全に代替される。残るのは、目的を設計するWhyの力と、最終的に人が価値を感じるWhatを選び取る力だという。

審美眼の鍛え方を司会が尋ねると、土屋は「完全に自分独自の意見」と断った上で、それはパターン認識にすぎないと答えた。歴史の中には、成功事例や人々の心を揺さぶったものが大量にある。そのインプットがなければ、順張りでも逆張りでも判断できない。当たり前を知っている必要があるからだ。多くの人が「いい」と言うものが市場にあふれているときは逆を張る。まだ世の中に知られていないものをやるときは、本質に従って順張りをする。生成AIで色々変わると言われるが、本質は何も変わらない、と土屋は述べた。

屋台の旗を青にすると負ける

西野はこの話を身近な例で補強した。西野はその年、幕張で2日間「えんとつ町の踊るハロウィンナイト」というイベントを開いた。ステージの反対側に多くの屋台を出してもらい、横丁のような空間になった。普段から店をやっている人もいれば、その日だけフランクフルト屋を出す人もいた。

屋台の旗などのデザインはAIですぐに出せる。しかし西野によれば、パターンを見てきていない人は「どうせ横丁だから赤い店が並ぶだろう、あえて青にして目立とう」と考えがちで、これは負けるという。人は暖色に流れるし、青は食欲をそそらない。しかもその逆張りが過去に負けてきた歴史もある。パターンを大量に見ていれば共通する本質が見えるので、ぶらしてはいけない部分がわかる。それがわからないと、間違った逆張りをしてしまう、というのが西野の説明だった。

土屋の答え②:曖昧さへの耐性と「ドライブ力」

土屋が次に挙げたのは、不確実で曖昧な状況でも物事を前に進められる力だ。土屋はブログにも書いたというが、OpenAIのデザイナーの求人票には、少し違和感のある「曖昧さへの耐性」という項目があったという。曖昧な状況でも自分で目的を設定し、多くの選択肢の中から「これだ」と決めて進められる人には大きな価値がある。

クリエイターかどうかに関係なく、曖昧な状況で困ってしまうのではなく、「これで行きましょう」と決め、失敗したら後で修正すればいい。土屋はこれを「ドライブ力」と呼ぶ。司会は、正解を探して決められない人がいると応じ、西野は「選んだ道を正解にしろ」「なんとかするのが仕事」という話だとまとめた。意思さえあれば、立ち上げて進める部分は生成AIがかなりサポートしてくれる時代になっている、という点でも三人の見方は一致した。

「暗いやつは嫌です」:職人の防御壁が崩れた

クリエイターが日頃から身につけるべき習慣を聞かれた西野は、逆に「こいつはいらない」と思う人として、言葉を選ばずに言えば「暗いやつ」を挙げた。本人の性格が暗いかどうかはどうでもいいが、職場なのだから気分は上げてほしい。この数年でその気持ちはさらに強くなったという。

土屋はこれを職人の話で説明した。デザイナーにもエンジニアにも、気難しい職人肌の人がいた。その人の技術はその人にしか扱えなかったので、気難しくても仕事を頼みに行くしかなかった。しかし生成AIによって、職人が守っていたものが守れなくなった。その結果、気分よく働ける人と仕事がしたい、という方向に変わってきたと土屋は見る。

西野は同意し、生活のパターンにも触れた。多くの人は家に帰るとChatGPTと会話し、相談している。ChatGPTはたいてい肯定から入ってくれるので気持ちがいい。明るい相手に慣れているから、職場にいる暗い人には「お金を払うから帰ってください」と思ってしまう、と西野は語る。司会は、フリーランスでもプロジェクト単位で人と働く以上は同じだと補足した。これまで技術を高めることに投資してきたクリエイターが、今になって「土地を持て」「明るくいろ」と言われて驚いているだろう、とも述べた。

合宿で上がったパフォーマンスと「非合理の価値」

西野は、自分の会社でパフォーマンスが大きく上がったきっかけとして合宿を挙げた。同じ釜の飯を食べ、一緒にサウナに行き、夜はバーベキューで酒を飲み、朝また一緒に食事をする。そうしているうちにチームが会社というより部活のようになり、そこから一気にパフォーマンスが上がったという。合宿は2か月に1回ほどで、地方に行ってお泊まり会をし、みんなでカレーを作る。違う部署が困っていれば「一緒にやりましょう」と手を貸すようになり、西野はそれを「すごく人っぽい動き」だと感じた。仲がいいとみんな明るい。仕事はなるべく早く終わらせて飲みに行く、芸人が劇場終わりに出かけるようなノリだという。

司会は、オンラインが当たり前になった時代だからこそ、よりリアルな体験が重要になり、合理の部分をAIが担うようになって時代が戻ってきている、と整理した。土屋は、社内向けの文章で「非合理の価値を守る力」も挙げていると明かした。効率や合理性では測れない余白や遊びの部分がある。多数決にすると合理の流れが来るが、それでも自分の意思で非合理を守れるかが問われる、という考えだ。

土屋はさらに、共感を生むストーリーを紡ぐ「ストーリー構築力」も重要だとし、これらすべての土台に「人間力」があると述べた。「いい感じの人」「明るい人」と働きたいという話も、結局は人間性に行き着く。西野はこれを「チャーミングであれ」ということだと受け止めた。

「仕組み」から「属人性」へ

組織論について西野は、これまで「仕組み」がずっと重視されてきたと指摘する。しかし仕組みを完成させた先に待っているのは「お前じゃなくてもいい」という状態で、それはつらいと西野は言う。今はむしろ属人的でいい。その人が抜ければチーム全体のパフォーマンスががくんと落ちる。それも込みで、いなくなったら仕方ないと受け入れたうえで「お前じゃなきゃダメだ」と会社が言ってくれなければ、自分はその会社にいたくない、と西野は話した。

これはグッドパッチの従来の方針とは対照的だ。司会によれば、同社は「天才はいらない」と掲げ、10年ほど「再現性」をキーワードにしてきた。土屋は、一定のベースラインとしての再現性は今も必要だとしつつ、考えが変わったことを認めた。そもそも属人性はどこまで行っても排除できず、あえて逆張りで再現性を強調していた面もあったという。今は組織の中でも個人のブランドを確立し、「この人はこういうことができる」「こういう背景やストーリーを持っている」から「あの人にお願いしたい」と選ばれる必要がある。

一方で土屋は、属人的で魅力のある人を束ねながら、どうやってグッドパッチという器にするかのバランスは「チャレンジ」だとも述べた。マネジメントの難易度はこれまでよりはるかに上がっているという。土屋の答えは「目的で生きるしかない」というものだ。多様な人がいる中で、この会社は何のために存在するのか、社会からなくなったらどうなるのかを示す「意味設計力」が要る。西野と土屋は、これからは「思想勝負」になるという点で一致した。

「宗教から会社に成り下がった」

思想の重要性について、西野は「カットしてほしい」と前置きしつつ、ある企業の本社を訪ねた話をした。その会社は業績が傾き、100人ほどのリストラをした後で、社内の雰囲気は明るくなかった。以前は遅くまで働く人が多かったが、ある時点から皆が定時で帰るようになり、労働時間が減った分だけ単純にパフォーマンスが落ちた、と説明されたという。

案内してくれた女性社員は、敗北の理由は一つで、「宗教から会社に成り下がった」ことだと語ったという。現代では、仕組みとしての会社には勝ち目がなく、思想の方がはるかに強い。その思想がなくなってしまった、という話だった。西野はこの話から、仕組みだけでは世界を取れず、やはり思想だと感じたと述べた。

人間力×生成AIで「無双」する人

司会は、この連載を通じて見えてきた結論として、どの分野でも「〇〇力×生成AI活用力」が必要な力の定義になると述べた。その上で、明るさや審美眼といった土台を持ちながら生成AIを使えていない「もったいない人」もいるのではないかと問いかけた。西野は、自分もその可能性が「絶対ある」と認め、生成AIは「ほぼやってない」と答えた。

司会によれば、生成AIの議論では、目的を設計でき、何が良いかを判断できる人が使うと、上流と下流の両方を押さえられるのでレバレッジが大きく効く、という話がよく出るという。以前出演した堀江貴文は漫画家が危ないと話していた。これに対して西野は、自分で話を作る漫画家は事情が違うのではないかと指摘し、危ないのは描くだけの人だろうという話になった。ストーリーを作れる上位レイヤーの人がAIを使い始めると、優秀な部下を手に入れたようにパフォーマンスが上がる。

西野が「普通にある」と挙げたのが衣装デザイナーの例だ。名のある大御所の年配女性デザイナーが、パターンをAIに大量に出させているという。名前があり、選ぶ力もある人がAIを手に入れたときの「無敵っぷりったらない」と西野は語った。司会は、そうした層には生成AIリテラシーが低い人も意外と多く、使い出せば無双するだろうとし、両方を持っている状態が最強だとまとめた。

グッドパッチ社内の取り組みとAIへの「アンチ」

グッドパッチ社内の変化について、土屋はまず、生成AIツールをいち早く取り入れていると説明した。社内ではAI活用のナレッジを四半期ごとに共有させ、そのための賞金として前期は200万円、今期は100万円を積んでいる。良いナレッジを投稿したメンバーを表彰する仕組みで、土屋は「もっと積んでいる会社もある」としつつ、それだけ注力していると述べた。

生成AIに否定的なクリエイターについて聞かれると、土屋は、社内でも生成AIを信じすぎて全部を任せるのはNGだと考える人はたくさんいると答えた。ただし彼らは生成AI全体を否定しているのではなく、解像度を上げて「この領域には使う、ここには使わない」と分別しているという。司会は、それは知った上での判断だと評価した。

一方で、情報を完全にシャットアウトする本当のアンチは危ない、と西野は言う。自分の技術とAIの得意領域が重なっていれば、完全に不要になってしまうからだ。好き嫌いはあっても、知っておいた方がいい。西野自身は早くからAIを触ってみて、それがどういうものかを知るのが面白かったし、人がそこから何にはまり始めるのかを見届けたかったと話した。

AIを触った結果、田舎の土地を探し始めた

西野がAIを触った後に始めたのは、意外にも田舎の土地、つまり不動産探しだった。土屋が「土地はそんなに簡単に買えない」と言うと、西野は日本の田舎を訪ねると土地はがら空きで、畑を手放す人がとても多いと答えた。畑はアンカーなのに、畑だけでは食べていけないからと手放してしまう。しかし畑をやりながら、家でAIスクールに通って副業をすることもできる。大局観を持てば、土地は持っておいた方がいい。西野はこれを、オセロで四隅を押さえておくことにたとえた。

西野によれば、引退を迎えた高齢者の中には「0円でどうぞ」と土地を譲ってくれる人がたくさんいる。そのため最近の飲み友達は70代、80代で、土地をもらうためにずっと飲んでいるという。司会は、「生成AI×クリエイティブ」というサムネイルから土地の話が出てくるとは視聴者も思っていないだろうと笑いつつ、その重要性は伝わったと受け止めた。

結び:AIを学ぶほど「人とは何か」を考える

最後に感想を求められた西野は、特に後半の話を踏まえ、AIを知れば知るほど、学べば学ぶほど「人とは何か」を考えさせられるので、みんな一度は学びに行った方がいいと改めて思ったと語った。

土屋は、西野がこの日スタジオに入ってくるときからとても丁寧に挨拶していたことに触れた。以前メディアで見ていた頃は尖った印象があったが、清潔感があり、挨拶も素晴らしく、「これは一緒に仕事をしたい人だ」と感じたという。明るさや人間性が価値になるという議論を、目の前の人物で確かめた形になり、「生成AIを見て髭を剃った」という冗談で対談は締めくくられた。