「ボールを持たされている」を見抜く 解説者・林陵平が教えるW杯観戦のツウな視点

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概要

ワールドカップを日本代表戦だけで終わらせず、大会全体を楽しむにはどこを見ればよいのか。新R25の番組『岸谷蘭丸と学ぶ!イケてるビジパの"ツウ"な話』のW杯直前スペシャルでは、MCの岸谷蘭丸さんとコメンタリスタのりんたろうさんが、サッカー解説者の林陵平さんに観戦のコツを聞いた。林さんの立場ははっきりしている。初心者はまずボールを追えばよい。そのうえで、狙いの読み方、一つのチームや一人の選手を追い続けること、「うまい選手」の見分け方を身につければ、見え方が一段深くなるという。

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月100試合を見る解説者

林さんは元サッカー選手で、現役時代には町田ゼルビアにも在籍した。現在は海外サッカーを中心に、月に100試合以上をコンスタントに見ているという。この日も収録前に3試合ほど見てきたそうだ。番組では、2025年に解説を担当した試合が200を超える(番組内では204試合と紹介)ことも紹介された。

「寝ているんですか」とよく聞かれるが、林さんは「時間は作るもの」だと考えている。家族との時間を除けば、生活は筋トレとサッカーがほぼ占めている。お酒もタバコも好きではなく、まったくやらないという。好きな選手として知られるズラタン・イブラヒモビッチはすでに引退しており、今いちばん好きな選手を聞かれればブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド)だと答えた。ただ、どのチームにも良い選手がいるので、特定の推しクラブや推し選手は基本的に持たないとも話している。

聞き手の二人もサッカー好きだ。りんたろうさんは2018年のW杯をきっかけに見始めた。初めて長友佑都選手のユニフォームを買い、同大会で得点王になったハリー・ケインからトッテナム・ホットスパーのファンになったという。これを聞いた林さんは、長友選手とは明治大学の同級生だと明かした。蘭丸さんは小学3年生でクラブに入ったものの、上手な子にボールをぶつけられて怖くなりやめた。中学1年で友人の影響から本格的に見始め、資金力のある強豪を守り切って一発で倒していくアトレティコ・マドリードにロマンを感じたという。観戦歴は約10年になる。

初心者はまず「ボール」を追えばいい

フル試合を初めて見る人は、ボールが動いているだけの時間にどこを見ればいいのか分からない。この問いに林さんは、まず見る人のレベルによって答えが変わると前置きした。W杯で初めてちゃんと試合を見るという初心者なら、ボールを見ればいいという。カメラもボールのある場所を映す。テクニックの巧さ、ゴールが生まれる瞬間、キーパーのセーブといった見どころもそこに集まる。

一方で、11人がどんな立ち位置を取るかといった構造やシステムを最初から理解するのは難しい、と林さんは言う。それは初心者でなくても難しい部分なので、まずはボールを追うのがベストだという考えだ。

「点が入らない」への反論は、狙いの駆け引き

蘭丸さんは、サッカーによく向けられる「点が入らなくて何が面白いのか」という批判に言い返せず悔しい思いをしてきたと打ち明けた。林さんの答えは、点が入らなくても狙いや構造の部分で駆け引きが絶えず行われており、そこに気づければとても面白い、というものだった。

気づくための入口として林さんが挙げたのがボール保持率だ。今は中継でもポゼッション率が70%対30%のように表示される。前半45分でボールを多く持っているチームは、保持しながら攻めたいのだと考えられる。数字が低いほうは、しっかり守ってからカウンターに出たいのだと読める。

林さんによれば、この先にもっと深い見方がある。ボールを持ちたくないのに「持たされる」チームがあるのだ。カウンター型のチーム同士が対戦すると、どちらも本当は相手に持たせ、自分たちは引いてカウンターを打ちたい。だから保持率の数字だけで判断せず、そのチームが「持っている」のか「持たされている」のかを見ると、よりツウな視点になるという。

日本代表の3試合はどうなるか

では日本はW杯でどちらの立場になるのか。林さんは対戦相手によって違うと答えた。第1戦のオランダ戦はほぼ同じ保持率か、オランダが少し多く持つ展開になると予想した。第2戦のチュニジア、第3戦のスウェーデンでは、日本が間違いなくボールを握るだろうという。

りんたろうさんは、日本がボールを持つ展開にずっと怖さを感じてきたという。こねている間にやられてしまうイメージで、蘭丸さんは4年前のコスタリカ戦を例に挙げた。相手に引かれ、日本がボールを持っていても全く怖さを出せなかった試合である。林さんは、その点は少しずつ改善されていると見ている。三笘選手や久保選手のように1対1で仕掛けられる選手が増え、それが違いとして出てきているという。

林さんが最も難しい相手と見るのはスウェーデンだ。チュニジアは基本的に4バックで、4枚でブロックを作られても今の日本には崩す力がある。しかしスウェーデンは5-4-1で5枚のブロックを敷き、最前線にはアーセナルのギェケレシュがいて、そこから強烈なカウンターを打ってくる。

顔や体格で選手を覚えるのも立派な入口

りんたろうさんは、顔や体格で好きな選手を選ぶのが個人的なおすすめだと話した。林さんもそれを入口として全面的に肯定した。かっこいい選手やうまい選手は分かりやすいからだ。メッシとクリスティアーノ・ロナウドの時代には、「小さい」「でかい」といった見た目の違いが入口として機能していたという話も出た。蘭丸さんも、WBCで名前と顔の印象がぴったり合っていた選手を応援しながら見て楽しかった経験を挙げ、好きな人がボールを持っていると思うだけで見方が変わると同意した。

林さんの観戦ノート「攻守4局面+セットプレー」

話はもう一段深い見方に進んだ。林さんのInstagramには、1試合ごとにびっしり書き込んだ観戦メモが載っていて、よく知られている。書いていたのは「攻守4局面」とセットプレーである。攻撃、守備、攻撃から守備への切り替え、守備から攻撃への切り替えの4つに、コーナーキックなどのセットプレーを加える。攻撃ではどんな狙いでプレーしているか。守備はハイプレスかミドルプレスか、それとも下がってブロックを作るのか。二つの切り替えにはそれぞれどんな狙いがあるのか。これを図にまとめていた。

メモは試合前に準備する。直近の3試合ほどを見て、チームが何を狙ったサッカーをしているのか、個々の選手の技術や調子、どんなプレーをしているのかを頭に入れておく。かつてはこれをずっと書き続けていたが、今は1週間に7試合を担当することもあり、全部書くと時間がなくなる。そのため今はすべて頭の中に入れているという。

このノートは解説の仕事のために始めたのかと問われると、林さんはそれもあると認めた。そのうえで、自分はただのサッカーオタクで、好きだからやっていると答えた。「好きが多分1番強い」というのが林さんの言葉だ。

一つのチームを追い続けると狙いが見えてくる

林さんが勧めるのは、W杯で一つのチームを追いかけることだ。日本でもフランスでもいい。違うチームをばらばらに見るのも全然ありだが、一つの国を追い続けると「今日はこういう狙いがあるんだな」「この選手はこういうことをしたいんだな」と見えてくるという。

蘭丸さんは、試合が多すぎてどれを見ればいいか分からなくなる問題も、スペインなら「スペインを追う」と決めれば解決すると応じた。りんたろうさんは、優勝予想をしたチームはフルで見ると決め、4局面とセットプレーをメモしていくやり方を提案した。そうすると「この相手のときはこうだったのに、今回は違う」という比較ができる。時間のある大学生にはぜひやってほしいという。W杯は深夜の試合も多い。一人で見る時間にポイントを蓄積していけば、決勝をみんなで見るときに、分析してきたチームが勝ち上がっていれば得意げに語れる、という話になった。

観戦中に「ツウぶれる」ワード

番組らしく、観戦中に口にするとツウっぽく聞こえる言葉も挙がった。林さんのおすすめは、日本がボールを持っている場面で「日本、ボール持たされてるよ」と言うことだ。これだけで「この人ちょっとサッカー知ってるのかな」という雰囲気は出せるという。ほかに「今はめに来てるよ」「これ枚数やばい」「構造的にここならフリーになるよね」といった言い回しも出た。ただし、詳しい人に「何が?」と突っ込まれたら説明できないので、周りに詳しい人がいないことを確認してから、と笑い交じりのオチがついた。

呼び方の工夫も紹介された。サッカーを「フットボール」と呼ぶ。レアル・マドリードを「レアル」ではなく「マドリー」と呼ぶ(エムバペの所属クラブを聞かれて「マドリーだよ」と答える)。切り替えを「トランジション」と言い、「トランジション早いな」とつぶやく。蘭丸さんがイエローカードを「黄色」と呼ぶ案を出したが、「全然ツウじゃない」と退けられた。

推し選手は「ボールに触る位置」で選ぶ

後半のテーマは、各国代表に推し選手を持つ意味だった。林さんは、一人を好きになるとその選手を追いかけるので、そのチームの試合を見続けることにつながると説明した。同じ人やチームを続けて見るからこそ気づきが得られ、それが必ず意味のあるものにつながっていく。特に初心者にはこれを強く勧めるという。

ここで蘭丸さんが、推しがボールに触っていない時間はどうするのかと問題を出した。林さんの答えは、ボールに多く触る中盤やセンターバックの選手を好きになったほうがいいかもしれない、というものだった。例えばハーランドは点を決めるが、ボールにはほとんど触らない。ずっと動き直しているだけの時間が長くなる。それならマンチェスター・シティのルベン・ディアスを好きになるほうが見ていて退屈しない、という話だ。フォワードは点を取って派手だがタッチ数が少なく、ディフェンダーやミッドフィールダーは地味でもたくさん触る。推しはポジションで選ぶのがよいという結論になった。

では点も取る中盤の選手が一番いいのか。林さんはそうだと答え、ボールに触り、アシストもし、得点も決めるブルーノ・フェルナンデスを分かりやすい例に挙げた。日本と同じグループのオランダなら、バルセロナのフレンキー・デ・ヨングやリバプールのフラーフェンベルフといった中盤の選手がかなりボールに触るという。

林さん自身の推しの見つけ方については、かっこいい、うまいなど、どんな見つけ方でもいいとし、自分も特に決まりはなくフィーリングだと答えた。センターバックならファン・ダイクも好きだという。

「サッカーがうまい」とは何か

サッカー経験のない聞き手にとって、「うまい」の中身は意外と分かりにくい。林さんはまず、ボール扱いの巧さ、つまりテクニックは誰にでも分かると説明した。しかし、それをピッチ上で発揮できるかどうかには、周りの状況を確認できているか、判断が伴っているかが必要になる。リフティングがうまくても試合でそれをやるわけではなく、ピッチでのうまさには直結しない。時間とスペースがない中で、どれだけ効率的に、効果的に良いプレーをできるか。それがうまい選手の条件だと林さんは言う。

日本代表でその代表格として林さんが挙げたのが、ボランチの鎌田大地選手だ。鎌田選手はただうまいだけでなく、チームのために気の利いたプレーができるという。「このタイミングで、この場所に顔を出してほしい」という場面に現れる。ボールを握りたい時間帯には、ミスせず後ろでつないで時間を作れる。林さんは試合を「90分の中のゲーム」ととらえ、スコアが1-0の時も1-2の時もある中で、その状況で何をすべきかを知っている選手、つまり「フットボールを知っている選手」がうまいのだと語った。

林さんによれば、上から中継を見ると立体的に「ここにスペースがある」「フリーじゃん」と思いがちだ。しかし実際の選手には、思っている以上に時間もスペースもない。大柄な11人がそろい、スピードのある相手が向かってくる中では、感覚がまったく違う。その中で見えている選手がうまい選手だという。見えるというのは物理的な視界の話だけではない。ボールを受ける前にどれだけ首を振って周囲を確認できているか。手ではなく足で扱うボールを、スペースに置くのか足元に止めるのか、置きたい場所に置けるか。それを一瞬で判断できるかどうかだ。

蘭丸さんは漫画『ブルーロック』を挙げた。「止めて蹴る」と「首を振る」がサッカーの基礎として描かれていたという。林さんは、日本代表で首振りが最も優れているのはやはり鎌田選手だと応じた。鎌田選手が今何をしているのか、どこを見ているのかに注目すると、サッカーをより深く知る勉強になりそうだという話になった。「日本代表で誰が好き?」と聞かれて「鎌田。サッカーを理解していて、何をすべきか分かっているから」と答えられればかっこいい、というのが二人の結論である。

推しイレブンの発表へ

番組の締めくくりとして、林さんと聞き手の二人がそれぞれ考えてきた「推しイレブン」を発表し、最後に番組としての「ツウな話イレブン」を作る企画が始まった。トップバッターの蘭丸さんは「偏見に満ちているのでガチ勢の皆さんは叩かないで」と断ってから自分のイレブンを披露した。林さんは「センスがある」「入れているところはツウ」と評価した。選ばれた選手の中には、日本代表戦に確実に出てきて1対1がめちゃめちゃ強い、と林さんが太鼓判を押した選手も含まれていた。ただし、字幕の範囲では具体的な選手名は語られておらず、それぞれのイレブンの中身は続きに持ち越されている。