「寝ないで働く」は本当に逆効果か 平均睡眠2〜3時間の岸谷蘭丸が睡眠テックの経営者に聞いた、仕事に効く睡眠

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概要

健康に良い習慣は数多くあるが、すべてを守れば人生がつまらなくなる。それなら何を最優先すべきか。岸谷蘭丸さんはこの問いを、睡眠特化型のPHR(パーソナルヘルスレコード)事業を手がけるACCELStars代表取締役の宮原禎さんにぶつけた。宮原さんの答えは「睡眠」である。本記事では、主観ではなくデータで説明してほしいという蘭丸さんに対し、宮原さんが示した根拠と、忙しい人向けの具体的な習慣、企業としての取り組み方をたどる。

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収録時の蘭丸さんの睡眠事情

収録の少し前、蘭丸さんは進行役と一緒にサッカーのワールドカップを観戦した。試合に負けて落ち込み、麻婆豆腐を大量に食べて翌日は体調を崩したという。本人は睡眠不足、食べすぎ、飲みすぎ、疲れが抜けないことが重なった「フルコンボ」の状態だと話す。

最近の生活はこうだ。飲みに出ると帰りは朝5時ごろになり、8時に起きる。夜の睡眠は2〜3時間にとどまる。起きてから3〜4時間は頭が働くが、ランチの後に限界が来て一度「気絶」するように仮眠を取る。17時ごろにもう一度仮眠し、21時まで働いてから飲みに行く。宮原さんは、睡眠の立場から見て「相当悪い」と評した。

ゲストの経歴と事業

宮原さんは新卒でリクルートに入り、7年目まで在籍した。20代はほぼリクルートで過ごし、その後はいわゆる雇われ経営者として会社経営に携わった。前職ではPHR、つまり健康診断のデータをスマートフォンで見られるサービスのように、個人の健康情報を管理する領域を手がけていた。現在のACCELStarsは睡眠に特化したPHR事業を展開しており、医療機器としてのウェアラブルデバイス、AI、企業向けのヘルスケアソリューションを提供している。宮原さんによると、日本では最近、睡眠への注目が特に高まっているという。

生産性に最も影響するのはメンタルと睡眠

蘭丸さんが最初に知りたかったのは、健康習慣の優先順位だ。たくさん寝て、よく食べ、運動し、酒もたばこもやめれば健康なのは当然だが、全部やれば人生がつまらなくなる。友人が3カ月禁酒したときは、視界が灰色になったようだと言っていたという。だからこそ、譲れない習慣は残しつつ、せめてこれだけは守るという、自分に合った健康の形を作りたいと蘭丸さんは話した。

宮原さんが挙げたのは睡眠で、働く世代の目安は7時間だという(よく言われるのは7時間半)。6時に起きる人なら22時半に寝る計算になり、蘭丸さんは「1日の3分の1も寝るのは怖い」と反応した。

宮原さんはここで自社の集計データを示した。生活習慣ごとに労働生産性への影響を見ると、最も大きいのがメンタル、次が睡眠である。酒、たばこ、食事、運動は、睡眠やメンタルヘルスと比べると影響が大きくないという。労働生産性は、質問に答える形式で広く使われている指標で測っている。そのうえで同社が睡眠を測定し、翌日の生産性がどれだけ下がるかを調べている。

同社が企業で睡眠コーチングをする際は、このランキングを示してから運動・食事・喫煙の状況を聞き、まずは1つだけ習慣を変える提案をすることが多いという。

睡眠とメンタル 怒りやすさは脳の問題

メンタルと睡眠は強く結びついている、と宮原さんは説明する。うつ病などで働けなくなる人の多くは、その数カ月前から不眠に陥っている。眠れないとメンタルが悪化するが、その段階で眠れるようになれば、深刻な状態に至る前に回復できるという。

徹夜明けに不安になったり怒りっぽくなったりするのも、脳の働きで説明できる。怒りや不安、ストレスを生み出すのは扁桃体と呼ばれるアーモンド大の部位で、「人間を人間たらしめる」と言われる前頭前皮質がそれを制御している。睡眠不足になると前頭前皮質の力が弱まり、結果として怒りやすくなる。

蘭丸さんには心当たりがあった。ブラジル戦を立って観戦していたとき、後ろの人から通路なので前に詰めてほしいと言われ、「敬語を使え」と強く苛立ったという。進行役も、そのときの怒り方は異常だったと振り返る。その日もほとんど寝ていなかった。

宮原さんは企業のハラスメント対策でもこの話をする。アンガーマネジメントには、怒りが湧いたら3秒や5秒待つといった方法がある。ただ実際には、その数秒も待てない。宮原さんは、アンガーマネジメントを学ぶより、よく寝て怒りを生まないようにするほうが本質的な対策だと述べた。

5時間しか眠れないなら、起床時刻を固定する

7時間半は非現実的だという蘭丸さんに対し、宮原さんは睡眠が5時間になってしまう場合の勧めを示した。第一に、起きる時間を変えないことだ。宮原さん自身も最低7時間は寝るようにしているが、仕事で5時間になった日も翌朝は同じ時間に起きて朝日を浴びる。カーテンを開けて目に光を入れると、体は自然に起きるという。

進行役は6時から8時の間に起きるようにしていると話したが、宮原さんはその幅は「相当大きい」と指摘した。理由は体内時計の仕組みにある。地球の1日は24時間だが、人間の体内時計は24.5〜25時間ほどと少し長く、太陽の光でリセットしないとどんどんずれていく。仮に25時間だとすれば、2時間の幅は大きすぎる。

さらに、体内時計は後ろにはずれやすく、前にはずらしにくい。前夜23時半に寝た進行役も、今夜0時半に寝るのは簡単だが、21時半や22時に寝るのは難しいと感じると認めた。夜に働く人のなかには、7時に起きた翌日に8時に起きると、次の日に7時へ戻すのがつらくなり、どんどん後ろにずれていく人もいる。この連鎖を断ち切るために、起床時刻の固定が重要になるという。

昼寝は30分まで

昼寝について宮原さんは「めちゃくちゃいい」と評価したうえで、注意点を1つ挙げた。夜の主睡眠を損なわない程度にとどめることだ。30分、長くても1時間までにし、2時間も寝ると夜に眠れなくなる。30分程度の昼寝はパフォーマンスと集中力を高めるので、睡眠不足でない人にとっても悪くないとされているという。宮原さんは、九州の進学校で日中に30分ほどの昼寝を取り入れたところ成績が上がった例も紹介した。蘭丸さんも、昼寝をすると脳がリセットされる感覚を強く持っているという。

慢性的な寝不足は徹夜と同じところまで注意力を落とす

「寝る時間を削って働くのは逆効果」という主張に、蘭丸さんは「働いているのだから逆効果ではないのでは」と疑問を投げた。宮原さんはグラフで答えた。

横軸に経過日数(約2週間)、縦軸に注意力の低下を指数化した値(16段階で、上ほど悪い)を取ったグラフである。8時間寝る人はほとんどパフォーマンスが落ちない。徹夜は最も悪く、2日の徹夜で最悪の16に達する。一方、4時間睡眠を続けた人も、14日目には16に達する。慢性的な睡眠不足は、最終的に徹夜と同じ水準まで注意力を下げるということだ。

途中で1日しっかり寝れば回復するのかという質問に、宮原さんは睡眠負債の状況によると答えた。休日のいわゆる「寝だめ」には効果があるとされている。睡眠負債を測る実験では、被験者をひたすら長く寝かせ続ける。やがて眠れなくなり、通常の生活リズムに戻る瞬間が来る。それが負債を解消した状態だという。蘭丸さんは休日に15時間も眠れるそうで、宮原さんはそれだけ負債が溜まっているとみる。朝5時の帰宅を2時にすれば、それほど溜まらないだろうとも話した。

ひらめき、体重、認知症

宮原さんは、睡眠が影響する領域をいくつか挙げた。1つ目はひらめきだ。企画会議で面白いアイデアが次々浮かぶ人と、論理的だがつまらない話ばかりする人がいるが、ここにも睡眠が関係しているという。資料には「2.6倍」という数字があり、宮原さんは論文の実験に基づく科学的な結果だと説明した。蘭丸さんも、寝ていないときに面白いと思って出した企画が、頭が冴えているときに見ると全くつまらないことはよくあると話した。

2つ目は体重だ。この1カ月で10kg太ったという蘭丸さんに、宮原さんは「寝ると痩せる」というデータを示した。よく眠ると、食べようとする脳の働きが収まり、食欲が落ちる。眠れないと食欲が増えて食べてしまう。宮原さんはここに因果関係があると述べた。蘭丸さんも、寝ていない1カ月は露骨に食べる量が増えた、食べないともたないという気持ちになっていたと振り返る。

3つ目はアルツハイマー型認知症である。原因物質として知られるアミロイドβとタウという2つのタンパク質は、眠っているあいだに脳の神経細胞の外へ出て血中に漏れ出す。睡眠中に採血すると値が上がることから、洗い出されていることがわかるという。睡眠にはアミロイドβを除去する機能があるため、若いうちからずっと寝ていない人は、将来の認知症リスクを自ら上げていることになる、と宮原さんは説明した。

寝具の話題では、進行役が西川で約20万円のマットレスを購入し、体を測って作るパーソナル枕も作ったという。蘭丸さんも短い睡眠で回復量を増やそうと、リカバリーウェア、マットレス、枕、さらに掛け布団まで買いそろえた。

質より量 「3時間で十分」はない

では睡眠は質と量のどちらが大事か。宮原さんの答えは、まず量をケアすべきだというものだ。質を高めているから3時間で足りると言う人がいるが、基本的にそれはないという。そんな方法があれば世界に広まっているはずで、9時間分の睡眠を3時間で取れる薬があれば世界中で売れる、という蘭丸さんの冗談にも、宮原さんはそうした機械やカプセルは「まだない」と応じた。

量が必要な理由として、宮原さんはノンレム睡眠とレム睡眠の構造を挙げた。眠りにつくとノンレム睡眠で一気に深くなり、最も深い段階で体が最も休まる。その後は浅くなり、急速眼球運動を伴うレム睡眠が現れる(最近はノンレム睡眠中にも夢を見ていると言われている)。宮原さんによると、このパターンを繰り返すことが重要だとされており、科学者のあいだでもまだ解明されていない部分が多い。それでも、繰り返しをしっかり確保するには時間が必要になる。

また、最初の深いノンレム睡眠でしっかり眠ると、その後のリズムが整い、睡眠全体の構造が良い状態になるという。進行役は、蘭丸さんはノンレム睡眠は取れていてもレム睡眠が足りていない可能性があるのではと推測し、宮原さんも可能性はあると応じた。

蘭丸さんは、良いマットレスで短時間でも回復した気がするのは体だけが回復しているからで、頭は回復していないのではないかと考えた。宮原さんによると、睡眠は体と脳の両方を回復させている。最初の深いノンレム睡眠では成長ホルモンが出やすく、疲労回復や老化防止など体の回復が進む。一方で、メンタルや表情の読み取りといった脳の働きもこの時間に支えられているという。蘭丸さんは、若いので体が回復すればある程度動けてしまうが、脳の働きは落ちているのだろうと受け止め、実際にこの1カ月は生産性がかなり落ちていると認めた。

夜のルーティン 暗さ、光害、夕食の時間

忙しい人が今日から変えられる習慣として、宮原さんはまず寝室を真っ暗にすることを挙げた。不安で眠れない人はケースバイケースだが、習慣的に豆電球をつけているだけなら、真っ暗のほうが睡眠には良い。白いカーテンで日光が通るという進行役には、遮光カーテンを勧めた。

都市部では「光害」も問題になる。日本の公園などにある丸い電球は360度を照らし、光が空にも拡散している。地球は自転していて本来夜は暗いのに、光は植物の光合成など自然の仕組みにも影響する。宮原さんによると、ヨーロッパには光害を防ぐため、丸い電球に傘をつけて下だけを照らすよう規制する国がある。日本も同じようにすれば夜はもう少し暗くなるだろうという。

食事は、就寝の3時間前までに済ませるのが望ましい。朝4時に寝るなら深夜1時までに食べ終えればいいのかと蘭丸さんが確かめると、宮原さんは「そうです」と答えた。締めのラーメンはやめたほうがいいが、たまになら構わないという。

夜の光対策として、宮原さんは遮光カーテンに加えてサングラスを勧めた。帰宅までに目へ入る光を減らすためだ。蘭丸さんは面白がり、「3時を回ったらサングラスをつける」というルールや、就寝2時間前にコンタクトを外し、度入りのサングラスをかけるというルーティンを思いついた。サングラスをしないと見えない状態を強制的に作るという発想である。蘭丸さんは4月に毎日7時起きという目標を立てたが1日も守れなかったと明かしており、宮原さんは、何でも一度にやるのは難しいので、まずはここから始めるよう勧めた。

朝のルーティン 外の光と朝食

朝は、決まった時間に外の光をしっかり浴びることが重要だと宮原さんは言う。スタジオの照明と曇りの日の屋外では、曇りの屋外のほうが比べものにならないほど明るく、晴れていればなおさらだという。

もう1つは朝食だ。「腹時計」は実在し、少しでもいいので朝食を取ることが体内時計に関わるという。16時間の断食(オートファジー)をしなければという進行役の冗談には、朝食を取っても昼に間隔を空ける方法もあると応じた。食べる物はヨーグルト、バナナ、ナッツなど、血糖値が少し上がるものであれば何でもいいという。朝の習慣は、光を浴びることと朝食を取ることの2つにまとまった。

企業ができること 出社時刻より睡眠時間の確保

最後は、会社を経営する蘭丸さんの立場からの質問である。出社時刻は一定にすべきかと聞くと、宮原さんは考え方はいろいろあるとしたうえで、個人的には良くない面も多いと答えた。北関東、横須賀、鎌倉など、東京まで1時間半かけて通勤する人は多く、その時間が睡眠を削っている。住む場所に合った働き方でなければ睡眠は確保できない。オンラインワークも進んでいるので、朝は自宅で働き、10時や11時までに出社してもらえば、勤務時間は変わらずに睡眠を確保できるという。

蘭丸さんの会社は、社員がいつ出社しているのかわからないほど「ぐちゃぐちゃ」だという。宮原さんは、夜遅くまで働くとパフォーマンスが大きく下がることを社員にはっきり伝えるよう勧めた。スタートアップなので長く働くのはいい。朝6時から夜9時まで働いてもいいが、23時から6時は寝るという枠さえ守れば、オーバーワークがあってもメンタルは崩れにくい。土日に働くのは忙しい時期なら構わないが、夜だけは働かずに寝ようというメッセージだけでも、社員がメンタルを崩す可能性は大きく減るという。宮原さんは、睡眠を整えれば食欲も整い、運動よりも影響が大きいと改めて強調した。

これを受けて蘭丸さんは、7月の全体定例で「ちゃんと寝て、起きている時間はしっかり働こう」「自分もちゃんと寝る」と伝えると宣言した。今後は出社を増やす予定だという。会社員の進行役は、決まった職場に通えば1日のリズムができ、出社で始まり退社で終わる区切りがあるのがうらやましいと話す。蘭丸さんは、在宅だといくらでも働けてしまい、飲んで2時に帰宅するとそこから2時間作業したり、酔った勢いで朝4時に連絡を返したりしてしまうと明かした。

睡眠を測る意味 自覚と実測のずれ

社員の睡眠データを取り、可視化することは効果があるのか。宮原さんは「かなり効果的」と答えた。自覚している睡眠と実測した睡眠がずれている人が多いからだ。喉が渇いているときは少しの水でも満たされたと感じるように、睡眠不足が続く人は少し長く寝ただけで「よく寝た」と誤解する。3時間睡眠が続いた後に5時間寝れば元気だと感じるが、本来は7時間以上必要だという。

逆のケースもある。心の病になりかけている人は不安が強く、実際には眠れているのに眠れていないと不安を抱くことが多い。そうした人は、測定して眠れているとわかるだけで安心し、眠れるようになることがあるという。

進行役は睡眠を測れる腕時計を使っており、朝の感覚とデータを比べるうちに、最初は大きかったずれがだんだん小さくなったと話した。宮原さんは、自分の睡眠は本人が思うほどわかっていないもので、いつ寝たかも、途中で起きていたかも把握できていない人が多いと付け加えた。

測定には加速度と脈拍を使う。深い睡眠に入ると心拍数は下がっていく。体の動きについては、脳波では寝ているのに体が動く寝返りと、起きて動いている覚醒とを区別する必要があり、同社はその技術を作り続けているという。同社には、医療機器のウェアラブルを7日間装着し、飲酒や食事など生活習慣の質問にも答えてもらうサービスがある。

蘭丸さんは社員全員で測ってみたいと言いつつ、自分がぶっちぎりで悪く、「7日間ずっと飲酒、就寝は5時」と出て社員に引かれるだろうと笑った。宮原さんは、それを開示すること自体が社員の意識を変えるきっかけになりうると応じた。一方で、社長は会食もストレスもあって飲まざるをえないという蘭丸さんの言い分には、宮原さんも同意した。来年の予算の話をしようと言われれば帰れないし、相手がワイン好きならもう1軒行くことにもなる、と。

蘭丸さんが決めた現実的な目標

収録の終わりに、蘭丸さんは自分なりの目標を立てた。6時間半は無理なので、まず睡眠を4〜5時間に増やし、5時間を目指す。起床時刻は8時半にそろえ、得意の昼寝を続ける。蘭丸さんは、20代のビジネスパーソンがたくさん寝るのは難しいとしても、寝なさすぎは本当にダメだと感じたと語り、崩さないルーティンを2つほどでも作り、まずは8時半起床を守りたいと締めくくった。