600円台のスーパーのステーキ肉を「塩舞茸」と焼き方の工夫で店の味に近づける:肉のプロ・森田隼人さんの家庭ステーキ術

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概要

料理研究家のリュウジさんのチャンネルに、予約の取れない肉料理店「クロッサムモリタ」の森田隼人さんが出演した回である。森田さんがリュウジさんのチャンネルに出たことは何度もあるが、料理を作るのはこれが初めてに近いという。テーマは「森田さんがスーパーの安い肉を使うと何ができるのか」。用意したのは230gのサーロイン1枚で、試食の場面では640円の肉だと紹介されている。森田さんはステーキハウスの技術の要点を家庭向けに組み直し、赤ワインもバターも使わずに仕上げてみせた。

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なぜ今「家ステーキ」なのか

森田さんが家でのステーキを勧める理由は値上がりである。マクドナルドに行っても、牛丼を食べに行っても、いまは800円を超えてしまう。それなら家でステーキを焼けばいい、と森田さんは考えている。

さらに森田さんは、ステーキハウスも実際にはそれほど特別なことはしていないと話す。ただし大きな違いが1つあり、それが塩の打ち方だという。今回はプロの塩の打ち方を家庭で再現しつつ、森田さんが自分で考案した「塩舞茸」という下味の手法を組み合わせる。塩と舞茸を合わせたもので、これを肉にまぶすと肉が柔らかくなると森田さんは説明する。

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塩を振ると肉の中で何が起きるか

森田さんは、濡れたものに乾いたものを乗せる様子を使って、塩を振ったときの変化を説明した。肉の表面に乾いた塩を乗せると、肉の水分が上がってくる。その水に塩が溶けて塩水になる。ここまでが振ってからおよそ30分。30分を過ぎるあたりから、今度は塩水が肉の中へ戻っていく。これが24時間続くとハムになる、というのが森田さんの説明である。

この仕組みを踏まえて、ステーキハウスは2通りの方法をとっていると森田さんは言う。1つは前日に塩を振って保存しておく方法。もう1つは、客の来るタイミングが読めない場合の方法である。ステーキハウスや鉄板焼きはコース仕立てになっていて、メインのステーキはだいたい開始から45分後以降に出てくる。その45分の間に塩を振っておけば、ちょうど馴染むという。

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家庭のステーキでよくある3つの失敗

森田さんは、家で焼くステーキによく見られる問題を3つ挙げ、今回の改善ポイントとした。

1つ目は、塩を焼く直前に振ること。10分ほど置いて焼く人が多いが、それでは肉と塩が調和せず、塩の味と肉の味がばらばらに感じられるという。塩を振るなら45分は置くべきだ、と森田さんは強調した。

2つ目は常温に戻す工程である。イタリアンやフレンチの料理人、ステーキを焼く動画を出すYouTuberには、常温に戻さず焼いてよいという人が結構いる。森田さんはその人たちの腕を認めつつ、肉のことはできれば肉のプロに聞いてほしいとして、常温に戻すべきだと述べた。

3つ目は、一度で焼き固めて、あまり触らずに終わらせる焼き方である。森田さんの考えでは、何回か裏返したほうがよい。いまは流通や技術が良くなって血が出にくいので、何度か返すと熱が波のように入っていくという。

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舞茸を選んだ理由と材料

イタリアンやフレンチではステーキにマッシュルームを合わせることが多い。しかし森田さんによると、日本のきのこを含めた旨みのランキングでは、1位が干し椎茸で、2位・3位に舞茸を含む数種がほぼ同率で並び、マッシュルームはその下になる。舞茸は旨みも香りも強く、柔らかくする効果も強いので、ソースにも付け合わせにも使うことにしたという。

使う食材は舞茸1株、にんじん、長ネギ1本だけで、リュウジさんも「結構シンプル」と反応した。調味料は牛脂、醤油、レモン汁、酢、うま味調味料(味の素)。仕上げには、友人が淡路島で作っている結晶状の塩を添える。

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肉の下処理:筋を探して切り、水気を取る

最初は肉の筋切りである。プロは見れば分かるが、一般の人には筋の位置が分かりにくいので、フォークや刃のついた器具を刺して確かめるとよいと森田さんは言う。刺したときに「ガスッ」「クッ」と音がして硬い感触がある部分が筋で、そこは多めに切っておく。この肉では筋が縦に入っていたので、それを横に断つように切った。森田さんは、ステーキはこのひと手間だけでとてもおいしくなると話す。

次に水分を取る。肉から出る水分は臭みの原因になるので、キッチンペーパーで包んで置いておく。面の大きい部分をしっかり包むのがポイントで、短い時間でもペーパーにかなりの水が染みていた。

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塩舞茸を作って肉を包む

舞茸は肉の量に合わせて、1株の3分の1ほどを塩舞茸に使い、残りは付け合わせに回す。舞茸をチョッパーで細かく刻み、肉の重量の1%の塩を加える。今回は230gなので約2.3g。森田さんの目安ではひとつまみが約1gなので、ふたつまみほどになる。

ステーキの塩は0.7%がよく使われるが、今回は舞茸に塩をとられる分を見込んで1%にしているという。ただ森田さんは、ステーキはもともとアメリカの文化で、向こうの人はかなり目分量だから、あまり気にしなくていいとも言う。塩はフォークで混ぜるのがいちばん混ぜやすいそうだ。

少し置いた塩舞茸からも水が出てくる。肉に塩を振ったときと同じ現象で、出た水は使わない。ラップを敷いて肉の片面に塩舞茸の半分を乗せ、裏返して残りを乗せ、ラップで包む。森田さんによれば、舞茸はもっと多くても美味しくなるが、この量でも効果は「めっちゃある」。

包むときには形を整えることを求めた。ステーキは厚みのある料理なので、ここで形を決めておかないと、焼いたときに平たくなってしまうという。

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にんじんは皮ごと2%の塩水で茹でる

付け合わせのにんじんは、使う分の3分の2ほどを、水1リットルに対して塩分濃度2%の湯で20分茹でる。リュウジさんが「結構入れますね」と驚くほどの量で、茹でる段階で味を決めてしまう考え方である。皮はむかずにそのまま入れる。理由は後で明かされた。

長ネギは指1本分ほどの長さに切り、熱を通すために半分ほど切り込みを入れる。3本ほどあれば付け合わせには十分で、残りはソースに回す。

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野菜のドレッシング風ソース

ソースには、残りのにんじんと長ネギを使う。にんじんはピーラーで皮をむいてもいいし、気にならなければ水洗いだけでよい。長ネギは繊維が強いので、縦に切っておくと食感が残る。

これをブンブンチョッパーに入れ、オリーブオイル10cc、醤油5cc、酢3cc、レモン汁を少量、うま味調味料を3振り加えて細かくする。酸味が苦手でなければ酢は多めでも美味しいという。舞茸の香りに合わせて、ドレッシングをベースにしたようなソースにしたと森田さんは説明した。

リュウジさんは「完全に俺が作るのとは違う」と反応し、森田さんは「でも多分好きやと思う」と返した。酸っぱい味は男性が苦手なこともあるという話も出たが、森田さんはこの配分ならいいと考えている。

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20分後、肉はふにゃふにゃに

塩舞茸で包んで20分ほどたつと、森田さんによれば酵素がかなり入って肉が柔らかくなっている。ただし一晩置くのは絶対にだめで、そうすると肉の状態が悪くなるという。表面の舞茸は拭い取るが、後でソースに使うので取っておく。

持ち上げたリュウジさんは「めっちゃ柔らかい」と驚いた。肉がふにゃふにゃになる一方で、ドリップは出ていない。ただ、筋の部分は最後まで硬さが残るので、包丁で軽く刺すように切っておく。

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焼き時間の「方程式」

焼くのは中火で、コンロの目盛りなら3くらい。森田さんはこの中火が非常に大事だと言い、自分の中の「焼き時間の方程式」を紹介した。

焼きは3つの「セクター」に分かれる。片面を焼いて裏返し、もう片面を焼くまでが1セクター。これを繰り返してからアルミホイルで包んで休ませ、最後に表面に焼き色をつけるためにもう1回焼く。合計3回に分けて焼く形である。

最初のセクターで片面を焼く時間は、肉の厚みで決まる。厚さ1cmにつき40秒が基準で、2cmなら80秒、3cmなら120秒を片面ずつ焼く。今回の肉は約1.5cmなので片面60秒。厚さはなんとなく測ってくれればいいという。

牛脂は入れすぎると表面が焦げるので、小さじ1杯あるかないかにする。牛脂がなじんだら肉を入れ、中火のまま片面1分。1分たつといい焼き色がついていて、油を回してから裏返してまた1分。同じ工程をもう1セクター繰り返した。焼き上がった肉は、塩舞茸の段階で形を整えた効果で厚みが保たれていて、リュウジさんは「あんなに柔らかかったのに全然厚い」と感心した。森田さんは「やってることはほんま何もやってない」と言う。

アルミホイルは平らに敷かない

休ませるときのアルミホイルにも工夫がある。フライパンの倍ほどの大きさのホイルを平らに置きがちだが、それでは熱が全部下に逃げてしまうので意味がないと森田さんは言う。しわを寄せて空気を含ませると、発泡スチロールのように保温できる。肉汁が出たときのために縁を立てておき、その中で肉を休ませた。

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皮がつるりとむけるにんじんと、蒸し焼きの付け合わせ

20分茹でたにんじんは串がすっと通る。ここで皮をむかなかった理由が分かる。手で転がすと皮が全部つるりとむけ、光沢のあるにんじんが出てくるのである。リュウジさんは「これみんな知らないっすよ」と驚いた。森田さんはこれを付け合わせの時短テクニックだと説明する。にんじんは指1本分ほどのサイズに切り、舞茸は半分ほどに割く。

付け合わせの野菜は焼かずに蒸す。肉を焼いた後の油が残るフライパンに、にんじん、舞茸、長ネギを並べる。にんじんの茹で汁を、野菜が浸る程度まで目分量で注ぎ、醤油大さじ半分を加え、中火で放っておく。塩は加えない。茹で汁の塩分と醤油だけで十分だという。水分が飛ぶと音がパチパチと変わるので、それが仕上がりの合図になる。森田さんは特に、長ネギを驚くほど美味しくしたいのだと話していた。

その間にリュウジさんが器を温めた。森田さんの店でも皿は必ず温めているという。

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仕上げとソース

休ませた肉をフライパンに戻し、出た肉汁も上からかけて、片面30秒ずつ焼く。中まですでにしっかり火が入っているので、これで仕上がりとなる。

ソースは、肉を包んでいた塩舞茸を肉汁の残るフライパンに戻し、先ほどのソースを同じ量加えて、弱火で温めながら合わせる。酸味が好きならソースを多めにしてもいい。切った肉は断面がきれいなロゼ色で、リュウジさんは「完璧」と声を上げた。皿に野菜と肉を盛ってソースをかけ、淡路島の塩を添えて完成である。

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試食:肉よりも驚かれた付け合わせ

肉を食べたリュウジさんは「これ600円台の肉ですか?」と笑い、ソースは舞茸の香りも含めてかなり完璧だと評価した。

森田さんが一番自信を持っていたのは付け合わせで、特にネギだった。リュウジさんは「うま。何これ?」と反応した。繊維が残り、甘みがあって半生のような食感なのに、苦みや辛みはない。森田さんによると、余計なことをせず、下から上へ上がっていく熱を使う蒸し方がネギに一番合うと分かったのだという。

塩をつけて食べると、焼き方で肉自体がすでに美味しくなっているので、塩がよく合うとリュウジさんは言う。塩そのものの味の良さも二人で話題にした。にんじんはバターを使わず茹でただけだが、リュウジさんは「やばい」と驚いた。森田さんは、ステーキにはバターを使いがちだが、素材の味が分かるならこれで十分だと考えている。リュウジさんも2%の塩水がよく効いていると受け止めた。舞茸も好評で、森田さんは舞茸の香りが日本酒とよく合うとも話した。

リュウジさんは「しばらく外でステーキを食べられない」「赤ワインもバターもいらない」「油もあまり使っていない」と感想を重ね、自分の理解は「まだ浅かった」と述べた。森田さんは、肉のグレードが上がるほどもっと美味しくなり、国産牛ならかなり美味しくなるだろうと話す。付け合わせ全体がソースの役割を果たしていて、肉と野菜の組み合わせを森田さんは「マリアージュ」と表現した。リュウジさんは、ここまで突き詰める森田さんを親しみを込めて「変態」と呼んでいた。

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塩麹やシャリアピンステーキとの違い

本編の後のおまけトークでは、塩舞茸の位置づけが話題になった。森田さんは、塩麹に漬けるのと同じことをしているが、塩麹は酸性なので肉の状態が悪くなる一方、舞茸はアルカリ性なので肉が保水してふわっとすると説明した。

玉ねぎの酵素で肉を柔らかくするシャリアピンステーキにも話が及んだ。森田さんによると、これは約90年前に帝国ホテルの料理人(森田さんは「筒井さんという方だったか」と記憶をたどっていた)が、歯の悪かったシャリアピンのために考えたもので、美味しいが技術としてはもう古いと森田さんは考えている。

これに対しリュウジさんは「ぶっちゃけ、シャリアピンステーキってそんなに柔らかくならないですよね」と切り出した。リュウジさんは何度も試していて、玉ねぎの量や漬け時間などを変えてもほとんど変わらなかったという。香りが移るので味としては美味しいが、柔らかくする効果は薄いというのがリュウジさんの結論だった。森田さんも、効果はあるがそれほど強くないと同意し、舞茸の方法を「現代のシャリアピンステーキ」だと位置づけた。

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良い肉や和牛にも使えるか

リュウジさんは、良い肉にはこの方法を使わないほうがいいのではないかと尋ねた。森田さんの答えは、良い肉でも柔らかくなる、和牛でもさらに柔らかくなる、というものだった。ただしこの方法は肉の水分に働きかけるもので、脂には働きかけない。和牛は脂が多いので、その脂の部分には効かないという。

分量について森田さんは最後まで「ざっくりでいい」と繰り返した。ステーキはもともとアメリカの文化で、自分たちもざっくりだから、と笑って話を締めくくった。