「多動」は才能か設計か 経営者2人が語る、日々の業務に埋もれずに働く方法

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概要

新R25とABEMAの経済番組「For JAPAN」のコラボ企画「ビジパの悩み解決サミット」第8回のテーマは「クリエイティブに働く」である。新R25の藤野さんは、日々の業務に忙殺され、創造性を発揮すべき場面で思うように発揮できないことに本気で悩んでいると打ち明ける。AIが答えを出してくれる時代に、人間にしか出せない価値をどう作るか。その手がかりとして番組が設定した問いが「多動の極意」だった。

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答えたのは、株式会社シトラス代表取締役の野口昌一路さんと、株式会社アイオネスト代表取締役の石塚正拓さんである。2人の答えは「もったいない」と「スケジュール管理」で、方向はかなり異なっていた。

2人の経営者の現在地

野口さんは、今何をしているかと聞かれて「旅行している」と答えた。事業面では、前日の新年会で福岡の現場を任せている人を代表取締役社長にすると発表したところ、その人はすぐ妻に電話するほど喜んでいたという。野口さんは自身を投資家や実業家に近い立場と位置づけ、事業を立ち上げるのが好きだと語る。これまでに約30の事業を立ち上げ、10事業をバイアウトしてきた。アパレルは自身のブランドで、不動産やデザインなども手がけている。いろいろな経験や知識、教養を持たないと今の時代は取り残されると考えており、新しい価値観を得てブルーオーシャンに行くために旅行をしているのだと説明した。著書も出している。

石塚さんは飲食から介護業界を経て、現在は採用支援とSNSマーケティングのコンサルティングを事業の柱にしている。主に中小企業の人材不足の解決を手伝う会社である。

一方、藤野さんは「多動」という言葉自体が苦手だという。一つのことを考え込むと、他のことに手をつけられなくなるタイプだからだ。

石塚さん:考える時間をスケジュールに組み込む

石塚さんが「スケジュール管理」を挙げた理由は、人間が無意識のうちに大量の意思決定をしているという認識にある。どこかの大学の教授が「1日3万5000回意思決定している」と言っていたはずだと、石塚さんは記憶をたどりながら紹介した。アイオネストはまだ小規模なベンチャーなので、石塚さん自身もプレイヤーとして動かなければならず、予定はどんどん埋まっていく。だからこそ、考える時間をきちんとスケジュールに入れ、足を止めることが重要だと考えている。

石塚さんは、自分はもともと多動なタイプではなかったと話す。生まれつき多動な人もいるだろうが、自分は優先順位を整理しなければ動けない。だから、やることを洗い出し、優先順位をつけて考える時間を確保する。それをしないと時間に流され、「気づけば1日が終わっていた」「やるべきことができなかった」ということになる。さらに、経営者自身が忙しさに忙殺されるとメンバーも皆忙殺されてしまうと考えている。そのため、足を止めて戦略や事業を見直すことを自分のルールにしている。

藤野さんは、スケジュールを組んでもその通りに進まず、修正に戸惑うことが多いと質問した。石塚さんは、9時から6時の定時で動く組織人と経営者とでは立場が違うと前置きしたうえで、「誰にもコントロールされず、誰にも妨害されない時間」を持つことが重要だと答えた。石塚さん自身は毎日5時前に起き、朝に考える時間を取っている。この時間がスケジュールの狂いをリカバーする時間にもなる。

朝の時間に何をするのか。石塚さんは前日の振り返りをし、経営者として掲げている5つの指標を達成できているかを確認する。業務のことも考えるが、人は仕事のために生きているわけではないので、自分が本当に大切なものを大切にできているかも見直す。仕事以外のことも含めて足を止めて考えることで人生が豊かになる、というのが石塚さんの考えである。

藤野さんは「振り返り」という言葉が引っかかったという。自分は前日の流れのまま翌日に突入し、ベルトコンベアのように働いていると気づいて、少し落ち込んだと笑った。

野口さん:そもそも創造性と多動は結びつかない

野口さんは「もったいない」の説明に入る前に、前提を示した。クリエイティブと多動にはあまり関係がないと思っている、というものだ。テレビや制作の仕事をする人、野口さんが購入することもある絵画の作家などには、多動ではない人が多い。六本木のバーでクリエイティブな仕事をしている人と話しても、一つのことに集中している人のほうがクリエイティブなのではないかと感じるという。そのため藤野さんの性質は改善しなくてよく、自分の得意なところを見つければいいと話した。

「1秒ごとに人間の価値が下がる」

そのうえで野口さんは、多くの人は「もったいない」と思わなさすぎると指摘する。良い地球、良い日本に生まれ、自分でいろいろな判断ができる状態にある。先祖が代々つないできた命を、いろいろな経験をしないまま終えるのはもったいない。野口さんは、知らないことを死ぬまでに少なくすることを「3Sミッション」と呼び、自分のテーマにしている。先祖からもらった命なのだから、人には知る権利がある、という考えだ。

野口さんの持論は、1秒ごとに人間の価値が下がるというものだ。理由は2つある。1つ目は、同じ経験でも早いほど価値が高いこと。20歳で上場したり1億円を持ったりすることと、40歳で同じことをすることは違い、20歳なら価値が2倍、3倍になると野口さんは言う。2つ目は、早く経験すれば、その価値を使える残りの人生が長くなることだ。見た目や健康も、良いほうができることが増えるが、人は老化していく。だから、今こうして話しているこの時間が終われば自分の価値は下がっていると考え、価値が下がる前にいろいろな経験をしておきたいのだという。

例として、前日は寿司店に誘われ、とても寒い土地まで出かけた話を挙げた。目的は寿司店だけで、好きな神社に少し寄った程度だという。知識や教養が多い人のほうが話していて面白く、それが人間の価値を高める。野口さんは、経験を「ヒューマンバリュー」を上げる最も簡単な方法だと考えている。

旅と寄付、そして150年続く家系

どんな経験が今につながっているのかと聞かれ、野口さんは「全てがつながっている」と答えた。最近はチベットやウイグルなど、あまり人が行かない場所を訪れている。ウクライナにマンションを持っており、ナイジェリアの世界最大級の水上スラムでは学校に寄付をしたという。

「もったいない」という精神の出どころについて、野口さんは家族と日本の先祖への感謝を挙げる。実家は約150年続く自営業の家系で、墓参りにもよく行く。ここでいう先祖は自分の家族だけではなく、これまで頑張ってきた日本の人々も含まれる。自由に動け、勉強の機会ももらっているのだから、それを最大限使わないと申し訳ない、という感覚だという。

藤野さんが「自分の見ている世界線とは違う」と漏らすと、野口さんは経験は何でもよく、変わった人と話すことも経験だと応じた。ただし、自分は押しつけるのが一番嫌いなので、話の5%でも「面白そうだ」と響けば嬉しいと付け加えた。

1000のホテルに泊まり、同じ店には行かない

「いつもマクドナルドに行っているならロッテリアに行ってみる、というのでもいいのか」という問いに、野口さんは自身の生活を例に答えた。最近まで約3年間ホテル暮らしをしており、一度泊まったホテルには泊まらないと決めていたため、泊まったホテルは1000軒ほどになる。仲間との3泊の旅行でも、幹事に任せず自分だけ宿を取り、毎日チェックアウトして別のホテルに移る。毎朝同じ天井を見て起き、同じ道を歩いていては経験にならない。ホテルが変われば道も接客も変わる、というのが理由だ。

飲食店も、よほど好きな店以外は同じ店には行かない。福岡で毎月定期的にある食事会では、自分が行ったことのある店は予約しないよう幹事に頼んでいるので、幹事はとても困っているという。

小さなことでいいのかと聞かれると、野口さんは歩く道を変える、いつもと違う駅で降りるといったことで十分だと答えた。「1秒変えられない人は1年後も変えられない」と野口さんは言う。1秒変えることは簡単で、1年後を変えることは難しい。だから簡単なことを積み重ねたほうが楽だ、という考えである。

石塚さんは、自分は堅実に毎日同じことをするタイプなので、日々変化を自ら作ることの大切さが勉強になったと話した。

調子が悪い日は動かない

藤野さんは、経験を取りに行きたいと思っても、体調が悪い日や体が重い日はどう乗り越えるのかと尋ねた。野口さんの答えは「動かない」だった。10時間以上寝て、体調が良くなるまで動かない。収録当日もぎりぎりまで寝ていたという。午前中には予定を入れず、仕事もしたくない。突発的な連絡が来たりするからだ。その代わり、起きている時間は体調万全の状態でフルに使う。活動時間は短くなるが、元気いっぱいなので「少し歩いてみよう」という気にもなる。福岡空港から天神まで食事に行く際も、かなり遠いが歩いていくことがあるという。

ただ野口さんは、こうした話はテクニックであり対処療法だと自ら指摘した。マインドが変わっていないのにテクニックだけ聞いても三日坊主になる。「あれは自分にとって良い」と腹落ちしなければ人は動かない。根本的な原因療法として野口さんが挙げたのは、「僕とご飯に行く」ことだった。自分でなくてもよく、マインドを変えてくれる人と会うのが一番の解決策だという。

10時間寝ても不安にならない理由

もう一人の司会は、短時間睡眠で成果を出している経営者もいるなかで、10時間寝ることに不安はないのかと尋ねた。野口さんは、不安にならないように土台を作ってきたからだと答える。個人資産、会社が自分抜きで回る仕組み、事業の売却などだ。不安の根源は結局お金だと野口さんは考えている。お金自体が大事だと思っているわけではないが、流動的な自己資金があれば自己肯定感も上がり、安心して過ごせる。だから答えは「稼げばいい」であり、そうすれば寝られる、というのが野口さんの答えだった。

体力づくりは「当たり前のこと」

話題は、起きている時間を充実させるための体力に移った。石塚さんの早起きのコツは早く寝ることで、予定がなければ22時前、土日も22時前には寝ている。学生時代から夜に勉強するより一度寝て朝やるタイプで、朝型は昔からだという。

体力のために意識していることとして、石塚さんは適度な運動に加え、知識を入れることを挙げた。昼食で血糖値が上がりすぎないよう気をつけ、朝はしっかり食べてエネルギーを入れる。そして深酒をしない。前日も会食で楽しかったが、22時を過ぎたらなるべく水を飲み、炭酸水に切り替えるなどして、翌日のペースを崩さないようにしているという。石塚さん自身は「当たり前のこと」だと言うが、司会の2人はそれができていないと認めた。

「朝型がいい」を鵜呑みにしない

司会の一人が「朝が苦手でまずい」と話したことに対し、野口さんは、その考え方自体が良くないと指摘した。朝が得意な石塚さんのような人はやればいいが、得意でないことを無理にやるのが一番良くない。野口さんによれば、今はDNA検査で朝型か夜型かを診断できる。夜型の人が無理に朝型にしても体に合わない。大切なのは、自分の特徴や得意なところを知り、パフォーマンスが上がる状態を作ることだという。

野口さんは、教育やマスコミが「朝型がいい」といった固定観念を広めていると批判する。同じ業種で、朝型の社長と夜型の社長の売上や利益、従業員数を比較した調査は、おそらくあまりないだろうと野口さんは言う。比べたら朝型の方が高いかもしれないが、それを示さずに朝型や瞑想が良いと言われても鵜呑みにしないでほしい、と話した。得意なことを伸ばすには、それができる土台づくりに重きを置くべきだというのが野口さんの考えである。

絶対にやらないこと:ストレスが溜まること

最後の問いは「これだけは絶対にやらないこと」だった。野口さんの答えは「ストレスが溜まること」である。自分の得意なことを曲げること、苦手なことをやることも含め、上位概念はストレスだという。

野口さんは藤野さんに「お金とは何か」を言語化するよう求めた。藤野さんは「生活を支え、豊かにするもの」、もう一人の司会は「コミュニケーションのツール」と答え、それぞれ全く違った。野口さんは、お金の価値観を言語化すると自分の大切なものが分かり、生きやすくなると言う。野口さんの現時点での定義は、「苦手なことを代わりにしてもらえる引換券」だ。途中で変わるかもしれない、とも付け加えた。

例えば移動は歩いても車でもできるが大変なので、代わりに飛行機に運んでもらう。これも苦手なことを代わってもらう引換券だという。ホテル暮らしを選んだのも、掃除や食事を任せられるからだった。そう考えるとストレスがなくなる、と野口さんは言う。人間社会なので100%は無理だとしながらも、ストレスを溜めないことを徹底している。タクシーもあまり乗らない。急ブレーキや車線の選び方が気になってストレスが溜まるからで、歩くことが多い。こうした調整のためにも時間が必要なのだという。

繊細さが「ストレスフリー」を生んだ

お金を引換券として捉えるようになったきっかけを問われ、野口さんは積み重ねだと答えた。以前は社員を多く抱えていたが、今は外注やアルバイト、業務委託、営業代行の人が多い。社員から辞めたいと相談されると、野口さんは意外にも繊細なのでこたえるという。繊細だからこそこの境地に至ったのかもしれず、繊細でなければここまでは行かない、と野口さんは言う。ただし、それが良いか悪いかではなく、繊細でないほうが傷つかずに済むので羨ましい、とも話した。飲食店を4店舗経営していたときには、給料を上げてもらえないなら辞めたい、現場が回らない、代わりのシフトに入れない、といった問題をうまく伝えられないこともあった。それならストレスのない状態を作り上げていこうと考えた。

そのためには、自分がAなのかBなのかを理解していないと選べないし決められない。野口さんは月2回、「日記係」「ライター」と呼ぶ人に今思っていることを書き留めてもらっている。コーチングとは違う。「こうでしょう」と言われるのが合わず、10人ほどコーチをつけたが、自分のほうが頭がいいと感じてやめたという。ライターは、自分で事業を営む若い社長と、しっかりしたコンサルティング会社の人の2人だ。若い人と年配の人に、自分の発言について「どう感じるか」を聞いている。アドバイスではなく、受け止め方を知るための仕組みである。

石塚さん:嫌いなことはやらず、人の力を借りる

石塚さんの答えは「嫌いなことはやらない」で、野口さんとほぼ同じだった。仕事でも、心から取り組むからこそ対価に見合う価値を提供できると考えている。とはいえ、やらなければならないことも多いと率直に認める。経営者として意思決定する立場なので、従業員やパートナーの力を借りている。例えば石塚さんはお金の管理が苦手なので、パートナーに任せている。苦手でも取り組まなければならないことはあるが、基本的には嫌いなことはなるべくやらないよう意識しているという。

自分のスタイルが確立するまでに何をしてきたかと聞かれ、石塚さんは経営者の話を聞き、勉強を重ねてきたと答えた。人それぞれ違っていてよく、自分が何者なのかを言語化することが大事だという。自分の大切な価値観を明確にしているから判断がぶれない。そのうえで応援してくれる人を増やす。だから応援される人間にならなければならない、と日々取り組んでいると語った。

締めくくり

藤野さんは、2人の共通点を、自分と向き合い、価値観を明確にしているからこそ自分にとって正しい選択ができることだとまとめた。そして自分はまず、石塚さんのように一度立ち止まる時間を作り、自分を見つめ直すことから始めてみると話した。後半は「For JAPAN」チャンネルで、クリエイティブなビジネスパーソンになるために大切なことをテーマに続く。