「スマホ疲れ」なのに手放せないのはなぜか:脳科学者・榊浩平さんが語る、前頭前野のブレーキと三つの仕組み

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概要

疲れているのにスマホを触ってしまい、さらに疲れる。新R25編集部の十石泰誠さんは、この悪循環から抜け出す方法を東北大学の脳科学者・榊浩平さんに尋ねた。聞きたいことは二つある。スマホ疲れはどこから来るのか。そして、疲れを感じているのになぜ触り続けてしまうのか。榊さんの答えは、「自分の脳は自分で守る」というものだ。個人の意思の力には限界があるので、仕組みで対抗するよう勧めている。

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編集部の実感:「疲れているならやめればいい」ができない

本題の前に、編集部員どうしで雑談があった。1日に何時間スマホを触るかという話になり、寝ているとき以外はほぼ触っている、10時間以上は見ている、という声が続いた。視聴者の9割くらいは同じ状態ではないか、という冗談も出ている。

十石さんは「絶賛スマホ疲れ中」だという。疲れを感じているのに触ってしまう。「疲れているならやめればいい」と言われても、それができない。睡眠の質や仕事の効率に何かしら悪影響が出ているはずだと感じている。別の編集部員は、スマホを見ながら洗濯物を運び、干す前にまたスマホに気を取られて、洗濯物を置いたまま忘れてしまったという体験を話した。

十石さんは、仕事の道具でもあるスマホをゼロにするのは無理だと考えている。そのうえで、何時間までなら悪影響が少ないのかという線引きがあれば行動しやすい、という問題意識を持って取材に臨んだ。

研究のきっかけは「7万人のデータ」

榊さんは千葉県出身で、東北大学理学部を卒業し、現在は仙台に住んで東北大学応用認知神経科学センターで研究している。専門は、一言で言えば脳科学だ。著書に『スマホはどこまで脳を壊すか』がある。

スマホと脳の研究を始めたのは「たまたま」だったと榊さんは話す。東北大学と仙台市教育委員会は15年以上共同研究を続けていて、毎年約7万人の子どものデータを集め、学習意欲や学力と生活習慣の関係を網羅的に分析してきた。その分析で学力に最も悪影響を与えていたのが、スマホの使用習慣だった。そこでまずスマホの習慣をどうにかしようと、啓発活動に取り組むようになった。榊さんの関心はもともと教育にあるため、主な対象は小中学生と、幼稚園・保育園の子どもたちだという。

スマホ疲れの三つの要因

十石さんは1日平均8時間以上スマホを使っている。仕事は YouTube のプロデューサーで、連絡や動画視聴にスマホが欠かせない。プライベートでも SNS を見るし、野球好きなので DAZN で野球中継も見る。多い日は10時間を超える。目の疲れだけでなく、頭や心が疲れる感覚があるという。

榊さんはこの話を聞いて、スマホ疲れの要因を三つ挙げた。

一つ目は社会的なつながりだ。特に10代・20代に多いと榊さんは見ている。つながりには良い面もたくさんあるが、過剰になると社会的なつながりを処理する脳の働きを使いすぎて疲れてしまう。昔は対面で会うだけだったのに、今は深夜まで SNS でつながり、ストーリーを見て「いいね」をし、自分も投稿しなければならない。通知が鳴れば見ずにはいられない。自分でコントロールできない外的な要因で「触らされる」ことも、ストレスになる。榊さんによれば、これはどの年代にも共通するが、10代・20代のほうが社会的なつながりに敏感に反応すると言われている。

二つ目は情報の過多だ。仕事で最新の情報を追い、企画を考え、ゲストについて調べる。そうした作業をスマホやパソコンで続けて情報を入れ続けると、脳が処理しきれる量を超えて単純に疲れてしまう、と榊さんは考えている。

三つ目は注意が頻繁に移り変わることだ。榊さんは、脳には原則として一度に一つのことにしか集中できない性質があると説明する。スマホでは通知が来ればそちらに飛び、調べものをしていてもリンクをたどるうちに、もともと何を調べるつもりだったか忘れてしまう。この頻繁な注意の切り替えが脳にとってストレスになり、疲れにつながるという。

仕事の連絡は夜でも返さなければならない、という十石さんの悩みについて、榊さんは個人でできる対策は限られると認めた。理想を言えば、経営側がトップダウンで「何時以降の業務連絡は最重要のものだけにする」といった方針を出さないと、末端で変えるのは難しいという。

「休息」のつもりが、疲れをためる方向に

十石さんは、SNS や YouTube は娯楽や休息のつもりで見ていると話した。榊さんは、エンターテインメントを全面的にやめろとは言わないし、適度であればストレス発散にもなると応じた。問題は、すぐ終わらせないための仕組みが盛りだくさんに組み込まれていることだという。

例えば動画を1本見終えると、おすすめ動画が表示される。ユーザーの好みを学習したアルゴリズムが、その人が必ず見たがるものを出してくるので、見るつもりのなかった動画までクリックしてしまう。気づけば1時間、2時間、3時間と延びていく。ちゃんと止められれば休息になるかもしれないが、そこから先は睡眠時間も削られ、休息とは逆に疲れをためる方向に行ってしまう、と榊さんは言う。十石さんも、最初は見る動画を決めていても、関連動画をずるずる見てしまうと認めた。

前頭前野は「ブレーキ」、快楽は「アクセル」

スマホを触っているとき、脳にはどんな負荷がかかっているのか。榊さんによれば、使い方によって働く脳の領域は変わる。SNS では社会的なつながりに関わる働きが使われ、疲れにつながる。一方、ネット動画を受動的にぼーっと見ているときは、脳はむしろ働かない方向に向かう。それだけでなく、脳の奥にある報酬を処理する回路が回り、「面白い」「かわいい」「かっこいい」と気持ちよく感じる。そのため、ますますやめられなくなる依存のループにはまる。これがネット動画の特徴だと榊さんは説明する。

こうした使い方を続けたときのリスクとして、研究チームが最も深刻に捉えているのは、子どもなら脳が発達しなくなること、大人なら脳の老化が早まることだ。短期的な影響だけでなく、65歳を超えたときに認知症のリスクがどれだけ高まっているかも含めて、長期的に見ていく必要があるという。

十石さんが、前頭葉の活動が落ちて物忘れや知力の低下、うつにつながるというニュースを見たと話すと、榊さんはそこがまさに研究チームが深刻に捉えている点だと答えた。額の裏側にある前頭前野は、考える、覚える、理解するといった働きの中枢にあたる。榊さんによると、受動的にスクリーンを見ている時間には、この前頭前野が特に働かない。そして脳は原則として、使えば育ち、使わなければ育たない。大人であれば衰えていく。だから前頭前野を使わない時間が長いほど、子どもは脳が育たず、大人は衰えていく、というのが榊さんの説明だ。

榊さんが「恐ろしい」と強調するのは、この前頭前野がブレーキ役も担っている点だ。「今日はこの辺にしておこう」と自分でやめる力も前頭前野の働きなので、その働きが落ちると、ますますやめられなくなる悪循環に陥る。快楽が「触りたい」というアクセルになり、本来なら「明日も仕事があるから今日はここまで」と止めるはずのブレーキが効かなくなる。アクセルばかりが踏まれる状態になるという。

大人の仕事への影響については、「十分あり得る」と榊さんは言う。子どもの学力、つまりテストの成績は前頭前野の認知機能の指標の一つとして使われている。社会人に置き換えれば、仕事の効率、思考力、新しいものを生み出す力、コミュニケーションといったスキルが、学力と同じように低下していくと考えられる、というのが榊さんの見方だ。

依存は「時間」では定義されない

では何時間以内に抑えればいいのか。十石さんの問いに、榊さんは、適切な時間は人によって違うので科学的にはっきり言うのは難しいと答えた。そもそも依存は時間で定義されていないという。

榊さんが挙げた依存の三つの要件は次のとおりだ。

  • 自分でコントロールできているか。やめるべきときにやめられるか。
  • 生活の中での優先順位が上がりすぎていないか。睡眠や仕事、勉強よりスマホを優先していないか。
  • 実際に心身に悪影響が出ているか。

使用時間が長くてもこれらに当てはまらなければ、使いこなしていると言えるかもしれない。逆に時間が短くても、コントロールできない、不調が出ているのであれば依存を疑ったほうがいい、というのが榊さんの示した目安である。十石さんは三つとも当てはまると笑った。

いきなりゼロにせず、意思ではなく仕組みで戦う

改善策について、榊さんは「少しずつ戦っていくしかない」と話す。十石さんは以前にスマホを減らそうとして挫折したことがあり、一度にやめようとすると離脱症状のようなものが出るとも話していた。これを受けて榊さんは、いきなりゼロにすることは勧めないと言う。やめられるところとやめられないところを仕分けし、仕事は削りにくいならプライベートから削る。例えば「今週は寝る前のスマホだけでも減らす」と自分でルールを決めて守る。意思の力で取り組むなら、こうしたスモールステップが地味だが唯一の正攻法だという。

ただ、意思だけでは難しいので、大人には意思の力に頼らない仕組みづくりが必要になる。榊さんは、自分も実践しているという「今日からできる仕組み化」を三つ紹介した。

仕組み1:ホーム画面を片付け、起動までの「摩擦」を増やす

一つ目はホーム画面の片付けだ。アプリがたくさん並んでいると、用もないのに触ってしまう。特に SNS がそうだ。榊さん自身のホーム画面には、カレンダー、地図、設定、ブラウザの四つしか置いていない。

基準は「なぜそのアプリがホーム画面になければならないのか」を考えることだ。ホーム画面に置く理由は、すぐに起動できないと困るからのはずだ。そう考えると、即座に起動できないと困るアプリは意外とない、と榊さんは言う。どのアプリを残すかは人によって違ってよいが、この観点で仕分けて、ホーム画面からごっそり外してほしいという。

注意点は、アプリ自体は削除せず、アイコンだけを消すことだ。榊さんの場合、アプリはアプリライブラリに入っていて、LINE を開くときは検索で「LINE」と打ち込んで起動する。これが面倒になる。起動までの摩擦を増やすことが肝心で、そうすれば目的を持って開くとき以外に、つい触ってしまうことがなくなる。スマホは「便利すぎる」のだと榊さんは言う。十石さんは自分のアプリが並んだホーム画面を見せ、四つでなくても、とにかく減らしてみると応じた。

仕組み2:通知を最小限にし、確認する時間を決める

二つ目は通知を切ることだ。仕事の Slack のように切れないものはあるだろうが、LINE なら切れるかもしれないし、ほかのアプリも通知を送ってくる。アプリは自分に注意を向けさせようと必死に通知を出してくるので、それを最小限に抑えてほしいと榊さんは言う。

榊さん自身は通知を完全にゼロにしている。ただ、それは難しいだろうとして、通知をできるだけ減らしたうえで、時間を決めて開くことを勧めた。榊さんの場合、メッセージは夕食後にまとめて確認するとルーティン化している。これが仕組み化の例だという。

仕組み3:目覚まし時計を買い、寝室の外で充電する

三つ目は「今日、目覚まし時計を買ってください」という提案だ。多くの人はスマホでアラームを設定して寝るので、起きて最初に触るのも、寝る前に最後に触るのもスマホになる。榊さんはこれを、スマホに始まりスマホに終わる生活に支配されている状態だと表現した。特に冬は布団から出たくなくてベッドの中でいじり、夜も寝落ちするまで見てしまう。

そこで、できれば寝室の外、リビングや別の部屋でスマホを充電し、目覚まし時計で起きるようにする。そうすれば寝る前と起きた後のだらだらスマホをなくせる。十石さんも、スマホのアラームで起き、止めたそのまま YouTube や SNS を見ていると認めた。

実践の時期について、榊さんは段階的に取り組んできたと話す。通知オフは5〜6年前から、ホーム画面の片付けと目覚まし時計はこの1年以内に始めた。睡眠の質が上がったと感じているという。ただし「1人のデータなので科学的ではない」と断ったうえでの、実感としての報告である。

疲れているのに触ってしまう理由

もう一つの問い、なぜ疲れているのに触ってしまうのかについて、榊さんは「一言で言えば、そう作られているから」と答えた。作る側の企業は、いかにユーザーの注意を引きつけるかに注力して製品をつくっている。無意識に使っているのではなく、使わされているのだという。それによって企業には広告収入などのお金が入る。これが大前提だ。

もう一つの理由は、前頭前野のブレーキが弱まっていることだ。疲れるほど前頭前野の活動は落ちるので、ますますブレーキが効かなくなり、つい触らされてしまう。このループにはまっていくのがメカニズムだと榊さんは説明する。

十石さんが、企業側の仕組みは自分たちには止められないので、先ほどの三つの方法で離れるしかないのかと尋ねると、榊さんは「自分の脳は自分で守る」に尽きると答えた。

子どもはなぜリスクが高いのか、そしてスマホ育児の難しさ

依存のメカニズムに子どもと大人で差はあるのか。榊さんによれば、原則は同じだ。ただ子どもは前頭前野の発達が未熟なので、ブレーキの力自体が弱い。また、どんな依存物でも始める年齢が若いほど重症化しやすいと言われている。そのため、早くスマホを触り始めた子ほど依存のリスクが高まる。この二点を榊さんは挙げた。

十石さんは、自分がスマホを持ったのは高校生くらいだったが、今の10代は生まれたときからスマホがあると話した。榊さんも、研究者として最も危機感を持っている点だという。国の統計では1〜2歳児でも平均2時間ほど使っているというデータが出ている。この子たちがこれから保育園、幼稚園、小学校、中学校と上がっていくので、事態の悪化は「確定している」と榊さんは述べた。

一方で、スマホ育児の問題は複雑だと榊さんは強調する。親もやりたくてやっているわけではない。社会が変わって共働きやワンオペ育児が増え、猫の手も借りたい思いで「スマホの手」を借りているにすぎない。そうした人から「スマホ育児はダメ」と取り上げれば、育児うつなどにつながるかもしれない。だから子どもへのリスクの啓発は必要だが、「親が悪い」ではない。スマホに頼らずに安心・安全に子育てできる環境を整えることが必要で、これは政治や行政に働きかけていく問題だと榊さんは言う。

「使いこなす側」と「使わされる側」の格差

榊さんはもう一つ、「恐ろしいポイント」として格差の拡大を挙げた。スマホを使いこなしている側や作っている側の一部のエリートと、使わされてしまっている多くの市民との間で、経済的な格差も能力的な格差も拡大していくのではないか。大きく見れば、それが社会全体の問題だという。だからこそ、一人でも多くの人がこの動画をきっかけに目覚め、支配されないという強い意思と仕組み化によって戦ってほしいと榊さんは語った。

効果が出るまでの期間:依存に至ったのと同じくらいの時間を覚悟する

スマホから離れる取り組みの効果はどれくらいで出るのか。榊さんによれば、研究でもまちまちだ。1日のデジタルデトックスキャンプのような短期の研究もあれば、1週間、2週間、1か月、半年、1年といった長期のものもある。

そのうえで榊さんは、依存していったのと、つまり使用時間が延びていったのとおそらく同じくらいの時間はかかると覚悟したほうがよいと話す。習慣をつくるにも長い時間がかかって今に至っているので、今日これをやれば治る、この薬を飲めば治る、という世界ではない。習慣を変えるには習慣を変えていくしかない。十石さんが「スマホ歴10年なら10年スパンで考えるくらいがいいのか」と確認すると、榊さんは気持ちとしてはそのくらいでいたほうがよいと答えた。途方もなく思えるかもしれないが、人間は誰しも今この瞬間がいちばん若いので、始めるなら今がいちばんいい、というのが榊さんの考えだ。

一人で戦わず、「人生を取り戻す」と捉える

十石さんが、若い世代と一緒にトライできたらと話すと、榊さんはその「一緒に」がいちばん大事だと応じた。仲間をつくることだ。友達同士で、子どもが小さければ家族でルールを一緒につくって取り組む。一人で戦っていると LINE でメッセージが来てしまうが、友達同士で「10時以降はやめておこう」と口裏を合わせておく。スクリーンタイムを測って、これくらい減ったと励まし合う。みんなで戦うことも必要だと榊さんは言う。

最後に、スマホと適正な距離を保てれば幸福度などの面でも恩恵はあるのかと問われ、榊さんは「大きいと思います」と答えた。これまで話してきた心身への悪影響がごっそりなくなると考えれば、心も体もかなり軽くなるのではないかという。楽しいことを我慢すると考えるとネガティブになる。そうではなく、知らないうちにビッグテックに取られていた自分の人生を取り戻すのだ、くらいにポジティブに捉えて楽しんでほしい、と榊さんは話した。

榊さんは、人間に与えられた時間は有限で非常に貴重だと言う。その時間を溶かしてしまうのは、「おじさん臭いかもしれない」と前置きしつつ、正直もったいないと感じるという。SNS を全くやるなとは言わないし、SNS を通じてつながった仲間もたくさんいるだろう。だからこそ、オンラインで終わらせずに「リアルな体験を一緒にしに行こう」と誘ってほしい。リアルで遊びに行けば、その時間は少なくともデジタルデトックスになる。楽しいことをやめる、諦めるという発想ではなく、自分の人生を楽しむというポジティブな思いで、自分の人生をテックから取り戻してほしい。榊さんはそう願っていると語った。十石さんも、頑張るというより楽しみながらスマホから離れる生活を送っていきたいと応じ、対談は終わった。