若新雄純の実家と夜の水晶浜、敦賀の書店へ――福井・嶺南旅の最終日

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概要

ReHacQの福井・嶺南旅は、若新雄純の案内で斎藤幸平、高橋弘樹、そして途中から加わった歌手の川本真琴の4人で続いてきた。最終回となるこの回は、若狭町にある若新の実家、夜の水晶浜、敦賀駅に併設された書店をめぐる。前半は実家探訪と即興セッションというにぎやかな展開だが、移動中や最後の振り返りでは、原発とともにある地域をどう考えるか、住む人がいなくなる集落をどう受け止めるかという、旅全体を通じた問いに話が戻っていく。撮影は2023年10月である。

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信号も自販機もない集落

若新の実家がある集落に着くと、若新はまず周囲の様子を説明する。小学校は山が谷になっているV字の奥にあり、子どもたちはあちこちの集落から一斉に歩いて通っていた。道中には信号も自販機もなく、あるのは郵便ポストだけだという。高橋はそれを受けて「郵便局ってすげえんだな」と感心する。川本は、こうした場所に来たことがあるような既視感を覚えると話した。

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曾祖父が建てた蔵と、「見栄っ張り」な父の家

敷地に入ってまず目に入るのが蔵である。若新の説明では、曾祖父が建てたもので、先祖代々受け継がれてきた土壁の蔵だ。窓には瓦屋根が付いている。蔵の奥には離れのかつての作業場があり、若新は子どもの頃そこで卓球をしていた。母屋は想像よりずっと大きく、川本は「もっと小さめの玄関を想像していた」と驚く。

家の中を案内しながら、若新は父親を「見栄っ張り」と繰り返す。父は朝日新聞を読み、サンデーモーニングを見て「暴走する資本主義はあかん、貧しい子どもたちに分け与えろ」と言うような人だが、自分のものは別なのだと若新は笑う。客間には大理石が使われ、昭和の家の定番であるブリタニカ百科事典が棚にぴったり収まっている。一同は、訪問販売で棚ごと抱き合わせで買ったのではないかと推測するが、若新も実際のところはわからないと言う。

エアコンの話もこの家の変化を物語る。若新によれば、客間のエアコンが家の1号機で、子どもの頃は客間にしかなかった。それが今では、両親2人しか住んでいない11LDKほどの家に、数えたら8台ほど付いていたという。玄関前にはポルシェも停まっていて、若新はそれを冗談めかして「資本主義の成功の証」「暴走の果て」と呼んだ。

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蔵の中のスタジオと「長男の自覚」

蔵の維持には手間がかかる。若新の話では、父が定年退職したとき退職金をかなり使い、数少なくなった白壁を塗れる職人に頼んで外壁を塗り直した。そのとき父から「この蔵だけはお前が守っていけ」と言われたが、当時の若新はまったく興味がなかった。ところが何年かして、父が「ここにスタジオを作ったらどうだ」と言い出し、実際に中をスタジオに改装したことで愛着がわいてきた。若新はそれを、この地域の長男としての自覚が芽生えてきた、と表現する。高橋は「老害まっしぐら」と茶化した。

蔵の中はきれいに改修され、本格的なドラムセットが置かれている。若新は大学時代ずっと文化祭などでバンドをやっていた。X JAPANのYOSHIKIのファンで、曲を叩くのに必要だとして同じ環境をそろえようと買い足していくうちに、ツーバスと大量のシンバル、さらに壊れてもいいように何セットも組めるだけのスペアがたまったという。音漏れを期待して蔵に置いたが、外にもそれなりに聞こえるのがオチだと若新は言う。ただ、蔵は湿気がたまりにくいとも言われるそうで、楽器の保管にはちょうどいいのでは、という話にもなった。

蔵にはピアノもあった。調律は怪しいと若新は言うが、しばらく前に調律はしたらしい。高橋の後押しで、川本がピアノを弾き、若新がドラムを叩く即興セッションになる。ドラムの音量が大きくピアノはほとんど聞こえなかったが、久しぶりにドラムに触ったという若新は、リクエストに応えてYOSHIKIふうの速いビートも披露した。

川本真琴の実家の話

以前、川本がマネージャーに自分の家を「スラム」と言われたという話を持ち出したことから、話題は川本の実家に移る。床がほこりっぽく外の道路と変わらない、猫がたくさんいる、そして父親が自分のスローガンのような標語を家じゅうに貼っている、と川本は説明する。見せてもらった写真には「生きる夢に満ちて眩しい願いがきらめく」と書かれていた。父親は普段、競輪をやっていて、夢を追いかける人生なのだという。ロケを申し出た高橋に、川本は「無理、無理」と即答した。

撮影の合間には、ポルシェの前で川本がポーズを決める雑誌の表紙のような写真撮影も行われた。

ポルシェで夜道を走る

日が暮れたため、最後に原発が見える水晶浜へ寄ることになる。4人は若新のポルシェに乗り込む。法定定員は4人だが後部座席は非常に狭い。若新によれば車両価格は2000万円ほどだという。高橋は「どんな嫌なことがあっても、これに乗ったらオッケーになる」という感覚があるのではないかと尋ね、若新は、そう思える人にはそうなのだろうと答えた。斎藤については、加速の強い車は燃費が悪くなるから好まないだろう、とからかわれる場面もあった。川本自身の車はパッソで、乗りやすいと話す。

道は真っ暗で、信号もない。止まらなくていいから運転は楽しい、と若新は言う。やがて若狭町の中心部の明かりが見えてくる。若新はこれを「原発がない街のマックス」と紹介し、信号、コンビニ、ガソリンスタンドが現れるたびに「栄えてるでしょ」と繰り返す。しかし、そのにぎわいはすぐに途切れる。

美浜町に入ると景色が変わる。一同は、美浜に入った途端に施設が立派になり、街灯が一気に増えたことに気づく。高橋は「30倍ぐらいになっている」と表現し、若新も誇張ではないと応じた。若新によれば、美浜町の人口は1万人に満たず、数千人規模だという。

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夜の水晶浜と光る美浜原発

水晶浜は、若新が嶺南で最も美しいと言われるビーチとして選んだ場所だ。名前のとおり水が澄んでいて、本来は夕日を見る予定だった。しかし到着したのは真っ暗な時間で、照明を消すと何も映らない。高橋は、鎌倉の海は夜でも明るいが、ここは暗いと感想を漏らす。白い砂が水を透明に見せているのだろう、という話も出た。

その暗闇の中で、右手にぎらぎらと光る施設が見える。美浜原発である。若新によれば、この浜が原発を最もよく見られる場所だという。川本は、以前一度この浜に来たことがあり、大きな工場だと思って何の施設かわからないまま車で入ろうとしてしまった、と打ち明けた。そのときはフェンスがあって入れなかったという。

浜で川本は「秋になったなって思いました」と話す。海に来ると、春の海か夏の海かははっきりわかるのだという。福井に住んでいた頃は海によく行き、デビュー前には海を見ながら曲を書いていたとも語った。若新は、こうした暗い浜辺を若いカップルが「成長しない約束」を確かめに来ているようだ、と脱成長にかけた冗談を言い、川本は、夜の水晶浜を見て一言「原発だな」とつぶやいた。

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廃村と原発立地の地域をどう見るか

水晶浜のあと、若新が別の車に乗るあいだ、高橋と斎藤は旅を振り返る。高橋は、以前斎藤と福島を旅し、相馬や南相馬を訪れたときには、原発はコントロールできず本当に危険だと感じたという。その考えは今も変わらない。しかし今回の旅では、原発とともに生きている地域が実際にあることを目の当たりにし、どうすればいいのかと考えさせられたと語る。

高橋は、原発がない若新の地元の例として、前回までに訪れた熊川宿を挙げた。おいしいそばや葛まんじゅうがあっても知ってもらう機会がない。若狭町や小浜も、栄えているようには見えなかった、と高橋は話す。

そのうえで、二人は前回訪れた長谷の集落の話に戻る。発展しないまま人がいなくなった集落だが、それを悲しいことだとは言い切れず、訪れた場所は美しかったと高橋は振り返る。斎藤は、元の住民やその子孫が今あの山奥に住みたいかといえば難しいだろう、と前置きしたうえで、どこかに残しておくこと自体は今の生活の便利さには何もつながらないが、人生の「わびさび」のようなものではないかと述べる。そしてそれを、一人暮らしで両親にほとんど会っていなくても、どこかで元気でいてくれればいいと思う感覚にたとえた。会わないからといって、いなくなってもいいわけではない。大切なものがどこかにあり続けること自体に意味があるかもしれない、というのが斎藤の考えだ。

高橋はこれを裏返し、お金が入って若い人が来る地域があっても、別の集落がそのまま人口ゼロで残っているのなら、それはそれほど不幸ではないのかもしれないと話す。長谷集落はGoogleマップにまだ名前が残っており、斎藤は、行政上の理由か誰かが戸籍を残しているのかもしれない、と推測した。無理に人を呼び戻さなくてもいいのかもしれないが、それはわからない、とも付け加える。二人は、前夜に話したローカルの議論にも触れた。「心の中にある風景でいい」という説もある。しかし、実際の地形や場所が本当になくなってしまうのは違うのではないか、というところでこの会話は終わった。

敦賀の書店「ちえなみき」

最後の目的地は敦賀駅前の書店「ちえなみき」だ。高橋は、翌年3月に北陸新幹線がここまで延伸して終点駅になると紹介する。若新の説明では、丸善と、松岡正剛の編集工学研究所が何らかの形で協力して作った店で、館内には松岡のビデオメッセージも流れている。

若新が挙げた特徴は、本をジャンルや著者名順ではなく「居場所を作る」「アナザーライフ」といったテーマごとに並べている点だ。最初から買いたい本が決まっているならAmazonで買えばいい。テーマごとに並んだ棚を眺めるうちに、目的にしていなかった本と偶然出会うことが書店の良さで、この店はそれを目指しているのだろう、と若新は言う。また、このあたりの電車はタイミングが悪いと2時間近く待つこともあるため、駅に用事がある人が時間をつぶせる場所としても意味がある、と一同は話した。2階はブックカフェのような造りになっていて、建築としても美しいと高橋は評価していた。

棚から選んだ本

店内では、それぞれが棚に反応する。若新は、自分たちの書いた本と「14歳」「思春期」を扱うコーナーに引き寄せられる。高橋は恋愛を扱う棚で『恋愛制度、束縛の2500年史』を見つけ、「メッセージが強すぎる」と笑った。斎藤の本の近くには漫画版の『資本論』や『人新世の「資本論」』が並び、脱成長の本を集めたフェアにはジェイソン・ヒッケルの本もあった。高橋は、福井の地方にも脱成長の流行が来ていると斎藤をからかう。

川本は、普段は本をあまり読まず、家にも置かないと話す。漫画版『資本論』を手渡されるとそっと棚に戻そうとするが、最終的には「全然知らない言葉をちょっと知ってみたい」と言って、その本を選んだ。自分の絵本については、もともとお話ができあがっていて、ちょうど書いてみないかと声がかかったから引き受けた、と説明している。

若新は、斎藤と同じ東京大学総合文化研究科の研究者が書いた、「ずるい言葉」を扱う本に関心を示した。「あなたのことを思って言っているのよ」といった言葉で相手に押し付けるモラハラのようなパターンは大事なテーマだ、と若新は言う。高橋は、店に地元でしか買えない限定品があることを喜び、そうしたものを集めるのが好きだと話した。

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最後の感想と、若新の結論

新幹線の時間が迫るなか、一人ずつ感想を述べる。斎藤は、アップダウンが激しく途中でハプニングもあったが、知らない福井を見ることができて勉強になったと話し、また行きたいと述べた。高橋は、原発がある地域、滅びた村、若新の実家、おしゃれな書店、歴史のある熊川宿と、嶺南の振れ幅が激しすぎて「脳みそが壊れる」と表現する。川本は、普段あまり旅をしないのですごい一日になったと話し、森や山が近いので友達と遊びに来たいと語った。真っ暗な海もよかった、見えないのが逆によかった、とも付け加えた。

最後に若新は、自分の集落について語る。集落には14歳未満の子どもが一人もおらず、20代・30代の夫婦もいない。このままでは消滅してしまうが、自分が帰って住めば済む話でもない。以前は、どうせ住まなくなるなら、お金をもらって移住したほうがいいのではないかと思ったこともあったという。

しかし長谷集落を訪れ、誰も住んでいないのに道路がきれいに保たれ、神社が今も手入れされているのを見て、若新の考えは変わった。住まなくなっても、心のどこかにその景色を残しておきたいという思いがあるのだと気づき、胸を打たれたという。自分も若狭町の実家に戻って住むことはないかもしれない。それでも、あの景色がなくなるかもしれないと考えると、行かない場所だからなくなってもいい、とは言い切れない。

若新はこれを、前夜の議論とも結びつけた。心のどこかにローカルがあることが、際限なく膨らむ欲望から自分をどこかで引き離してくれるのではないか。そして、それは自分が東京で暮らしていることともつながっている、と彼は語り、この旅はそのことを考えさせてくれたと締めくくった。高橋は、廃村から嶺南の良さまで普通なら行かないルートを案内してもらったことに礼を述べ、「本当のローカルを捉え直す大切な時間になった」と応じた。一行は、午後8時過ぎの新幹線に間に合うよう、慌ただしく解散した。