中野優作が語る「売上につながる企業のSNS発信」と、大丸松坂屋百貨店のインフルエンサー事業

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概要

SNS発信に力を入れても売上や採用に結びつかない企業は多い。新R25の番組では、中古車販売のBUDDICAを率いる中野優作さんをゲストに招き、SNS時代の企業発信について聞いた。中野さんの立場ははっきりしていて、成否の大半は最初の設計で決まり、再生数を追うこととビジネスの成果を得ることは別物だというものである。後半は番組提供元である大丸松坂屋百貨店のインフルエンサー事業の責任者・岡崎さんが加わり、中野さんがその取り組みを評価する形で進んだ。

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週8回出演、2022年9月からの発信

中野さんのYouTubeチャンネルは現在4つあり、すべて毎日投稿になっている。他社のチャンネルへの出演も含めると、本人いわく「週8ぐらい」出ているらしい。YouTubeへの初登場は2022年9月で、そこから3年半ほど続けてきた。

中小企業のルール:大手の真似もしない、色物インフルエンサーにもならない

中野さんがSNSを始めたのは社員が50人ほどのときで、今は200人規模に近づいている。この規模の会社には、大企業とも、フリーランスとも違う戦い方があると中野さんは言う。

大企業はCMやテレビ、雑誌、チラシを使える。そこで規模のゲームを挑んでも勝てないので、「大手っぽくやらない」ことが第一のルールになる。代わりに出すのは「生の手触りのあるもの」で、普段の仕事や日常を懸命にこなし、その良いところを切り取って見せる。タレントを使った飾った発信では勝てないので、生で届ける。その結果として、普段の仕事自体を頑張らないと見せるものがなくなる、とも中野さんは付け加えた。

もう一つのルールは、フリーランスのインフルエンサーと自分を分けることだ。中野さんのフォロワーは100万人を超えており、区分としてはインフルエンサーに入る。それでも、踊ったり炎上を狙ったりしてインプレッションやフォロワーを稼ぐゲームは絶対にやらないと決めている。中野さんはこの二つを「制約条件」あるいは「作法」と呼び、その中で発信している。

「回るネタ」と「売れるネタ」は違う

SNSを頑張っても売上に直結しないと嘆く経営者は多い。その原因を聞かれた中野さんは、まず自社の数字を示した。撮影などの運用コストはかかるが、それを上回る広告収入がすでに入っており、特にYouTubeではコストの何倍もの利益が出ている。実質的に運用コストはゼロで、広告収入だけで事業として成り立つ水準だという。さらに、SNSを起点に生まれた売上は100億円を超えると中野さんは話す。

発信の軸は二つあり、一つはビジネス系、もう一つは車だ。車の発信から自社に顧客を流すが、この領域にはライバルが非常に多い。だからテクニック以前に、ビジネスと同じくポジション取りが重要になる。差別化とリピーターづくりの工夫が必要だというのが中野さんの考えである。

中野さんはSNSの運用会社も経営しており、うまくいかない企業の典型をよく見ている。他人の動画で伸びているものを見て「これをやれば回るのでは」と真似をするパターンだ。YouTubeにもTikTokにも「回るネタ」は確かにあるが、それは「売れるネタ」とは違う。自社と関係のないネタでフォロワーを増やすことを優先すると、何のためのアカウントか分からなくなり、たとえ伸びても事業には生きてこない。

しかも、そもそも伸びないことのほうが多いと中野さんは指摘する。演者は役者ではないので、社長や社員がノリで流行りを真似しても「寒く」なってしまう。伸びないうえに、伸びても事業につながらない。中野さんはむしろマイナスになっている企業がかなり多いと見ている。

BUDDICAが成果を出せている理由として中野さんが挙げたのは、最初からどの数字を取りにいくかを決め、そのための設計しかしないことだ。売りたい商品があり、そこへ流すためにどんなストーリーが必要かを考え、普段の事業との関連性を踏まえて入口を設計している。

採用:応募の入口の6割が自社サイトとSNS、選考通過率は約5%

採用面での変化を聞かれると、中野さんは「とんでもない」と答えた。BUDDICAは資金調達をしないスタートアップで、創業から5期目まではほぼオーガニックとハローワークだけで採用し、約50人まで成長した。

SNSを始めた現在、グループの社員数は約180人になった。採用の入口の約6割が自社ホームページとSNSからの流入で、ハローワークが約1割、各種媒体が約3割だという。正社員に限れば8割がオーガニックである。

選考の絞り込みも変わった。中野さんによると、中古車業界の採用率はおよそ30%で3人に1人を採るが、BUDDICAは約5%で、20人に1人まで絞れている。

中野さんは、生の日常を出しているため入社前後のギャップがないことを重視する。そのため内定辞退や選考途中の離脱がほとんどなく、スタートアップでありながら離職率は10%を切り、教育コストも低い。踊ったり騒いだりして人を集めても、普段の仕事はそうではないので辞めてしまう、というのが中野さんの見立てだ。

同じことは顧客にも当てはまる。SNSの基本は集客と採用であり、ギャップがあれば客は来てもリピートしない。だから「嘘はやらない」のがSNS運用の一丁目一番地だと中野さんは言う。多少の味付けはするとも認めている。

ブランドとは約束、悩みや問題もさらけ出す

中野さんは、ブランドを顧客との約束だと定義する。BUDDICAはこういう会社だと思って入社したり利用したりした人の期待を超えることが大切で、期待と実態に差があってはいけない。たとえ話として、ルイ・ヴィトンの店にドン・キホーテのようなガチャガチャが置かれていたらおかしい、という例を挙げた。

そのうえで中野さんが意識しているのが、日常の起伏を見せることだ。社員や中野さん自身がもがいている姿も出していく。社内で問題が起きたときも、中野さんはすべて公表してしまうという。本当に悩んでいるのだから隠さない。嘘は雰囲気でばれるからだ。問題があるのに笑って「大丈夫」と言っていても、目の下にクマがあれば「寝てないんじゃないか」とコメントがつく。そこを乗り越えるとファンがつく。頑張って成果が出た、苦しんで仕組みができた、という過程を見せることが重要だと中野さんは話した。

BtoB企業こそSNSをやるべき理由

「うちはBtoBだからSNSはいらない」という声に対して、中野さんはコストの面から反論する。どの会社でも1人採用するのに数十万円を払っている。一方、SNSのコンテンツは数万円あればかなり作れる。仮に1人の採用に50万円かけている会社がその費用をSNSに回し、それで1人採れれば、それ以上の方法はない。オーガニックで来る人は辞退率が低く、採用プロセスも簡素になり、質も良い。さらにSNSは積み重なる資産であり、うまくやれば広告収入というプラスも生む。

営業面の効果もある。BUDDICAにもBtoBの事業があるが、相手はすでに発信を見ているのでアイスブレイクが要らない。中野さん一人ではなく社員を追ったドキュメンタリー的な動画も出しているため、客は担当者に好感を持った状態でやって来る。中野さんはコミュニケーションコストが半分ほどになり、営業効率がかなり上がると話した。

SNSをやらないことはむしろリスクではないか、という問いに中野さんは「絶対ですよね」と答えた。今の時代、ホームページや電話がない会社は相手にされないのと同じで、SNSはそれくらい必須だという。中野さん自身、毎日届くオファーのうち、顔が見えない相手とは会わない。SNSを見てきちんとしている人でなければ会わないので、SNSをやらない側は機会損失をしている可能性があるとも述べた。

「広告宣伝費はSNSをやらない罰金」

中野さんが周囲に言っているのが「広告宣伝費はSNSをやらない罰金だ」という言葉である。SNSをやっていれば広告費は要らない。規模にもよるし、BUDDICAも広告を多少は回しているが、広告費はSNSの上乗せとして余裕があれば使えばよいという考えだ。

中野さんによれば、広告費換算でBUDDICAは数億円規模の費用が浮いている。半年前に換算してもらったところ、年間6億円と言われた。広告費が足りないなら少しSNSを頑張って、浮いた分を社員に還元すればよいというのが中野さんの主張で、本人はこれを「僕のポジショントーク」と笑った。

中野さんはSNSを「新規事業だと思ってトライするべき」とも言う。新規事業を立ち上げれば、何とか形にしようとする過程で人が鍛えられ、チームが団結し、新しい技も生まれる。続けていくうちに上達もする。

コスト比較の例として、中野さんは雑誌を挙げた。かつては地方誌の2ページに取り上げてもらうたびに100万円ほど払っていた(今もそういう媒体はある)。発行部数はせいぜい10万部程度だが、今ならYouTubeで1本出せば10万再生を自社で取れる。

失敗の原因は最初の設計、最初の3カ月はプロに頼むべき

数カ月で挫折する企業の特徴について、中野さんは「大体の失敗は最初の設計が甘い」と答えた。PDCAが回っておらず、分からないまま手探りで投稿を続けている。SNSも事業と同じで、作法があり、それに沿えばある程度の変化は作れる。ところが素人はそのルールを知らず、中野さんのたとえでは、速く走りたいのに走らずに別の練習ばかりしているような遠回りをしている。中野さんは自分の場合、たまたま自分で考えて、やりながら進化できたと振り返る。今は情報が多すぎて、「これをやればいいんじゃないか」と手を出してしまう人が多いという。

近くに道案内をする人がいれば設計から一緒に進められるが、コストを惜しんで自力でやると、やればやるほど泥沼にはまる。最初に失敗するとモチベーションが大きく下がるので、中野さんは「最初だけ本当3ヶ月でもいいから絶対お願いした方がいい」と勧めている。お金を捨てたと思ってもいい、必ず経験に生きる、という。型ができたら、そこから自分で工夫すればよい。ゴルフも最初は習うのと同じだとたとえた。

プロに頼むとき何を求めるかについて、中野さんはブランドを毀損しないこと、嘘をやらないことを挙げた。インプレッションを稼いで「伸びているでしょう」と言うことに注力されるのは嫌で、採用を増やしたいのか、集客を増やしたいのかという目的に合わせて設計してくれる会社がよいという。「バズります」「再生数保証」をうたう運用会社も多く、フリーランスにはそれが合うかもしれないが、中野さんが求めるのはそちらではない。

中野さん自身も運用は外注、内製化の落とし穴

経営者目線での考えとして、中野さんは外注費を惜しむより稼ぐ時間を優先すべきだと話す。運用代行に仮に50万円、100万円かかるとしても、経営者は外で100万円稼いできて支払ったほうがよい。自分でやって費用を浮かせるには、それ以上の時間がかかるからだ。3カ月教わって手を離れたあと、自分でやりたければやればよい。

中野さん自身、これだけ発信が得意でも、運用はすべて外部の運用会社に任せており、社内にSNS担当者はいない。YouTubeだけで月2000万再生、全体のインプレッションでは何十億という規模なので、そろそろ社内にも必要だとは感じているが、今のところは社外である。

理由の一つは言いやすさだ。社内の人材はマネジメントや教育が必要で、そのためには自分にノウハウがなければならない。社外なら「もう少しお金を出すからこうしてほしい」「クオリティが下がったのでは」と遠慮なく要求できる。

運用会社を経営する立場からも、中野さんは内製化を急ぐ企業に注意を促す。社内の担当者1人がボトルネックになることが非常に多いという。その人が作ってきたアカウントがあり、社長もその人を信頼しているため、その人が同席していると「これはダメだ」と言いづらい。うまくいかないから相談に来ているのに、その担当者が「一度自分にやらせてほしい」と止めてしまい、進まない。中野さんは融通が利かなくなることを避けるため、あえて社内に置いていない。さらに、社外の運用会社は複数のアカウントを回して知見を溜めていくので、「別の会社でこういう成功事例がある」という提案が期待できる。

後半:大丸松坂屋百貨店のインフルエンサー事業とは

後半は番組提供元の大丸松坂屋百貨店から、インフルエンサー事業の責任者である岡崎さんが加わった。岡崎さんの説明によれば、この事業はもともと、自社で強い動画SNSアカウントを作り、インフルエンサーのように広告収入や案件を得る新規事業として始まった。再生数が伸びてバズが生まれ、フォロワーもつき、それを再現性をもってできるようになったため、そのノウハウで他社のアカウント運営支援やプロデュースに乗り出したという。

きっかけはコロナ禍だった。店舗が一斉に閉鎖され、本業に手も足も出なかった時期に、店舗以外のデジタル、オンラインのビジネスをしようとして生まれた事業の一つがこれだと岡崎さんは語る。2022年の初めごろ、社員があれこれ言い合いながら低予算で始め、メンバーを増やし、動画のプロも転職で加わってノウハウを蓄積してきた。

特徴として岡崎さんが挙げたのは、まず自社の実績である。1本のショート動画で8000万再生、InstagramとTikTokの合計で1億再生といった動画があり、それを社内のクリエイティブチームが再現できるという。もう一つは百貨店としての安心・安全で、炎上型ではなく、内容に納得してもらえるバズを作れる点だとした。

事前情報なしで臨んだ中野さんは、「安心安全だろうけど、回せるのか」と心配していたと明かし、数字を聞いて驚いた。中野さんは、百貨店の人たちはもともと新規客を集める情報発信のプロだと指摘した。岡崎さんも、店頭にいた頃は「衣食住の知識のプロになれ、それをお客様に発信して商売するんだ」と言われてきたと応じ、舞台が店頭や販促からSNSに変わっただけだと述べた。ショート動画には踊りも含めた楽しさがあり、ブランドを下げずにどこまで楽しさに踏み込めるかを頑張っているという。

実例:ノンバーバルの短尺ドラマと伝統工芸の映像

番組では2つのアカウントの動画が紹介された。一つは「食べられるコップ」を扱った動画で、ショートコントあるいはショートドラマの形式をとっている。岡崎さんによると、言葉に頼らないノンバーバルで情報を伝えるのが得意技だという。

中野さんが、社員だけで演じるのはリスクがあるのではと尋ねると、岡崎さんは演者とセットで案内することが多いと答えた。社員で成功した経験があるからこそ、より良くするには演者慣れした人がよいと提案できるという。演者はインフルエンサー、モデル、俳優、コメディアンまで幅があり、動画のコンセプトに合った人をアサインできる。中野さんは、演者までセットで用意できる運用代行はあまりないと評した。

もう一つは「技スタジオ」というアカウントで、伝統工芸の作り手をスタイリッシュに見せる動画だ。一眼カメラを三脚で固定し、ASMR用のマイクも使っている。スマホでは撮れない映像だと中野さんが言うと、岡崎さんは、先ほどのショートコントはスマホでオフィス内で撮る手触り感のあるもので、こちらは本格的に撮っていると説明した。このアカウントは海外でもバズが出ており、動画によっては8割ほどが海外で再生されているという。言語の壁を越えて、何をしているのかが絵で分かる動画を作ることがノウハウの一つだと岡崎さんは述べた。

中野さんは、企業にはフェーズがあり、自社でも日常のドタバタを見せる発信と作り込んだ発信のメリハリが必要だと話した。中野さんは現在、複数の制作会社を使い分けて自らディレクションしているが、それができる人は多くない。岡崎さんは、社内にディレクターとプロデューサーがいて、自社アカウントと他社のプロデュースの両方を担っていると説明した。

中野さんは、過去に運用代行会社を何度か替えてきた経験も語った。途中で担当者が変わってクリエイティブの質が落ちたり、ディレクターが辞めたりすることがあり、それまで教えてきたことが無駄になった。岡崎さんは、チームで運営しているため担当者が変わる場合も引き継ぎを行い、質を維持するか上げていると答えた。

媒体については、ショート動画が得意でTikTokが一番だという。ただし食べられるコップの動画はYouTubeで最も伸び、技スタジオはInstagramでも伸びている。縦型の3媒体に同時に投稿し、反応を見てチューニングしていく。どの動画がどの媒体で伸びるかの感覚があるので提案にも生かせると岡崎さんは話す。若年層に届けたいならTikTok、YouTubeショートからロング動画に流して企業のことを伝える、といった使い分けもあるという。

岡崎さん自身が自社アカウントに演者として出ていた頃、「この部長と一緒に仕事したい」「こんな職場面白い」というコメントが多く寄せられた。その経験から、企業の内側や働く姿を見せる採用ブランディングも強みだとした。

秘訣は「アカウント設計」

大丸松坂屋百貨店として言える秘訣を聞かれた岡崎さんは、冒頭数秒が重要といったショート動画のティップスよりも、アカウント設計が一番大事だと答えた。社内には設計のための「勝利の方程式」があり、ある要素とある要素とある要素を掛け合わせて導き出すものだという。中身は明かさなかったが、支援の際にはこの方程式を使いながら、その会社が出したいもの、面白く見せられるものを聞き出して掛け合わせ、コンセプト設計に時間をかけるという。中野さんは、とりあえずやって伸びずに飽きてやめるのが続かない一番の理由であり、最初の設計がすべてだという自分の考えと同じだと応じた。

どんな企業に向くかについて、岡崎さんは、商品情報を出して売ろうとするだけでは今は厳しく、エンタメ性を担保する必要があると話した。見る側にとってのライバルには中野さんのような強い発信者がいるからで、その中でどう戦うかを考えることが重要になる。知見やノウハウ、工数がない企業を支援でき、実際には物を売るより企業ブランディングや広報の部署からの問い合わせが多いという。

内製化を見据えた使い方についても話があった。岡崎さんによると、社内から将来ディレクターやプロデューサーになりたい人を1人出してもらい共創チームを組めば、ノウハウを移管でき、自分たちだけでやりたくなったら独立できるようにする前提で進めているという。自分たちも2〜3年かけて学んできたので、横で見ていれば学ばれるのは当然だと述べた。

中野さんの評価

最後に中野さんは、ガチの「マーケター集団」だという印象を語った。中野さんがふだん付き合う広告代理店やSNS運用会社は、手作り感のあるものしか作れないことが多い。プロモーション寄りの制作は、中野さんが自分のリレーションでPR会社やカメラマンに直接発注して賄っているが、それは今だからできることで、3年前の自分にはできなかったという。

その点、ブランディングのためにSNSを運用したいと言えば、TikTokを始めようといった提案から、たとえば創業10周年ならドキュメンタリー風の動画を、といった勝負どころの企画までまとめて担える。中野さんは、ただ運用を頼むのではなく、コンサルと教育を受けられる運用代行として「脳を借りる」使い方が一番よく、社長自身が一番学べるだろうと述べた。金額次第だが、出せる人はまず一度頼んでみたらいいのではないか、と中野さんは話を締めくくった。