安売りせず選ばれ続けるには:経営者4人が語る顧客との関係づくり

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概要

AIに合理的な判断をかなり任せられるようになった今、人間の仕事として一番大事なのは人との関係づくりではないか。新R25と経営討論番組「For JAPAN」のコラボ企画「ビジパの悩み解決サミット」は、第9回でこの問いを取り上げた。テーマは「顧客とのいい関係値をつくるためのコミュニケーションの極意」である。

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相談を持ち込んだのは、新R25編集部で広告案件の動画をクライアントと一緒に作っている司会者だ。成果を出すことは当然として、それ以外の部分で顧客といい関係を築けているかというと「あまりしっくり来ていない」し、苦手意識もあるという。この悩みに、関西を中心に事業を営む4人の経営者が、それぞれ一言の心得をフリップに書いて答えた。

登場した4人の経営者

畑敬三氏は、大阪府東大阪市で金属製品を製造する株式会社ハタメタルワークスの代表である。金属製品の中でも銅に特化しており、顧客は電気関係のメーカーが多い。

阿部将氏は株式会社新栄建設の代表取締役だ。本社は大阪にあるが、全国を飛び回って工事をしている。話題になっているアスベストの対策工事など、有害物質の除去を手がけている。

石橋正好氏は、富山県に拠点を置く朝日不動産株式会社の代表取締役社長である。同社は創業58年の地域密着型の会社で、6年前に東京にも出店した。富山と東京で、アパートやマンションの賃貸、管理、仲介、経営コンサルティングを行っている。

小泉星児氏は大阪ラセン管工業株式会社の代表取締役社長である。同社は1912年創業で、今年で114年になる。金属製のフレキシブルチューブやベローズの専門メーカーで、小泉氏は6代目にあたる。基幹産業に加えて、ハイテク、水素、宇宙関係の仕事も手がけている。

4人がフリップに書いた答えは、「顧客を好きになる」(畑氏)、「直接対話」(小泉氏)、「速さ」(阿部氏)、「顧(個)客体験」(石橋氏)だった。

畑氏:まず顧客を好きになる

畑氏は、こちらが相手を好きになれば、向こうも好意を持ってくれると話す。司会者はこれを返報性のようなものだと受け止めた。畑氏は今の仕事の前に会社員をしていたが、現在の妻はそのときの顧客だったという。スタジオは笑いに包まれ、畑氏も「好きになりすぎるとこんなことになってしまう」と冗談で返した。

本題として畑氏が強調したのは、コミュニケーションには相手を知ることが欠かせないという点だ。だから最初から相手を嫌がらずに好きになることが大事だという。

では、好きになれない相手にはどう向き合うのか。司会者がそう尋ねると、畑氏は次のように答えた。嫌なところはどうしても目につくが、それよりも良いところを見るようにする。そして積極的に話す。話さなければ良いところも見えないからだ。

もう一人の進行役もこの話に同意した。自分たちはインターネット企業なのでオンライン会議ばかりだが、直接会うと意外に相手を好きになることがあるという。嫌いになりかけたら直接会った方がいいかもしれない、と話していた。

小泉氏:熱量は直接会わないと伝わらない

小泉氏も、できれば会って話すべきだという立場だ。2020年から2年間ほどはリモートが中心で、今でもリモートは多い。しかし、リモートでは熱量や感覚が伝わりにくいと小泉氏は言う。相手が本当に怒っているのかどうかも分からない。その場の雰囲気を察したり、相手が本当のことを言っているかを見極めたりするには、会って話した方がいいという。

小泉氏は、リモートでは相手の画面が真っ暗なこともよくあると指摘する。それなら電話と変わらない。文字や音だけでなく、実際に目の前で、手が届くくらいの距離で話した方がいいという考えだ。

直接会えば、どんな話が好きかといったことも、話しているうちに自然に分かってくる。そこには無駄な時間も生まれる。それでも小泉氏は、その時間は大した長さではなく、差し引きすればプラスになるはずだと語った。

阿部氏:一歩目の速さで「最初に選ばれる」

阿部氏が一番大事だと考えるのは、レスポンスの速さである。電話をもらってから動き出す一歩目の速さを意識しているという。

阿部氏は具体例を挙げた。顧客が「今週中に」と求めているなら、電話を受けた時点で動く。翌日が無理でも、2日後までには動けると示す。そうした速さを見せておけば、相手は緊急で困ったときに「阿部君に言おう」「あの人ならすぐ動いてくれる」と考えるようになる。逆に、何でも自分のタイミングで後回しにしていると、最初に選んでもらえなくなる。だから「いつでも行きますよ」というくらいの速さが一番大事だと阿部氏は言う。

速さを意識するようになったきっかけを問われると、阿部氏は体育会系で育ったからだと答えた。電話にはすぐ出ろ、2コール以内に出ろ、呼ばれたらすぐ来い、という環境で育ち、それが身に染みついているという。そして、早く行って嫌な顔をされたことは一度もないと語った。

司会者も自分の経験から同意した。番組の出演交渉でタレントに連絡すると、最初につながるのはマネージャーである。レスポンスの早いマネージャーには、困ったときにすぐ連絡したくなる。その結果、その人にどんどん連絡が集まっていく。進行役も、速さは仕事に限らず人間性としても好かれる要素であり、万能だと評価した。

石橋氏:一人ひとりの顧客と体験を共有する

石橋氏のフリップは「顧(個)客体験」「UCX」という、少し複雑な表記だった。顧客体験はCX(カスタマーエクスペリエンス)を指す。そこに、顧客一人ひとりとの体験という意味を込めて「個客」という字を当てた。UCXは「ユニークカスタマーエクスペリエンス」の略だという。

朝日不動産の顧客は大家である。同社は大家と一緒にYouTube番組を作っており、物件見学ツアーやスタジオ収録を行っている。さらに大家に講師になってもらい、社員研修をしてもらうこともある。このように大家と一緒に行動する点が同社の特徴で、それによってとても仲良くなるのだと石橋氏は説明した。

どんな体験が良い体験なのか。そう問われた石橋氏は、ロケの例を挙げた。一緒に楽しむこともあれば、カメムシが大量に発生している物件に出くわすこともある。カーテンからカメムシがボトボトと落ちてくれば、一緒に「うわあ」と怖がる。そういう友達のような付き合いだという。

石橋氏はこれを一体感、共鳴、共感と言い換えた。上下関係ではなくフラットな関係であり、社員にもこの姿勢が浸透していて「みんな仲良し」だという。仲良くなるために大事なことを聞かれると、一緒に泣いたり笑ったりする体験を共有すること、それに尽きると答えた。同じ空間で同じ空気を吸うことが絶対に大切だという。

逆に「これだけは絶対にしない」こと

後半で司会者は、逆に顧客に対して絶対にしないと決めていることや、社員に禁じていることはあるかと尋ねた。

阿部氏:できないことは曖昧にせず「できない」と言う

阿部氏が社員に伝えているのは、角が立ってもいいからストレートに伝えろ、できないことはできないと言え、ということだ。阿部氏は「やりたくない」と「できない」は意味が違うと区別する。一番良くないのは「やろうと思えばできるけど」といった言い方だという。

建設の現場では、価格と現場が決まった中でコストを振り分けていく。「このコストでやれ」と言われても、それでは安全面や品質面に欠けるなら、うちではできないと答える。仕事が欲しいからといって「まあまあ、なんとかやります」といういい加減な答え方をするな、と阿部氏は若手に教えている。どんなに怖い相手でも、無理なものは無理と言い、グレーな返事はするなということだ。

阿部氏は、曖昧な対応を続けるとどうなるかも説明した。本来は断るべき案件でも流されてしまう。そうすると相手はさらに押し込んでくる。司会者が「力関係がどんどん悪くなる」と補うと、阿部氏もそれに同意した。だから押し負けてはいけない。良いことは良いと共感し、ダメなことはダメと言う。相手が良いと言ってきても、こちらの意見を持って対応しろと指導しているという。

一方で、「できません」と言えば「なんでやねん」と返ってくる。阿部氏はそこからが勝負だと言う。その時々の状況に応じて、明確に説明できる理由を持ったうえで断る。たとえば「この金額では安全面に回す予算がありません」「この工期では追いつけず、次のお客さんに迷惑をかけます」と説明し、断りながらも理解してもらうのだという。

司会者が、自分たちは「できません」と言ったあと気づけば押し込まれて「持ち帰っていいですか」となってしまうと打ち明けた。すると阿部氏は、自分自身もいろいろな人と会う中で「この人は押せそうだ」と思えば押してしまうことがあると認めた。逆の立場から見ても押し負けないことは大事であり、自社の色を大切にしたいのだと語った。進行役はこのやりとりを受けて、「いい関係」とは単に好かれることではなく、良い力関係でもあると整理した。何でも御用聞きになればいいわけではない、という話である。

石橋氏:他の顧客や同業者の悪口を言わない

石橋氏は、他の大家やライバルの同業者について否定的なことを言わないようにしているという。大家とは友達のような関係なので、友達同士でするように、他人の悪口は控えるということだ。悪口を聞いた側は「自分もどこかで言われているのではないか」と思ってしまう、というのがその理由である。司会者も、営業を受ける側としてそれを言われるととても嫌な気分になると共感した。他社を下げなければ自分たちをアピールできないのかと思ってしまい、単純に小さく見える、という感想も出た。

小泉氏:安売りしない

しばらく考え込んでいた小泉氏は、コミュニケーションについて特別な指示を出したことはないと前置きした。当たり前のことだからだという。そのうえで、商談の際には「安売りするな」と伝えていると話した。できるレベルとできないレベルがあるので、それをはっきり伝える。

顧客から「これをやったら発注する」という条件をぶら下げられることもある。しかし同社は、そうした誘いにはあまり乗らないという。進行役が長期的に悪い方向に向かうからかと尋ねると、小泉氏はそれもあると認めた。そのうえで、自社の製品はどこまでいっても工業製品であり、「これを我慢すれば次は良いことがある」という甘い話に付き合うのは非常に危険だと述べた。司会者も、そうした対応が他の営業にまで広がると収拾がつかなくなると応じ、阿部氏の「できないことはできない」とも近い考え方だとまとめた。

相談者が持ち帰ったこと

最後に、相談者である司会者は、どれもやってみたいと話した。中でも、自分を振り返ると顧客と直接会う機会があまりなかったことに気づいたという。ミーティングもつい「サクッとZoomで」となりがちだったので、きちんと場を設けて直接会うことを実践したいと語った。

進行役は、自分たちのようなインターネット企業では、まずチャット、次にオンライン会議、最後に対面という順番になっていると指摘した。そのうえで、実はオンラインで会うことすらできていない気がすると振り返った。そして、会う方向に寄せた方がいいということと、何より速さが大事だということを確認した。

番組前半となるこの回では、顧客とのコミュニケーションで大事にしていることを取り上げた。顧客との良い関係を続けるためのトラブル対応やクレーム対応については、For JAPANのチャンネルで公開される後半で扱うとして、この回は締めくくられた。