「サボれる人」は何をサボらないのか――田中渓と5時こーじが語る、オフにする怖さと信頼のつくり方

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概要

ゴールドマン・サックスに17年勤めた投資家の田中渓さんと、早起きの習慣を発信する5時こーじさん。どちらも毎日早起きするストイックな人物として知られる2人が、「サボり」をテーマに話した対談の後編である。聞き手は、自分の手を離れる「オフ」の時間を怖いと感じる人が多いという問いから始めた。2人の答えは、サボるには信頼と成果が前提になり、その前提をつくる部分は決して手を抜けない、というものだった。

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オフにする怖さ(FOMO)とどう付き合うか

聞き手は自身の経験として、シングルタスクを試そうとWi-Fiを切ってみても怖さを感じると打ち明けた。常にオンでいることが評価につながると思い込んでいる節があり、オフにできないことにどんなリスクがあるのかを尋ねた。

田中さんはこれを、自分の知らないところで何かが起きているのではないかと想像しすぎる「FOMO(フィア・オブ・ミッシング・アウト)」に近いものだと捉える。そのうえで、まず「そんなに不要不急なことが本当にあるのか」と問い返した。例としてアメリカを挙げ、主語が大きいと断りつつ、2回催促されるまではやらなくていいと考える人が一定数いると話す。1回頼まれただけなら自分のペースでやる、という信念を持っている人もいるという。一方で日本人は、1回頼まれるとそのことをずっと考え続けなければならないように感じやすい。田中さんは、ここは気にせずやってみるしかないと言う。

田中さん自身が試したこととして挙げたのは、会社のイベントの飲み会に行くのをやめる、会食の2軒目に行くのをやめる、いつでも臨戦態勢で着信や通知の音が聞こえるようにスマホを肌身離さず持ち歩くのをやめて置いておく、といったことだ。実際に不在着信は入ったが、折り返して怒られたことはほとんどなかった。20回に1回くらいは「電話に出ない」と言われたこともあるが、それ以外の19回で得たものの方が大きかったので、これはトレードオフだと説明する。24時間と健康な体という有限な資源で全員の期待に100点で応えるのは無理であり、結局は優先順位の問題だというのが田中さんの考えである。

「いなければならない」のは信頼が弱いから

5時こーじさんは別の角度から答えた。常にオンでいなければならないのは、基本的に依頼者からの信頼が弱いということだという。「この人は見張っておかないと成果が出ないかもしれない」というレッテルが貼られているため、成果が出ないならせめて席にいてくれ、という話になる。成果を出していない人が席を外せば「なぜいないのか」と言われる。

こーじさんは、同じことを言っても相手が誰かで反応が変わると指摘する。成果を出していて信頼されている人が「別の会議室で資料を作っています」と言えば通るが、成果を出していない人が同じことを言うと「会議室に行かずにここにいろ」とオンを求められる。結局はそこに尽きる、という見方である。

ただし、こーじさんは状況による違いも強調した。転職して最初の1か月は基本的に席にいるものだし、相手も信頼できる人物かどうかを探っている期間なので、そこではオンでいるべきだと考える。人との距離感や相手との関係の詰め方も含め、ケースバイケースで見定める必要があるという。聞き手はこれを受けて、押さえるべきところを押さえていればオフでも信頼は崩れないが、そこが押さえられていないから「いなければならない」という不安に駆られるのだ、と整理した。

AI時代にサボることの価値

聞き手は、AIで生産性が上がり1つのタスクにかかる時間が減っている今、あえてサボることの価値は上がっているのかと問いかけた。

これに対しては、8時間かかっていた知的タスクが2時間や1時間で済むケースが出てくるという見立てが示された。空いた時間でAIをまた勉強する、自分の価値を上げる、あるいは休んでコンディションを整える。本来はそちらがベースになるべきなのに、8時間頑張らなければと思っている人ほど隙間がないためAIについていけず、時給単価のようなものに差がついていくのではないか、という話である。

田中さんは、それに加えて「全然関係ないこと」を学ぶ効果を挙げた。自分は「カルチャーの人」だと言い、音楽、食、笑い、映画、アートなどに時間を使うと、それが抽象的なところでつながって仕事に生きたり、世の中のトレンドが分かるようになったりするという。若い人の間で何が流行っているかが投資のアイデアにつながることもある。ただし、それを狙ってやっているわけではないと田中さんは付け加えた。余白ができたとき、ぼーっとして体を休めるのに使ってもいいし、市場価値を高めるような「意識の高い」行動に充ててもいいし、何かに熱中してそれがたまたまビジネスに向くこともある。大事なのは、空いた時間でまた2人分働こうとしないことだという。

「便利屋」にならないための交渉

この流れで、真面目な頑張り屋ほど陥りやすい循環も話題になった。100点の成果を出して納品すると「次もいけるよね」と言われ、断れずに引き受けてまた手一杯になる。そうならないためには、自分はこれで成果を出していると考えている、という交渉をきちんと持つ必要がある。これは駆け引きではなく、「あいつに回せば全部やってくれる」という存在にならないために大事なことだという。

田中さんは、どの会社にも「必ず休みを取るけれど、すごく仕事ができる人」がいると話す。「あの人はこの時期は絶対いないから」と周囲に認識されている人である。目指すべきはその人であって、何でも押しつけられる便利屋ではない。新人のうちは、丁稚のような働き方でしか信頼を勝ち取れないこともあり、それが大事な時期もあると田中さんは認める。しかし一定以上のところまで行ったら、便利屋として何でも頼まれる状態から抜け出すことが大事だという。

田中渓の逆張り:4月・5月とお盆に働く

田中さんは、1年単位のサボり方も紹介した。毎年4月と5月に仕事をかなり集中してやっているという。多くの日本企業では4月に人事異動があり、挨拶回りの時期としてだらだら過ごしているうちにゴールデンウィークが来て、5月半ばまでほとんど稼働していない。田中さんはこれを、3月末まで頑張ったことの反動だと見ている。

田中さんの仕事は投資のビジネスで競争環境がある。みんなが動いていない時期に物を買おうとすると、他の人が動いていないので安く買えるという。そこで「貯金」をつくっておくと、周囲が焦り出す時期や3月末ごろには十分な余裕がある。競争が激しい時期には本来一生懸命やらなければならないが、そこで手を抜けるというわけだ。

夏休みについても同じ考え方を示した。会社によっては休みを選べない人もいるので簡単には言えないと断りつつ、お盆に全員が休んでいるときに出社すると周囲から感謝される。そこで頑張っておけば、みんなが戻ってくる頃には成果が出ていて、自分は9月など別の時期に休めばいい。家族やパートナーと休みを合わせる必要がある人もいるだろうが、それも家族で話し合い、成果を上げる代わりに別の時期に有給で過ごそうと決めることができる。同じことをするにしても、時期をずらせば余白はいくらでもつくれるというのが田中さんの考えだ。

評価を下げずに早く帰る:自由と引き換えの約束

聞き手は、逆張りの力とともに「切り上げる力」も必要だと感じたと言いつつ、みんなが遅くまで残業しているチームで1人だけ定時に帰るのは気まずいのではないかと尋ねた。成果を出していても「感じの悪いやつ」と思われる怖さがある、という問いである。

5時こーじさんは、自分も1年目は「感じが悪かったと思う」と振り返る。早く帰りますと言って実際に帰っていたからだ。そのうえで、早く帰る代わりに早く来る、というように、自由を手に入れるために別のことでコミットする約束をセットにし、それを認めてもらえればコミュニケーションは円滑に回ると話す。早く帰るけれど成果は出さない、では単なるわがままになる。自分の自由を主張するときは、自分からもう1つ差し出すものを持っておかなければ聞いてもらえないという。

田中さんも「全く同じ」だと応じた。深夜まで頑張ったうえに朝早く来るのでは疲れて壊れるだけなので、むしろメンバーが深夜に仕上げた成果物を朝一番に見て手直ししたり、コメントをまとめたりするという「裏技」もあると話す。田中さん自身は深夜まで働くスタイルを長く続け、それで信頼をつくってきたので再現性の面では微妙だと認めつつも、最初からこうしたやり方でいいと考えている。大事なのは、自分は夜型ではなく朝のほうがパフォーマンスを出しやすいのでこのスタイルでやらせてほしい、早く帰るかもしれないが必ず朝来る、とマネージャーや上司に伝えておくことだ。それを認めない上司なら変わるべきだし、それでもだめなら上司の上司に話を持っていく場面もあるかもしれない、と田中さんは言う。田中さんはライフイベントなども含め、会社とかなりコミュニケーションを取ってきたという。

「成果に丸をつける」ことだけはサボらない

こーじさんは、成果を出すところが弱くなると、自由を求める主張はすべてわがままになってしまうと続けた。本当は同じ時間に同じ場所にいることが嫌でも、成果が出ていなければ「いてよね」となる。だから、まず成果に丸をつけることが先で、そこでは我武者羅に働く必要もあるかもしれない。目の前の成果は、やるかやらないかの真剣勝負だという。それが3日の仕事でも1か月のプロジェクトでも、きちんと丸をつける行為は絶対にサボってはいけない。そうやって丸をつけてきた自負があるから、今サボりやすくなっているのではないか、とこーじさんは話す。

田中さんは、サボりたい一心で仕組み化や効率化、環境設計には命をかけるのが自分たちだと言い、サボれない人たちとはそこへの情熱がまったく違うと指摘する。AIを身につける、プログラミングを学ぶ、ファイナンス思考や語学を使えるようにする、短時間で高単価な仕事に振り切れる自分をつくる、といったことに、どこかで時間を使っている。それが整ったあとで自動操縦のように楽になり、サボれるようになるのだという。

朝の最初をサボると1日がサボれなくなる

こーじさんは、毎日走る田中さんが走る前に「今日も走るのか」と少し嫌な気持ちになることがあると以前話していたことに触れた。それでも走りに行けるのは、意志が強いからでも無理をしているからでもなく、ここで丸をつけないと1日に丸がつかず、かえってサボれなくなることを知っているからだと見る。こーじさんのもとにも、どうしたら早起きできるのか、二度寝したくならないのかという質問が多く届くが、二度寝したい日も朝だらだらしたい日もあるという。ただ、だらだらを選ぶと1日がとても苦しくなり、余計にサボれなくなる。だから最初のここはサボってはいけない、という緊急度を強く感じている。そこが違いだとこーじさんは言う。

田中さんも、実際にやらなかったことはないが、やらなかったらどうなるかを想像すると大変すぎると話す。その代わり、朝のルーティンが終われば後は全部楽だと知っているので、集中すべきところを手早く済ませ、あとは自由時間にできると考えている。

自由時間に何をするのかと聞かれた田中さんは、基本的に何も決めていないと答えた。ビジネス系の発信はそろそろやめようと思っていて、カルチャー寄りに振り切りつつあるという。漫画を読んだり、音楽が好きなので新しい音楽を探しに行ったりする。SNSをだらだら見ることにはもともと興味がないが、自分の発信のフックになりそうなものを見に行く時間はかなりあるという。昼寝やサウナに行くこともある。田中さんは、ただひたすら我武者羅に働くのではない1日や1か月の設計を、人それぞれのやり方で考え抜くことこそサボってはいけない部分だと話した。

「それ、やらなくていいよ」と仕事を奪う

田中さんは、自分の会社のメンバーとコミュニケーションを取るとき、ほとんど「それはやらなくていいよ」としか言っていないという。仕組み化するか、自分が責任を取る前提で外注するか、そのためのコストはかけていいから自分でやるのはやめて、と伝え、メンバーから手足を動かす仕事をどんどん奪っている。頭脳労働だけをしてもらい、それで時間が余るならそれでいいと考えている。

その結果、組織はいま筋肉質でちょうどいいバランスになっていると田中さんは言う。本当はあと3人ほど採用しようとしていたが、いったん採用を止め、日々の手足を動かす作業はAIに任せたところ、適切なバランスになったという。ただ、そうなると若い人はどうすればいいのかという問いに話が戻ってくる、と田中さん自身が問題を提起した。

若手がサボれる人になるためにやるべきこと

これに対して、前編で話題にした「初動」や「愛嬌」、最初に手を挙げるといった話につながる答えが示された。人が誰かと一緒に働きたいと思うポイントは、パートナー探しと同じだという。一緒にいて楽しいか、一緒に住めると思えるか、といったところでまず勝ち取っていかなければならない。それを重ねて経験値が積まれ、判断できる人になれば、その人がAIを使うと「無双」できる状態になる。そこに至るまでは、人に好かれるための基本的な作法を整えていくしかない。細かく言えば何百個もあるが、それをやるしかないという。

こーじさんが勧めたのは、組織の中でどうすれば次のポジションに進めるのかを把握しておくことだ。何に丸がつけば前に進むのか、逆に丸をつけても上司の評価ポイントにならないのは何かが、5年後くらいまで見えていれば、その5年後になりたいならやればいいし、違うなら80点でA評価だけはもらって別のことに時間を使う、という判断ができる。今月の目標だけをやみくもに追うと、丸はついたのに認められなかった、ということになりがちなので、若いうちに見立てておくと努力が報われる。こーじさんはこれをかなり意識してやってきたという。

田中さんは、ちゃんとした会社にはそうした基準が言語化されて存在していて、マネージャー層だけで共有されていることが多いと話す。コミュニケーションを取れば教えてもらえるので、「こうなりたい、そのためには何ができていればいいか」と努めてすり合わせたほうがいいという。田中さん自身はそれをやってこなかったので時間がかかったと振り返る。一方、上手な部下は、いつまでにこの役職に昇進したい、年収をこうしたい、とずっと伝えてくる。上司の側もコミュニケーションをサボれないので、何ができていることが大事かを文字にして伝え、定期的に話す場を持つ。できる人はそれを達成していくし、スピードが合わないと思えば辞めて転職していくという。

こーじさんも、3回ほどのキャリアチェンジの経験から同じ考えを示した。この構造ならここに2年コミットする必要がある、今の頑張りとなりたい自分が合わない、といったことが分かれば、納得して次のステップに進める。成果が出ない、上司が嫌だ、ここにいていいのか、というふんわりした悩みも、見極めたうえで残るのか出るのか、スキルアップするのかが分かれば雑念がなくなり、やることに集中できるという。聞き手は、サボれずに潰れてしまう人は、どうステップを積みどこに努力すべきかを考えることをサボっているから、結果的に目の前の仕事をサボれなくなるのかもしれない、と受け止めた。

サボってはいけない4つのポイント

対談の終盤では、サボってはいけないポイントが4つに整理された。想像することをサボらない、言葉にすることをサボらない、人とのコミュニケーションをサボらない、仕組みをサボらない。この4つをサボらなければ、あとの様々な仕事はサボれるという。

「サボり術」と言いながら、サボれないポイントがはっきりある。時間の2割ほどをサボらなければ8割はサボれる、控えめに言っても半分くらいはサボれる、というのが究極的な感覚だと語られた。しかも、サボってはいけない部分は、設計の話である以上、たいてい物事の最初のほうにある。まずはそこをサボらずにやってみることが大事なのかもしれない、という言葉で対談は締めくくられた。