4畳半の焼肉屋「六花界」で1000円の盛り合わせが成り立つ理由 リュウジが森田隼人の原点の店を訪ねる

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概要

料理研究家のリュウジが、クロッサムモリタの森田隼人が16年半前に神田で開いた焼肉店「六花界」に密着した。森田によれば、日本で一番小さいくらいの焼肉屋だという。動画で語られるのは、冷蔵庫のない4畳半の店でどうやって和牛を安く出し続けているのか、そして森田がこの店をなぜ大事にしているのかという話である。

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クロッサムで使わない肉が六花界に回る

密着はクロッサムモリタの厨房から始まる。森田はリンゴの皮をむきながら、新しい料理法を試していた。リュウジは試食して「全く新しい」と驚く。

六花界は4畳半の中に厨房もトイレも入っており、冷蔵庫が基本的にない。食材を保管できないため、開業当初は芝浦へ直接買い付けに行き、その日に使う分だけを持ち帰っていた。店舗が増えた現在は、クロッサムで使わない部位、使えない部位を六花界へ運んでいる。ホルモンやキュウリなども含め、持っていった分がその日の食材のすべてになる。24時間以内に使い切るので保管の必要がなく、なくなれば終了だ。このやり方を16年続けているという。

リュウジは前回クロッサムを撮影したとき、大きな塊肉から森田が選んだ部位しか出てこず、残りがどこへ行くのか気になっていた。その行き先が六花界だと知り、「じゃあ六花界で出てる肉はめちゃくちゃいい肉ってことですね」と反応する。肉はすべて和牛である。

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建築家が自分の体に合わせて設計した店

森田は今も電車で移動している。経費を抑えるためで、開業当時から変わらない。店は駅の東口の目の前にあり、手を広げた幅よりも狭い。元は金券ショップだった物件で、森田は「お金がなかった」から始めた店だと笑う。

もともと建築家だった森田は、店を自分で設計した。天井はちょうど自分の頭が当たらない高さで、作業台はすべて自分の腰の高さにそろえてある。厨房は1畳ほどで冷蔵庫はなく、ここで肉を切り、洗い物をする。森田によれば、この広さでも食品衛生法に沿って許可を取っており、建築の知識がないと取れないという。

棚には調味料がたくさん並ぶが、森田は一つも買っていない。六花界は店側で味付けをしないので、客が持ってきた調味料を置いているのだ。火元は開業時から練炭を使う。炭でないと温度が下がって肉がおいしく焼けないというのが森田の考えで、練炭は6時間半から7時間で燃え尽きる。営業は17時半からで、24時には火が消えるため、火の始末の心配がない。火が消えれば客も帰るので、それ以上は営業できない。1日1個で終わりという仕組みになっている。16年続けてきたこの店は、神田のフラッグシップ的な存在になったと森田は話す。

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1杯400円の日本酒と、客ごとの乾杯

六花界は、牛肉と日本酒を合わせて楽しむ店でもある。日本酒は1日6種類ほどを出し、この日の酒は1杯400円だった。グラスにたっぷり注がれた量を見て、リュウジは「入る量、間違ってないですか」と聞き返している。

新しい客が入るたびに、店全体で乾杯するのが六花界の習わしだ。始まりは開業初日にさかのぼる。森田には友達がおらず、一人で店を開けたが客が来ない。そこで七輪の脂から出る煙を団扇で外にあおぎながら、「この店の肉うまいな」と言い続けた。それに惹かれて「おいしいんですか」と入ってきた人に、自分が店員だと明かすと「お前かい」と言われた。その客は開店祝いに酒をくれ、「乾杯しようや」と言った。この最初の乾杯が、来た客全員と乾杯する店になったきっかけだという。

壁には日本酒のラベルが並ぶ。森田によれば、店のスタートは佐賀の「鍋島」との出会いだった。最初に鍋島を肉と合わせ、そこから大阪や岩手などの酒を一つずつ試していった。

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注文は1000円の盛り合わせと100円刻み

メニューは事実上盛り合わせだけで、客はまず1000円の盛り合わせをほぼ強制的に食べる。その後は金額で注文する。「赤」と付ければ赤身だけ、「ホル5」と言えばホルモンだけで500円分、といった具合で、追加は100円単位でも受ける。部位がなくなれば変更をお願いすることになるため、早い時間の客ほどわがままが通る。

森田は客の名前を次々に呼んでいた。本人によれば、来てくれた人の名前は3000人ほど頭に入っているという。

この店の欠点として森田が自分から挙げたのは、暑さである。元々クーラーは付いていたが、2週間で壊れた。修理には大きな費用がかかるので直しておらず、森田は「四季を感じていただこう」と冗談めかして言う。

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ニンニクを使わないポン酢

六花界の秘密として森田が紹介したのが、開業から16年半続くポン酢だ。神田はサラリーマンの街なので、スーツに匂いが付かないようニンニクは入れていない。

ニンニクを使わない理由はもう一つある。森田は「明日も焼肉を食べてもらいたい」と言い、ニンニクがきついと翌日も食べたいとは思わないと説明する。リュウジはこの言葉を「すごい言葉」だと受け止めた。森田がその場の客に聞くと、週に2回以上来る人が何人もいて、週7日来る人もいた。森田は、次の日も来たいと思ってもらえることを「飲食におけるサブスクリプション」と考えており、それが実現できているのがうれしいと話す。

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1000円の盛り合わせに驚くのはリュウジだけ

森田は肉を切りながら、繊維の割れる方向に沿って包丁を入れることや、筋を落とすことを説明する。使っていたのはリュウジが出している包丁で、刃にくぼみがあり、肉が張り付きにくいという。

出てきた1000円の盛り合わせを見て、リュウジは「おかしいでしょ、これ」と声を上げる。ところが周りの常連は誰も驚いていない。森田は「普通の店やったらこれ1枚で1000円でしょうね」と言い、理由を「うち牧場あるんで」と説明した。

盛り合わせのタンは、クロッサムで使わなかった部分だ。森田によれば、表面はしっかり焼き、裏側は緩めに火を入れるのがよい。リュウジは、多くの焼肉屋がうま味調味料を使うなか、塩だけでここまでおいしいのは異常だと評する。森田は熟成がしっかりかかっているからだと答えた。トントロはポン酢で食べると脂が落ちてちょうどよい。筋はわざと残してあり、シャクシャクした食感になる。以前2人で牛角に行ったとき、リュウジがトントロを一番おいしいと言っていたことにも触れていた。

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発酵させた丸腸と、ホルモンへの思い

この日は特別に、熟成させた丸腸が用意されていた。森田はソーセージと同じ考え方で発酵させていると説明し、ホルモン特有の臭みはなく、バターやチーズのような乳製品に近い香りがすると話す。ここまで仕込むと、ほぼ温めるだけで食べられる。

焼き上がると、普通の丸腸では出ない色になる。ホルモンはいつ裏返せばいいか分からないという問題があり、森田はそれを解消したかったという。仕上げはクロッサムと同じく、一気に火を入れて香りを付ける。食べたリュウジは、普通の丸腸とは食感がまったく違うと驚く。森田によれば、ホルモンは戦後、捨てられるほど価値が低いものだった。それを本当に価値のあるものに変えたいと考えている。

リュウジが「こういう肉、毎回出るんですか」と尋ねると、常連たちは口々に「出ます」と答えた。森田は「利益とかより、支えてくれた顔を守りたいっていうのが一番でかい」と語っている。

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日本酒とマッコリから生まれた「ロ万」との出会い

福島の「ロ万」が入ったところで、森田はこの酒との出会いを話した。牛肉と日本酒を合わせようとした当初、最初の組み合わせはうまく合わなかった。その頃たまたま韓国へ行き、マッコリと豚肉がよく合うことに気づく。森田によれば、日本酒とマッコリは作り方も原材料もほぼ同じで、違うのは、日本酒がうるち米、マッコリがもち米で造られる点だ。そこで、もち米を四段仕込みで加えている酒蔵を探し、花泉酒造に行き着いた。日本酒にない甘みとコクが加わっていて、初めて店に取り入れたのがロ万だったという。

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リードボー、カイノミ、リブロース

続いて出たのは、子牛の胸腺であるリードボーだ。最近はあまり入荷しない珍しい部位で、炭火で脂をかなり落としてポン酢で食べる。リュウジは「ランクが最上級にうまい」と評した。

カイノミは赤身で、強火で焼いてレア程度に仕上げる。森田によれば、赤身肉は血が出やすいが、この肉は置いても血が出ない。食べたリュウジは「うますぎ」と繰り返した。

さらにクロッサムのリブロースが出る。熟成がかなりかかっていて、リュウジも森田も1枚で1000円は余裕で取れると言う。リュウジは「この価格で食べてったら価値観おかしくなる」と漏らした。

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値段を変えずに質を上げてきた16年

ここで森田は、16年通っている常連を前にこう話した。普通の店は単価を上げられないと質が下がっていくことが多く、それは企業努力の範囲で仕方がない。だが六花界は途中で牧場を買い、生産と一緒にやるようになったので、この16年で質はずっと上がってきたはずだという。常連も、脂がどんどんサラサラになってきたと応じていた。

発泡性の日本酒とロースの組み合わせを出したとき、森田は「これを六花界でやりたかった」と話している。

常連の一人は、基本的には毎日来たいと言い、ここで皆と話して飲むと明日からまた仕事ができる、むしろここに来るために仕事に行くのだと語った。その客の会計は2600円ほどだった。

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BSE、牛肉ショック、コロナを越えて

森田は、16年続けられたのは客のおかげだと繰り返した。BSEの問題があり、森田の感覚では牛肉の価格ショックは8年に1回ほど必ず来るので、16年の間に2回は経験している。さらにコロナ禍もあった。その間も常連は1メートルの間隔を空け、4〜5人ずつパーソナルスペースを守りながら通い続けた。店は初めてランチ営業も行い、100円の牛肉弁当を1日50食などの限定で配ったという。支えてくれた人への還元のつもりだったと森田は話す。

リュウジは森田を「ホスピタリティの塊」と表現し、来てくれる人の幸せしか考えていないからリスペクトできると語った。

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単価の違う店をすべて見られる立場

森田は、自分の店の持ち方が他の飲食店と違う点も挙げた。普通は店を作った時点で単価が決まり、1万5000円の店、6000円の店、3000円の店といった形になる。森田の場合、六花界の客単価は3000円弱で、その後に6000円、8000円、1万円の店を作り、現在のクロッサムに至った。一人のオーナーシェフが、これだけの単価レンジの客と接していられるのはありがたいことだと森田は話す。

終盤には、オレガノなどのハーブを練り込んだソーセージ、韓国の家庭で漬けるような本格的なキムチ、キウイなど果物の酵素で処理して柔らかくしたギアラが出された。リュウジが「このクオリティでやれるんですね」と言うと、森田は、このクオリティをずっと保っているから10年以上通ってくれる人がいるのだと思うと答えた。

それでも森田は、自分に足りないところや変わってしまったところがあれば教えてほしい、アドバイスしてほしいと常連に頼んでいた。

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ボクサーのために作った店

常連が、プロボクサーが来たら腹いっぱい食べろと声をかけていることに触れると、森田は店の原点を明かした。プロボクサーは六花界では無料になる。森田はかつて内藤大助のジムでトレーナーをしていた。内藤は才能があって世界チャンピオンになったが、他の選手たちはなれなかった。その選手たちに牛肉を安く食べさせ、タンパク質を取って筋肉を付けさせたいという思いで作ったのがこの店だという。

森田はこの店を出発点にした歩みも振り返った。1店舗目の六花界から2店舗目、3店舗目と増やし、4店舗目でクロッサムを開いた。その後、農水省から賞を受けたこと、コロナ禍に牛と一緒に大阪から熊本まで650km旅をしたこと、世界で一番高い日本酒を造ろうとロシアを移動しながら酒造りをしたこと、ナイジェリアのスラムに関わる活動をしていることを挙げ、常連はそのすべてをずっと見てきてくれたと話した。

リュウジは「ここがなかったら今の自分ない」という森田の言葉に感動したと伝えた。前回のクロッサムの動画とは格差が大きいが、どちらの店にも本気で取り組んでいることが伝わってきたという。

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撮影のあとと、リンゴの実験

撮影を締めたあと、森田は普段はあまり飲まない酒を、友達が来ているからと常連たちと一緒に飲み始めた。ここの常連の多くはクロッサムの常連でもある。この日の熟成丸腸については、常連が「いつもと違う」とすぐ気づいていた。よく通ってくれる客だから、少し変えただけでこれだけ反応があるのだと森田は話す。

最後に映像は冒頭のリンゴに戻る。森田がリュウジに出したのは、桃のような味のする新しい品種のリンゴで、色もリュウジが知っているリンゴとは違っていた。森田はジュースにしたときの味が特にすごいと勧める。今もこうした実験を続けているのかとリュウジに聞かれ、森田は「今までにない料理法を試したくて仕方がない」と答えていた。