梅毒、狂犬病、破傷風、劇症型溶連菌、サル痘、生肉:6つの感染症は人体をどう攻めるのか

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概要

この動画は、科学系チャンネルVAIENCE(バイエンス)の「〇〇になるとどうなるのか」シリーズから、感染症に関する回をまとめたものである。扱うのは梅毒、狂犬病、破傷風、「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型溶血性レンサ球菌感染症、サル痘、汚染された生肉による食中毒の6つである。どの回も「病原体が体内で何をしているのか」「人類はどこまで対抗できるのか」を軸に進む。ナレーションは病原体を侵略者や工作員にたとえて恐怖をあおる一方、各回の結論では、正しい知識と予防や治療があれば必要以上に恐れることはない、という立場をとっている。

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梅毒:いったん衰退した性感染症が再び増えている

最初の回は梅毒である。梅毒はトレポネーマ・パリダムという細菌が起こす性感染症で、自然界では人間だけがかかる。症状は時間とともに段階的に変わり、全身にさまざまな病変を起こす。ウサギにも「ウサギ梅毒」とよく似た病気があるが、これは人には感染しない別の病気だと動画は補足する。昔から「梅毒は鼻がもげる病気」と言われてきたが、ナレーションはこの表現を医学的にも妥当だとしている。

起源については、アメリカ大陸に由来するというコロンブス説が有名だと紹介される。15世紀のアメリカ大陸の先住民はすでに原因菌を持っていたが、免疫があったため病気として認識していなかった。コロンブス一行がこれに接触してヨーロッパへ持ち帰り、免疫のないヨーロッパの人々に広まった、という説である。ただし反論も多く、1万6500年前から5000年前の時点で人類がすでに梅毒に感染していたとする説もある。動画は「真実はまだ闇の中」としている。

梅毒は第二次大戦を境にいったん衰退したが、動画によれば2010年以降に急速に増えている。アメリカでは人口10万人あたりの発生数が2020年の40.4から2021年には53.2になり、1年で31.7%増えた。日本でも2022年の発生件数は11月9日時点で1万743件に達した。これは2020年と比べて約83%、2014年と比べると約547%の増加だという。再流行の原因として動画が挙げるのは感染経路の変化である。以前は男性間の性交による感染が多かったが、近年は異性間での感染経路が広がりつつある。感染から1年未満の患者と性交渉した場合の感染率はおよそ30%とされ、動画は生活が乱れ気味の人にとって十分な脅威になると警告する。

梅毒菌が免疫をすり抜ける仕組みと3段階の進行

動画は、梅毒トレポネーマが病原菌としてかなり特殊な性質を持つと説明する。1つ目は増殖の遅さである。食中毒の原因にもなる大腸菌が20〜30分に1回分裂するのに対し、梅毒トレポネーマは30時間以上かかる。生物としての活動そのものがゆっくりなので、人の免疫システムに感知されにくいという。2つ目は目印の少なさである。免疫系が病原菌の目印にするリポ多糖という構造を持たず、同じく標的になる外膜タンパク質も突然変異で絶えず変化させている。ナレーションはこれを、敵地に潜り込んで内部から組織を壊す「一流のスパイ」にたとえる。

感染経路は一般的な性交のほか、肛門性交やオーラルセックスも含まれる。症状の進行は3段階で説明される。第1段階は感染から数週間で、性器、肛門、口などの侵入部位にしこりができる。痛みを伴わないことが多く、自然に治るため、感染に気づかないこともある。第2段階ではおよそ3か月かけて菌が増え、血流に乗って全身に広がる。手のひら、足の裏、胴体にバラの花のような赤く小さな発疹が出るため「バラ疹」と呼ばれる。発熱、疲労感、頭痛、食欲不振なども現れる。これらは数週間で自然に治まるが、時間をおいて再び現れる。動画は、この回復と再発の繰り返しが病気の怖さを薄めてしまうので、この段階で治療を怠ってはならないと強調する。

第3段階は感染から数年後で、未治療の患者の25〜40%がここまで進むという。最も目立つのは、柔らかいゴムのような腫瘤である。頭皮、顔面、胴体の上部、脚などにでき、周囲の組織を壊すことがある。これが鼻にできると「鼻がもげる」状態になる。さらに心血管の損傷、認知機能の低下、歩行障害などを起こし、死に至ることもある。

水銀療法からペニシリンへ

梅毒が世界に広まった16世紀ごろは、実際に死に至る病だった。動画はその理由の一つとして当時の医学知識の不足を挙げる。当時の主流は、医師で錬金術師でもあったパラケルススが考案した水銀療法だった。猛毒の水銀を飲むなどして治療していたため、水銀中毒になる例も多かった。「ビーナスとの一夜、水銀との一生」という格言が残っているほどだという。

流れが大きく変わったのは1928年である。青カビの産物からペニシリンという抗生物質、つまり微生物を選択的に殺す化学物質が発見された。ペニシリンは梅毒トレポネーマにもよく効き、現在も梅毒治療の第一選択になっている。「魔法の弾丸」とも呼ばれるこの薬のおかげで、梅毒で死に至るケースは現在ではごく少ない。

ただし動画は大事な注意を加える。梅毒を治せるのは、感染初期に適切な治療をした場合に限られる。症状が出たり消えたりするこの病気で、自己判断で治療をやめたり治療を避けたりすれば、本人だけでなくパートナーも深刻な事態に陥る。ナレーションは、梅毒トレポネーマは目立たない存在であり続けることで今日まで生き延びてきたので、いつも身近にいると考えておくのが賢明だとまとめている。

狂犬病:発病すれば致死率ほぼ100%のウイルス

次の回は狂犬病である。狂犬病は狂犬病ウイルスによる感染症で、犬だけでなく人を含むすべての哺乳類が感染する人獣共通感染症である。ウイルスは幅75〜80ナノメートル、長さ180ナノメートルほどで、弾丸のような形をしている。このウイルスが脳と脊髄を侵すことで起きるのが狂犬病である。いったん中枢神経系に入ると、感染者は錯乱や麻痺を起こし、最終的にほぼ100%が死亡する。

歴史は古く、古代ギリシャの哲学者デモクリトスがこの病気に触れている。アリストテレスも、狂った犬がこの病気を他の動物にうつすことを著書に記した。現在は日本、イギリス、スカンジナビア半島の国々など一部を除き、世界のほとんどの地域で発生している。WHOが2017年に発表したデータでは、年間の死亡者数は推計約5万9000人で、その95%がアフリカとアジアに集中している。

日本では狂犬病はすでに撲滅されている。海外で感染して帰国後に発病・死亡した例はいくつかあるものの、国内での人の発生は1956年が最後である。動画はその要因として、1950年施行の狂犬病予防法で飼い主の登録と年1回のワクチン接種が義務化されたこと、野犬の捕獲が徹底されたことを挙げ、世界に誇れる公衆衛生の成功例だと評価する。

感染経路は、アジアでは主に犬である。地域によってはコウモリやキツネなども媒介する。感染動物が人や他の動物に噛みつき、ウイルスを含む唾液が傷口から入ることで感染が成立する。感染した動物には、人が近づいても恐れない、極度に興奮している、コウモリのような夜行性の動物が昼間に活動している、といった兆候があるという。見分けるのは難しいが、こうした動物に近づくことが感染の最初の危険信号になる。

神経をさかのぼるウイルスと、脳を壊さない病態

噛まれた後の経過について、動画は次のように説明する。ウイルスはまず噛まれた場所の筋組織である程度複製し、潜伏期間中はその周辺にとどまることもある。その一方で、傷口から神経に沿って移動し、脊髄を経て脳に達し、そこで本格的に増殖を始める。移動速度は1時間に3ミリ程度と非常に遅く、この間が潜伏期間になる。噛まれた部位と脳との距離によって変わるが、一般的には30〜50日程度で、早ければ10日、遅い場合は1年かかることもある。脳に達したウイルスは唾液腺に移動し、唾液中に広がる。狂犬病が噛みつきでうつるのはこのためである。

発病後の症状には2つの型がある。1つ目は狂躁型で、極度に興奮して運動が過剰になり、幻覚に襲われる。水を見ただけで全身を震わせて恐れる恐水症や、すきま風や新鮮な空気を怖がる恐風症も現れる。狂犬病の約8割がこの型だという。水を恐れるのは、水を飲もうとする行為やさまざまな刺激で咽頭や喉頭など呼吸に関わる筋肉が痙攣するためで、患者は実際に水を見ただけで痛みと苦しみを感じている。2つ目は麻痺型で、恐水症や恐風症を伴わずに麻痺に陥る。どちらの型でも最終的には昏睡に陥り、死に至る。

動画が興味深い点として挙げるのは解剖学的な特徴である。脳が侵される病気なのに、患者の脳組織には特徴的な神経細胞死の兆候が見られない。脳機能を調べる装置を使った研究でも、狂躁型と麻痺型の脳に特徴的な違いは認められていない。ここから、狂犬病ウイルスは脳を壊すのではなく神経活動だけを選択的に乱していると考えられている。動画は、この穏やかなかく乱のおかげでウイルスが人の免疫系からうまく逃れているとも見られると述べ、ウイルスを「脳機能の天才ハッカー」と表現する。

ミルウォーキー・プロトコルの限界と、潜伏期間中にできること

ウイルスが脳に達した後でも、実験的な治療で生き延びた例はある。その治療法がミルウォーキー・プロトコルである。ウイルスが脳で増殖することに着目し、薬剤で患者を意図的に昏睡状態にして、人の免疫系が働き出すまで脳の機能を守るという考え方の治療だ。ただし動画によれば、成功例の裏には重篤な副作用や失敗例もあり、客観的に見て再現性のある方法とは言えない。近年はこの治療法を強く批判する論文も出ている。動画は、ウイルスが脊髄と脳に達したら終わり、というのが狂犬病の現実だと述べる。

では、噛まれた時点で諦めるしかないのか。動画の答えは「ノー」である。ウイルスの本格的な増殖と発病は脊髄と脳に達してから始まるので、ウイルスが神経をゆっくりさかのぼっている潜伏期間中に体内のウイルスを排除できれば治療が可能になる。具体的には、まず傷口を水と石鹸で十分に洗い、ウイルスの量を減らす。次に狂犬病ワクチンを投与して免疫系を活性化させ、発病を防ぐ。さらに、脳に達した後の治療法についても、抗体や抗ウイルス薬を使った研究が続いており、動物実験や細胞実験ではいくつか成功例が得られているという。動画は、正しい知識に基づいた適切な処置をすれば、ウイルスが体内に入った後でも治療は可能だと締めくくる。

破傷風:土の中で眠る菌と、その歴史

3つ目の回は破傷風である。破傷風は、破傷風菌(クロストリジウム・テタニ)という微生物が起こす病気だ。この菌は土壌、動物の腸管や排泄物、錆びた釘や有刺鉄線などに「芽胞」という休眠状態で存在しており、身近な環境のどこにでもいる。生育して増殖できる状態の菌は「栄養細胞」と呼ばれる。栄養細胞の破傷風菌は熱に弱く、酸素があると生存に不利になる。そのため、酸素のある土壌などでは芽胞の状態でじっと眠っている。

ところが、けがをして傷口が土などで汚れ、芽胞が体内に入ると菌が目を覚ます。菌はタンパク質性の毒素を作り、これが中枢神経系や交感神経系を侵す。その結果、全身の筋肉が収縮・硬直・痙攣し、最悪の場合は呼吸が止まって死に至る。効果的なワクチンの普及で死者は大きく減ったが、現在も年間数万人が破傷風で亡くなっており、動画は人類の潜在的な敵という位置づけは変わっていないとする。

破傷風の最古の記録は紀元前1500年のエジプトにさかのぼる。古代ギリシャでは「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスが症状を記録し、傷口の消毒の必要性も論じていた。動画はこれを、予防と治療を考える上で先見的だったと評価する。1884年には、感染者の膿をウサギに接種すると破傷風がうつること、同じ年に汚染された土壌でもうつることが示された。決定的な進展は1889年、日本の北里柴三郎によってもたらされた。北里は破傷風菌の純粋培養に成功し、動物実験で病原性を証明するとともに、菌が作る毒素を特定の抗体で中和できることを報告した。その後、1924年に破傷風トキソイドと呼ばれるワクチンが開発された。

破傷風毒素が筋肉を固める仕組みと、ワクチンの効果

芽胞は非常に安定していて、凍結やエタノール、家庭用の消毒剤でも死滅しないと動画は説明する。この菌は酸素を嫌うが、傷口の中は酸素が少なく、生育に有利な環境である。芽胞が傷口に入るとこれが合図となって発芽し、菌が成長・増殖する。同時にテタノスパスミンというタンパク質性の毒素を作り始める。

この毒素は、運動神経の末端と筋肉がつながる神経筋接合部に結合する。そして2〜14日ほどかけて神経細胞に沿って脊髄の前角へ、さらに脳の運動を司る部位へとさかのぼる。毒素は神経筋接合部、脊髄、脳、交感神経系といった複数の場所で、抑制性の神経伝達物質であるグリシンとGABAの放出を妨げる。その結果、興奮性の信号が抑えられずに流れ続け、筋肉の痙攣が起きる。

最も一般的なのは全身性の症状である。初期には顎が固まったようになって口を開けにくくなる。やがて硬直は全身に広がり、背中の筋肉が強く収縮して、背中、首、脚が後ろへ反り返り、体全体が弓なりになる。顔の筋肉もこわばって、ひきつった表情になる。食べ物を飲み込むのも難しくなり、腹筋も硬直する。数分間続く痙攣が全身を襲うこともある。痙攣は騒音、光、体への接触などの外からの刺激で起きるため、患者は外界の刺激におびえて過ごすことになる。硬直や痙攣には痛みが伴い、重い場合はしびれと痛みが全身に広がり、呼吸筋の麻痺で窒息することもある。筋肉の痙攣が傷口の近くに限られる局所性の症状や、顔面の脳神経が侵される場合もあるが、これらはまれだという。

致死率は、適切な医療を受けられなければ100%に近づく。先進国ではワクチン接種が当たり前になり治療法も確立しているため、適切な医療を受ければ致死率は10〜20%程度とされる。しかし国や地域によっては適切な医療そのものが普及していない。破傷風は現在も世界で年間7.3万人が発症し、3.4万人が死亡しているとされる。

予防の要はワクチンである。動画によれば、破傷風トキソイドは免疫の持続期間がとても長く、研究によっては1回の接種で72年も効果が続くという見解もある。日本の2022年度の子どもの破傷風ワクチン接種率は91.8%だった。現在、日本では年間約100人が発病し、5〜9人ほどが亡くなっているが、発症者の多くはワクチン接種が普及していなかった1968年以前に生まれた人々だという。動画はこれを、ワクチンの重要性を示す事実だとする。残された課題は、確立した予防法をいかに世界に広げるかだ、というのがこの回の結論である。

「人食いバクテリア」:身近な常在菌が牙をむくとき

4つ目の回は、2024年上半期に「人食いバクテリア過去最多更新」と報じられた感染症を扱う。医学的には劇症型溶血性レンサ球菌感染症と呼ばれ、A群溶血性レンサ球菌が体を破壊する病気である。感染部位が壊死して黒く変色し、まるで食べられたかのような外見になることから「人食いバクテリア」と呼ばれる。菌自体は丸い粒が数珠のように連なった形で、動画は「ポン・デ・リングのできそこないのよう」と形容している。

この菌はとても身近な存在で、健康な人の咽頭、消化管、皮膚などにもすんでいる。多くの場合は大きな脅威ではなく、喉で増えれば咽頭炎になる程度である。喉の痛みがある子どもの37%から検出された例もあり、ありふれた感染症だという。ところが、血液、筋肉、脂肪といった普段の生息域から外れた場所に入り込むと事態は一変し、体を溶かしながら高い確率で命を奪う。動画によれば致死率は30%で、この菌による死者は毎年50万人以上にのぼる。

日本では増加が目立つ。国立感染症研究所の報告によると、2024年は6月2日までに患者数が977人となり、前年同時期の349人の2.8倍になった。前年1年間の患者数は941人だったので、半年で前年1年分を上回ったことになる。菌がどのような経路で血液などに入るのかについては、傷口などからの経路や飛沫感染の可能性が指摘されているものの、不明な点が多い。菌があまりに身近なため、感染経路を特定するのが非常に難しいのだという。

免疫を無力化し、痛みの信号を逆手に取る

体内に侵入した菌を免疫系が排除しようとしても、必ずしもうまくいかない。動画はその理由を2つ挙げる。

1つ目は、菌が持つ「武器」の多さである。人体の防御システムを破壊する手段は、現在わかっているだけでも少なくとも17のカテゴリーに分けられ、作用する場所もさまざまだ。例として、抗菌ペプチドを切断して防御機構を無効にする、ケモカインを切断して白血球が集まるのを妨げる、Tリンパ球の分化や増殖を阻害する、といった仕組みが紹介される。動画は、人体の多くの防御機構を一つずつ突破するための特化型の武器を豊富に持っていると理解すればよいとしている。

2つ目は、痛みという危険察知のシステムを悪用する点である。人は痛みによって体の異常を知る。A群レンサ球菌は感染の過程でストレプトリジンSという毒素を作るが、マウスを使った実験で、この物質が特定の痛み関連ニューロンを刺激して強い痛みを起こすことがわかった。本来なら、痛みを合図に免疫反応が始まるはずである。ところがこの毒素は、痛み関連ニューロンから免疫システムとの連絡を妨げる化学物質を放出させ、その物質がマウスの免疫反応を抑えて菌の増殖を助けていた。動画はこれを人に当てはめ、激しい痛みは救いにはつながらず、菌が効率よく増えている証拠にすぎなくなると表現する。

その後、菌はストレプトリジンやMタンパク質などの毒性因子を作り、細胞を直接・間接に壊したり炎症を起こしたりして組織を傷つける。さらに「スーパー抗原」と呼ばれる特殊な抗原を作り、免疫系の暴走を引き起こす。動画のまとめでは、この菌は人を食べているのではなく、人の免疫系のスイッチを押しまくっているにすぎない。暴走した免疫系によって自分で自分を傷つけることになるのだという。感染部は壊死して黒ずみ、菌が血流に乗って全身に回ると、発病から数十時間以内に被害が体のさまざまな部位に広がる。そして多臓器不全やショック状態を起こし、最悪の場合は死に至る。

コロナのようなパンデミックになるかについて、動画は「まずは安心して良さそう」とする。主な感染経路は飛沫感染や接触感染と推定されており、空気感染するコロナウイルスほど感染力は強くない。増加しているのはアメリカ、日本、フランス、アイルランド、オランダ、スウェーデン、英国などで、地球全体で同時多発的に起きているわけではないという。対策としては、コロナとの戦いで身につけたマスク、うがい、手指衛生の徹底と、けがをしたときの傷口の洗浄と殺菌を挙げる。そのうえで発熱などの異常があれば速やかに医療機関を受診するよう勧めている。

サル痘:天然痘の近縁ウイルスが広がった2022年

5つ目の回は、2022年5月に世界で感染拡大が報じられたサル痘である。コロナ禍の最中だったうえ、天然痘ウイルスの近縁と伝えられたため、不安を感じた人も多かったはずだと動画は述べる。そのうえで、必要なのはパニックではなく科学的に正確な情報と現状認識だとする。

サル痘は、オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスが起こす感染症で、天然痘ウイルスも同じ属に含まれる。1958年にデンマークの研究所で実験用のサルから見つかったためこの名がついたが、サルは人間と同じ被害者であり、感染源のように受け取るのは誤解だと動画は注意する。人への最初の感染例は1970年である。本来は中央アフリカと西アフリカの森林地帯の風土病で、他地域での感染はきわめてまれだった。2018年から2021年にアフリカ以外で確認された感染例はわずか8例で、全員にアフリカへの渡航歴があった。

ウイルスの宿主は、リスやネズミなどの齧歯類と考えられている。これらに噛まれたり、排泄物に触れたりすることで感染するようだ。参考例として、2003年のアメリカでの集団感染が紹介される。ガーナからテキサス州に輸入された齧歯類がウイルスを持っており、ペット業者のプレーリードッグに感染した。そのプレーリードッグがペットとして販売され、71人への感染につながった。

症状は次のように進む。潜伏期間は7〜14日で、その間も体内でウイルスは増え続ける。まず発熱、頭痛、リンパ節の腫れ、筋肉痛などが1〜5日続き、続いて赤く小さな発疹が出る。発疹は顔から始まって腕や脚へ広がることが多く、全身に及ぶこともある。発疹はやがて水ぶくれになり、中が膿で満たされ、最終的にかさぶたになって、2〜4週間ほどで治る。症状は天然痘によく似ているが、致死率は大きく異なる。天然痘の致死率が30%程度なのに対し、サル痘は数%から10%である。また天然痘ワクチンがサル痘の予防にも有効で、約85%の発症予防効果が報告されている。こうした点から、動画はサル痘は天然痘ほどの脅威にはならないと考えている。

2022年の流行の「異常性」とパンデミックの見通し

それでも動画は、2022年の感染拡大にはいくつかの異常な点があると指摘する。

1つ目は、人から人への新しい感染経路である。2018年にイギリスで院内感染の報告はあったが、非常に珍しいケースだった。2022年5月7日、同じイギリスで今回の騒動の最初の例が報告され、6月5日時点で英国内の感染報告は302人になった。感染者の多くには、ゲイやバイセクシャルなど男性と性交をした男性という共通点があった。ただし動画は、男性同士の性行為が危険という意味ではないと明確に断っている。皮膚接触を伴う濃厚接触で人から人へ感染しうることを示す一例にすぎず、異性間の性交でも感染すると考えるほうが自然だという。WHOの報告では、5月末時点で30か国以上、550人の感染が確認されていた。

2つ目は、ウイルスの遺伝情報である。ポルトガル国立衛生研究所のレポートによると、今回の感染拡大のウイルスは発生源が1つと推定され、しかもDNAには予想より多くの突然変異が起きていた。動画は、新しい変異体が1か所から世界に広がった可能性があると述べる。一方で、これをバイオテロとみなす陰謀論については証拠がなく、むやみに恐怖をあおる悪質なフェイクニュースとすら言えると退けている。

パンデミックになる可能性について、動画はコロナとの違いを2点挙げる。コロナウイルスはRNAウイルスで、RNAは突然変異を起こしやすい。そのためデルタ株やオミクロン株のような変異株が次々に生まれ、感染拡大につながった。サル痘ウイルスはDNAウイルスで、RNAより変異が起こりにくく、感染拡大のきっかけになる変異株も生まれにくいはずだとする。また、コロナは咳などの飛沫で感染するのに対し、サル痘は主に密接な身体接触で感染する。これらのことから、動画はコロナ規模のパンデミックになる可能性は非常に低いと見ている。人類は40年以上前に天然痘に完全勝利しており、コロナとの戦いで積み重ねた経験も今回の対応に生きるはずだ、というのがこの回の結論である。

生肉:人の胃は十分に強酸性なのに、なぜ生で食べられないのか

最後の回は「生肉を食べるとどうなるか」である。動画はまず前提として、危険な微生物、寄生虫、ウイルスなどに汚染されていない肉なら人も生で食べられると断ったうえで、汚染された生肉に絞って話を進める。オオカミやライオンのような肉食動物は生肉を食べても平気だが、人が同じことをすると病原性微生物などによって高い確率で食中毒になる。この違いは単純に見えて実は難問だと動画は言う。

肉食動物が平気な理由は、胃液のpHとそのバリア機能で説明できる。一般的な肉食動物の胃液はpH2.2前後、腐った肉を食べるスカベンジャーでは1.3〜1.8程度で、強い酸で病原性微生物や寄生虫を殺している。ところが人の胃液はpH1.5程度で、スカベンジャーに匹敵する強さである。一般的な雑食動物のpH2.9程度と比べてもかなり酸性が強い。それでも人は生肉を食べられないので、胃液のバリア機能だけでは説明がつかない。

動画は理由の候補として、人と野生動物の免疫力や腸内環境の違いを挙げる。また、肉食動物は基本的に新鮮な肉しか食べないので汚染度が低いのに対し、人は殺してから時間がたった肉を食べるので汚染度が高い、という可能性も示す。候補が多すぎて答えを1つに絞るのはナンセンスであり、複雑な要因が絡み合った結果だと考えるしかない、と動画は認めている。

人類の祖先が火で調理を始めたのは180万年前、ホモ・エレクトスの時代とされる。加熱した肉は生肉より食べやすく消化しやすいため、摂取カロリーはこの時代から大きく増え、それが脳を大きく賢く進化させるきっかけになった。動画は、人類が加熱調理を通じて体を「生肉適応型」から「加熱適応型」へ進化させた可能性が高いと述べている。

カンピロバクター食中毒と、ギラン・バレー症候群という合併症

汚染された肉を生で食べたときの症状は病原体によって異なる。そこで動画は、近年増えているカンピロバクター食中毒を例に取り上げる。原因はカンピロバクター・ジェジュニとカンピロバクター・コリという細菌で、鶏肉の生食で多く発生するが、加熱不十分な牛肉や豚肉でも起こる。日本では年間約300件、2000人程度が感染している。感染すると2〜5日ほどで下痢、腹痛、発熱、嘔吐などが出て、3〜6日ほど続く。高齢者や子どもを除けば死亡することはまれである。

しかし動画は、大したことはないと判断するのは早計だと言う。この食中毒には合併症としてギラン・バレー症候群が起きることがあるからだ。感染成立から数週間後に一定の確率で発症し、アメリカのカンピロバクター・ジェジュニ感染事例では1058件に1件の割合だった。本来は食中毒菌と戦うはずの免疫系が自分自身を攻撃する自己免疫疾患の一種である。筋力の低下、チクチクする感覚、感覚の喪失などがまず両脚に現れ、やがて腕や頭部、全身へ広がり、末梢神経が侵される。歩けなくなったり、呼吸困難で人工呼吸器が必要になったりすることもある。症状は3〜4週間でピークを迎える。致死率は全体の2%程度と低く、ほとんどの患者は数か月以内に大きく改善する。それでも成人患者の約30%では、3年後の時点でも軽い筋力低下が残る。動画は、発生率が低くても生肉を食べた代償としては大きすぎるリスクであり、汚染された肉の生食は避けるのが絶対のルールだとしている。

コンドルの腸内細菌から考える「腐肉を食べられる人間」の思考実験

動画の最後は、視聴者向けの思考実験である。腐肉を食べる鳥のコンドルは、食事のたびに死肉にすむさまざまな微生物を取り込む。強い酸性の胃液と強力な消化力で、そのほとんどは死滅する。しかし、クロストリジウム属とフソバクテリウム属の微生物だけはこのバリアを突破して腸に届く。これらはコンドルの腸内で他の病原性微生物を駆逐しながら、死肉の消化に貢献している可能性が示されている。つまりコンドルは、腐肉を食べるという特殊な食性を通じて、きわめて強い微生物とだけ一種の協調関係を結んだ可能性がある、という研究である。

動画はここで冒頭の話に戻る。人の胃液の酸性度は腐肉を食べるスカベンジャー並みであり、バリア能力はコンドル並みに強いと言い換えられる。では、人がコンドルのように腐肉だけの食生活を長く続けたら腸内はどう変わるのか。いつか人の腸内細菌もクロストリジウム属やフソバクテリウム属に置き換わり、生肉どころか腐った肉まで食べられる「コンドル型スーパーヒューマン」に進化するかもしれない、と動画は仮定する。ただし、その可能性は「非常に非常に低い」と自ら認めている。それでも、チャンネルのキャラクターであるミスター・バイエンスに協力してもらって試す価値はある、と冗談めかして提案し、動画は終わる。