米中AI開発競争をデータで比べる:投資・性能・論文・特許に表れた「1番手」と「2番手」の戦略

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概要

安野貴博氏は、スタンフォード大学が2025年4月に公表した「AI Index Report」を材料に、アメリカと中国のAI開発競争を検討している。2強とされる両国が今どのような位置にいるのかを、投資額、トップモデルの性能差、論文の量と質、特許の数という4つの指標から定量的に見るのがこの動画の狙いである。安野氏は、数字を並べると両国の戦略の違いがはっきり見えると述べる。終盤では、その違いを「1番手」と「2番手」の戦略の差として読み解く自身の仮説も示している。

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投資額:民間投資でアメリカが中国の約12倍

安野氏は最初の指標に投資額を置く。今のAIは資金がなければ開発できず、何より大事なのはお金の量だ、というのがその理由である。

レポートによると、2024年のAI分野の民間投資額はアメリカが約1000億ドル(安野氏の換算で約15兆円)、中国が93億ドル(約1.5兆円)だった。アメリカは中国の約12倍の資金を投じていることになる。生成AIの分野に絞ると、アメリカの民間投資額は290億ドルで、中国・EU・英国を合計した額を上回る。安野氏は、額で見ればアメリカの一強だと評している。

主要なAIモデル(レポートでは「notable AI models」)の開発数でも、アメリカが40件、中国が15件とアメリカが大きくリードする。続いてフランスが3件、カナダ、イスラエル、サウジアラビア、韓国が各1件で、日本の数字はない。安野氏はこの結果を、OpenAI、Google、Anthropicといったアメリカの大手が巨額の投資をしていることの表れと見ている。

トップモデルの性能差:縮まりつつある差

2つ目の指標は、各国で最も賢いモデル同士の性能差である。安野氏は、さまざまなAIモデルの賢さを比較するサイト「Chatbot Arena」でのアメリカと中国のトップモデルを比べたレポートの図を取り上げる。そこでは、両国のトップモデルの差が以前より縮まってきている。

4月時点のレポートで最も差が縮まっているのは、Gemini 2.5 ProとDeepSeek R1を比べた箇所だ。安野氏は、この時点の数字は一時的によく出ている可能性もあると留保する。そのうえで、大きく見ればトップモデルの性能差は拮抗してきていると言えるという。投資額や主要モデルの数ではアメリカ一強だが、性能の差は縮まりつつある。安野氏はこれを大きな特徴の1つに挙げている。

論文の量と被引用数:中国が上回る

3つ目の論文の指標について、安野氏は米中の異なる戦略が見えてくるポイントだと位置づける。

まず量を見ると、2023年に世界で発表されたAI論文の23.2%が中国からで、アメリカの9.2%を上回る。中国のAI論文は2016年から増加を続けており、横ばいのアメリカとは対照的だとされる。インドもアメリカの論文量に追いついてきているという報告がある。

論文が引用された回数でも、中国が22.6%で世界トップであり、近年は増加傾向にある。アメリカは13%で、ヨーロッパに次ぐ3位だ。安野氏は、AIにこれほど強いアメリカなら論文数でも被引用数でも多いだろうと思っていたが、2023年までの数値ではそうではなかったと言う。「衝撃的と言うと大げさだが、びっくりするデータだった」というのが安野氏の感想である。

トップ100論文と責任あるAI:質ではアメリカがリード

ところが、影響力の大きい論文に絞ると話が変わる。被引用数上位100本の論文の地理的な分布を見ると、アメリカが50本、中国が34本である。安野氏は、中国と比べて圧倒的に多いわけではないとしつつも、トップ100の半分ほどがアメリカであることから、研究の質ではアメリカがリードしている部分がありそうだと述べる。

トップ100論文を出した組織を見ると、2023年の数値ではGoogleと清華大学が8本ずつで並ぶ。その下にカーネギーメロン大学とMicrosoftが6本ずつ続く。安野氏は清華大学を、北京大学と並ぶ中国のトップ校で、日本でいえば東大にあたる存在だと紹介する。そのうえで、データからは中国が大学でAI研究者を育成しようとしている様子が見て取れると言う。一方のアメリカでは、Google、Microsoft、Nvidiaなど企業による研究が目立つ。

AIの倫理や安全性を扱う「責任あるAI(Responsible AI)」の分野では、アメリカの論文数は669本で、中国の268本の2倍以上である。安野氏は、ここからルールメイキングの面でも議論をリードしようというアメリカの意思がうかがえるのではないかと推測している。この分野では日本も36本でランクインしている。順位はアメリカ、中国、ドイツ、イギリス、カナダ、香港、インド、シンガポールに次ぐ位置で、安野氏は日本の名前が見られて少し嬉しいと話している。

安野氏は論文の数値全体をこうまとめる。大学の研究に注力して論文の量を増やしている中国と、民間企業の開発が盛んで高い質を維持しているアメリカ。両国のスタイルの違いは明確だという。

特許:7割が中国から

最後の指標は特許である。安野氏は特許を、発明した技術を守り、使う人に特許料を払ってもらうことで発明者が報われるための仕組みと説明する。そのうえで、AI分野の特許でも米中のアプローチは対照的だと言う。

2023年に出願されたAI関連特許の7割は中国からだった。10年前はアメリカのほうが多く、中国はその半分ほどだった。それが2023年にはアメリカの5倍となり、出願数が急増している。

世界知的所有権機関(WIPO)が7月3日に発表したデータでは、2014年から2023年の10年間にアメリカで約6300件、中国で3万8000件の特許が登録された。中国はアメリカの6倍以上になる。人口が多いからだという反論に対しては、安野氏は人口10万人あたりの特許数を示す。韓国が17.27件、ルクセンブルクが15件、中国が6件である。安野氏は、ルクセンブルクのような小さな国と比べれば桁は違うものの、中国は1人あたりで見ても非常に多い数値だとされていると紹介し、大国の中国がこれだけの数値を出しているのは驚きだと述べる。

安野氏の「ゆる仮説」:中国は2番手戦略を忠実に実行している

ここから先について、安野氏は自身の「ゆるい仮説」として聞いてほしいと断っている。その仮説とは、中国は2番手戦略を忠実に実行している、というものだ。トップモデルで見れば中国はアメリカに勝てていない。しかし2番手だからこそ1番手と違うやり方で差別化しなければならず、中国はそれをきちんとやっている、と安野氏は見る。

その例として安野氏は特許を挙げる。特許は技術の内容を書いて出願しなければ取得できない。安野氏の見立てでは、アメリカのトップAIプレイヤーは営業秘密をなるべく隠しておきたい。独占で得られるものよりも、秘密が漏れて他社に追随されるリスクのほうが大きいと考えているからだ。一方、中国企業はそもそも2番手である。1番手が特許を出さないなら積極的に出していけばよく、特許から技術を学ばれることがあっても、まだ追いつけていない立場なので構わない。安野氏はそうした戦略ではないかと推測している。

さらに安野氏は、特許の保有数に応じて国際的な技術標準化の会議での発言力が変わるという話にも触れる。ただし、どこまで本当かは裏が取れていないと明言している。そのうえで、特許を多く取ることで標準化の場でも主導権を握り、議論をリードして勝っていこうという戦略があるのではないか、と述べる。

安野氏によれば、企業経営でも王者の戦略と追いかける側の戦略は大きく異なる。その違いが、国という大きな単位、AIという巨大な開発の舞台でもはっきり表れていると安野氏は見ている。

オープンウェイトモデルにも表れる戦略の違い

安野氏は同じ構図を、オープンウェイトのモデルを公開するかどうかにも見ている。Anthropic、OpenAI、Googleといったアメリカの会社はなかなかオープンモデルを出さない。これに対して中国の会社は、DeepSeekやQwenをはじめ積極的に公開しており、動画生成AIや画像生成AIでも中国発のモデルが多い。

オープンウェイトにすれば無料で使え、自分でホスティングもでき、改変しながら使える。そのため利用者が増え、周辺のエコシステムが育っていく。安野氏は、中国企業はそこを取りにいっているのではないかと述べ、これも1番手と2番手の戦略の違いだと位置づける。

4つの指標のまとめ

安野氏は最後に4つの指標を振り返る。投資額はアメリカが圧倒的に多い。トップモデルの性能差は縮まる方向に動いている。論文は量では中国、質ではアメリカが上回る。特許の量は中国が圧倒的に多くなった。そのうえで、さまざまな側面で1番手のアメリカと2番手の中国がしっかり差別化しながら戦っているという印象を持っている、と締めくくっている。