AI失業は本当に起きているのか:安野貴博が3つの仮説と予測・報告データを比べる

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概要

AIの能力が上がるにつれ、「AIによって仕事が失われるのではないか」という議論が各所で盛り上がっている。安野貴博はこの動画で、この問いに対する見方を3つの立場に整理した。そのうえで、経済機関の「予測」と足元の「報告」をアメリカと日本に分けて比較している。安野の結論は「先のことは分からない」というものだ。ただし、統計上のシグナルがまだ弱くても変化は急に始まりうるので、それを前提に備えるべきだと述べている。動画は「2026年5月編」として収録された。

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仮説1:ダリオ・アモデイの「エントリーレベルのホワイトカラーが影響を受ける」

安野が最初に取り上げるのは、AIを作る側の見方である。Anthropic社のダリオ・アモデイ氏(安野は「社長」と紹介)は2025年に、1〜5年以内にエントリーレベルのホワイトカラー職の半分ほどが影響を受け、失業率が10〜20%程度になるのではないかと発言した。

安野はこれを「分かりやすい見方」の一つと位置づけ、その中身を次のように説明する。AIの影響を受けるのは、現場仕事をするブルーカラーよりもオフィスで働くホワイトカラーである。ホワイトカラーの中でも、難しい判断を担う経験豊富なシニア層はあまり影響を受けない。影響を受けるのは、リサーチ業務や事務作業を多く担うジュニアレベルの人たちだ、という見立てである。

発言から1年ほど経った時点で、失業率は10〜20%には達していないと安野は指摘する。アメリカの失業率は4%程度、日本は2%台であり、10〜20%というのはかなり大きな数字だ。今のところそうした状況にはなっていない、というのが安野の確認である。

仮説2:サム・アルトマンの「AIウォッシング」

2つ目の見方として安野が紹介するのは、OpenAIのサム・アルトマン氏の発言である。アルトマン氏は、別の理由によるレイオフやリストラをAIのせいにして正当化する「AIウォッシング」が起きているのではないかと述べた。

安野の説明では、足元で多くのテック企業が大規模なレイオフを行っており、それをAIのせいだと言う人がいる。これに対してアルトマン氏は、2020年のコロナ禍で多くの企業が採用を大幅に増やしており、今のレイオフはその反動であってAIはあまり関係ないはずだ、という立場をとる。何でもAIのせいにしてレイオフが片付けられているのではないか、という問題提起である。安野はこの見方を、今後レイオフや失業率の上昇が起きたとしても、実際には別の要因によるものをAIのせいだと言っている可能性がある、という指摘としてまとめている。

仮説3:ジェボンズのパラドックス

3つ目は、安野が「結構面白い」と言う見方である。1865年、イギリスの経済学者ジェボンズは石炭問題を研究していた。産業革命のさなかの19世紀イギリスでは石炭が大量に使われていた。研究開発が進んで石炭の利用効率が上がり、同じ仕事に必要な石炭は少なくて済むようになった。ところが、これほど安く石炭に仕事をさせられるなら自分の分野でも、自分の会社でも、この地域でも使いたいという需要が次々に生まれた。その結果、最終的な石炭の消費量はかえって増えた。効率化するほど消費が増えるというこの現象が、ジェボンズのパラドックスである。

同じことがAIでも起きるだろう、というのがこの立場だ。AIによって知的労働のコスト、たとえばソフトウェアの開発コストが下がる。素直に考えれば、100人でやっていた仕事が10人でできるようになり、90人が不要になるように見える。しかし、これまで大変だったソフトウェア開発が安くできるなら、「うちでもこのアプリを作ってみよう」「こういうソフトウェアも作ってみよう」という需要がさまざまな用途や業界で生まれる。結果として、むしろエンジニアがもっと必要になるのではないか、という見方である。

安野はこれら3つを並べて、全く違う見方が混在していると整理する。AIでできることが増えればその分野の雇用は失われるという見方。雇用が失われているように見えても、実際は取りすぎた人員を減らしているだけでAIは過大に宣伝されているという見方。効率化によって需要が増え、エンジニアがもっと必要になるという見方である。

予測データ:主要機関の見通しは割れている

次に安野は、主要な経済機関がどのような数字を出しているかを手書きのボードで紹介する。

IMF(国際通貨基金)のレポートによると、世界の雇用のおよそ40%がAIの影響を受ける。安野は、ここでいう「影響を受ける」は失業と同じ意味ではないと注意を促す。生産性が上がる、別のやり方でできるようになる、といったことも含む。先進国ではこの割合が約60%に上がる。そのうち約27%は、AIに代替されやすく、需要の減少や賃金低下のリスクがある仕事とされている。残りの約33%は、AIが仕事を楽にしたり働き方を変えたりする補完的な影響を受ける仕事とされる。安野はIMFの見方を「割と打撃的な世界観」と評している。

ゴールドマン・サックスの2023年のレポートは、仕事の約3分の2がAIの影響を受け、約4分の1が代替されるとしている。この比率から計算すると、約3億人が代替されるという示唆になるという。

一方、世界経済フォーラム(WEF)のレポートは、安野によれば「真逆のこと」を言っている。このレポートには技術ごとに、減る仕事と増える仕事の見込みが並んでいる。AIと情報技術の分野では、1100万人の雇用が生まれ、920万人の職が失われ、差し引きで約180万人のプラスになるとされる。すべての技術を合計すると約7800万人の仕事が増える見込みだという。つまりWEFは、AIの直接的な影響だけを見ても仕事は増えると予測している。

安野は、経済の専門家たちの予測は方向性が「微妙に違っている」「割れている」とまとめる。大きく減ると言う機関もあれば、AIで仕事が増えると言う機関もある。

報告データ:アメリカでは若年層と単価に兆候

では足元では何が起きているのか。安野は、アメリカですでに影響が出始めているのではないかと示唆する報告を3つ紹介する。

1つ目はスタンフォード大学の調査である。AIの影響を受けやすい職種を調べたところ、22〜25歳の若い層で、2022年以降に仕事の数が13%減っていたという。安野は、3年間で13%減というのはかなり大きく、エントリーレベルの若い人の仕事にはすでに影響が出始めているのではないか、と読み取っている。

2つ目は、アメリカのシンクタンクであるブルッキングス研究所の数値である。生成AIに代替されやすいとされるフリーランスの職種で、新規契約数が2%、売上が5%減っていたという。安野はこれを、仕事の単価にはすでに影響が出始めている兆候として紹介している。

3つ目はロサンゼルス・タイムズの記事で、スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを専攻した学生が、卒業後に就職難に直面しているという内容だ。安野はこれを「結構衝撃」と述べる。一昔前なら、情報科学で一流の大学の一つであるスタンフォードを卒業して仕事が見つからないことは想像されていなかったからだ。

これらを踏まえた安野の現状認識はこうである。大量失業はまだ起きていない。ただ、若年層に絞ると影響が出ているのではないか、あるいは仕事にあぶれるほどではなくても生成AIの影響を受けやすい職種では単価が下がり始めているのではないか、という報告がちらほら出てきている。これが今のアメリカの状況だという。

日本の予測:失業より人手不足

安野は、日本は調べるほど「すごく特殊な国」だと言う。AIがないと社会が回らない、という状況にあるからだ。

予測を見ると、リクルートの推計では2040年までに約1100万人の人手が不足する(安野は「1000万人くらい」とも言い換えている)。仕事が足りないのではなく、仕事はあるのに働ける人が足りないということだ。安野は、あと15年ほどで1000万人規模が足りなくなるのは「結構恐ろしい数値」であり、AI失業よりも人手不足の方が深刻だと述べる。パーソルの推計では、年が5年ずれるが、2035年までに384万人が不足するとされる。両者の数字の大きさは違うものの、人手が不足すること自体はほぼ間違いないだろう、というのが安野の見方である。この点で、日本はアメリカとかなり違う状況に置かれている。

日本の報告:シグナルはまだ弱い

足元の日本については、大きな変化が起き始めている段階にはまだ至っていない、と安野は見ている。

新卒採用では、共同通信の調査で、2026年に新卒採用を前年より「減らす」と答えた企業が、5年ぶりに「増やす」と答えた企業を上回った。安野は、新卒の売り手市場が少し緩和されたと言えるが、数値が劇的に変わったわけではなく「一服した」程度だとする。どこまでがAIの影響かといえば、まだそれほど大きくないと見てよいのではないか、という評価である。

配置転換に触れる記事も出始めている。例として、みずほフィナンシャルグループが10年間で約5000人を少しずつ異動させていくというニュースが挙げられた。安野は、日本には解雇規制があり、アメリカの企業のようにいきなり解雇することはできないと指摘する。そのため大規模なリストラは起きにくく、リスキリングして別の部署に移ってもらう形で進むのではないか、と見ている。

日本の新卒採用の変化は、エントリーレベルの職種でAIの影響が出始めたとも読めるし、景気循環の一局面として5年ぶりにそうなっただけとも読める。統計上は強いシグナルとして表れていない、というのが安野の現状評価である。

最近聞いた話:「ぎゅられる」前にインターンへ

データとは別に、安野は最近AI企業の人から聞いた話を紹介している。その会社のインターンには、これまで大学院生ばかりが来ていた。ところが今年は学部生が多いという。AIや情報科学を学ぶ理系学生は大学院に進む割合が高いので、1年ほどで急に学部生の比率が増えたのは不可解な話だった。

理由を尋ねると、応募してくる学部生たちは、ソフトウェアエンジニアの仕事がすごい勢いでなくなると考えているらしい。その界隈では、シンギュラリティによって仕事を奪われることを略して「ぎゅられる」と言うそうだ。自分たちも「ぎゅられる」と思っているので、大学院の2年間を待たずに、職が残っていて入れるうちに早めにインターンに行っておこう、という行動が起きているという。

安野は、こうした考えがどれほど広がっているのか、実際にどうなるのかは分からないとしつつ、そう考え始める学生が出てきていることは間違いないだろうと述べている。

安野の見解:急に跳ね上がる可能性に備える

最後に安野は自身の見解を述べる。前置きは「全然わからない」である。そのうえで一つ挙げられるのは、今は統計的なシグナルが強くなくても、変化が急速に始まる可能性はあるという点だ。今年が去年とあまり変わらなくても、来年には企業が一気にギアを変えて新卒採用をしなくなるというシナリオもありうる。足元のデータは見つつも、来年がその延長線上に来ると決めつけず、数値が突然跳ね上がる可能性もあると考えておくことが大事だという。

安野は、自分もこの先どうなるかは分からないと繰り返す。そのうえで、数値が跳ね上がったときにも対応できるよう、国としては政策をしっかり作って準備しておくべきであり、個人としても跳ね上がったときにどうするかを考えながら行動する必要がある、と締めくくった。こうした数値は今後もさまざまなレポートを見ながらウォッチし続けたいという。