味の素はなぜ「うまい」のか:うま味の受容、相乗効果、安全性をめぐる噂を検証する
VAIENCE バイエンス科学解説チャンネル「VAIENCE(バイエンス)」のこの回は、身近な調味料である味の素について二つの問いを立てる。なぜ人はそれをうまいと感じるのか、そして人体にとって安全なのか。番組の立場ははっきりしている。うま味は生理学的に実在する味覚であり、味の素は普通に使う範囲なら十分に安全な調味料だという。そのうえで、安全性をめぐる噂は科学的根拠を欠くとして一つずつ退けていく。
第五の味覚としてのうま味
番組によれば、かつて人間の味覚は酸味・甘味・塩味・苦味の4種類とされていた。これに異を唱えたのが池田菊苗である。池田は1908年に昆布の出汁から、新たな味であるうま味の成分としてグルタミン酸を同定した。番組は、これを機に味覚が5種類あると提唱されたと説明する。
市販の味の素の主成分は、このグルタミン酸のナトリウム塩である。番組は、人間の舌にはグルタミン酸に対する受容体が複数存在することを挙げ、生理学的に見てもうま味という味覚は確かに存在すると述べている。
「中華料理店症候群」という噂
一方で、味の素には悪い噂が絶えない。番組がその代表として挙げるのが「中華料理店症候群」である。中華料理を食べた後に起こる一連の不快な症状を指す言葉で、1968年に最初の報告があった。症状としては脱力感、吐き気、眠気、頭痛、しびれ、動悸などが挙げられ、その原因として味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウムが疑われた。
この話は1968年に専門誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に、続いて『ニューヨーク・タイムズ』に掲載され、メディア報道の格好の題材となって大きな話題になったという。50年以上前の出来事だが、いまだに信じている人も多いと番組は指摘する。
ただし番組によれば、この噂は多くの科学者の関心を集め、数多くの臨床研究が行われた。その結果、症状に再現性はなく、科学的な根拠はないとされた。番組はこれを、信仰の力と大衆メディアの力によって生み出された「デマ」と呼ぶにふさわしい話だと評している。
グルタミン酸が脳に届くまで
では、うま味はどのように感じられるのか。グルタミン酸ナトリウムは水に溶けるとグルタミン酸イオンとナトリウムイオンに電離する。うま味をもたらすのはグルタミン酸イオンのほうで、これが舌にある複数の受容体を活性化し、うま味のシグナルが脳へ伝わる。
番組が興味深い点として挙げるのは、その伝達経路である。一般に各感覚は特定の神経を通じて脳へ伝えられ、視覚は視神経、嗅覚は嗅神経、聴覚は内耳神経がそれぞれ担う。これに対し味覚の経路は種類が多い。舌の前方と軟口蓋で受け取った味の情報は顔面神経が、舌の奥で受け取った情報は舌咽神経が、咽頭で受け取った情報は迷走神経が脳へ伝える。番組は、これは味覚を受容できる場所が広いことに起因すると考えられていると説明し、舌は何としても食品の味とうま味を脳へ伝えたいようだ、と表現している。
うま味の相乗効果と和風出汁
番組がうま味の作用メカニズムで特筆すべきとするのが相乗効果である。グルタミン酸は単独でもうま味をもたらすが、鰹節に含まれるイノシン酸や干し椎茸に含まれるグアニル酸と一緒に摂ると、うま味が増強されることが知られている。
市販の味の素には、イノシン酸ナトリウムとグアニル酸ナトリウムがそれぞれ1.25%ずつ含まれている。番組はこれを、相乗効果という意味で実に優れた配合だと評価する。
そして番組は、日本人がこの相乗効果を昔から利用してきたと指摘する。昆布と鰹節からとる和風出汁がそれである。昆布のグルタミン酸と鰹節のイノシン酸という2種類のうま味成分の相乗効果を引き出す技術であり、科学がうま味を証明する前にこのスープを完成させていた日本人の食への探究心には驚かされる、と番組は述べている。
「脳機能障害」「失明」説への反論
番組は中華料理店症候群以外の噂にも触れる。一つは、グルタミン酸が神経伝達物質であることから、味の素を摂ると脳機能障害が起きるという説である。これに対し番組は、グルタミン酸は血液脳関門という脳のバリアをほぼ通過しないため、普通に摂取するレベルではグルタミン酸は脳内に達しないと説明する。
もう一つは失明説である。根拠とされるのは、マウスにグルタミン酸ナトリウムを体重1kgあたり4〜8g皮下注射した実験で、数時間以内に神経細胞死を伴う網膜損傷が起きたという結果だ。番組はこの解釈には十分な注意が必要だとして、二つの理由を挙げる。第一に、摂取方法が皮下注射であり、口から食べる経口摂取ではない。第二に投与量で、体重70kgの人間に換算すると280〜560gに相当し、普通の食事では絶対に到達しない量だという。したがってこの結果をそのまま人間に当てはめて味の素を危険視するのは科学的とは言えない、というのが番組の結論である。
「石油から作られている」説と安全性評価
味の素は石油から作られている、という説もあるが、番組はこれを単なるデマとする。確かにグルタミン酸にはアクリロニトリルを出発原料とする有機合成法が確立している。しかしコストの面から現在は使われておらず、市販の味の素はサトウキビの糖蜜などを原料に、微生物を用いた発酵法で生産されているという。
安全性については、1987年に大規模な調査が行われたと番組は紹介する。特定の毒性や発がん性は見られず、生殖および催奇形性の試験でも有害性は認められなかった。これらの結果をもとに、グルタミン酸ナトリウムの許容一日摂取量は「指定されていない」というのが現状だという。番組は、普通に使う分には十分に安全な調味料だとし、それでも陰謀論が尽きないことについて、一部の人々の科学リテラシーの低さに呆れるばかりだと述べている。
なぜ人はうま味を好むのか:進化の仮説
なぜ人間の脳はグルタミン酸をうま味として処理するのか。番組はここで一つの仮説を紹介する。グルタミン酸をはじめとするうま味成分は、熟成が進んだ肉や調理された肉に多く含まれる。そこから、うま味は消化しやすい肉類を見分けるセンサーとして機能しているのではないか、という説である。番組は、新鮮な肉にはうま味成分が少ないことから、これを妥当な推測だとしている。
さらに番組は、この仮説が正しければ、うま味は発酵食品への欲求、栄養摂取効率の最大化、生きた微生物を摂るというプロバイオティクス的な利点から生じた進化の産物かもしれない、と推測を広げている。ここはあくまで仮説としての紹介である。
体重への影響をめぐる二面性
うま味が人を惹きつけるなら、体重増加が気になる人も多いだろう。番組はこの点に「奇妙な二面性」があると述べる。
一方では、食べる量を増やす方向の報告がある。放射線治療を受けた頭頸部の患者で、うま味の喪失を含む味覚障害が生じた人を対象にした研究では、グルタミン酸ナトリウムが食欲や満足度を高めたと報告されている。食欲を失った高齢者の食品にグルタミン酸ナトリウムを添加すると、その食品の摂取量が増えたという結果もある。病気で体重が減った患者の食事に添加したところ、食事量が増えて栄養状態も改善したという報告もある。番組は、この観点からは味の素はダイエットの敵になり得るとする。
他方で、グルタミン酸ナトリウム入りの野菜スープを飲むと、その後の食事量が減るという結果も示されている。こちらから見れば、味の素はダイエットの救世主とも言える。番組は、これらの結果の解釈には議論が分かれそうだとし、未知のメカニズムが隠れているのかもしれないと述べるにとどめている。
結論:普通に使う範囲なら安全
番組の結論は、味の素がもたらすうま味は人間の舌と脳を惹きつけ続けるものであり、同時に極めて安全性が高く、手軽に料理のうま味を引き立てる調味料だというものである。現在の科学はその誘惑に乗ることに否定的ではなく、普通の調味料として使う分には安全性は担保されている、と番組は締めくくっている。一方で、体重への影響がなぜ正反対の方向に現れるのかについては、番組の中でも答えは出ていない。
ひとふりするだけで料理の旨味をぐんと増してくれる魔法の粉といえば、そう、味の素。あなたのご自宅にもきっと常備されていることでしょう。この調味料はあまりに身近な存在であるだけに、特段その存在を意識することも少ないことでしょう。しかしよく考えてみてください。味の素はなぜうまいのでしょうか?人体にとって安全なものなのでしょうか?
このチャンネルは人類の好奇心を刺激するバイエンス。今回は味の素はなぜうまいのかについてご紹介したいと思います。
人間が感じる味覚は酸味、甘味、塩味、苦味。この4種類とされていた時代がありました。しかしこれに異を唱えた日本人がいます。その名は池田菊苗。彼は1908年に昆布の出汁から新たな味である旨味の成分としてグルタミン酸を同定し、この時をもって味覚は5種類あることが提唱されます。
市販の味の素の主成分がこのグルタミン酸のナトリウム塩です。そして実際にあなたたちの舌にはグルタミン酸に対する受容体が複数存在しており、生理学的側面から考えても確かに旨味という味覚は存在すると言えます。
味の素は広く料理の業界で用いられる一般的な調味料となっていますが、その一方で悪い噂も絶えません。その最たるものが中華料理店症候群でしょう。これは中華料理を摂取した後に生じる一連の不快な症状を指す言葉であり、1968年に最初の報告がなされています。その症状としては脱力感、吐き気、眠気、頭痛、しびれ、動悸などが挙げられ、その原因が味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウムではないかと疑われた経緯があります。
このニュースは1968年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンという専門誌に、次いでニューヨーク・タイムズ紙に掲載されました。その結果、メディア報道の格好の餌となり、大きな話題となっています。50年以上前の出来事となりますが、未だにこの噂を信じている人も多いようですが、ご安心ください。この噂は多くの科学者の興味を引きつけ、数多くの臨床研究が行われています。その結果ですが、再現性はなく、科学的な根拠はありません。信仰の力と大衆メディアの力によって生み出されたデマと呼ぶにふさわしい話でしょう。
第5の味覚、旨味。その活性本体であるグルタミン酸は、なぜその独特の風味であなたたち人間を魅了してやまないのでしょうか?そしてこの化学物質は本当に安全なのでしょうか?ここからはその秘密に科学的に迫ってみましょう。
味の素の主成分であるグルタミン酸ナトリウムは、水に溶けるとグルタミン酸イオンとナトリウムイオンへと電離します。このうち旨味をもたらす成分はグルタミン酸イオンであり、これが人間の舌にある複数の受容体を活性化することで旨味のシグナルが脳へと伝達され、脳内は旨味の喜びで満たされます。
ここで興味深いのはシグナルの伝達経路です。一般的に各感覚は特定の神経路を通じて脳へと伝えられ、例えば視覚は視神経が、嗅覚は嗅神経が、そして聴覚は内耳神経がそれぞれの情報を脳へと伝えます。ですが味覚を脳へと伝える経路は種類が多く、舌の前方と軟口蓋で受け取った味情報は顔面神経が、舌の奥で受け取った情報は舌咽神経が、そして咽頭で受け取った情報は迷走神経がそのシグナルを脳へと伝えます。これは味覚を受容できる場所が広いことに起因すると考えられています。どうやらあなたたちの舌は何としてでも食品の味と旨味を脳へと伝えたいようです。
ここで旨味の作用メカニズムにおいて特筆すべきは、その相乗効果にあります。グルタミン酸はそれ単独でも旨味をもたらしますが、かつお節に含まれるイノシン酸や干ししいたけに含まれるグアニル酸と共に摂取することで旨味が増強されることが知られています。実際に市販の味の素にはイノシン酸ナトリウムが1.25%、グアニル酸ナトリウムが1.25%ずつ含まれますが、これは旨味の相乗効果という意味で実に優れた配合と言えるでしょう。
そして勘のいいバイエンスの民であればお気づきでしょうが、日本人はこの旨味の相乗効果をうまく利用してきました。昆布とかつお節からなる最高のスープ、すなわち和風出汁の存在です。これは昆布に含まれるグルタミン酸と、かつお節に含まれるイノシン酸という2種類の旨味成分の相乗効果をうまく引き出してくれる絶妙なテクニックであると言えます。旨味の科学が証明するよりも前にこのスープを完成させていた日本人の食への探求心には驚かされることでしょう。
また、味の素に関して述べられるよくある陰謀論についても触れておきましょう。すでに紹介したように、いわゆる中華料理店症候群については多くの研究によりその存在は否定されています。それ以外にも味の素には多くの黒い噂が絶えません。
例えばグルタミン酸が神経伝達物質であることから、グルタミン酸ナトリウムを主成分とする味の素を摂取すると脳機能障害が起きるという説が存在します。ですがグルタミン酸は血液脳関門という脳のバリアをほぼ通過しないため、普通に摂取するレベルではグルタミン酸は脳内に達することができません。
他にもマウスにグルタミン酸ナトリウムを体重1kgあたり4gから8g皮下注射した実験においては、数時間以内に神経細胞死を伴う網膜損傷を引き起こしたという結果があり、このことから味の素を摂取すると失明するなんていう説もありますが、この解釈には十分な注意が必要です。というのも、まず摂取方法が皮下注射であり経口摂取ではありませんし、その投与量も70kgの人間に換算すると280gから560gとなり、普通の食事では絶対に到達しない量です。そのため、この説を直接人間に当てはめて味の素を危険視することは科学的とは言えません。
さらには味の素は石油から作られているなんていう説も見受けられますが、これは単なるデマです。確かにグルタミン酸はアクリロニトリルを出発原料とする有機合成法が確立していますが、コストの面から本法は現在では用いられておらず、市販の味の素はサトウキビの糖蜜などを原料に微生物を用いた発酵法によって生産されています。
ちなみにグルタミン酸の安全性については1987年に大規模な調査がなされており、特定の毒性や発がん性もなく、生殖および催奇形性試験でも有害性は認められていません。これらの結果をもとに、グルタミン酸ナトリウムの許容1日摂取量は指定されていないというのが現実です。要するに普通に使う分には十分に安全な調味料であると言えるのですが、一体なぜ陰謀論が尽きないのか、一部の人々の科学リテラシーの低さに呆れるばかりです。
なぜ人はグルタミン酸を旨味として脳内で処理するのでしょうか?この点については興味深い仮説が提唱されているので紹介しておきましょう。グルタミン酸をはじめとする旨味成分は熟成が進んだ肉や調理された肉に多く含まれているのですが、旨味とはこのような消化しやすい肉類のセンサーとして機能しているのではないかという説が存在します。これはフレッシュな肉にはグルタミン酸をはじめとする旨味成分は少ないことから、妥当な推測と言えます。この仮説が正しいのであれば、旨味とはすなわちあなたたち人間の発酵食品への欲求と栄養摂取効率の最大化、そして生きた微生物を摂取するというプロバイオティクス的な利点から発生した進化の産物であるのかもしれません。
旨味が人を魅了してやまないとなると、体重増加に関しても気になる人が多いことでしょう。この点については奇妙な二面性があります。というのも、放射線治療を受けた頭頸部患者で旨味の喪失を含む味覚障害が生じた人物を被験者とした研究においては、グルタミン酸ナトリウムが食欲や満足度を高める事実が報告されています。同様に、食欲を失った高齢者の食品にグルタミン酸ナトリウムを添加することで、グルタミン酸ナトリウムを添加した食品の摂取量が増加したという結果や、病気のために体重が減少した患者の食事に対してグルタミン酸ナトリウムを添加することで食物摂取量が増加し、栄養状態も改善したという報告があります。この観点から考えると、味の素はダイエットの敵になり得ます。
ですがその一方で、グルタミン酸ナトリウム入りの野菜スープを摂取するとその後の食事量が減るという結果も示されており、この結果から考えると味の素はダイエットの救世主とも言えます。これらの結果の解釈には議論が分かれそうですが、未知のメカニズムが隠れているのかもしれません。
味の素がもたらす旨味。この誘惑は人間の舌と脳を魅了してやみません。そして味の素は極めて安全性が高く、簡単に料理の旨味を引き立ててくれます。この料理界の革命児と人々の付き合いはこれからも永続的に続くことでしょう。そして現在の科学はその誘惑に踊らされることに否定的ではありません。普通の調味料として使う分には安全性は担保されていますので、安心して旨味の海に溺れてください。
今回のバイエンスはここまで。またお会いしましょう。
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