アルテミス2:半世紀ぶりに月の裏側へ向かった4人の10日間
VAIENCE バイエンス1972年にアポロ17号の乗組員が月面に降り立って以来、人類は50年以上にわたって月に行っていない。宇宙に出た人間は数多くいるが、地球周回軌道の外へ出た者は一人もいなかった。国際宇宙ステーションでさえ地表からおよそ400kmの高さにある。月はその千倍近い、およそ38万km先にある。
日本時間2026年4月11日、1機の宇宙船が太平洋に着水した。乗っていた4人は、人類史上もっとも地球から遠い場所まで行って帰ってきた人々であり、50年以上ぶりに月の裏側を自分の目で見た人々でもある。動画はこのミッション「アルテミス2」の経過を、打ち上げから帰還まで順に追っている。
アルテミス計画と「試験飛行」としての位置づけ
アルテミス計画は、NASAが再び人間を月に送り、いずれはそこに住めるようにすることを目指す計画の総称である。ロケットはスペースシャトルの後継として開発されたスペース・ローンチ・システム(SLS)、乗組員が乗る宇宙船はオリオンと呼ばれる。
第1段階として2022年に実施されたアルテミス1は、無人のオリオンを月まで送る試験だった。アルテミス2は、人を乗せた初めての試験飛行にあたる。月面には降りず、月の裏側を回って帰ってくるだけの飛行である。それでもアルテミス1から3年以上をかけて準備し、4人の乗組員が選ばれた。動画は、この4人が宇宙船の性能を確かめるための「生きた実験台」でもあったと表現している。
繰り返された延期と打ち上げ前のトラブル
アルテミス2は本来もっと早く実施されるはずだった。初期の計画案では打ち上げは2020年頃とされていたが、2024年、2025年とずれ込み、最終的に2026年4月となった。熱シールドや生命維持装置にトラブルが見つかり、問題が表面化するたびに打ち上げ日が数か月ずつ後ろ倒しになった。
2026年2月には本番さながらの予行演習が行われたが、液体水素の漏れが見つかった。次の予行演習をようやく乗り切ったと思ったら、今度はヘリウムの流量異常が起きた。そのため打ち上げ当日、関係者は誰ひとり落ち着いてはいられなかっただろうと動画は述べている。
打ち上げから太陽電池パネル展開まで
2026年4月2日午前7時35分、スペースシャトルと同系統のロケットエンジンRS-25が点火し、続いて固体燃料ロケットブースターが点火した。重さおよそ2,600トンの機体が加速を始め、打ち上げから56秒後に音速を突破した。そのおよそ1分後、固体燃料ロケットが役目を終えて分離・落下した。
打ち上げから8分後にはSLSのメインエンジンが予定どおり停止した。切り離されて残ったのは、乗組員が乗るオリオンと、その推進に使う極低温ロケット段である。打ち上げから18分後には、合計1万5,000個の太陽電池セルを備えた4枚の翼が展開を始めた。このパネルによって、オリオンは生命維持装置や通信機器を自前で動かせる1隻の宇宙船になった。動画はここまでを第1段階の大成功と評価している。
宇宙船のトイレが凍りついた
その直後、予想外のトラブルが起きた。オリオン船内のトイレが突然警告音を鳴らし始めたのである。開発に10年以上かけたとも言われる宇宙用トイレだったが、一時使用禁止になった。原因は、排水管を流れる尿が凍って詰まったことだった。乗組員はこの詰まりを解消するため、オリオンの姿勢を変えて排水管に太陽光が当たるように操作しなければならなかった。
ある乗組員は、宇宙の配管工を名乗れるのは悪い気がしない、トイレはこの宇宙船でいちばん重要な設備かもしれない、という趣旨のことを語っている。動画は、これは実際に笑い事ではなく、人類が月をはじめ本格的に宇宙を目指すうえで避けて通れない問題だとする。
アポロ計画の宇宙船にはトイレがなかった。乗組員は開口部に粘着部のある袋に用を足し、手で殺菌剤を入れてから密封する必要があった。二つの意味で「漏れる」のはよくあることだったようで、アポロ10号では中身が船内を漂っているのが目撃されたという。月や火星など太陽系を探査するためにトイレは欠かせない。無人のアルテミス1にはトイレがなかったため、人を乗せて初めて故障するかどうかが分かる。そして実際に故障した。動画は、この故障があったからこそ次の機会に生かせるのだと位置づけている。
月遷移軌道投入と自由帰還軌道
ミッション2日目には、今回のミッションで最も重要なエンジン噴射とも言える月遷移軌道投入が行われた。オリオンを地球周回軌道から離脱させ、月へ向けて送り出す操作である。オリオンのメインエンジンを5分50秒噴射し、乗組員は月への旅を始めた。
このときオリオンが乗ったのは「自由帰還軌道」と呼ばれる軌道である。仮にこの先エンジンが動かなくなっても、主に月と地球の重力の働きによって、オリオンは月の裏側を回り、自然に地球へ戻ってくる。1970年、酸素タンクの爆発で月着陸を断念したアポロ13号が乗組員を無事に連れ帰ったときと同じ考え方である。動画は、半世紀前の失敗から得た経験が保険として機能しているとし、宇宙開発はこうした経験の積み重ねでできているのかもしれないと述べている。
船内から撮られた地球の写真
ミッション3日目、月へ向かうオリオンから、船長のワイズマンが窓の外の地球をカメラに収めた。黒い宇宙を背景に青い球体が輝いている。シャッターが切られた瞬間、オリオンに乗っていた4人を除くすべての人類がこの写真の中にいたことになる。
動画は、この写真には「青い地球」で片づけるには惜しいほど多くのものが写っていると解説する。地球の上下の縁にうっすら光る緑色の曲線はオーロラである。太陽風が地球の磁場に沿って北極・南極付近に集められ、大気中の分子と衝突して発光したものだ。地球の右下がやや明るいのは黄道光で、太陽の光が太陽系に散らばる塵に反射して生じる。さらにその右下に光る明るい点は金星である。動画は、金星や地球といった惑星も、黄道光のもとになる細かな塵も、ほぼ同じ平面上にあることがよく分かる写真だとしている。
乗組員は被験者でもあった
4人は景色を楽しみに行ったわけではなく、10日間のミッションのあいだ被験者でもあった。人間が最後に地球の磁場の外へ出たのは50年以上前である。磁場の外で強い放射線を浴びながら過ごす人間の体に何が起きるのか、骨や睡眠などがどう変化するのかを、現代医学の物差しで測定できたのは人類史上初めてだと動画は述べる。
なかでも注目されたのが「AVATAR(アバター)」と呼ばれるUSBメモリほどの大きさの装置である。中には、4人の宇宙飛行士それぞれの血液を作る骨髄を模した、本人由来の細胞が入っている。乗組員の分身が本人のすぐ隣で、まったく同じ放射線を浴びている状態になる。人間の細胞を載せた装置が地球の磁場に守られた領域の外へ出るのはこれが初めてだという。動画は、将来アルテミス計画で月面に暮らすようになるときにも、火星へのミッションを行うときにも、非常に貴重なデータになるだろうと見ている。
火星のパーサヴィアランスが太陽を見張っていた
今回のミッションとは無関係に見える火星でも、探査車パーサヴィアランスが重要な任務を担っていた。このとき火星は、太陽を挟んで地球のちょうど反対側にあった。そこでパーサヴィアランスはカメラを太陽に向けていた。
地球からは見えない太陽の裏側、つまりこれから地球側、すなわちオリオンの方向へ回ってくる面に、太陽フレアなど危険な兆候がないかを確かめるためである。NASAは文字どおり最も遠い場所から、パーサヴィアランスを見張り役として使っていたことになる。
月の裏側で見た日食と「地球の入り」
ミッション6日目、オリオンはついに月の裏側を回った。この頃、乗組員は月が太陽を覆う日食も目撃している。地上で人間が日食を見るときは、月の影の中にいる。しかしこのとき4人は、巨大な月が太陽を覆い尽くす様子を、月のすぐそばから眺めていた。動画は、たび重なる打ち上げ延期がなければ、この光景は見られなかったかもしれないと述べている。
オリオンからは、三日月状になった地球が月の地平線へ沈んでいくように見える写真も撮影された。日の入りならぬ「地球の入り」である。初めて月の裏側を通ったアポロ8号の乗組員は「地球の出」を撮影しており、動画はこれと対になる写真として紹介している。この写真には月のクレーターや溶岩が冷え固まった跡も写っており、月の地形の研究にも役立つだろうとしている。
地球が視界から消えることは、地球との通信が途絶えることも意味する。その時間はおよそ40分。この40分間、4人は世界中の人間の中で最も孤独な存在だった。
人類最遠距離の更新
地球との距離は離れ続け、ついにおよそ40万6,700kmに達した。人類が地球から最も離れた距離の記録を更新したのである。動画は、宇宙の歴史のなかで他の人間から最も遠いところにいた人間は、間違いなくオリオンに乗っていた4人だったと述べている。
熱シールドに命を預けた帰還
ミッション10日目、帰還のときが来た。動画は、打ち上げと同じく、ここでも落ち着いて見守れた関係者はいなかっただろうとする。
宇宙から戻る宇宙船は地球の大気に突入し、圧縮熱と摩擦熱で表面が極めて高温になる。その熱から船体と乗組員を守るのが分厚い熱シールドである。ところが、無人で飛んだアルテミス1の宇宙船を回収してみると、このシールドが想定していなかった壊れ方をしていた。表面に無数のひび割れがあり、一部が欠けた跡もあった。傷がもう少し深ければ、帰還時に宇宙船全体がバラバラになっていたかもしれない。スペースシャトル・コロンビア号のように、である。
打ち上げ前、NASAは二択を迫られていた。熱シールドを設計からやり直して数年延期するか、熱シールドはそのままで突入経路を工夫するか。選ばれたのは後者だった。動画は、4人はその判断に文字どおり命を預けたと表現している。
オリオンが大気に突入すると、船体はプラズマに包まれ、無線は途絶えた。後日、地上で見守っていた管制官の一人は、この宇宙船を連れ帰ることに不安を感じなかった人がいるとしたら、それは脈がなかっただけだ、という趣旨のことを語っている。実際の帰還は驚くほど予定どおりに進み、太平洋にふわりと着水したオリオンから4人の宇宙飛行士が次々と出てきた。
試運転を終えて、次は月面へ
動画は、アルテミス2は新しい発見を探しに行く旅ではなかったと強調する。これは試運転であり、半世紀以上ぶりに人間を月の近くまで連れて行き、無事に連れ帰れるかどうか、その1点だけを確かめるための飛行だった。そして4人は再び自分の足で地球に戻った。
次のミッションであるアルテミス3は2027年の予定で、オリオンと月着陸船のドッキング試験が計画されている。2028年予定のアルテミス4では有人月面着陸が行われる。宇宙船と乗組員、関わった多くの人々にとっての「小さな一歩」は終わったが、「偉大な飛躍」はこれからだとして、動画は人類の飛躍がどこまで続くのかという問いで締めくくられている。
1972年にアポロ17号の乗組員が月に降り立ってから50年以上、人類は長い間月に足を踏み入れていませんでした。宇宙に行った人間こそ数多くいるものの、誰1人として地球軌道の外へ出ていませんでした。国際宇宙ステーションでさえ地球の表面からおよそ400km。それに対し月との距離はその千倍にも迫るおよそ38万km。宇宙全体にとってはほんの小さな距離ですが、人類にとってはとてつもなく大きな距離でした。しかしその常識が大きく変わる瞬間がやってきました。
日本時間の2026年4月11日、太平洋の海面に着水したとある宇宙船。そこに乗っていた4人の人間は人類史上最も遠い場所から帰ってきた人たちです。彼らは50年以上ぶりに月の裏側をその目で目撃したのです。そのミッションの名はアルテミス2。人類は再び月を目指しています。今回はアルテミス2についてご紹介したいと思います。
アルテミス計画。それはアメリカのNASAが再び月へ人間を送り込み、やがてはそこに住まわせるようにするための計画の総称です。それを実現するためのロケットはスペースシャトルの代替として開発されたスペース・ローンチ・システム、通称SLS、そして乗組員が乗る宇宙船はオリオンと呼ばれています。第1段階として2022年に実行されたアルテミス1は無人のオリオンを月まで送るという試験でした。それに対し今回のアルテミス2は人を載せた初めての試験飛行という位置づけになります。月面には降りず、ただ月の裏側を一回りして帰ってくる、それだけの宇宙飛行です。しかしそれだけのためにアルテミス1から3年以上の歳月をかけ、乗組員も4人選ばれています。そう、これは試験飛行。この4人の宇宙飛行士たちはある意味この宇宙船の性能を試すための生きた実験台とも言えるのです。
この宇宙飛行は本来であればもっと早く開始されるはずでした。初期の計画案では打ち上げは2020年頃。しかし2024年、2025年とずれていき、最終的に2026年4月に延期されることとなります。まだ見ぬ問題への対処。熱シールドと生命維持装置のトラブル。問題が公になるたびに数ヶ月後ろ倒しになる打ち上げ日。2026年2月にようやく本番さながらの予行演習がありましたが、液体水素の漏れが発覚。次の予行演習はやっと乗り切ったかと思いきや、その直後にヘリウムの流量異常。そのため打ち上げ当日、関係者は誰1人として心穏やかではなかったことでしょう。
2026年4月2日、午前7時35分。スペースシャトルのロケットエンジンRS-25が点火。そして遅れて固体燃料ロケットが点火すると、およそ2600tにもなる巨大な機体が加速を始めます。打ち上げから56秒後には音速を突破。そのおよそ1分後には固体燃料ロケットがその役目を終え、分離し落下していきます。そして打ち上げから8分後、SLSのメインエンジンが予定通り停止。切り離されて残ったのは乗組員が乗るオリオンとその推進に使う極低温ロケット。さらに打ち上げから18分後、合計1万5000個もの太陽電池セルを持つ4枚の翼が展開を始めます。この太陽光パネルにより、オリオンは生命維持装置や通信機器などを維持できる一隻の宇宙船となったのです。第1段階は大成功と言えるでしょう。
しかしそれも束の間、思いもよらないトラブルが乗組員を襲います。オリオン船内のトイレが突然警告音を鳴らし始めたのです。一説には開発に10年以上かけたと言われる宇宙のトイレでしたが、一時使用禁止に追い込まれました。なんとその原因は排水管を流れる汚水が凍ったことにより詰まってしまったとのこと。この詰まりを解消するために、乗組員はオリオンの角度を調整し、排水管が太陽光に当たるように操作する必要に迫られました。ある乗組員はこう語っています。「宇宙の配管工を名乗ることができるのは悪い気がしない。トイレはこの宇宙船の中で最も重要な設備かもしれない」と。これは実際笑い事ではなく、人類が月を始め本格的に宇宙を目指すためには避けて通れないことです。アポロ計画においてトイレはなく、開口部が粘着性のある袋で用を足した後、手動で殺菌剤を入れてから密封する必要がありました。2つの意味で漏れるのはよくある事件だったようで、例えばアポロ10号においては中身がプカプカと宇宙船の中を浮いているのが目撃されたと言います。当然月や火星など太陽系内を探索するためにもトイレは必須です。無人だったアルテミス1にはトイレなどなかったため、人を乗せて初めて故障するかどうかが判明する。そして実際に故障した。そしてこの故障があったことで次に生かすことができるのです。
ミッション2日目。ここでの作業は今回のミッションの中で最も重要なエンジン噴射と言っても過言ではない遷移軌道投入です。これはオリオンを地球の周回軌道から脱し、月へ向けて放つ操作です。必要な噴射はオリオンのメインエンジンを5分と50秒。これによりオリオンとその乗組員は月に向けての旅を開始することになります。ちなみにこの時オリオンがたどり始めた軌道は自由帰還軌道と呼ばれるものです。これは万が一この先エンジンが動かなくなったとしても、主に月と地球の重力の働きにより、オリオンは月の裏側をぐるりと回り、自然と地球に帰ってくることのできる軌道のことです。1970年、酸素タンク内の爆発により月への着陸を断念したアポロ13号が乗組員を無事に連れて帰ってきた時と同じ。半世紀前に起きた失敗からの経験が保険として機能している。宇宙開発とはこのような経験の積み重ねでできているのかもしれません。
ミッション3日目。月に向かって進むオリオンから、船長のワイズマンが窓の外に映る地球をカメラに収めています。黒い背景にまばゆいほどに輝く青い球体。シャッターが切られた瞬間、オリオンに搭乗中のたった4人を除いて全ての人類がこの写真の中に写っています。もちろんそれはあなたも含まれています。あなただけではなく、あなたの家族も友人も、今まで出会ったあの人も。そしてこの写真には青い地球とだけで片付けるにはもったいないほど多くの事象が捉えられています。地球の上側と下側の縁にうっすらと輝く緑色の曲線はオーロラ。太陽風が地球の磁気に従い北極と南極付近に集められ、そこで大気中の分子と衝突する際に生じる発光です。また地球の右下がやや明るいのは黄道光と呼ばれています。これは太陽の光が太陽系に散らばる塵に反射しているため。そのさらに右下に光る明るい点は金星です。金星や地球といった惑星も、黄道光の元となる細かな塵も、ほとんど同じ平面上に存在することがよく分かる写真でしょう。
さて、うっとりするほどの美しさを堪能した4人の宇宙飛行士ですが、彼らは観光しに行ったわけではありません。10日間のミッションの間、彼らは被験者でもありました。人間が最後に地球の磁場を離れたのは実に50年以上前。地球の磁場の外で強い放射線を浴びながら過ごした人間の体に何が起きるのか。骨は、骨髄は、睡眠はどう変化するのか。これらのデータを現代の医学の物差しで測定することができたのは人類の歴史上初めてのことです。中でも一際小さくも大きな実験がありました。それはAVATARと呼ばれるUSBメモリの大きさの装置です。中に入っているのは4人の宇宙飛行士それぞれの血液を作っていた本人の骨髄を模した細胞。乗組員自身の分身が本人のすぐ隣で全く同じ放射線を浴びている状態です。このように人間の細胞を搭載した装置が地球の磁場に守られた領域の外に飛び出すのは初めてのことです。これは今後のアルテミス計画にて月面で暮らすようになる時にも、火星へのミッションを実行する時にも、これ以上ない貴重なデータとなるでしょう。
また今回は蚊帳の外に感じる火星。しかし、火星表面にいるパーサヴィアランスにはある重要な任務が課されていたことをご存知でしょうか?この時火星は太陽を挟んで地球のちょうど反対側にいました。そこでパーサヴィアランスは太陽に向けてカメラを構えていたのです。この時の地球からは決して見ることのできない太陽の裏側、地球側、すなわちオリオンに今後向かっていく側に太陽フレアなどの危険な兆候がないかどうか。NASAはずっと、文字通り最も遠い場所からパーサヴィアランスを見張りとして活用していたのです。
ミッション6日目。ついに宇宙船オリオンは月の裏側を回りました。そしてこの頃、オリオンの乗組員は月が太陽を覆う日食も目撃しています。人間が日食を目撃する時は月の影の内側にいます。しかしこの時4人は、巨大な月が太陽を覆い尽くす様子を月のすぐそばから眺めていました。度重なる打ち上げの延期がなければ、もしかしたら人類はこの光景を見ることができなかったかもしれません。
またこの頃、オリオンはこのような光景も目にしています。三日月となった地球が月の地平線へと沈むように見える写真。いわば日の入りならぬ地球の入り。これは初めて月の裏側を通ったアポロ8号の乗組員が撮影した地球の出と通ずるものがあります。さらにそれだけではなく、この写真には月のクレーターや溶岩が冷え固まった跡も捉えられており、月の地形の研究にも大いに役に立つことでしょう。
視界から消えゆく地球。そしてそれは地球との通信が消えることも意味します。時間にしておよそ40分。この40分間は世界中の人間の中で最も孤独な4人です。
地球との距離は離れ続け、そしてついにおよそ40万6700km。これまで人類が地球から最も離れた距離を更新したのです。この宇宙の歴史の中で他の人間から最も遠いところにいた人間は、間違いなくオリオンに乗っていた4人の宇宙飛行士でした。
そして時間はあっという間に過ぎ、ミッション10日目。オリオンと4人の乗組員が地球に帰ってくる時がやってきました。しかし打ち上げと同様、ここでも落ち着いて見守ることのできた関係者はいなかったことでしょう。
宇宙から帰還する時、宇宙船は地球の大気に突っ込みます。その時の圧縮熱と摩擦熱により、宇宙船の表面は2000度を優に超えることとなります。その熱から宇宙船と人間を守るのが分厚い熱シールドです。ところが前回のアルテミス1、無人で飛び地球に帰ってきた宇宙船を引き上げてみると、このシールドが想定していなかった壊れ方をしていたのです。表面に無数のひび割れと一部が欠けた跡。その傷がもう少し深かったら、帰還時に宇宙船全体がバラバラになっていたかもしれない。あのスペースシャトル・コロンビア号のように。打ち上げの前、NASAは2択を迫られていました。熱シールドを設計からやり直し数年延期させるか、熱シールドはそのままで突入する経路を工夫するか。選ばれたのは後者でした。4人はその判断に文字通り命を預けたのです。
大気の分厚い壁に衝突するオリオン。宇宙船がプラズマに包まれ、無線は遮られます。後日、地上で見守っていた管制官の1人はこう語っています。「この宇宙船を連れて帰るのに不安を感じなかった人がいるとしたら、それは脈がなかっただけだ」と。その不安を払拭するように、オリオンの帰還は驚くほど予定通りに行われ、太平洋の海面にふわりと降りたオリオンから4人の宇宙飛行士が次々と出てきます。こうして宇宙船や乗組員、関わった多くの人のほんの小さな一歩は終わりました。
しかし偉大な飛躍はまだこれからです。アルテミス2は新しい発見を探しに行く旅ではありません。これは試運転。半世紀以上ぶりに人間を月の近くにまで連れていき、無事に連れて帰ることができるかどうか。その1点だけを確かめるための飛行でした。そして4人は地球に再びその足で戻ることができました。
アルテミス計画の次のミッション、アルテミス3は2027年の予定。次はオリオンと月着陸船のドッキング試験が予定されています。そして2028年予定のアルテミス4では有人月面着陸が行われます。人類の飛躍は一体どこまで続くのでしょうか?今回のバイエンスはここまで。またお会いしましょう。
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