人手不足の日本を宇宙から支える衛星データ活用の最前線

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概要

少子高齢化に伴う労働人口の減少と、高度経済成長期以降に整備されたインフラの老朽化は、現代の日本が直面する深刻な社会課題である。限られた人員と予算の中でいかに広範なインフラを維持管理していくかという問いに対し、人工衛星から得られるデータを活用したソリューションが実用段階に入りつつある。宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長の中村友弥氏、スカパーJSATの穴原琢摩氏、天地人のAIテックリードの中村凌氏の議論から、衛星データの基本構造と、地盤監視や水道インフラ保全における具体的な実装事例、そして産業としての課題を整理する。

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3つに分類される人工衛星とデータ活用の基礎

人工衛星が提供する機能は、大きく「通信」「測位」「地球観測」の3種類に整理される。

通信衛星は、地上の通信網が届かない山間部、海上、航空機内などにインターネット環境を提供する。災害時などに地上の基地局やケーブルが途絶した際、バックホール回線として機能する役割も担っている。

測位衛星は、地図アプリやカーナビゲーション、自動運転に不可欠な位置情報を提供する。端末側が4機以上の衛星からの電波を捉えることで現在地を特定する仕組みだが、高層ビル群などでは電波が遮られ精度が落ちることがある。日本では準天頂衛星「みちびき」がほぼ真上(天頂付近)から電波を送信することで、都市部や山間部でも高い測位精度を補完している。

地球観測衛星は、上空から地表を撮影・観測する。商用で精度の高いものでは1ピクセルあたり30cm四方を識別できる解像度を持ち、地上を走る車の台数カウントや植物の生育状況の把握、地表面温度の計測など多角的なデータ収集を行う。

地球観測で用いられるデータには、主に以下の3つのタイプが存在する。

  • 光学データ(可視光・近赤外線):人間の目で捉えられる赤・緑・青の波長に加え、目に見えない近赤外線の波長を取得する。植物の活性度が把握できるため、青森県での米や山口県での小麦の品質管理、農作物の収穫適期の見極めに活用されている。また、港湾の船舶数や駐車場などの状況を把握し、金融機関が先物取引の判断材料に使う事例もある。
  • 熱赤外線データ:地表面から放射される熱を捉え、温度分布を可視化する。
  • SAR(合成開口レーダー)データ:衛星自身からマイクロ波を地表に向けて照射し、跳ね返ってきた電波を測定して地表の形状や状態を捉える。

SARデータは雲を透過するため、悪天候時や夜間でも地表を観測できる強みがある。降雨後の浸水状況の把握や、地盤の隆起・沈下といったミリ単位の微細な変動を捉える用途に適している。


25:15

衛星データビジネスが直面する高解像度化とコストの壁

衛星データの利活用において、AIの導入が期待される一方で、地上向けAI技術をそのまま転用することには経済的なハードルが存在する。スマートフォンの写真は無料で何枚でも撮影できるが、AIが学習・推論しやすい高分解能(細部まで鮮明に映る)な商用衛星画像は、1枚の取得に数万円から数十万円のコストがかかる場合がある。

解像度の粗い衛星データは安価、あるいは無料で入手できるものも多いが、一般的な画像認識AIは細部まで情報が揃っていることを前提に設計されているケースが多い。そのため、高価な画像を購入してAIに処理させるモデルでは、持続可能な事業として採算を取ることが難しくなる。安価で粗いデータからいかに必要な情報を抽出できるか、あるいは取得したひとつのデータを複数の用途に横展開して価値を高められるかが、実ビジネスにおける重要な分岐点となっている。


27:28

スカパーJSAT「LIANA」:地盤変動をミリ単位で検知する仕組み

通信衛星ビジネスを展開してきたスカパーJSATは、新たな成長領域として地球観測衛星データの解析事業に進出し、地盤変動モニタリングサービス「LIANA(リアーナ)」を提供している。

LIANAはSAR衛星データを用い、地盤の変動量をミリメートルからセンチメートルの精度で数値化する。衛星は秒速約7kmで周回しているため、東京23区全域の広さであれば約7秒の観測データから変動を捉えられる。地上の作業員が歩いて点検することが困難な山間部や斜面の崩壊兆候、鉄道沿線、空港滑走路の微細な傾斜監視などに用いられている。例えば空港の滑走路は縦横の傾斜や機体の翼が接触しないための高さ制限が厳密に管理されており、人手による測量では滑走路を一時閉鎖する必要があるが、衛星観測であれば運用を止めることなく定期的な監視が可能になる。

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アルゴリズム改善による1660倍の高速化とコスト削減

SARデータは、衛星が受信した直後は電波の反射情報が複雑に混ざり合った状態にあり、通常はこれを画像として再構成(展開)した上で解析を行う。業界で広く用いられている汎用解析ツール「ENVI SARscape」を使用した場合、一定範囲の解析計算に約80時間を要していた。

スカパーJSATでは、衛星運用のノウハウを背景に独自の解析アルゴリズムを内製開発した。本来は複素数として扱うべき波動データについて、あえて実数計算で処理することで計算速度を劇的に向上させつつ、実数化によって生じる特有の誤差の規則性を特定し、それを補正する軽量なステップを組み込んだ。この結果、計算結果の精度を同等に保ちながら、従来80時間かかっていた処理を約1時間に短縮した。処理工程全体としては、一般的な解析と比較して最大1660倍の高速化を達成している。

この処理時間の短縮は、解析に必要なクラウドコンピューティングのリソース削減に直結する。日本全国規模で継続的な監視を実施しようとすると従来は数千万円から億円単位の計算コストが発生していたが、自社アルゴリズムによってコストを大幅に抑制することに成功した。従来は1回あたり1,000万円規模の費用がかかっていた斜面解析を数十万円単位で提供できるようになり、自治体や事業者が導入しやすい価格設定を実現している。

なお、LIANAのサービス提供にあたっては、地盤データの評価や現場での利活用に強みを持つ建設コンサルタント最大手の日本工営、および高精度な地図情報を提供するゼンリンと提携し、解析結果を実際のインフラ保全の意思決定に直結させる体制をとっている。


21:23

天地人「宇宙水道局」:複数データの掛け合わせで漏水リスクを可視化

JAXA認定ベンチャーである天地人が開発した「宇宙水道局」は、老朽化が進む水道管の漏水リスクを診断するWebGISプラットフォームである。

高度経済成長期に集中的に埋設された水道管の多くは法定耐用年数(40年)を超えつつあり、老朽管の破裂や漏水事故が全国で相次いでいる。しかし、地方自治体の土木・水道担当職員は減少傾向にあり、すべての埋設管を現場で点検・更新することは財政的・人員的に不可能な状態に陥っている。音聴棒を道路に当てて漏水音を聞き分ける従来の現場調査には多大なコストと専門技能が必要とされる。

宇宙水道局は、以下の多様なデータを組み合わせて機械学習(AI)モデルを構築し、漏水リスクを「A」から「E」の5段階で評価・可視化する。

  • 衛星データ(地表面温度、地盤変動など)
  • 地上・環境データ(人口密度、標高など)
  • 管路データ(埋設年数、管種、用途など)

例えば地表面温度データは、寒冷地における管内の凍結リスクの評価に有効である。水道管内部で水が凍結すると体積膨張によって管に高い圧力がかかり、破損の原因となる。こうした熱的・物理的要因を統計的に分析することで、広範なエリア(メッシュ単位)および個別の水道管(管路単位)のそれぞれについて相対的な危険度を算出する。

自治体の担当者は、管理画面上で危険度が高いエリアや特定の管路を特定し、優先的に現場調査や更新工事を行う計画を立案できるようになる。これにより、限られた予算と人手をリスクの高い箇所へ集中投下することが可能となった。


46:07

衛星データビジネスの勝ち筋と実用化に向けた課題

現在、国内外で観測衛星の打ち上げ数が増加し、小型衛星コンステレーションの構築が進んだことで、同じ地点を再訪・観測できる頻度は大幅に向上した。また、国土交通省などを中心に地上のインフラデータや地理空間情報のオープン化が進み、衛星データと地上データを容易に組み合わせられる開発環境が整いつつある。

一方で、ビジネスとして成立させるためには明確な課題も残されている。

第一に、衛星データの解像度と顧客ニーズの不一致である。衛星が上空から撮影している以上、細部を判別する解像度には物理的な限界がある。個人の敷地の草木の伸び具合や微小な変化など、現場の人間が直接目視したほうが早く正確に把握できる領域に衛星データを導入しようとしても、高い費用対効果は得られない。

第二に、収益化の壁である。衛星画像の閲覧ツールとして「Google Earth」が広く普及したことで、一般ユーザーの間では衛星画像は無料で閲覧できるものという認識が定着している。しかし、高解像度の最新データを定常的に取得し、専門的な解析を加えて提供する企業側は、相応の対価を得なければ事業を継続できない。

この課題に対し、穴原氏と中村凌氏は、何でもできる汎用的なツールを掲げるのではなく、顧客が抱える切実な課題に特化した強み(とんがり)を持つことが不可欠であると指摘する。天地人が「水道管の漏水検知」に特化して自治体の実務プロセスに深く入り込み、スカパーJSATが「圧倒的な処理速度と低コスト化」によって導入障壁を引き下げたように、特定の業務課題に対する明確な解決策と経済合理性を提示できるかどうかが、衛星データ活用を一時的な実証実験で終わらせず、社会インフラとして定着させるための鍵を握っている。