フジツボは人間の体で繁殖できるのか

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概要

磯の岩をびっしりと覆うフジツボを見て、気味の悪さを覚える人は多い。そこから「もしフジツボが人の体に付着して増えたら」と想像する人もいるだろう。この動画は、フジツボが住む場所をどう選び、何を条件に生きているのかを順に説明し、そのうえで人体での繁殖が可能かを考える。結論として、ふつうのフジツボが人体で繁殖することは現実的にはきわめて考えにくいとする。ただし、宿主の体内に入り込むように進化した寄生性の仲間がいることにも触れている。

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フジツボは貝ではなく甲殻類

前提として、フジツボは貝ではない。殻を持つ小さな貝のように見えるが、分類上はカニやエビに近い甲殻類の仲間である。

岩に張り付いた成体の姿からは想像しにくいが、フジツボは生まれたときから動かないわけではない。卵から孵化した個体はノープリウス幼生として海中を漂い、植物プランクトンを食べながら脱皮を重ねる。やがて付着に特化したキプリス幼生になる。一度付着すると動けないため、幼生期にどこに住むかを選ぶことは、フジツボにとって一生を左右する出来事だと動画は説明する。

幼生は仲間のシグナルを段階的に読み取る

キプリス幼生は触角を使い、岩などの表面を探るように歩き回る。触角の先端には感覚器があり、水の流れや化学的な情報、表面の状態を感知していると考えられている。フジツボはそこが住める場所かどうかを慎重に確かめているというのが動画の見方である。

手がかりとして重要なのが、着生誘起タンパク質複合体(SIPC)だ。フジツボは仲間が分泌するSIPCをもとに、近くに仲間がいることを知ると考えられている。

さらに近年の研究では、幼生が付着場所を一度に決めているのではないらしいことが分かってきたという。まず海水中に広がる着生フェロモンを手がかりに「この辺りに仲間がいそうだ」と近づき、次に基質表面のSIPCの量から「本当にここでよいか」を見極める。フジツボは偶然たどり着いた場所に付着するのではなく、環境中に漂う仲間からのシグナルを段階的に読みながら付着場所を決めている、と動画は述べる。

船底はなぜ付着しやすいのか

ただし、判断材料は仲間からのシグナルだけではない。付着する表面の状態も重要な条件であり、それを分かりやすく示す例として動画は船底への付着を挙げる。

船底は硬く安定しており、長時間海中にある。幼生が表面付近を漂い、付着し、成長するだけの時間がある。さらに、海に浸かった基質の表面にはイオンや有機分子、細菌や珪藻などが集まって生物被膜ができ、これも付着を判断する手がかりになる。フジツボにとって船底は、海の中に浸かり続ける巨大な人工の岩場と言える。いったんしっかり付着すれば、波を受け続けても簡単には離れない。動画はこれを、動けない代わりにその場に居続ける力を磨いてきた結果だと表現している。

クジラの体表に乗るという生き方

一方、クジラに付くフジツボは、人工物ではなく生き物の体表に乗る生き方を選んでいる。クジラの皮膚は岩や船底と違い、新陳代謝で細胞が常に入れ替わる。それでもフジツボが見られることから、クジラへの付着は宿主との関係の中で理解する必要があると動画は指摘する。

船とクジラに共通するのは、表面に水の流れがあり、プランクトンが運ばれてきやすい餌場になりうることだ。フジツボは殻の中から脚を広げて水をかき、流れてくるプランクトンや有機粒子を捕らえる。自分は動かず、海に餌を運ばせるのもフジツボの生存戦略の一つである。フジツボにとって大切なのは何かに付くことそのものではなく、そこで餌を得て生き続け、繁殖しながら生息範囲を広げていくことだと動画は述べる。

人体での繁殖が難しい理由

ここで本題に戻る。フジツボは人体で繁殖できるのか。動画の結論は、現実には非常に成り立ちにくいというものだ。

理由として、次の点が挙げられている。人の皮膚は岩や船底のような物理的に安定した表面ではなく、定期的に新しい細胞に置き換わる動的なバリアで守られている。人はクジラのようにずっと海中にいることもできない。さらに、一般的なフジツボが育つには海水と十分な酸素が欠かせない。そのため、万が一傷口などからフジツボが体内に入ったとしても、そこで生き続けることは難しいとする。

宿主の体内に入り込む根頭類

ただし話はここで終わらない。フジツボ類の中には、表面に付着して暮らすのではなく、宿主の体内へ侵入する方向に進化した仲間がいる。それが根頭類である。

根頭類の幼生は宿主の表面に取り付いた後、寄生に特化した発生段階を経て、宿主の体内に自らの細胞塊を送り込む。そして「インテルナ」と呼ばれる、木の根のようなネットワークを体内に広げる。根頭類にとって付着は入り口にすぎず、目的は宿主の体内に入ることだと動画は説明する。

根頭類が宿主に与える影響は強烈だ。カニやヤドカリなどの宿主から栄養を奪って成長するだけでなく、宿主の生殖機能を奪い、脱皮を阻害し、オスの場合は体つきをメスのように変えてしまうことが報告されている。行動まで変えてしまうこともある。

その代表例がフクロムシである。フクロムシに寄生されたカニでは、寄生体の本体はカニの体内に張り巡らされ、外からは袋状の器官だけが腹部に現れる。カニはそれを自分の卵のように守りながら暮らし、最後には幼生を海へ放つ手伝いまでしてしまう。

宿主操作の仕組みはまだ解明途中

こうした影響がどのような仕組みで起こるのかについて、これまでの知見では、フクロムシが宿主の神経系や内分泌系をかく乱することで影響を及ぼしていると考えられている。それを裏付ける知見の一つとして、宿主の神経組織の近くで特殊な形をしたインテルナが見つかっており、これが宿主を操る司令塔のように機能していると考えられている。

最近の研究では、この部分で発現する遺伝子や分泌される化合物が調べられ、原因物質の候補は絞られてきているという。ただし、それらの候補物質が宿主の生理機能や行動にどう影響しているのかは、まだ十分には理解されていないと動画は述べている。

寄生性フジツボが人に感染する可能性

では、根頭類が人に感染することはないのか。動画は、メカニズムがはっきり分かっていない以上、絶対に起こらないとは言い切れないとする。一般的なフジツボと違い、根頭類は他の動物の体内環境に適応しているからだ。

とはいえ、こうした寄生関係は非常に長い時間をかけて築かれるものであり、根頭類は人とは体のつくりが大きく異なる甲殻類に特化している。そのため、人に寄生する仕組みにはなっていないと考えるのが自然だというのが動画の見解である。実際、これまでに寄生性フジツボが人に感染した症例は報告されていない。

ふつうのフジツボの変わった繁殖方法

最後に動画は、ふつうのフジツボの繁殖にも触れる。岩に張り付いて動けないので外部受精で済ませていそうに思えるが、多くのフジツボは雌雄同体で、近くの相手と交尾し、体内受精に近い形で繁殖する。そのために進化したのが、体に対して異様に長い交尾器である。動けないまま他の個体と遺伝子を混ぜるために、仲間との距離の近さを前提にした繁殖の仕組みを進化させてきたのだろう、と動画は推測している。

さらに潮間帯で暮らすフジツボは、干潮時の乾燥にも耐えなければならない。殻を閉じて水分を守り、波に耐え、海中を漂う餌を捕らえ、繁殖期にはすぐ近くの個体と交尾する。動画はフジツボを、動けないままその場で生きるという極端な答えを出した生き物だと評し、その戦略は海流や周囲の生き物の存在まで利用し、生き残るだけでなく繁殖や分散まで見据えて組み立てられていると述べる。

そして、少なくとも今のところは、フジツボの側も人間の体は住みにくいと判断しているようだ、と締めくくっている。