マンション高騰の深層にある「非居住化」と転売構造——誰が価格を押し上げているのか

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概要

近年続くマンション価格の高騰に対し、資材高や人件費の上昇、外国人投資家による買い占め、転売業者の横行など、さまざまな要因が取り沙汰されてきた。明治大学教授の野澤千絵氏とスタイルアクト代表の沖有人氏は、実際の不動産登記簿やビッグデータを基に議論を行い、その背景には「非居住化」の急速な拡大と、それを支える金融構造が存在していると指摘する。

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「住むための住宅」が失われる非居住化の実態

都市政策を専門とする野澤氏は、都市再生や再開発に伴う公共投資によって供給された住宅が、本来そこに住むべき人々の手に渡っていない現状に問題意識を持ち、「非居住化」という視点を提示した。野澤氏によると、非居住化には大きく分けて2つの意味がある。1つは自己の居住目的ではない個人や法人が所有することであり、もう1つはたまに利用する程度で普段は空室のまま放置されるなど、実質的な生活拠点として使われない状態を指す。

この指摘に対し沖氏は、投資目的であっても第三者に賃貸されて入居者が生活している状態であれば、住宅としての機能を果たしているため問題は少ないとの見方を示す。一方で、完全に使われない空室や、資産価値の保全・所有欲のために維持されているセカンドハウスに対しては、空室税や贅沢税のような課税を検討してもよいのではないかと論じる。

野澤氏が実際の登記簿を追跡調査した結果、近年のマンションにおける非居住化の進行が浮き彫りになった。東京都千代田区(高級住宅街である番町エリアを除く一般的なエリア)の築浅マンションを調べたところ、自己居住目的で購入した個人の割合は35%にとどまり、法人が35%、非居住の個人が30%を占めていた。これに対し、約10年前に斜め向かいに建設された同ブランドのマンションでは、83%が自己居住者であり、住宅ローンを組んで購入していた。

同様の傾向は大阪市中心部でも見られる。子育て層に人気がある大阪市西区のマンションでは、10年前は購入者の約7割が居住目的だったが、近年供給された物件では42%まで低下し、法人の割合が2%程度から30%以上へと激増していた。さらに登記簿上では、わずか11カ月ほどの短期間で法人から法人、あるいは非居住個人へと転売が繰り返され、実際に住む意思のある人に住宅が渡らないまま価格が釣り上げられている実態が確認された。

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マンションの金融商品化と短期転売の手法

沖氏の分析によれば、首都圏の新築マンション供給戸数は過去のピーク時に比べて約4分の1に減少している。新築用地の供給自体が限られているうえ、まとまった土地が出てもホテルやオフィスと競合するため、住宅用地の確保が難しい。このように供給が絞られた市場に、過剰な資金を手にした転売目的の買い手が参入したことで、価格が高騰したと沖氏は説明する。

富裕層や法人の間では、マンションが高級外車(メルセデス・ベンツGクラスやフェラーリ)や高級時計(ロレックスやリシャール・ミル)と同じように、「保有していても価値が落ちない、あるいは値上がりが見込める資産」として扱われている。10年ほど前にもタワーマンション節税などを目的とした購入は見られたが、当時は賃貸市場に出されて入居者が居住するケースが一般的だった。

しかし直近の2〜3年では、新築や築浅の物件にリフォームなどの付加価値(バリューアップ)を施すことなく、そのまま短期間で転売して差益(サヤ)を抜く取引が急増した。沖氏は、関係者が徒党を組んで最初から高い売り出し価格を設定し、何の努力もせずに利益を得る構造に変質してしまったと指摘する。

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実需向け中古市場や郊外への波及

この非居住化と短期転売の波は、都心の超高級物件にとどまらず、一般の給与所得者や子育て世帯が実需で購入する中古マンション市場にも及んでいる。

野澤氏が調査した千代田区の築12年ほどの中古マンションでは、もともと居住していた個人が手放した住戸を、法人が買い取って短期再販する事例が確認された。本来であれば宅地建物取引業の免許を持たなければ反復継続した不動産売買は行えないはずだが、登記上ではロボット関連の一般企業が同一マンションの住戸を4件も買い取り、転売しているケースも見られたという。

さらに野澤氏は、墨田区や板橋区といったエリアの駅近物件でも同様の調査を実施した。これらの物件は2億円を超えるような高額物件ではなく、共働きのパワーカップルや子育て世帯が無理なく検討できる価格帯の中古マンションである。しかし登記簿を追うと、居住していた個人から買い取った法人が短期で再販し、最終的に非居住の個人へと転売されているケースが散見された。

沖氏によると、買取再販を行う場合、仲介手数料(往復で約6%)、登録免許税、固定資産税、借入金利などの諸経費がかかるため、事業者が利益を得るには最低でも売買価格を2割以上引き上げなければ計算が合わない。築10年程度であればリフォームを行わなくてもそのまま流通させることが可能であるにもかかわらず、中間に転売業者が入ることで、実需層が直接購入できたはずの物件が2,000万円規模で価格を吊り上げられた状態で市場に再投入されている。

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高騰の背景にある「三位一体」と金融機関の役割

マンション高騰の原因について、外国人投資家による買い占め説も根強く存在する。この点について野澤氏は、買い占めと呼ぶほどの規模ではないものの一定の影響はあると話す。国土交通省の調査では新築時の一次取得者(保存登記時の住所)のみを対象としているため数字に表れにくいが、野澤氏の追跡調査では、国内の法人や非居住個人が購入した直後に台湾などの海外個人へ転売されている事例が確認された。さらに、日本国内に拠点を置く外資系銀行が、こうした外国人購入者向けに住宅ローン商品を開発して融資を実行している事実も明らかになった。

沖氏は、マンション高騰は「売る側(デベロッパーや仲介会社)」「転売屋(法人・個人)」「融資を行う金融機関」の三位一体によって引き起こされたと結論づける。

不動産業界内部における自浄作用について、野澤氏は業界内での売り方のルール化やガイドライン制定の可能性を問いかけたが、沖氏は不動産業界における性善説は機能しないと反論する。仲介会社にとっては、転売を繰り返す資産家や法人に物件を仲介すれば、仕入れと売却の双方で手数料(両手取引)を得て巨額の利益を上げられるため、自発的に取引を制限する動機が働かない。大手デベロッパーであっても、一般販売の前に転売屋へ非公開(アンダー)で物件を流す事例が存在してきたという。

したがって、高騰を抑えるための鍵は資金供給元である金融機関の規制にあると両者は一致する。野澤氏と沖氏が転売物件の抵当権を分析したところ、大手都市銀行やメガバンクは短期転売への融資を行っておらず、過剰な資金を供給していたのは一部の信用金庫、信用組合、ノンバンク、そして特定の地方銀行だった。

バブル的な高騰は手元資金だけで起きるものではなく、過剰な融資が供給されることによって発生する。沖氏は、1年以内の短期で抵当権が抹消された融資について金融機関から金融庁や国税庁へ報告を義務付けるなど、金融面からの引き締めを行うことが最も実効性のある転売対策になると提言する。足元では金融行政の監視によって転売向け融資が絞られつつあり、価格高騰は一時的な小康状態に入っているが、本来誰のための住宅であるのかという根本的な制度設計の議論は依然として残されている。