転職にキャリアコーチングは必要か――「構造的に難しい」と話者が考える理由

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概要

50万〜100万円ほどかかるキャリアコーチングは、転職活動に必要なのか。転職領域の取材を5〜6年続けてきたという話者「さめ」は、転職という文脈に限れば「ほぼ意味がない」と考えている。ただし特定の会社を批判する意図はなく、事業者に悪意があるとも思っていないと断っている。現場のコーチには崇高な理念を持つ人が多いと認めたうえで、仕組みとして情報弱者ビジネスに似た構造になりやすい、というのが話者の問題提起である。

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一方で、時間とお金をかけて自分を見つめ直したい人、いわば「哲学したい人」であれば利用してもよいとも述べる。この動画は、転職を考えている視聴者に向けて注意を促すものだという位置づけである。

キャリアコーチングの分類

話者は、自身の観察からキャリアコーチングを大きく2種類に分ける。1つは「マインド系」で、ライフコーチングとも呼ばれる、人生と向き合うタイプである。もう1つは転職の支援に特化した「転職支援系」だ。

マインド系はさらに2つに分かれるという。1つは「穏やかな寄り添い系」で、自分をよく知り、自分の本質に気づこうとするタイプ。もう1つは「オラオラ系」で、マインドブロックを壊し、コンフォートゾーンを超えたゴールを設定しようと促すタイプである。話者は、この3種類のいずれも転職活動をする人にとってはあまり意味がないと考えている。

判断の根拠となった利用者インタビュー

話者は自分の見方を「独断と偏見」と呼びつつ、その根拠として、1〜2年前に5〜6人ほどの利用者に話を聞いた経験を挙げる。当時、話者自身もキャリアコーチングには大きな意味があるのではと考え、自分で事業化することを検討していた。そこで、比較的名の知れたコーチングを受けた人たちに、実際に使ってどうだったかをインタビューした。その結果、「微妙だ」「ビジネスとして歪になりやすいのではないか」と感じたという。

そこから導かれた主な理由は3つある。金額が高すぎること、自己分析に時間をかけすぎること、そして座組みが情報弱者ビジネスに陥りやすいことである。

理由1:金額が高すぎる

話者の把握する相場では、2〜3カ月の支援で50万〜80万円、高いところでは100万円ほどかかる。志望業界や志望企業の内定、年収アップを確約してくれるならこの金額を払う価値はあるかもしれない。しかしインタビューで聞いた実態は、内容のほとんどが自己分析だったという。

話者は「無意味とは言わない」としながらも、自己分析が中心のサービスに50万〜100万円は見合っていないのではないか、と疑問を呈する。

理由2:自己分析に時間をかけすぎる

2つ目の理由は1つ目とつながっている。話者によれば、転職活動では自己分析にそこまで深入りする必要はない。転職活動は「スピードが命」だからである。

その根拠として話者は2点を挙げる。第一に、転職を考える人のほとんどは忙しい。転職が必要な時期は仕事が忙しいことが多く、婚活や結婚、子育てといったライフイベントと重なることもある。第二に、「残酷な真実」として若い方が選択肢が多く有利である。タイムリミットがある中で、適当ではいけないにせよ素早く進める必要があり、3カ月かけて自己分析するのは厳しいという。

さらに話者は、転職活動の原理原則として「自己分析よりも業界研究・企業研究の方が明らかに大事」だと強調する。極端な例として、自己分析を3カ月みっちりやり業界・企業研究は土日で軽く済ませた人と、その逆の人がいたとする。話者の見立てでは、後者の方が志望企業選びも的確になり、内定にも近づく。したがって時間は業界研究と企業研究にこそ割くべきだ、というのが話者の主張である。

理由3:無料面談と分割払いという座組み

話者が最も気にしているのが3つ目の理由で、多くのサービスに共通する「無料面談」と「ローンによる分割払い」の組み合わせである。多くのサービスでは、まず無料面談に来てもらい、そこで契約を決めてからコーチがつく。そして無料面談の担当者とコーチが別人であるケースが非常に多いと話者は見ている。支払いについても、本来は2カ月で50万〜80万円かかるところを、分割にすれば月々の負担は小さく見える仕組みになっている(字幕では「月々12万」と表記されているが、文脈上は月1〜2万円の意と思われる)。ローンである以上、総支払額は一括払いより高くなる。

話者がこれを「危うい」と考えるのは、企業である以上は利益の拡大を狙うためだ。話者は「もし自分が売上拡大だけを狙う経営者なら」という仮定で手順を説明する。まず広告やSNSで集客するが、その際は意思決定が得意でない人や、相手の意見に流されやすい人を集める。自分探しや自己理解、コーチングといったテーマはこうした層と相性が良すぎるので、集客は容易だという。次に無料面談に、押しの強い営業担当を配置してクロージングする。

ここで分割払いが「悪さをする」と話者は言う。50万〜60万円を一括で求められれば、「今は手持ちの金がないので後日」と断れる。ところが分割払いがあると、「お金がない」という断り文句が使えなくなる。キャリアに前向きな人なら、生活をぎりぎりまで切り詰めれば用意できてしまう金額で、ちょうどクロージングされてしまう範囲に入る。

さらに、インタビューでは次のような体験談も聞いたという。無料面談の担当者は切れ者で憧れるような人だったのに、いざコーチングが始まると眠そうな新人が出てきた、というものだ。話者は、人件費を抑えるなら全員を優秀な人材で固めることはできないため、クロージング担当にだけ切れ者を置き、契約後のコーチは途中解約されない程度のコミュニケーション能力がある人にする、という配置になりがちだと推測する。全部のサービスがそうだとは言わないが、傾向としてそうなりやすい、と話者は述べる。

話者は、分割払いそのものを全面否定しているわけではない。内定や年収アップまでコミットするサービスなら、お金を借りてでも受ける意味があるかもしれない。英語講座やプログラミングのように、身についたものを客観的に示しやすいサービスの分割払いも否定しない。しかしキャリアコーチングは提供するものが抽象的で、中心は自己分析だ。そうしたものにローンを組ませることに、話者は疑問を持つ。事業者側は「手持ちのお金がない人にも広く使ってもらうため」と説明するかもしれない。しかし話者は「邪推ですが」と前置きしたうえで、実際には無料面談でのクロージングを取りこぼさないためではないかと見ている。そして、キャリアコーチングがあってもよいとしても、分割払いはやめた方がよいと個人的には思う、と述べる。

「自分をよく知ろう系」が転職に向かない理由

ここから話者は、3種類のコーチングそれぞれの問題点を掘り下げる。

穏やかな「自分をよく知ろう系」では、幼少期を振り返ったり、価値観・才能・夢中になれることが分かるといった100個の質問に答えたりして、自分の本質に気づくことを目指す。受講後は「自分はこういう人間だ」という自己理解が深まった状態になる。

話者はこのニーズの根深さを理解していると言う。人類はかつて、生き延びること、飢えないことに悩んでいた。その悩みを脱し、衣食住が満たされた今の時代に残った「最後の悩み」が、自分らしく生きるにはどうすればよいかという問いだと話者は見る。他人と比べて落ち込むことはあっても、衣食住を十分に満たせない人はこのチャンネルの視聴者にはほぼいないだろう、とも述べる。

それでも転職には不要だというのが話者の立場だ。効果の弱さに比べて時間がかかりすぎるうえ、幼少期や100の質問のような内容は面接ではまず問われない。加えて話者が気にするのは、この種の自己分析をした人が「自分には変えられない本質がある」と思い込みすぎることである。過去や親のせいで自分はこうなった、小学生の頃から陰キャでコミュニケーションが苦手だから営業なんてできない、といった考えに陥りがちだという。提供者がそれを望んでいるわけではないだろうが、結果としてそうなりやすい、と話者は見ている。

話者によれば、20代や30代の人格は大きく変わる。仕事を通して思ってもみなかった自分に変わっていくことこそ仕事の醍醐味であり、変えられない本質があると思い込むのはむしろ害悪かもしれない。例として話者は、コミュニケーションが苦手だった人が丁寧なコミュニケーションを身につけ、トップ営業になるのは「あるある」だと挙げる。全く無意味ではないが、転職においてはコスパもタイパも悪すぎる、というのが話者の結論である。

「マインドブロック壊せ系」が転職に向かない理由

話者は、「マインドブロック壊せ系」の方が転職活動においてはさらに意味がなく、害になりやすいとまで言う。このタイプも自己理解から始めるが、最後は「現状の外側に、これまでの人生の延長線上にないゴールを設定しよう。良いゴールが設定できれば自然と行動できる」という流れになりがちだ。受講後の人は「俺の可能性は無限大だ」という高揚した状態になっているという。

それ自体は悪くないと話者は言う。儲かっていて、お金と時間に新しいことへ挑戦する余力がある経営者や個人事業主なら、売上1.5倍ではなく10倍の事業計画を考えてみるのは良いことだ。しかし会社員の転職はそうではない、と話者は述べる。

会社員として転職を考える人には、無限の選択肢はなく、選択肢は限られている。ただし話者はこれを悲観的な話としては語らない。選択肢が限られているということは、選択肢が明確で、一定の正解があるということでもある。逆に経営者や個人事業主の「可能性は無限大」とは、選択肢が曖昧で答えがなく、リスクが大きいとも言える。

「スペックで8割決まる」という原理原則

話者が「大きな声では言えない」と前置きして示すのが、転職先の範囲は年齢・職歴・学歴・転職回数といった「スペック」でおよそ8割決まる、という見方である。

具体例として話者は2人を比較する。1人目は27歳で大手企業に勤め、新規開拓を含む法人営業の経験があり、立教大学出身で転職回数0回。このような人は、話者が勧めているSaaS業界やコンサル業界にどんどん転職できるという。2人目は34歳で中小企業に勤め、法人営業ではあるが新規開拓はあまりせず既存顧客へのルートセールスが中心。学歴はやや弱めで、転職回数は2回。一見大きな違いはないように聞こえるが、この場合はSaaSもコンサルも転職がほぼ難しくなる、と話者は言う。

業務内容やスキルを詳しく棚卸ししなければ分からないだろう、という反論も想定している。しかし話者は、転職市場に詳しい人にとっては当然の話だと答える。自身の転職から数えてYouTubeの取材も含め10年ほど転職市場を見てきた経験から、どの企業に入れるかは頑張りや準備次第だが、どのあたりの業界に行けそうかはスペックでおおよそ決まってしまう、と述べる。だからこそ、「自分には無限の可能性がある」と高揚しても意味がないというわけだ。

限られた選択肢と「後出しじゃんけん」

話者は、選択肢が限られていることの裏側にある会社員の利点も強調する。それが「後出しじゃんけん」ができることだ。誰かがリスクを負って起業したA社、B社、C社を見比べ、B社がうまくいきそうだと分かったうえで後から乗れる。起業家には、うまくいっている会社を見て「株をもらって経営させてくれ」と言うことはできない。勝ち馬に後から乗れる代わりに選択肢は限られる、というのが話者の整理である。

この前提に立つと、転職活動は「自分のスペックで決まった手札の中から最良のカードを選ぶゲーム」になる、と話者は言う。どんなカードが何枚あり、それぞれの中身がどうなっているかを知ることが業界研究・企業研究にあたる。そして、自分がどういう状態かを理解するよりも、そちらの方が明らかに大事だという。前半で述べた「自己分析より業界・企業研究」という原則は、ここにつながっている。50万円と3カ月をかけて自己理解を深めたり、マインドブロックを外して「どんなカードでも選べる」と思い込んだりしても、選べるカードは同じだ、と話者は指摘する。

転職支援系の問題1:転職エージェントが優秀で無料

では、転職に特化した転職支援系のコーチングならよいのか。話者はマインド系よりはましだと認めつつも、使う理由はあまりないと考える。その理由として、構造的な問題を2つ挙げる。

1つ目は、転職エージェントが優秀なのに無料であることだ。キャリアコーチングと転職エージェントのどちらを使うか迷う人は多いが、コーチングを選ぶべき人はほぼいないのではないか、と話者は言う。転職エージェントはピンキリだが、全体としてかなり良くなっていると話者は見ている。話者が初めて転職活動をした2015年頃から約10年で、登録している事業者は3万社ほどに増えた。レッドオーシャンで激しく競争した結果、悪いところは次々に潰れ、業界はかなり健全化したという。自己分析を入念にやってくれるエージェントも話者は知っており、その中であえて50万円を払う必要性が引っかかると述べる。

転職支援系の問題2:優秀なコーチが集まらない

2つ目は、優秀なキャリアコーチがコーチング会社に集まりにくいことだ。ヒアリングができ、その内容に合わせて「この業界、この企業がいいのでは」と具体的に提案できる人は、結局転職エージェントで働くことになる、と話者は言う。

話者は、実際にそうなった2人を知っているという。2人とも比較的大規模なエージェントで活躍していたが、大手では個人に寄り添いにくいと感じてキャリアコーチングの会社に移った。しかし、そこでも思ったようにはいかなかった。キャリアコーチングの会社は給料があまり高くない。さらに、リテラシーの高い人は無料のエージェントを使いこなすため、コーチングに来るのは「お金を払うから手取り足取りやってほしい」という人が多く、自分の思う寄り添い方ができなかったという。結局2人とも、質の良い中小規模の寄り添い型エージェントに移った。そうしたエージェントは担当者に歩合制でしっかり報酬を渡していることがあり、話者の知る2人のうち1人は年収1000万円以上、もう1人は2000万円以上と話者は見ている。報酬面でも、転職希望者に感謝されるやりがいの面でも、優秀な人ほどコーチング会社で働く必要はないと気づいてしまう、と話者は述べる。

さらに話者は、キャリアコーチングはそれほど儲かるビジネスではないと見る。個人にとって2カ月で50万〜100万円は大金だが、会社の維持費を考えるとそれほど高くない。「客にとっては高いのに、会社にとっては利益率が高いと思えない」というジレンマが構造的な問題だという。特に、広告・マーケティング費用がかさむと話者は推測する。視聴者の多くが「キャリアコーチングは怪しいのでは、高いのでは」と疑っている以上、その認識を変えるだけのマーケティングが必要になるからだ。10年後、20年後に利用が一般的になり、「この会社なら間違いない」と言われる会社が2社ほどある状態になれば、マーケティング費用を抑えて人件費に回せるかもしれない。しかし現状はマーケティングにお金が消え、人に十分なお金が回っていないのではないか、と話者は見ている。その結果、限られた資金は無料面談でクロージングする営業人材に回り、コーチには途中解約されない程度のコミュニケーション能力の人が置かれる、という先に述べた構図になるという。

自己分析中心になる悪循環

話者によれば、事業者は本来、優良企業への内定や年収アップにコミットするサービスを作りたいはずだ。しかし、それは非常に優秀なコーチを揃えなければ実現できない。優秀なコーチが一部にしかいない状況で満足してもらうには、時間をかけた自己分析で価値を提供するしかなくなる。自己分析は簡単でマニュアル化しやすく、着実に完了するからだ。こうしてサービスの中心が自己分析になる、と話者は説明する。

加えて、転職エージェントに相談しても相手にされなかった、キャリアが乱れた人の流入先になっているという実態もあると話者は言う。コーチも利用者も必ずしも優秀ではない状況では、優良企業への内定のような高いレベルのコミットはできなくなる。話者は、これは事業者に悪意があるからではなく構造的な問題だと繰り返し、儲からない中でやっている事業者はむしろ立派だとも述べる。

そのうえで話者は、「個人からお金をもらうので、エージェントより個人に寄り添える」という売り文句について、本当かもしれないと認める。ただ、転職したい人は寄り添ってほしいわけではない。限られたカードの中で一番良いカードを教えてもらい、それを確実につかみたいのだ。寄り添い型のビジネスに50万〜60万円は高すぎる、と話者は言う。

使ってもよい人、使うべきでない人

話者は批判だけで終わらないよう、利用してもよさそうな人も考えている。マインド系・ライフコーチング系については、直近1年で転職の必要性を全く感じておらず、時間があり、自分をゼロから見つめ直したい人を挙げる。哲学すること自体は悪くなく、急いでいるときにやることではないだけだという。また、起業や独立といった会社員以外の選択肢を積極的に選ぼうとしている人にも勧められる、としている。

転職支援系については、むしろ判断が難しいと話者は言う。転職エージェントが競合になるからだ。話者はまず、エージェントに最低5社は申し込むことを勧める。業界の競争が激しいため、ハイキャリアの人しか対応しないエージェントばかりではなく、キャリアが乱れている人に対応するところも増えているという。5社ほど申し込めば、よほどでない限り対応してもらえるはずだ、と話者は見ている。

それでも相手にされなかった人なら、転職支援系のコーチングを使ってもよいかもしれない。ただし「使ってもいいかな」程度だと話者は言う。そこまでキャリアが乱れた人は最も支援が難しく、既存のサービスが本当に的確に支援できるのかという問題が残る。結局は本人がどれだけ頑張れるか次第で、勇気づけができるなら意味はあるかもしれない。しかし、追い込まれた人に50万〜60万円をローンで用意させるのは追い打ちになるのではないか、とも話者は懸念する。結果として、転職支援系を誰に勧めるべきかは「よく分からない」と話者は率直に認めている。

最後に話者がはっきり「使わない方がいい」と言うのは、1年以内に転職を予定している、急いでいる人である。そうした人は、コーチングに50万円を払う前に、まず話者が公開予定の無料の自己分析動画を見てほしいという。その動画では、自己分析自体は30分で終わるとしつつ、「自分はこういう人間だから、こういう会社が合っている」と求人・企業・職業に接続する作業が非常に大事だとして、その接続や面接対策まで扱っているため、全体では1時間ほどになると説明している。