休日も呼び出しに備えるシカゴの心臓外科医:北原大翔のオンコールの一日

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概要

前回は心臓外科医として働く平日に密着した撮影チームが、今回は北原大翔さんの「休日」を追った。ところがこの日は、病院からの呼び出しに応じなければならない「オンコール」の日だった。休みなのに完全には休めない一日のなかで、北原さんはオンコールの仕組み、YouTube動画の編集への熱意、手術にある創造性について語り、夕方には実際に緊急の処置へ呼び出される。

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「休みだけど休みじゃない」オンコールの仕組み

朝8時の待ち合わせに、北原さんは髪が少し濡れたまま現れた。寝癖を直すのが面倒なので、朝にシャワーを浴びてそのまま出てくるのだという。

北原さんによると、この日は休日だが、月に1回回ってくるオンコールの週末にあたる。病院から呼ばれたら対応しなければならない、「休みなんだけど休みじゃない」日だ。電話がかかってくることはほとんどなく、1日に1回あるかないか程度だという。かかってきても、すぐ病院に行く必要がある場合と、口頭で指示を出せば済む場合がある。ただ、急いで手術が必要になったときに備えて、オンコールの担当者は30分ほどで駆けつけられるようにしておく決まりになっている。北原さんは病院まで20〜30分ほどの場所に住んでいるので、遠出さえしなければ問題ないと話す。

さらに、オンコールの担当者は土日でも一度病院に顔を出して患者の様子を見るよう指示が出ているため、この日も1時間ほど病院に寄る予定だった。とはいえ大してやることはなく、患者に会って診て終わりだという。病院に行く前には、アメリカにあるパン屋チェーン「パリスバゲット」で朝食をとる。アメリカのパンは大体おいしくないが、ここのパンはまあまあおいしい、というのが北原さんの評価だ。

移動中には、車の自動運転のモードの話もあった。標準の「スタンダード」のほか、少し遅い「チル」、さらに遅い「スロース」、少し速い「ハリー」、そして法定速度を超えてしまう「マッドマックス」があるという。北原さんは基本的にスタンダードを使っている。

無編集の200本から、編集にのめり込むまで

話題はYouTuberとしての北原さんに移る。動画の編集は自分でやっている。始めた当初は、コストも時間も労力もかけたくなかったので、質問に3分間答えるだけの無編集の動画を作り、ほぼ毎日投稿した。最初にこうした動画を200本ほど作ったという。

しかし、それではだんだん伸びなくなり、何より面白くなかった。北原さんは、短い動画でも長い動画でも面白くするには「物語性」が必要で、その物語性を作るうえで編集が重要になると考えた。自分で編集してみたところ、それが結構面白かったという。

手術と動画編集の両方をこなす集中力に撮影者が驚くと、北原さんは「それは別」だと答える。編集は時間があるときにまとめてやる趣味のようなもので、疲れているときにやるとリフレッシュになり、楽しみにもなる。手術を早く終わらせてできた時間で子どもの世話や家のことを片付け、そのうえで時間を作れたら編集する、という順番で考えている。ただ、やり始めるとゲームをしている小学生や中学生のように集中してしまい、夜遅くまで時間が経つこともあるという。

撮影者が「手術の話よりYouTubeの話の方が熱い」と指摘すると、北原さんもそれを認めた。手術の話を熱く語ろうという気はあまりないが、YouTubeはのべ1000本ほど投稿してきたので、さまざまな経験から思うところがあるのだという。

YouTubeを本業にしない理由

コメント欄では「副業で心臓外科医をやっている」というネタが書かれるほどだが、YouTuberを本業にするかと聞かれると、北原さんはそれは難しいと答える。仕事になると、急にお金を稼ぐためにやらなければならなくなるからだ。北原さんはこれを心臓の手術と重ねる。心臓の手術は楽しいし、すごく面白いからやっているが、それでもやはり仕事だと思う、というのが北原さんの考えだ。

手術にクリエイティビティはあるのか

撮影者が手術に創造性はあるのかと尋ねると、北原さんは「あると思う」と答えた。手術は定型化されていて、基本通りにやればうまくいくという面はある。しかし人間の体は、必ずと言っていいほど一人ひとり違う。心臓の硬さや柔らかさが違い、処置への反応の仕方も違う。そのため、完璧に同じようにやっても同じ結果にはならず、少しずつやり方を変えていかなければならない。そこで必要になるのが技術と経験で、「この程度の人ならこれくらいで進めればいい」「この程度の人はここに注意しなければならない」といった判断を積み重ねていく。

さらに手術中には、突拍子もないことが起こる。北原さんは事前にいろいろなことを予測し、AからEまでのプランを考えておくが、それでも「こんなことが起こるのか」「忘れていたけど、これは起こるんだった」という事態が起きる。そうしたときの対処には経験に加えて、「こうしてみればいいじゃないか」という発想が必要になる。今でも新しい手術方法が開発されていることも踏まえ、北原さんは、基礎の中に創造性が存在していると考えている。数学の基礎を勉強したうえで、新しい応用問題を解くにはひらめきが必要になるのと同じことではないか、と北原さんはたとえた。

増築を重ねるシカゴ大学の病院

車はシカゴ大学の病院に着く。職員と患者用の駐車場は建物の中で病院につながっている。北原さんによると、病院は複数の建物に分かれていて、それぞれ役割が違う。外から来た患者を診る外来の建物、手術と入院を引き受ける建物、子ども病院、がんの治療を専門にするセンターなどがある。

建物同士は2階部分の連絡通路でつながっている。新しい病院ができるたびに通路で既存の建物と結び、どんどん大きくなっていくのだという。今も向こう側に新しい病院を建てている最中だ。北原さんは、日本と違って土地が広いこと、特にこの病院はダウンタウンから20分ほど離れているため、土地を使いたい放題に使える面があるのだろうと話す。これから向かう建物は入院と手術を担う比較的新しい病院で、4階が心臓外科の病棟、6階が手術室になっている。

駐車場には「オーガン・リカバリー・トランスポート」と書かれた車があった。肝臓、腎臓、心臓などの移植用臓器を運ぶための専用車で、シカゴ大学は移植を多く行っているため、常駐していつでも動けるようになっている。北原さんも以前はよくこの車に乗って空港まで行き、飛行機で1〜2時間飛んで心臓を取りに行っていたという。

呼び出しの予告と「潰れてもいい予定」

病院に着いた時点で、少し緊急の気配があった。外の病院に心臓の処置が必要な患者がいて、シカゴ大学に転院してくることになっており、到着したら北原さんが処置をしなければならないという。ただ、いつ来るかわからないので病院で待っていても仕方がなく、いったん帰宅し、呼ばれたら行くことにした。

北原さんはこれを「オンコールの定め」と表現し、半休日のようなものだと話す。予定は立てづらいが、オンコールだからといって予定を入れずにいると一日がもったいない。そのため、あまり気にせず、潰れてもいいような予定を普通に入れておき、呼ばれたら仕方なく行く、というやり方をしているという。

撮影チームはここでいったん解散し、北原さんは帰宅して食事や子どもの寝かしつけをしながら連絡を待った。撮影チームはこの日の予定がほぼ潰れたことに触れつつ、横にいるだけで疲れるほどの働き方だと感想を漏らしている。

心臓の中に開いた大きな穴

夕方、呼び出しがかかった。北原さんによれば、これは珍しいパターンだという。外の病院に「死にかけ」の患者がいることは事前にわかっていた。その患者には処置が必要だが、その病院ではできない。そのままでは亡くなってしまうため、シカゴ大学に搬送して処置することになり、北原さんがそれを担当することが決まっていた。5〜6時間以内には来ると見込まれていたがいつになるかはわからず、「あと10分ほどで着く」と連絡を受けて病院に向かったという流れだ。

北原さんは患者の状態をこう説明する。心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋でできていて、部屋同士は壁で仕切られている。そのため基本的に右と左の血液は行き来しない。ところがこの患者は、心臓の外ではなく内部の壁に大きな穴が開いてしまい、右と左がつながってしまった。本来なら体へ送り出されるはずの血液が心臓の中を行き来するだけになり、全身に回らない。

北原さんによれば、穴が大きければ血液が流れないため即死する。しかし穴がある程度小さければ、人間の体はなんとか調整して生きられてしまう。ただし血圧はとても低く、血液を必要とする肝臓、肺、腎臓といった臓器がどんどん悪くなり、ゆくゆくは亡くなる。最終的には穴を閉じる手術をするが、今は状態が悪すぎて、手術をすれば亡くなってしまう。そのため、手術の前に状態を良くする処置が必要で、それをこれから行うのだという。

ちなみに呼ばれたとき、北原さんは食事のあとでお菓子を食べながら、恋愛リアリティ番組「今日、好きになりました。」の新シリーズを見ていた。4〜5年前からほぼ全シリーズを見ているという。

Zoomでのショックコールと治療方針

病院に向かう途中、ポケベルが鳴った。「カーディオジェニック・ショック・コール」の合図だ。北原さんの説明では、カーディオジェニック・ショックとは心臓が止まりかけている状態のことで、このコールがかかるとZoomにアクセスして、どう対応するかを話し合う仕組みになっている。北原さんはミュートにした状態で参加していた。

会議には心臓外科医3人と循環器内科の医師が参加し、治療法を検討した。英語のやりとりのなかでは、まずカーディオジェニック・ショックに対処して状態を安定させ、回復に数日かけるという方向性が話されていた。

最終的に決まったのは、まず心臓外科が人工心肺をつなぐことだった。北原さんの説明では、患者の体に管を2本入れ、1本で血液を回収し、そこに酸素を溶け込ませて、もう1本の管から体に戻す。これによって、心臓の代わりに全身へ血液を送る機械をつなぐことになる。そのあと、循環器内科の医師が別の処置を行う方針だ。撮影チームは手術室の中までは入れず、カメラを置いて待った。

「コントのように速かった」処置

処置を終えた北原さんは、この日の手術について満足そうに語った。この日のスタッフは皆よくできる人たちで、スムーズさは歴代でもトップ10に入るという。もちろん慣れていない人がいてペースを落とすこともあるが、この日は看護師も、人工心臓を扱う専門のスタッフも手際がよく、95点をつけてもいいと評価した。

北原さんはこの速さを、お笑いトリオ・ロバートのコントにたとえた。忍者村のスタッフが何万回も公演しているため、どのタイミングで何をすればいいかがわかっていて、音楽が鳴ると突然出てきて芝居をする、というネタだ。この日も話し合ってそのまま部屋に入り、人工心臓をつないで出てくる、という流れだったという。見ていた撮影者も「コントぐらい速かった」と応じている。

諦めていた焼肉と「97%」の一日

処置が間に合わないと思っていたため、北原さんは楽しみにしていた焼肉を諦めかけていたが、結果的に予定通り「シカゴカルビ」に行くことができた。北原さんは、時によっては日本の高級焼肉店よりおいしいことがあるほどだと話しつつ、ハードルを上げすぎないよう慎重に付け加えていた。

食事の席では雑談も続いた。北原さんは子どもに「ちいかわ」の弁当箱を持たせていて、アニメ化される前、X(旧Twitter)で連載されていた頃から見ているという。夏に公開される映画の話題を撮影者が知らなかったことに、北原さんは驚いていた。

同席したもごさんは、以前のインタビューでは北原さんの本心が見えにくかったが、密着して一緒に過ごすことで内面が少し見えてきたと話した。北原さんも、インタビューではどうしても心をガードしてしまい、話はするが全部は開かないと認める。ふざけた格好で真面目な話をするため、笑っていいのかわからないと言われることはよく問題になるという。北原さんとしては特に意図はなく、真剣にやっているだけだと答えている。

最後に、この日の満足度を問われた北原さんは「97%くらい」と答えた。スタートは今ひとつだったが、うまく噛み合い、諦めていた焼肉にもたどり着けた。どれか一つでも欠けていたらここにはいられなかったと思うと感慨深い、と北原さんはオンコールの一日を振り返った。