1億年前の火星はどんな世界だったのか:「赤い惑星」になるまでの時間旅行

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概要

地球の隣にある火星は、赤茶色の砂に覆われ、濃い大気も液体の水もない「死んだ星」とされている。では、人類が誕生するはるか前、たとえば1億年前の火星も同じ姿だったのか。そうでないなら、なぜ現在の姿になったのか。科学解説チャンネルVAIENCEのこの動画は、視聴者が「バイエンススーツ」を着て過去の火星に降り立つという設定で、1億年前、20億〜30億年前、37億〜43億年前へと段階的に時代を遡る。そのうえで、火星が大気と水を失った理由を磁場の消失から説明している。

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現在の火星:生身の人間には過酷な環境

動画はまず、現在の火星の環境を確認する。火星は太陽系の惑星の中で最も地球に近い環境を持つとされるが、それでも生身の人間はすぐに命を落とすほど過酷だという。気圧は地球の1%以下で、大気のほとんどは二酸化炭素である。気温は最高でも20°程度にとどまる。地表に降り注ぐ放射線は、ほぼすべての生物が長期間耐えられない水準と考えられている。こうした点から、動画は現在の火星を、少なくとも表面については「死んだ惑星」と表現している。

1億年前:恐竜の時代の火星もほとんど変わらない

最初の行き先は、地球で巨大な恐竜が闊歩していた1億年前の火星である。動画によれば、この時代に降り立っても、目にするのは現在とあまり変わらない赤い惑星だという。当時の地球では今より広い面積を海が覆っていたが、火星には海と呼べるものはなかった。

ただし、現在と違う点もいくつか挙げられている。一つはオリンポス山である。高さ20kmを優に超える太陽系最大の火山で、現在は火山活動をしていないと考えられているが、1億年前にはまだ小規模な活動が続いていたと考えられているという。

もう一つは液体の水だ。火星の表面では液体の水は長く存在できないが、塩分濃度が極めて高い水なら短期間存在できる可能性がある。火星の土壌には複数種類の過塩素酸塩が広く含まれている。中でも過塩素酸カルシウムは水の凝固点を特に強く下げ、濃度によってはおよそ-75°でも凍らない状態を作ることが分かっている。現在の火星表面にも液体の水が流れたような痕跡が見つかっており、それが塩分を大量に含んだ短命な水である可能性が指摘されている。ただし動画は、現在の火星で実際にそうした現象が起きているかどうかはまだ結論が出ていない、と留保している。

では1億年前はどうか。動画は、火星から飛来した隕石を調べた研究を紹介する。その研究は、1億7000万年前以降に液体の水によって変質した鉱物が見つかったと報告している。この結果から動画は、1億年前の火星では、砂漠で見える蜃気楼のように儚い量の液体の水を目撃できたかもしれない、と推測している。それでも惑星全体としては、現在とさほど変わらないという結論である。

20億〜30億年前:地下の水が噴き出す巨大洪水

火星にはかつて大規模な海があった。この話を踏まえて、動画はさらに時代を遡る。しかし20億〜30億年前の火星も、まだ死の惑星だという。気圧は現在とほぼ同じで、液体の水は表面に長くとどまれない。かつての巨大な海も見る影もない。

意外なことに、この時代には時折大規模な洪水が起きていたことが明らかになっている、と動画は述べる。液体の水は表面ではなく地下深くに大量に眠っていたと考えられており、その水を閉じ込めていた表層が火山活動によって大きく乱された。少量ならともかく、大量の水は一瞬では蒸発しない。そのため短期間ではあるが、洪水が火星表面を襲ったという説明である。

動画はこの洪水の規模を数字で示している。地球のアマゾン川の流量は最大で毎秒およそ30万立方メートルであるのに対し、火星の洪水は最大で毎秒10億立方メートル、アマゾン川の3000倍以上に達したと考えられているという。動画は、巻き込まれれば液体の水がないはずの惑星で溺れるという貴重な体験ができるかもしれない、と冗談めかして語っている。

37億〜43億年前:北半球を覆う海と「三つの青い惑星」

さらに37億〜43億年前まで遡ると、現在とはまったく異なる光景が広がる。この頃の火星には、北半球をほぼすっぽり覆う巨大な海があったと考えられている。最も深い場所では水深1.6km以上に達したという。動画は、金星や地球とともに、太陽系に青い惑星が三つ存在していた可能性があると述べる。

この時代の火星は、地球に似た環境だった可能性がある。動画が紹介する研究は、40億年前の火星が少なくとも0.5気圧以上の大気を持っていたと主張している。二酸化炭素などによる温室効果があれば、太陽から遠い火星でも液体の水を保ち、さらには生命を宿していた可能性がある、というのが動画の見方である。

太陽風が大気を剥ぎ取る仕組み

それでも動画は、火星が地球と違う運命をたどることは最初から決まっていたと語る。その原因として挙げるのが太陽風だ。すべての惑星は、太陽から放たれる太陽風に常にさらされている。太陽風は高速で飛来する、電気を帯びた陽子や電子でできている。これらの粒子が火星上空で大気の分子と衝突すると、エネルギーが分子に伝わる。その結果、分子が火星の重力を振り切って宇宙空間に逃げてしまう。

動画の説明によれば、この現象が数億年続いたことで大気は徐々に薄くなった。最終的に気圧は、表面で液体の水を安定して保てないほど低くなった。すると海の水は蒸発し、氷も直接水蒸気に変わるようになって、大気中に大量の水蒸気が含まれるようになる。水蒸気に紫外線が当たると、酸素と水素に分かれることがある。火星の重力では水素をつなぎ止められず、水素も宇宙空間へ漏れ出す。動画は、こうなるともう水が火星に戻ることはない、と説明する。残った酸素は土壌中の鉄と反応し、あの赤茶色の錆を作った。青い惑星から赤い惑星への変化は、およそ39億年前から30億年前にかけて少しずつ進んだと考えられている、と動画は述べている。

地球との違いは磁場にある

地球では海が失われなかった。動画はその理由を磁場に求める。磁場が太陽風の軌道を曲げ、大気が失われるのを防いでいるという。火星にもかつては磁場があったが、およそ39億年前には完全に停止したと考えられている。

動画はここで、惑星に磁場が存在する条件は実ははっきり分かっていない、と断っている。そのうえで、多くの科学者の考えとして次の説明を紹介する。磁場が存在するには、惑星のコアが液体の金属でできていることが必要である。さらに、コアの内側と外側の温度差による対流が必要だという。

地球の場合、コアは固体の内核と液体の外核でできている。内核は中心から外へ向かって成長しており、外核の液体金属が冷えて内側から固体化していく。このとき軽い成分が外核へ押し出されることで浮力が生じ、激しい対流が起こる。この対流が電流を生み、地球の磁場を維持していると考えられている。

火星に重なった「不幸」

一方、火星にはいくつかの不幸が重なった、と動画は説明する。第一に、火星は小さい。直径は地球のおよそ半分、質量はおよそ10分の1しかない。小さい物体は大きい物体より冷めやすいため、火星のコアは早くに冷え、対流が起こりにくくなった。

第二に、火星のコアの周りには、ケイ素などでできた薄い液体の層があることが分かっている。この層が毛布のようにコアを覆ったことで、コアの外側と内側の温度差が小さくなったと考えられている。これらの要因によって、火星の磁場は形成からわずか数億年ほどで停止した。その結果、現在の赤い惑星ができあがった、というのが動画の説明である。

結び:青い惑星も赤い惑星も永遠ではない

動画は、かつての火星には確かに広大な海があり、そこで地球と同じように生命が芽生えていた可能性も大いにある、と述べる。しかしそれは天文学的にはほんの一瞬の幻であり、火星は磁場を失ったことで大気と水の両方を失った。さらに動画は、地球も数十億年後には膨張する太陽によって水を失い、火星と同じく死の惑星へ変わると考えられている、と付け加える。宇宙の時間軸では、青い惑星も赤い惑星も決して永遠ではない。動画はそう締めくくり、人類がなるべく早く地球から脱出できることを願う、という言葉で終わっている。