ジェン・アベルの「エンタープライズ商談15ステップ」:最初のメッセージから契約締結まで
Lenny's Podcast翻訳元 English
Lenny's Podcastへの3度目の出演で、JJellyfishの共同創業者でありState Affairsのエンタープライズ営業担当GMを務めるジェン・アベル氏は、1件のエンタープライズ商談を最初のアプローチから契約締結まで、ステップごとに解説した。同氏の中心的な主張は、多くの人がエンタープライズ営業を5段階のプロセス(初回面談、デモ、提案、契約手続き、受注または失注)として捉えているが、実際の商談には15に近い明確なステップがあり、そのうちのいくつかはほとんどの営業担当者が飛ばしてしまっている、というものだ。アベル氏が繰り返し語ったテーマは「情報面での優位性」である。会話を1回増やすごとに、競合が知らないことを知るチャンスが生まれ、同時に、買い手に「売り込まれている」のではなく「自分たちで購入を組み立てている」と感じてもらうチャンスも生まれる。
プレイブックは仕事の80%にすぎない理由
レニー・ラチツキー氏は、なぜこうした内容を無償で公開するのかとアベル氏に尋ねた。同氏の答えは、プレイブックでカバーできる範囲には限りがある、というものだった。営業は1対1の仕事であり、変数は相手という人間だ。雑談をしたい買い手もいれば、すぐに本題に入りたい買い手もいる。技術に詳しい人もいれば、そうでない人もいる。アベル氏によれば、毎回同じ流れで進めると、おそらく4回に1回は外れるという。ステップがカバーするのは仕事のおよそ80%だ。残りの20%は、相手にどう感じてもらうか、つまり話を聞いてもらえたと感じたか、会話が楽しかったか、良いストーリーを語れたかにかかっている。また、こうした内容をXに投稿しているのは、自分にとってアイデアを新鮮に保つ日記のような役割を果たしているからでもある、と付け加えた。
さらに同氏は、商談規模が10万ドルでも100万ドルでもプロセスは同じだと主張した。その理由として、エンタープライズ組織は製品デモそのものよりも、営業担当者が自分たちをどのようなプロセスに導くかに敏感だからだと説明している。
ケーススタディ:SpaceXに販売するAIリーガルテック
話を具体的にするため、アベル氏はひとつの仮想ケースを選んだ。SpaceXの法務チームにAIリーガル製品を販売するというもので、商談規模は約10万ドルだ。SpaceXを選んだのは、ニュースで話題になっており、おそらく誰もが狙っているため、獲得が難しいロゴだからだ。技術系の企業だが、ターゲットは非技術系のチームである。法務を選んだのは、同氏の見立てでは法務がエンタープライズ予算で最大の費目であり、ときに他の予算の3〜4倍にもなり、「法務にはいつだってもっとお金がある」からだという。ラチツキー氏は、だからリーガルAIのスタートアップがこんなに多いのかと冗談を言った。
ステップ1:「挟み撃ち」モデルでミーティングを獲得する
アベル氏によれば、有効な入り口は2つしかない。1つ目はトップの役員で、このケースではジェネラル・カウンセルまたは最高法務責任者(肩書きはさまざまだが、重みは同じ)にあたる。2つ目は「Nマイナス1」、つまりその1つ下の階層の人物で、通常はVPやディレクターだ。異論を唱える人もいるだろうと認めつつも、同氏はそれより下の人物はターゲットにしないという。その理由は、その階層より下になると、ストーリーが伝言ゲームになってしまうからだ。予算や役員レベルの議論から遠い人からユーザー価値について聞くことになるが、10万ドルの商談では資金を割り当てるエグゼクティブ・スポンサーが必要になる。
同氏はこのアプローチを「挟み撃ち(ピンサー)モデル」と呼ぶ。創業者が役員を、アカウントエグゼクティブ(AE)またはエンタープライズ営業リードがNマイナス1を狙い、上と下から中央に向かって攻めていく。目標は、少なくともどちらか一方から返事をもらうことだ。2人の連絡先は1段階しか離れていないため、返事をくれた側が通常はもう一方を巻き込んでくれる。創業者は買い手側のチームで他に誰が参加すべきかを尋ねることができるし、AEは創業者を連れてくると申し出て、上司も同席してはどうかと提案できる。同氏はこれを「パリティ(対等性)のルール」と表現した。それぞれの側が相手の役職レベルに合わせるということだ。アベル氏は、たとえシリーズBやCの企業であっても、企業の役員に1対1でアプローチするのに最適なのは創業者だと断言し、意味のあるものを作っている創業者なら、SpaceXの最高法務責任者と会える機会には「大喜び」すべきだと述べた。
名前を調べる方法として、アベル氏はOpenAIやAnthropicのモデルに最高法務責任者とその右腕が誰かを尋ね、そこから直感的に確認したり検索したりすることを勧めた。チャネルについては、コールドコールは非技術系の職種には有効だが、高度に技術的な人々には通用しないという。メール、LinkedIn、Xも有効だ。Lemlistのようなエンリッチメントツールを使えばメールアドレスを見つけられる。同氏はLinkedInでメッセージを送った後、送ったことを別途フォローアップで伝えることもある。ほとんどの人はLinkedInを毎日チェックしないからだ。Cレベルの役員はブランドに気づくことはあっても、マーケティングキャンペーンには反応しない。反応するのは1対1のアプローチだ、と同氏は語った。
2〜3文のメッセージ:アルファを売る
最初のメッセージは長くても2〜3文にすべきだ。アベル氏は2つのレベルを説明した。レベル1は自社が解決する具体的な課題で、どの企業にもAI導入の方針があるため、「私たちはAIツールです」以上のものでなければならない。最も重要なのはレベル2、つまり「アルファ」だ。新しいツールを導入することで、その役員が何を発見し、何を実現できるのか。新しいツールはリスクがあり、「誰も欲しがらない」。だから、ツールのスポンサーとなって組織の下へと浸透させていく役員には、何かの作業時間を節約する以上の大きなものが必要になる。同氏はこうした役員を、自らの事業部門の創業者にたとえた。影響力、予算、人員を増やしたいと考えている人たちだ。ラチツキー氏が「不公平なほどの優位性を売るということですね」とまとめると、アベル氏は同意した。
同氏はまた、「10倍良い」と言ってもコモディティのように聞こえてしまうと警告した。誰もがエンタープライズに押し寄せる、同氏いわく「フラッド・ザ・ゾーン」の状況で突破口になるのは、単にリソースを減らすことではなく、AI時代にビジネスモデルやチームの構成を見直すというメッセージだ。同氏のリトマス試験紙はこうだ。役員がこの製品を取締役会に持ち込んだとしたら、何ができるようになると説明するだろうか。COOやCEOに対して、どうやって成果を大きく動かすインパクトを示すだろうか。誰もが同じ人たちにメールを送っているので、メッセージは違うと感じさせるものでなければならず、返信率のデータが集まるにつれて改善していくべきだ。さらに同氏は、自社の価値提案で役員をワクワクさせられないのであれば、おそらくトップダウンのエンタープライズ戦略を追うべきではないと付け加えた。同氏の考えでは、だからこそ創業者主導の営業が重要なのであり、そのストーリーを練り上げるのは創業者なのだという。
ステップ2:初回面談、すべての中で最も重要な電話
アベル氏は初回面談を最も重要な電話だと述べた。買い手があなたをどう捉え、どう敬意を払うかがここで決まり、買い手が最もオープンになるのもこの電話だ。営業プロセスのように感じられ始めると、買い手は口を閉ざしてしまうと同氏は言う。営業担当者が得られる情報面での優位性は、ほぼすべてこの最初の電話から生まれる。
同氏のルールはこうだ。とにかくくだけた雰囲気にすること。デモもスライドもなし。30分間、1対1で会話する。Cスイートの役員が参加するなら、創業者も同席すべきだ。同氏はたいてい、「30分まるまる必要かどうかもわかりませんが」と切り出す。これにより、相手の時間を奪おうとしているわけではないと買い手を安心させる。電話を互いの自己紹介の場と位置づけ、まず買い手に話してもらう。自分が話す前に聞ける話が多いほど、ピッチをより正確に組み立てられる。ラチツキー氏は、これなら買い手が誰からも聞かされる同じピッチを聞かされずに済む、とも指摘した。
買い手は最初、たいてい簡単な概要を話す。アベル氏はそこから幅広い質問をする。AI導入の方針はありますか? 現在の仕事の進め方についてどう考えていますか? 2026年と比べて、2027年に向けて何か変える必要があることはありますか? 同氏によれば、変化はたいていトップから来るため、その答えには通常、その人より上の階層で交わされた会話が反映されているという。同氏は買い手を自社製品の方向に誘導しないようにしている。相手が話せば話すほど、引き出せる糸口が増えるからだ。架空の例として、法務責任者が業務をもっと社内に取り込み、外部の法律事務所への依存を大幅に減らしたいと言ったとする。アベル氏はそれに対し、それは数値化されているのか、成功とはどういう状態か、そしてとりわけ他にもいろいろ起きている中で(同氏のロールプレイでは大型IPO)、なぜ来年ではなく今なのかを尋ねるだろう。「なぜ今なのか」という質問は、たいてい買い手がチームをどう再編したいかについて本音を語り始めるきっかけになり、その時点で営業担当者は製品をそこに到達するための手段として提示できる。
同氏は最後のおよそ10分間で、質問を続けながら自社が何をしているかを説明する。さらに2つの指示が際立っていた。1つ目は、通話を録音しないこと。買い手はどのみち録音されていると思っているかもしれないが、レコーダーがあると心を開いたり弱みを見せたりはしない。2つ目は、相手にとって本当に重要なこと、自分が主導したいこと、物事がどう展開してきたかについて、「オフレコ」の質問で掘り下げ続けること。ただし、相手に質問を浴びせればいいわけではないと同氏は注意を促した。ポーカーフェイスの人もおり、どこまで踏み込むかを読むのは即興の技術だという。
アベル氏は台本どおりのピッチは使わない。台本は不自然に感じられ、買い手は型にはめられていると察するため、同氏が語るストーリーは毎回少しずつ違うものになるという。だからこそエンタープライズ営業は採用が非常に難しいと同氏は考えている。同氏の言葉を借りれば、「最も成功する営業担当者は、訓練された営業担当者ではない」。だから創業者は営業が得意なのだ。プロセスに従うのは苦手かもしれないが、情報を引き出し、ビジョンで人をワクワクさせることに長けている。フレームワークについても同氏は率直で、「自分をコモディティ化する最速の方法は、何かの営業台本に頼ることだ」と述べた。BANT(予算、決裁権、ニーズ、タイミング)は頭の片隅に置いておくべきだが、それらの質問を直接するべきでは決してない。
見極め、弱みを見せること、そしてコスト重視の買い手
初回面談が何の成果にもつながらないことはどれくらいあるのかと尋ねられると、アベル氏は4件中2〜3件では何か本物が見つかると答えた。およそ4件に1件は、買い手の成熟度と自社製品とのギャップが大きすぎると伝え、1年後に改めて話しましょうと提案して終わる。同氏はその主な原因を、話す相手を間違えたことではなく成熟度にあるとした。誰と話すべきかを知るのはエンタープライズAEの仕事であり、素早く見切りをつけるのもAEの仕事だからだ。
ラチツキー氏は、買い手から話を引き出すのは操作的に感じられるのではないかという懸念を示した。アベル氏の答えは、買い手はまさに自分たちの課題を解決するソリューションを買うために予算を持っている、というものだった。また同氏は、買い手が逆に探るような質問をしてくれることを高く評価している。それは本物の関係のしるしだからだ。前の週にあるクライアントから、今年チームにとって最大の学びは何だったかと聞かれたことを同氏は振り返った。どんな製品にもバグや足りない部分はあり、それについて正直に話すことでプロセスが営業らしさを感じさせなくなるという。
コスト削減だけを望む買い手については、2つのパターンを説明した。1つは、買い手が優先度の低い何かを最も安く済ませたいケースで、6割方できていれば十分であり、「誰もクビにならない」ものだ。もう1つは、情報の見落とし、遅延、法務であれば新しい規制への不慣れといった、リスクの高い課題のケースで、この場合、営業担当者は25万〜50万ドルの初回契約を請求できる。マーケティングと営業は数字で動くが、法務はリスクを根絶する必要がある、と同氏は語った。
ステップ3:デモを共同設計するフォローアップの電話
標準的なパイプラインでは、初回面談の後すぐにデモが続く。アベル氏はデモを「ニンジン」と呼んだ。あなたが説明したものを誰もが見たがるからだ。だからこそ、それをテコにして適切な人々を同席させるべきだという。購入が一個人のお気に入りプロジェクトのように感じられてはならない。ディレクターやVPには役員の関与の痕跡が必要であり、役員は実際のユーザーが納得していると感じたい。商談を推進するチャンピオンはいるし、ほとんどのチャンピオンは役員の1つ下の階層だと同氏は指摘したが、取り組み全体は集団的なものだと感じられなければならない。
そこで同氏はデモの前に、チャンピオンとの電話をもう1回設定する。30分を依頼し、実際には15分ほどを見込む。電話では、適切な人に参加してもらい、適切なものをデモしたいと伝え、チームに響くのは何かを尋ねる。製品で見せられることを5つ挙げ、最初の会話ではそのうち2つが重要そうだったと伝えたうえで、チャンピオンに判断してもらうこともある。たいていチャンピオンはその2つに加えて、自分の担当領域の方針に結びつく3つ目を求める。デモ中に特定の質問を投げかけてほしいとチャンピオンに頼むことさえあり、チャンピオンの方がもっと良い質問を提案してくれることもある。アベル氏によれば、こうした追加のステップを踏んでいる競合はいない。電話の最後には、1時間のデモを全員のカレンダーに入れてもらう。
同氏はまた、グループでのセッションの前に、もう1人の同僚とプレデモを行うべきかどうかも尋ねる。これは買い手がどこまで進んでいるかによる。確信が持てていない買い手ほど、まず誰か別の人を巻き込みたがるのが普通だ。アベル氏はプレデモを推奨している。それはより多くの情報を意味するからだ。その電話では5分間でそれまでにわかったことを要約し、新たに加わった人に補足してもらう。この時点で、グループデモの前に2〜3人がワクワクしている状態になり、買い手は自分たちでビジネスケースを作っていると感じている。
同氏は失敗のパターンを2つ挙げた。1つは、何の下準備もせずにいきなりデモに飛び込むこと。もう1つは、デューデリジェンス中のエンタープライズから連絡があり、4〜5人の前でプレゼンしてほしいと頼まれて応じてしまうことだ。それはやめるべきだと同氏は言う。単なるチェックボックス扱いされているか、競合情報を何も持たずにデモをすることになるかのどちらかであり、「その時点で商談を失った」も同然だという。勝つための要点を同氏はこうまとめた。製品が自分たちのあり方にあまりにも近く、まるで自分たちのために作られたかのように買い手が感じることだ。相手は常に何かしら存在する。競合であれ、既存ベンダー(最も多いケース)であれ、何もしないという選択であれ。
実際どこに時間がかかるのかと聞かれ、アベル氏は、買い手の発言の行間を読むことに多くの時間を費やし、そのうえで解釈をこうした小規模な電話で確認していると答えた。同氏はこれをモデルへのプロンプト入力になぞらえた。どんどん深掘りしていけば、答えがより洗練されていく。「すべては、速く進むためにゆっくり進むというゲームなんです」と同氏は語った。買い手の成熟度にもよるが、これらすべてが90日のセールスサイクルに収まるべきだという。そうしなければ、エンタープライズに拡大の余地のない1万5000ドルのソリューションを売ることになる、と同氏は主張した。同氏の考えでは、10万ドルや25万ドルから翌年に35万ドルや50万ドルへと成長していないのであれば、それはエンタープライズのモーションではない。
ステップ4と5:デモのフレーミングと実施
ステップ4はフレームの準備だ。それまでの電話で、アベル氏は誰が出席するのか、それぞれが何を重視しているのか、何を避けるべきかを尋ねる。チャンピオンはこの時点で当事者意識を持っている。そのツールを見つけた功績を認めてもらえるチャンスだからだ。また、その組織における良いデモとはどのようなものか、たとえば議論と製品紹介の時間配分をどうするかも尋ねる。
デモ本番には、それまでの電話に一度も参加していない人も出席する。アベル氏は冒頭(私たちは何者か、なぜこれをやっているのか)からやり直すが、すべてをその組織の言葉でフレーミングし、新たに参加した人にも自分たちのために作られたものだと感じてもらう。そうした新しい参加者には、このセッションに何を求めているかを話してもらい、「大切にされている」と感じてもらう。製品やピッチだけでなく、プロセスそのものが他とは違うと感じてもらいたいのだ。
製品紹介についての同氏の主な指示はこうだ。価値の80%は製品の20%から生まれ、それまでの電話でどの20%なのかが明らかになっている。理由もなくすべてをデモしてはいけない。余計な機能を見せると、出席者が自分たちは絶対に使わないものに目を向け始め、引き締まったストーリーが崩れかねない。そしてエンタープライズは、半分しか使わないツールにお金を払うべきかと疑問を抱く。買い手のほうから他にこんなことはできるかと聞いてきた場合は話が別で、「面白いですね、ちょうどそれをリリースしたところなんです」といった返答はフィット感をさらに強める。同氏はエンタープライズ営業を、非常に緻密なプロジェクト管理と、非常に緻密なストーリーとフレーミング、そして「たくさんの即興」の組み合わせだと表現したが、「結局は心理学にすぎない」ので実行可能だと述べた。
会議を脱線させる人について、アベル氏は役員の場合はほとんど問題にならないという。話が長い人がそうした肩書きにたどり着くのは難しいからだ。誰かが話を逸らした場合は、そのトピックを専用の電話に回すことを提案している。
営業担当者が苦戦しているサイン、そしてAIがこれを置き換えるのか
ラチツキー氏は、創業者や営業リーダーが営業担当者の不振をどう見分けられるかを尋ねた。アベル氏は3つの点を挙げた。初回面談からデモまでにかかる時間、それらの段階の間に何回の会話があったか、そして営業担当者が何をなぜデモするのか、どう切り出すのかを正確に説明できるかどうかだ。同氏がこれまで行ってきたデモはすべて違っていたため、10万ドル以上の商談に対して単一のスケーラブルなプレイブックがあるという考えを否定している。あらゆるスタートアップが欲しがるロゴを狙うなら、「ピッチを相手の喉に押し込む」のではなく、違うアプローチを取らなければならない。
同氏は、AIがこの役割を置き換えることは心配していないと語った。相手と気が合うかどうかなど、あまりにも多くの部分が人間的なものだからだ。自分の進め方を買い手が気に入らなかった初回面談もあったと認めたうえで、それはそれで構わないと述べた。
ステップ6:デモ後の振り返り
デモが終わるとすぐに、アベル氏はチャンピオンにテキストメッセージを送り、他の誰かと話す前の率直な反応を聞くために5分以内に電話できないかと頼む。どこで誰かの関心を失ったか? どこが響いたか? もっと時間が必要な人はいるか? 組織内には必ず商談を潰しうる人がいて、その人物を見つけて対策を打つ方法がこの振り返りなのだと同氏は言う。この情報は後でも役立つ。商談が2〜3週間止まってしまったら、特定の人と15〜20分話してその懸念を聞くのが役に立つかどうかを尋ねられる。
同氏はチャンピオンを、本当にその商談を実現させたいと思っていて、初日からずっと関わっている人と定義した。役員がチャンピオンになることもあるが、その場合でも役員は自分の下の人たちを巻き込む必要がある。
ステップ7〜9:パイロットの設計、準備、実施
ステップ7は、パイロットと意思決定をどう進めるかについて合意することだ。アベル氏が好むのは非常に短いパイロットで、3〜4人のユーザーを対象に2〜3日間行う。チャンピオン(または役員に最も近い人物)は含めるべきだが、実際のユーザーではないCレベルの役員は含めない。同氏はこれと引き換えにパイロット費用を放棄することもいとわない。短いパイロットならセールスサイクルをコントロールできるからだ。経験上、人々は製品に半日ほど触れれば必要なものを得られることが多いため、48〜72時間のパイロットでサイクルを2週間短縮できるという。製品にセットアップが必要な場合は、顧客のデータがなくてもサンドボックスで価値を示せないかを尋ねる。
もう1つの選択肢は、製品が顧客のデータとの本格的な統合を必要とする場合に適用される。その場合、同氏は顧客が費用を支払う1〜2か月のパイロットを推奨しており、本契約に進めばその費用は充当される。支払う意思があることは「非常に、非常に大きなシグナル」だ。同氏によれば、その費用は結局たいていサービス費として計上されるし、充当することで関係が良い形でスタートする。トレードオフとしてセールスサイクルはおよそ1か月長くなるが、おそらく価格も高くなるので許容できるという。同氏は価格をサイクルの長さと結びつけた。90日で10万ドルを成約できるなら、それを繰り返せばいい。商談に9か月かかるなら、おそらく25万〜30万ドルを請求すべきだ。
短いパイロットをうまく機能させるため、同氏は事前に各ユーザーを個別にオンボーディングし、明確に説明された具体的なタスクを3つ与える。成功基準は買い手と共同で作成する。ユーザーにただログインしてあてもなく触ってもらうべきではない。それでは作業の負担が相手に戻ってしまうからで、営業担当者の仕事は買い手の作業の99%を引き受けることだと同氏は言う。ユーザーが製品を気に入らなかった場合は、何がわかりにくかったのか、どこで迷ったのかを尋ねる。構造が緻密であるほど、人々の体験は一貫したものになる。
誰かがパイロットに入る前に、アベル氏は成功した結果から逆算する。いつ署名がほしいか? 来月末までに成約できるか? 調達部門は今関与させるべきか、後でいいか? デューデリジェンスのためのセキュリティ担当者はいるか? 契約書はどちらのひな形を使うか? コミットメントまで四半期先だという答えなら、勢いを無駄にするよりもパイロットを遅らせることを同氏は勧める。段階を使い切ってしまえば、商談を前に進める手段が何も残らないからだ。
チャンピオンと一緒に詰める価格
価格の話はデモの後、パイロットの前に出てくる。アベル氏はそれより前に価格を話題にすることを避けている。最初の会話に参加していなかった人が、理由もわからないまま現在の支出の3倍の数字を目にすることになりかねないからだ。同氏によれば、この時点までに、価格を本当に心配している買い手ならすでにそれを口にしているはずだという。どうしてもと迫られた場合は、「15万から25万の間くらい」といった幅を持たせた概算を、多くの前提条件付きで伝える。
価格の詳細な話し合いは、チャンピオンと1対1で行う。価格を伝え、社内でどう説明するか、何を削るか、ROIを示すスライドがあれば役立つかを尋ねる。同氏が想定する反応は3つのうちどれかだ。完全に同意する、特に強い懸念はない、あるいは「この金額のために戦えるかどうかわからない」。3つ目の場合、同氏は値引きを申し出たり金額を提示したりはしない。何ならうまくいくのかを一緒に考えてほしいとチャンピオンに頼む。チャンピオンに負担を委ねるのはこの場面だけだ。相手は2万ドルの値引きを求めるかもしれないが、こちらはもっと大幅に下げるつもりだったかもしれないからで、「自分自身と交渉したくはない」。選択肢の1つは、2年目に正規価格へと段階的に上がる2年契約だ。
フォワード・デプロイド・エンジニア
ラチツキー氏はフォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)について尋ねた。アベル氏は、この件については考えが揺れ動いていると語った。FDEが顧客の作業を引き受けて商談を加速させるためにいるのであれば、全面的に賛成だ。製品が複雑すぎて顧客が自力で使えないためにFDEが必要なのであれば、それは悪いサインだ。数百万ドル規模の商談がそれを支えられるPalantirのような企業にはこのモデルは理にかなっているが、10万ドルの商談にフルタイムのエンジニアを付けると経済性が厄介になると同氏は述べた。FDEは初回獲得よりも拡大のほうに向いていると考えている。ラチツキー氏は、一部のアカウントマネージャーが今では単にFDEという肩書きを使っていると指摘し、Palantirの人たちがほとんどの企業のFDEを「スパークリング・セールスエンジニア」と呼んでいることにも触れた。
5段階のCRMパイプラインが営業プロセスではない理由
9つのステップを終えたところで、ラチツキー氏は5段階のパイプラインの話に戻った。アベル氏によれば、それらの段階は加重予測のために存在する。たとえば、初回面談は商談金額の10%、提案は50%、契約手続きは80%といった重み付けをする。それらはパイプラインのためのバケットであって、顧客を導いていくステップではない。実際には、それぞれのバケットの中に3〜5回の重要なミーティングがある、と同氏は言う。これを誤解している創業者や営業担当者の割合を尋ねられると、同氏は90%と答えた。同氏の説明では、エンタープライズ営業は、顧客をベンダー側のプロセスに無理やり押し込むのではなく、顧客の購買プロセスに合わせ、それをコントロールしようとするものであるべきだという。100万ドルの商談なら、同氏は前半のミーティングを増やす。10万ドルの商談なら、見極めがしっかりしている限り、営業担当者はいくらか速く進められる。
ステップ10:パイロット後のセッション
パイロットの後、フィードバックはアンケート、ユーザーとの1対1の会話、あるいはチャンピオンによる社内での確認を通じて得られる。アベル氏が強調したのは、ユーザーが実際に何をしたかを把握することだ。費やした時間、バグ、使った機能。ほとんどのユーザーが3つのタスクのうち2つしか試さなかったのであれば、レビューの前にその理由を知っておきたい。そうすれば「こういうことができればいいのに」という不満に対して、実はそれはできるのに誰も試さなかったのだと答えられる。パイロット中、同氏はチャンピオンに、ある人が15分ログインしたもののステップ1から先に進まなかったと伝え、ユーザーに仕事のやり方を指図することなく、様子を確認してほしいと頼むこともある。
同氏はエンタープライズを、できる限り多くの摩擦があるように作られたものだと表現した。商談を潰しうる人々、調達部門、法務、そしてエグゼクティブ・スポンサーを見つけること。それを乗り越える鍵は社内のチャンピオンだ。チャンピオンが黙り込んだら、それが警告のサインである。十分な時間をともに過ごしたチャンピオンなら、しばしば電話をかけてきて「状況を読む限り、少し寝かせたほうがいいと思います」と言ってくれる。ラチツキー氏は、買い手にとっては対立するよりも沈黙するほうがノーと言いやすいのだと指摘した。
勝率とファネルのベンチマーク
アベル氏は、適格な商談機会(クオリファイド・オポチュニティ)を、適切な人物と話しており、その人がアルファにワクワクしていて、変化が必要だと認めている状態と定義している。同氏はあえて「課題」ではなく「変化」という言葉を使った。誰もが同じ課題を売り込んでおり、それはあなたをコモディティ化してしまうからだ。
健全なエンタープライズの勝率、つまり適格な商談機会から契約締結までの割合として同氏が挙げた数字は約30〜35%で、後に25〜35%に修正した。同氏の理由づけはこうだ。勝率がそれより高いなら、価格が低すぎる。市場の一部はまだ購入できるほど成熟しておらず、そうしたギャップは普通のことだ。価格を一貫させることも重要だ。なぜなら「市場は噂をする」からだ。ある買い手の友人に5万ドル、別の会社に50万ドルを請求すれば、特に役員の間では必ず知られることになる。ラチツキー氏は、創業者のWhatsAppグループでまさにこうした価格の比較を目にすると語った。アベル氏はさらに、失注した商談のうちおよそ25%が1年後に戻ってくると付け加えた。
同氏はファネルの各段階についてより大まかな数字も挙げたが、話しながら数字は変化していった。ターゲティングが良ければ、コンタクトの約50〜75%が適格なリードになる。そのうち約半分がデモに進み、4分の1がさらにその先に進む。それ以降は、見極めがしっかりしていれば、あまり失注すべきではないという。パイロット段階からは約80%が成功すると見込んでいる。それより少ない場合、見極めがずれているか、営業担当者が準備の整っていない製品を過大に売り込んだかのどちらかだ。賢い買い手は必ずパイロットを望むので、パイロットはプロセスの標準的な一部であるべきだと同氏は述べた。
ステップ11〜14:調達、修正案、署名
ステップ11、契約書類の準備と調達スケジュール。 アベル氏は、パイロット前の合意内容を、チャンピオンが調達部門に転送できるメールにまとめる。合意した内容、特定の日付までの署名に紐づいた価格、その日付に間に合わせた場合のインセンティブだ。「緊急性を生み出す理由が常に必要です」。契約書はPDFではなくWord文書で送る。買い手が修正案(レッドライン)を入れるからだ(しかもほとんどのエンタープライズはGoogle ドキュメントにアクセスできない)。こちらのひな形を使うか先方のものを使うかも尋ねる。先方のものを使うほうが速い場合もあるからだ。また同氏は、買い手は悪い知らせを伝えるのを避けるためにしばしば調達部門のせいにし、商談が「調達で止まっている」と言うことがあると警告した。同氏の経験では、調達は通常およそ30日のプロセスであり、その仕事は商談を潰すことではなく、購入がその会社の買い方に合っているかを確認することだ。調達部門は支払いを受ける唯一のルートでもある。事業部門のリーダーが直接支払うことはできず、支払いは財務部門から行われるからだ。同氏のアドバイスは、契約が署名されるまで導入やオンボーディングを一切始めないことだ。
ステップ12、契約書のレビュー。 修正案は必ず戻ってくる。簡単なものは受け入れる。数が多い場合は、文書をやり取りする代わりに、買い手の法務チームとライブで電話をさせてほしいと頼む。ビジネスに影響する条項は押し返し、残りは譲り、自社の弁護士にもレビューしてもらう。(同氏の説明によれば、「ペーパー」とは契約書を指す企業用語だ。)
ステップ13、調達プロセス。 調達部門と法務とのライブの電話で、受け入れられない条項について詰めていく。買い手のひな形を使う場合は、「ありとあらゆるもの」が盛り込まれている。たとえば小さな会社に1000万ドルの賠償責任保険を求めてきた場合、先方のリスクはそこまで高くないと主張できる。すべては交渉可能だが、戦う場面は選ぶべきだ。この段階では、条項ひとつで商談が崩れることはないと同氏は言う。やるべきことは、こちらの立場を相手に理解してもらうことだ。
ステップ14、署名。 署名者が誰なのかを事前に確認しておく。エグゼクティブ・スポンサーではなくCFOであることもあり、署名が遅れた場合にチャンピオンが後押しできるようにするためだ。営業担当者はどうやってお祝いするのかと聞かれ、アベル氏は、良い気分が続くのは5分ほどで、すぐに「次はどれ?」と聞き始めると答えた。営業では、自分の価値はパイプライン次第なのだと同氏は語った。
署名の後:拡大とサービス
拡大について、アベル氏は、成熟した企業であれば顧客がどの製品へと拡大していけるかをすでに把握しているだろうと述べた。最初の10社のエンタープライズ顧客を獲得しようとしている企業については、商談後も創業者が関わり、製品のどの部分がその顧客向けのカスタムなのか、サービスとして料金を請求すべきかを見極めるべきだと同氏は考えている。ほとんどの企業が経常収益に注力しているとはいえ、予算における最大の費目は依然としてサービスだと同氏は指摘した。エンタープライズはコンサルタントや弁護士の買い方を知っているので、サービスにはいつでもお金がある。
買い手が時間を無駄にせずノーと言う方法
ラチツキー氏は逆の質問をした。合わないプロセスを買い手はどう終わらせるべきか? アベル氏のアドバイスは、なぜタイミングが合わないのか、なぜ組織の成熟度が足りないのかを、できるだけ早く説明することだった。テクノロジーを受け入れるにはチームがそれに合った体制になっていなければならない、と同氏は言う。会話の前半でも触れたように、まずサービスを売り、後から顧客をテクノロジーへと導くほうが簡単な場合もあるが、エンタープライズにおける成熟度がより進んだ売り手はテクノロジーを前面に出すべきだと同氏は述べた。
買い手は押し返されることも覚悟しておくべきだ。アベル氏は迷っているクライアントに「このギャップを埋めないこと自体がリスクです」と伝えたことがあるが、そう言えるだけの立場にいなければならないとも認めた。最初の2回の電話で相手が言ったことを思い出してもらい、相手が単に「微妙な状況」にあるだけなら、小さく始めることを提案する。しかし、新規ベンダーの採用を凍結する買収のような本当の障壁がある場合は、それを尊重しなければならないと同氏は語った。
プロダクトマネジメントとしての営業、そしてAIの位置づけ
ラチツキー氏は、このプロセス全体がプロダクトマネジメントのように見えると述べた。多くの細かいタスクを把握し続け、人々の課題を理解して解決しようとする点でだ。アベル氏は、2つの役割は驚くほど似ていると同意した。ラチツキー氏はまた、会話の中でAIがほとんど話題に上らなかったことも指摘した。アベル氏は、AIで生成したレポートや画像をクライアントに送ると、誰でも作れるものなので営業臭く感じられると述べ、ラチツキー氏はそれをこのエピソードの問い、つまり「あなたのアルファは何か」に結びつけた。同氏はまた、定型文やAIを使うのではなく、自分でメールを書くべきだという以前からのアドバイスを繰り返した。メールは「生きて呼吸している」ものであり、受け取った人はあなたが読み上げている声が聞こえるほどだという。最後に同氏は質問を歓迎すると述べ、State Affairsが複数のエンタープライズ営業職を募集していることに触れ、新たに加わる人には自分の知っていることをすべて教えると約束した。
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