次期SINETの設計方針:800G化、ルーター冗長化、光パス切替、クラウド型ファイアウォール

YouTubeで開く ↗
概要

国立情報学研究所(NII)学術ネットワーク研究開発センター長の栗本崇氏が、学術情報基盤オープンフォーラム2026で次期SINETの検討状況を紹介した。講演の前半では、現行のSINET6の利用状況とこれまでに提供を始めたサービスを振り返った。後半では、利用者の要望、技術動向、海外の学術ネットワークの整備状況を踏まえ、次期SINETで何を変えようとしているかを5つの方向性に分けて説明した。回線速度、信頼性、VPNサービス、モバイル、セキュリティ、国際回線である。

15分で読めます

SINETの役割と商用インターネットとの違い

栗本氏によると、SINETは大学の大型実験設備、スーパーコンピューター、mdx、研究データ基盤などを、全国の大学、研究機関、民間企業の研究所と結ぶネットワークである。提供サービスはIPv4/v6デュアルのインターネット接続、L3VPN、L2VPN、それらをオンデマンドで制御する機能などで、教職員と学生を合わせて300万人以上が利用しているという。

商用ネットワークとの違いとして栗本氏は接続形態を挙げた。大学はSINET6に直接アクセス回線を引き込んで接続する。実験設備もSINETにつながっているため、大学から直接アクセスできる。さらにSINETは米国や欧州の学術ネットワークとも相互に接続しており、海外の大型実験設備にも学術ネットワークだけを経由して到達できる。学術ネットワーク全体で経路と帯域が把握・管理されているので、ボトルネックなく通信できると説明した。一方、家庭から使うインターネットはFTTHなどの回線で束ねられた後、複数の商用ネットワークを経由する。そのため通信が不安定になったり、どの経路を通っているかが分からなかったりする。栗本氏は、この安定性がSINETを使うメリットだとした。

高エネルギー物理、核融合、医療などの利用例

利用例として最初に挙げられたのは高エネルギー物理である。スイスのCERNにある加速器LHC(大型ハドロン衝突型加速器)の実験は大量のデータを生み出す。東京大学ICEPPは100Gbpsの回線を用意し、国際回線を含むSINETを使って欧州から日本へデータを転送している。反対向きの例がBelle II実験である。つくばの実験設備で得られたデータを、SINETとその国際回線を通じて各国に配布している。現在は1日あたり最大200TBを送り、国際共同実験を支えているという。

核融合研究では、六ヶ所村の拠点、茨城県の実験設備、スーパーコンピューターを接続している。実験データをスパコンに送って解析し、その結果を次の実験に生かすという流れにSINETが使われる。データの国際共有にも使われている。スパコンについても、全国の大学に分散した計算機を研究者がSINET経由で利用できていると栗本氏は述べた。

医療分野の例は2つ紹介された。1つは医療ビッグデータ研究である。診療画像を集めてAIで解析し、異常箇所を見つける研究で、画像の収集にはL2VPNのような閉じたネットワークサービスを使い、安全性を確保している。もう1つは医療情報のバックアップで、大規模災害に備えて東西2カ所にデータセンターを置き、各国立大学病院が両方にバックアップを取っている。

研究的な利用例としては8K映像配信の実験があった。1本あたり約40Gbpsを使う映像を沖縄や札幌で撮影し、SINETで大阪や東京に送って再生する。途中の経路で色変換や字幕挿入を行う技術の評価にSINETが使われているという。

加入状況と回線容量

加入状況について、栗本氏は2026年時点で国立大学と公立大学はほぼ100%が加入していると報告した。私立大学は72%、449校まで増えている。大学とSINETを結ぶアクセス回線の内訳は、400Gbpsが17回線、100Gbpsが116回線、40Gbpsが21回線、10Gbpsが1,025回線である。かつては1Gbpsが主流だったが、SINET6では10Gbpsが最大のボリュームゾーンになった。アクセス回線の速度と回線数を掛けた総容量は、SINET4、5、6と世代を重ねるごとに指数関数的に増えているという。

国際回線は2024年4月に増強された。北半球には2つの経路がある。東京からロサンゼルスとニューヨークを経て欧州へ向かう経路と、東京から欧州へ直接向かう経路で、どちらも400Gbpsである。アジア方面には、シンガポールとグアムへそれぞれ100Gbpsの回線を持っている。

SINET6で始めたサービス

SINETのサービスは、レイヤー3のインターネット接続、レイヤー2のVPNに加えて、モバイル、アクセス回線の冗長化、DDoS対策、転送性能の計測、高速大容量ファイル転送ツールなど多岐にわたる。SINET6で新しく始めた主なサービスとして、栗本氏は次の4つを紹介した。

  • 自動DDoSミティゲーション:インターネット接続拠点に届いたパケット情報を分析機に送り、DDoSと判断した場合はルーターで攻撃通信を自動的に止める。
  • ミラーオンデマンド:国立大学向けの攻撃検知サービスNII-SOCSが内部で使う機能。NII-SOCSが不審な通信に気づくと、オンデマンドサーバーに指示が出る。するとSINETは該当大学の通信を分析機に転送し、詳しく分析できるようにする。
  • ルーター接続冗長化:大学のアクセス回線は通常ルーター1台に収容されるため、そのルーターの保守中はサービスが止まっていた。回線冗長化装置を置いて別のルーターにも転送できるようにし、保守中もどちらかのルーターが動いている状態にした。
  • 利用者ポータル:SINETサービスの利用状況をポータル経由で確認できるよう、整備を進めている。

VPN関連サービスとオンデマンド機能

栗本氏によると、最もよく使われているのはVPNサービスで、使い勝手を良くするための機能追加を続けている。仮想大学LANサービスは、100個や200個といった多数のVLANを一度に設定できるサービスである。多くのキャンパスを持つ機関が、キャンパス同士を同じサイトにあるかのように結ぶために使っている。

オンデマンドサービスでは、研究者がVPNをどこからどこへ張るかを自分で設定し、必要なときだけ使える。主に実証実験(PoC)で使われており、栗本氏はネットワークを使った技術検証をしたい研究者に検討を呼びかけた。例として挙げたのは、北海道大学と九州大学を結んだ手術ロボットの実験である。オンデマンドサービスには3つの機能がある。1つ目はレート制御で、帯域を太くしたり細くしたりしてアプリケーションの動きがどう変わるかを試せる。2つ目は経路指定で、太平洋側と日本海側の異なるルートにVPNを張れば、400Gbpsを2本使ってエンドツーエンドで800Gbpsの通信実験もできるという。3つ目は品質保証で、ベストエフォートの通常通信より優先度を高く設定し、パケットロスや遅延を抑えられる。

直結クラウドサービスは35社のクラウドを589機関が利用している。大学からクラウドまで直結のVPNを張り、学内のサーバーのように使えるサービスである。例として、福井大学が患者情報をクラウド上で処理するのに使っていることが紹介された。モバイルサービスは実証実験の段階で、流氷のデータ収集や、手術用機材を積んだ車両で移動しながら手術を行う取り組みなどに使われている。

初等中等教育での利用も広がっており、現在133万人、全体の10%以上の児童生徒がSINETを使っている。接続形態は2つある。大学の共同機関として加入する形と、文部科学省がつくった枠組みで県などの地域単位で加入する形である。沖縄県、京都、秋田県が地域単位で加入しており、それ以外は大学の共同機関として加入している。

サービス別の利用状況を見ると、新しく始めたDDoSミティゲーション、DC接続冗長化、ルーター接続冗長化は徐々に増えている段階である。VPN系は5,000〜6,000件規模で使われ、クラウド接続は500以上に達している。栗本氏はクラウド接続を、すでにかなり浸透したサービスと位置付けた。

次期SINETの政策的背景と5つの方向性

後半の次期SINETについて、栗本氏はまず政策的な背景を説明した。科学技術・イノベーション基本計画に示された「AI for Science」と「研究設備の共用化」という2本の柱を意識して検討を進めているという。AI for Scienceでは、SINETを研究を支える基盤として活用する方針が示されている。AIで実験を自動化するオートメーションラボでもデータのやり取りが発生するため、SINETの活用を想定している。先端設備を周辺の大学と共用する取り組みでも、データの送受信を支援したいとした。J-PEAKSなどで地域の中核大学を中心に地域を活性化する取り組みでも、地域内の連携にSINETを使ってもらうことを想定している。

これまで集めてきた利用者の要望には、回線帯域の拡大からモバイルの提供まで幅広い内容があった。技術動向としては、新しい伝送技術が使えるようになってきたことを挙げた。海外の動向としては、他国の学術ネットワークの整備状況を参照している。これらを踏まえた今後の方向性は5つで、通信速度、VPNサービスの拡充、モバイル、インフラ面から見たセキュリティ、国際回線である。

通信速度:800Gへの2段階増速

SINETに流入するトラフィックを2014年を1として見ると、コロナ禍の時期を除いた直近10年の年平均伸び率は1.37倍だった。日本のインターネット全体は1.2倍程度なので、栗本氏は学術通信の伸びの方が大きいと指摘した。

次期SINETでは800G技術を導入し、400Gから800Gへ引き上げる。開始時点では、次期SINETの最終年にあたる2034年3月末までに400Gを超えると予測される区間を、最初から800Gで整備する。これにより期間中の容量は確保できると栗本氏は見込む。ただし現在の高い伸び率が続けば、区間によっては800Gでも足りず、1.2Tや2Tが必要になるという予測もある。そこで、800Gでは不足しそうだと分かった段階で1.6Tへ増速する2段階の構成をとる。需要見込みから、増速の時期は中間期にあたる2031年ごろと考えている。

海外の状況も紹介された。大西洋区間には2.7Tや800Gの回線が整備され、太平洋区間でもSINETが400G 1本であるのに対し、韓国やシンガポールは100Gや400Gを複数本張っている。各国の学術ネットワーク自体も400Gから800Gへの移行を進めている。SINETは整備が遅れた時期もあったが、2016年ごろに100Gで追いつき、SINET6では400Gをいち早く整備した。しかしその後、欧州や米国が800Gへ移行したことで、現在は再び遅れつつあると栗本氏は述べた。なお、機器側はすでに800Gに対応済みだという。

信頼性:ルーター冗長化と光パス切替

ネットワークアーキテクチャーについて、栗本氏はSINET6とほぼ同じ構成を引き継ぐ方針を示した。光レイヤー、パケット転送レイヤー、IPレイヤーの3層構成をとり、IPレイヤーはフルメッシュ接続にして、どのルーター間もワンホップで届くようにする。SINET6との違いは、信頼性を高めるために取り入れる2つの技術、すなわちルーターの冗長化と光パスの切り替えにある。

光パス切替の仕組みはこうである。通常、WDM装置間に張った光パスはファイバーが切れると切れたままになる。次期SINETでは、別ルートを通るファイバーがある場合、故障時にそちらへ波長パスを切り替えて通信を続ける。実証を進めており、切り替えを含めて10分程度で別のファイバー経路へ移せることを確認したという。

ルーターは現在1データセンターに1台だが、これを2台に増やし、片方に障害が起きてももう片方で通信を続けられるようにする。大学から2台の装置それぞれに回線を接続すれば、両方を同時に使うこともできる。現在のDC接続冗長化サービスはアクティブ・スタンバイ方式で、片方が使えなくなったときにスタンバイ側へ切り替わる。次期SINETではこれに加えてアクティブ・アクティブ方式も提供したいとした。アクセス回線の速度は1Gから400GEまでを提供する予定である。

参考として、ルーターの論理構成も説明された。現在のSINETでは、インターネット接続とVPNを別々の論理面で提供し、安定性と信頼性を確保している。SINET7でもこれを引き継ぐ。実現方法としては、従来どおりロジカルシステム機能を使う方式と、セグメントルーティングやFlex-Algoで論理面を分ける方式の2つを検討している。

VPNの拡充、エンドツーエンド光パス、次期モバイル

VPNサービスは、SINET6のサービスを基本的にそのまま継続する。そのうえで、信頼性の向上とアクセスの多様化という要望に応えるため、新しいサービスを加える。信頼性の面では、前述のアクティブ・アクティブ接続をVPNでも可能にする。現在は2台のルーターに2本の回線をつないでいてもアクティブ・スタンバイでしか使えないが、両方の回線を同時に使えるようにすれば、信頼性を確保しながら通信量も増やせる。アクセスの多様化の面では、現在トライアル中のVPNゲートウェイサービスを本サービスにしたい考えだ。VLANを使えない拠点や、インターネット経由でVPNにつなぎたい拠点が、ゲートウェイを通じてL2VPNに接続できるようにする。

エンドツーエンドの光パスについて、栗本氏は「まだ検討中で、提供できるとご報告できる段階ではない」と断った。大学の計算機資源同士を光パスで直結すれば、パケットロスも遅延の揺らぎもない高品質な通信環境が実現できると考えている。AI時代にはGPU同士をつないで分散処理するといった使い方ができるのではないかとして、提供に向けて検討を続けるという。

モバイルでは、現在の5Gセルラーに加え、衛星などのNTN(非地上系ネットワーク)や、航空機のような機体を飛ばすHAPSの活用を考えている。フィールド研究を加速させるのが狙いである。さらにNTNやセルラーの端末にLPWAをつなぎ、森林研究などに使える形で全体を1つのパッケージとして提供できないかも検討しているという。

セキュリティ:NII-SOCSとの一体化とクラウド型ファイアウォール

NIIには現在、SINETが提供するセキュリティサービスと、NII-SOCSが国立大学向けに提供する攻撃検知サービスがある。部署が異なるため、今は連携しながら別々に運用している。これをより密接に連携させて一体的なサービスにすることと、国立大学向けのNII-SOCSを私立大学や公立大学にも広げることを目指している。

ネットワーク側の新サービスとして、栗本氏はクラウド型ファイアウォールを挙げた。現在は、許可していない通信を止めるファイアウォールを各大学が自分の拠点に置いて運用している。次期SINETでは、SINETに直結した拠点にクラウド型ファイアウォールの機器を置き、大学宛ての通信をいったんそこへ引き込む。問題のない通信だけを加入機関に転送する仕組みである。次期SINETでの提供を目指しており、それに先立って2026年12月ごろにスモールスタートする予定だ。形態は1Gbpsのベストエフォートで、IPv4/v6のポリシー設定などの基本機能から、ファイアウォールとして必要な機能はひととおり提供できる見込みだという。なお栗本氏は、誤解を招く言い方だったかもしれないと断ったうえで補足した。このサービスはNIIが直接提供するのではない。事業者がサービスを構築して大学と直接契約し、SINETはネットワーク面で両者を仲介するという。

構想段階の案として、IdPのバックアップも紹介された。最近はIDが盗まれる問題が起きており、IdPが被害を受けると大学が提供するあらゆるシステムにログインできなくなる。こうした事態に備えてID情報をバックアップするサービスを提供できないか考えているという。DDoS分析は引き続き提供する。

国際回線:800G化と北極海ルートの検討

国際回線は現在400Gbpsで欧州と米国を結んでいるが、通信量の増加を見ると、次期SINETの期間中に400Gでは足りなくなると栗本氏は見ている。2028年の開始時点では400Gで始め、その2〜3年後、おそらく2031年ごろに800Gへ増速する計画だ。増速の際には、現在北米経由になっている欧州向けのルートについて、北極海を通るファイバーを使えないか検討している。北極海のファイバーを使えば遅延が短くなり、安定性も高まるのではないかとの狙いである。

次期SINETのポイント

栗本氏は最後に次期SINETのポイントを整理した。

  • 需要に合わせて800Gを導入する。
  • ルーターの冗長化と光レイヤーでのファイバー切替により、SINET6を超える高信頼化を図る。
  • 信頼性を高めた新しいVPNサービスや、衛星通信を含む次期モバイルで、広域の研究を支援する。
  • NII-SOCSと連携し、クラウド型ファイアウォールなどを使える環境を整えてサイバー攻撃への対策を強化する。
  • 国際回線は期間中に400Gから800Gへ引き上げる。

エンドツーエンド光パス、NTNやHAPSを使ったモバイル、IdPのバックアップ、北極海ルートは、いずれも講演の時点では検討中または構想段階として語られた。