研究データ管理から即時OAへ:「学認RDMのJAIRO Cloud公開支援機能」をめぐる質疑と総合討論

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概要

学術情報基盤オープンフォーラム2026のセッション「研究データ管理からはじめる即時OA」の最後に、質疑応答と総合討論が行われた。登壇したのは升井洋志氏(北見工業大学)、高田良宏氏(金沢大学)、込山悠介氏(NII)で、NIIの林正治氏が司会を務めた。このセッションでは、学認RDM(GakuNin RDM)から機関リポジトリのJAIRO Cloudへ論文やデータを送る公開支援機能が紹介され、升井氏と高田氏が事前に試用した。二人は講演でこの機能にかなり厳しい評価を示しており、討論ではその指摘を受けて、機関でこの機能を使えるようにするには何が必要かが議論された。

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データの二重保持は解消されるのか

最初の質問はJAIRO Cloud側に向けられた。升井氏と高田氏の講演では、機関のストレージとJAIRO Cloudの両方にデータを持つ必要がある点が問題として挙がっていた。学認RDMから連携する場合も、データをコピーする形でJAIRO Cloudに持たせることになる。質問者は、この二重化が解消される見込みがあるか、あるならいつ頃から選択できるようになるかを尋ねた。

JAIRO Cloud側の回答者は、現段階で解消する予定はないと答えた。JAIRO Cloudにも機関のストレージを接続する機能自体はある。ただ、学認RDMとは保存の方法が異なるため、ストレージの共有にはまだ至っていない。回答者はこれを検討課題と位置づけたうえで、現在の設計の理由を説明した。もともと公開領域と非公開領域をしっかり区別したいという考えから今の構成になっており、非公開状態のものを公開に移すときにどう安全に移すかを、もう少し考えていきたいという。

JPCOARスキーマとの関係

次の質問は込山氏に向けられた。質問者の機関では、機関リポジトリへの登録にJPCOARスキーマのTSVフォーマットを使っている。このフォーマットと公開支援機能はどういう関係にあるのか、という質問である。

込山氏によれば、学認RDMとJAIRO Cloudの間のメタデータはJPCOARスキーマでマッピングされており、JAIRO CloudにはJPCOARスキーマで登録される。そのため問題はなさそうだ、と答えた。

込山氏の補足:正式名称、チェックリスト、DMP連携

会場からの質問が途切れたところで、学認RDM担当の込山氏がいくつか補足した。

一つ目は機能の名称である。升井氏の講演では機能名がまだ決まっていないとされていたが、正式名称は「学認RDMのJAIRO Cloud公開支援機能」になっている。込山氏は、連絡が不十分だったことを詫びた。

二つ目はチェックリストである。講演では、チェックリストを一括で処理したいという課題が挙がっていた。込山氏の説明では、これは別の文脈から来た設計である。大規模な医療系プロジェクトなどでは、1件ずつチェックしてもらった方がよいという意見があり、現在の形になっている。ただ、汎用性を考えて見直す可能性はあるとした。また、オンラインで寄せられた質問にも触れた。研究管理者であるPIがチェックしてから図書館に送る画面はきちんと用意してある。一方で、それが教授クラスの教員にとってやや負担になっているというコメントも受けているという。

三つ目は、高田氏が講演で求めたDMPから一貫した流れについてである。込山氏によれば、この後のセッションでDMPエディタとの連携が扱われる予定であり、そちらで一定の答えが得られるだろうと述べた。

ワークフローは個別対応ではなく共通機能として拡張する

討論に移ると、林氏はまず、升井氏から出ていたワークフローの共有範囲やカスタマイズについての質問を込山氏に振った。

込山氏は、カスタマイズを望む声が多いことは理解しているとしたうえで、過去の経験を話した。以前、機関ごとの事情にきわめて細かく合わせてワークフローをローカライズすることに挑戦したことがある。そのとき分かったのは、数年がかりの共同研究として業務そのものを作り込む形でなければ成功しないということだった。図書館、基盤センター、研究者の間で、いきなり複雑な枠組みをやり取りするのは難しい。今回の講演でも「コミュニケーションが足りていない」というコメントが出ていた。

そこで込山氏は、まずシンプルな仕組みを見てもらい、そこに機能を足していく方針を示した。例として挙げたのは次のような拡張である。研究者が申請にメッセージを添え、「これはこういうデータなので登録をお願いします。いつまでにアクセプトされるので早めにお願いします」と図書館に送る。図書館側はそのメッセージを見ながらレビューする。数週間動きがなければ「そろそろもう一度返信してもらえませんか」というリマインドメールをシステムから自動で送る。込山氏によれば、こうした拡張はシステム的には容易に実現できるものを裏側に持っているという。

込山氏は現状を「何も入っていない素の丼」にたとえた。全国のどの機関でも必要になりそうな機能について意見をもらい、それを順に具として足していく形で広げるのがよいと考えている。逆に、学内システムとの接続のような個別のローカライズは、現状ではかなり大変だという見方を示した。

ワークフローの流れを図として見せられるか

升井氏は、個別対応は大変だろうと理解を示したうえで、別の点を尋ねた。ワークフローが「ベータ」などと表示されているが、それがどういう流れで進むのかをチャートとして見せることはできるのか、という質問である。

込山氏は、チャートにすること自体は可能だと答えた。ただし、UIから呼び出して自動的にフローとして表示する拡張は、まだそこまでできていない。一方で、開発にはAIも併用しており、バックエンドをしっかり定義できれば開発コストはそれほど大きくならないという見方を示した。テンプレート化も進めている。講演では、ワークフローの名前が分かりにくく何の機能か分からないという指摘があった。これについても、名前を付けてモジュール化し、「図書館への公開のフロー」のように処理内容が分かるようにする考えだという。上流側の拡張として、倫理審査委員会に依頼を送るフローなどを組み込むことも可能だとした。ただしUIについては、個別に拡張しなければならない部分が残るという。

林氏は、ワークフローは機関の声を聞きながら共通機能として拡張していく予定だと確認した。込山氏は、機関ごとの個別ローカライズは難しい、という答えだと改めて述べた。

DMP起点になっていないという指摘

林氏は続いて、高田氏の講演で特徴的だった指摘を取り上げた。現在の仕組みがDMPを起点にした即時OAになっていない、という点である。

込山氏は、まだ各機能が有機的につながった姿を見せられていないことを認めた。そのうえで、夕方のセッションでDMPを作成してもらう内容を扱うと説明した。DMPを起点にすべてがつながっているとまでは言えず「まだもう一歩」の段階だが、システム的にまずつながった部分はそのセッションで紹介するという。林氏は、DMPとの連携はまだ十分ではなく、今後検討していく課題だとまとめた。

機関で使えるようにするには:研究者の意識から(升井氏)

林氏は、今回の試用期間がほぼ2週間しかなく、説明も十分でないまま使ってもらったことに触れた。そのうえで、足りない点の指摘を踏まえて、この公開支援機能を機関で使えるようにするにはどういうアプローチを取ればよいかを升井氏と高田氏に尋ねた。

升井氏は、図書館と研究者のどちらの観点かと確認したうえで、機関で運用するなら両面が必要だと述べた。そして、いちばん大事なスタートラインは「論文を書いたらオープンにしなければならない」という意識をつくることだと語った。升井氏の感覚では、研究者の半分ほどはまだその意識になっていない。

升井氏は自身の大学を例に挙げた。これまでは、論文がアクセプトされると図書館から「先生、この論文をオープンアクセスにしてくださいね」と連絡が来る流れだった。そのため研究者は、後は図書館がやってくれるものだと思っている。図書館側も、どの教員のどの論文が出版されたかを常に追い続けなければならない。

升井氏は、まず研究者が「論文を書いたらオープンにする」と考えるようになることが出発点だと述べた。そのうえで、互いに苦労しないための仕組みが必要になる。公開したいデータと公開したくないデータがあり、特許の関係などで何でも出してよいわけではない。それを把握したうえで「出してね」「出さないでね」と判断できる仕組みを作る必要がある。そのうえで、「このやり方にはまっているなら、苦労するよりこれを使った方がいい」となるはずだという。つまり、まず意識を変え、次にそれを進めるために何が必要か、どんなワークフローやシステムがあればよいかを整理し、そこに今回の機能がはまっているかを確かめるべきだという立場である。林氏はこれを、研究者の意識という土壌がまだできていないという指摘として受け止めた。

情報共有と研究者側から見た公開状況(高田氏)

高田氏は、升井氏の意見を非常に大事なものだと評価した。そのうえで、研究者と担当部局が情報を共有することが重要だと述べた。

例として挙げたのは金沢大学での運用である。研究者がRDMの領域を使うことになった時点で、担当部署がそれを把握する。また、委員会に提出するためにDMPを書き換えて申請する段階でも把握できるので、「倫理審査の許可はきちんと取ったのか」が分かる。高田氏は、こうした仕組みがシステム面でも制度面でも大事だとした。

研究者の視点からは、別の問題を指摘した。高田氏は自分が見落としていたのかもしれないと断ったうえで、今回の機能ではJAIRO Cloudに送ってしまうと、それで手元から見えなくなるように見えたと述べた。これまでに公開したものの一覧が見られること、どの論文をまだ公開していないかまで分かることが望ましいという。升井氏が触れたように公開しないデータもある。そのため、全体の一覧を見たうえで「これはJAIRO Cloudに送った」「これはまだ送っていない」「これは許可が出て登録できる」といった状態を把握できる必要がある。現状では、JAIRO Cloudに送った後の状態を研究者が検索しても見えにくい。そこまで管理できれば、大学側にも研究者にも分かりやすいと高田氏は述べた。

記録は残るが、研究者自身の管理は課題(込山氏)

込山氏は、今回紹介した公開支援機能でも、登録手続きを開始すれば記録は残ると説明した。機関としては、JAIRO Cloud側で公開済みの論文について統計を取ったり、ダッシュボードのような形で見たりできるようになっていくと見込んでいる。

一方で、研究者が自分で「この論文は公開したか」「図書館にまだ送っていなかったか」を管理する点については、まだ一歩手前の段階だと認めた。このフローに一度入れば、手続きの記録は過去の分も含めて残る。ただしローカル側では、記録のために一度データを入れてもらう必要があるだろうという見方を示した。研究者の視点でも公開済みと未公開の論文を把握したいという要望は、講演の中で意見として受けていると述べた。

会場から:医療系大学での利用実態と料金への不安

林氏は会場に向けて、研究者の意識を変えるための工夫や困りごとを尋ねた。これに応じて、島田氏が発言した。島田氏は図書館の担当ではない。学認RDMを整備する担当になり、学内の状況を改めて調べたところで、自分の大学がJAIRO Cloudを導入していると知ったという。

島田氏の大学は医療系で、研究者は研究成果を出しているかどうかを普段から見られる立場にある。出版社からも、SNSをやっているか、自分の論文をSNSで宣伝してほしい、といった働きかけがある。そのため、論文を公開しなければならないという意識自体はあるという。

同大学でのJAIRO Cloudの主な使い道は、学生の卒業論文などの登録である。ほかに、雑誌ごとの公開ポリシーが面倒なため、研究者が投稿時にWordからPDFにした原稿を入れる使い方をしている。これは出版前の組版前原稿で、著作権は研究者側にあるので問題ないだろうという判断による。こうした運用は、オープンアクセスの取り組みの歴史の中で、学認RDMより前から続けてきたものだという。

島田氏が不安に感じているのは料金である。JAIRO Cloudは利用規模によって料金が変わると理解しているが、同じ大学でも部署が違えば、どの料金設定で何人分の枠にいくら払っているかを一般の研究者は知らない。どれだけ使ってよいのか分からず、使いすぎると上層部から止められるかもしれない、というコミュニケーションの問題があるという。島田氏が確認したところでは、学生が使っても大丈夫な程度の人数で申請しているようだった。そこに学認RDMからの連携が加わると、かえって困るのではないかという不安がある。島田氏は、制限を超えた場合にどうなるのかを質問した。

林氏は、まずこの話から、以前から言われている機関リポジトリと研究者の距離の遠さが見えると述べた。まだ十分に認識されておらず、どう連携していくかを考えていく必要があるという。料金については、基本的には使う容量に応じた段階的な設定になっている。そのため、現時点では機関の担当者に確認してもらう以外に、NII側から働きかける手段はないと答えた。そのうえで、JAIRO Cloudの担当者として、研究者側にどう情報を届ければ利用が広がるかを考えなければならないと感じたと話した。

今後どう進めるか:登壇者の一言

最後に林氏は、仕組みがすでに動き始めている中で、公開支援機能をどう進めていけばより使いやすく実装できるかを登壇者に一言ずつ求めた。

升井氏は、先ほど述べた土壌づくりを早急に進める必要があると繰り返した。進めるには、研究者に「こちらの方がいい」と思ってもらう必要がある。研究がきちんと進む、資金獲得も楽になるといったインセンティブを含めて、その方向に誘導することが大事だと述べた。

高田氏は、まず大学側の課題を挙げた。今回扱った学認RDMは基盤センターや情報センターの管轄で、JAIRO Cloudは図書館の管轄である。そのため、この機能を導入すると必ず担当をどうするかという話になり、悩ましいシステムだという。大学としては、講演から繰り返し述べてきたワンストップの窓口が必要になる。システムでも部署でもよいが、質問を一か所で受ける体制を作ることが大事だとした。システム面については、論文やデータを公開するうえでの信頼性と支援機能が充実し、込山氏が広めていけば、自然と皆が使いたくなるだろうと述べた。

込山氏は、温かくも厳しいコメントをもらったと受け止めた。学内で連携をうまく取ってもらい、それを支援する基盤になりたいという。講演ではコミュニケーションが足りない部分があるという指摘もあった。そのため、研究者の負担軽減だけでなく、図書館やその他の職員の負担も減らせる基盤に育てたいと述べた。そのために、AIによる支援技術をシステムの間に入れ、処理を自動で進められるようにしたいという。これが低コスト化にもつながるのではないかという見通しを示し、研究開発を続けると述べた。

残された課題:サービス提供側と機関の対話

林氏は締めくくりとして、今回のフォーラムのテーマの一つである「対話」に触れた。サービスを作る側と機関の間の対話はまだ十分ではなく、それを進めていく必要がある。ただ、こうした場だけでは対話がなかなか進まないかもしれない。そのため、コミュニティ的な場で議論を進めていければよいのではないかと述べた。スライド上で受け付けた質問のうち時間内に答えられなかったものは、後日テキストなどで回答するとして、セッションは終了した。