紙とExcelの手順書を「実行OS」に置き換える――Epsilon3が宇宙産業から狙うシステム・オブ・エグゼキューション

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概要

FoundXの番組「FoundX Review Startup IdeaCast」は、海外スタートアップのアイデアをAIで分析して紹介する番組である。今回取り上げたのは、SpaceX出身者が創業したEpsilon3だ。番組冒頭で、情報整理にAIを使っているため内容が古い場合や誤りがある可能性がある、との断りが入っている。

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解説役の馬田氏は、この会社を選んだ理由を次のように説明した。Epsilon3は宇宙産業から入り、先端製造の領域まで広げようとしている。一見ニッチだが、「システム・オブ・レコード」ではなく「システム・オブ・エグゼキューション」を掲げている。規制の厳しい領域へ参入するときの参考になると考えた、という。放送の中心は二つの問いである。現場のどんな泥臭い課題から事業を立ち上げたのか。その後どのようにモート(競争優位)を築こうとしているのか。

全体像:高リスク業務向けの手順・資源管理OS

馬田氏の要約では、Epsilon3は宇宙産業をはじめとする複雑で高リスクな業務に向けて、手順管理と資源管理の基盤を提供するスタートアップである。SpaceX出身者が創業したので宇宙専門の会社に見えるが、宇宙を皮切りに他の領域へ展開しようとしている。高リスクな現場向けの実行ソフトウェア基盤として、現在も開発が進んでいる段階だと位置づけた。目指す姿は、AI駆動の手順・資源管理OSである。

拡大する宇宙経済と、追いつかない現場の運用

宇宙から入る背景として、馬田氏は米国の宇宙経済の数字を挙げた。紹介された数字は次のとおり。

  • 2024年に6,130億ドル規模に達した
  • 商業打ち上げは過去最高を記録した
  • 前年比7.8%増で、商業部分が78%を占める
  • FAAの2024年度の商業宇宙ライセンス業務は148件で過去最高、2028年度までにさらに倍増する見込み

馬田氏は、SpaceXをはじめとする事業者の打ち上げ頻度が大きく上がり、需要が官需だけではなくなっていると説明した。

一方で、成長に伴ってFedRAMPやITARといったコンプライアンス・セキュリティ要件が厳格化している。それにもかかわらず、現場の運用はいまだに紙、Excel、Wordといったレガシー環境の継ぎはぎで行われ、限界に来ているという。宇宙という壮大なビジョンの裏側には、手順管理やコンプライアンス対応という泥臭いペインが大量にある。そのうえロケットや衛星の運用では、手作業のエラーがそのままミッション失敗につながる。だから確実なシステムが求められている、というのが馬田氏の整理である。

聞き手が「レガシー環境」の実態を尋ねると、馬田氏は日本とあまり変わらないと答えた。印刷した文書、PDFやWordの文書、Excelのスプレッドシート、Confluenceのような一般的なツールで手順を管理し、メールやチャットでやり取りしている。昔ながらのやり方だという。

課題:版管理の破綻、ブラックボックス化、残らない実行履歴

ターゲット顧客は、ロケットや衛星の統合・試験・運用を担うオペレーターである。彼らはExcel、手作業、印刷物を組み合わせて手順書とそのバージョンを管理している。馬田氏は、このやり方には三つの問題があると述べた。手作業の管理は破綻や誤操作のリスクを生む。現場の進捗や状態がブラックボックス化し、今どこまで進んでいるのかが分かりにくい。汎用ツールは導入こそ容易だが、実行ログ、条件分岐、リアルタイム同期、監査証跡には弱い。

そこで重厚なPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)ツールを入れようとしがちだが、馬田氏によれば、PLMは設計管理には向く一方、現場オペレーターの実行管理には重すぎる。結果として、監査や異常発生時に必要な「アズラン(as-run)」、つまり実際に実行された記録を正確に残せていない。馬田氏はこれを強烈なペインと表現した。

聞き手は、既存の重厚なシステムが現場に定着しない理由を掘り下げた。馬田氏の答えは、PLMツールは設計と変更管理が中心で、現場での動的な手順実行やテレメトリ連携が弱いと言われている、というものだった。アズランの履歴がなぜ重要かについては、理想的な手順ではなく「実際に誰が、いつ、どんなデータとともに実行したか」という現場の実行ログが、監査や証跡のうえで重要になるからだと説明した。

損失の規模についても触れた。Epsilon3側の資料によれば、世界全体での宇宙ミッション失敗コストは300億ドル規模だという。馬田氏は、これはあくまで彼らの推計で正しいかどうかは分からないと留保した。そのうえで、日本でもミッション失敗の例はあり、1回あたりの失敗コストが大きいこと自体は間違いないだろうと述べている。

この市場は機能の多さだけでは勝ちにくい、とも馬田氏は指摘した。権限管理、監査証跡、輸出管理、政府のセキュリティ要件、既存システムとの連携が導入の前提条件になっており、それらをまとめて解決しなければならない。

解決策:動く手順書とテレメトリ連携

Epsilon3の解決策として、馬田氏は次の要素を挙げた。

まず、静的な電子チェックリストではない「動的な手順書」である。条件分岐、複数人の承認フロー、実機との連携を備え、手順書そのものが動く。次に、分散したチーム間で起きるバージョン管理の破綻を、リアルタイム同期で解消する。さらに、手作業による証跡の漏れを防ぐため、アズランの履歴を自動で記録し、完全な監査ログ(監査バンドル)を生成する。そして計画から製造、テスト、実行までの各フェーズを横断する統合ハブとして機能し、全体のOSになることを目指している。

テレメトリの実機データや他システムとのAPI連携にも対応しており、手順書と機体の状態を直接結びつけられる。聞き手がテレメトリ連携の具体的な効果を尋ねると、馬田氏はこう説明した。機器から送られる状態を手順書の上で直接読み取り、特定の値に達したら次のステップへ進む。こうした、状態に反応する運用が可能になるという。

採用実績として、米国の軌道打ち上げ事業者の約30%が利用しており、NASAやBlue Originなどのエンタープライズ顧客も獲得していると紹介された。

バリューチェーン上の位置づけ

馬田氏は、宇宙・防衛・先端製造の現場のバリューチェーンを次のように整理した。

  • 要求定義と設計:PLM系ツール
  • 調達と在庫管理
  • 製造と組み立て:MES(製造実行システム)
  • 品質テスト
  • 運用手順の実行
  • 監査
  • 失敗や成功からの学習

このうちEpsilon3の公開製品は、実行、製造、テスト、分析が中心である。上流のPLMや要件管理ツール、下流のERPや調達とは、おそらくAPIでつないでいるのだろうと馬田氏は見ている。技術の中核は手順実行(プロシージャー・エグゼキューション)で、そこを起点に上下へ機能を伸ばしている。ただし、現時点ではフルスタックで統合できているわけではない、というのが馬田氏の見立てだ。

加えて、セキュリティ、コンプライアンス、政府契約が絡むと要件が厳しくなる。そのためデータ境界やアクセス管理をきちんと作り込み、汎用ツールとは一線を画した機能を入れているのではないか、とも馬田氏は述べた。

市場戦略:宇宙から航空・防衛、そして高度製造・医療へ

市場について、Epsilon3はまず宇宙産業を狙い、長期的には失敗コストの高い全産業を視野に入れているという。具体的には高度製造、ロボティクス、医療機器などで、その中間に航空や防衛がある。まず成長産業の宇宙で確固たる地位を築く。宇宙という厳しい環境で培った信頼性と厳格な運用実績を、他の規制産業へ横展開するときの武器やブランドにする。馬田氏は、そうした戦略的な期待があるのだろうと推測した。公式サイトにも、宇宙だけでなく航空、エネルギー、自動車、医療分野のユースケースが示されている。

聞き手が宇宙から始めた理由を尋ねると、馬田氏は二点を挙げた。創業者がSpaceX出身で深いドメイン知識を持っていたこと。そしてミッションクリティカルな運用に携わり、課題感を自分自身で持っていたことである。

宇宙から他産業への横展開は一見かけ離れて見える、という聞き手の問いには、こう答えた。手順の遵守、品質保証、厳密な監査が求められるという点で、医療機器や原子力なども同じペインを抱えている。ただし業界が違えば、求められる証跡や手順も異なるかもしれない。本当にこのとおり市場を広げられるのか、単一の製品でどこまで対応できるのかは、今後の彼らの課題になるだろうと留保した。

ビジネスモデル:SaaS料金とロックイン

料金体系は、ベーシックプランが1ユーザーあたり月100ドル、プロが月200ドル、エンタープライズは個別見積もりという一般的なSaaSの形だと紹介された。ただしEpsilon3は、システムが現場の承認プロセスに組み込まれ、日々の証跡が蓄積されることで、強いロックインが生まれると期待しているらしい。重要なデータを持つほど他社に移りにくくなり、LTVを伸ばしやすくなる。彼らはこれを「コンパウンド・ロックイン・フライホイール」のような言葉で表現しているという。

さらに、AWS GovCloudやFedRAMP Highへの対応を武器に、政府機関や防衛系の大企業から高単価の案件を獲得できている。規制対応には時間がかかるが、それがそのままモートになっている、と馬田氏は見ている。スタートアップ向けの安価なプランと、政府向けの高単価なエンタープライズパッケージとで、価格戦略を分けている点も特徴として挙げた。

聞き手は、ロックインが強いなら逆に導入のハードルも高いのではないかと問うた。馬田氏はそのとおりだと認めた。2021年創業で資金調達はしているものの、調達状況を見るとかなり苦労したのではないかと感じるという。一方で機能面では、既存のWordやPDFを取り込んで移行できる機能を提供し、初期の導入ハードルを下げている。段階的に導入できる設計も意識しているようだという。

ロックイン効果が実際に強いのかという問いには、実際のところは分からないとしつつ、感覚的には強いだろうと答えた。過去のテストデータや監査用の実行履歴がすべてEpsilon3に紐づいて蓄積されるので、移行はできたとしても面倒だろう、という理由である。

戦略:実行レイヤーを押さえるコンパウンドSaaS

馬田氏は、Epsilon3がコンパウンドSaaS戦略をとっていると見ている。既存の重厚な基幹システムとは競合せず、API連携でハブ・アンド・スポーク型の構成を作る。そのうえで、自分たちは現場の実行レイヤー(エグゼキューション・レイヤー)を取る。上には設計レイヤー、下にはERPなど会計・資源のレイヤーがあり、その中間を押さえにいく。単なる情報の記録にとどまらず、テレメトリ連携やコマンド連携によって現場の運用と制御の中核まで担おうとしている。すべてを自社で作るのではなく中間レイヤーを独占し、要件管理や会計のツールとは現時点では協調路線をとっている、というのが馬田氏の整理である。10〜20年後の理想像としては、宇宙業界向けソフトにとどまらず、他の産業でも標準的な運用基盤になることを狙っているようだという。

聞き手は、ERPやPLMのベンダーが実行レイヤーに進出してくる可能性を尋ねた。馬田氏は可能性はあると認めつつ、既存の大手が現場オペレーター目線のUXを設計したり、宇宙特有のテレメトリ連携に特化したりするのは難しいだろうと述べた。そのため宇宙市場ではEpsilon3のほうが使いやすい、ということはあり得るという。差別化の軸としては、宇宙・防衛の現場のドメイン知識、テレメトリ連携を含む実運用志向を挙げた。さらに、汎用ツールがトレーサビリティや監査への対応、GovCloud対応などを満たせない点も挙げている。

既存システムとの連携の実態については、Jiraなどのチケット管理や在庫管理システムとの連携を公式にサポートし、APIも公開しているという。当初はローンチオプス(打ち上げ運用)のモダナイズが中心だった。そこからプラン、ビルド、エグゼキュート、テスト、アナライズ、ディスカバーへと機能を広げ、コンパウンドな製品になってきた。ただし設計レイヤーや会計レイヤーにはまだ踏み出していない、と馬田氏はまとめた。

ロードマップ:3つのフェーズ

馬田氏はEpsilon3の展開を3フェーズで説明した。

フェーズ1は「楔(ウェッジ)を打ち込む」段階である。実行機能から着手し、デジタル化した手順管理とリアルタイム同期によって、現場エンジニアの強烈なペインを解消した。フェーズ2は「ビルド・アンド・テスト」への拡大で、統合、試験、製造など、手順実行の前後に発生する周辺のワークフローを取り込んでシステムを統合した。フェーズ3は今後の話で、「レギュレーテッド・スケール」として政府、防衛、医療などへ横展開する。FedRAMP Highなどの高いセキュリティ認証を取得し、強力な参入障壁を築く。

馬田氏は、これはSaaSスタートアップとしては一般的な進み方だと評した。毎日使う手順書という現場のペインから入り、徐々に全社の品質管理などへ広げていく「ランド・アンド・エクスパンド」の王道だという。

フェーズ1のMVPについて聞かれると、馬田氏はこう紹介した。Y Combinatorに参加したチームで、YCの面接に進むまでのわずか3週間でMVPを構築し、初期のフィードバックを得たと言われている。フェーズ3の時期については、医療には一部入っているようにも見えるが、GTMとしてどこまで踏み込んでいるのかは分からないと答えた。FedRAMPは取得に費用も時間もかかる。それでも米国政府や国防総省の機密データを扱うシステムでは必須の要件になるため、取得できれば競合が容易に参入できなくなる。規制をうまく使った戦略だという。

競合環境:最大の敵は内製ツールと紙

競合のマッピングについて、馬田氏は二つの軸を示した。実行中心か計画中心か、そして汎用か規制産業向けの専用か、である。Epsilon3は「実行中心かつ専用」の位置にいる。そのうえで、他のスタートアップでも同じことが言えるとして、最大の敵は他社ツールよりも既存の内製ツールやExcel、紙の環境であり、それをいかにデジタル化するかが一番の競争だと述べた。

内製ツールにどう勝つのかという問いには、こう答えた。宇宙企業には優秀なソフトウェアエンジニアが多く、運用ツールを自作しがちである。しかし自作ツールは保守や拡張に手が回らなくなって破綻したり、担当者が辞めて保守する人がいなくなったりする。対価を払えば継続的に運用してもらえる点が、大きな訴求ポイントになるという。

具体的な競合として、馬田氏はまずFirst Resonanceを挙げた。高度製造、航空宇宙、防衛、エネルギーなどの工場運用を対象にしており、ある意味で競合にあたる。製造トレーサビリティ、作業指示、品質、在庫、ITAR対応といった機能はEpsilon3と共通している。ただしFirst Resonanceは「工場のOS」という色が強く、ミッション運用や手順実行よりも製造現場を中心にしてきた点で立ち位置が異なるという。次にTulipを挙げた。1億ドル以上を調達しているはずのノーコードのスタートアップで、製造などのフロントライン運用を主な顧客とし、デジタル作業指示やAIによるPDFのアプリ化で現場を可視化している。ただし宇宙や政府に特化しない汎用ツールなので、市場は広い代わりにEpsilon3とは性格が違う。TeamcenterのようなPLMツールとも異なる。馬田氏はこれらとの違いを総括して、Epsilon3は記録のためのシステム・オブ・レコードではなく、動いている現場を制御するシステム・オブ・エグゼキューションを作ろうとしている点にあると述べた。

参入戦略とチーム:ミクロな課題から入る

参入時、Epsilon3は宇宙全体を変えようとするのではなく、現場エンジニアのミクロな課題の解決に徹底して集中したという。YC面接前の3週間でMVPを作り、創業者の個人的なネットワークを使って超高速で初期顧客を開拓した。顧客と一緒にMVPを触りながら、2週間単位のリリースでフィードバックのループを回した。一つの業務のペイン解消から始めて周辺を取り込み、その先で全社のオペレーションOSというマクロな機会を狙う、というのが馬田氏の説明である。

SpaceX出身ならYCに参加しなくてもやっていけたのでは、という聞き手の問いには、こう答えた。創業者はエンジニア出身で、ビジネスは得意ではないと自覚していたのだろう。事業構築、採用、資金調達のノウハウを学ぶために参加したと言われている。セキュリティを重視する領域で2週間ごとのリリースは品質面で問題ないのかという問いには、YCやSpaceXには、監査を無視するわけではないが素早く動くカルチャーがあり、それに基づいて改善のスピードを上げていたようだと答えた。

創業者は3人である。CEOのローラ氏はSpaceX出身で、Dragonの初期運用メンバーとして深いドメイン知識を持ち、管制室での過酷な経験を通じて課題を自ら感じていた人物だという。ローラ氏はソフトウェアエンジニアではなく運用エンジニアだったが、SpaceX時代に社内ツールの開発をリードした経験があるそうだ。COOのマックス氏は4回ほど起業している連続起業家で、元GoogleのテックリードとしてSaaSの事業化と運営の知見を持つ。CTOのアーロン氏も元Googleのエンジニアで、初期プロダクトを短期間で構築できる開発力を持つという。ローラ氏が起業を模索していた時期にネットワークを通じてマックス氏と出会い、意気投合して事業構想を練り始めたと紹介された。馬田氏は、現場ドメインの専門家がリードし、汎用的なSaaSの実装力を持つメンバーが支えるこの組み合わせを理想的なチーム構成の一つと評価した。保守的な宇宙産業の市場を開けたのはこの組み合わせによるものではないか、とも述べている。

初期の仮説修正と信頼の獲得

当初、Epsilon3は宇宙機の打ち上げ運用OSを想定して作り始めた。しかし顧客の現実の課題は運用より手前にあった。統合、試験、ハードウェア開発の領域に強烈なペインがあったため、ユースケースを上流側へ広げた。これが最初の仮説修正だったと馬田氏は紹介した。その後もフィードバックをもとに高速な反復改善を続けた。

象徴的なエピソードとして、軌道上の宇宙飛行士から創業者の個人の携帯に直接連絡が来るほど、現場から深い信頼を得ていたという話が紹介された。設立1年でエンタープライズ顧客にも入れたという。聞き手がこの話の強さに反応すると、馬田氏は、製品の機能そのものではないが、創業者がミッションクリティカルな現場を理解していることを示し、ブランドや信頼につながる話だと述べた。

厳しい領域でどうフィードバックを集めたのかについては、ツール内にコメント機能を実装したり、変更履歴(チェンジログ)を頻繁に発信したりして顧客と密にコミュニケーションを取っていたという。馬田氏は、本当に一般的なSaaSのやり方だという感想を述べている。

資金調達

資金調達の経緯として、YC終了後の2022年1月頃に280万ドルのシード調達、同年6月頃にLux Capital主導で1,500万ドルの調達をしたと紹介された。NASA、Blue Origin、Axiomなど業界を代表する顧客がついていることが信頼につながっている、と馬田氏は見ている。エクイティ調達だけでなく、SBIR/STTRのグラントも活用している。

Lux Capitalが投資した背景については、防衛や宇宙などディープテック領域に強いVCで、Epsilon3が解決する課題の大きさと顧客企業からの熱狂的な評価を確認して投資を判断したようだと紹介された。資金の主な使途は、新機能の拡充などのプロダクト開発と、そのためのエンジニアリングチームの採用拡大だという。

日本への応用:AIが挙げた三つの方向

番組では、日本で同様のアイデアを展開するならどうなるかをAIに提案させている。挙がった方向性は三つである。

一つ目は、日本の宇宙・防衛の統合試験・運用プラットフォームである。日本だけでは市場は狭いが、ペインも予算も存在するだろうという案だ。二つ目は、日本の強みである精密機器や高度製造業に向けて、匠の技をデジタル化する案である。既存のExcelやPDFの手順をAIで取り込み、製造から品質管理までのワークフローを束ねる。三つ目は、Epsilon3が最終的に狙う医療、バイオ、エネルギーなど、宇宙以外の規制産業に特化する案だ。手順の厳格な管理や監査が必要な領域で、安全保障やコンプライアンス要件にしっかり対応し、それをモートにする。

真似するとすれば、最初から全社OSを狙わず、ペインの深い単一業務から入ることだという。AIでレガシーな手順を変換して移行コストを下げ、徐々に周辺へ広げる。AIもそう言っているが、自分たちもそこは学べると思う、と馬田氏は述べた。最初から全社OSを狙わない理由を問われると、システム部門全体を変えるとなると現場の導入ハードルが高くなりすぎ、稟議にも長い時間がかかると答えた。その結果PMFの検証が遅れるのは、エンタープライズ営業でよくあることだという。

まとめと残る問い

馬田氏は最後に学びを三つ挙げた。

一つ目は、ビジョンと入り口の組み合わせである。宇宙やその先の高度な規制産業という壮大なビジョンを語りながら、最初は現場が毎日困っている具体的な業務から入る。単なるチェックリストから始めても、データとシステムを統合していけば、産業に欠かせないシステム・オブ・エグゼキューションになり得るという構想が学べるという。二つ目は、深いドメイン知識と現場のペインへの共感を、SaaSの実装力と組み合わせることである。これが参入障壁の高い保守的な市場をこじ開ける鍵になるのではないかと述べた。三つ目は、セキュリティや監査という避けたくなる重い壁を、面倒なものとして避けずにあえて取りにいき、競合を排除するモートにする姿勢である。Stripeが金融という面倒な産業に最初に入ったことで大きく拡大したように、政府機関のセキュリティ要件をうまく使えれば先行者利益を取れるのではないか、と馬田氏は語った。

そのうえで視聴者に向けて、自分がよく知る業界で、失敗が許されないのにExcelや紙で運用されている業務を洗い出し、手順実行のMVPを構想してみることを勧めた。そこを楔にして、より大きなOSに近いレイヤーを取れるかを考えてみると面白い、という提案である。

聞き手は、最初から重い領域に行くのは難しいが、セキュリティや監査の壁を逆にモートにするという発想は面白く、真似できるポイントだと感想を述べた。馬田氏はこれに応じつつ、入った後にどう広げるかの道筋を持っていないと小さなツールで終わる危険性もあると留保した。そのうえで、参入の仕方についてはEpsilon3のやり方から学べるだろうと締めくくった。