柳沢正史が語る睡眠の謎:生き物はなぜ眠り、眠らないと何が起きるのか
VAIENCE バイエンス睡眠中の生き物は外からの刺激に鈍くなり、外敵に襲われる危険も高まる。それでも、神経系を持つあらゆる生き物は眠る。この動画では、覚醒を保つ脳内物質オレキシンを発見した睡眠学者・柳沢正史氏(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構〔WPI-IIIS〕機構長)が、睡眠の起源と役割、睡眠不足の害、広く信じられている誤解、オレキシン発見の経緯、人工冬眠研究、睡眠障害について語っている。柳沢氏の立場ははっきりしている。「なぜ眠るのか」は今も解けていない謎だが、睡眠を削れば脳と体に大きな害が出ることはすでに分かっている。そして睡眠で最も大事なのは質より量だ、というものである。
睡眠は脳より先に「発明」された
柳沢氏は、「人はなぜ眠るか」は睡眠学の立場から見れば「永遠の謎」とも言える難問だと述べる。人に限らず、調べた限りすべての動物が眠るという事実が、そもそも謎だからだ。
より正確に言えば、眠るのは「神経系を持つ生き物」である。2000年前後から研究が進み、脊椎動物をさかのぼって魚も眠ることが分かった。さらに、昆虫、線虫、イカやタコといった、体の構造がまったく異なる無脊椎動物も眠ることが報告された。昆虫やイカ、タコは小さいながら立派な脳を持ち、複雑な行動をする。ただし柳沢氏によれば、彼らの脳と私たちの脳には相同性がない。脳は進化の中で明らかに複数回発明されている。それでもどちらも眠るとなると、睡眠の起源はどこにあるのかという疑問が出てくる。
柳沢氏の記憶では2017年ごろ、クラゲも眠るという論文が出た。クラゲには神経細胞が体中にあり、傘を動かして泳ぎ、触手で刺して餌をとる。しかし、中枢神経系と呼べるものはない。そのクラゲにも睡眠と呼べる行動がある。ここから柳沢氏は、睡眠は脳よりも先に発明されたと言えると述べる。ただし、危険を冒してまで神経系を持つすべての生き物がなぜ眠る必要があるのかは、よく分かっていないという。
レム睡眠とノンレム睡眠
哺乳動物に限ると、睡眠は大きくレム睡眠とノンレム睡眠に分かれる。柳沢氏はレム睡眠を、ある意味で「ちぐはぐな睡眠」と表現する。レム睡眠中は、ストーリーのある夢や感情を伴う夢など、鮮明な夢を見る。だからといって眠りが浅いわけではない。強い刺激を与えないと起きないという意味では、深い睡眠である。また、レム睡眠中は全身の筋肉が完全に脱力する「レム脱力」が起き、運動出力はほぼゼロになる。例外は呼吸に関わる筋肉と目の筋肉だけだ。レム(Rapid Eye Movement)という名前は、夢の情景に合わせて動くと考えられている、まぶたの下での眼球運動に由来する。一方で自律神経系の出力は活発になり、呼吸や心拍が不規則になる。こうした組み合わせが「ちぐはぐ」と言われる理由である。
ノンレム睡眠は、名前のとおりレムではない睡眠で、いわゆるすやすや眠っている状態だと柳沢氏は説明する。ぼんやりした夢は見るが、はっきりした夢はあまり見ない。脳の活動性が落ちているわけではなく、「オフライン状態のメンテナンス作業」をしていて、外から見ると静かに眠っているように見える。呼吸や心拍は非常に規則的になる。ノンレム睡眠には浅い段階、中間の段階、非常に深い段階がある。
番組のナレーションは、両方の睡眠で記憶の整理が行われていると考えられていると補足する。ノンレム睡眠では直近の記憶を長期記憶に移し、レム睡眠ではスポーツや楽器のような言葉にしにくい技能の定着に関わるとされる。ただし、どちらの睡眠がどの記憶をどう処理しているのか、詳しい仕組みはまだ分かっていない。
記憶の定着と、夢はなぜ見るのか
学んだことを長く記憶に残すうえで睡眠が欠かせないことは確かだと、柳沢氏は言う。寝る前にしっかり勉強して一晩きちんと眠ると、その記憶が定着する。睡眠学的には一夜漬けはまったく勧められない。短い睡眠ではなく夜にしっかり眠ることが、記憶を長く定着させるうえで非常に大事であり、「受験生はよく眠ることが大事」だと強調した。
夢について柳沢氏は、睡眠中に起きている日中の出来事や覚えたこと、印象に残った情景の一種の「リプレイ」の一部が、夢として意識される現象だと説明する。なぜそうなるのかはまだ分かっていない。ただ、睡眠中のリプレイが記憶の整理や定着に必要であることは分かっているという。さらに、レム睡眠中の感情を伴う鮮明な夢には、ストレス耐性をつける役割があると多くの心理学者が唱えている。現実に起こりうるストレスフルな状況を嫌な夢の中で「予行演習」することで、ストレスへの耐性がつき、感情的に動じにくくなるのではないかという学説である。
タコの皮膚、ペンギンの数秒の眠り、半球睡眠
動物に夢の内容を尋ねることはできないため、動物が夢を見ているとは断定できない。ただしナレーションによれば、睡眠中の眼球運動など人間と共通する反応から、多くの動物も夢を見ている可能性が高いと考えられている。
柳沢氏が例に挙げたのはタコである。タコにも「静かな睡眠(クワイエットスリープ)」と「アクティブな睡眠」の2種類があることが最近報告された。これをレム・ノンレムと呼ぶのが適切かは分からないという。アクティブな睡眠の間、体は動かず眠ったままなのに、皮膚の色がぶわっと変化する現象が観察されている。夢のようなことが起こり、その情景に合わせてカモフラージュしているという解釈が成り立つ。ただし、タコにどんな夢を見ているかは聞けないので、厳密には分からないと柳沢氏は留保をつけた。
ほかにも柳沢氏は、ある種のペンギンが1回4〜5秒ほどのごく短い睡眠を1日に数千回繰り返し、合計で8時間、10時間、あるいはそれ以上眠っている例を挙げた。イルカやクジラの類いは大脳の左半球と右半球を別々に眠らせることができるため、外からはほぼ24時間起きて泳ぎ続けているように見える。動物は環境に合わせて多様な眠り方を獲得してきた。それでも、なぜ眠らなければならないのかは謎のままである。
睡眠の二大謎——「機能」と「眠気の正体」
柳沢氏は、睡眠には大きな謎が二つあると整理する。一つは、神経系を持つすべての生き物がなぜ眠らなければならないのかという、睡眠の根源的な機能である。これにはまだ明快な答えがない。
もう一つは、これと関連する「眠気の実態」である。人はずっと起きていることはできない。起きている時間が長くなるほど睡眠へのプレッシャーが溜まり、自覚的にも眠くなる。それを解消するには眠るしかなく、睡眠中にプレッシャーは徐々に解消されていく。当たり前に聞こえるが、この「眠気」が脳の中で具体的にどういう状態なのかは、まだほとんど何も分かっていないと柳沢氏は言う。
睡眠不足で脳と体に何が起きるか
一方で、睡眠を失ったときに何が起こるかは分かり始めている。柳沢氏によれば、一晩の睡眠不足でも脳のパフォーマンスは大きく落ちる。一晩徹夜した状態の脳のパフォーマンスは、純アルコール20gを1ポーションとして3〜4ポーション飲んだ後と同程度だという。これはワインならボトル1本、生ビールならほぼ2リットル近く、日本酒なら3〜4合にあたり、完全に酔っ払った状態に近い。
徹夜をしなくても、1日6時間睡眠を2週間ほど続けると、徹夜と同じくらいまでパフォーマンスが下がる。1日4時間睡眠なら5〜6日で徹夜と同じになり、2週間続けると三晩寝ていないのと同じくらいまで下がる。柳沢氏が「怖い」と言うのは、そのときの自覚的な眠気が、せいぜい一晩徹夜した程度にしか上がらないことだ。慢性的な睡眠不足に、自覚的な眠気はついてこない。慣れてしまうとも言える。
ここでいうパフォーマンスには、仕事や情報処理の速さ、見落としやミスの少なさだけでなく、感情の制御も含まれる。くよくよしたり、イライラしたり、怒りっぽくなったりする。さらに柳沢氏が重く見るのが、一歩下がって大所高所から物事を見る力や、自分の行動を客観的に評価するメタ認知、創造性が損なわれることである。
体への影響も大きい。柳沢氏は、最悪の場合うつ病に至るメンタルの不調、肥満・高血圧・糖尿病・高脂血症といったメタボリック症候群、そこから脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患に至るリスクの上昇を挙げた。免疫系も弱り、感染症にかかりやすくなる。ワクチンを打っても抗体価が上がりにくいという報告もある。長い目で見ると、ある種のがんのリスクも上がる。将来の認知症リスクも上がるという「はっきりとした結果」が出ているという。しかも、こうした病気になると睡眠が悪くなることも分かっているため、悪循環に陥りやすい。
睡眠負債は返せるが、貯金はできない
蓄積した睡眠不足は「睡眠負債」とも呼ばれる。柳沢氏によれば、ある程度の負債は返すことができる。平日に寝不足で、土日に長く眠って少し返すというパターンを続けている人は多い。ただし2日ではおそらく足りず、溜まった負債を返しきるには最低でも3〜4日かかるとされている。
柳沢氏は、いわゆる「寝だめ」は睡眠を貯金しているのではなく、溜まった借金を返している状態だと説明する。完全に睡眠が充足した状態では、人はそれ以上眠れない。だから、睡眠を貯金することは厳密にはできない。
必要な睡眠時間は遺伝で決まり、4晩の実験で分かる
睡眠の質を考える前に、自分に必要な睡眠時間を知るべきだと番組は位置づける。柳沢氏によれば、必要十分な睡眠時間には標準偏差でプラスマイナス1時間ほどの個人差がある。年齢による差も大きく、20歳前後の平均は8時間半近いのに対し、70歳では6時間半以下になり、2時間ほどの差がある。
同じ年齢の中での個人差は、遺伝性(ヘリタビリティ)が非常に高いことが分かっている。柳沢氏は、睡眠時間のヘリタビリティは身長のヘリタビリティより高いと述べた。ごくまれに、必要な睡眠時間が極端に短い人たちがいる。これがショートスリーパーである。柳沢氏は、彼らは生まれつきの体質であり、訓練してショートスリーパーになることはできないと強調した。
自分に必要な睡眠時間を知る方法として、柳沢氏は4晩続けて眠れるだけ眠ってみることを勧める。日本人の多くは普段から睡眠負債を抱えているため、1晩目はとても長く眠る。2晩目は負債を一部返したので短くなり、3晩目はさらに短くなる。4晩目あたりで落ち着いて変わらなくなる。この3晩目、4晩目以降の睡眠時間が、その人にとって必要十分な睡眠時間だという。連休や夏休みに、できれば4晩、最低でも3晩この環境を確保できるなら、ぜひ試してほしいと柳沢氏は話した。
「質で補う」は通用しない——ゴールデンタイム説と「横になるだけで休まる」説
柳沢氏は「睡眠の質で一番大事なのは量」だとよく言うそうだ。まず十分な睡眠時間を確保し、そのうえで質を上げる。日本人、特に若い世代は押しなべて睡眠不足だが、眠っている間の質はむしろ良く、深い睡眠も多くとれている。柳沢氏によれば、これは脳が悲鳴を上げている状態で、短い睡眠の中でできるだけ深く眠ろうとフィードバックがかかり、最も深いノンレム睡眠が増えることが分かっている。だから質を上げたければ、量を確保するしかない。
柳沢氏は、いわゆる「睡眠のゴールデンタイム」を「ほぼ嘘」だと言う。かつては夜10時から午前2時がゴールデンタイムと言われ、最近は「寝始めの3時間が大事」とよく言われる。確かに、寝始めて最初の3時間ほどの間に、最も深いノンレム睡眠(徐波睡眠、N3)が現れる。そこで記憶の整理や長期記憶への移動といったメンテナンスが起こり、成長ホルモンも分泌される。成長ホルモンは子どもの体を大きくするだけでなく、大人にとっても骨・筋肉・皮膚の細胞のメンテナンスに重要だ。ここまでは事実だと柳沢氏は認める。しかし、この10〜20年ほどの睡眠学で、夜の後半に増えるレム睡眠や、後半の浅いノンレム睡眠もすべて大事だと分かってきた。結論として、ゴールデンタイムはなく、一晩の睡眠全部が大事だという。
もう一つ柳沢氏が否定するのが、「眠れないときも横になって目をつぶっていればだいぶ休まる」という助言である。眠らない限り、睡眠負債は絶対に解消されない。さらに、この助言は場合によっては不眠症の入り口になる。1〜2回なら構わないが、毎晩のように眠れないままベッドで悶々とすることを繰り返すと、心理学でいう条件付けによって「自分のベッドは眠れない場所だ」と体が覚えてしまう。これが本格的な不眠症の入り口になるため、柳沢氏はこの助言を誤りだと考えている。
寝室環境、体内時計、入眠儀式
量を確保したうえでの質の高め方として、柳沢氏はまず寝室環境について「暗くて静かで朝まで適温」と表現する。眠っている間は原則として真っ暗で静かにし、夏も冬もエアコンを切らない。
体内時計を整えることも非常に大事だという。理想は休日も含めて毎晩ほぼ同じ時刻に寝て、同じ時刻に起きる規則的な睡眠である。朝起きたらカーテンを開けて明るい光を目に入れ、朝食をとる。逆に夜8〜9時ごろから深夜にかけては明るい光を避け、薄暗いと感じるくらいの環境で過ごすのが理想だ。柳沢氏は、日本の住宅は夜の照明が世界的に見ても明るすぎると指摘した。
眠る直前については、入眠儀式(ベッドタイムルーティン)が「すごく大事」だと言う。毎晩似た行動パターンをとると、体がそれを「眠る時間だ」と覚え、実際に眠くなる。何がよいかは人によって違い、誰にでも効く魔法のような処方はない。自分がリラックスできる一連のことを行えばよい。
スマホの害は光より「インタラクティブさ」、寝酒は最悪
スマートフォンの光が有害だとよく言われるが、柳沢氏はこれにはあまり根拠がないと言う。今のスマホやタブレットは夕暮れ以降や暗い場所では自動的に暗くなり、色も黄色っぽくなってブルーライトを抑える。だから「ブルーライトが悪いからベッドでスマホを見るな」には科学的根拠がないという。
柳沢氏が問題視するのは、ゲーム、SNSのチャットや「いいね」、ショート動画のようなインタラクティブなコンテンツである。ショート動画は操作を要求し続け、AIが興味を引くコンテンツを次々に出してくるので、次に何が出てくるのかとワクワクする。これを続けるといつまでも眠くならず、入眠が先送りされ、気づけば1時間、下手をすると2時間たっている。睡眠が削られるかなり主要な原因になるという。柳沢氏自身も、ショート動画を見始めていつの間にか30分たっていた失敗があると認めた。
寝酒については、睡眠にとって「実は最悪」だと言う。アルコールには直接の催眠作用があるので寝つくことはでき、そこにだまされてしまう。しかしアルコールが入った睡眠は、深い睡眠が減り、不安定になり、中途覚醒も増えて、質が極めて悪い。毎晩1杯飲まないと眠れない人は医者に行ってほしいと柳沢氏は言う。今は有効で安全、しかも癖にならない新しいタイプの処方睡眠薬があり、それを飲んで眠るほうが、酒で眠るより頭にも体にもずっと良いという。
オレキシンの発見——食欲の物質だと思われた
その新しい睡眠薬の一つが、オレキシン受容体拮抗薬である。オレキシンは脳内で覚醒を維持する物質で、これを発見したのが柳沢氏である。
柳沢氏によれば、発見は1995〜96年ごろにさかのぼる。脳には神経細胞間の情報伝達を担う「鍵穴分子」(受容体)が多数あり、そのうち対応する「鍵分子」が分かっていないもの(オーファン受容体)がたくさん見つかっていた。未知の鍵を見つければ新しい生物学を始められるだろうと考えて探す中で見つかったのが、オレキシンだった。
ただし、その時点で分かっていたのは、新しい物質が脳にあるということだけだった。オレキシンを作る神経細胞は、脳の奥深くの視床下部の、食欲に関わると知られていた部位にのみ存在した。オレキシンをネズミの脳に注射すると直後にたくさん食べるようになり、絶食させて空腹にすると脳内のオレキシン産生量が上がった。そこで柳沢氏らは、食欲を制御する脳内物質かもしれないと考え、1998年の最初の論文ではそう報告した。医学的にも食欲の制御は重要な課題で、とてもエキサイティングだったという。
次に柳沢氏らは、オレキシンを作れないマウスを作成した。食欲を促す物質なら、それを失ったマウスは食べる量が減って痩せるはずである。ところが、食事量も体重も死亡率も通常のマウスとほとんど変わらなかった。柳沢氏は「せっかく新しい脳内物質見つけたのに、あってもなくても一緒かよ」と困ったと振り返る。
行動停止発作の正体はナルコレプシーだった
そこで、夜行性のマウスの夜間の行動を赤外線カメラで撮影した。すると、盛んに動いていたマウスが突然ぱたっと動かなくなり、時には横に倒れ、30秒から1分ほどでまた起き上がって動き出す。こうした「行動停止発作」のような現象が頻繁に見られた。柳沢氏らは最初、けいれんを伴わないタイプのてんかんではないかと考えた。
脳波を測ってみると、てんかんに特徴的な異常はなく、倒れると同時に覚醒から突然睡眠に移っていることが分かった。ナレーションの説明では、通常レム睡眠はノンレム睡眠を経て訪れるが、このマウスではその順序が崩れ、レム睡眠に伴う脱力で倒れ込んでいた。柳沢氏は、これが人の中枢性過眠症の一つであるナルコレプシーとまったく同じ症状だと気づいたという。
さらに、ノンレム睡眠にも異常があった。柳沢氏によれば、マウスでも正常な入眠では、材料があれば巣を作り、中で丸くなって毛づくろいをするなど準備してから眠る。いきなりぱたっと倒れて眠ることはない。ところがこのマウスは、いきなり倒れてノンレム睡眠に入ってしまう。レムの発作もノンレムの発作も起こる。つまり正しく覚醒を維持できない状態であり、まさに人のナルコレプシーだった。こうして、狙ったわけではなく、オレキシンが欠けるとナルコレプシーになることを発見した。逆に言えば、オレキシンは脳を正しく覚醒状態に保つために必須の物質であることが分かった。その後の研究で、オレキシンは脳内の覚醒系の「親玉」のような物質だと分かっていった。柳沢氏は、まさにブルーオーシャンだという感触を得たという。
同じころ、スタンフォード大学のエマニュエル・ミニョー氏のグループが、まったく独立に逆方向からたどり着いていた。彼らは遺伝性のナルコレプシーを持つ犬の家系を長年維持しており、原因遺伝子を探した結果、それがオレキシン受容体の一つだと突き止めた。柳沢氏らはオレキシン遺伝子から入り、マウスでそれを壊すとナルコレプシーになった。ミニョー氏らはナルコレプシーという病気から入り、原因遺伝子がオレキシン受容体だと見つけた。二つの種で、リガンドと受容体の異常が同じ病気につながることが同時に発見され、とても興奮したと柳沢氏は振り返る。
拮抗薬から作動薬へ——25年前は取り合われなかった構想
オレキシンの働きを抑えれば眠りを導けるはずだという発想から、新しいタイプの睡眠薬が開発された。柳沢氏によれば、日本では最初のものが約10年前に臨床で使えるようになった。安全で癖にならず、「卒業できる睡眠薬」だという。
さらに柳沢氏は、今ニュースでも注目されているのがオレキシン作動薬だと話す。オレキシン受容体に結合してオレキシンの代わりになる薬が、いよいよ使えるようになってきているという。実は柳沢氏は、オレキシンが欠けるとナルコレプシーになると分かった直後、作動薬を作ればナルコレプシーの特効薬になると理論的に明らかだったため、製薬企業に働きかけていた。しかし25年ほど前の当時、どの製薬企業もまともに取り合わなかった。ナルコレプシーは比較的まれな病気だと思われていたからだ。柳沢氏は、1000人に1人ほどで起こるので決してまれではないが、高血圧や糖尿病ほど頻度の高い疾患でもない、と説明している。
受賞と、アメリカから日本の研究拠点へ
柳沢氏は2023年に生命科学ブレイクスルー賞を受賞した。1件あたり300万ドルほどと世界で最も賞金額が高いことで知られ、ハリウッドのセレブリティが来てレッドカーペットで授賞式が行われる、華やかな賞だという。また、論文が多く引用され波及効果の大きい研究者に贈られるクラリベイト引用栄誉賞も受けた。ブレイクスルー賞の受賞者からかなりの数のノーベル賞受賞者が出ているのは事実で、登竜門的な賞をもらえたのは名誉だと述べる。それ以上に柳沢氏が強調したのは、睡眠が社会的に非常に重要な分野であるにもかかわらず、これまで本当にメジャーな学術賞が出たことがなかった点だ。ミニョー氏とは常に共同受賞しており、睡眠学がメジャーな賞を受けたこと自体が素晴らしいという。
経歴について柳沢氏は、31歳(1991年)で渡米したと語る。いわゆる留学ではなく、テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンターに、ラボのヘッドであるPI(プリンシパル・インベスティゲーター)としてリクルートされ、初めて自分の独立したラボを持った。ナレーションによれば、アメリカでオレキシンを発見した柳沢氏は、日本へ戻ることをほとんど考えていなかった。転機は2010年に国の大型基礎研究支援プログラムに採択され、筑波大学に研究室を開設したことだった。
その後、世界トップレベルの研究拠点を作る国の事業に応募し、「アメリカのデパートメントを日本の中に作る」という構想を打ち出した。これが評価されて採択され、睡眠研究に特化したWPI-IIISを立ち上げた。現在は20以上の独立したラボがあり、大学院生まで含めて350人近い体制で運営されている。最大の特徴はすべてのラボが何らかの形で睡眠の基礎研究をしていることで、睡眠の基礎研究に特化した研究所としては完全に世界最大の規模であり、レベルでも世界の最先端の一翼を担っていると自負している、と柳沢氏は語った。
人工冬眠はもはやSFではない
柳沢氏は「人工冬眠はもはやSFではない」と言う。ナレーションによれば、2020年、WPI-IIISの桜井氏の研究チームは、脳内のごく少数の神経細胞「Qニューロン」に注目した。柳沢氏の説明では、本来冬眠しないマウスで、視床下部の前方にあるこのごく少数の神経細胞を特異的に刺激すると、マウスがいきなり冬眠のような状態になる。体温が室温とほぼ同じまで下がり、動かなくなって冷たくなり、一見死んだように見える。しかしそこから回復すると、まったく健康なまま元に戻る。桜井氏らはマウスでも、より大きなラットでも成功しており、現在はマーモセットなどの霊長類で同じことが起こるかを確かめようとしている。
ナレーションは、人間にもQニューロンと同じ種類の神経細胞があることが分かっているため、人間にも冬眠する能力が残されているのかもしれないと述べる。柳沢氏によれば、哺乳類の系統樹を見ると、冬眠する種はさまざまな枝にぱらぱらと少しずついて、霊長類にもマダガスカルかどこかに冬眠する猿がいる。ここから、冬眠の潜在能力は哺乳類の根っこにあり、それを使うかどうかが種によって違うという考え方ができるという。
人間で実現した場合、遠い将来には宇宙旅行や、何十年も眠って未来に行くといったSF的な応用の可能性もある。しかし柳沢氏が何より期待するのは救命救急医療の変化である。重い病気や事故の際にその場で冬眠状態にできれば、病気の進行を遅らせ、適切な治療ができる場所へ搬送するまでの間、いわば時間を止めておける。救命救急に大変な変化を起こせる可能性があるとして注目しているという。
不眠症——主観の病と認知行動療法
番組は代表的な睡眠障害として、不眠症と睡眠時無呼吸症候群を取り上げる。柳沢氏によれば、不眠症は非常に頻度の高い疾患である。国民の4〜5人に1人、高齢者では3人に1人が多かれ少なかれ不眠を訴え、眠い、元気が出ないといった昼間の障害が慢性的に続けば不眠症と診断される。
柳沢氏は、不眠症は基本的に人間にしかない病気だろうと言う。人間以外の動物が眠れないという悩みを抱えることはおそらくない。なぜ眠れなくなるのかが難しいのは、不眠症が根本的に主観的な病気だからだ。患者本人が眠れないと感じることと、客観的に眠れていないことはしばしば乖離する。脳波を測ると健やかに眠れている間も、本人は眠れていなかったと感じていることが非常によくある。
世界的に見て不眠症に最も効果がある治療は、睡眠薬ではなく認知行動療法だと柳沢氏は言う。不眠症の患者によくあるのは、眠れないから早く寝なければと夜10時ごろからベッドに入り、眠れずに不安が高じて、さらに眠れなくなる悪循環である。認知行動療法では逆に、遅寝早起きでベッドにいる時間を縮めてもらう。多くの患者は「眠れないと言っているのに、眠るなとはどういうことか」と面食らう。昼間は眠くて仕方がないと訴えるが、やがてベッドにいる間は少なくともぐっすり眠れるようになり、それが糸口となって睡眠への不安が取れ、眠れるようになっていく。柳沢氏は、これだけではないがそういう考え方だと説明した。治療には通常何か月もかかる大変なものだが、うまくいけば何年も効果が続き、基本的に完治するとも言われているという。
睡眠時無呼吸症候群——自覚なく命を縮める病
柳沢氏は、不眠症よりたちが悪いのが睡眠時無呼吸症候群だと言う。不眠症の患者は困って医者に行くが、無呼吸には自覚症状のない患者がたくさんいる。柳沢氏が挙げた数字では、日本国内で睡眠時無呼吸を持つ人は2200万人、そのうち治療が必要な中等症以上だけで潜在的に940万人とされる。「半端ない」数で、国民の1割ほどが要治療の無呼吸を抱え、中年以降の男性では3人に1人ほどとも言われるという。
1時間に30回以上、つまり2分に1回以上息が止まると重症と判断される。柳沢氏によれば、重症の無呼吸を治療せずに放置すると、その後10数年の間に4割ほどが、脳卒中、心筋梗塞、大動脈解離、睡眠中の不整脈による突然死といった心血管イベントで亡くなるという疫学調査がある。亡くならなくても、脳卒中で後遺症が残る人も多い。それなのに9割以上が治療を受けていないのが現状だという。
治療に至らない理由として、柳沢氏は「たかがいびき」と思われていることを挙げる。ベッドパートナーがいなければ、いびきすら指摘されない。大きないびきをかく人のほとんどは、多かれ少なかれ無呼吸があると考えたほうがいい。夜中に2〜3回以上トイレに起きる夜間頻尿も、しばしば出る自覚症状で、そういう人はまず無呼吸を疑ってほしいという。高齢になるまでは男性の頻度が圧倒的に高い。また、太った中年男性の病気というイメージは当たっておらず、特にアジア人では、痩せていても上顎や下顎が小さい骨格の人に多い。舌の行き場がなくなり、仰向けで寝たときに舌が後ろに落ちて気道が塞がるからだ。柳沢氏は、下手をすると不眠症以上に頻度が高いのに、患者が医者に行かない病気だと述べた。
柳沢氏自身の眠り方——コアタイム、スヌーズは1回、15秒呼吸
柳沢氏自身は、0時から7時を「睡眠コアタイム」と決め、土日も含めてこの時間はできるだけ睡眠以外に使わないようにしている。守れない日もあるという。
アラームのスヌーズを5回、10回とかけ続けるのは「本当にやめてほしい」と言う。スヌーズを繰り返す間の眠りはとても浅く、時間の無駄だからだ。本当に起きなければならない時刻の10分ほど前に1回鳴らし、スヌーズは1回まで、アラームは計2回にとどめることを勧める。1回だけのスヌーズには効果があるという報告があり、一度浅い睡眠に移ってからぎりぎりまで眠ると、次のアラームでよりスムーズに起きられるという論文も出ているという。
柳沢氏にも、ストレスや心配事、やるべきことが溜まって眠れない夜はたまにある。そういうときは半分あきらめている、と言いながら、心がけているのが深呼吸である。本人が「15秒呼吸」と呼ぶ方法で、7秒ほどかけて鼻からゆっくり大きく吸い、8秒ほどかけて吐く。1往復15秒で、4回繰り返すとちょうど1分になる。自分の心拍を数えながら行うと、いつの間にか寝落ちできると勧めている。
日本人の睡眠不足、子どもの海馬、そして「神様からのギフト」
柳沢氏によれば、さまざまな調査で、日本人は世界一睡眠不足の国民だと繰り返し示されている。ナレーションは、国際比較で日本人の平均睡眠時間はヨーロッパよりおよそ1時間短く、睡眠時間が全体に短いアジアの中でも日本の短さは際立っていると述べる。柳沢氏はその理由を、日本人が睡眠を軽視し、生活の中で睡眠に優先順位を置いていないことだと簡潔に語った。
特に深刻だと柳沢氏が言うのが子どもの睡眠不足である。日本の中高生で医学的に十分な睡眠時間を確保できている子は、おそらく1割以下だという。睡眠不足だと勉強もだめになるというデータは「ごまんとある」。例として挙げたのが東北大学の論文で、さまざまな年齢の子ども300人ほどの脳をMRIで撮影し、記憶に重要な海馬の体積を測った。結論は単純で、寝不足気味の子は海馬が小さく、よく眠っている子は海馬が大きかった。柳沢氏は、子どもの頃の寝不足が一生のハンデになっている可能性があると懸念を示した。
最後に、人類にとって睡眠とは何かを問われた柳沢氏は、「神様からのギフト」だと答えた。多くの哺乳動物の中で、人間だけがまとめて夜に深く続けて眠る能力を持つという。一部の学説では、人間は頭が良くなって夜の安全な環境を確保できるようになったことでぐっすり眠れるようになり、そのためにさらに頭が良くなった、つまり深く続けて眠る能力と高度な頭脳が共進化したとされる。人間に特有の眠り方なのだから大切にしてほしい、夜の睡眠を軽く考えないでほしい、というのが柳沢氏のメッセージである。人はなぜ眠るのかという問いには、今も答えが出ていない。
訓練してショートスリーパーになることはできないと。
今回のVAIENCEは睡眠最前線。なぜ生き物は危険を冒してまで眠るのでしょうか?
だからこれ半端ないですよ。これやばくないですか?そもそも夢をなぜ見るかっていうことなんですけど、
もしも眠らないと脳と体には何が起こるのか。一晩の睡眠不足でも脳のパフォーマンスがガタ落ちになります。
怖いのはですね、4割ぐらいの方が命を落とすんですね。
多くの人が信じている睡眠に関する誤解。睡眠のゴールデンタイムと呼ばれるもの、嘘ですね。1番良くないのが
そしてノーベル賞も期待される柳沢正史の大発見とは?人工冬眠はもはやSFではない。
今回は睡眠学者、柳沢正史をゲストに皆様を眠りの世界へお連れしましょう。
睡眠、それは生き物にとって極めて無防備な時間です。周囲からの刺激に対する反応は鈍り、外敵に襲われる危険も高まります。それでも神経系を持つあらゆる生き物が眠ります。なぜ生き物は危険を冒してまで眠るのでしょうか?
人はなぜ眠るか?これ実はものすごく難しい質問で、睡眠学の立場で言うと永遠の謎であるとも言えます。で、人に限らずですね、およそあらゆる動物、調べる限り全ての動物が眠るんですね。で、それがそもそも謎です。なぜなのか。
今動物と言いましたけれども、これもうちょっと正確に言うと神経系を持つ生き物と。実は2000年前後ですね、今世紀に入るぐらいから脊椎動物を遡っていくと魚も眠るし、それから私たちとはもう全く体の構造が異なる無脊椎動物ですね。昆虫とか線虫とかイカやタコとかそういう種族も睡眠を取るということが報告されました。で、彼らもですね、その昆虫やイカ・タコも結構立派な脳を持っていて、小さいながら脳を持っていて、複雑な行動をするんですね。
だけど彼らの脳と私たちの脳は全くいわゆる相同性がないんですよ。脳は明らかに複数回発明されてるんですね。で、彼らも眠る、我らも眠るということで、じゃあ睡眠の起源はどこにあるのかということが疑問になるんですけど、実は2017年でしたかね、クラゲも眠るという論文が出たんですね。で、クラゲは神経系は持ってます。神経細胞が体中にあって傘を動かして動くし、触手をこう伸ばしてそれで刺して餌を取ると。だから一応動物らしい動物ではあるんですが、脳は持ってないんですよ。中枢神経系と呼べるものはクラゲは持ってないにも関わらず、クラゲも睡眠という行動をするということで、一言で言うと睡眠っていうのは脳よりも先に発明されたということができます。
で、もう1回戻すとですね、その全ての神経系を持つ生き物が眠るということで、なぜその危険にも関わらず、その危険・リスクを冒してまで全ての動物に睡眠が必要かというのは実はよく分かっていません。
では眠っている間の脳では一体何が起きているのか?
少なくとも哺乳動物の睡眠に限定しますけれども、哺乳動物に関してはですね、睡眠と言ってもいい状態があるんですね。大きく分けて2つ。レム睡眠、ノンレム睡眠って聞いたことあると思うんですけど、レム睡眠っていうのはとってもある意味チグハグな睡眠とも言えます。レム睡眠中ってのは非常に鮮明な、ストーリーのある夢とか感情を伴う夢とかですね。明快な夢を見ます。じゃあその夢を見てるから浅眠かと言うと決してそんなことはなくて、実はレム睡眠というのはそれはそれで深い睡眠なんですね。深いと言ってる意味は、例えば結構大きな音、強い刺激を与えないと起きない。それから運動出力ですね。レム睡眠中は我々の体中の筋肉の力が完全に脱力するレム脱力という現象が起きて、運動出力もほぼ0になります。もちろん呼吸に関する筋肉と目の筋肉だけは例外なんですけども。で、レムっていうのはラピッドアイムーブメントの略で、夢の情景に合わせてと考えられてるんですけど、目がまぶたの下でキョロキョロ動く現象があるのでレム睡眠と呼ばれてるんですね。夢と関係したことだと考えられてます。一方で例えば自律神経系の出力はレム睡眠中は非常に活発になるので、例えば呼吸がですね、不規則になるということも知られていて、色々な意味でチグハグな睡眠とも言えます。
で、ノンレム睡眠は名の通りでレムでない睡眠ということで、一言で言ってしまうと、いわゆるすやすや眠った状態という風に考えていただきたいですね。で、ノンレム睡眠中もぼやっとした夢は見ますし、さっき言ったように脳の活動性が落ちてるわけではないんですね。ただ何かオフライン状態のメンテナンス作業をやっていて、外から見るとすやすや眠っていると。あまりはっきりした夢は見ない。夢を見るとしてもぼやっとした感じの夢を見ると。それがノンレム睡眠で、呼吸や心拍は非常に規則的になって、いわゆるこう規則正しい寝息を立てている状態みたいな、そういうイメージです。で、もう1つ言うとノンレム睡眠には深さがあって、浅いノンレム、中間的なノンレム、非常に深いノンレムと、そういう段階もあるということが分かっていますね。
レム睡眠とノンレム睡眠では、どちらも記憶の整理が行われていると考えられています。ノンレム睡眠では直近の記憶を長期記憶へ移す働き。一方レム睡眠ではスポーツや楽器など言葉にしにくい技能の定着に関わるとされています。しかし2つの睡眠がどの記憶をどのように処理しているのか、その詳しい仕組みは現在も明らかになっていません。一方、学んだ内容を長く記憶に残す上で睡眠が欠かせないことは確かなようです。
直前でなくてもいいんだけど、寝る前に一生懸命勉強して色々覚えて一晩眠ると、きちんとしっかり眠るとその記憶が定着するってことは実際起こります。睡眠学的には本当に例えば一夜漬けっていうのは全く勧められないことで、一生懸命勉強した後きちんと睡眠を取ること。それもすごく短い睡眠じゃなくてしっかり夜眠ることっていうのが、その記憶を長い目で定着させるためにものすごく大事ですね。本当に受験生はよく眠ることが大事なんですね。
実は睡眠中、脳は日中に得た記憶を整理しています。そしてその過程で体験する現象の1つが夢です。しかし夢は本人の意識の中で起こる主観的な現象です。見た内容を本人に語ってもらわなければ研究できないため、その役割を解明するのは容易ではありません。
では、私たちはなぜ夢を見るのでしょうか?
そもそも夢をなぜ見るかっていうことなんですけど、要はその睡眠中にですね、その覚醒中に起きた色々な出来事や覚えていたことや印象に残った情景や、そういったものが一種のリプレイされるんですね。そのリプレイの1部分が夢として意識される現象で、それがどうしてそんなようなことが起こるのかっていうのはまだよく分かってないです。ただその睡眠中のリプレイというものが、さっき言った記憶の整理とかですね、その定着といったことに必要であるということは分かっていると。
それからもう1つ分かっているのは、特にレム睡眠中に見る夢。さっきも言いましたが感情を伴ってるような夢ですね。非常に鮮明な夢。これがですね、ストレス耐性をつけるという役割があるという風に心理学者の多くの方々が唱えています。で、どういうことかと言うと、例えば現実に起こりうるような非常にストレスフルなシチュエーション。これをですね、夢の中でこう嫌な夢、ストレスフルな夢を見ることで、いわば予行演習してると。現実に起こりうるそのストレスフルなシチュエーションを予行演習してるという学説があって、そのために夢を見るということで、そういうストレス耐性がつくとかですね、感情的に動じなくなるとか、そういった効果があるんじゃないか、ご利益があるんじゃないかということが言われています。
神経系を持つあらゆる生き物が眠る。とはいえ夢に関しては動物に尋ねることはできないため、実際に夢を見ているのか断定することはできません。しかし眠っている間の眼球運動など人間と共通する反応から、多くの動物も夢を見ている可能性が高いと考えられています。そしてその夢が体の変化として現れているように見える動物もいます。それがタコです。
タコのですね、睡眠にも実は、レム睡眠、ノンレム睡眠という言い方は適切かどうかわかんないんですけど、2種類の睡眠があるということが最近報告されて、そのいわゆる静かなクワイエットなスリープとアクティブな睡眠ですね。そのアクティブスリープの間に実はその皮膚の色がぶわーっと変化する。体は動かないんだけど、眠ったまんまなんだけど、皮膚の色が変化するというような現象も観察されていて、これは解釈としては夢のようなことが起こっているんじゃないかと。で、その情景に合わせてカモフラージュをしてるんじゃないかという解釈が成り立ちますね。もちろん厳密にはタコにどんな夢見てるとは聞けないので、厳密には分からないわけですけどね。
他にもすごく興味深い睡眠っていろんな種で観察されていて、例えばですね、ある種のペンギン、なんと1回4秒とか5秒とかのすごく短い睡眠を1日に1000回、何千回か繰り返して、最終的には8時間とか10時間とかそれ以上眠っていると。それからこれ有名ですけれども、イルカやクジラの類。これは大脳の左半球と右半球、別々に眠ることができるんですね。なので彼らは外から見てるとほとんど24時間起きてるように見えます。泳ぎ続けてるように見えるわけですね。
動物たちはそれぞれの環境に合わせて多様な眠り方を獲得してきました。しかしどのように眠るかが分かっても、なぜ眠らなければならないのかはやはり謎のままです。
睡眠に関する大きな謎は2つあります。で、1つはさっきも言いましたけれども、なぜ全ての動物が、全ての神経系を持つ生き物が眠らなければいけないのかと。その睡眠の根源的な機能ですね、役割。これがまだ明快な答えがない。もう1つの謎は、それと関連するんですけど、我々だからずっと起きてることはできないわけですよ。長く起きてるとだんだん睡眠に対するプレッシャーが溜まっていくわけですね。やがて自覚的にも眠くなる。いわゆる眠気が溜まっていく。で、その眠気を取るには眠るしかないわけですね。睡眠中にその睡眠に対するプレッシャーが徐々に解消されていくわけです。で、それ言われれば当たり前に聞こえるかもしれないんだけど、実は今眠気と言っているもの、睡眠に対するプレッシャー、それが一体脳の中で具体的にどういう状態なのか、どういうことなのか、眠気の実態ですね。これがまだほとんど何も分かっていないと。
なぜ眠るのか。そして眠気とは一体何なのか?人類にとって極めて身近な睡眠は今も多くの謎に包まれています。しかし睡眠を失った時に何が起こるのかはすでに分かり始めています。
睡眠不足になっていくと、一晩の睡眠不足でも脳のパフォーマンスがガタ落ちになります。これ詳しく研究されていて、例えば1晩徹夜した徹夜明けの脳のパフォーマンスっていうのは大体ですね、いわゆるアルコールを3から4ポーション、1ポーションっていうのは純アルコールで20gですね。だから3から4ポーションっていうのはワインで言えばボトル1本、生ビールだとほぼ2L近く、日本酒だったら3から4合ぐらい飲んだ後と同じぐらいなんですね。だから完全に酔っ払った状態ぐらいまで脳のパフォーマンスが低下します。で、それは完徹の場合なんですけれども、完徹でなくてもですね、例えば1日6時間しか寝ない状態を2週間ぐらい続けてしまうと、もう完徹と同じぐらいまで脳のパフォーマンスは下がるということが分かっています。で、さらにですね、厳しい睡眠制限、例えば1日4時間しか寝ない状態だと、もう5日6日続けるだけで完徹と同じになっちゃうし、それを2週間ぐらい続けているともう3日3晩寝てないのと同じぐらいまで脳のパフォーマンス下がっちゃうんですね。
で、怖いのはですね、その4時間睡眠を2週間続けてパフォーマンス的には3日3晩眠ってないぐらいの状態まで下がるんですが、その時の自覚的な眠気というのはせいぜい一晩徹夜した程度にまでしか上がっていかないんですよ。要するにこの慢性的な睡眠不足に対する自覚的な眠気ってのはついてこないんですね。慣れてしまうという言い方もできます。今パフォーマンスって言いましたけど、これいろんな側面があって、そういう仕事のスピードとかですね、情報処理のスピードや、見落とし、ミスの少なさ、正確さ、そういったものもダメになるし、それから感情の制御ですね、くよくよしたり、イライラしたり、人によって怒りっぽくなったり、そういう感情の制御もダメになりますし、何よりもこのメタ認知って言うんですかね、こう一歩下がって大所高所から物を見るとか、自分のやってることを客観的に評価するとかですね、クリエイティビティのようなもの、そういったものが阻害されてしまうんですね。だから本当に慢性的な寝不足っていうのは怖い状態です。
また睡眠不足によって損なわれるのは脳の働きだけではありません。慢性的な寝不足は全身の健康にも影響を及ぼします。
まずメンタル。最悪の場合うつ病に至ってしまうようなですね、メンタルの不調が来ますし、それからいわゆるメタボリック症候群ですね、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症といったいわゆる成人病、こういったもののリスクが軒並み上がりますし、従って循環器疾患ですね、そういう高血圧から始まって、脳卒中とか心筋梗塞とかそういう怖い病気に至りますけれども、そういったものの頻度も上がるし、免疫系がダメになってしまうので、いろんな感染症にもかかりやすくなるし、ワクチンを例えば打った時のそのワクチンの効果ですね、抗体価が上がりにくくなるとかですね、そういう報告もあります。それから免疫系がダメになるので、実は長い目で見るとある種の癌のリスクも上がるんですね。それから認知症ですね。そういう将来の認知症になってしまうようなリスクも睡眠不足が続いてると上がるというはっきりとした結果が出ています。ですので、ありとあらゆる頻度の高い疾患のリスクが上がってしまうと。で、しかもそういう病気になるとですね、睡眠が悪くなるってことも一方で分かってますので、往々にしてそういう悪循環に陥ってしまうということになるわけですね。
そしてこの蓄積した睡眠不足は睡眠負債とも呼ばれますが、それでは溜まった睡眠負債を後から返すことはできるのでしょうか?
ある程度の寝不足というのはその借金を返すことができますね。よくあるパターンは月曜日から金曜日まで寝不足で、土日で長く眠ることで少し借金を返すというパターン。それを続けてる人も多いと思うんですけれども、ある程度返すことはできます。ただし、今週末で少し返すことができると言いましたけれども、2日ではおそらく足りないんですね。本当に睡眠負債、溜まってしまった睡眠を完済するには最低でも3日から4日ぐらいはかかるとされています。土日に長く眠ること、寝溜めって言いますけど、あれは先ほど言ったように睡眠を貯めている、貯金してるわけではなくて、溜まった借金を返してる状態なんですね。どういうことかと言うと、完全に睡眠が充足した状態では我々はそれ以上眠ることはできないんですね。だからいわゆる睡眠を貯金するということは厳密にはできないということです。
睡眠の質を高める前に初めに知っておくべきこと。それは自分に必要な睡眠時間です。必要な量が足りていなければ、どれだけ質を高めても睡眠不足を補うことはできません。では自分に必要な睡眠時間はどうすれば分かるのでしょうか?
そうです。必要十分な睡眠時間というのは個人差があって、標準偏差で大体プラスマイナス1時間ぐらいの個人差があるとされてるんですね。年齢によってもその平均的な必要十分な睡眠量の平均値というのは大きく違ってきます。20代、20歳の若者だと平均値として8時間半近いですし、70歳になると6時間半以下ぐらいになってきますので、年齢によって大きく2時間ぐらいの差があるわけですね。各年齢の個人個人で比べてもばらつきがあるわけですね。長めの人、短めの人がいます。で、そのばらつきもですね、大体プラスマイナス1時間ぐらいの幅があるとされていて、で、その個人差については遺伝の影響、いわゆる遺伝性というのが非常に高いということが分かっています。例えば身長は遺伝しますよね。身長の遺伝性、ヘリタビリティという言葉ですけども、身長のヘリタビリティよりも睡眠時間のヘリタビリティが高いということが分かってるんですね。だからかなり遺伝的なものであると。で、個人差の中で極端に必要な睡眠時間が短い方々が少数、ごく少数ですね、かなり稀ですけどいて、それがいわゆるショートスリーパーと呼ばれる人たちで、何度も言うように彼らはもう生まれつきそういう体質であると。強調したいのは、いわゆる訓練してショートスリーパーになることはできないということですね。生まれ持った性質であるということです。
先ほど言ったことと関係するんですけど、私がよく勧める方法は、4日間続けて、4晩続けて眠れるだけ眠ってみてくださいと。そうすると日本人の場合、多くの人が普段睡眠負債を抱えてるので、1晩目はすごく長く眠ります。で、2晩目になるとその睡眠負債を一部返したのでより短くなるんですね。で、3晩目になるともっと短くなる。で、4晩目ぐらいになるとだんだん落ち着いてきて変わらなくなります。で、その3晩目、4晩目以降の眠れるだけ眠った時の睡眠時間というのが、あなたにとって必要十分な睡眠時間だということになるんですね。だからもしそういう連休とか夏休みの間とかに、できれば4晩、最低でも3晩、続けて眠れるだけ眠る環境が確保できるのであれば、是非それをやってみていただきたいですね。
ここで睡眠の質を高めれば短くても十分だと考えた方もいるかもしれません。しかし残念ながらその考えは通用しません。
私よく言うんですけども、睡眠の質で1番大事なのは量なんですね。だからまず睡眠を良くしたかったら、まず第1歩は十分な睡眠時間を確保すると。それが第1歩です。その確保した上で睡眠の質を上げていきましょうということになります。なぜこんなことを言うかと言うと、多くの日本人、特に若い世代の方々はおしなべて睡眠不足なんですよ。で、彼らはですね、特に若い方々は眠ってる間の睡眠の質はすごくいいんですね。深い睡眠もたくさん取れてるし、それ逆に言うと脳がある意味悲鳴を上げてる状態で、もう短い睡眠の中でできるだけ深く眠ろうとして逆にフィードバックがかかってですね、1番深いノンレム睡眠が増えるということも分かっています。ですので睡眠の質を上げたいと思ったら、量を確保するしかないわけですね。
いわゆる睡眠のゴールデンタイムと呼ばれるもの、人によって言い方違いますけど、例えば昔は夜の10時から午前2時までの間がゴールデンタイムなんていう言い方をしたこともあるし、寝始めて最初の3時間が大事という言い方もよくしますけれども、これはですね、ほぼ嘘ですね。何を彼らが言っているかと言うと、要するに夜の前半、寝始めた特に最初の3時間ぐらいの間に、ノンレム睡眠のうちの1番深い深睡眠と呼ばれる、またはノンレム第3段階、N3と呼ばれる1番深いノンレム睡眠がその最初の3時間ぐらいで訪れる。それは事実なんですね。で、その深睡眠の間に色々な重要なメンテナンス、記憶の整理とかその長期記憶への移動とかですね、そういうことが起こることが分かっているし、それから成長ホルモンという、いわゆる子供の場合は文字通り体が大きくなる。大人にとっても骨や筋肉や皮膚、お肌のですね、細胞のメンテナンスのために非常に重要なホルモンなんですけども、これが深睡眠の時に出ることが分かっている。そういったことで深睡眠が大事だっていうのは事実なんですが、実はこの10年20年ぐらいの睡眠学によって、夜の後半で増えてくるレム睡眠や夜の後半のより浅いノンレム睡眠も実は全部大事だということが分かっていて、結局ですね、睡眠にゴールデンタイムなどというものはないんですね。一晩の睡眠全部大事だということです。
よく言われますが、眠れない時に横になって目をつぶって、静かにしてればだいぶ休まりますよって言いますけれども、あれは厳密には嘘です。横になって目をつぶっていても眠らない限りは絶対に睡眠負債は解消されません。でですね、その眠れない時に目をつぶって、じっとしていてくださいというのは場合によってはですね、逆効果というか、いわゆる不眠症への入り口になってしまうことがあるんですね。
1番良くないのが、1回とか2回ぐらいだったら構わないんですけど、毎晩のように眠れないのに自分のベッドで横になって悶々としてる状態、これを繰り返していると、やがてですね、心理学的な条件付けと言うんですけれども、自分のベッドは眠れない場所であると体が覚えてしまうんですね。で、自分のベッドが眠れない場所であると体が覚えてしまうと、本当にこれは本格的なですね、いわゆる不眠症への入り口になってしまうんですね。だからその意味でもやはり、眠れない時に目をつぶって静かにしてればいいですよというのは、私に言わせると誤ったアドバイスだと思います。
このように睡眠はとにかく量が重要。これが睡眠研究によって導き出されている答えなのです。そしてこれらを踏まえた上でようやく考えられるのが睡眠の質です。では睡眠の質を高めるにはどのような方法が存在するのでしょうか?
まずは寝室の環境ですね。眠ってる間の環境。これは単純で、暗くて静かで朝まで適温と私は言ってますけれども、まず寝室は原則は真っ暗なこと、眠ってる間は真っ暗なこと、それから静かなこと、そしてエアコン切らない。夏も冬もですね、そういう睡眠のですね。
それから、もっと言うと体内時計を整えるっていうこともすごく大事で、理想的には毎晩同じぐらいの時刻に眠って、休日も含めて同じぐらいの時刻に起きると。規則的な睡眠ですね。これによって体内時計が整うわけですよね。しかも朝起きたらカーテンを開けて、とにかく明るい光を目に入れる。で、それから朝起きたら朝飯を食べる。それから逆に夜、そうですね、8時9時ぐらいから深夜の時間帯には逆に明るい光を目に入れないことが大事で、理想的にはもう本当に薄暗いと感じるぐらいの環境で夜は暮らすのが理想ですね。日本の住宅というのは夜の照明が明るすぎる。世界的に見ても明るすぎるということが分かっています。
睡眠の環境と生活のリズムを整えた上で、眠る直前の過ごし方も重要です。
眠る前の儀式、入眠儀式とか睡眠儀式とか言いますが、英語だとベッドタイムルーティンというやつですね。これがすごく大事なんですよ。要するに眠る前に毎晩、似たようなこう行動パターンを取ると、要するにいい意味でそれを体が覚えてですね、眠る時間だというのを体が覚える。そういう現象が起こります。で、本当に眠くなると。で、その入眠儀式、何がいいかというのは本当に人によって違っていて、これとこれ、これをやれば誰でも万人よく眠れますっていう魔法のような処方はないんですけれども、あなたにとって何かリラックスできる一連のことをやってくださいということですね。
入眠儀式として何が適しているかは人によって異なる。では、スマートフォンも使い方によっては眠りに役立つのでしょうか?
これ多くの方が聞いたことあると思うんですが、スマホの光が有害であるとよく言いますね。で、これはですね、実はあまり根拠がありません。というのは、今のスマホにしてもタブレットにしても非常に賢くて、夕暮れ以降の時間帯になると自動的に暗くなります。で、特に周りが暗いところだと暗くなります。で、色も変わるんですね。黄色っぽくなって、いわゆるブルーライト、有害な光を抑えるようにできてます。だからスマホのブルーライトが悪いからスマホをベッドの中で見るなというのは実は科学的な根拠がないです。
で、スマホがじゃあ何が有害かと言うとですね、いわゆるこうインタラクティブなコンテンツ、極端に言えばゲームとか、それからいろんなソーシャルメディア、SNSのこうチャットとかですね、いいねボタンを押し続けるとか、それからショート動画ですね。ショート動画も必ずこう繰っていく、こう操作を要求されるし、あれもAIで非常にその人にとって興味のあるようなコンテンツを次々提示してくるので、なんていうか次何が出てくるのかなってこうワクワクするような側面もありますよね。これをやってるといつまで経っても眠くならない。入眠が先送りされてしまう。いつの間にか1時間経ってた。下手をすると2時間経ってたということになってしまうので、これはですね、本当に睡眠が削られる、かなり主要な原因になってしまいます。私もですね、ついついやってしまうことがあって、ショート動画見始めると本当にいつの間にか30分経ってるということになるので、本当にそれは気をつけていただきたいですね。私もそういう失敗はありますよ。はい。
スマートフォンは使い方によって眠りを妨げることも、入眠儀式として役立つこともあるようです。では、より直接的に眠気を引き起こすアルコールの力を借りる方法はどうでしょうか?眠れない夜についつい晩酌をしたり、酒を飲まないと寝られない人も多いはずです。
寝酒はですね、睡眠的には実は最悪なんですね。アルコールには直接の催眠作用があるので、酔っ払うと眠れてしまうんですよ。入眠はできるんですね。それだけに騙されてしまう。で、お酒をいっぱい飲むとすぐに眠れるって思っちゃう人が多いんですが、それが習慣化してしまうのは本当に良くなくて、なぜかと言うと、アルコールが入った状態での睡眠っていうのは極めて質が悪いんですね。いわゆる深い睡眠が減ってしまうし、睡眠が非常に不安定で中途覚醒も増えてしまうし、すごく質の悪い睡眠になってしまいます。ですので眠るためのお酒ですね。それを寝酒と定義するのであれば、それはやめていただきたいということですね。本当に毎晩1杯飲まないと眠れないというような人は、本当にお医者さんに行ってくださいと。処方睡眠薬、今非常に有効かつ安全で癖にならない新しいタイプの睡眠薬も出てきていますので、そういう処方睡眠薬を飲んで眠った方が、お酒で眠るよりもずっと頭のためにも体のためにもいいです。
現在使われている新しいタイプの睡眠薬の1つ、それがオレキシン拮抗薬です。オレキシンは脳内で覚醒を維持する働きを持つ物質です。オレキシン拮抗薬はその働きを抑えることで覚醒を弱め、より自然な眠りを促します。そしてこのオレキシンを発見したのが今回のゲスト、柳沢正史です。
オレキシンの発見の経緯なんですけれども、当時ですね、当時というのは1995年、6年ぐらいですね。我々の脳の中にたくさんこの鍵穴分子があるんですね。で、そこに鍵分子が結合することでこう細胞、神経細胞の間の情報伝達が起こるわけなんですけども、その鍵穴分子で肝心の相手の鍵分子が分かっていないやつ、これをみなしご分子、オーファン受容体と呼ばれてたんですけれども、そういうものがたくさん見つかってきていました。で、それに関するこの相手が未知の鍵穴分子に対する鍵分子を見つければ、何か新しい生物学が始められるだろうということで、見つかってきたのがオレキシンなんですね、実は。
しかしその時点で分かっていたのは、脳内にオレキシンという新しい物質が存在するということだけ。それがどのような役割を果たしているのかは全くの謎でした。
そしてよく見るとオレキシン、この新しい脳内物質を作る神経細胞は視床下部と呼ばれる脳の奥深い部分にのみあって、その部位というのは実は食欲に関与するということが当時知られてたんですね。なので私たちは新しく発見したオレキシンをネズミの脳内に注射してやるとどうなるか見たところ、注射した直後たくさん食べるようになるということが分かり、逆にネズミを絶食させてお腹が空いた状態にすると脳内でのオレキシンの産生量が上がるということも分かったんですね。で、そこで最初これは食欲を制御する脳内物質かもしれないということで、これもちろん医学的には食欲の制御は極めて重要な課題ですので、すごくエキサイティングだったんですけれども、最初の論文を98年に出版したんですけれども、その時点ではそういう食欲を制御する脳内物質として報告しました。
次に柳沢正史はオレキシンの働きを確かめるため、オレキシンを作れないマウスを作成しました。食欲を促す物質であれば、それを失ったマウスは食べる量が減り痩せるはずです。ところが食事量も体重も死亡率も通常のマウスとほとんど変わりませんでした。マウスは一見健康そのものだったのです。
だからこれは困ったことで、せっかく新しい脳内物質見つけたのに、あってもなくても一緒かよと。で、そこで困っちゃったんですけれども、そこで思いついたのはですね、
柳沢正史たちは夜行性であるマウスの行動を詳しく調べるため、夜間の様子を赤外線カメラを使って撮影しました。すると予想もしなかった異常が映し出されます。
こう旺盛に行動してるマウスが、ある時いきなりパタッと動かなくなって、場合によっては横に倒れてしまって全く動かなくなって、それが30秒1分経つといきなりまた起き上がって動き出すと。そういうビデオだけ見ていると行動停止発作のような状況が頻繁に観察されて、これ一体何だということで、最初てんかんかもしれないと思ったんですね。てんかんもいろんな種類があって、いわゆるこうブルブル震えるような痙攣発作を伴わないようなてんかんもありますので、そういうてんかんかと思ったんですけれども、
そこで柳沢たちはその詳細を確かめるべくマウスの脳波を測定しました。しかしてんかんに特徴的な異常は見られず、倒れると同時に覚醒状態から突然睡眠へ移行していることが判明します。通常レム睡眠はノンレム睡眠を経た後に訪れます。しかしこのマウスではその順序が崩れ、睡眠に伴う脱力によってその場に倒れ込んでいたのです。
で、これはですね、取りも直さず人のですね、中枢性過眠症、いわゆる居眠り病の1つであるナルコレプシーという病気があるんですが、それと全く同じ症状であるということが分かったんですね。
で、そこから実は、このマウスは今言ったレム睡眠にいきなり移行するという、レム睡眠発作とも言えますけれども、その脱力発作だけでなく、ノンレム睡眠も異常で、マウスと言えどもですね、正常に入眠する時は準備してから入眠するんですよ。素材があれば巣を作って、その中で丸くなって毛づくろいでもして準備してから眠ると。いきなりパタッと倒れて眠るってことはマウスと言えどもないんですね。ところがこのマウスは本当にいきなりパタッと倒れてノンレム睡眠に入ってしまう。だからノンレムの発作も起こるし、レムの発作も起こるということで、逆に言うと正しく覚醒が維持できない状態だということが判明して、それはもう取りも直さず人のナルコレプシーという疾患というわけで、オレキシンが欠乏するとナルコレプシーになるということを図らずも、それを狙ったわけではないんですが、発見してしまったんですね。で、逆に言うとオレキシンというのは脳を覚醒状態に正しく保つために必須な脳内物質であるということがそっから分かっていったわけですね。で、そこに続く研究で、今までにもうオレキシンというのは脳内の非常に重要な覚醒系、脳内の覚醒系の親玉のような物質であるということが分かっていったということです。非常にこれは面白い。まさにブルーオーシャンの地であるという感触を得ましたね。はい。
そして時を同じくして、別の研究チームも全く異なる方法からオレキシンとナルコレプシーの関係を突き止めていました。
私たちとは全く独立に別個にですね、スタンフォード大学のエマニュエル・ミニョー先生という方が、彼らは実は長年ですね、遺伝性のナルコレプシーを持った犬の家系を持っていてですね、その犬の家系でおかしくなっている遺伝子を見つけるという真逆のアプローチで、実は家族性のナルコレプシーの原因遺伝子が実はオレキシンの受容体の1つであるということを、彼らがほぼ同時に我々とは独立して発見したんですね。だからこれはすごいことで、私たちはオレキシンという遺伝子から入って、その遺伝子を壊したらナルコレプシーになったと。それをマウスでやったわけですね。彼らはナルコレプシーという病気から入って、その原因遺伝子を見つけたらオレキシン受容体であったということで、2つの種で、リガンドと受容体の異常が同じ病気につながるということが同時に発見されてですね、非常に興奮したのを覚えています。
こうしてオレキシンが覚醒を維持するために欠かせない物質であることが、2つの独立した研究から裏付けられました。ならば反対にその働きを抑えれば眠りを導けるはずです。この発想からオレキシン拮抗薬の開発が始まりました。
そのアイデアに沿って全く新しいタイプの睡眠薬を開発していって、今ではですね、日本では最初のものが約10年前に、実際の臨床の現場で使えるようになったんですけれども、非常にこう安全かつその癖にならない、卒業できる睡眠薬ということで、全く新しいタイプのですね、睡眠薬と。
さらに言うとですね、今実はすごくニュース的にも注目されてるのがオレキシン作動薬なんですね。つまりオレキシン受容体に結合してオレキシンの代わりになる薬が、いよいよ使えるようになっています。
そして実はオレキシンが脳内の覚醒物質であると、しかもオレキシンが欠乏するとナルコレプシーになるということが分かった直後の時期にですね、私、製薬企業に問い合わせた。これ作動薬を作ればナルコレプシーの特効薬になりますよと。もうそれは明らかだったんで、理論的にですね。そういうことやりませんかということを言ったんですが、残念ながら当時、当時というのはつまり25年以上前ですかね。25年前ですけれども、どの製薬企業もまともに取り合ってくれませんでしたね。まず、彼らの感覚ではナルコレプシーっていうのは比較的稀な病気であると。決して稀じゃないんですよ。1000人に1人ぐらいの率で起こるので。かと言ってその高血圧や糖尿病のように頻度の高い疾患でもないんですね、というようなことで、どの製薬企業もですね、当時は取り合ってくれなかったのを記憶しています。
しかしそれから四半世紀、かつて相手にされなかった着想は現実の薬へと結びつきました。オレキシンの働きを抑えれば眠りを導くことができる。反対にその働きを補えば覚醒を取り戻すことができる。図らずも発見された1つの脳内物質は、眠りと目覚め、その両方を制御する薬へとつながったのです。そしてこの発見によって柳沢正史はノーベル賞も期待される存在となりました。
なんていうか非常に名誉なことですけれども、例えばですね、2023年にブレイクスルー賞というアメリカの、賞金額が世界中で1番高いので有名なんですけども、1件あたり300万ドル、そのぐらいの賞金額で、アメリカのその学術界のアカデミー賞とかってあだ名もあって、本当にハリウッドの有名な、いわゆるアメリカのセレブリティですねが来て、レッドカーペットでこう授賞式がすごく華やかで有名なんですけど、そういうアメリカの大きな学術賞をいただくことができて、それからクラリベイトの引用栄誉賞って言って、論文がたくさん引用されて、この波及効果が強い論文を出した研究者に与えられる賞なんですけど、それもいただくことができてですね、ブレイクスルー賞を取った人の中からかなりの数のノーベル賞が出てるってことは事実なので、そういう意味でそういうなんていうか登竜門的なですね、賞をいただけてるっていうのはすごく名誉です。何よりもこの睡眠という非常に社会的に重要な分野であるにも関わらず、今まで本当のメジャーなですね、大きな学術賞が出たことのない分野なんですよ。だからそこに、さっき言ったスタンフォード大学のエマニュエル・ミニョー教授と私が常に共同受賞してるんですが、睡眠学という分野がですね、そういう本当のメジャーな学術賞を頂いたというのはすごく素晴らしいことだと思っています。
そして睡眠研究をさらに前進させるため、柳沢正史は後に世界最大規模の研究拠点を日本に築くことになります。その誕生までには20年以上に及ぶアメリカでの研究生活がありました。
実は私、31歳の時に渡米したんですね。で、非常に色々ラッキーなことがあって、実はいわゆる留学っていうのとはちょっと違ってですね、向こうのテキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターっていう、全米でも有名な基礎医学のキャンパスがあるんですけども、そこに直接、いわゆる業界用語でPIって言いますけど、プリンシパル・インベスティゲーターですね。ラボのヘッドです。引っこ抜かれたというか、リクルートされたんですね。だから31歳の時に渡米して、初めて自分のラボを自分で運営する、独立したラボを持つ形でですね、行きました。
柳沢正史が渡米したのは1991年。その後アメリカでオレキシンを発見した柳沢は、日本へ戻ることをほとんど考えていませんでした。転機となったのは2010年。国の大型基礎研究支援プログラムに採択され、大学に新たな研究室を開設します。これが後のWPI-IIISへとつながる出発点となりました。さらに柳沢は世界トップレベルの研究拠点を作る国の事業に応募。そこで掲げたのが、アメリカで経験した研究環境を日本に再現するという構想でした。
アメリカのデパートメントを日本の中に作るということをぶち上げたら、それが評価されて採択されてですね、それがきっかけで今あるIIISと、睡眠研究に特化した形の研究所を立ち上げたということです。で、今IIISはですね、20以上の独立したラボがあって、大学院生とかまで全部入れると350人近い人数で運営しています。だから結構大所帯で、最大の特徴は全てのラボが何らかの形で睡眠の基礎研究をしてるということですね。だから睡眠の基礎
ということに特化した研究所としてはもう完全に世界で最大の規模ですし、レベル的にも世界の最先端の一翼を担い続けていると自負して、頑張ってると。
IIISでは睡眠時間を左右する遺伝子や睡眠と覚醒を制御する神経回路など、睡眠の根本を解き明かす研究が進められています。そしてその最前線で進められているのが人工冬眠の研究です。
実はですね、人工冬眠はもうもはやSFではないです。
2020年、IIISの桜井らの研究チームは脳内に存在するQニューロンと名付けられたわずかな神経細胞に注目しました。
我々が使っているハツカネズミ、マウスは本来冬眠をしない動物です。ところが桜井さんのラボで、そのマウスの脳の奥深くの視床下部の前の方にある、ものすごく少数の、彼らがQニューロンと名前をつけてる神経細胞を特異的に刺激してやると、マウスがいきなり冬眠様の状態になると。まさに人工冬眠ですね。ということを彼らは発見しました。
で、本当にですね、体温がほぼ室温と同じぐらいまで下がって、もちろん動かなくなって本当に冷たくなるんですね。で、一見死んじゃったように思えるんだけど、実はそっから回復すると全く健康なまんまで元通りに戻ると。
で、これはですね、今だから当然桜井さんのところではマウスでもできたし、より大型のラットでもできたと。で、次はだから今やろうとしてんのは霊長類ですね。マーモセットとか、いわゆる猿の類いで同じことが起こらないか今やろうとしています。
さらに人間にもQニューロンと同じ種類の神経細胞が存在することが分かっているため、人間にも冬眠する能力が残されているのかもしれません。
冬眠って実は面白くて、哺乳動物のこう系統発生がありますけれども、この系統発生の中で冬眠する種族っていうのがいくつかあるわけですけれども、これね、パラパラパラっといろんなブランチにちょっとずついるんですよ。で、実は霊長類でも冬眠する種も実はあるんですね。マダガスカルかどっかにいるお猿さんは冬眠するんですね。
だからそっから何が分かるかと言うと、その冬眠するためのこの潜在能力みたいなものは哺乳動物の根っこのところにあって、それを使うか使わないかでそれぞれの種がですね、使わない種もあると、そういう考え方なんですよ。
では、もしも人間が人工冬眠ができるようになると何が起こるのでしょうか?
これがもし人間でできるようになるとですね、遠い将来はそういうまさにSFチックなですね、宇宙旅行とか、何十年か眠ってて近未来に行くとかですね、そういうことに応用できる可能性ももちろんあるんですけども、そんなことより何よりもですね、まず救命救急医療がもう革命的な変化が生じると思います。
つまり何か重篤な病気や事故にあった時に時間稼ぎができるわけですよ。その場でパッと冬眠状態にできれば、その間病気の進行を遅らせてですね、とりあえず適切な治療ができるまで、搬送する間、時間をいわば止めとくことができると。そういう意味で救命救急医療にはもう大変な変化を起こすことができる可能性があるということで、今注目しています。
睡眠の未来を切り開く研究が進む一方で、現代社会では多くの人が睡眠に関する疾患に苦しんでいます。代表的なものが2つ。不眠症と睡眠時無呼吸症候群です。一方は眠れない苦しみを強く自覚する病気、もう一方は眠っている本人が異常に気づきにくい病気です。
不眠症はものすごく頻度の高い疾患で、国民の4人に1人とか5人に1人、高齢者だともう3人に1人が多かれ少なかれ不眠の訴えがあると。で、そのせいで何らかの昼間の障害が出ている。単純に眠いとか元気が出ないとか、いろんな症状があり得ますけれども、昼間の障害が出ていて、それが慢性的に続いていれば不眠症という診断が下るんですね。で、これは本当に頻度が高いです。
そしてこの不眠症がなぜ起きるのかは、その多くが謎に包まれていると言います。
基本的に人間にしかない病気ですよね。おそらく人間以外の動物が眠れないという悩みを抱えることはないんじゃないかという気がします。人間というこの巨大な頭脳を持った種族に特有の眠れないという悩みそのものが。で、なぜ眠れなくなるのかってのは本当に難しい問題で、何が難しいかと言うと、不眠症っていうのは根本的に主観的な病気なんですよ。
要するに主観的にその患者さん本人が眠れないと感じていることと、客観的に眠れてないっていうことはしばしば乖離するんですね。患者さんによっては、客観的に脳波を測ると健やかに眠れてる期間も、主観的にはその間眠れていませんでしたという風に感じているというのが非常にしばしばあってですね、そういう主観的な側面が絡むので、とっても難しい病気なんですよね。
実はですね、世界的には不眠症の治療に最も効果があるのは睡眠薬ではなくて心理学的な治療法で、認知行動療法というのが最も効果があるんですね。で、これはですね、睡眠に対する考え方を変化させる。
例えば不眠症の患者さんでよくあるパターンが、眠れないのでもう早く寝なきゃと。で、結果としてベッドの上にいる時間が長くなっちゃう人がたくさんいるんですね。もう眠らなきゃ眠らなきゃということで、夜10時ぐらいからもうベッドに入って眠ろうとする。ところが眠れないで、余計眠れなくなる自分の睡眠に対する不安が高じてきて、さらに眠れなくなるという悪循環に陥ってしまうんですね。
で、認知行動療法ではそれを何をするかと言うと、もう遅寝早起きです。もうベッド上にいる時間をぎゅっと縮める。遅寝してくださいと、ベッドの上にいる時間を、要するに睡眠時間を縮めてくださいと言うんですよ。で、多くの患者さんはこれ面食らいます。先生、眠れないって言ってるのに、眠るなってどういうことですかと。
ところがこれが効果があるんですね。ベッド上にいる時間を縮めることで、多くの患者さんが昼間眠くてしょうがないと睡眠不足を訴えるんですけれども、やがてですね、ベッドの上にいる時は少なくともぐっすり眠れるようになるんですね。それが逆に発端となって睡眠に対する不安が取れて眠れるようになっていくという、それだけではないんですけど、そういう考え方ですね。
これがですね、実は世界的には最も効果がある治療法であるということが証明されていて、認知行動療法は普通何ヶ月もかかる大変な治療法なんですけれども、これをやるとですね、1回やってうまくいくと、本当にもう何年も治療効果が続くと、基本的に完治するという風にも言われています。
一方、不眠症以上にたちの悪い疾患が睡眠時無呼吸症候群です。
違うところは、不眠症はそういうわけでいわゆる訴えが強いわけですね。眠れなくて困ってる患者さんっていうのは医者に行くわけですよ。だからまだいいという言い方もできて、無呼吸症候群はですね、困ったことに、まず自覚症状のない患者さんがたくさんいます。
具体的な数字を言うとですね、日本国内だけで睡眠時無呼吸を持ってる方って2200万人いると言われています。で、そのうちいわゆる中等症あるいは重症、軽症、中等症、重症とあるんですけれども、中等症以上ですね、つまり治療が必要なレベルの患者さん、中等症以上だけで潜在的に940万人とかいう数字が出てるんですね。
だからこれ半端ないですよ。もう国民の1割ぐらいが要治療の睡眠時無呼吸を持っている。別の言い方をすると、中年以降の男性ではもう3人に1人ぐらいの頻度だとも言われています。
で、問題はですね、中にはもちろん昼間すごく眠くてしょうがないとかですね、いびきがすごくうるさくて息が止まっちゃってるよと家族に指摘されるとか、そういうことで自覚を持てる方もいるんですが、全くそういう症状がない。家族にいびきぐらいは指摘されるけれども、たかがいびきだと思ってるという方がほとんどなんですね。
で、一方ですね、睡眠時無呼吸、2分に1回以上、1時間に30回以上息が止まると重症と判断されるんですが、重症の無呼吸を放っておくと、無治療で放っておくとですね、向こう10数年の間に4割ぐらいの方が命を落とすんですね。
具体的には脳卒中とか心筋梗塞とか大動脈解離とかですね、眠ってる間のいわゆる突然死ですね、不整脈など、そういういわゆる心血管イベントと言われるような命に関わる事故を起こしてですね、4割が亡くなるという疫学調査もあります。亡くならないものまで含めると、そういう脳卒中で後遺症になってしまう人もたくさんいるわけですが、もうすごくリスクが増えるんですね。
だから放っておいてはいけない病気であるにも関わらず、多くの方が、9割以上の方が全く治療もできていないというのが睡眠時無呼吸の現状ですね。
いろんな理由でね、やはり治療に至らないんですね。まず第1にたかがいびきって思ってる。ベッドパートナーがいなければいびきすら指摘されない人もたくさんいますし、全く自覚を持てない。で、いびきを指摘されても、そんなたかがいびきでしょ、うるさくてごめんねという程度。いびきをかく方、大きないびきをかく方のほとんどは、多かれ少なかれ無呼吸があると思っていただいた方がいいので。
それから夜間頻尿ですね。時々というかしばしば出る自覚症状ですけれども、夜中に2回3回以上トイレに起きる方っていうのは、まず自分は無呼吸じゃないかなと考えていただいた方がいいです。それから何よりも男性、何度も言うように、高齢になるまでは男性の方に圧倒的に頻度が高いです。
それから一昔前まではですね、なんか睡眠時無呼吸ってこう太った人、少し脂ぎったメタボなおっさんの病気っていうイメージがあったと思うんですが、あれは実は当たってなくてですね、痩せてる全然肥満のない方でも、特にアジア人に多いんですけれども、結局この顎の周りの骨格なんですね。
顎が小さい、上顎や下顎が小さい人というのは、結局この舌、ベロの行き場がなくなって、仰向けに寝てる時に特に多いんですが、後ろにベロが、舌が落ちてしまって、それによって気道が塞がれるわけですよ。
とにかく頻度がすごく高いにも関わらず見逃されている。睡眠時無呼吸は下手をすると不眠症以上に頻度が高いにも関わらず、とにかく患者さんが医者に行かない病気ですね。はい。という特徴があります。
これまで見てきたように睡眠の謎を追い続けてきた柳沢正史。では、その本人はどのように眠っているのでしょうか?
私はですね、実は0時から7時を私の睡眠コアタイムとしていて、0時から7時はできるだけ睡眠以外のことには使わないように心がけています。もちろん守れない日もありますけれども、これはだから土日も変わりません。
一方、アラームを5回も10回もですね、スヌーズをかけ続ける人っていますけども、あれは本当にやめて欲しくて、そんなことするぐらいなら、最後の1番本当にここで起きなきゃやばい時間に、1回ぐらいですね、10分前ぐらいにかけて、スヌーズはもう1回だけにする。だからアラームの数で2回、それでやめて欲しいです。
なぜかと言うと、何回もスヌーズしちゃ眠りっていうのをやってる間というのは、ものすごくその間眠りが浅いわけですよ。で、それ時間の無駄なんですね。1回ぐらいのスヌーズでしたら実は効果があるという報告もあって、要するに1回そこで浅い睡眠に移行させておいて、もう1回ギリギリまで寝ると、次のアラームがかかった時によりスムーズに起きられるという論文も出てます。だから、スヌーズ使うにしても1回までにすることをお勧めしますね。で、ギリギリまで逆に眠っていると。
そして誰しもに訪れる眠れない夜。こういった時はいかにして乗り切ればいいのか。
私もいろんなストレスや心配事や、やらなきゃならないことが溜まってですね、眠れなくなることが、毎晩ではないですけど、往々にしてありますね。そういう時はですね、私の場合はもう半分諦めてるというかですね。1つ心がけてるのは、その眠れないなと思った時に深呼吸をすると眠れることがよくあるんですよね。
で、私、これ15秒呼吸と言ってますけれども、7秒ぐらいかけて鼻から大きく息を吸って、静かにですね、ゆっくり大きく息を吸って、8秒ぐらいかけて吐くと。これを1往復15秒で、例えば4回繰り返すとちょうど1分になるんですけど、これをですね、例えばもう自分の心拍を数えながらやると、本当にいつの間にか寝落ちできますね。この深呼吸っていうのは結構お勧めできます。
色々な調査で、日本人というのは世界一睡眠不足な国である、国民であるというのが繰り返し示されてるんですね。
睡眠時間を測定した国際比較では、日本人の平均睡眠時間はヨーロッパよりもおよそ1時間短いとされています。アジアの国々は全体的に睡眠時間が短い傾向にありますが、その中でも日本の短さは際立っています。なぜ日本人はこれほどまでに眠らないのでしょうか?
簡単に言ってしまうと、日本人っていうのは本当に睡眠を軽視している。生活の中での睡眠というものに対するプライオリティがない考え方なんですよね。それから日本の大きな課題はですね、子供の睡眠不足ですね。これは本当に根が深くて、日本人の中高生で医学的な意味で十分な睡眠時間を確保できてる子供って多分1割以下だと思います。だから本当にね、これやばいんですね。
で、これね、睡眠不足だと勉強もダメだっていうのはデータがごまんとあるんですね。例えばですね、東北大学の有名な論文なんですが、いろんな年齢の子供を300人ぐらいですね、脳のMRIスキャンを取って、海馬という短期記憶の座ですね、記憶に非常に重要な構造が脳にありますけど、それの体積を測ったという論文があってですね、なんとその論文の結論は非常に単純で、寝不足気味の子は海馬がちっこいんですよ。で、よく眠ってる子は海馬がでかい。
これやばくないですか?本当に子供の時の寝不足っていうのは、もしかすると一生のハンデになってる可能性があるということです。
人類にとって睡眠とは何か?
人類にとっての睡眠っていうのは神様からのギフトなんですよ。実はですね、多くの哺乳動物の中でも人間だけがものすごく固めて夜深く続けて眠る能力があるんですね。
で、一部の学説によると、人間だけがそういう深く安心して、ある意味続けて眠る環境を得られたと。要するに頭が良くなって、自分の夜の間の安全な環境を確保できるようになって、ぐっすり眠れるようになって、そのせいでさらに頭が良くなったと。つまりこの深く続けて眠る、ぐっすり眠る能力と、この高度に発達した頭脳というのが、コエボリューション、共進化したという学説もあるんですよね。
だから本当に人間に特有のこの眠り方なので、私のメッセージとしては、それはもう神様からのギフトですので大切にしていただきたいということです。夜の睡眠を軽く考えないで欲しい。それが私のメッセージでしょうかね。
人はなぜ眠るのか。その答えは今も分かっていません。しかし眠りが心と体を守り、人類の進化に深く関わってきたことは少しずつ明らかになっています。毎晩当たり前のように訪れる睡眠は、人間が手にする最も重要で最も謎に満ちた時間なのかもしれません。
今回のVAIENCEはここまで。ぐっすり眠ってください。おやすみなさい。
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