農家の利益を起点にメタンを減らす:Rizeの「農業フルスタック」をFoundXが読み解く

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概要

FoundXの番組「Startup IdeaCast」は、海外スタートアップのアイデアをAIで整理・分析し、起業を考える人の参考にすることを目的としている。今回取り上げたのは、東南アジアの小規模稲作農家を支援する農業・クライメートテックのRizeである。番組の冒頭では、AIを使って情報を整理しているため古い情報や誤りが含まれる可能性があるという注意も添えられた。

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この回の中心にある問いは、環境技術のスタートアップがなぜ環境技術そのものを売らず、資材・金融・営農指導・販売までを一社で抱える「重い」モデルを選んだのか、というものだ。解説役の話者の見立てでは、Rizeは農家に「メタンを減らしてほしい」と頼むのではない。農家の短期的な経済課題を解き、その結果としてメタンが減る仕組みをつくろうとしている。

なぜRizeを取り上げたのか

話者によれば、RizeはベンチャービルダーのWavemaker Impactがつくったスタートアップで、以前から注目していた一社だった。最近まとまった資金調達をしたことから、クライメートテックでもまだ大型の調達をしている企業があると知ってもらう意味も込めて取り上げたという。

2026年7月時点の公式発表として話者が紹介した数字は、約1万7000人の農家と連携し、活動面積は5万ヘクタールを超えたというものだ。欧州、カナダ、オーストラリア、シンガポールに1500トンを出荷した実績もあるとされる。

全体像:分断された機能を一つの経済圏に束ねる

話者はRizeを「農業のフルスタック・クライメートスタートアップ」と表現する。ここでいうフルスタックは、アプリの機能が多いという意味ではない。資材調達、資金提供、営農、計測、集荷、販売という、これまでばらばらだった工程を一つの経済圏としてまとめて運営するインフラ事業者だという意味である。

重要なのは、Rizeが環境技術を直接売っていない点だと話者は強調する。農家が欲しいのはメタンの削減ではなく、利益が残る農業である。買い手が必要としているのは安全性、品質、供給量、トレーサビリティである。Rizeはこれらを総合的に提供し、水管理、適切な資材、現場指導、買い手への販売といった一連の運用の中で炭素排出も減らしていく。

話者が特に面白いと見るのは、各事業が他の事業のリスクを下げる構造になっていることだ。営農指導は収量が落ちるリスクを下げる。データの取得は金融リスクを下げる。買い手との販売契約は農家の返済リスクを下げる。集荷量がまとまることで、買い手に対する販売力も高まる。分断されていた機能をまとめることで、それぞれが強くなるという構図である。

「なぜ今か」について、話者は次のように整理した。水田の稲作は世界のメタン排出の10〜12%を占めるとされ、特に東南アジアでは食料生産を維持しながらメタンを減らすことが大きな課題になっている。世界的に米の需要は増えている一方で水資源は枯渇しつつあり、水管理が必要になっている。それでも、農家に環境配慮を求めるだけでは、資金力もインセンティブも足りない。

何を売る会社なのか:「新しい農協」に近い取引インフラ

聞き手は、Rizeが米の商社なのか、カーボンクレジットの会社なのか、その両方なのかと尋ねた。話者の答えは「全体をやっている」というものだった。商流の機能を持ち、BNPL(後払い)という金融機能を持ち、営農支援・営農指導も行う。カーボンクレジットは現時点でも収益源の一つだが、中長期的には、農家との取引を安定させるインフラを整える会社だと話者は見ている。

これを受けて聞き手は、日本の農協のような存在ではないかと述べ、話者も、新しい手段を伝えながら農協的な機能を果たしているイメージだと同意した。

「ソーシャル・リエンジニアリング」は何を組み替えるのか

Rize自身は自社の取り組みを「ソーシャル・リエンジニアリング」と呼んでいる。話者の解釈では、社会制度を大きく変えるという意味ではない。誰が費用を先に負担し、誰がリスクを持ち、誰が成果を買うのかを組み替えることを指している。

具体的には、次の4点が組み替えの中身として挙げられた。

  • これまで農家が先に負担していた資材費を、Rizeがいったん立て替える。
  • 農法を変えることに伴うリスクは、営農指導で軽減する。
  • 環境データを、買い手や金融機関が使える情報に変換する。
  • 農家単独では成立しなかった取引を束ね、大手の買い手との取引を成立させる。

課題:小規模稲作農家が抱える三つの壁

対象はベトナムやインドネシアを中心とする小規模稲作農家である。話者によれば、こうした農家は資金、栽培技術、販売の三つで同時に壁を抱えていた。資材は資金不足で買えない。新しい栽培技術は収量が落ちるかもしれないので取り入れられない。輸出基準については、満たしていることを証明できない。

技術面の難しさとして、話者は二つの例を挙げた。一つはMRL(Maximum Residue Limits、農薬の残留基準値)への対応である。これは収穫後に検査すれば済む話ではなく、農薬の種類、使用時期、使用量を栽培段階から管理する必要がある。もう一つはAWD(Alternate Wetting and Drying、間断灌漑)で、水を張る期間と落とす期間を交互に設ける農法だ。単純に水を抜けばよいわけではないため、正しいやり方を現場に伝えていくことが難しかったという。

既存の支援主体がいても問題が解決しなかった理由も論じられた。聞き手が、資材店、仲買人、政府機関などが分断されている背景を尋ねると、話者は次のように答えた。各主体が追っているKPIが異なり、統合的に連携できない。生産から輸出までの最終成果に誰も責任を持っていない。データが共通化されていないので、金融、環境価値、輸出規格の要件を満たしにくい。さらにカーボンクレジットは、発行時期や価格が短期的な収益から遠く、不確実性も高いため、農家にとって手を出しにくい。

では何から解くべきか。話者は、地域や農家によって違うとしつつ、資金と販路が導入の入り口になりやすいと見る。AWDでクレジットを生むことはできても、収量を失うリスクに見合わないという技術的な難しさも残る。結局のところ、資材を手に入れられ、失敗リスクが下がり、収穫物を買ってもらえるという一式を同時に解決しなければならないのが本当の課題だろう、というのが話者の結論だった。聞き手はこれを、環のようにつながっていて一か所でも切れると回らない話だと受け止めた。

解決策:移行リスクをまとめて引き受けるパッケージ

Rizeの解決策は、SaaSを売ることではない。金融や商流を含めて現場のインセンティブ構造を丸ごと設計し直し、農家が新しい農法へ移る際のハードルを極限まで下げることだと話者は説明する。

資金不足、技術への不安、販売への不安という三つの課題に対し、Rizeは次のものを組み合わせる。無利息のBNPLで資材を提供する。アグロノミストによる営農指導とAWDを導入する。買い取りを前提にした栽培契約と集荷によって、安定した販路と価格を提供する。こうして農家は初期負担ゼロで新しい農法に移行でき、メタンも減る。

話者は、これらが単独の事業として並んでいるのではないと指摘する。無利息BNPLは、農家にプログラムへ参加してもらう入り口として機能する。同時に、推奨資材を使ってもらう品質管理の手段でもあり、収穫物の集荷を確保するロックにもなる。農家から見れば、Rizeは複数サービスの寄せ集めではなく、「移行リスクを下げる保険付きのパッケージ」に近いというのが話者の見方だ。

アグロノミストの役割も幅広い。病害虫や天候への対応、水管理が実行されているかの確認、農薬使用の管理、データの取得までを担う。環境価値を現金収入に変えるだけでなく、さまざまな価値を提供している点が面白いと話者は述べた。

農家の利益については、Rizeは2〜3倍に向上したとしている。ただし話者によれば、確認できるのは50ヘクタールでの特定の実証であり、平均値なのかどうかは分からない。別の93ヘクタールの実証では純利益の増加率が5〜6%だったため、作期、地域、品種によって差があるのだろうと話者は見ている。

市場:面積と取引量で積み上げる市場と、複数の支払い手

市場規模について、話者はTAMを世界の稲作バリューチェーン全体とした。これをすべて書き換えるという大きな話だという。SAMはアジアの小規模稲作農家で、約1億400万の農場があるとされる。当面の中心はベトナムとインドネシアの農家である。

市場拡大のドライバーとしては三つが挙げられた。食品企業に対するScope 3排出削減の圧力、欧州などの厳格なMRL規制、各国政府の低排出プログラムである。話者が面白いと見るのは、これらのドライバーがそれぞれ別の支払い手を生む可能性があることだ。Scope 3では食品企業が、MRL規制では輸入業者が、低排出プログラムでは政府や開発金融が、新たなステークホルダーとしてお金を入れてくるかもしれない。

また、この市場は一般的なSaaSのように「対象企業数×月額」で簡単に算出できない。農地面積、米の生産量、1ヘクタールあたりの取引額、環境価値を積み上げて考える必要があり、金額感を言いにくい市場だと話者は述べた。

聞き手は、Scope 3やカーボンクレジットへの関心が弱まれば市場は縮むのではないかと問うた。話者は、政策の状況によって環境価値の収益が短期的に弱まったり、現金化が先に延びたりする可能性はあると認めた。そのうえで、Rizeの強みは環境価値以外にも手を広げている点だという。資材の金融、収量の改善、節水、食品安全などには別の価値があり、Rizeはカーボンクレジットなしでも成立するユニットエコノミクスを目指しているのだろう、と話者は推測する。

ビジネスモデル:回れば強く、止まれば弱いフライホイール

ビジネスモデルについて話者は、いろいろなところからお金を取ってくることと、事業をうまく回すフライホイールをつくることの組み合わせだと説明した。デットによる融資、無利息の資材BNPL、営農指導やMRVのデータ、高付加価値での販売、買い取り契約をどう循環させるかがモデルの核になる。単一のSaaS課金ではなく、複数の商流から利益を得る組み込み型金融(エンベデッド・ファイナンス)のモデルとも言え、商社のモデルとも言えるという。

収益機会として挙げられたのは、米の売買差益、資材や機械サービスのマージン、加工・物流、将来的なカーボンクレジットである。一方で、農家に資材を前渡しするには多額の運転資金が必要になる。資材とサービスをRize自身が先払いしている点は、新しいというよりリスクを取っている点だと話者は述べた。

話者はこのモデルの弱点も率直に指摘した。農家が返済不能になれば、そこで循環が壊れるかもしれない。米価が下落すれば、途中で販売が立ち行かなくなるかもしれない。どこが最も壊れやすいかと聞き手に問われると、話者は次の三つを挙げた。収穫物が規格に合わない、あるいは想定した買い手に売れないこと。米価が下がって回収の原資が不足すること。融資の増加速度が農地の拡大に追いつかないこと。ただし、どこが一番弱いかを決めるのは難しいとも述べている。聞き手は、リスクをどう分散・配置するかが非常に重要になりそうだと応じた。

戦略:現場支援とMRVを内製し、資材とデットは外から持ってくる

Rizeの戦略は、農家の行動変容を阻むリスクを自社で引き受けるフルスタック型である。簡単なアプリを渡すのではなく、資金や販売先を確保し、重いモデルであることを承知でリスクを背負う。

中核として内製しているのは、アグロノミストによる現場支援と、デジタルMRVおよび運営基盤である。一方、資材の製造は行わずパートナーの能力を使い、資金面でもデットは外部から調達する。

現場支援を内製する理由について、話者は次のように説明した。新しい農法の採用はマニュアルを配るだけでは進まず、農家ごとの条件や天候に合わせた対応が必要になる。聞き手は、営農指導員を外部委託せず内製するのはかなり重いのではないかと問うた。話者が挙げた理由は三つある。初期は品質基準や現場のノウハウがまだ固まっていないこと。農家との信頼を設計する必要があること。外部委託すると環境データと実際の作業の整合性を管理しにくくなること。将来は認定パートナーを使う可能性もあるが、現時点では自社で行うという判断のようだと話者は述べた。

MRVを内製する理由は、データが環境の証明だけでなく、金融、品質、商流のすべてに共通する基盤になるからだという。構想として示されているのは、GPS付きの写真、タイムスタンプ、農家情報、資材の配送、機械の予約までを追跡する仕組みである。話者はこれを、単なる排出量計算ツールではなく「現場のOS」に近いものと表現した。

フルスタックであること自体の重さが、他社が真似しにくい参入障壁になるというのも話者の見立てだ。1万7000人の農家との関係、現地人員の採用と教育、データ、買い手との契約、金融機関との関係は、簡単には模倣できない。2026年7月時点でRizeは、技術・農学・現場運営を含めて250人の現地チームを持つと発表している。YouTubeではインドネシア担当者のインタビューが33万回ほど再生されていたという紹介もあった。その分固定費は大きいが、それだけのリスクを取って新しい農法への転換を進めている企業だと話者は評価する。

ロードマップ:実証からエコシステム、プラットフォームへ

ロードマップは3つのフェーズで説明された。

フェーズ1では、技術の正しさよりも、現場で農家の利益が出るかどうかを証明することに重点を置いた。農家にとって大事なのはアプリの利用率ではなく手取りが改善したかどうかである。そこで、地域パートナーを通じた初期実証で、水を抜いても、つまり従来と違う農法にしても利益が出ることを泥臭く証明していった。地域パートナーを使ったことで、信頼と実行率も改善したとされる。

フェーズ2はエコシステム構築期で、デットの獲得、EU向けMRL基準のクリア、デジタルMRVの拡充を進め、5万ヘクタール超へ拡大する段階である。話者はこれを、現場の実績を金融資産に変えるフェーズと位置づけ、Rizeは今ちょうどこの段階に到達しているのではないかと見ている。

フェーズ3はプラットフォームの開放で、30万ヘクタール超への拡大を掲げる。データや農家ネットワークを他社に開放し、資本効率を高めることを考えているようだ。話者はこの流れを次のようにまとめた。まず自社で泥臭く現場の信頼を獲得し、商流を押さえる。その実績を担保に金融を引き出す。最後にプラットフォーム化して固定費を下げる。つまり、一時的にバリューチェーンを垂直統合し、その後に開いていくという段階設計である。

プラットフォーム化で何を標準化するのかという聞き手の問いに対し、話者は多くの項目を挙げた。農家のオンボーディング、資材の選定、AWDやMRL対応の実施手順、データ取得、買い取り方法、異常時の対応、パートナーの品質評価などである。これらを標準化してスケーラブルな仕組みを整えることが次の課題であり、MRVでも確実にデータを取れる仕組みが必要になるだろうと述べた。

競争優位:全部やることより、一体的に運用できる能力

競合との比較では、MRV特化のMitti Labsなど、MRV、金融、資材といった特定機能に絞った企業が並ぶ。これに対してRizeは、MRV、無利息BNPLによる実質的な資金提供、現場に密着した営農指導、確実な販路、資材の現物供給をすべて持つ。最も資本集約的・人員集約的な形だが、農家が感じるリスクへのペインをフルスタックで解決しようとしていると話者は説明する。

もっとも、その重さが成長速度を制約する場面もあるかもしれないと話者は留保を付けた。モートは結局「全部やっていること」なのかと聞かれると、話者は、単に全部やることではなく、一体的に運用できる能力がポイントだと答えた。特許もいくつか取っていたはずだが、特許よりも、複数の主体を調整して結果を出すオペレーション能力が最終的なモートになるだろうという見立てである。

参入戦略:協同組合を通じて地域を面で獲得する

参入にあたってRizeは、個々の農家にアプリやSaaSを売るのではなく、地域の協同組合と連携して「面」を押さえるB2B2Cのアプローチをとった。ネット広告ではなく、現場指導と資材の現物支給から始め、初期負担を実質ゼロにしたことが最初の提供価値だった。

その理由として話者が挙げたのは、小規模農家の市場では個人単位で広告を出しても、信頼の獲得や現場での実行までつなげにくいことだ。協同組合を通せば、農家をまとまった単位で獲得できる。作付けや収穫時期も調整しやすく、集荷量を確保しやすく、口コミも広がりやすい。地域単位で導入すると隣の農家との比較が自然に起き、隣の農家で利益が増えたという話が最も強い営業になるという。

話者の見方では、Rizeにとっての MVP(最小限の実用的な製品)はアプリではなかった。資材が届き、専門家が来て、費用を先に払わなくてよく、収穫後に買ってもらえる。この一連の体験こそがMVPとして機能していたという。一方で、協同組合経由には、組合や幹部に依存してしまうこと、特定地域の政治や人間関係に巻き込まれることといった難しさもあったとされる。

聞き手は、日本で同じことをやろうとすると大変そうだと感じたうえで、協同組合から横に広げる方法を尋ねた。話者によれば、協同組合の選定基準、現地アグロノミストの認定制度をつくり、導入資材、MRV、買い取りを共通化していったという。先に触れたベトナムでの50ヘクタールの実証も、農業普及センターと2つの協同組合を通じて実施された。組合をうまく使いながら地道に進めたのが初期のやり方だったと話者はまとめた。

創業プロセス:ベンチャービルダー発のカンパニークリエーション

Rizeは、シンガポール拠点だったと話者が記憶するベンチャービルダー、Wavemaker Impactが中心となって構想した企業である。農業の上流にある非効率と、水田のメタンという巨大な気候課題を見いだし、2020年末に初期構想が生まれた。そこから「年間1億トンの削減」と「1億ドルの収益」という目標を逆算して事業を組み立てていったという。話者はこれを、創業者自身の原体験や個別の顧客課題から始めるのではなく、大きな課題を選んでからアプローチを考える創業方式の、農業分野での興味深い例だと紹介した。

ただし、課題が大きいことと、顧客が実際にお金を払うことは別である。そのため、足元での検証を繰り返しながら進めたのだろうと話者は推測する。初期からBreakthrough Energy Venturesが関わるなど、大きな調達にもつながっている。

通常の創業との違いを問われた話者は、投資家側が主導する創業プロセスだと説明した。投資家側が調査を行い、初期資本を大きめに入れ、創業者の採用まで手がける。最初に課題領域と事業規模を大きく設定して構想をつくり、採用したCEOや創業者と現場チームがそれを実事業に落とし込む。

このモデルで創業者に求められる資質として、話者は次のものを挙げた。農家や組合と一緒に現場を動かす能力。金融機関や買い手などのステークホルダーを束ねる力。現地組織の採用と管理を回すオペレーション能力。デットを含む複雑な資本設計の能力。データを揃えてレポーティングや検証まで行う能力。そしてこれらを総合的に回す力である。設立時点でTemasekやBreakthrough Energy VenturesがWavemaker Impactとともに入っていたことが、関係者を束ねる接着剤になったのではないかと話者は見ている。

初期の学び:環境価値だけでは農家は動かない

最初の学びは、農家は環境価値だけでは動かないということだったと話者は紹介する。計測ツールだけでは収量低下への恐怖を乗り越えられないという現実にぶつかった。その結果、Rizeは当初のMRV中心の構想から、金融、現物、買い取りのモデルへ転換した。話者はこれを初期の失敗と方向転換と位置づけている。

もう一つの出来事は、ベトナムでの実証中に嵐によるトラブルが発生したことだ。それでも柔軟な現場対応と、MRL適合による買い取りプレミアムによって、悪天候の下でも農家の利益が増えることを示せた。これが信頼につながり、2年ほどで5万ヘクタール超への拡大につながったとされる。話者は、この悪天候を単なる失敗ではなく、ストレステストとして乗り越え農家の利益を守れたことが大きかったと評価する。水を抜く時期を誤れば作物に影響が出るし、豪雨が来れば計画どおりに乾かない。虫が増えれば、防除と収量維持がぶつかることもある。農家が恐れる物理的な障壁はそれほど具体的なものだという。

聞き手は、利益が増えたのは偶然ではなく設計どおりだったのかと尋ねた。話者は、一事例なので一般化はできないとしつつ、全量買い取り、資材の最適化、MRLプレミアムが結果に寄与したと言われていると答えた。今後は複数年での検証が必要になるとも述べた。さらに、別のMRLの実証では、病害虫対応で農薬を使ったために目標を達成できなかったとも聞いており、事業として難しい面もあると留保している。それでも一部の条件で収量と利益が出たことは大きく、フルスタックでやっていたからこそ多様なリスクを見ながら対応できた面もあるのだろう、と話者は述べた。

資本設計:エクイティとデットの使い分け

2026年7月時点で、Rizeの累計調達額は約4700万ドルとされる。今回のシリーズはエクイティとデットを組み合わせたもので、話者が挙げた内訳はエクイティ約2400万ドル、デット約1100万ドルだった。

話者が面白いと見るのは、資金の性質によって調達手段を使い分けている点である。ソフトウェア、人材、組織、研究開発のような長期のリスクはエクイティで賄う。一方、農地が増えるほど膨らむ資材の前渡しのような運転資金は、比較的回収期間が短いため、確実な商流データと買い取り契約を担保にしたデットで賄う。運転資金までエクイティで賄うと、成長のたびに大型の増資が必要になってうまく回らない。

デットを呼び込むために、Rizeは貸し手がリスクを評価できるデータを揃えた。農家情報、作付け面積、資材の使用状況、収量、収入などである。話者によれば、MRVは環境証明のデータであるだけでなく、融資可能性を高める信用データとしても機能している。環境データを環境以外の価値に変えている点がRizeの高度なところで、資金調達そのものがプロダクト設計の一部になっていると話者は評価した。

ただし、米価が下落したときにはデットが事業を不安定にする可能性もある。聞き手は、不作やMRL未達のときに負担が重くなるのではないかと問うた。話者は、対応は難しいとしながらも、いくつかの手段を挙げた。地域や買い手を分散させること、保険を活用すること、返済条件を設計すること、固定の返済額を踏まえて損失への耐久力を見極めること、そして損益を見ながら運営することである。

日本への応用:J-クレジット、契約栽培、スマートメガファーム

番組では、日本で似た発想の事業を起こすならどうするかについて、AIが出した3つの案を紹介した。

案AはJ-クレジットのSaaSである。中干し期間の延長がクレジット化できる日本で、JAや地域団体を通じて証拠収集、審査、販売、分配を効率化する。アセットライトにできる可能性がある一方、すでに複数の事業者が参入しており、単純な申請代行では差別化しにくいと話者は指摘した。

案Bは、B2Bの契約栽培プラットフォームである。Scope 3削減を目指す食品企業と農家を直接つなぎ、クレジットに依存せず、プレミアム価格での買い取りという商流モデルをつくる。成否は、買い手との継続契約と価格設計をどこまでできるかで決まるだろうという。

案Cはスマートメガファームで、AIが推奨した案である。遊休水田や担い手のいない農地を集約し、IoTの自動給水バルブなどで人件費と現場訪問を最小化する自社運営モデルだ。いわば農地を自ら持つ垂直統合である。農地集約、地域の水利調整、農機や設備への投資が必要で資産は重いが、競争優位は強くできるのではないかとされた。話者は、最初から大規模な自営農場を持つのではなく、特定地域の水管理、記録、販売から始めてデータを貯め、自営比率を高める方法もあると補足した。

この違いの背景として、話者は東南アジアと日本で農家のペインが異なる点を挙げた。東南アジアでは資材を買う資金、資材へのアクセス、低金利の金融が欠けている。日本では高齢化、人手不足、農地の分散、担い手不足が課題になる。日本の農家が最もお金を払うポイントを聞き手に問われると、話者は水管理、高齢化で猛暑の中の作業継続が難しいこと、分散した農地の扱い、記録や申請などを挙げた。現状ではカーボン計測単体で稼ぐのは難しいという判断から、こうした案になったのだろうと話者は見ている。

まとめとして示された三つの学び

話者は最後に、Rizeから得られる学びを三つ挙げた。

一つ目は、顧客が今すぐ感じる経済価値を売ることだ。社会的インパクトは大事だが、顧客の中に入っていくには、コストが減る、売上が増える、リスクが下がる、資金にアクセスできるといった目に見える便益が必要になる。環境価値はその裏側に組み込んでおく。Rizeは農家にメタン削減を依頼するのではなく、資材や営農支援を提供した結果としてメタンが減る仕組みをつくった。

二つ目は、出口から設計して金融を使うことだ。誰が買うのか、どの品質データが必要か、いくらで買うのかを先に詰めて設計しておけば、運転資金を借入れで回せるようになり、新しい戦い方ができる。

三つ目はフルスタックである。最強の参入障壁になり得る一方で重く、人員、資金、在庫、物流といった複雑性を本当に運用できるかが問われる。それでも、顧客のバリアを一気に解ける場合があり、うまくいけば誰にも真似できないモートになり得る。

同時に話者は、Rizeが一定の成功は収めているものの完全な成功ではないとも述べた。有望な構造をつくりつつあり、ある程度の再現性も見えてきた。しかし、より大規模にしたときに同じ結果が出るかはこれから確かめる段階だという。

農業経営が専門だったという聞き手は、この事業の大変さがなんとなく想像できると語った。そのうえで、環境に良いからではなく、農家が今困っていることにアプローチした結果として環境にも優しくなるという順序、つまり実際に営農する人の利益から入ることが重要だと感じたと述べた。話者も、足元のニーズを見ながら大きな構想で進めることで多くの関係者を巻き込み、垂直統合型のビジネスを構築できるのではないかと思わせる事例だったと締めくくった。