フェンタニルとオピオイド危機を知るとフィラデルフィアの光景はどう見えるか:ノージョブフドウの「最初で最後の解説編」

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概要

旅系YouTuberのノージョブフドウは、2月22日にアメリカ・フィラデルフィアのケンジントン地区を訪れたVlog「闇編」「光編」を公開した。今回の動画はその補足となる解説編である。本人は、これまで解説や裏話の動画は作らず、面白いかどうかの判断は視聴者に任せてきたと説明する。それでも今回あえて解説した理由は、フェンタニルとアメリカのオピオイド危機を知らないまま見ると、闇編を「フルで楽しめない」と考えたからだ。

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話者が問いかけるのは次のような点である。なぜ路上に「ビッグ立ちうんこ」が立っていたのか。町を覆う絶望の雰囲気の正体は何か。なぜ依存者はケンジントンに集まり、なぜこれほど多いのか。動画は、オピオイドの種類と歴史、約30年続くオピオイド危機、現地で見たものと中毒者の声、日本にとって他人事かどうか、という順番で進む。後半の二つは自分の意見や体験だと、話者自身が断っている。

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相次ぐ薬物報道と、動画を作るきっかけ

冒頭で話者は、2026年3月6日の時点で薬物関連のニュースが多すぎると話す。挙げた例は次のとおりだ。俳優が大麻で逮捕された件。Def TechのMicroが大麻取締法違反で逮捕され、日本武道館公演が中止になった件。2月22日にメキシコの麻薬カルテルの指導者、通称エル・メンチョが殺害され、カルテルが各地で放火や暴動などの報復を続けているという報道。2月23日に日本人女性アーティストグループXGのプロデューサー、サイモンが薬物の所持・使用で逮捕されたと言われている件。3月3日に流通経済大学のサッカー部員5人の使用が報じられた件(逮捕には至っていないという)。

そのうえで話者が最もショックを受けたのは、野球好きとして期待していた広島東洋カープの元選手が、エトミデート(通称ゾンビタバコ)の使用によって医薬品医療機器法違反で起訴され、2月24日に契約解除となったニュースだという。話者はこの選手の能力を高く評価しており、数年後には主力になっていてもおかしくないと思っていた。動画の終盤では、もともと出すつもりのなかった解説動画を作ろうと決めたのは、この2月24日の件がきっかけだったと明かしている。

話者はさらに、自分は過去も現在も未来も薬物を一切やっておらず、ゾンビタバコどころか普通のタバコも吸わないと強調している。

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フェンタニルとの出会いと「日本経由」報道

話者がフェンタニルを初めて知ったのは、約10年前のことだ。アルゼンチンのブエノスアイレスから最南端のウシュアイアまで、ドイツ人と陸路で移動していた。その相手が大の薬物好きで、使う様子を見たり話を聞いたりする中でフェンタニルの名前が出てきたという。

フェンタニルの強さを示す例として、話者は致死量が2mgとされる点を挙げる。2mgは耳かきの先にちょんと乗せた程度の量らしい。触れただけで失神したという動画については「嘘か本当かわからない」と留保している。体を折り曲げて動かなくなる「ゾンビ」のような映像も、ショッキングなニュースとして日本で広まった。

日本でさらに注目が集まったきっかけとして話者が挙げるのは、2025年6月の日経新聞のスクープ記事である。見出しは「フェンタニル 日本経由か」だった。話者によれば、この記事はフェンタニルが日本で流行し始めたという内容ではない。原料が中国から名古屋へ送られ、名古屋からアメリカ周辺国の麻薬組織に渡り、最終的にアメリカへ密輸されている可能性を伝えたものだ。日本を経由する理由について話者は次のように解釈する。中国から直接発送するよりも、信用度の高い日本から送るほうが税関で止められたり検査されたりする可能性が低い。そのため一度日本を経由したほうが利益を最大化できる、というわけだ。その後の続報は英語で調べると出てくるが、日本ではニュースにならないとも話す。紙面や放送時間、視聴率の制約があるからだろうという見方だ。

薬物の蔓延は国を弱らせる。武力や政治的な衝突を経ずに間接的に攻撃しているように見えることから、この一連の流れを「現代版アヘン戦争」と呼ぶ人もいる、と話者は紹介する。陰謀論めいた言い方だと断りつつ、この分野は調べるほど陰謀論が「意外と陰謀論じゃない」のが面白いところだと述べている。

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オピオイド危機とは何か

全体像をつかむ前提として、話者はオピオイド危機(オピオイドクライシス)を説明する。オピオイドの過剰摂取による蔓延、依存、オーバードーズでの死亡が引き起こす健康問題と社会問題の総称である。話者によれば約30年続き、アメリカ国内だけで80万人以上が亡くなった根深い問題だ。30年で割ればそれほど多くないかもしれないが、80万人は山梨県や佐賀県の人口に相当すると話者は例える。

オピオイドとは麻薬性鎮痛薬の総称で、フェンタニル、アヘン、モルヒネ、ヘロイン、オキシコドン、メサドン、コデインなど、強いものから弱いものまである。コデインは東横キッズやグリ下界隈の若者がハイになるために使うこともあるが、本来は咳止め薬であり「人間の味方」だと話者は言う。ヘロインは別かもしれないと留保したうえで、オピオイドは医療と日常生活で大いに役立っており、それ自体は悪いものではない。ただし用法・用量を守らないと依存する可能性が高い、というのが話者の整理である。

一般的な薬理作用として話者が挙げるのは、鎮痛、多幸感、咳を鎮めること、呼吸抑制、眠気、嘔吐、便秘などだ。便秘の作用を利用して、激しい下痢の改善にオピオイドを使うこともあると聞いているという。

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「ビッグ立ちうんこ」の正体

ここで話者は闇編の見どころの一つに話を戻す。アレゲニー駅付近で撮影した、直立した巨大な便である。持参した500mlのペットボトルと比べてもかなり高く、太さは「モンスターボールぐらい」あったという。角度のせいで映像では小さく見えるとも補足している。

なぜ便が立っていたのか。話者の答えは「超便秘だったから」だ。普通の柔らかさなら崩れてしまうが、オピオイドの作用で極度に硬くなった便が「スーパーマリオのドッスン」のように落ちてそのまま立ったのではないか、と推測する。話者はこれを自分の推測だと明言している。こうした知識があるかどうかで、便一つでも見え方が変わるというのが話者の主張である。

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アヘン、モルヒネ、ヘロイン、フェンタニル

続いて主なオピオイドが一つずつ紹介される。

アヘンは天然オピオイドで、ケシの実に傷をつけて採った白く濁った乳液を乾燥させたものだ。話者によれば、少なくとも紀元前4000年頃には使われていた記録がある。ルネサンス期には鎮痛剤として使われ、16世紀にヨーロッパ中に広まった。アヘン戦争の「アヘン」でもある。フィラデルフィアに大きく関わる話として、南北戦争でも大量に消費され、その後40万人以上がアヘン中毒になったとも言われていると話者は紹介する。

モルヒネはアヘンから鎮痛・鎮静作用をさらに抽出したもので、話者の言葉では「モルヒネの親がアヘン」である。1800年代初頭に開発され、第二次世界大戦で多用された。日本でも今も医療現場で使われている。話者は戦争映画のモルヒネ注射の場面に二つのパターンがあると指摘する。負傷兵の痛みを取るために打つ場面と、「もう助からない」と判断された兵士に隊長が「モルヒネを打ってやれ」と命じる場面だ。後者は、2発、3発と打つことで呼吸抑制が強まり死に至る、つまり安楽死を意味しているのだと説明する。

ヘロインはモルヒネに化学的な処理を加えた半合成オピオイドである。鎮痛効果や多幸感は大きく上がる一方、身体的・精神的依存性が非常に高い。そのため日本では研究目的以外は一切禁止されていると話者は説明する。現地では「フェンタニルと混ぜるとスーパースターになる」と言われたという。

フェンタニルは完全合成オピオイドで、錠剤のほかに貼付剤(パッチ)もある。飲み込めない患者にも使いやすく、モルヒネより鎮痛効果が高いのに副作用は比較的小さい。そのため医療現場で非常によく使われていると話者は言う。自分の父親も使ったことがあるのではないか、とも話している。一方で日本でも、2023年に処方されたフェンタニルのパッチを交際相手に貼って殺害する事件が起きたと紹介し、良い面と悪い面の両方があると述べる。

エンドルフィンと「誰がどう使うか」

余談として、話者は体内で作られる内在性オピオイドであるエンドルフィンにも触れる。漫画『バキ』シリーズで主人公の範馬刃牙がピンチのたびにエンドルフィンを出していた、というネタを交えながら説明する。あるお医者さんのホームページにモルヒネの6倍の鎮痛効果があるというデータが載っていたが、真偽はわからないと留保している。ランナーズハイやゾーンもこれに類するもので、走っているうちにしんどさが消えて楽しくなる感覚は、まさに鎮痛と多幸感という作用だと話者は説明する。

ここまでを踏まえて、話者は「フェンタニルもオピオイドも何も悪くない。誰がどう使うかが問題だ」とまとめる。例として挙げるのは、料理にも人を刺すことにも使える包丁、ノーベルのダイナマイト、遊ぶことにも殴ることにも使える(とても硬い)ゲームキューブなどだ。

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動画の核心となる問い:ゾンビは「人工ゾンビ」だったのか

話者が今回最も面白いと考える問題はここから始まる。日本人の一般的な感覚では、薬物依存者に対して「お前が悪いんだろう」と考える人が多く、闇編を見てもあまり同情しなかっただろうと話者は見ている。しかし、もし製薬会社や医師、薬局、政府が自分たちの利益のために意図的にオピオイド中毒者を生み出し続けていたとしたらどうか。ゾンビは「人工ゾンビ」だった可能性がある。それでもあのゾンビたちを見て同じように思えるか、と話者は問いかける。

話者は、この動画も闇編・光編も、ゾンビやオピオイド危機そのものが主題ではないと言う。自分の常識や社会の常識にとらわれず、身近に潜む問題を自分で考えるための「啓蒙動画」だという位置づけである。

アメリカの薬物流行年表

前提として、話者は戦後アメリカの薬物流行を簡単な年表にまとめている。戦後から1950年代は覚醒剤や精神安定剤などのダウナー系。60年代はヒッピー文化とともにマリファナ、LSD、ヘロイン、覚醒剤。70年には薬物規制法が制定され、73年には強い捜査・逮捕権限を持つDEA(麻薬取締局)が作られた。話者はDEAを、ドラマ『ブレイキング・バッド』で主人公の義理の弟ハンク・シュレイダーが所属する組織として、また映画『レオン』の敵役の捜査官が所属する組織として紹介している。70年代はコカインとヘロイン、80年代は大麻、90年代はMDMAなどのパーティードラッグ、そして90年代後半から現在までがオピオイドの時代だという。

話者が強調するのは、これらはすべて並行して流行しているという点だ。「コカイン・ヘロインの時代」に覚醒剤が流行っていなかったわけではない。そのうえで、オピオイドブームは90年代後半から始まっているのに、フェンタニルの流行は2013年頃からである。このずれを理解するには、ある製薬会社の存在を知る必要があると話者は続ける。話者はその会社を『バイオハザード』のアンブレラ社に例えている。

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パーデュー・ファーマとオキシコンチン

その製薬会社がパーデュー・ファーマである。話者の説明はこうだ。経営が傾いていた同社は、90年代からオピオイドの一種であるオキシコドンの製剤オキシコンチンを販売した。そして「中毒性が低く安全な鎮痛剤」として、悪いことをしてでも積極的に広報・販売した。遅かれ早かれ始まっていたのかもしれないが、少なくともこれがオピオイドブームを早めた、というのが話者の示す見解である。なお、オキシコンチン自体は今も日本で塩野義製薬から販売されており、用法・用量を守れば良い薬だと話者は繰り返している。

話者が描く構図では、パーデュー・ファーマはがん患者向けだけでは売り上げに限界があると考え、捻挫や骨折、慢性痛といった一般的な症状にも使わせようとした。話者はこれを寸劇風に説明する。捻挫をして医者に行くとオキシコンチンが処方され、最後にはゾンビになる。工場で怪我をした人も、路上で殴られて病院に行った人も同じ経路をたどる。誰でも中毒になった可能性があり、「生まれた時代と国が良かっただけ」かもしれない、というのが話者の言いたいことである。もちろん現実逃避のために使われた面もある、とも付け加えている。

販売のために同社がしたこととして、話者は次の点を挙げる。役人の買収、議員の買収、医師の買収という「ガチガチのフォーメーション」を組み、嘘の広告を流し、「痛みは悪だ」という風潮を作り、若い女性を中心に営業活動をさせた。具体的には次のとおりだ。

  • FDAの承認:アメリカで日本の厚生労働省にあたるFDAから、中毒性がほとんどなく効き目が高いというお墨付きを得るため、担当官のカーティス・ライトを買収した。話者は、実際に買収があったかは具体的にはわかっていないと留保する。そのうえで、ライトがFDAを辞めた後にパーデュー・ファーマに入社し、1年目に破格の報酬(話者は「3700万ドル」と述べている)を受け取った事実はある、と説明する。
  • 議員への資金:都合の悪いことはもみ消す方向に動いた。30年間で100万ドル以上を受け取った議員もいるという。
  • 医師への講演料:著名な医師に高額の講演料を払い、「痛みは悪」という空気を作った。同社の記録には、講演料の額と、その医師がどれだけ処方したかを対応させたものもあると話者は言う。
  • 嘘の広告:医師の名前とお勧めの文言を載せた新聞広告を出したが、そのような医師は実在しなかったという。
  • 営業担当者:若く容姿の良い営業担当者が医師と親密な関係になり、より強い用量の処方を求めたと言われている、と話者は紹介する。
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訴訟と責任のたらい回し

2007年、パーデュー・ファーマは依存性の高さを知りながら販売したとして、被害者や遺族から多数の訴えを起こされた。話者の説明では、その件については「知らなかった」として罪に問われず、落としどころとして別に6億3500万ドル(現在のレートで約950億円)の罰金を払うことで決着した。巨額に見えるが、2006年までにオキシコンチンを90億ドル売り上げており、2007年には約30億ドルの収益があったはずだ(話者は「確かだけど」と曖昧さを残している)。そのため同社にとっては「鼻くそ」程度で、その後も販売を続けたと話者は言う。2020年頃に再び訴えられて今度は完全にアウトになったが、詳細は各自で調べてほしいとしている。また話者は、ジョンソン・エンド・ジョンソンもオキシコドンを大量に販売していたと述べている。

なぜ「知らなかった」で済んだのか。話者は関係者の言い分を並べて説明する。製薬会社は作るだけで、FDAが承認している。卸業者は運ぶだけ。薬局は処方箋に従っているだけ。医師は国が良いと言っている薬を出しているだけ。全員が責任をたらい回しにしている構図である。一方で、アメリカは広いので、中には危険性を訴える医師や薬剤師もいたと話者は付け加えている。

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規制がもたらしたフェンタニルの流入

話者によれば、2012年頃からようやく世論が動き、オピオイド関連の対策が始まった。医師もオピオイドの処方に慎重になった。しかし「中途半端な規制は良いことばかりではない」と話者は言う。オキシコンチンが手に入りにくくなって価格が高騰し、処方箋で中毒になっていた人たちはケンジントンのようなブラックマーケットに行くしかなくなった。さらに供給全体が減る中で、より悪い薬に手を出すようになり、「フェンタニルがいいらしい」という流れになったという。

フェンタニルは化学的に完全合成できるため、供給が安定し、比較的安く作れて、効果も強い。話者が示したDEAのデータでは、フェンタニルの押収件数は2013年の934件から2015年には「1万451件」に増え、2022年まで右肩上がりだった。薬物の過剰摂取による死者は危機の初期には少なかったが、2022年頃には10万7941人に達し、その約70%がフェンタニル関連だという。「関連」とされるのは、フェンタニル単体ではなく、ヘロインやコカインなどと混ぜて使うことが多いからだと話者は説明する。

以上から、国、政治家、製薬会社、医師、薬局がオピオイド危機と、動画に映ったゾンビたちを作り上げたという見方もできるかもしれない。それが闇編の面白さだと話者は述べる。

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売人と中毒者のサイクル

ここからは現地で見たものと中毒者の声の話になる。話者は、YouTubeの倫理上言える範囲で、と断っている。また、ドキュメンタリーで得た情報と自分が見たものが混ざっているとも明言している。

話者の観察では、ケンジントンには売人ごとのエリアやテリトリーがある。このブロックは覚醒剤、ここはフェンタニル関連、ここはヘロイン、ここはフェンタニルとヘロインの組み合わせ、といった具合だ。売る側はリピーターがほしいので、なるべく良いものを作ろうとし、強さや種類、配合を変えて「実験」する。ただし素人がやるので適当で、致死量2mgのものが3mg、4mg入っていれば客は死ぬ。逆に薄いものもある。

普通の感覚なら、死者が出た売人には近寄らない。しかし話者によれば、ジャンキーの間では逆に「星」がつき、その売人の売り上げが上がるらしい。とはいえ死なれれば客が減るので、売る側も困る。そのため、ちょうどいい塩梅を常に探っているように見えた、と話者は言う。

中毒者側のサイクルについて、話者は次のように説明する。痛みやつらい出来事、現実逃避などの理由でフェンタニルを使う。繰り返すうちに耐性がつき、より強いもの、より濃いものが必要になり、混ぜることもある。話者はこれを「フェンタニル無限列車編」と呼び、行き着く先は死しかないと述べる。

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中毒者の声と、ケンジントンの絶望感

現地で聞いた声として話者が紹介するのは、次のようなものだ。「半分死を待っている状況で、ゆっくり死にたい」。「死ぬくらいのものじゃないと満足しない、もう死んでもいい」。こう語る人が思ったより多かったという。知り合いのジャーナリストも、世界各地の同様の地区でみんなこう言うので、正直あまり面白くないと話していたそうだ。「何もかもどうでもいい、とにかくハイになりたい、忘れたい」という人も多かった。ドキュメンタリーでよく見る「家族のために更生したい」という声は、話者が会った中では少なかった印象だという。話者は「俺が悪いのかな」と付け加えている。

話者は、ケンジントンのディストピア的な世界観はここから生まれていると考える。全員が少し諦めていて、絶望、無力感、虚無感がにじみ出ているのだという。闇編のコメント欄には「ダウナー系ばかりだから安全だ」という意見もあったが、話者はこれをはっきり否定する。アレゲニー駅の目の前でレイプ事件も起きていると警察のホームページなどを根拠に挙げ、依存者そのものが特別怖いわけではないが、薬のためなら何でもする人が一定数いるから危険なのだと説明する。

「痛みから解放されたい」という声も多かった。動画には映っていないが、片足や片腕のない人がいて、車椅子の人がやたら多かったのはそういう人たちだという。足を失った理由は本人たちに聞いていない。そこまで来た人はあまり会話ができない状態だからだ。事故かどうかはわからず、汚染された注射器による膿で切断するしかなくなった人もいるかもしれない、と話者は推測にとどめている。

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中毒者・死者は減っている:その理由

ただし、中毒者は減少している。ケンジントンでもかなり減ったと話者は聞いている。「死にたい」と言う人も割合としては少数だろうと話者は見ている。死者数のピークはコロナ禍の2020〜23年頃だ。話者によれば、22〜23年のオーバードーズ死者は約10万人だったが、24年は約8万人に減り、25年はまだ集計中ながら5〜6万人程度になっているのではないかと言われている。一方で、ケンジントンの治安自体は相変わらず悪いと警察関係者から聞いたという。

減少の理由として、話者は次の点を挙げる。

  1. ちょうどいい塩梅がわかってきた:売る側も使う側も、死なないぎりぎりの量や、混ぜてはいけない組み合わせがわかってきたのかもしれない。話者は「分かってきたのか分かってきてないのか」と推測であることを示している。
  2. ナロキソンの普及:オピオイドによる呼吸抑制を解く解毒剤のようなもので、話者によれば2021年9月から2022年9月の1年間で56万1392件使われ、多くの命を救っている。依存者の多い地域で配布されたり、警察官や消防士、救急隊員が携帯するようになったりしているという。
  3. コロナの収束:薬物依存は社会不安や戦争、孤独感から始まる人が多いため、コロナの収束で中毒者がかなり減ったとも言われている。
  4. トランプ政権の圧力:圧力によってフェンタニルの押収量が減っており、それは製造量自体が減っていることを意味すると話者は述べる。
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なぜケンジントンに集まるのか

ケンジントンに依存者が集まる理由として、話者は立地と歴史を挙げる。すぐ近くを高速道路が通っていて郊外と都市部を結ぶ最高の立地であり、市中心部から歩いて1時間半ほどで来られる。話者いわく「無料の電車」もあり、ほとんど誰も運賃を払っていないという。さらに「アメリカのヘロインの首都」と言われるボルチモアまで車で2時間ほど、ニューヨークまで2〜3時間ほどで行ける。

歴史面では、ケンジントンはもともと工場地帯で、フェンタニルが流行る前から治安が悪かった。光編でも触れたとおり、映画の主人公ロッキーが住んでいた設定の地域であり、シリーズの作中には「あそこの空気を知っている、戻りたくない」という趣旨の台詞もあると話者は紹介する。1950年代頃からK&Aギャングが勢力を広げ、闇金、賭博、恐喝、薬物、殺人と治安が大きく悪化した。K&Aの「K」はケンジントン、「A」は例の便があったアレゲニーのAだという。

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日本は他人事か:「アメリカ人が薬物を好きすぎる」

最後の論点について、話者は「他人事であってほしい」と希望的観測を交えて結論を述べる。前置きとして、フィラデルフィア編の制作に2〜3か月かけ、アンダーグラウンドな場所にも行って話を聞き、文献も読んだこと、今回出したのは世に出してよい範囲の情報だけで、制約の中で話していることを理解してほしいと断っている。

日本が比較的安全だと考える根拠として、話者は日本人とダウナー系薬物の相性が悪いことを挙げる。経済や社会情勢が悪化すれば乱用は増える傾向にあり、地下では多少流行るかもしれない。それでも日本人は根っこが非常に慎重で、フェンタニルもモルヒネもヘロインも、よく知らないまま「怖いものはダメ」と拒絶する人が多いと話者は見ている。闇編には2000件以上のコメントがついたが、本当に理解している人がどれだけいるのかと感じたという。それでも薬に関しては、何も知らずに拒絶する態度でいいと話者は考えている。

そのうえで話者が「メディアも他のYouTuberも言わない」と指摘するのが、ゾンビ大量発生の根底にある問題である。国、政治家、製薬会社、放置してきた市民の問題はある。それでも最終的に戻るべき点は、外国人、特にアメリカ人がそもそも薬物を好きすぎることだと話者は言う。隣国がどうこう、陰謀論がどうこうという前に、貧困、環境、人種問題、戦争といった事情を飛び越えて、薬物に興味がある人、好きな人、昔やっていた人が多すぎるのが問題だという主張だ。根拠として話者が挙げるのは旅先での体験である。最近は会わなくなったが、外国人と話していると「昔はコカインが大好きだった」「みんなやってる」「今はマリファナだけ」という人が多かったという。ただし「多いと言っても何パーセントかという話だが」とも付け加えている。

話者は、メディアや社会派ぶるYouTuberが最後に「社会構造を変えなければ」とまとめるのは、そう言っておけばわかった風に見えるからだと批判する。そもそも手を出さなければいい、好きでやっている人が多すぎる、というのが話者の立場である。自分が正しいとは思っておらず、好きで調べているだけだとも断っている。

この話の延長で、話者は冗談めかしてアメリカ人の冒険心をコロンブスに重ね、光GENJIの「パラダイス銀河」の歌詞「シャカリキ コロンブス」が作詞作曲ASKAだったと「発見」するネタを披露する。薬物問題をめぐるヒントは色々なところに散りばめられている、というオチである。

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結論と、話者自身の振り返り

まとめとして話者は次のように述べる。世界の薬物問題は複雑で、戦争、貧困、環境など様々な要因がある。それでも最後に手を出すのはほとんどの場合自分自身だ。金儲けのために売りたい人や使いたい人の気持ちも理解はできるとしつつ、それ以上は「絶対に言ってはいけないこと」なのでやめておく、と話を打ち切っている。

さらに話者は、薬物問題に限らず、物事を通して自分がどう考えるか、自分の常識や社会の常識を疑うきっかけになったのではないかと問いかける。何をどう使うかで意味合いは変わること、そして知識一つで物事の見方が変わることが一番楽しいところだという。この動画は現代社会の授業で流すべきだと思う一方、「流すような世の中だったらダメ」とも付け加えている。視聴者には、見方が変わったはずなので闇編・光編をもう一度見てほしいと呼びかける。

終盤の余談で、話者は自身のADHDについても語る。スライド自体は1日で作れる内容だったが、2月25日に撮ろうと決めてから実際に動き出すまで10日ほどかかったという。旅系YouTube界隈にADHDを売りにする「ビジネスADHD」が多いことへの不満も述べる。自分は5年ほど活動して動画はまだ50本余りしかないこと、2026年のWBCに向けて2025年4月から8月まで毎日メジャーリーグと日本のプロ野球を見続けたのに、野球の動画はまだ1本も出せていないことを挙げ、本物のADHDとはこういうものだと話して動画を締めくくっている。