排水処理場を炭素除去の拠点にするCREW Carbon:現場のコスト削減から入る気候テック

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概要

FoundXの2人がAIで整理した情報をもとに海外スタートアップを分析する「FoundX Review Startup IdeaCast」。今回はイェール大学発のCREW Carbonを取り上げた。同社は既存の排水処理施設に石灰石などのアルカリ性鉱物を投入し、処理効率を改善しながらCO2を重炭酸イオンとして水中に固定する。解説役の話者は選んだ理由として、CO2の固定・回収だけでなく、インフラの老朽化や排水処理に使う薬品のコストといった水処理業界の課題も同時に解決する点を挙げた。

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番組の冒頭では、AIで整理した情報のため一部が古かったり誤っていたりする可能性があり、事実を重視する場合は各自で確認してほしいという断りが入っている。以下の数字や事例も、番組内で紹介された内容である。

2つの市場課題を同時に扱う

解説役によると、気候変動の側では、2050年までに年間10ギガトンのCO2除去が必要だと言われている一方、それに見合う高品質な除去クレジットが足りていない。水処理の側では、排水処理インフラの処理コストが過去20年で倍増し、老朽化も進んでいるという。

CREW Carbonは新しいプラントを建てるのではなく、既存インフラにモジュールとして入り込むことで、排水処理施設をギガトン規模の炭素除去ハブに変えようとしている。聞き手が処理コスト倍増の理由を老朽化以外にもあるのかと尋ねると、解説役は環境規制、具体的には窒素やリンの除去基準が厳しくなり、それに対応するために大量の薬品や電力が必要になっていることを挙げた。

顧客が抱える3つの課題

番組では、米国・欧州の自治体の排水処理施設と産業排水施設が抱える課題を3点に整理した。

1点目は規制である。放流された水の富栄養化を防ぐために排出規制が年々厳しくなり、窒素やリンなどの栄養塩を除去する義務が課されて、その分だけ薬品の投入が増えている。2点目はコストと危険性だ。処理を安定させるために苛性ソーダなどの強アルカリ性の薬品を使うが、高価なうえに作業者にとっても危険だという。3点目はインフラの老朽化で、処理能力を上げるために三次処理設備などを導入しようとすると数億ドル規模の設備投資が必要になる。

既存の手段である化学処理は高コストで排出も伴い、追加設備の投資も大きいため、自治体にとっては実行が難しくなっている、というのが解説役の整理である。

ターゲットについて聞き手が尋ねると、産業排水では食品加工、飲料、ビールなどの酒類、製紙といった有機物を多く含む排水を出す業種が挙げられた。自治体施設については、米国環境保護庁のデータで公共の排水処理施設が1万7000以上あるという。規模の内訳は資料からは分からなかったと解説役は断っている。

解決策:センサーで管理する石灰石の「スマート投入」

CREW Carbonの解決策は、石灰石などのアルカリ性鉱物の「スマート投入」である。解説役はこれを、洗剤を自動投入する洗濯機のようなものだとたとえた。単に石灰石を入れるだけではなく、特許取得済みのセンサーで流入水をリアルタイムに監視し、生物処理を最適化するデータ制御を行っている点が優位性だという。また、ただ石灰石を入れるだけではうまくいかず、粒子の大きさなども調整された、普通の石灰石とは異なるものらしい。

顧客側のメリットとして、危険な薬品を安定した安全な鉱物に置き換えられるため、薬品コストを最大85%削減できるとされる。水中の微生物の働きも良くなり、汚泥が沈む沈降性も改善するという。

最大のアピール材料として紹介されたのが、米国のハンプトン・ローズの水道事業体での事例だ。CREW Carbonのサービス導入で処理効率が上がり、その結果、3.5億ドル(約500億円)規模の設備投資の延期が検討されたという。聞き手が何を延期したのかを尋ねると、解説役は、以前はキャパシティ不足を補うために新しいタンクや処理設備が必要だと言われていたが、既存設備のままで処理効率が上がったため、増設を見送れる可能性が出てきたと説明した。聞き手が「いいことだらけ」と驚いたのに対し、解説役は「どれぐらい本当なんだろう」という思いもあると率直に述べている。

なぜ石灰石でCO2が除去されるのか

仕組みについて解説役は、化学をちゃんと勉強しておけばよかったと前置きしつつ次のように説明した。排水中の有機物を微生物が分解する際にCO2(炭酸)が生じる。石灰石、つまり炭酸カルシウムが水中でカルシウムと炭酸イオンに分かれて反応し、重炭酸イオンという安定した別の物質に変わる。これが水に溶けたまま海に流れるため、大気中に戻らず、除去されたことになるという。

市場規模と成長ドライバー

広い市場としては、耐久性のあるCDR(二酸化炭素除去)クレジット市場と水処理最適化市場が想定されている。番組ではCDRクレジット市場が2035年に31億ドル以上と試算されていると紹介された。排水処理施設は世界に11万カ所以上あり、そこに展開できる可能性があるという。初期の対象は米国・欧州の自治体や産業排水処理施設で、CREW Carbonのアプローチでは潜在的に年間5億トンのCO2除去が可能だと言われているそうだ。

成長ドライバーは2つ挙げられた。1つは、企業のネットゼロ目標達成に向けて、高品質で測定可能な炭素除去クレジットの需要が増えていること。もう1つは、厳格化する水質規制と自治体のインフラ更新予算の枯渇によって、設備投資の小さいソリューションに向かう力が働いていることだ。短期的な参入先は、環境規制が厳しく、CDRクレジットの認証・販売インフラも整っている米国と欧州の中〜大規模排水処理施設だという。

二面市場のビジネスモデルとユニットエコノミクス

ビジネスモデルは、排水処理施設とCDRクレジットを買う企業の間に立つ二面市場である。収益源は、排水処理施設からのサービス料またはコスト削減分のシェアと、Frontierなど法人バイヤーとのCDRクレジットのオフテイク契約の2つだ。

Frontierとの契約では、約7.2万トンを3210万ドルで納入する予定で、1トンあたり約450ドルになる。長期的にはこれを100ドル未満に下げることを目指しているという。ゼロから何百億円もかけて自社プラントを建てるのではなく既存インフラに乗るため費用が低く、利益率の高い構造になっていると解説役は説明した。

聞き手が、クレジットの収益は自治体側にも還元されるのかと尋ねると、解説役は配分方法は非公開で分からないと答えた。ただ、公共インフラから生じた収益なので、自治体への還元や施設の運営費への充当といった形はありうるかもしれない、との見方を示している。

既存インフラを使うメリットとしては、土地の取得、プラントの建設や設備の費用、CO2輸送用パイプラインの敷設が不要になること、新たな環境アセスメントや許認可が不要か最小限で済むことが挙げられ、その分展開スピードが速くなるという。

閉鎖系だから測定できる:競争優位としてのMRV

解説役が「CDRでも確かに面白い」と感じたと語ったのが、測定の戦略である。岩石の風化作用を利用するCDRには、海や河川に鉱物を直接まく手法や農地にまく手法など、開放系を対象にするものがある。これらはポテンシャルは大きいが、本当にCO2が吸収されたのか、どれだけ吸収されたのかの計測が非常に難しいという。

これに対しCREW Carbonは、排水処理という閉じた環境の中で反応させるため、入口と出口にセンサーを置いて差分を計測できる。クレジット市場では、どれだけ取れたか・本当に取れたかを証明できない炭素除去は価値を持ちにくいため、測定の精度の高さがクレジットの質と価格を担保すると解説役は説明した。センサーでは入口と出口のpH、アルカリ度、溶存無機炭素の量などを測り、どれだけのCO2が重炭酸に変換されたかを定量化しているという。解説役はこのあたりが同社の技術の核になっているのだろうと推測している。

聞き手は、海に流れた後にCO2が再放出されることはないのかと質問した。解説役は、一般に重炭酸は安定しているとされるが、CO2に戻る可能性はあると認めたうえで、認証プロトコルでは下流での損失分をかなり保守的に計算し、それを差し引いて除去量を算定するルールになっていると説明した。

創業2年で商業運用へ:ロードマップとFrontier

CREW Carbonの創業は2022年である。ハードウェアを使う気候テックは商業化に10年以上かかるケースもある中、創業から2年で商業運用を始めた点を解説役は「かなり早い」と評価した。

フェーズ1(2022〜2024年)ではイェール大学で研究の実証を行い、Frontierからプレパーチェスを獲得しつつ、技術と測定手法を確立した。現在のフェーズ2では10施設に展開し、Frontierとは長期のオフテイク契約も結んでいる。今後は調達したシリーズAの資金を使って分析プラットフォームを拡大し、米国・欧州で導入施設を増やす計画だという。

転機として解説役が強調したのは、フェーズ1の時点でFrontierのプレパーチェスを得たことだ。これにより将来のキャッシュフローが担保され、資金調達がしやすくなったという。プレパーチェスとは、クレジット分の除去が実際に達成される前の段階で、技術が成功したらこの価格で買うと事前に契約する仕組みで、買い手がいることが信用となって銀行やVCからの調達が容易になると解説役は補足した。さらに、第三者認証機関から排水アルカリ度強化によるクレジットの認証を得ており、自らルール作りに入り込んでいることも強みだと評価している。

競合との違いと、水処理大手の参入可能性

差別化要素として番組が挙げたのは、既存インフラ活用による低い設備投資、閉鎖系での高精度な測定、顧客の直接的なコスト削減、安全で安価な石灰石による材料コストの低さ、そして第三者認証の取得である。開放系のCDRには測定の課題が残り、一方で排水処理系の企業はクレジットの出口を持たず測定も難しいため、どちらとも正面からは競合しにくい市場になっているのではないか、というのが解説役の見方だ。

聞き手は、エコラボやヴェオリアのような水処理大手が参入してきそうだと指摘した。解説役は、やっていること自体はかなりシンプルなのでその可能性は十分あると認めた。ただし既存大手にとってはアルカリ薬品の利益率が高く、その使用量を減らして石灰石に置き換えることにはイノベーションのジレンマやカニバリゼーションによる抵抗があるのではないかと述べた。

特許については、独自のセンサーとモニタリングシステムで取得済みだという。ただし解説役は、最大の参入障壁はいち早く第三者認証のプロトコルに適合し、複数施設での運転データを持っていることではないかと考えている。

保守的な公共インフラへの入り方

自治体の下水処理場は意思決定が遅く、新技術の導入にも保守的だったという。そこでCREW Carbonは、気候変動対策のために導入してほしいとは言わず、薬品コストが下がり、規制もクリアでき、設備も延命できるという現場のメリットを前面に出した。大規模システムの新設ではなく既存プロセスへの後付けである点も訴え、短期間でコスト削減を実証して本格導入につなげた。そのうえで、生み出したCDRクレジットを自社の収益にするという順序だったと解説役は説明する。

聞き手が設置費用の請求方法を尋ねると、解説役は契約形態は調べても分からなかったとしたうえで、オフテイク契約で得る将来収益を原資に、初期導入費用などのマイナス面をCREW Carbon側が負担したり小さくしたりしているのではないかと推測した。現場の作業員の負担については、石灰石をハンドリングするといった運用の変更はあるものの、苛性ソーダなど危険な強アルカリ薬品の取り扱いが減るため、安全性は改善すると同社は主張しているという。

地球科学の研究室から排水処理へ

創業者は地球科学系の研究者で、イェール大学の地球科学の権威であるノア・プラナフスキー教授と、その教え子にあたる博士が創業した。2人はもともと排水処理の専門家ではなく、岩石がCO2を吸収する自然界の風化作用を研究していた。それを人工的な処理という高度に制御された環境に適用すれば、自然の風化よりはるかに短い数時間から数日に加速できると気づいたことが、現在のアイデアにつながったという。

聞き手は、大学発のスピンアウトはビジネスがなかなか立ち上がらないことも多い中で短期間で実現している点に驚いた。解説役は、何らかのプログラムを使ったのかもしれないと推測しつつ、科学者だけでなく水処理のプロセスエンジニアや商業開発を担うビジネス側のメンバーを早期にチームへ引き入れていたと紹介し、顧客と技術をつなぐ取り組みがかなり早い段階から行われていたのではないかと述べた。2人とも、専門外の分野からここまで短期間で進んだ理由は気になるポイントだとしている。

自然の風化との違いについて解説役は、原理は同じで、大きな違いは時間だと説明した。空気中のようにCO2が薄い環境では何千年もかかるが、CO2濃度の高い排水タンク内で、最適な大きさの粒子を投入すると、数日から数時間の単位にまで速くなるという。

初期実証と資金調達の実績

当初の仮説は、排水処理の微生物の働きを阻害せずにCO2を固定できるかというものだった。閉鎖系の実施設でセンサーとミネラル投入を試したところ、水質を損なわず、処理効率も上がり、CO2も重炭酸として固定できることが実証されたという。解説役は「本当にどこまで本当かなと思う」と留保しつつ、微生物の働きが上がり処理効率も上がってCO2も固定できる一石二鳥が示されたことで、比較的早くスケールできたと説明した。ハンプトン・ローズでも、水道事業体の発表として、窒素やリンなどの栄養塩の指標が改善したことや、浮遊物の沈降が速くなり処理しやすくなったことが公表されているという。

資金面では、2026年5月に2500万ドルのシリーズAを調達した。うち600万ドルは助成金などだったという。リードしたのは水インフラ特化のVCであるバーント・アイランド・ベンチャーズで、出光興産やソニーなどの日系企業も参加している。オフテイク契約はすでに3300万ドルを超え、米国・欧州の10施設で2000トン超のCO2を捕捉し、104トン分の検証済みクレジットを発行済みだという。

聞き手が104トンは小さく聞こえると指摘すると、解説役もそう思うと認めたうえで、新しい手法として世界で初めて第三者認証のクレジットを発行したことがまず重要で、ここから拡大していく段階だと述べた。

出光興産の出資について解説役は、同社がカーボンニュートラル戦略を全社的に進めていることに加え、石灰石が日本では珍しく100%自給可能な資源であることから、将来の日本・アジア展開も見据えて投資したのではないか、と推測している。

日本で同様のアイデアで起業するなら

番組ではAIにも日本での可能性を考えさせた。日本の下水処理施設は全国に約2200あり、その90%が耐用年数(15年)を超えているという。解説役は15年は短いようにも思うと感想を添えている。人口減少のため更新予算もつきにくい。

案Aは自治体特化型で、財政難の自治体にコスト削減と設備延命を提案する。案Bは民間工場特化型で、食品・飲料・製紙など有機排水の多い工場を狙う。民間企業ならスコープ1の排出削減やESG対応として、自治体より速く意思決定できる可能性があるという。石灰石の自給率が100%なので、国内のサプライチェーンと組めばエコシステムを作りやすいかもしれない。一方で、排水での風化を用いる手法の認証については、自らルール作りに関わるか、グローバルな認証を使う必要があると指摘された。

CREW Carbon自身が日本に上陸する可能性については、2人とも「ありそう」とした。ただ、米国の処理場は規模が大きいのに対し、日本の処理場は小さく設計も異なるため、日本の施設に合わせた小型モジュールやIoT制御に特化したプロダクトには余地があるかもしれない。もっともCREW Carbonが小型化してくる可能性もあり、どちらが早いかの勝負になるだろうと解説役は述べた。

まとめ:現場のペインに環境価値を上乗せする

解説役は学びを3点にまとめた。1点目は、気候テックは地球を救う・環境に良いというだけでなく、薬品代が高い、設備が古いといった現場の実際のペインを取り除くことで、ようやく導入されるということ。2点目は、何百億円もかけてプラントを建てるのではなく、既存インフラに後付けで入り込むことでスケールしやすくなること。3点目は、炭素クレジットは計測・検証できなければ価値を失うため、閉鎖系を選んで測定可能性を高めたことが商品価値を生んでいるという、質が価格を決めるという点である。そのうえで、身近なレガシー産業のコスト構造から実際に困っている部分を見つけ、そこに環境価値をどう上乗せできるかを考えることがアイデアのヒントになるかもしれないと提案した。

最後に聞き手は、発見から実装までのスピードがすごいと感想を述べ、そこで何があったのか個人的に調べてみたいと語った。また、リン回収などの分野にもヒントがありそうだと付け加えた。解説役も、現場や業界の解像度を上げていけば、こうしたアプローチを思いつくきっかけになるかもしれないと応じて番組を締めくくった。