元ゴールドマン・サックスのトレーダー、作家・田内学の1日 ランニングから石破前首相への献本、浜学園訪問まで

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概要

灘高から東京大学に進み、ゴールドマン・サックスで16年間トレーダーを務めた田内学は、いま「社会的金融教育家」あるいは「作家」を名乗って活動している。肩書きの「社会的金融教育家」は、以前このチャンネルに出演した宮台真司がつけたものだという。本人は「何もしてないですけどね」と冗談めかすが、トマホークチャンネルが1日密着すると、朝のランニングから出版社での打ち合わせ、石破茂前首相への献本、原稿チェック、塾関係者への挨拶まで予定が詰まっていた。移動の合間に田内が語ったのは、お金を増やすことより仲間を増やすことが大事だという、新著『お金の不安という幻想』の考え方と、それを自分の働き方にどう反映させているかである。

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朝のランニング:努力が結果に結びつく場所を持つ

1日は皇居周辺のランニングから始まった。田内は最近、血中コレステロールが高いと言われ、週1回は走るようにしている。きっかけは、近くのラジオ局に出演した際に皇居がよく見え、昔はここを走っていたのに今はまったく走っていないと気づいたことだった。若い頃は体力をつけたい時に走ればよいと思っていたが、年齢を重ねて体力のピークを越えると、普段から走っていないと走れなくなると感じているという。

ゴールドマン・サックス時代の方がむしろよく走っていた。皇居は1周約5kmで、週4日ほど毎晩15kmを走っていた時期もある。全盛期は1周5kmを19分、1kmあたり4分を切るペースで、それは36〜37歳頃、今から10年ほど前のことだという。長距離を走るとき、ワイヤー入りのスパッツを履かないと膝が痛くなることがあるとも話していた。

走り始めた経緯も語られた。当時の田内は体重が70kg近くあり、社内で皆でマラソンに出ようという話になったとき、同僚から「そもそも完走できるのか」と言われ、完走できるかどうかを賭ける流れになった。これに火がつき、最初の月は歩きを交えて10kmがやっとだったが、1か月後には10kmを続けて走れるようになった。3か月で10kg落として賭けには勝ち、その後も走り続けて52kgほどまで痩せたという。現在は63kgほどだと話している。

田内がランニングの意義として強調したのは、精神的な安定である。トレーディングの仕事は、どれだけ頑張っても最後の取引で失敗したり、市場が思わぬ方向に動いて大きな損を出したりして、努力が結果に結びつくとは限らない。そうなると自己肯定感を保つのが難しい。一方、筋トレやランニングは、タイムが上がる、体に変化が出るという形で努力が成果として見える。どこまでが自分でコントロールできる部分で、どこからができない部分かを分けたうえで、コントロールできる部分はきちんと制御できていると認識できることが良いのだと田内は説明した。聞き手も、筋トレをしている理由はまさにそれだと応じた。

出版社での打ち合わせ:「働くこと」を問う次の本

シャワーを浴びた後、一行は朝日新聞出版へ向かった。田内は同社から新著を出しており、この日は次の本の打ち合わせである。田内によると、1年の半分ほどは本を書いており、新著が出たばかりの今は執筆がいったん区切りになっているという。

編集者が持ち込んだ企画は「働くことの本質は何か」を問う本だ。編集者自身は、働くことはつらいものだと感じてきたが、田内と仕事をするうちにどうもそうではないらしいと気づいたという。つらさの理由として編集者が挙げたのは、結果の部分をコントロールできないことと、出版業界の構造だった。本が売れる部数が減るなか、出版社は本をたくさん出して市場に出すことでお金を回し、給料をまかなう仕組みになっている。そのため数を出すことを求められ、皆が疲弊している。編集者はこれをあまり健全ではないと見ている。

編集者が衝撃を受けたのは、田内がゴールドマン・サックスを辞めた後に「お金はいらないから楽しい仕事をやらせてくれ」と言ったことだった。田内の中に、自分の仕事が楽しくなるヒントがあるのではないかと考え、それを言語化する本にしたいという。

田内は、ゴールドマン時代にはお金を稼ぐためだと割り切っていた部分があったと認める。新著で書いた、人的資本・社会資本・金融資本という区分を引き、金融資本を増やすのはそれで良いが、社会資本もきちんと増やさないと、自分の居場所という面でもしんどいと述べた。無償で仕事をしたいと言ったのは、面白い仕事にありつけ、新しい能力が開発されたり人脈ができたりするだけでなく、その仕事自体を楽しめるからだという。相手からすれば、田内に「やりたい」と思わせる仕事を用意するしかなくなる。田内は、楽しみながら働ける選択肢が増えるといいと話していた。また、聞き手のように「いけると思った動画が伸びないとへこむ」人には、筋トレのように拠り所を複数つくるのがよいという話もしたと付け加えた。

トレーダー時代に感じた「意味のわからない仕事」

聞き手が、ゴールドマンに無駄な仕事や無駄な競争はあったかと尋ねると、田内はトレーダーと営業の関係を例に挙げた。トレーディングは会社の「お財布」を管理する仕事であり、営業が持ってきたビジネスをトレーダーが収益化する。しかし、100円で買って200円で売って100円儲けた場合、その利益が安く仕入れたことによるのか高く売ったことによるのかは切り分けにくい。そのため営業の評価は、どれだけ取引を持ってきたかという量で数えられる部分がある。

すると営業にとっては、とにかく取引を成立させることが目標になる。顧客が大量の取引を望んでいても、提示する値段がトレーダーから見て高すぎれば、トレーダーは買いたくない。だが営業は他社に取られたくないので、何でもいいから取引を取ろうとする。ここで衝突が起きる。100億円で買うか110億円で買うかで10億円の差が出るが、田内はそれを、その10億円がゴールドマンに落ちるか相手に落ちるかの話をしているだけで、この仕事にどんな意味があるのかと思ったこともあったと振り返った。そういうことがたくさんあったという。

新著『お金の不安という幻想』:ドラクエの世界ではまずお金を貯めない

新著について田内は、もともと出版社から投資の本を書いてほしいと頼まれていたと明かした。しかしゴールドマンで働いてきたからこそ、若いうちほど投資より別のことをしたほうがよいと考えており、「投資しなくていい」という本なら書くと答えたという。

本の冒頭ではロールプレイングゲームを例にしている。ドラゴンクエストやハリー・ポッターの世界で敵を倒すとき、「お金がないからまずい」とは考えない。自分の能力を高める、仲間を集める、敵の正体を探るなど、やることはたくさんある。それなのに今の社会では、よくわからないままお金を増やさなければと思い込んでいる、というところから本が始まる。

田内が最も強調したのは、お金を増やすことだけを考えると協力者が現れないという点である。本を書くと、読んだ人が「この人の考えはいい、こういう方向に社会が進むといい」と協力してくれる。実際にチームみらいの関係者から対談の話が来たり、アイドルの村上君がラジオに呼んでくれて本を絶賛してくれたりした。もし田内がお金儲け目的だったら、村上君が「田内さんの印税を稼ぐために宣伝します」とはならない。お金はたぶん必要だが、皆が喜ぶことを考えた方が味方は増える、と田内は言う。自分もゴールドマン時代にそうだったように、いかに稼ぐかばかり考えていると味方を増やすことを忘れ、自分の能力をいかに高めるかという話ばかりになってしまい、それはしんどいと感じているという。

立ち読みで離脱させない本の作り方

本は文章を書くだけでは足りず、表紙やキャラクターも考える必要があると田内は話す。以前このチャンネルに出た編集者の佐島さんからは、立ち読みした人をいかに離脱させないかが大事だと言われ、担当編集者からは最初のハードルを下げろと言われた。

そこで新著の冒頭は文字を少なくし、漫画でよく使われる手法を取り入れた。ページの途中で話を区切り、疑問文で終わらせて、次のページをめくりたくなるようにしている。田内は漫画の勉強もしており、お金や経済の話は難しいが、漫画の表現を使えば読みやすくなると考えたという。

クイズも有効だとして、灘中の入試問題にちなんだ問題を本に入れている。問題自体は、ジュースを安く買ったらどれだけ得をしたか、という簡単なものだ。田内が伝えたいのは、人は値段にだまされていないか、本当はそれをおいしいと感じるかどうかが大事ではないか、という点である。こうした内容を文章で説明するのは読む側にとって面倒だが、クイズで問えば分かりやすいと話していた。

石破茂前首相への献本

昼には衆議院第二議員会館を訪れた。田内の1冊目の本をよく読み、ブログに感想を載せてくれた議員が、その後総理大臣になった石破茂だった。新しい本を渡したいと伝えたところ、ぜひ来てほしいと言われたという。

道中、田内は石破について、68歳であれだけのやる気を持ち続けるのは大変なことだと語った。40〜50代の頃から活躍し、弁論も非常にうまく、当時はもっと人気があったので、その頃に総理になっていれば良かったのだが、60〜70歳近くにならないとそういう地位には上がれない、と話している。自分が68歳になった時を考えるとすごいと思う、とも述べた。会館内では撮影を控える場面もあった。前首相には引き続きSPがつき、総理経験者を担当する専門のユニットがあるという会話も交わされた。

面会で石破は田内を覚えており、1冊目について「面白かった」と話した。田内は、新著が予約開始時に小説『国宝』を抜いてAmazon1位になり、発売1か月で4万数千部、ほぼ5万部に達したと報告した。石破が「読むと賢くなる」「金が儲かる」と冗談めかすと、田内は、皆がお金の不安を感じているが、それよりも若い世代を応援しなければと思える本だと説明した。お金を貯めても、それを受け取る若い人たちが活躍しなければモノやサービスは生まれない。今は若い人までもが老後の不安から早く資産運用しなければと思っているが、そうではなく、投資マネーが若い人に流れ、若い人は投資される側として新しい挑戦や研究、事業、効率化に取り組んでもらうべきだ、と田内は述べた。

面会後、聞き手は緊張したものの、友達と話しているような雰囲気だったと感想を語った。考え込む時の目が一瞬怖かったという聞き手に、田内も同意しつつ「いい人なんですよ」と話した。

カフェでの原稿チェック:元ゴールドマンという肩書きの受け取られ方

次の予定までの空き時間には、カフェでメール返信や原稿の確認をした。田内は雑誌『AERA』で連載しており、送った原稿の仕上がりについて細かい修正の確認が来る。この連載はYahoo!ニュースにも転載されるので、おかしなことや差別的なことを書くと炎上しかねないと気をつけている。

田内が特に意識しているのは、自分の立場がどう受け取られるかである。「元ゴールドマン」という肩書きは、前向きに受け取れば「ちゃんとした人が話している」となるが、「調子に乗っている」「上から目線だ」と取られることもある。お金の話であればなおさら、「お前は金があるから」と受け止める人もいるかもしれない。トマホークチャンネルを見た人なら、幼い頃とても貧しかったことを知っているが、そうでない人からすればエリートで鼻につくと誤解される可能性がある。だから、自分の立場からではなく一般論としてこうなのだと伝えるよう、表現を修正することが多いという。

金融の経験は作家活動にどう生きているか

聞き手が、ゴールドマンの経験は今の活動に生きているのかと尋ねると、田内は二つの面を挙げた。一つは説得力である。金融を知らない人がお金の話をすると、ふわっとした精神論だと思われかねない。経済を分かったうえで言っていることは説得力を増す。もう一つは投資の実態を知っていることだ。投資はギャンブルだと言う人がいても、田内はその世界にいたので、投資の中でも本当にギャンブル性が高い部分がどこなのかが分かり、具体例を交えて説明できる。

また、お金の話をきちんと教えてくれる人がいないとも指摘した。お金の教育というと投資や資産運用の話になりがちだが、その裏には金融機関が金融商品を売りたいという事情がある。金融機関はそれを表立っては言わない。田内は自分の経験に基づき、その裏にこういうことがあると話しているのだという。転職としてはジャンルが違いすぎるように見えるが、扱っているのはお金と経済の話であり、全部つながっていると聞き手とも確認した。

「お金マインド16タイプ診断」と学校での講演

新著に関連して、田内はゲーム会社と一緒に「お金マインド16タイプ診断」を作っていた。アンケートに答えるとお金に関する思考のタイプが分かる、MBTIのお金版のようなものだ。キャラクターやタイプ名を考え、たとえばあるタイプの人には本のこの部分を読むとよい、ということがゲームで分かるようにする仕組みだという。ゲーム会社側がAIを使って作り、宣伝になればよいということで無償で協力してくれたと説明した。聞き手は「どこに需要があるのか」と笑いつつ、すごいところに力を入れていると反応した。

田内はそればかりしているわけではないとも付け加え、群馬県の伊勢崎高校で講演した資料を見せ、別の場所で話すために作り直しているところだと話した。学校で真面目に話しつつゲームも作っていることに、聞き手は「全部やっている」と驚いていた。

浜学園での挨拶:中卒の父親と「人生逆転」

夕方には、小学生時代に通っていた浜学園のOB会のイベントを訪れた。田内は翌月ごろに浜学園のイベントで話す予定もあり、その挨拶も兼ねていた。本の内容は若い世代やその親世代に伝えたいものであり、浜学園の塾生の親はまさにその対象だという。浜学園のライバルであるSAPIXとも関係は良好で、SAPIX関連の雑誌で同社のトップと対談する記事も出ている。

自己紹介で田内は、自分は今「無職」だと笑わせた。2年前の前著は浜学園ゆかりの校長が絶賛してくれて30万部売れ、今回の新著は予約開始日に『国宝』を超えてAmazon1位になったと話した。在籍教室は西宮北口だったという。

田内は改めて自分の経緯を語った。茨城県に住んでいたのに、中卒の父親が人生一発逆転のために灘中を受けろと言い出した。とりあえず灘中のある神戸に来て、ガソリンスタンドで「灘中に行くにはどこの塾がいいか」と尋ねたら浜学園と言われ、入塾した。これは本当の話だという。その後東京大学の情報工学系の研究科に進み、ゴールドマン・サックスで16年ほど金利などのトレーダーをした。だから新著も精神論ではなく、今の経済の実態を話しながら、最終的に大事なのは仲間をつくること、社会関係資本を増やすことだと伝えている。そのうえで参加者に向け、こうした集まりで浜学園の中のつながりを深め、自分の能力を高めるのと同時に仲間を増やすことを考えた方が、外の世界に出た時に人生の選択肢が増える、と語った。

浜学園社長が語る塾同士の関係

会場では浜学園の竹森社長とも話した。「東のSAPIX、西の浜学園」と言われる関係で、浜学園は今年2月に六本木教室を開いている。聞き手がSAPIXとの競争について尋ねると、竹森社長はSAPIX側の高宮さんとも仲良くやっていると答えた。ある程度の勝負はするが、一方で互いにウィンウィンの関係を築き、一緒に何かやろうという方向に持っていきたいという。大学受験では複数の塾を使い分けることがあり、中学受験でも今はそういう部分が出てきている。浜学園は今年9月にオンライン塾も始め、一般の塾と併用できるようにしている。完全に競合するわけではなく、生徒には互いの良いところを取ってもらう、という発想でやっていると竹森社長は説明した。

1日を終えて:本は総理に届いた、次は大谷翔平

1日を振り返り、聞き手はバイタリティがすごいという印象を語った。田内は、逆に予定が入っていないと不安になるところがあるかもしれないと答えた。

田内は、トマホークチャンネルに5回以上出演しており、今の活動にはこのチャンネルのおかげもかなりあると話した。無名だった自分を取り上げてくれた動画がよく再生され、それを見て本を読もうと思った人がいろいろな人につながっているという。最初のインタビューの頃、田内は編集者の佐島さんから、本を書けば人に届く、総理にだって届く、と言われていた。当時はどうなるか分からなかったが、今日こうして石破前首相に会えて感慨深い、と語った。

今後の展望を聞かれると、教育の話もあるとしつつ、短期的な「野望」として、大谷翔平に本を読んでもらいたいと明かした。チャンスがあるのにお金のことが気になって踏み出せない人に本を届けたいと考えたとき、誰が勧めてくれれば読みたくなるか、と考えると大谷翔平だという。総理に届くと言われて実際に届いたのだから、大谷にも届く可能性はゼロではない、と田内は話す。今回のように密着で大谷に本を渡しに行く企画もあるかもしれないと聞き手と笑い合い、石破前首相のように「田内君、来たの」と言ってもらえる関係になれればいい、と語った。最後に田内は、大谷翔平を知っている人がいたら、本を読んで大谷に勧めてほしいと呼びかけた。