SaaS起業家がバイオ生産に挑むbaCta:「空気と水からあらゆる分子を作る」構想と、アスタキサンチンから始める理由

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概要

FoundX Review Startup IdeaCastは、海外のスタートアップのアイデアをAIで分析し、起業を考える人の参考として紹介する番組である。番組冒頭では、AIで情報を整理しているため一部が古いか誤っている可能性があり、事実を重視する場合は各自で確認してほしいという断りが入る。今回取り上げたのは、フランス・パリ拠点のbaCta(バクタ)だ。紹介者がこの会社を選んだ理由は二つある。バイオものづくりに個人的な関心があったこと、そして行政向けSaaSの創業者がAIを武器にディープテックへ参入している点が面白いと感じたことである。回の中心にある問いは、巨大なビジョンを掲げる会社が最初にどの市場から入るのか、そしてソフトウェア出身の起業家がバイオ領域で何を武器にできるのか、という点だ。

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前置き:スケールを阻むのは資金不足ではなく需要不足

本題の前に、話者の一人が欧州の大学に関するレポートの感想を話した。欧州のスタートアップが競争力を高め、自立するうえで大学がどんな役割を担えるかを論じた内容である。話者が面白いと感じたのは、スケールが難しい原因を資金不足ではなく需要の欠如に求めている点だった。レポートによれば、大学のアクセラレーターは支援先の資金調達を手伝うだけでは足りない。誰が最初の顧客になるのか、実証の後に誰が買うのかまで設計し、学内外の企業や部門を巻き込む必要がある。

レポートはこの考え方を「ベンチャーカスタマージャーニー」と呼び、補助金にとどまらず、研究開発、試作、初期導入までを一続きで支援し、公的機関が最初の顧客になる仕組みを提案している。話者は、顧客のところまでマネジメントできている支援はまだ少なく、こうした仕組みが必要だと感じたという。このレポートは、FoundXのスタッフ向けにAI経由で届く資料の中から見つけたもので、自分では絶対に見つけられなかったと話者は振り返る。聞き手は、顧客を重視する姿勢はFoundXが創業当初から言い続けてきたことであり、欧州のディープテックでも同じ課題があるのだと受け止めた。

baCtaの概要:微生物を「プログラム可能な分子工場」に

番組の紹介によれば、baCtaはAIと遺伝子組み換え技術を使い、コードで設計した精密発酵に取り組むバイオものづくり企業である。設立は2024年1月で、2026年3月時点のシードラウンドで700万ユーロを調達し、累計調達額は1,030万ユーロに達している。

同社は「ソフトウェアとハードウェアの融合」を掲げ、微生物をプログラム可能な分子工場に変えることを目指す。特徴として紹介されたのが「ゲノムからファクトリーまで」を一気通貫で最適化するという考え方である。聞き手がこの言葉の意味を尋ねると、紹介者は次のように説明した。実験室で優秀な菌株のゲノムを設計するだけでは終わらせず、その菌株が工場の大型タンクという環境でも狙いどおりに機能し、量産できるところまでをAIで予測し、最適化する、という意味だという。

今がタイミングだとされる理由は二つ挙げられた。一つは、気候変動や地政学リスクによって、石油や希少資源に依存する既存のサプライチェーンの脆弱さが表面化していること。もう一つは、AIモデルと合成生物学の組み合わせによって、菌株開発における予測のスループットが向上していることである。スループットが上がる理由を聞かれた紹介者は、機械学習モデリングの進化とラボの自動化・ロボティクスを組み合わせることで、過去のデータから有望な菌株を他社より少ない試行回数で見つけられる土台が整った、と説明した。同社の狙いは、ディープテックのバイオ生産にSaaS的なアジャイル開発とデータ駆動を持ち込み、従来かかっていた膨大な試行錯誤のコストを減らすことにある。

課題:合成品の環境負荷と天然品の高コスト

現時点でbaCtaが提供しようとしているのはアスタキサンチンである。ターゲット顧客は、化粧品、サプリメント、動物用飼料などを展開するグローバルブランドの原料調達担当者とされる。アスタキサンチンは抗酸化作用が強く、化粧品、サプリメント、ペットフードのほか、サーモンの色付けのために養殖にも使われている。

既存の製法には二つある。石油由来の合成品は安価だが、製造時の環境負荷が高く、クリーンラベルや自然志向を求める消費者のニーズに合わない。一方、微細藻類から作る天然品は自然由来でプレミアム感があるものの、設備投資(CAPEX)も運用コスト(OPEX)も重く、高コストになる。baCtaは、合成品の環境負荷と天然品の高コストという業界のトレードオフを解消しようとしている。

微細藻類からの抽出がなぜ高いのかという問いに対し、紹介者は次のように説明した。藻類の培養には広い敷地が必要で、光や気候環境の制御も求められる。さらに、目的成分を抽出・精製する下流工程(DSP:ダウンストリームプロセス)にも設備投資と運用コストがかかる。収量について紹介者は、藻類では1リットルあたり5g取れるかどうかという水準であるのに対し、baCtaでは1リットルあたり100g程度と大幅に多く取れ、設備も減らせるようだと述べた。ただし、この数字を口にする際には言い直しがあり、紹介者自身も確信を持った言い方ではなかった。

グローバルブランドのクリーンラベルへの支払い意欲は本当に高いのか、という質問も出た。紹介者は、しっかり確認できた部分ではないと断ったうえで、次のような見立てを示した。大量消費される飼料向けでは価格が最優先されるが、化粧品や体内に取り込むサプリメントといった高付加価値の領域では、天然由来やサステナビリティがブランド価値に直結するため、一定のプレミアムを払う意欲はあるのではないか。

解決策:天然品質を合成品並みのコストで

baCtaの価値提案の核は、天然品と同等の品質を合成品と同等のコストで提供する「ドロップイン代替品」である。その中核技術として、AIによる学習・設計とロボティクスによる構築・評価を組み合わせた独自プラットフォーム(説明欄の表記ではBACTA4C)を開発しているという。

技術的な差別化として二点が紹介された。一点目は、AIモデルでゲノム領域の「暗黒物質」と呼ばれる未解明の部分まで探索し、菌株の遺伝子組み換えを高速に進めて開発サイクルを短縮すること。二点目は、培養という上流工程だけでなく、経済性を左右する抽出・精製の下流工程(DSP)の低コスト化まで含めて全体を設計していることである。DSPがなぜ重要なのかについて、紹介者は、アスタキサンチンのような機能性分子の製造では、収益性を大きく左右するのは発酵そのものではなく、できた成分を抽出・精製し安定化する工程のコストであり、そこを最適化しなければ利益が出ないからだと説明した。

トラクションとしては、設立から短期間でミリリットル規模からリットル規模の検証を終え、現在はフランス国内のパートナーと提携してパイロット規模に拡大しようとしている段階だという。スケールアップのリスクについて紹介者は、微生物発酵では規模が大きくなると環境要因が変わり、収率や品質が急に落ちることが多く、そこが乗り越えるべき壁になると述べた。

市場:1,600億円のアスタキサンチンから400億ドルの天然ゴムへ

番組の紹介では、初期ターゲットであるアスタキサンチンの市場規模は世界で16億ユーロ(日本円で1,600億円以上)とされる。将来の拡張先は天然ゴムなどの産業用原料で、こちらは400億ドル規模の市場とされた。市場成長のドライバーとしては、EUを中心とした脱炭素・脱石油の規制強化、消費者の「脱石油化学」ラベルへの需要シフト、気候変動や地政学リスクによるサプライチェーンの不安定化の三点が挙げられた。

なぜいきなり天然ゴムを狙わないのか。紹介者によれば、baCtaは当初は天然ゴム市場を狙うと言っていた。しかし天然ゴムのようなバルク素材では、必要な量が桁違いに多く、価格も1銭単位の競争になる。そうなると初期のスケールアップのリスクと負担が大きくなりすぎるため、まずは小ロットで高単価のアスタキサンチンに着目したという。アスタキサンチンの用途の中でも、養殖向けは価格競争になりやすいため、まずはサプリメントと化粧品を狙っているとも説明された。

ビジネスモデルと戦略:CAPEXライトとプラットフォーム型

収益源は、化粧品、栄養補助食品、食品メーカーへのBtoB原料販売で、最終的には合成品と同等のユニットエコノミクスを目指す。コスト面ではCAPEXライト戦略を採り、自社で巨大な発酵設備を急いで建てるのではなく、パートナーの既存設備や委託生産を使って初期の固定費を抑えている。紹介者が面白い点として挙げたのは、多くのバイオスタートアップが陥りがちな「自社工場を建ててCAPEXが膨らむ」という罠を避けていることだった。さらに、最初の分子であるアスタキサンチンでプラットフォームと下流工程のノウハウを確立すれば、二つ目、三つ目の分子を開発するときの限界費用が下がっていくモデルだという。

パートナー設備を使うデメリットについて聞かれた紹介者は、設備のカスタマイズ性が下がること、製造スケジュールがパートナーに依存すること、中長期的には自社生産より利益率が下がることが、現時点で想定されるリスクだろうと答えた。

戦略面では、単一製品のメーカーではなく、あらゆる分子を合成できる基盤を作るプラットフォーム型を狙い、その最初の証明としてアスタキサンチンを選んだ。AIを使った菌株設計や研究開発は自社で内製し、量産は外部の産業パートナーに任せるハイブリッド型で、リスクとコストを分散させている。10〜20年後の理想像は、空気、水、炭素といった持続可能な資源から、あらゆる産業用分子をオンデマンドで合成する「バイオベースのシンセサイザー」が世界中に普及した状態だという。紹介者はこれを、ITの世界でソフトウェア基盤が普及したように、微生物に特定のDNAプログラムを組み込むだけで、必要な化学物質をいつでもどこでもクリーンに量産できる生産基盤のことだと説明した。

AIを強みにする会社は他にも多いが、容易に真似されない仕組みはあるのか、という質問も出た。紹介者の答えは、baCtaはAIのアルゴリズムだけでなく、ラボの自動化と工場での実データをループさせて学習する独自のデータ収集の仕組みを構想している、というものだった。ただし詳細な情報はあまり得られなかったとも付け加えている。

ロードマップ:3フェーズで段階的に拡大

戦略の基本は、少量・高単価の分子で生産、規制クリア、販売のサイクルをいち早く回し、ノウハウと資本を蓄積してから巨大市場に挑むことである。フェーズ1ではリットル規模での実証、独自DSPの確立、ハードルの高い認証プロセスの開始を進め、自社のAI駆動型バイオ生産プラットフォームが合成品に勝てるコストとスピードで機能することを証明する。フェーズ2では産業パートナーと組んで100立米規模のタンクでパイロット生産と商業生産を始め、ユニットエコノミクスの黒字化を狙う。フェーズ3では、プラットフォームの実証を終えたうえで、本来のビジョンである天然ゴムなどのバルク市場への本格展開とグローバル化を目指す。

認証の難しさについて紹介者は、特に欧州では食品・サプリ用途で「何由来か」が厳しく問われ、新規の微生物由来成分は安全性の証明に長い時間とコストがかかるため、大きな障壁になっていると説明した。天然ゴムへの展開時期については、公開情報では具体的な時期や大規模生産のロードマップは開示されていない。アスタキサンチン事業が成功した後に段階的に進むのではないか、というのは紹介者の推測である。

100立米がどの程度の規模かという質問には、紹介者は10万リットルの水量で、25mプールより少し大きいくらいとたとえた。研究室のフラスコが数リットルであることを考えると、次元の異なる工場レベルのタンクになるという。

競合とモート:発酵で作れるだけでは勝てない

ポジショニングを整理すると、既存の微細藻類由来品は環境負荷が低いが高コスト、合成品は低コストだが環境負荷が高い。baCtaはその間で、低コストかつ低環境負荷の位置を狙う。差別化要素は五つ挙げられた。

  1. AIによる予測スループットの向上で開発期間を短くすること
  2. 独自のDSPで抽出・精製工程を最適化し、低コスト化すること
  3. 法規制や消費者感情に配慮した非GMO対応
  4. アセットライト戦略
  5. SaaS出身の起業家とバイオの専門家からなるチーム

一方で、まだ初期段階で量産実績が確定していないことが今後の課題だと紹介者は指摘する。北米には発酵・酵母由来で先行する競合(字幕では「ネクストファーム」「LCY」と聞こえる企業)もあり、単に発酵で作れるというだけでは勝負にならない。紹介者の見立てでは、先行企業によって発酵でアスタキサンチンを作る市場が成立しうることはすでに証明されている。そのため、baCtaはより低いコスト、より速いスケール、明確な規制クリアで勝負する必要がある。baCta自身は勝てる理由として、AIによる開発スピード、下流工程を含めたコスト競争力、資本効率のよいアセットライト戦略を打ち出しているという。

参入戦略:高価格帯の化粧品・サプリブランドから

初期ターゲットは化粧品と高価格帯サプリメントのブランドである。クリーンラベルや天然由来への支払い意欲が高く、初期のやや高い製造コストを吸収しやすいことが選定理由とされた。製品形態としては、大量消費・低単価の飼料向けではなく、付加価値の高い酵母由来の「フリーフォーム」アスタキサンチンを選んだという。フリーフォームの意味を聞かれた紹介者は、自分も詳しくは分かっていないと断ったうえで、アスタキサンチンが脂肪酸と結合していない状態を指し、酵母由来の特徴として語られることがあると説明した。形態の違いによって吸収率などが変わり、製品設計やブランドの訴求に影響するという。

初期顧客の獲得に向けては、フランス国内の産業パートナーとの提携を通じて、製造設備と既存サプライチェーンへのアクセスを確保した。PMFの指標は、顧客の要求を満たしつつ合成品並みのユニットエコノミクスを達成できるか、主要ブランドと長期供給のコミットメントを結べるか、の二点とされる。パートナー企業側が組む動機について紹介者は、詳しくは語られていないと前置きしたうえで、一般論として、既存設備を有効に稼働できること、新しいサステナブル素材の最先端技術に触れられること、将来の供給元としてのポジションを確保できることを挙げた。

創業チーム:独学でバイオを学んだSaaS起業家

番組が特に面白いと強調したのが、創業チームの補完性である。CEOのマシュ・ノエ氏(字幕表記に基づく)は行政向けSaaSを創業して売却まで経験した人物で、ソフトウェア的な事業構築、資金調達、AIの応用を得意とする。共同創業者のマリー氏はエコール・ポリテクニック出身のPhDで、合成生物学の知見に加え、規制対応やラボマネジメントの経験も持つという。

紹介者によると、ノエ氏はイグジット後、生活水準を下げずに環境負荷を減らす豊かさを実現するため、エネルギーや原材料の分野で起業したいと考えていた。その中で合成生物学や、コロナ禍で注目されたmRNAワクチンに出会い、調べ込むうちにバイオものづくりにたどり着いた。バイオのバックグラウンドはなかったため、オンラインのオープンコース、YouTube、論文で生物学と化学を独学したという。その後、フランス国立保健医学研究所などの研究機関と連携して技術的な接点を得て、「バイオ生産のボトルネックはAIによる予測とアセットライト化で解決できる」という仮説を立て、マリー氏と組んで創業に至った。自前のラボがない状態から、研究機関との連携で仮説検証を進めたとされる。

ノエ氏は自らを単なるバイオ研究者やAI開発者ではなく、「細胞というハードウェアに、AIで最適化したDNAというソフトウェアを実装する起業家」と位置づけ、IT業界で培った効率化やデータ活用の手法を持ち込んでいるという。聞き手が「ビジネスサイドの人がものすごく勉強して研究者を巻き込んだパターンか」と尋ねると、紹介者はそのパターンだと答え、何をどう勉強したのかは個人的にも気になると述べた。IT出身者が加わる利点については、AI企業の創業者がエンジェル投資家に名を連ねていることから、アジャイル開発やデータ駆動という考え方を時間のかかるバイオ業界に持ち込む新規性が評価されているのではないか、と紹介者は見る。優秀な科学者を共同創業者に迎えたことも、チームへの信頼につながっていると考えている。

ピボット:天然ゴムからアスタキサンチンへ

創業当初の2024年、baCtaは天然ゴムの代替という大きなインパクトを前面に出していた。しかし量産や規制のハードルを学ぶ中で方針を転換する。ゴムのような素材は量と規制のハードルが非常に高いため、短期間で市場投入し収益化できる高価値分子の商業化にシフトした。あわせて、ディープテック企業が陥る「死の谷」を避けるため、既存の産業パートナーと連携するCAPEXライトの方向へ舵を切ったという。マイルストーンとしては、2024年1月に設立、同年10月にプレシード調達、2026年3月にシード調達となっている。

このピボットは失敗による方向転換なのか、という質問に対し、紹介者は、公開情報を見る限り失敗というより、天然ゴムという究極の目標は変えずに、最初に商業化して利益と実績を出す対象を、より現実的な高価値分子に設計し直したと説明されている、と答えた。VCの記事の中には同社を天然ゴムの代替品として紹介しているものもあり、プレシードの時点では天然ゴムを掲げて調達したのだろうと紹介者は推測する。投資家の受け止め方については、投資家はアスタキサンチンや天然ゴムそのものではなく、AIによるバイオ生産プラットフォームの構築に共感しているため、最初のターゲットの変更は事業リスクを下げる賢明な判断として受け取られたようだという。聞き手はこれを「最後に登りたい山が変わっていないならよい、ということか」と言い換え、紹介者もそれに同意した。

資金調達:累計約16億円、Mistral AI創業者も参加

調達額は、2024年のプレシードで330万ユーロ、2026年3月のシードで700万ユーロで、累計は日本円で約16億円に達する。紹介者は、アーリーステージのディープテックとしては強い資金基盤だと評価する。成功要因については、単なる精密発酵ではなく、生成AIによって産業バイオの開発速度と成功確率を変えるプラットフォームというナラティブが評価されたのだろうと推測している。

投資家には著名VCのほか、Mistral AIの創業者などAI領域のエンジェル投資家も参加している。紹介者は、フランス発の有力な生成AI企業の創業者が参加していることを、baCtaのAIアプローチが技術的にも評価され、欧州のAIエコシステムから支援を受けているシグナルと受け取れると述べた。現在はラボレベルから100立米規模のパイロット・商業レベルへ移り、スケールアップに挑む段階にある。

日本で同じアイデアをやるなら

番組恒例の「日本で同じアイデアで起業するなら」のパートは、AIによる分析結果として紹介された。AIの見立てでは、日本には発酵と下流工程の伝統的な職人技と長年のデータの蓄積があり、より高い水準で勝負できる可能性がある。展開の順序としては、まず巨大市場ではなく、化粧品原料や機能性素材、たとえば漢方成分や和素材の代替といった高付加価値の物質を選んでAIラボを構築する。次に自社工場を持たず、国内メーカーの既存発酵設備を発掘してPoCを行う。そのうえで、ブランド企業や素材メーカーと早期から共同開発を進め、初期の納入につなげる、という流れが示された。

紹介者が個人的に面白いと感じたのは、AIが出した案の一つだった。日本酒や醤油などの蔵元で遊休の発酵タンクがあれば、そのインフラを活用することでCAPEXライトにできるのではないか、というものである。聞き手が「本当にできるのか、全然違う気もする」と疑問を示すと、紹介者は、どの程度の改造が必要かは分からないと認めた。無菌性、撹拌、通気といった微生物培養の条件に適合するかの検証や設備の改修は必要になるが、ゼロから建てるよりはよいかもしれない、という程度だという。そのうえで、ここは計算できないと留保した。

baCtaから学べる三つのポイント

最後に紹介者は、baCtaから学べる点を三つにまとめた。一つ目はローンチ戦略の徹底である。「空気と水から何でも作る」という壮大なビジョンを持ちながら、実際の入口には高利益率の分子を冷静に選んでいる。二つ目はR&Dのソフトウェア化で、AIや自動化を単なる業務効率化にとどめず、工場で量産できる確率を上げるという競争優位の源泉にまで高めている。三つ目はアセットライトなスケールで、ディープテックにつきものの重い設備投資を避け、既存インフラやパートナーシップを使って成長への道筋を描いている。

実践への示唆として紹介者が挙げたのは、解決したい巨大な課題と、明日からでも売れる製品とを分けて考えることだった。最初から巨大な課題に挑むのではなく、そこからバックキャストして今何ができるかを順序立てて考える、という意味である。また、微生物を生き物ではなく、入力と出力を持つプログラム可能な工場として捉える発想は、他の企業にも当てはまるかもしれないと述べた。

聞き手は締めくくりに、まったく違うITの起業家が猛勉強してバイオものづくりに入り、最初のターゲットを変えながらも大きな山を登り続けている姿は、今まさに日本でも求められているアプローチではないかと感想を語った。紹介者も、猛勉強すれば案外つながれるというのは学べるポイントだと応じ、回を終えた。