212ボディビル王者キーオン・ピアソンのデビュー戦と横川尚隆のデビュー戦をポーズごとに比べる

YouTubeで開く ↗
概要

212ボディビルディングでミスターオリンピア3連覇中のキーオン・ピアソンと、プロデビュー戦のジャパンプロで優勝した横川尚隆は、3週間後のオリンピアで隣同士に並ぶ。この動画でネックは、両者の「212デビュー戦」の写真をポーズごとに並べ、今の横川が王者のデビュー時と比べてどこまで戦えているのかを検討する。ネックの結論は、ほぼ五分に持ち込んでいるというものだ。

13分で読めます

ゼッケン21番と22番が並ぶ理由

横川は、この部門では日本人として6年ぶりのオリンピア出場になる。ゼッケンは横川が21番、キーオンが22番で、比較審査では最初から隣に並ぶことになる。ネックによれば、これはアルファベット順で「Yokokawa」のYが最後尾になり、前年王者はさらにその後に出るためだ。横川自身はこの組み合わせを喜んでおり、親に感謝している、最初からクライマックスで準備はできている、という反応だったという。

ウェイ・リーのビザ拒否

比較の前に、ネックは悲しいニュースとして、この部門で中国の選手が何人かビザの関係で出場できなくなったことを伝える。代表的な選手はウェイ・リーで、ビザを拒否された。ネックは、日本がアメリカの友好国でよかったと思う一方で、「東アジア代表」と呼ぶべきウェイ・リーを見たかったと話す。ウェイ・リーはベフルーズ・タバニと並んでも輝いており、大会に出続けながらさらに大きくなっていた。ネックは今年の彼の仕上がりを高く評価している。

ネックはさらに一つの推測も述べる。国の事情で選手が拒否されることが重なれば、イランの選手なども含め、いずれ中国や中東でオリンピアに代わる大会が、より豪華なステージと賞品で開かれるのではないか、というものだ。それはそれでいいのかもしれないとしつつも、アジア代表をオリンピアで見たかったと繰り返した。

比べる素材と、王者の現在地

比較に使うのは、キーオンが2020年シカゴ・プロで優勝したときの体と、横川が2026年ジャパンプロで優勝したときの体である。どちらも212デビュー戦で優勝している。

ネックによると、キーオンはプロになって6年後、212デビューからは4年後にミスターオリンピアで優勝した。最初の212オリンピアは14位で、はじめからトップ6に入る選手だったわけではない。一方、オリンピア3週間前の現在のキーオンは、ハムストリングスの隆起、左右対称な大腿四頭筋、セパレーションとストリエーションが際立ち、ネックは過去最大級のバルクだと評する。プロデビューの年の横川を、去年や今年のキーオンと比べるのは酷だというのがネックの前提だ。3年連続世界一になるだけの理由がある特別な選手だからである。なお、ネック個人がキーオンのベストだと考えているのは、2勝目を挙げた2024年のオリンピアだ。

クラシックフィジーク時代のキーオン

横川の対戦相手について、ネックはキャリアを振り返る。キーオンは2018年、23歳でクラシックフィジークのプロとしてデビューし、準優勝した。当時から脚の前方向への丸み、背面ポーズで見える上腕のピークなど、腕と脚が目立っていた。

翌2019年のニューヨーク・プロでは、ネックの表現で「2段階以上」進化していた。ネックはXフレームを見てブライアン・ブキャナーを思い出したという。当時はクリス・バムステッドやブレオン・アンズリーとよく比べられ、次のクラシックフィジーク王者ではないかと話題になっていた。

同年、24歳で初出場したミスターオリンピアでは4位だった。ネックは当時の写真について、各部位のポップ、上腕と脚、極端に細いウエストが作るアウトラインという当時の長所が、今もそのまま長所だと指摘する。この年のクラシックは1位がバムステッド、2位がブレオン、3位がジョージ・ピーターソンだった。ピーターソンは2021年に亡くなっている。ネックは、ピーターソンはずっと3位で、クラシックらしくない、212の選手がずっと入っていると当時みんなで話していたと振り返る。オープンではブランドン・カリーが絶好調で優勝し、ウィリアム・ボナックが自己最高の2位、ハディ・チューパンが初出場で3位だった。

アラッシュとのツーショットについて、ネックはキーオンの上腕三頭筋の形と肩とのつながり、上腕二頭筋のピークと長さ、前腕を挙げる。アレックス・カンブロネロ(日本のマスターズオリンピア・クラシックで優勝し、長くトップにいた選手)と並んだ写真では、キーオンの脚のストリエーションに注目している。ネックは、上腕の完成度とサイズ、細すぎるウエスト、飛び出た背中、脚のライン、左右対称性のすべてで当時から飛び抜けていたと見ている。

212への転向とデビュー

キーオンはその後212に転向した。デビュー直前、25歳の写真について、ネックはすべてが立体的に飛び出して丸みを帯びていると言い、広背筋や上腕、フロントダブルバイセプスを見てほしいと話す。ただし、通常のスマホカメラで撮った角度ではないだろうとも付け加えている。

2020年10月のシカゴ・プロが212デビュー戦で、14人中1位だった。この年はオリンピアの出場資格を得たが、メンタル面でも肉体面でもストレスを抱えて万全ではなかったため欠場した。212でのオリンピア初出場は翌年になる。

フロント・ダブル・バイセプス:キーオン

ネックは、タイプは違うが2人ともデビュー戦とは思えない華があると評価する。まず目につくのは骨格の違いだ。足首と膝周りの太さがかなり違い、横川は骨がしっかりしていてどっしりした印象になる。キーオンは関節が細く、ネックはこれが212最高峰の見た目を生んでいると考える。

上腕二頭筋はどちらも優秀で、筋腹の長さも似ている。肘との隙間が空きすぎず、ピークも失われていない。単体のサイズならキーオン、特に向かって左側、つまり右腕がかなり大きい。一方で、前腕を含めた血管の出方と二頭筋の分離度は横川が上だとネックは見る。大胸筋はどちらも強い。

背中の広がり、バキュームの深さ、腰回りの細さはキーオンの強みで、細い部分が締まったまま背中が広がり、脚もそれに追いつく砂時計型だとネックは説明する。横川もプロになってからバキュームをするようになり、下半身がより大きく見えるようになった。脚に背中が追いつけば完璧で、以前よりかなり広がって見えるという。

横川が勝る点は腹筋の揃い方と、何よりふくらはぎで、カーフは横川の圧勝だとネックは言う。脚は2人とも長所だが、キーオンは膝からパンツまで強いラインが入り、左右対称で皮膚感もよく、内転筋まで埋まっている。横川はサイズでは引けを取らないが、カットがもっと出る必要があり、オリンピアではもう一段階絞る必要があるかもしれないとネックは見る。ただし、これはライティングや撮影のタイミングのせいかもしれないとも述べている。このポーズはキーオンとした。

フロント・ラット・スプレッド:キーオン

横川のほうが2cmほど背が高いと見られるため、写真の縮尺は目分量で合わせたとネックは断っている。このポーズの横川は脚にカットが出ており、外側広筋が膝から大きく膨らんでいる。ふくらはぎも大きいので、同じライティングで並べば横川の脚のほうがよく見える可能性すらあるとネックは話す。キーオンは陰影の濃さが優秀だ。

腹部では、キーオンはバキュームが深い。ネックの説明では、キーオンは白線(腹の縦のライン)の幅が広く離れているため、バキュームをしないと見栄えが悪くなる。横川は腹筋の揃い方がよく、皮膚がさらに張り付けばかなりよく見えるだろうという。

背中はキーオンに厚みまで感じられる。横川もポージングがうまく、広がり方には文句がないとネックは評価する。横川は肘を前に出しているため、血管の浮いた大きな前腕が目立つ。腕はかなり拮抗しており、前腕はわずかに横川が大きいかもしれない。胸は、横川が力を入れて割れとストリエーションを見せ、キーオンはあまりフレックスせず丸みでボリュームを出している。ネックはどちらもよいと見ている。

大きな差は、骨格的な肩幅と三角筋のサイズだ。プロの選手はここが強く、フロント・ラットでも巨大な台形に見える張り出しが重要になる。横川はきれいな菱形に見え、肩のラインが見える角度に変えても同じだという。ネックは、審査員は下から見ているので肩はやはり必要だと述べる。一方で、横川の骨格はボナックやフィル・ヒースに近いと見ており、腕を下ろしたときの肩幅で劣っても、三角筋がポップすれば問題にはならないだろうとも話す。横川の強みは、ぎゅっと詰まった筋肉を見せることだからだ。このポーズもキーオンとした。

サイド・チェスト:悩んだ末に横川

ネックは、下半身は横川が勝っていると見る。大臀筋の乾き具合とカットが最高で、幅でも引けを取っていない。キーオンの強みはハムストリングスの山がいくつも出ることだが、単純な臀部のサイズとふくらはぎで大きな差がつき、横川のほうがヘビーでどっしり見えるという。

キーオンが勝るのは肩である。上腕は拮抗しているが、血管の出方は横川がよく見える。このことからネックは、デビュー戦のコンディションは横川が上だったのではないかと推測する。キーオンは脚のカットが強く出やすいが、それが体質なのか作り込みなのかは分からないという。

上半身全体はキーオンがよく見える。横川は大胸筋の縦の長さがキーオンより大きく、左胸の出方と硬さもよい。キーオンは脇腹の見栄えがよく、全部位が膨らんで見える。プロポーションがよく見える立ち方も格好いい。ネックは視聴者に意見を求めつつ、審査員なら下半身の硬さをかなり見るだろうと考え、悩んだ末に横川とした。これで2対1になる。

バック・ダブル・バイセプス:キーオン、ただし絞りは横川

ここでも下半分は横川が有利だとネックは見る。キーオンもハムストリングスのラインは多いが、臀部のサイズと硬さ、皮膚の薄さは確実に横川が上だという。背中の皮膚感も横川のほうが硬く、細かい筋が見えてざらついた見た目になっている。

サイズと広がりはキーオンが上で、特に大円筋と僧帽筋上部が大きい。ネックは、ここでも「上対下」の対決になっていると整理し、この時点で横川の下半身がどれほど優秀かが分かると話す。ただ、肩のサイズはかなり違い、それに伴って上腕二頭筋のピークや三角筋も大きくつながっている。パッと見のボディビルダーとしてのサイズはキーオンにある。

ポーズの出し方も違い、横川は広背筋の厚みを、キーオンは全体のサイズと広がりを強調している。ネックはドローにしたいとしながらも、ダブルバイセプスという名前の通り背中・肩・腕の大きさを含めてキーオンとした。ただし腰回りと臀部の絞りは確実に横川で、そこはキャリア初期のキーオンの課題だったとも述べる。3対1。

バック・ラット・スプレッド:横川

ネックは、デビュー戦のキーオンが背中を均等に広げ切れている写真をどうしても見つけられなかったと断っている。そのため比較すると完全に横川になる。

横川のバック・ラットについて、ネックは若い頃のフィル・ヒースのようだと評する。コブラのような表情が出ており、広背筋の厚み、広がり、角度がよい。サイズならキーオンかもしれないが、僧帽筋の立体感、腰へのつながり、上腕三頭筋の張り出し、臀部と脚の見栄えがそろっている。キーオンがなぜこのポーズをうまく出せなかったのかは分からないが、個人ポーズでも比較でもずっとこの調子だったという。3対2。

サイド・トライセプス:横川

上腕三頭筋はどちらも優秀だ。キーオンは上腕三頭筋がはっきり分かれるセパレーションの強さ、横川は全体の盛り上がりと厚みが特徴になる。ネックは、腕を伸ばす角度や力の入れ方の違いもあるとしている。大胸筋も大きい。

下半身は横川が圧倒しているとネックは見る。臀部が彼のフィジークを助けており、ハムストリングスは矢印やポインターのような形になっている。何より差がつくのは腹直筋で、ラインが強く入り、タイトに保たれたまま前にせり出している。近年のキーオンは腹部の制御が苦手になってきたのか、遺伝的にも腹筋周りがきれいではない。ネックは、2人が並んだときに横川が輝ける大きなチャンスがここにあると話す。3対3。

アブドミナル・アンド・サイ:横川

横川はまっすぐ正面で出せること自体が強みだ。キーオンとは正反対で、キーオンは白線の真ん中のラインが太く分かれて見える。横川は白線がおそらく狭く、縦のラインが見えにくい。仕上がりがもう1、2段階上がって4パックがきれいに分かれて見えれば、大きな脚との比較で非常によく見えるだろうとネックは見る。

キーオンは出し方を工夫しており、ネックによればボナックもやっていた方法だ。まっすぐ出すと減点されてしまうほどで、これはプロデビューの年から弱点だった。その代わりに前鋸筋や腹斜筋を強調しており、脚も素晴らしい。それでもこのポーズは横川が有利で、高画質ならさらによく見えるはずだとして横川とした。ネックはここで「4対3ぐらいになったのかな」と話し、甘めに見ている面もあるかもしれないと認めつつ、それほど横川はいいパッケージだと述べている。

モスト・マスキュラー:2種類で票が割れる

最後のモスト・マスキュラーは2種類を比べた。片方のバージョンはキーオンで、下半身まで立体的に膨らみ、ラインが多くセパレーションが強い。横川にとっては、ここにどう対抗するかが課題になりそうだという。

横川はふくらはぎで勝り、胸の厚みと立体感は拮抗している。キーオンと戦うために必要なのは、肩と腕のセパレーション、もう少し割れて見える腹筋、脚のセパレーションだとネックは挙げる。ただしこれはあくまでキーオンと比べた場合の話で、トップ6に並ぶ可能性は十分にあり、他の選手とは有利に戦えるだろうという。

もう一方のバージョンは横川とした。立ち方によって本当に膨らんで見え、血管の分布とストリエーションがすごい。ネックは、それまで肩がどうこうと言っていた部分まで巨大に見え、上腕と前腕も大きく、大きなふくらはぎが下半身を支えているとして、「ゴジラ」のようなモスト・マスキュラーだと表現する。キーオンの隣でこれを見せてほしいと言い、ファーストコールアウトに入った場合でも大きな武器になると考えている。ネックは、ボディビルでは忘れられないポーズはモスト・マスキュラーであり、最も迫力を感じるポーズなので、それまでの判定がひっくり返る可能性すらあると話す。ボディビルは迫力だからだという。

集計の結果と、横川に残る課題

ネックの集計では、結果はほぼ五分だった。キーオンがデビュー戦でもう少し絞れていたら、あるいはバック・ラットで背中を広げ切れていたら、キーオンにもう少し票が入ったかもしれないとネックは留保をつけている。それでも、横川がデビュー時点の王者と相当戦えていることは分かったという。

横川に残る課題として、ネックは肩、背中、脚のセパレーションを挙げる。ただしこれはキーオンと比べたときの話で、そのキーオンも世界一になるまでに4年かかっている。骨格も強みも違い、ボディビルはポーズ数が多く比較時間も長いので、強みのぶつけ合いと弱点の探し合いになる。一つのパーツが欠けていたら負けという競技ではない、とネックは述べる。さらに横川は個人ポーズでのインパクトも大きい。

ジャパンプロで審査を務め、オリンピアでもジャッジをするテリック・エルグインディは、横川がトップ5になれるのではないかと期待を寄せていたという。ネックも、その実力はあると考えている。今年どうなるかは分からないとしたうえで、将来トップ3に入っていく姿も十分に見えるとした。

今年のオリンピアについて、ネックは高い順位になりそうだと見ており、あとは絞り次第だという。特に脚がもっと割れて張り詰めた状態を作れれば、何かをひっくり返すかもしれないと話す。ライバルのウェイ・リーが出られないことは悲しい一方で、横川にとってはチャンスでもある、とネックは締めくくった。