NIIが構想する教育研究向けデータ収集・解析サービス:既存の学認クラウドの取り組みと、現場と議論したい論点
国立情報学研究所 - National Institute of Informatics国立情報学研究所(NII)クラウド基盤研究開発センターの藤原一毅氏は、学術情報基盤オープンフォーラム2026のセッション「教育研究向けデータ収集・解析サービス」の冒頭でイントロダクションを担当した。藤原氏はまず、セッション名が「すでに使えるサービスの紹介」を期待させたかもしれないと断った。実際のねらいは、これからこうしたサービスを作るにあたり、どのような要件が必要で、どのようなサービスにすべきかを参加者と議論することにあるという。約10分の話は、前半がこれまでの既存サービスの紹介、後半が今後の新しいサービスの構想という構成だった。
学認クラウドの2つの柱
藤原氏によれば、センターが提供してきた学認クラウドは、大きく2つの柱からなるサービス群である。
1つ目は管理運営向けで、主に情報基盤センターなどの管理者を対象とする。学認クラウド導入支援サービス、クラウドの共同調達、大学DX勉強会、クラウド利活用セミナーなどがこれにあたる。詳細は同フォーラムの別セッションで扱われているとして、ここでは深入りしなかった。
2つ目が教育研究向けで、具体的にはSINETStreamと学認RDMデータ解析機能である。このセッションの主題に関わるのはこちらの柱であり、藤原氏はそれぞれを少し詳しく紹介した。
SINETStream:リアルタイムデータ収集のフレームワーク
SINETStreamは、リアルタイムにデータを収集するソフトウェアを簡単に開発できるツールキットである。藤原氏は「フレームワークと言ったほうがいいかもしれない」と補足した。Pythonを使い、IoT機器などから湧き上がってくるデータを漏れなく確実に収集するためのものだという。
最新のバージョン1.10では、MicroPython版の提供を始めた。藤原氏の説明では、MicroPythonは非常に小さな環境で動くIoTデバイスに搭載される実行環境で、これを使うと省電力なデータ収集が可能になる。
あわせて、SINETStreamのお試し環境の提供も始めている。SINETStreamを使うには本来、ブローカーと呼ばれるサーバーをユーザー自身が構築する必要がある。その構築作業に踏み切る前に、NIIが提供するお試し環境を使い、SINETStreamがどういうものか、自分の研究に役立つかを判断・評価できるようにしたものである。センサーデータを送信するMicroPythonの簡単なIoT端末の貸し出しも用意しており、関心があれば問い合わせてほしいと藤原氏は呼びかけた。
学認RDMデータ解析機能とeラーニング教材
次に紹介されたのが学認RDMデータ解析機能である。これはNII RDCとして提供している研究データ管理基盤「学認RDM」に付随する、PythonやRなどの実行環境である。JupyterLabというオンラインのプログラミング環境を使い、学認RDMに蓄積されたデータを解析し、その解析結果を簡単に共有できるサービスだという。
この機能には昨年度から今年度にかけていくつかのアップデートが加えられた。藤原氏が特に挙げたのはeラーニング教材である。外部のサーバー上に高性能な計算サーバーを立て、それを学認RDMと連携させる方法を詳細に紹介する教材で、内容は同日午前のセッションで紹介されたという。
ジュピターミネルバ:ノートブックならではのAIコーディング支援
藤原氏が「1つ自慢したい」として紹介したのが、センターで開発した「ジュピターミネルバ」である。最近流行しているAIコーディングを支援するツールで、学認RDMデータ解析機能の上で利用できる。
藤原氏はその意義をJupyter Notebookのもともとのコンセプトから説明した。Jupyter Notebookは、人間が自然言語とプログラムのコードを交互に書くことで、コードの意図を再現可能にし、他の人が読んでもすぐに分かるようにしようという考え方のものである。そこにAIによるバイブコーディングの支援を加えることで、AIが作ったコードでありながら、後から人間が読んで分かり、再現可能で検証可能であるという点をアピールポイントにしているという。藤原氏は、通常のバイブコーディングとは異なる、ノートブックならではのAIコーディングの使い勝手を体験してほしいと述べた。
NIIが目指す方向性:自動収集から自動解析へ
後半は、今後の学術研究プラットフォームがどうあるべきか、その中でクラウドに関わるセンターがどのような方向性で活動すべきかという話題に移った。
藤原氏が示したのは、文部科学省の「AI for Scienceを支える研究データ管理・利用と流通のあり方」に関するワーキンググループで紹介されたスライドで、NIIが目指すべき方向性を示すものだという。そこには、実験施設などから自動的に湧き上がってくるデータを自動で収集・解析し、AIの支援を得てメタデータを自動付与することで知識基盤への足がかりを作り、さらにNII RDCを通じて管理・共有・公開・再利用へつなげていく、という大きなビジョンが描かれている。
このうちセンターが特に注目したいのは、データの自動収集から自動解析へつなげる部分だと藤原氏は述べた。これまでは、集まってくる汚いデータを研究者やスタッフが一生懸命きれいにしてデータベースに登録したり、そのデータを研究者が発見するのが難しかったりする状況があったと藤原氏は見ている。ここにメスを入れ、AIの助けを借りて、きれいなデータが自動的に見つけやすくなる世界を作りたいという。
ただし藤原氏は「言うは易く行うは難し」だとも認めた。コンセプトは理解できても、個々の研究に適用しようとすると、それぞれに固有の課題が立ち上がってくると考えているからだ。そのため、後に続くパネリストに個別具体の例を紹介してもらいながら、データの収集・蓄積・解析をどうすればスムーズにできるかを一緒に考えたいと述べた。
アイデア段階の機能案と「ドライ」の自覚
藤原氏は、センター側でアイデアレベルとして考えた機能や要素技術も示した。データ収集の段階では、実験装置と並ぶ重要なデータ源である電子ラボノートとの連携。解析の段階では、解析環境の自動構築と解析結果のシームレスな共有。利活用に向けては、メタデータの自動抽出や、解析の前段で必要になるデータ整形・前処理のAI支援。さらに、こうしたデータの流れの状況を研究者が一覧できるダッシュボードである。これらがそろえば、データの流れを一括してスムーズに流していけるのではないか、というのがセンターの考えだという。
一方で藤原氏は、NIIの人間は「ドライ」の側であり、ウエットの研究者がいないと率直に述べた。そのため、このビジョンが現場の実情に合っているかどうか、肌感覚がないという。このセッションではウエットの研究者をパネリストに招いており、会場やオンラインの参加者からも「そんなことを考える前に現場の課題は山ほどある」といった意見を遠慮なく寄せてほしいと呼びかけた。
議論したい問いと、この後の進行
藤原氏は最後に、参加者と議論したい点を次のようにまとめた。
- 教育研究のためのデータ収集・蓄積・解析サービスを作るうえで、技術的な課題はどこにあるのか
- もしかすると制度的な課題のほうが大きいのではないか
- その中でNIIにできることは何か
- AIが何でもやってくれそうに思える今、AIにできること・できないことは何か
幅広い議題になることは藤原氏自身も認めていた。この後、小川先生、川本先生を含む3人の研究者がそれぞれ20分ずつ、自身の現場の研究に即した課題と現状を発表する。その後、全体をまとめるパネルディスカッションとして、会場やオンラインからの質疑を含めて議論する時間を設けると説明し、藤原氏はイントロダクションを締めくくった。
皆さんこんにちは。国立情報学研究所クラウド基盤研究開発センターの藤原です。このセッションは教育研究向けデータ収集解析サービスという名前で、皆さんをミスリーディングしてまいりました。このセッションの名前だと今日から使える素敵なサービスがあるんじゃないかと期待させてしまったかもしれませんが、実はこれからこういうサービスを作っていくにあたって、どういう要件が必要か、どういうサービスにしたらいいかというのを皆さんと議論したいという意図を持ってお集まりいただいたセッションでございます。ミスリーディングされた方には大変申し訳ありませんが、お付き合いいただければと思います。
前半ではこれまで取り組んできた既存のサービスのご紹介、後半ではこれから取り組んでいきたい新しいサービスの構想という順番で、私の方から10分間お話をさせていただきます。
ではまず我々クラウド基盤研究開発センターの方でこれまで取り組んでまいりました学認クラウドのサービスを簡単にご紹介いたします。学認クラウドは大きく分けて2つの柱から成ったサービスの一連のサービス群でございます。1つの柱は管理運営向けということで、主に情報基盤センターなどの管理者向けのサービスでございます。学認クラウド導入支援サービス、クラウドの共同調達、大学DX勉強会、クラウド利活用セミナーといったサービスをこれまで提供してまいりました。詳細は今日の前のセッションや明日のセッションでご紹介しておりますので、興味のある方はご覧ください。
そしてもう1つの柱が教育研究向けです。具体的にはSINETStreamや学認データ解析機能といったサービスを提供しております。次のスライドで少し詳しくご紹介します。
SINETStreamは、リアルタイムにデータを収集するためのソフトウェアを簡単に開発できるツールキットです。フレームワークといった方がいいかもしれません。Pythonを使ってIoT機器などから湧き上がってくるデータを漏れなく確実かつ石に収集するためのツール、フレームワークとなっております。
SINETStreamの最新バージョン、バージョン1.10では、MicroPython版の開発、提供を開始しております。MicroPythonというのは非常に小さい、乾電池で動くようなIoTデバイスに搭載されている実行環境で、これを使うと省電力なデータ収集が可能となります。
またSINETStreamお試し環境の提供も始めております。SINETStreamは本来ブローカーと呼ばれるサーバーをユーザーの方がご自身で構築していただく必要があるんですけれども、その構築作業に踏み切る前に、NIIから提供しているお試し環境を利用して、SINETStreamがどういうものか、自分の研究に役立つかどうかというのをご判断、ご評価いただける環境となっております。これに合わせてセンサーデータを送信する簡単なMicroPythonのIoT端末の貸し出しもご用意しておりますので、ご興味ありましたらお問い合わせください。
次に学認RDMデータ解析機能を簡単にご紹介します。これはNII RDCとして提供している研究データ管理基盤学認RDMに付随する、PythonとRとMATLABの実行環境です。これをJupyterLabというオンラインのプログラミング環境を用いて、学認RDMに蓄積されているデータを解析し、またその解析結果を簡単に共有することができるサービスとなっております。
これについては、ここに書いてあるようなアップデートを本年度、昨年度を通じて行ってまいりました。特にこのeラーニング教材については、今日の午前中のセッションでご紹介させていただきましたが、外部のサーバー上に高性能な計算サーバーを立てて、それを学認RDMと連携させる方法を詳細に紹介する教材となっております。こちらもご興味ありましたら、前のセッションの情報の方をご覧いただければと思います。
で、1つちょっと自慢したいので紹介するんですけれども、我々の方で開発しましたジュピターミネルバという、最近流行りのAIコーディングを支援する拡張がございまして、これも学認RDMデータ解析機能の上で利用可能となっております。
Jupyter Notebookというのは元々人間が自然言語とプログラムのコードを交互に書くことによって、そのコードの意図を再現可能にしよう、他の人が読んでもすぐ分かるようにしようというコンセプトのものですけれども、これにAIによるバイブコーディングの支援が加わることによって、AIが作ったコードなんだけれども、後から人間が読んで分かる、そして再現可能である、検証可能であるという点がアピールポイントとなっております。通常のバイブコーディングとは異なった、ノートブックならではのAIコーディングの使い勝手を体験していただければ幸いです。
はい。さて、ここまでが既存のサービスのご紹介でした。これからの学術研究プラットフォームがどうなっていくべきか、その中でクラウドに関わる我々のセンターがどのような方向性を持って活動していくべきかというのがこれからの話題です。このスライドは、文科省のAI for Scienceを支える研究データ管理利用と流通のあり方ワーキンググループという長い名前の会で紹介されたもので、NIIがこれから目指すべき方向性を示しているものです。
実験施設などからこんこんと湧き上がってくるデータを自動的に収集解析し、またメタデータをAIの支援を得ることによって自動的に付与して、知識基盤への足掛かりを作っていく。またNII RDCを通じて管理、共有、公開、再利用へつなげていくという大きなビジョンが書かれております。で、この中で特に我々が注目したいのは、データの自動収集から自動解析へつなげていく部分です。
これまで、汚いデータがたくさん集まってくるのを人間の研究者や技官の方が一生懸命綺麗にしてデータベースに登録していたり、またそれが研究者の方に発見されるのがなかなか難しかったりといった状況があったと思います。この辺にぐさっとメスを入れてですね、AIの助けを借りて自動的に綺麗なデータが見つけやすくなるという世界を作っていこうと思うわけなんですけれども、言うは易く行うは難しでして、コンセプトは分かるんですが、個々別々の研究にこれを適用しようと思うと、個別の様々な課題が立ち上がってくると思います。で、今日はこの後パネリストの先生方に個別具体の例をご紹介していただきながら、こういうデータ収集、蓄積、解析の部分をどうやってスムーズにしていけばいいのかということを皆さんと一緒に考えていきたいと思っております。
で、我々の方でアイデアレベルではあるんですけれども、こういう機能や要素技術があったら便利になるんじゃないかということも考えてみたのがこのスライドです。データの収集のところでは、実験装置と並んで重要なデータ源である電子ラボノートとの連携、データの解析のところでは、解析環境の自動構築やその解析結果のシームレスな共有。また利活用に向けてはメタデータの自動抽出や、解析の前段で必要となるデータの整形や前処理のAI支援、そしてこれらのデータの流れの状況を研究者が一覧表示できるダッシュボードなどの機能があると、データの流れを一括してスムーズに流していくことができるのではないかという風に考えてみたんですけれども、やっぱりNIIの人ってドライの人なんですね。
ウエットの研究者がいないものですから、こういうビジョンが果たして現場の実情に合っているのかいないのかということも含めて、やっぱりNIIの人間は肌感覚がないわけです。で、今日は特にウエットの研究者の方々をパネリストにお招きしておりますので、また会場やオンラインの方々からもですね、いやいやそんな余計なことを考える前にもっと現場の課題は山ほどあるんやということを、是非忌憚なくご意見、コメントをいただいて、議論していければと思っております。
皆様と議論したいことをまとめます。教育研究のためのデータ収集蓄積解析サービスをこれから作っていくにあたって、技術的な課題はどこにあるのか、もしかしたら制度的な課題の方が大きな課題かもしれない。その中でNIIにできることは何だろうか。あるいは今時AIが何でもやってくれそうに思える中で、AIができること、できないことは何だろうかと。非常に幅広い議題になってしまいますけれども、皆様と一緒に議論していく時間を取れれば幸いです。
この後、3人の先生方から、それぞれの現場の研究に即した課題と現状をお話しいただきます。はい。小川先生と川本先生と荒先生です。3人の先生方にそれぞれ20分ずつご発表をいただいた後、最後にまとめてパネルディスカッションという形で、質疑を含め、会場やオンラインの皆様との議論を含めていく時間としたいと思います。はい。それでは私からのイントロダクションは以上です。
記事公開
